<Infinite Dendrogram>~クソゲーハンター、クソゲーに挑まんとす~   作:折本装置

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世界の終わり、遊戯の始まり 其の十六

 ■獣

 

 

 彼女にとって、周囲の判断基準はひとつしかない。

 不快か、そうではないか。

 不快であれば、ストレスを、あるいは怨念を内側にため込む。

 そうでないものは、特に何もない。 

 ただ、気楽に接することができる。

 とはいえ、不快さを一切感じさせない人間などまずいない。

 彼女の知る限りでは、<Infinite Dendrogram>で出会ったアーサー・ペンシルゴンのみであり、それゆえに彼女はこの防覇にまで行くことを選んだ。

 

 

 それこそ、カリスマモデルである天音永遠でなければコントロールが効かない存在だったということである。

 いや、彼女をもってしてもなお、完全には御しきれないほど、という方が正しいか。

 

 

 ともあれ、彼女の行動原理はいつだって変わらない。

 正しくあること、そして眼前にある正しくないものを全て消し去ってしまうこと。

 それだけが、彼女という人間を、否、獣を突き動かしていた。

 

 

 <Infinite Dendrogram>にはとどまらない。

 リアルであっても、同じ条件で同じ能力なら、彼女は同じことをやっていただろう。

 いや、条件が彼女に不利でも、同じこと。

 むしろ、彼女はリアルでそれをこそやっている。

 

 

 ■□防覇

 

 

 

 《終末の獣》は、通常の融合スキルとは違う。

 どれだけダメージを受けようと解除されず、本人の意思をもってしても解除できない。

 通常のガードナーとの融合スキルは、鎧のようなものだと言われている。

 <マスター>の肉体を芯にしながら、ガードナーが<マスター>を覆い、纏い、強化する。

 ゆえに大ダメージを与えられれば、鎧は砕けて融合はほどける。

 肉体がどれほど損傷しようと関係なく、再度融合して体を作り直すことができる。

 ただ、それは不死身であることとイコールではない。

 修復こそ行われるがHPは回復できない。

 それは自然回復のみならず、アイテムや魔法なども効かない。

 発動した時点で、滅びを迎えることが決まっている。

 ゆえに、《終末の獣》という名を与えられている。

 

 

 【酷死無蒼】の度重なる攻撃。

 それを受けたことで、HPの九割以上を失っている。

 必殺スキル開始時には二十メテルほどあった体長も、二メテル程度、普通の人間と変わらないほどに減じている。

 今の彼女は死に体。

 ミサイルの一発でも当たれば、それで終わる。

 だが、ミサイルは届かない。

 

 

『まずい……』

 

 

 

 上空から【赤人天火】のカメラアイを介して、ルストとモルドは敵影を見る。

 先ほどから、ミサイルなどの火器は使用している。

 それがすべて届かず、彼女の『爪』をもって消滅させられている。

 

 

 確かに、彼女は死に体だ。

 体積(HP)は最大時の千分の一であり、吹けば飛ぶようなものだ。

 だが、爪と牙の大きさは変わっていない。

 それは、タイガポエットの性質に由来する。

 どれだけHPが減ろうが関係なく、身体の形を変えて再構成し、また活動を再開する。

 その在り方ゆえに、空間を消す爪と牙の大きさは常に同じ。

 爪はテリジノサウルスがごとく長く、牙はスミロドンかセイウチのように口腔に収まりきらずに飛び出している。

 見た目こそ先ほどより歪なれど、彼女の心根は変わらず。

 彼女の<エンブリオ>の能力も変わらない。

 

 

 爪に、あるいは牙に触れたものが掃除機に吸い込まれるように消滅していく。

 触れれば、人であろうと、神話級金属であろうと、空気であろうと関係なくすべてを消失させる最悪の凶器。

 問題は、その長さにある。

 先ほどまでは、身体のごく一部程度でしかなかったが、今は体長とさほど変わらないほどの長さになっている。

 ゆえに、矛としてのみならず、盾として使うこともできる。

 先ほどはミサイルを全て起爆直前に消したように、爪の間合いに入った攻撃はすべてキリューを捕えられない。

 

 

 付け加えれば、減ったのはHPのみであり、四万を超えるSTRとAGIは健在だ。

 これこそが、アーサー・ペンシルゴンすら知らない、キリューも今まで知らなかった真の最終形態。

 名づけるのなら、虎立終末斬殺形態(ソロ・セイバーモード)という。

 

 

 

「GISYAAAAAAAAAAAAAA!」

 

 

 物陰から、一体のモンスターが現れる。

 何かを追ってきたのか、逃げてきたのか、いずれにせよ本能のままキリューの方へと向かってくる。

 

 

 

 【アムドラーヴァ・フォレストレイス】。

 伝説級<UBM>を討伐した際の、特典素材からペンシルゴンによって作られており溶岩樹形をモチーフにしたアンデッドだ。

 

 

 アンデッドゆえの物理攻撃無効化および呪いへの耐性と、アンデッドでありながら炎熱攻撃無効化を有する。

 さらに、ペンシルゴンのディストピアによって日光や聖属性攻撃への耐性も獲得しており、大抵の<マスター>では傷一つつけられない。

 さらに、レイス特有の呪怨系状態異常なども使用しており、【死将軍】によるパッシブスキルの強化も合わせて古代伝説級<UBM>なみの戦闘力を有している。

 また、ペンシルゴンの手駒であるため、当然キリューにとっては味方である。

 

 

「O」

 

 

 

 だが、そんなものは関係ない。

 超音速で爪を振るい、瞬く間に【フォレストレイス】のHPを削り切る。

 そもそも、キリューは街を襲うアンデッドがペンシルゴンの手駒だと知らない。

 そもそもテロをペンシルゴンが行っていることさえ把握していない。

 ペンシルゴンは自分の仲間や協力者に対しては当然自分がアンデッドを使うことは伝えているが、キリューだけは例外だ。

 どのみち戦闘に入れば、彼女の頭からそういった情報は消えるのだから、話す意味がない。

 

 

 

 

 

 

 

『んで、お前は何なのかな?』

「O?」

 

 

 無造作に放たれた爪を、余波で起きた真空波を、全てかわして、一人の男が立っていた。

 

 

 ソレは、鳥だった。

 ソレは蛇眼の面をかぶっていた。

 ソレは、触手を腰から生やしていた。

 ソレは蛇皮のブーツをはいていた。

 ソレは、黒と白の二刀を手にしていた。

 ソレは、半裸だった。

 

 

怒りと憎悪に染まった彼女の思考の一端が、ソレをーー“怪鳥”サンラクを認識した。

 先ほどまで、彼は【アムドラーヴァ・フォレストレイス】と交戦していた。

 彼の数多の攻撃手段は物理攻撃がほとんどであり、【フォレストレイス】には有効打がなく、仲間にたのも桜花と思っていたところであった。

 そんなときに、割り込んで一撃で粉砕してきた一人の<マスター>を認識する。

 虎のような、あるいは、人のような姿の怪物。

 もはやガードナーであるタイガポエットが彼女を覆えなくなっているがゆえに、《看破》で相手のステータスを確認することすらできていた。

 

 

 

「AA」

 

 

 先に動いたのは、キリューだった。

 何も考えず、何も感じず、ただひたすらに不快なものを破壊する。

 人が羽虫を手で払うような、誰でも持っている感情。

 違うところがあるとすれば、キリューは必死でそういった悪意を抑え込み続けたこと。

 そして、蓋が外れたゆえに、一切の抑制が効かないこと。

 ゆえに、迷わない。

 四万のAGIを以て、距離を詰める。

 すべてはただ目の前にいる相手を斬り殺すためだけに。

 

 

『そういう手合いね』

 

 

 しかし、攻撃はサンラクに当たらなかった。

 

 

 

 空中に逃れたのではない、技量で捌かれたのでも、バリアや火器で防いだのでもない。

 ただ純粋に、彼女より速く動いたというだけの話。

 《回遊》によってサンラクの速度は、AGIに換算して五万を超えている。

 ゆえに、攻撃は当たらず。

 

 

『じゃあ、反撃開始と行きますか』

 

 

 サンラクも、相手を敵であると認識し、理解する。

 おそらく、この人物こそがペンシルゴンの切り札なのだろうとあたりをつける。

 自分やソウダカッツォと対峙しても、倒せるであろう戦力として、連れてきたのだろう、と。

 

 

 

『悪いが、さっき見てたぞ』

 

 

 

 空間を消滅させる絶爪は、初見であればサンラクを殺せたかもしれない。

 だが、彼女はサンラクの眼前で【フォレストレイス】を倒している。

 ゆえに、効果も、間合いも、ただ一度見ればサンラクに回避は造作もない。

 

 

 速度で劣る相手に、彼が負ける理由がない。

 爪を、牙を、空間破壊の余波を。

 全てかわして、双剣で攻撃を加えていく。

 

 

 

「OOOOOOO」

 

 

 

 爪を地面に突き刺し、地を薙ぎ払う。

 空間が消失し、その余波で大地が舞う。

 無数の超音速の礫が、サンラクに殺到する。

 加えて、それらすべてに《死屍累々》の防御力無視が乗る。

 ゆえに、近くにいたサンラクに回避しきることはできず。

 

 

 

『ーー《四神文棺(ソウケツ)》』

 

 

 しかし、サンラクの死は訪れない。

 砂はサンラクに当たるものの、《疾走者》の反動軽減によってダメージを抑えられる。

 そして、それを本来大ダメージへと変える彼女のスキルーー《死屍累々》は。

 ソウダカッツォによって妨げられた。

 

 

 ソウダカッツォの<エンブリオ>、ソウケツ。

 学問の神様であり、漢字を作った存在でもある蒼頡という偉人をモチーフとしている。

 機体の下半身がキリューによって消し飛んだが、それでも本体ともいえる四つのカメラアイは……否、三つ(・・)のカメラアイは無事である。

 ソウケツの必殺スキルは《四神文棺》。

 効果は、『ラーニングしたスキルを、封印する』こと。

 その代償として、一度使うごとにスキルをストックするためのカメラアイが一つ砕ける。

 学習し、習得し、さらに「共通の禁止事項(ルール)を定める」こと。

 学問の神としては、納得の能力である。

 今回は【地獄王】の奥義である《死屍累々》を対象にした。

 結果として、サンラクは死なず。

 キリューは。

 

 

見様見真似(ロールプレイ)ーー暁、《餓狼顛征(ロウファン)》』

 

 

 

 サンラクが振るうは、かつての最速が振るった六本腕の居合と、双狼の遺した呪いの合技。

 触手で鞘を引き、二本の腕で黒刀を振りぬき、絶死の呪いで細胞を死滅させる。

 

 

「UA」

 

 

 最後に、キリューが何を思ったのかは、誰にもわからない。

 一つだけ言えるのは。

 

 

『お前の負けだ』

 

 

 

 ペンシルゴンが有する、最大戦力の一角が、この戦場から退場した。

 

 

 To be continued.

 




やっとキリューの話が終わりました。

感想などいただけるとありがたいです。


余談。
本日誕生日だったのですが、ツイッターなどで色々な方にお祝いしていただけました。嬉しかったので、せめて何かと思い、更新しました。
今後ともよろしくお願いいたします。
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