<Infinite Dendrogram>~クソゲーハンター、クソゲーに挑まんとす~   作:折本装置

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世界の終わり、遊戯の始まり 其の十八

 ■???

 

 

 彼女にとって。

 世界は自分にとって餌であり、汚泥でもあった。

 求めていないものが常に与えられ続け。

 求めている者は、自分のところに来てくれるはずの……王子様のような存在だった。

 

彼女は、彼のリアルを知らない。

 いや、声や口調などからおおよそを察することはできる。

 ここでの知らないというのはどこに住んでいてどういう生活をしているのかという具体的なことを何も知らないという意味である。

 とはいえそれ自体は何の問題もない。

彼女は彼に並々ならぬ執着を抱いているが、それはリアルも含んだものではない。

 むしろ、リアルを切り離した関係性こそを求めている。

 

 

 すぐさま見つけることができる。

 彼のことは、すぐ見つけられる。

 どういうわけなのか、常に同じプレイヤーネームをしているのだから。

 あと、付け加えれば声も変わらないのでそれでも判別ができる。

 実際、数万を超える初期プレイヤーの中から、彼女はあっさりとサンラクを見つけ出していた。

 そして、彼女はーー彼以外のものも視界に収めることになった。

 

 

 ◇

 

 

 □■防覇屋外

 

 

 

「ほっほっほっーー『『『《ライトニング・スピア》』』』」

「む」

 

 

 

 四つの口で同時に詠唱。

 それを以て、四本の雷槍を撃ち放つ。

 雷魔法は、他の魔法に比べても制御が難しい。

 それゆえに雷槍は空中でほどけ、四方に拡散する。

 超音速でもなお回避できず、物理防御すらも貫通する雷光がレイとアンダーマテリアルの体を焼いている。

 

 

『<マスター>っ!』

『大丈夫です、まだ、【ブローチ】がもってくれてーー」

「はっはあっ!」

「くっ」

 

 

 雷光の圧力をものともせず、アンダーマテリアルは動く。

 両手を振るい、その牙で装甲の薄い喉元を引き裂く。

 二度の致死ダメージを以て、彼女の身を守っていた【救命のブローチ】が完全に砕ける。

 雷光による致死判定を幾度か擦り抜けてくれていたが、それもここまで。

 

 

『今だ!』

『はい!』

 

 

 だが、隙は出来た。

 レイは銃撃をアンダーマテリアルに見舞いながら、バックステップで雷の網から離脱する。

 これで、もう継続ダメージで死ぬことはない。

 

 

 

「あーあー、ちいっと無茶しちまったかなあ」

『声も口調もがらりと変わったな、母上。あれもやつのスキルなのだろうか?』

『いえ、あれはたぶん違うと思う。きっと、ゲームで鍛えたものでしょう』

 

 

 

 ゲームで鍛えた結果、人外レベルの技術を習得してきたサンラクを傍で見てきたからわかる。

 彼女の声帯模写も、身のこなしも、卑猥な文言の乗った詠唱も。

 すべては、ゲームの中でーー電脳空間の中で習得したものなのだろう。

 

 

 

「なんというか、異様ですね」

 

 

 

 先ほどの雷の檻に飛び込んでダメージ前提で攻撃する方法と言い、四つの口を活かした多重詠唱であったり。

 アンダーマテリアルと戦ったものは、皆が同じ感想を抱く。

 戦っているのは、本当に人間なのだろうかと困惑する。

 ……少なくとも、アンダーマテリアルにとっては些細なことだが。

 

 

 

「ひとつ訊きたいんだけどさあ」

『何でしょう?』

「君、彼の何?」

『……え?』

 

 

 

 一瞬、レイはアンダーマテリアルの言葉の意味が理解できずに困惑した。

 しかし、アンダーマテリアルもまた動かない。

 言葉によって明確な隙が一瞬生じたのに――まるで彼女の返答が戦闘より遥かに重要だとでも言わんばかりに。

 そもそも、何もかもがおかしかったのだ。

 アンデッドに対応してきたレイに、いきなり襲い掛かってきた。

 そしてレイは、上空にいた<マスター>同様、彼女はペンシルゴンの仲間なのだろうと推測した。

 状況証拠から考えれば妥当である。

 だがしかし、実のところ彼女がペンシルゴンの仲間であるという決定的な証拠は何一つないのだ。

 むしろ、全く関係のない第三者の可能性の方が高い。

 

 

 そう考えられるのは――彼女がレイ以外の<マスター>に攻撃を仕掛ける様子が全くないことだ。

 アンデッドへの攻撃を阻止することが目的なら、他の<マスター>も攻撃すればいいはず。

 テイムモンスターや魔法攻撃を使えば可能だっただろう。

 つまり、彼女の目的はレイただ一人である。

 さらにいえば全力でこちらに攻撃してくるというのに、彼女の関心は恐らくレイにはない(・・・・・・)

 

 

『サンラク君は』

 

 

 リアルでの関係を、レイは彼女に話すつもりはない。

 それくらいのネットリテラシーは、彼女にもあった。

 眼前のアンダーマテリアルが得体のしれない人物であるということもあったのだが。

 

 

 

『私の……パートナーです』

「……は?」

 

 

 だから、レイはこの<Infinite Dendrogram>における関係を答えた。

 

 

『一緒にクエストをしました。装備を買いに行きました。レジェンダリアのレストランで珍味を食べました』

 

 

 

 このゲームで、彼女とサンラクが経験したことを、ぽつりぽつりと語る。

 配達や討伐クエストをこなしたり、レイの装備品購入に付き合ってもらったり、逆にサンラクが興味を示した変な色と匂いと味の料理を口にしたり。

 そんな日常の積み重ねがあるのだと、それを全てともに経験してきたのだと、彼女は語る。

 

 

『そうやって、一緒にゲームをしてきました。これからも、変わりません。ずっと続けていくんです』

「……やめろ」

 

 

 

 ぽつりと、どのロールでもない(本来)の声が出る。

 アンダーマテリアルにとって、サンラクとのかかわりは非日常(・・・)だった。

 出会いは、彼女の主観では運命的なもので。

 こうして<Infinite Dendrogram>における

 彼は、彼女にとって救いになりえる王子様で。

 日常から解放してくれる存在のはずだというのに。

 そんな彼を、この銃を構えた女は日常(・・)だとぬかした。

 もちろん、レイにそのような意図は存在しない。

 だがそんなつもりはなくとも。

 彼女の言葉は――アンダーマテリアルという<マスター>にとってーー行動原理の全否定(・・・・・・・・)である。

 

 

『だから、言っておきますね。私は貴方を許さない』

「っ!」

『私の前からサンラク君を連れ去った。それを許容なんて、私はできません』

 

 

 

 彼女の言葉は丁寧だった。

 けれども、その言葉の奥には怒りという言葉すら生ぬるい程の激情があった。

 それは、最も大切な存在と引きはがされたことへの怒りであり。

 原因であるアンダーマテリアルへの憎しみであり。

 二度と同じことを繰り返さないという決意だった。

 アンダーマテリアルはここに至ってようやく理解する。

 サイガ―0の言葉はアンダーマテリアルの否定、どころではない。

 

 

 

『貴方はここで、排除します。二度とサンラク君に近づけないように』

 

 

 すなわち、羽虫(ストーカー)に対する|抹殺宣言(・・・・)である。

 

 

「なるほどねえ。言ってくれるじゃあないの」

 

 

 

 アンダーマテリアルは、笑う。

 笑いを顔に貼り付ける。

 

 

『キヨヒメ!』

『Fire』

「「「「《アイシクル・パイル》」」」」

 

 

 

 炎弾と氷槍が撒き散らされ。

 第二ラウンドのゴングが鳴った。

 

 

 To be continued.

 

 

 

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