<Infinite Dendrogram>~クソゲーハンター、クソゲーに挑まんとす~   作:折本装置

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遅れて申し訳ありません。
これからも頑張ります。


竜と鳥、砂の海で漂う 其の六

 □■【偽竜王 ドラグライ】について

 

 

 思えば、彼の生はわからないことだらけだった。

 どうして、父と母は種族が違うのか。

 どうして、父と母は死ななくてはならなかったのか。

 どうして、地竜と怪鳥は争わなくてはならないのか。

 どうして、自分達の近くの人間の村まで襲われなければならなかったのか。

 どうして、あの時、自分はあの子を助けようとしたのか。

 どうして今、自分の命を見限ってでも、あの子を守ろうとしているのか。

 まるでわからない。

 わからないことだらけだ。

 無理もない。

 彼は、子供の竜が■■■■■で無理やりに成長した<UBM>。

 本来ならば、まだ親からも離れ切っていない小竜である。

 肉体的にはともかく、精神的にはまだまだ未熟である。

 そんな彼でも、明確にわかっていることが二つある。

 一つは、守るべきもの。

 なんとしてでも、理由はわからないけれども、シオンを守らなくてはならない。

 守りたい。

 死んでほしくない、幸せになって欲しい。

 そして、もう一つは。

 ーー彼は、もうすぐ死ぬであろう、ということだ。

 

 

『これは、どうにもならないな……』

 

 

 自分に攻撃の矛先を向けてくる数多の<マスター>を見ながら、【ドラグライ】は諦観とともにそうつぶやく。

 冷静さを失っていないのは、そもそもこの状況が彼にとって想定内だった(・・・・・・)から。

 街中で、モンスターが暴走(・・・・・・・・)すれば人間たちが防衛のために対処しに来るのは当然のこと。

 【ドラグライ】には、街を破壊したり人を襲ったりするつもりは全くないが、それを言ったところで信じてもらえるとは思えない。

 というか、言う余裕すらない。

 今この瞬間にも、彼のHPは減少を続けている。

 

 

 

「おらあっ」

『っ!』

 

 

 

 一人の<マスター>が、大鎌の<エンブリオ>を振るって突撃してくる。

 【ドラグライ】は《竜王気》を纏った拳でその<マスター>を迎え撃ち、うち砕いてその<マスター>をデスペナルティにする。

 直後、防御スキル無視を特性とする鎌と打ち合ったことで彼の右手の骨が砕ける。

 既に左手も別の<マスター>の攻撃で使えなくなっている。

 

 運の悪いことに、今<闘争都市>デリラでは、トーナメントに参加するための上級<マスター>が多数滞在しており、質の高い戦士が大勢いた。

 むしろ、よく持っている方だ。

 【ドラグライ】にとっては想定外だったが、これについては当然である。

 【ドラグライ】は、<UBM>である彼は、殺すことによる利益が発生すること、人に殺されれば特典武具になり果てることを知らない。

 だから、特典武具を得られるMVPを狙って<マスター(・・・・)同士での潰し合い(・・・・・・・・)が起きている理由が理解できない。

 足を引っ張りあっていることは理解できても、そうなる理由までは理解しきれない。

 潰し合わずとも、連携がまともに取れないから一対一を何度も繰り返すことになってしまっており、数的有利をほとんど生かせていない。

 そもそも、街に損害を与えている鯨と海竜を放置して【ドラグライ】に攻撃しているような連中が、自分のこと以外を考えられるはずがない。

 それゆえに未だ【ドラグライ】は生き残っていた。

 だが、それでもHPは残り一割程度しかなく、MP、SPも似たようなもの。

 《竜王気》と《幻鳥生成》を何度も使っていればそうなるのも当然。

 だから、こうして瀕死まで追い込まれている現在も、そう遠くないうちに来るであろう自身の死も、彼自身の立場と行動がもたらした必然であり、当然の結果だった。

 だが、これでいい。

 もとより、自分が死ぬのは全く怖くない。覚悟はとうに決まっている。

 

 

(もう大分、距離は離した。シオンたちは安全だ)

 

 

 目的である、シオンを逃がすことには成功している。

 あの場であえて倒さず逃がし、《幻鳥生成》で【潜回竜】を追い立てたのは、確実にシオンを安全圏まで逃がすためだ。

 サイガ‐0とかいう<マスター>がどの程度信用できるかはわからないが、少なくとも自分達をケインから逃がそうとしてくれた以上、彼女にシオンが害されることはないだろうと判断した。

 彼は、自分の死を恐れていなかった。

 それが犠牲になることで、得られる結果と、そして償い(・・)ができることに安堵していた。

 

 

 

「ーーグライさん!」

 

 

 だから、その時になって初めて恐怖を感じた。

 その声を聞いた時、冷や汗が伝うのがわかった。

 その声は、自分にとって最も馴染みのある人間の声。

 しかして、今一番聞きたくない声だった。

 ティアンの乱入で、周囲からの攻撃が止む。

 万が一にも当たれば〈監獄〉行きだからだ。

 だが、そんなことは彼にとって吉報になり得ない。

 夢幻ではなく、今一番、危険地帯(ここ)にいてほしくない者が、ここにいることの証明になってしまったから。

 

 

『……シオン?どうして!』

 

 

 それは、一番起こって欲しくない状況だった。

 どうやってここに来たのか。

 レイたちは一体何をしているのか。

 自分を使ってモンスターとシオンの距離を離したはずだが、シオンがここにきてしまえば完全に無意味。

 一体なんのためにここに来たのか、【ドラグライ】にはわからなかった。

 

 

「グライさん、一緒に逃げましょう!」

「それは、できない」

 

 

 彼女の願いを叶えるのは、無理だ。

 どうしようもない。

 人は彼をターゲットとして見定めた。

 だから、彼は〈マスター〉たちから逃げられない。

 彼らは指名手配を恐れてシオンには何もしないだろう。

 だが、大火力の攻撃に巻き込まれる可能性はある。

 何より、彼の心が認めていない。

 

 

『俺は偽竜王ーードラゴンだ』

 

 

 それは単なる種族の説明ではない。

 二人にしかわからない事象の確認だ。

 

 

『俺の同族たちの争いに巻き込まれて、お前の村は滅ぼされた』

「…………」

『そして、争いの発端は、俺のーー地竜と怪鳥のハーフの存在だ』

 

 

 【竜王】は、種族の王である。

 しかし【ドラグライ】については例外だ。

 なぜなら、彼に同族はいない。

 そもそも 存在がタブーかつ特殊な存在。

 まして、家族も全滅している。

 同族も、家族もいない、ただ独り立つ偽りの王。

 

 だから、彼は偽竜王なのだ。

 偽りの、竜の王だと、世界に認定された。

 

 

『俺のせいでお前らの家族は死んだ。だから、俺にはお前を守る責任があるし、ここで死ぬ責任がある」

「違います!」

 

 

 シオンは、否定する。

 彼の責任を、覚悟を否定する。

 

 

「一人は、いやなんです!もう、一人になりたくないんです!」

『…………』

「だから、私と一緒に生きてください!」

 

 ただ、己の願いのために。

 

「いなく、ならないで」

 

 

 その声は、小さくて、か細くて。

 炎の音にさえぎられて、消えてしまいそうだった。

 それでも、どうしようもなくその言葉は、心に残った。

 

 

『シオン……』

 

 

 ああ、そうだったと、【ドラグライ】は気づく。

 あの時、どうして彼女を助けたのか。

 一人は、いやだったから。

 家族を殺され、いつの間にか同族のいない化け物になって。

 もう、一人は嫌だったから。

 一人になるのも、一人にしてしまうのも、いやだから。

 

 

『わかった』

 

 

 では、この状況をどう切り抜けるのかが問題となってくる。

 問題となるのは、モンスターと<マスター>の攻撃だが。

 

 

『あれは……』

「グライさん?」

 

 

 空にいるのは、鯨。

 そして、最近知り合った一羽の怪鳥。

 

 

『モンスターは、あいつらに託すか……』

 

 

 【偽竜王】は人間からの逃走に専念することに決めた。

 

 

 To be continued

 

 

 

 

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