<Infinite Dendrogram>~クソゲーハンター、クソゲーに挑まんとす~ 作:折本装置
□【修羅王】サンラク
状況を整理しよう。
今現在、ペンシルゴンの必殺スキルによる『繭』が脈動しながら徐々に拡大を続けている。
厳密には拡大というより、先ほど奴が言及したような風船が膨らんでいるようなもの、だと思う。
時間経過か、あるいは任意のタイミングでか、いずれにしてもこの『繭』は破れて爆発する。
この征都を丸ごと巻き込んで。
なーにが「ティアンを殺す気が起きない」だよ。
殺すどころか滅ぼす気満々じゃねえか。
これまでに奴がやってきたことの中でも指折りに邪悪である。
流石は魔王鉛筆。
流石は
部下と配下のアンデッドを使って大規模なテロを行い。
人々をパニックに陥れたうえで避難誘導と手ごまへの対処に人員を割かせて。
追いつめられると自爆してくる。
うん、どこからどう見ても魔王だわ。
いやもう魔王通り越して邪神だろ。
盤面が悪くなったからって将棋盤を投げつけてKOするようなもんじゃねえか。
実際そういうクソゲーあったけどな。
おやつに餅を選んで対局相手の喉に詰まらせて勝つというのが一番安定した勝率を――おっとこれ以上はまずいか。
俺も人のことを言えなくなってしまう。
閑話休題。
思考が脱線してしまうのは行き詰まったゲームを放置して別のゲームに手を伸ばす、クソゲーマーの悪い癖だ。
まず、俺に爆発を止める手段はあるか、という点に絞って考慮する。
答えはすぐに出た。
不可能だ。
少なくとも、今の俺にこれを壊す手段はない。
衝撃で動くことはあっても、傷一つ付けられない。
では、火力の高いプレイヤーを探して壊してもらえばいいのか、と言われればそれも違う。
ペンシルゴン自身でもあったので、つい手が出てしまったが、『繭』は爆弾でもある。
つまり、衝撃を与えることは望ましくない。
そもそも、いつ爆発するかもわからない以上、時間をかけられない。
状況は絶望的。
爆発は止められず、
何千何万といるであろうNPCも、当然死ぬ。
『さて、どうするのかな?サンラク君』
ペンシルゴンは、勝利を確信している。
当然だろう。
俺には爆発を止める手段も、爆発からNPCを守る防御スキルだって持っていない。
『爆発が止められなくても』
俺は『繭』の下に回した腕に力を込めて、飛び上がった。
リアルでは不可能な動きだが、ここはVRゲーム。
人の域を外れたSTRが、それを可能にしていた。
『爆発の場所は変えられる!』
NPCを巻き込まない位置まで、『繭』を移動させればいい。
自爆することに特化した『繭』は移動も攻撃もできない。
できるのは、その場に居座ることだけ。
だから動かせる。
『無駄だと思うよ。もう、出入り口を通れるサイズじゃないでしょ?』
持ち上げられていることは知覚できるらしい。
なるほど、言われて気づいた。
確かに『繭』が肥大しすぎて扉を通れるサイズではない。
というか言われるまで気づかなかった。
必殺スキルの詳細をペラペラしゃべったり、こうしてアドバイスを送ったり……やっぱりまだ迷ってるのか。
その弱みに付け込むことを、俺はためらうタイプじゃないんだ。
『俺だけじゃ、無理かもな』
【蛇眼鳥面】を紋章にしまう。
キャラメイクしたものの、レイくらいにしか見せる機会のなかった俺のアバターの顔が、あらわになる。
【テレパシーカフス】で通信するだけなら必要ないが、気分の問題。
俺は口をなるべく大きく開き、この場にはいない人間に向かって、叫ぶ。
『
彼女なら、きっと応えてくれると。
「《イリーガルショット》」
刹那、発動したのは【魔撃王】の奥義。
稲妻によって、天井が破壊される。
爆炎でないのは、聞いていた通りキヨヒメは破損しているからだろう。
他の魔力式銃器を使っているのだろうが、建物の天井を壊すだけならそれで十分。
【サンラク君、大丈夫ですか?】
【大丈夫。あとは、俺に任せてくれ、ありがとう】
【はい!】
顔を見なくても、わかる。
きっと今、彼女は笑っている。
だから、俺も笑顔になれる。
いつ爆発するのかもわからない爆弾を抱えて跳び、NPCと街を守る。
笑顔の明日と、さっき交わした約束を守るために。
『空の旅、一名様ご案内ってなあ!』
あいにくだが、今の俺は機嫌がいい。
【鳥面】をつけなおして、AGIが
《配水の陣》を踏みしめて、空中を跳躍。
床を飛び出し、天井を超えて。
俺は爆弾を抱えて、夜空を駆ける。
◇
『ああ、もう少しだったのになあ』
『わかるのか、失敗したって』
『超音速起動が可能なキミが運んでるんでしょう?だったら、もうすでに射程外に出てるよ』
『なるほど』
すでに雲を抜けている。
確かに、ここまでくれば征都が巻き込まれることはないだろう。
逆に、俺自身はまず間違いなくデスペナルティになるのだろうが。
『なあ、ペンシルゴン』
『何かな?』
すでに勝敗は決した。
ペンシルゴンは自爆して死ぬことが確定しているし、《継承髑髏》の相手もいない。
奴のデスペナルティは確定している。
そして、これだけのことをした以上、まず間違いなくこいつは<監獄>に行くことになるだろう。
未遂とはいえ都市一つ巻き込んだテロ行為など、ほとんど例がない。
少なくとも、<Infinite Dendrogram>というゲームにおいて、こいつと会うことはもう二度とない。
だから、爆発するまでの刹那の時間を会話に使うことを決めた。
『お前、本当はどうしたかったんだ?』
「うーん」
『繭』ごしでくぐもっていた声が、明瞭に聞こえるようになった。
おそらくだが、『繭』の限界が近い。
あと十秒。
あるいはそれ以下の時間で爆発するだろうと、なんとなくわかった。
「正直、自分でもわからない」
「迷って悩んで、嫌になって、思ったんだ。全部壊してしまえばいいって」
わけがわからないと、そう切り捨てるのは簡単だと思う。
けれど、俺の口からは悪罵の類は出てこなくて。
『お前らしいな』
ああそうだ、まったくもってこいつらしい。
天音永遠がこいつらしくいられる場所が、
「ねえサンラク君」
『なんだよ?』
「もし私がさ、君に声をかけてたら、今回の件手伝ってくれてた?」
それは俺が疑問に感じていたことの一つ。
俺やカッツォを誘わないのもまた、不可解であった。
あるいはその答えすら、ペンシルゴンは持っていないのかもしれないけれど。
もしもそうなっていたら、俺はどうしていたのか。
無論、考えるまでもない。
『あいにくと、デートの誘いが入っててな』
「爆発しろよ、リア充」
『今からするんだけど』
「ぶふっ」
意図したものか、はたまた偶然か。
ペンシルゴンが噴きだしたのと、『繭』が崩壊したのは同時だった。
直後、熱量と爆圧をはらんだ光が視界のすべてを塗りつぶして。
俺は、デスペナルティになった。
To be continued.
感想、評価などありがとうございます。
本当にありがたく思っております。
次回、エピローグです。