<Infinite Dendrogram>~クソゲーハンター、クソゲーに挑まんとす~   作:折本装置

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世界の終わり、遊戯の始まり 其の十九

 □■数か月前・アムニール

 

 

 

「めいでん?」

「あ、はい、そうみたいです。メイデンwithアームズと」

 

 

 

 <Infinite Dendrogram>を始めたばかりのころだった。

 サイガ―0はサンラクに自分の<エンブリオ>であるキヨヒメについて話していた。

 メイデンという基本五種のいずれとも違うカテゴリー。

 掲示板などでは一定数情報が寄せられていたが、発現の法則性も当時はわかっていなかった。(ただし某宗教団体のトップを除く)

 

 

 

『うーん、美少女形態のメイデンと、武器形態のアームズってことか……』

 

 

 サンラクは内心、「それって性能的にはメイデンいらなくないか?」などと思っていたが、空気を読んで言わなかった。

というよりはNPC(キヨヒメ)からの好感度が下がることを危惧した結果である。

 ある意味では遊戯派(ゲーマー)らしいとも言える。

 

 

 

「武器形態になるときは、一度光の粒子になって、また武器になるんですよ」

『ほほう、そうなのか。あれ?』

 

 

 

 その情報を聞いたサンラクが首をかしげる。

 

 

 

『なあ、レイ、もしかしてなんだけど――』

 

 

 それは、一つの思いつきにすぎなかった。

 それは検証であり、あるいはただの日常であった。

 それが何か意味を持つなど、その場にいた誰もが、思ってもいなかった。

 

 

 

 

 ■防覇・屋根の上

 

 

 

 

 サイガ―0とアンダーマテリアル。

 ともに超級職に至った準<超級>であり、現在の<Infinite Dendrogram>においてはトッププレイヤーの一角。

 実力的には互角、とされている二人だったが。

 現状、勝敗の天秤は九分九厘、アンダーマテリアルの方に傾いていた。

 

 

 

「《進撃の守護者(ベビードール)》」

 

 

 

 アンダーマテリアルは、切り札の一つである特典武具を発動する。

 白銀の杖が発光し、巨人に変身する。

 【機杖威 ベビードール】の効果は単純にして怪奇。

 伝説級<UBM>相当の召喚モンスターが、アンダーマテリアル本人めがけて襲い掛かるというもの。

 それは、本来でいえばデメリットしかないはずだった。

 しかし、このデメリットを回避する方法が二つある。

 一つは、幻術などを使ってヘイトを移すこと。

 “骨喰”との戦闘では、その方法で撃破している。

 もう一つは、敵との距離を限界まで詰めること。

 具体的に言えば、アンダーマテリアルに対する巨人の攻撃にサイガ―0が巻き込まれる程度に近づけばいい。

 

 

「くっ、離脱が、できない!」

『逃がさないよねえ!』

 

 

 

 アンダーマテリアルの体から生えた触手が絡みつき、離れられない。

 それは、彼女にとって最もやられたくないことである。

 彼女の攻撃手段は、距離を取ることによって、意味を成す。

 彼女以上の速度で近づき、触手で絡め取り、拘束する。

 触手モンスターの素材を体に取り付けた――わけではない。

 たった今、彼女が自らの肉体を変質させて生み出した(・・・・・)のだ。

 

 

 

 【生命王】の最終奥義――《エボリューション》。

 改造された肉体を――さらに変質、否、進化させる。

 もちろん、制限はある。

 二時間を超えるクールタイムがあり、使うごとにHPやSPが削れていく。

 付け加えれば、肉体を急激に変化させるため、それに伴っての違和感や状態異常が発生する可能性もある。

 だが、それでもなお彼女はこのスキルを用いることをためらわない。

 肉体変異に伴う違和感など、彼女にとっては些細な日常(・・・・・)でしかないから。

 何よりHPや防御力を失ってでも、サイガ―0を殺したいから。

 

 

 伝説級<UBM>の打撃によってHPが削れても構うことはなく、進み続ける。殴り続ける。

 サイガ―0の装甲が削れていく。

 

 

『《恋獄降下(フォーリン・ラブ)》、《燻る情火(ディレイ・ボム)》!』

 

「っ!」

 

 

 

 炎熱耐性を下げる弾丸と、炎弾を同時にばらまき、撃破する。

 ゴーレムも、改造したアンダーマテリアルも、炎熱をもろに浴びて大ダメージを受けている。

 しかし、サイガ―0も無傷ではない。

 【エンネア・タンク】が破損してしまっている。

 自動修復効果でいずれはなおるが、この場ではもう使えない。

 そして、彼女の消耗も激しい。

 それでも彼女がまだ立っていられるのは【魔撃王】のパッシブスキルと装備品の耐性ゆえだ。

 炎熱を使った範囲攻撃を得意とするゆえに、余熱を防ぐべく集めていた炎熱・魔法耐性装備の数々。

 そのすべてが、熱とデバフに耐えきれず、全焼する。

 しかし、奇跡というべきか。

 あるいは、超音速で爆心地から離脱したからか。

 サイガ―0は生き残っていた。

 

 

 

「できれば、残したかったですが……ここで使うより仕方ありませんね」

 

 

 

 サンラクから、いや楽郎からアンダーマテリアルに関して聞いていることがある。

 曰く、彼女の必殺スキルは<エンブリオ>内に引きずり込んだ相手を逃がさないという効果であると。

 すなわち、この場でアンダーマテリアルの必殺スキルは使えない。

 というか、使う意味が全くない。

 

 

 であれば。

 

 

「私の必殺スキルを使えば、押し返せますね」

 

 

 

「キヨヒメ!」

『Form shift――』

 

 

 

 サイガ―0が己の相棒に指示を出し。

 彼女が、必殺スキル専用の形態に変じようとして。

 

 

 

「させる、かああああああああああああああああ!」

「っ!」

 

 

 

 アンダーマテリアルは突進した。

 作戦も、何もない。

 ただの全身全霊のタックル。

 サイガ―0に対しての攻撃性と衝動が発露しただけの、子供の癇癪にも等しい挙動。

 しかしそれは、距離を取りたいスナイパーからすれば一番されたくない行動でもある。

 間に合わないと、サイガ―0は直感した。

 

 

「は、は、はあっ!」

 

 

 《エボリューション》を使った反動で、体細胞が異常増殖を起こす。

  四つある口が肥大し、クリーチャーのような見た目になり果てていた。

 噛みちぎることに特化した口を大きく開け。

 サイガ―0にかぶりついた。

 ばきり、という音がする。

 

 

「あ、お」

 

 

 

 キヨヒメの必殺スキル形態への変形は、一度粒子になったうえで、再度成形するという工程を経ている。

 これは彼女に限った話ではなく、複数の形態を持つ<エンブリオ>にとっては共通の仕様だ。

 特にデフォルトで複数の形態を持つメイデンやアポストルはその傾向が顕著だった。

 これには、ある副次的な効果がある。

 

 

 

「こんな、小細工が」

 

 

 

 キヨヒメは銃を大きく開いたアンダーマテリアルの口の中に生成。

 

 

 

 

 

 

 両腕についた口で噛みちぎらんとする。

 しかし、それはサイガ―0自身の両腕を盾にすることではばまれる。

 腕が砕けるが、それでもいい。

 キヨヒメは魔力式の銃器であり、魔力さえこもっていれば、弾丸はいつでも放てる。

 勝利は、掴むことが出来る。

 

 

 

「私一人だったら、負けていたと思います」

 

 

 

 心からの言葉を、こぼす。

 だって、彼女は強敵だったから。

 それこそ、サイガ―0だけでは到底及ばぬほどの。

 キヨヒメとともに戦ってもなお、届かないほどに。

 それでも、この勝負はサイガー0の勝ちだった。

 勝敗を分けたのはレベルやステータスではない。

 リアルの技術やセンスでもない。

 ましてや、闘争心ですらない。

 

 

 彼と過ごしてきた時間の差。

 ただ、誰が彼に選ばれたかのーー誰が彼の手を掴んだかの(・・・・・・・・・・・)差だった。

 

 

「私()、一人じゃない」

「サイガ、レイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイ!」

 

 

 アンダーマテリアルは狂乱するも、すべては遅く。

 

 

「《蛇神の果て(キヨヒメ)》」

 

 

 

 防御不能の、全身を焼き尽くす炎弾が発射される。

 

 

 

「あ……」

 

 

それが結末だった。

 怪人は燃え尽き、爆散し。

 キャットファイトは、終焉を迎えた。

 

 

 

 To be continued.

 

 




もうちょっとだけ続きます
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