<Infinite Dendrogram>~クソゲーハンター、クソゲーに挑まんとす~ 作:折本装置
□【修羅王】サンラク
アーサー・ペンシルゴン。
またの名を鉛筆戦士。
本名、天音永遠。
長年の付き合いになる悪友だが……俺はあいつのことをそこまで知っているわけじゃない。
むしろ瑠美の方が詳しいかもしれない。
ちょくちょくリアルで会ってるみたいだし。
ただ、やつのゲームスタイルはよくわかっている。
性格が悪い。
もしくは、ウザい。
『ウッザ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!』
まず建物の外に仕掛けれられた罠。
表の出入り口にこれ見よがしに仕掛けられた巨大なアンデッドを避けて裏口から入ろうとしたら、轟音とともに裏口が爆破されて使えなくなる。
ならばと正面突破を試みるも、再生能力に秀でたアンデッドはなかなか倒れてくれない。
手こずっている間に入口から出てくる
五桁の攻撃力とAGIを持っている俺だから戦いになっているだけで、そうでなければここでデスペナルティになっていることだろう。
『《
俺自身のHPを半分削り、分身を生成。
同時に気配を消した
厳密には城ではなく砦なのだが……まあどちらでもいいことだろう。
あいつが中にいる時点でそこは魔王城だ。
「UOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!」
俺の分身に襲い掛かるアンデッドの声を聞き流しながら、俺は
『うわあ……やっぱり
待った。
入ってすぐ、アンデッドがあちこちにいる。
それも、感知スキルを持たない俺がすぐ見えるような場所に。
見えるところに罠があるということは、多分
『物理的な罠までついているのかよこん畜生!』
アイツ絶対許さねえ!
◇
「やあやあ、よく来てくれたねサンラク君」
元からそこにあったのか、あるいはわざわざ設置したのか。
魔王が座るような玉座に腰掛けているのは、<Infinite Dendrogram>ではよく見た格好だ。
白い仮面をかぶった、黒装の騎士。
玉座に一本の槍を立てかけ、黒紫色のオーラを身にまとっている。
そんな魔王然とした見た目をしているアーサーペンシルゴンを見て、俺の口は自然に動き、言葉を紡ぎ出していた。
『死ね』
「ぶふっ」
ペンシルゴンにこの建物に入ってから散々やられたからな。
アンデッドに気を取られると物理的な罠が作動する。
一番ひどかったのは、物理的な罠の中にアンデッドが仕込んであったことだ。
……起爆するアンデッドにアイテムボックスにあった武器を《即時放出》して盾にしたから助かったけど……逆に装備の大半がぶっ壊れたからな。
残った中でまともに使えるのは【双狼牙剣】のみ。
それでも、十分と言えば十分ではあるのだが。
周囲には、アンデッドもいない。
外に入るが、あいつらがここに来る前に、俺が首を刎ねる方が早いだろう。
そして、それが絶対的に合理的な選択肢である。
むしろ、ペンシルゴンに対して時間や隙を与えること自体が悪手。
『何でこんなことしたんだ?』
『お前にしてはあまりにも中途半端だったろ』
例えば、テロを仕掛ける時。
大量のアンデッドを街の外に待機させ、襲撃させたこと。
これは、決して間違っているわけではない。
街の外に逃げるという選択肢を奪う。
テロを起こすならターゲットを逃がさないことは絶対条件ではある。
けど、最善手――いやペンシルゴンが打つような最悪手からは程遠い。
例えば、内部のティアンの体内に爆弾を仕込んで爆発させ、パニックを起こす。
そして、外に逃げさせたうえで待機させたアンデッドでティアンを殺す。
ペンシルゴンの性格を加味すれば、そういうドミノ倒しのような演出を選ぶはずだ。
だというのに、それをしない。
よくいえば、易しい。
悪く言えば――ぬるい。
そう思えるくらい、今回のテロはおかしかった。
基本的に、刺客のほとんどが対<マスター>に焦点を当てている。
建造物の被害は出たが、避難はおおむね完了しており、ティアンの犠牲者はほとんどいないはずだ。
指名手配は確実だろうが、人的被害が出ていない以上、<監獄>とかいう別のサーバーに送られてもなおさほどかからず出てくるかもしれない。
そもそも、以前からペンシルゴンのスタンスには違和感があった。
具体的にはソウダカッツォと組んでPKをしていたことだ。
二人とも、モンスター討伐とPKに明け暮れていたと二人の口から聞いている。
恐らくだが、ペンシルゴンはこのゲームにおいて……。
『お前、デンドロで
「…………」
仮面で覆われているこいつの表情はわからない。
けれど、彼女が纏う雰囲気が露骨に変わった。
カッツォならばいい。
NPCにさほど興味を持たず、対人戦に特化したアイツであれば、NPCに興味を持たないのも頷ける。
けれどこいつは違う。
NPCなどがいない、いわゆる自由度の低いゲームとは相性が悪く、逆にいえばデンドロとは相性がいい。
NPCを囮にしたり、弾にしたり。
そういう人の心の隙間を突いてくる戦術を、こいつがとってこないこと自体が異常なのだ。
それこそ他の人間が勝手にこいつのアバターを操作していると言われた方がまだ納得がいく。
『一体何を企んでいるんだ?』
「あっ、そっち?」
そっちってなんだと思ったんだよ。
こっちは今この瞬間も罠を警戒してるんだけど。
でももう《製複人形》も壊されたからあんまり時間的余裕もないんだよな。
「ああ、それはね……」
ペンシルゴンは、笑っていた。
それは、魔王のような哄笑ではなく、リアルの雑誌で見せる人を惹きつける魔性の笑みを浮かべているわけでもない。
どこか、自嘲するような。
乾いた笑みだった。
「もう終わらせたいって思ったからかな。このゲームを」
To be continued.