<Infinite Dendrogram>~クソゲーハンター、クソゲーに挑まんとす~ 作:折本装置
□【修羅王】サンラク
ペンシルゴンが、何に悩んでいるのかは知らない。
言われたとて、理解できるのかもわからない。
俺たち、そういう悩みを打ち明け合ったりするような関係ではないからなあ。
友人というよりは、悪友という表現が近い。
『お前が何を悩んでるのかは正直わからん』
俺は、サンラクというプレイヤーはどこまでいっても楽しむことを最重要テーマとしている。
常人が鼻をつまみたくなるようなクソゲーに挑んできたのもそれが楽しいから。
『けど、
いろいろ言ってたけどさ、要するに。
『壁にぶち当たったんだろ?』
ゲーマーなら壁にぶつかることはいくらでもある。
何なら壁に埋まって出れなくこともあるし、壁抜けバグを利用してRTAを達成したことだってある。
いやそれはクソゲーマーだけかもしれないが。
こいつだってクソゲーや過疎ゲーをやるタイプのゲーマーである以上、きっと壁に埋まったことくらいはあるはずだ。
『壁にぶち当たる、まあ行き詰ったってことなんだろうがそれでどうするかなんてのは俺にとっちゃ一択だ』
「どう、するのかな?」
仮面をかぶっているせいで、ペンシルゴンの表情はわからない。
わかるのは声音だけ。
期待しているようにも、困惑しているようにも聞こえた。
あいにくだが、俺はマンチキンを選択するタイプだ。
ペンシルゴン好みの回答など、してやるつもりは毛頭ない。
アイテムボックスから【双狼牙 ロウファン】を取り出し、構える。
そして簡潔に答えてやる。
『憂さ晴らし、だ』
「は」
ペンシルゴンが一瞬硬直する。
きれいにフリーズしすぎてラグかと思ったぞ。
そういえばデンドロでラグって見たことない気がするぞ。
サーバーが強力なことと、アップデートが一度もされたことがないのが原因だろうか。
『ゲームに行き詰まったら簡単だ。別ゲーをやればいい。それで
「サンラク君、君は……」
『悪いが、お前の事情は知らん』
ペンシルゴンは戸惑ったような声を上げる。
『サシで闘ろうぜ、全力で暴れたら多少はすっきりするだろ』
「ぷっ」
ティアン相手に攻撃できない、というのなら仕方がない。
「うんなるほどね、君に相談とかをした私が馬鹿だったかな」
『はっはー、辞世の句にしちゃ字余りが過ぎるな』
「いいよ、やろうか」
顔は見えない。
それでも、声と雰囲気でわかる。
やっと
ここからが、ペンシルゴンの全力だ。
ペンシルゴンは、何かしらの骨で作られた椅子から立ち上がる。
槍をくるくると回して、穂先をこちらに突きつける。
「《アウェイキングアンデッド》」
死者の軍勢を展開した。
◇
■征都庁舎内部
“嬲り殺し”アーサー・ペンシルゴン。
彼女の有名な戦闘スタイルは、<エンブリオ>によって作り出されたアンデッドによる特攻爆撃。
怨念で【ディストピア】本体から無尽蔵に作り出せるアンデッドは非常に強力であり、瞬間的な攻撃力で言えば<上級エンブリオ>の中でも屈指の威力だ。
彼女の強さ。
その半分である。
彼女は、戦闘において<エンブリオ>以外のアンデッドをほとんど使っていない。
例外は、”五虎将”という五体の上級アンデッドのみ。
【死将軍】特有の無数のアンデッドを使った広域制圧戦術を、彼女はこれまで使ってこなかった。
理由は単純。
割り切れなかったからだ。
自分の命令に沿って自爆するだけの【ディストピア】や無数のモンスターの資材をつなぎ合わせて作った“五虎将”と異なり、自然発生型のアンデッドには
ペンシルゴンにとって、人格を有したアンデッドもまた人間であり、取り返しがつかないものだった。
「さようなら」
だが、ここに至って、ペンシルゴンはその枷を外す。
もともと無関係のティアンに対しても「積極的に殺すつもりはないけど巻き添えで死んじゃったら仕方ないよね」という風に考えて今回のテロ計画を考えていたためあってないような枷だったが――それでも意識して殻を一つ破った。
彼らはもとよりペンシルゴンの手駒。
愚弟であれ悪友であれ、使えるものはリアルの人間でも利用する。
彼女自身すら忘れかけていた彼女の本質は。
『厄介すぎんだろこの地雷女!』
「あっはっはっは、断末魔がそれでいいの~?」
見事に、サンラクを追い詰めていた。
サンラクは鳥面の中で歯噛みする。
まず、屋内を埋め尽くすアンデッドの群れは問題ない。
四方八方から
《死霊強化》でステータスが倍加していようと、所詮彼らは下級の雑兵。
落ち着いて一体一体切り捨てていけば、すぐに兵力が尽きる。
そういう算段だった。
『こっちも爆弾になるとは聞いてねえぞ!』
アンデッドを倒したそばから闇属性攻撃魔法の爆弾となってサンラクを襲う。
闇属性魔法は生物のみをターゲットとする代わりに、武器防具などによる防御をすり抜ける性質を持つ。
サンラクにとってさらに想定外だったのは、闇属性魔法の判定ではアンデッドは死者であり、闇属性魔法の対象外ということだった。
つまり、アンデッドを盾にして防ぐこともできないわけで、よけまわるしかない。
「《触りし神に祟りあり》っていうんだ。面白いスキルでしょ?最終奥義なんだよ?」
『やっぱり地雷女』
「うーん、まず拘束はマストでしょ?宙づりにして」
『あれ今もしかして処刑方法を考えていらっしゃる?』
ノリノリでサンラクに勝ったあとどう料理しようか考えているペンシルゴンに、サンラクは素で引いていた。
もっとも、いつものことだったが。
そんな砕けた掛け合いをしている間にも、戦況は動く。
押し寄せるアンデッドを、両腕と《
地面にアンデッドが押し寄せて逃げ場がなくなったので《配水の陣》を連続起動して空中に逃げつつ、空中を飛び回るアンデッドはどうにもならないので切り捨てる。
アンデッドを殺したことで四方八方から迫りくる《
安堵する間もなく、アンデッドによる波状攻撃が継続され、サンラクはまたしても回避する。
(面倒すぎる)
千を超えるアンデッドの軍団も厄介だが、それ以上に厄介なのはペンシルゴンの指揮能力の高さだ。
動きを見ればサンラクにはわかる。
このアンデッドたちは何も考えずに動く
能力や立ち回りにばらつきがあるのがその証拠。
だがそれで戦いやすいかと言われればその逆であり、むしろその差をペンシルゴンに利用されて時間差爆撃や不意打ちを仕掛けてくる。
実際、早々に《製複人形》を使わされている。
(厄介だね)
ここまでやってもなお仕留めきれず、《回遊する蛇神》や闘牛士系統のスキルでステータスは徐々に上がっている。
このままでは、余裕ができてしまう。
ペンシルゴンを仕留めるだけの余裕が。
故に両者がもくろんだのは。
((短期決戦しかない))
『ここだあ!』
無数の針孔に糸を通すがごとく身のこなしでサンラクがペンシルゴンに超超音速で接近。
首をはねるのと。
「《
必殺スキルの宣言がなされるのは同時だった。