<Infinite Dendrogram>~クソゲーハンター、クソゲーに挑まんとす~ 作:折本装置
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□【闘士】サンラク
久しぶりに見た【ロウファン】は以前と見た目が変わっていた。
わかりやすく説明すれば、白骨化したというべきだろうか。
……説明になってないな。
具体的に言えば、骨の内側、口内や肋骨の内側にあった黒紫色の瘴気が消えている。
前回と違い、今は夕方だというのも関係しているのかもしれない。
ティックやペンシルゴンから聞いてはいたが、アンデッドは日光に弱い。
それは、日中は基本的に全力を発揮できない手合いが多いということを意味する。
……本来なら、昼間にやっておくべきだったんだろうけどな。
この夕方っていうのには、何か意味があったんだろうか。
「あれが<UBM>?」
「で、でけえ……」
「モンスターってあんなでかいのか……」
大半の連中は、初めて「ロウファン」を見たらしく、かなり驚いている。
というか気圧されている。
とりあえず、現状を確認しとくか。
俺の装備は、まず自分の<エンブリオ>、【機動戦支 ケツァルコアトル】。
俺の不審者ファッションの元凶なんだが、まあこの際、それはいい。
今の俺にとっては、ある意味メインウェポンだからな。
続いて、ティックからの頂き物。
【救命のブローチ】をはじめとするアクセサリー……これさ、多分終盤で手にはいる装備だよね。
そして、俺のために作ってくれた、聖属性が付与された剣。
今はまだ、アイテムボックスにしまわれている。
ここで出すと、万が一が怖いからな。
セキュリティも含めて、いろいろな意味で
パーティーメンバーのバフスキルで、強化されているが、相手が相手なので誤差でしかない。
俺以外は、あのアクセサリーでさらに強化されてるんだろうが……。
やっぱりおかしい……何で、あいつらはつけてないんだ?
「MU、頼むよ」
「ええ、わかったわ。
ん?
解除?どういう意味だ?
直後、【ロウファン】に向けられたものではない、悲鳴が巻き起こった。
え?ちょっと何?
見れば、俺ではない、アクセサリーやマントをつけている連中が、悲鳴を上げている。
魔法職や支援職など、動けずにうずくまっている。
とっさに《看破》して気づいた。
彼らのステータスが、上がるどころか、下がっていることに。
特にHPなど、回復どころか今も継続して減少している。
「計画通りだね」
いや、ただ一人。
赤と黒の腕輪をつけたキングだけは、特に異常がないようだった。
ステータスダウンも、継続HP減少もない。
『お前、何をした?』
「うん?付けてないやつもいたのか」
なるほど。
大体は察した。
俺が感じていたいくつかの疑問、それがすべてつながった。
『利用した、いや、嵌めたわけか』
「うん、そうだよ。MUの『パーティーメンバーへのデバフを一時的に逆転させる代わりに、解除すると、デバフの効果が強まる』という<エンブリオ>のスキルと、呪具作成に特化したシンカーの<エンブリオ>のコンボだよ」
「ちなみに、呪具の効果は、ステータスダウンと、パーティーメンバーからのHP吸収だよ」
一切悪びれずに教えてくれるキングと、同じく罪悪感など感じず、淡々と説明するシンカー。
そういえば、デンドロってPKへのペナルティはないんだったか。
だが、PKしてどうする?
エンドコンテンツかつ、ユニーク要素でもある<UBM>を放置して、それでもPKなんてことをやる理由ってのは、何だ?
「ああ、ちなみにいうと、これもすべて<UBM>を倒すためなんだよ」
『なに?』
「みんなから吸収したHPは、全部この腕輪ーー呪具の本体に貯まる。それを、僕の<エンブリオ>イブニングデモンでMPに変換するのさ」
ちょうどその時、周りにいる、呪具付きプレイヤーたちが、光の塵になった。
確か、ステラが前に言ってたな。
魔法系のスキルは、魔力を上乗せすることで、出力を上げることが可能だと。
「さて、頃合いか。目標は動いてないし、最高だね。ああ、サンラク君、かな?君はもう帰っていいよ。邪魔するなら殺すけど、四対一で勝てると思うほど、バカじゃないだろ?」
正直、人数差があろうが、肉体系のステがゴミな奴が四人いたところで、普通に勝てるとは思うが、まだ、俺は動かない。
こいつらにPKされることを恐れたから、ではもちろんない。
俺が、妙な違和感を感じていたからだ。
【ロウファン】は、このゲームのエンドコンテンツといってもいい存在だ。
なのにあまりにも、とんとん拍子に行き過ぎている。
それに何より、攻撃されるというのに、焦りもない。
単にアンデッド化して知性がなくなったから?本当に?
むしろ、俺への態度といい、こいつらはーー
□アムニール南部・某狩場
「キング、さっさとやれよ!」
「わかっているさ。《夫は妻をいたわりつつ》」
莫大なHPを、キングの<エンブリオ>の力で、すべてMPに変換する。
ふつう本来透明なはずの魔力だったが、イブニングデモンという<エンブリオ>で生み出されたそれは、まるで夕焼けのような、赤色の魔力だった。
種子島の民話をモチーフとするこの<エンブリオ>は、夕方になると、その出力を増大させる。
もちろん、それだけでは終わらない。
「《シルバー・ショット》」
イブニングデモンによって生み出された魔力、六桁にもなる、超級職相当のそれが、ただ一つ、下級の聖属性攻撃魔法に上乗せされる。
銀色の弾丸を生み出す魔法であるはずだが、もはや込められた魔力の大きさのあまり砲弾、あるいはミサイルのようである。
その威力は、限りなく超級職の奥義に限りなく近いものだ。
まして、聖属性魔法は、アンデッドである【ロウファン】にとって、致命的な弱点である。
与ダメージのみに言及するならば、超級職の奥義さえも、上回る。
「くらえ!」
そうして、迫りくる、キングの銀色の攻撃を。
【ロウファン】は、よけなかった。
避けられなかったのか、あるいは避ける気がなかったのか。
いずれにしても、銀の弾丸、否、ミサイルは見事【ロウファン】に命中した。
「WOOOOOOOOOOOON!」
【ロウファン】は、苦痛を感じているのか、叫び声をあげ、焼き尽くされた。
キングが攻撃した、アンデッドは、確かに骨のかけらも残さず、そのHPを全損したのである。
キングは確信した。
これで勝ちだと。
だから、気づけなかった。
「……え?」
「WOOOON」
目の前にいる、無傷の骸骨狼ーー【ロウファン】が、いつの間に再生したのか、気づけなかった。
「バ、バカな、なんで死んでいない!」
キングは戦慄する。
確かに消し飛ばしたはずなのに、と。
そうやって動揺していたから、気づけなかった。
「キ、キング、後ろ!」
「え?」
仲間、本当の意味での仲間であるMUの呼びかけで、振り向いて、ようやく気付いた。
「は?」
そして、ソレに気づいた時、本当に混乱した。
本当に、理解不能に陥った。
目の前にいたのは、黒紫色の瘴気だった。
その瘴気は人の形をしていながら、頭部だけが狼のそれだった。
それだけならば、まだ驚いただけで済んだだろう。
王国ほどでないが、霊体型のアンデッドはレジェンダリアにも一定数いるからだ。
彼が理解できなかったのは、突然現れたことでも、そのモンスターの存在でもなく、ソレの名前。
ソレは、【スピリット】などという名前ではなかった。
ソレは、【
「え、いやいやなんで?」
「WOO」
あまりの衝撃に忘我したキングを。
その【ロウファン】は、腕を伸ばし、キングを突き刺した。
「……あ?」
直後、キングは【呪縛】にかかったことにより、その場から一歩も動けなくなる。
加えて、継続HP減少の効果を持つ呪怨系状態異常、【吸命】によって彼の少ないHPがどんどん削れていく。
「な、なんで、こんな」
キングは、動けない体で喚く。
こんなことは、理不尽だと、叫ぼうとして。
--黒紫色の亡霊と、目が合った。
厳密には、赤い色の輝きでしかない。
だが、キングは確かにそこに見たのだ。
あくまで、AIに過ぎないモンスターのはずなのに、リアルで見たどんな悪感情より強う感情を見た。
--彼らを突き動かす、強い怨念が見えてしまった。
「--ひぃっ、た、助けてくれえ!」
恐怖で悲鳴を上げながら、光の塵に変わるキングの姿は、彼が先ほど生み出した大量の被害者と、まったく同じものだった。
◇
『マジでやばい……』
光の塵になっていくキングたちを見ながら、サンラクはつぶやく。
サンラクは、ようやく理解できた。
理解できてしまった。
あれは、断じて狼の骨と霊なんじゃない。
狼の骨
「「WOOOOOOOOOOOOOOOOON!」」
絶望をもたらす怨霊が、その隠された牙をむいた。
To be continued
次回も、多分明日更新します。