<Infinite Dendrogram>~クソゲーハンター、クソゲーに挑まんとす~   作:折本装置

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祝!
七夕&レイ・スターリング誕生日&……
「シャングリラ・フロンティア」週刊少年マガジンにて、コミカライズ決定!
本当におめでとうございます!

記念して早めの更新です!


お前、マジでそういうとこやぞ

□【猛牛闘士】サンラク

 

 

「では、改めて自己紹介しようか」

 

 

 先ほどまでシュウやフィガロと談笑していたカフェで、俺達とペンシルゴンは相対していた。

 ペンシルゴンは仮面は外さないままでニコニコしている。

 傍から見れば様になってるんだろうが、俺からすると普通に気持ち悪い。

 それは他の二人も同様であるらしく、雰囲気は先ほどの面影もなくギスギスしている。

 特に、キヨヒメは親の仇を見るような目で鉛筆をにらんでいる。

 実際生みの親(レイ)爆殺(キル)されるところだったので、さほど間違ってはいないだろうが。

 

 

「私はアーサー・ペンシルゴン。今は【死霊騎士】っていうジョブに就いてるよ」

『いや改まられると気持ち悪いんだが』

「覆面半裸に言ったんじゃないし、言われたかないよ、この変態闘牛士」

『よっしゃわかった、三日後またよろしくな』

 

 

 PKへのペナルティの無い状況を踏まえ、いかに効率よくこいつをキルしてやろうかというチャートを組む。

 そうだな、お互いにペナルティがない以上、泥試合は避けられない。

 こいつのリスポンのタイミングを公式SNSを見ながら特定し、リスキルを延々と続けるしか……。

 あ、その前に配下っぽいアンデッドを全部潰さないと……。

 まず骨の入ってるアイテムボックスをぶっ壊して、それからキルする流れだな。

 

 

「停止。父上、いったん落ち着いて」

「あ、キヨヒメ。大丈夫ですよ……多分」

「そうだよ、キヨヒメちゃん、だっけ?いつもこんな感じだから」

「確認。常に憎しみをぶつけ合う仲?」

「そういうのではないかなー」

 

 

 ハハハハハ、憎みあってるわけじゃないよ。

 ただ、息を吸うように煽りあって、反射的に拳が出るだけだよ。

 

 

『それはともかく、意外だったな』

「何が?」

『王都じゃなくて、ギデオンでお前らが活動してるところが、だよ。国家転覆でも企みそうなのに』

 

 

 てっきりまたユナイトラウンズするために準備してるのかと思ったんだが。

 外堀埋めていく感じか?

 今回の件はその下準備を手伝わされるパターン?

 直接手を下さない下準備だけならレイもそこまで罪悪感を感じずに済むだろうから、組み込みやすいし。

 が、ペンシルゴンは、「不正解」とでも言いたげに深いため息を吐いた。

 え、なんで?

 

 

「王都は無理だよ……」

「そうなんですか?」

 

 

 嘘だろ……。

 ペンシルゴンでも無理、となるとこいつ以上のフィクサーがいるのか、あるいは幕末みたいに修羅してるのか。

 いずれにしてもエグイな。

 こいつが諦めてノータッチ決め込むっていったい何が。

 

 

「あそこ、<月世の会>がいるから」

「……なるほど」

『普段自爆がどうのとか言ってるくせにビビってるの笑うわ』

「リアルの残機は一つしかないんですう!」

 

 

 しかし<月世の会>ね。

 存在自体は前々から聞いて、知っていた。

 VR業界に出資しまくってる上に、ギャラトラの廃人共に、お世話になってる方がいたからなあ。

 VRシステムと生命維持装置つけたまま延々とベッドの上っていう、俺からしてもドン引き案件なご老体の方が結構いらっしゃるんですなあのゲーム。

 まあそれはともかくとして、正直リアルバレしなければ無敵なペンシルゴンに対して、リアルの宗教団体は天敵だ。

 VRゲームを真なる魂の世界、と捉えるという意味不明すぎる宗教となるとなおさら性質(たち)が悪い。

 実際、デンドロで敵対した連中をリアルでどうにかしてるっていううわさもあるらしいし、鉛筆は本当に関わりたくないんだろう。

 最悪出資してきたVR会社経由で履歴読み取られて公表、社会的死、というコースまであり得る。

 なるほどこいつが王都をあきらめたのは理解したし、納得もした。

 しかしまあ、それはそれとして。

 

 

『チキン魔王(笑)が』

「顔面バードの面白変質者に言われたくあーりーまーせーんー!」

 

 

 結局レイとキヨヒメに止められてしまい、その場では決着はつかなかった。

 命拾いしたなあ!

  

 

 ◇

 

 

「質問。結局何の要件だったの?」

「おっとすまないねキヨヒメちゃん。そこの半裸に遮られたせいで言えてなかったから、今から説明するよ」

『悪いなキヨヒメ、こいつのお家芸は自爆と自滅でな。しかもそれを人のせいにする汚い奴なんだ、許してやってくれ』

『「…………」』

「あの、二人とも、落ち着いてください、ね?」

 

 

 まあ、そんなこんなで鉛筆から事情を聴いてみると。

 曰く、ギデオン周辺にとある野盗クランがある。

 そいつらは、隊商を襲って積み荷をアイテムボックスごと奪ったりするのが常套手段だった。

 <マスター>の増加後、つまりはデンドロのサービス開始後もそれは変わらなかった。

 賞金目当てか彼らを狙う<マスター>もいたが、すべて討たれた。

 しかし鉛筆たちはそれを討とうとしている。

 まあ要するに。

 

 

「野盗クランへのカチコミかあ」

「嫌なら不参加でも構わないよ?」

『は?』

 

 

 はいちょっとタンマ。

 緊急会議スタート。

 俺とレイは顔を近づけて、

 

 

『レイ、アレは本当にペンシルゴンなのか?偽物な気がしてきた』

「確かに、姉さんから聞いた話やシャンフロでの振る舞いとは全く違いますね。罠でしょうか?」

「はーい、そこのバカップル、いい加減にしてよね。お姉さん怒っちゃうぞ?」

「ばっ!」

 

 

 レイがマグロの赤身みたいな顔色になっているんだが、大丈夫か?

 あ、キヨヒメがなだめてるから大丈夫そうだな。

 本当に親子感あるなあ。

 どっちがどっちかまでは言わんけど。

 さすがにちょっと怒られそうだし。

 

 

「一応言っとくけど、本当に今回は無理やり参加させる気はないよ。サンラク君も、カッツォ君も、レイちゃんたちも無理やり参加させようとは思ってない」

『脅迫まがいのことやって呼び出しといて、か?』

「拒否権は与えてあげてもいいけど、何も言わずに逃げる権利は与えられないんだよねえ」

『この期に及んでなお、上から目線なのが腹立つんだよなあ』

 

 

 それなりに長い付き合いになるはずだが、こいつの意図がさっぱりわからない。

 こういう時は脅迫であれ報酬であれ、俺たちを確実に参加させるための手段をとってきていた。

 では、今回は俺たちの協力はいらない?

 いや違うな。それなら俺たちを呼び出す理由がない。俺たちをギデオンに集めることそのものが目的?

 あー、ダメだ全然こいつの考えがわからん。

 わからないが、こいつが本当に俺たちを無理やり参加させる気がないことだけはわかった。

 まあ、どのみち。

 

 

『俺は参加するぞ』

「いいの?」

『別に参加しない理由もないだろ』

 

 

 何を遠慮しているのか知らんが、折角ここまで来たんだ。

 やってやろうじゃないの。

 それにこいつのことだ。

 俺が参加しなかったら後々ねちねち煽ってくるだろうしなあ。

 カッツォも、俺が参加しないって言ったら間違いなく煽るためだけに参加してくる。俺には分かる。俺は詳しいんだ。

 外道の考えることは、まるでさも自分のことのように読み取れる。

 いやあ、外道に巻き込まれる純朴な一般人ってのはいつも苦労するなあ!

 

 

「私も、サンラク君についていきます」

「追加。私も、父上と母上についていきます」

 

 

 レイ達も参加するつもりらしい。

 正直心強い。

 ただ、ペンシルゴンはどうにもまだ躊躇うようなそぶりを見せている。

 まるで何かに迷っているかのような。

 

 

「サンラク君」

『うん?』

「サンラク君はさ、ティアンを……」

『ティアン?ああNPCのことか』

 

 

 俺がそう言うと、ペンシルゴンは目を見開いて、じっとこちらを見つめてきた。

 仮面をしているから完全に表情を読むことはできないが、それでも何となく驚き、同時に納得しているのはわかった。

 なぜなのかは、わからないが。

 

 

「いや、何でもないよ。気にしないで……君はそういう奴だもんね」

『……そういういい方されるとかえって気になるんだが』

「そういう状況に追い込んどいて、あえて言わないっていうのも面白いよね」

『お、やるか?』

 

 

 マジで野盗クランよりこいつをキルしたほうがいい気がしてきた。

 正義は我にあると思うんですよ。いやほんとに。

 

 

 ◇

 

 

「まあ、ざっとこの程度かな」

『「「…………」」』

 

 

 俺達は、鉛筆から渡された野盗クランの情報を読み込んでいた。

 結論から言うわ。

 引いた。

 いやマジでどんだけ調べてんだよって話。

 

 

「称賛。良くこれだけの情報を集められたなんて」

「うーん、ま、情報源がいるからね?」

『情報源?』

「まあ、その野盗の中にちょっとネ、いるのがわかっているというか」

『何が?』

「……愚弟」

 

 

 え。

 

 

『おま、まさか、その野盗クランを潰そうとしている理由って』

「ソンナコト、ナイヨ?」

 

 

 いや、うーん。

 ……お前、マジでそういうとこやぞ。

 リアルの関係性をゲームに持ち込む邪悪を見ながら、俺はそんなことを思った。

 やっぱり参加するのやめようかな?さすがに弟君が気の毒だし。

 

 

 To be continued




Q魔王なにしたの?

A実家に帰る→弟を話術で転がして暗証番号を聞き出す→弟の携帯端末を見て情報を探る(そういうとこやぞ)

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