<Infinite Dendrogram>~クソゲーハンター、クソゲーに挑まんとす~   作:折本装置

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竜と鳥、砂の海で漂う 其の七

 □■<闘争都市>デリラ

 

 

 【ドラグライ】を狙う<マスター>たちは、止めた攻撃の手を再開していなかった。

 止めたのは、シオンに当たる可能性を考慮したから。

 火力の高い攻撃では、弱く脆い子供である彼女を巻き込みかねなかった。

 しかし、近接攻撃ならば可能だ。

 まさか、剣で切り付けるときに間違えて隣の生き物にあてたりはしまい。

 では、攻撃を再開しない理由は何か。

 それは、別の要因(・・・・)が立ちはだかったからだ。 

 

 

『すいません、よろしくお願いします……』

「いいってことよー」

『どうせ俺達じゃ、上の鯨や地下の海竜には手が出ないし』

「いや、私はできることあるよ?一緒にしないでほしいなあ」

『は、やるか?』

 

 

 百を超える<マスター>の前に立ちはだかるのは、三人の人物。

 一人は、四本の足を生やした機械甲冑(パワードスーツ)に覆われた一人の女性。

 長大な、蛇柄模様の狙撃銃を手に持っている。

 パワードスーツが巨大であることも相まって、恐ろしい風格が漂っている。

 

 

 二人目は、槍を構えた一人の女性。

 黒紫色のオーラを体から噴出し、オーラからは黒紫色のアンデッドが噴出している。

 また、自身を【スケルトン】などで囲っている。

 

 

 

 三人目は……体高五メテルほどの機械巨人。

 黄色い体色の機体に、なぜか四つの目がある奇妙な特殊装備品(<エンブリオ>)

 中にいる人物の声は、スピーカー越しだったせいか些かくぐもっている。

 

 

 

 彼らは、目的も意思もばらばらの三人。

 自分にとって誰より大切な、恋人の願いを叶えたいもの。

 スキルのコストを集めることと、街中での破壊を楽しむもの。

 純粋に対多数における対人戦をしたいだけのもの。

 

 

 それでも、彼等のやることは同じ。

 

 

『すいませんが、グライさんたちには手出しはさせません』

「ここを通りたくば、私を倒していけ、ってね?」

『それ死亡フラグだよペンシルゴン……』

「悪役の私達には似合いでしょ」

『悪役なの?』

「一応、運営的には<UBM>は倒すべきボスモンスターだからね。それを助けるってことは悪役なんじゃない?」

 

 

 

 飄々とした二人と、かしこまった一人に対して、邪魔をされた、数多の<マスター>が殺到する。

 彼らは一人一人が、純竜クラスと同等以上の力を持った存在。それが百人。

 そんな数と暴力に対して、彼ら三人は。

 

 

「《自爆兵(スーサイド・コープス)ーー飛行兵》」

『《トリガー(・・・・)ハッピー(・・・・)》、《ストーム・ドライブ》、《プロテクト・ドライブ》』

『キヨヒメ、《煉獄降下》、《燻る情火(ディレイ・ボム)》』

 

 

 ペンシルゴンが、【ディストピア】によって生み出された蝙蝠の翼の生えた自爆モンスターを展開して。

 ソウダカッツォが、彼の<エンブリオ(・・・・・)によって獲得したスキル(・・・・・・・・・・・)を起動して。

 レイもまた、キヨヒメのスキルによって作られた魔法弾丸をまき散らす。

 

 

「ぎゃああああああ!」

「なんだこれ、炎熱への耐性が……なんで防げないんだ?」

『あれ、こいつらもしかして”嬲り殺し”と”嵌め殺し”……』

「クッソなんでだよ、たった三人しかいないのに!」

 

 

 

 彼らは、この<闘争都市>デリラに各国から集まった熟練の<マスター>である。

 ジョブレベルはカンストなど当たり前。

 〈エンブリオ〉は個人差もあるが、大半が第六形態に至り、必殺スキルも習得している。

 装備品は特典武具や生産系超級職の作品などといった類のものを除けば最高級のオーダメイドやカスタム品。

 本戦に出場できなかった者が大半とはいえ、一人一人が純竜クラスかそれ以上の強さを持っている。

 さらに、一人一人が予測不能な固有スキルを持っている。

 いくら彼らの連携が不完全といっても、それだけなら三人は数で潰されていただろう。

 そうならないのは、ひとえに三人が優れているからだ。

 

 

 ◇

 

 

 サイガー0、彼女のメインジョブは【狙撃魔手】、魔力式銃器による狙撃に特化したジョブである。

 ステータス上昇はMPとDEXに偏っており、〈エンブリオ〉のステータス補正も似たようなもの。

 典型的な後衛であり、AGIをはじめとした肉体ステータスは低い。

 サブに置いたジョブも概ねそんな感じであり、彼女の素のAGIは100程度しかない。

 

 

 しかし、彼女は超音速で駆けている。

 それは今、この瞬間だけではない。

 <闘争都市>デリラにおけるトーナメント、予選、本戦問わず全試合。

 デリラに向かうまでの道中。

 そして、レジェンダリアでサンラク達と過ごしている間。

 ずっと、彼女は超音速の領域に身を置いていた。

 それは、ジョブや特典武具によるものではない。

 彼女の<エンブリオ>ーーキヨヒメによるものだ。

 それこそは、キヨヒメが第五形態になった時に獲得したスキル、

 キヨヒメ第一のスキルである《追い焦がれる想い(フレア・ストーカー)》から発展したスキルであり、「《追い焦がれる想い》の対象になった生物のAGIをレイ自身に足しこむ」というもの。

 そして、《追い焦がれる想い》の対象は基本的にサンラクである。

 つまるところ、レジェンダリアにいる数多のマスター、その中でもトップクラスの速度を持ったサンラクのAGIをコピーできるということ。

 今は対象をサンラクからとある生物に移してはいるが、それでもそのターゲットが超音速で動けるゆえに、超音速機動を継続している。

 

 

 

「まとめて吹き飛べええ!」

 

 

 範囲攻撃を得意とする〈マスター〉が、〈エンブリオ〉による広域爆撃を見舞う。

 速度に特化していても躱しきれないほどの範囲攻撃であり、レイの耐久力では耐えきれないはずだったが。

 

 

「バカな、なんで無傷アグハア!」

 

 

 しかして、レイにはほとんどダメージが徹らない。

 無傷のまま魔法の弾丸を放ち、<マスター>を撃ち殺す。

 無傷なのは、彼女の纏う鎧である【エンネア・タンク】によるもの。

 ルナティックが設計した彼女のAGIに対応して動く四本のサブアームに加えて、【擬混沌神 エンネア】の固有スキルを受け継いだ耐性スキルがある。

 そうでなくても伝説級特典武具と同等以上の防御力がある。

 特化上級職と同等以上の防御力と速度を両立できている。

 範囲に特化した攻撃では彼女を貫けず、かといって威力に秀でた攻撃は彼女に回避される。

 加えて、<エンブリオ>によって遠距離攻撃も可能にし、火力がある。

 さらに、《恋獄降火》によって相手の耐性も無視できる。

 "災害火力"サイガー0と、レジェンダリアで呼ばれる所以である。

 

 

「ああああ!俺の足が!」

「くそっ、こんなところになんで地雷が……」

「おいいいいいいいい!なんで自爆してるんだ!」

「ウッソだろおおおお!なんでHPがこんな削れて」

 

 

 そこは、地獄だった。

 地雷に気づかず、足元を掬われた〈マスター〉がいた。

 ムカデ型の工作兵に寄生されて、仲間ごと爆破された〈マスター〉がいた。

 《恋獄降火》で耐性を消去され、爆炎の余熱で溶けるものがいた。

 

 

 それはまさに、ディストピアと呼ぶにふさわしい光景だった。

 

 

「ふんふんふーん、結構怨念集まってるねえ。これなら収支はプラスになりそう」

 

 

 この惨劇を鼻歌交じりに起こしているのは、【死霊騎士】アーサー・ペンシルゴン。

自らの<エンブリオ>である【怨霊支配 ディストピア】によって作り出した自爆特攻アンデッドモンスターたちを用いて、大混乱を起こしている。

 

 

 だが、それだけであったならば。

 彼らの強さの理由が本当にそれだけであったならば、この結果はなかった。

 相手の<マスター>たちにも、予想をたやすく超える理不尽な<エンブリオ>由来の固有スキルがある以上、対処しきれないことがある。

 特に、ペンシルゴンの方は想定外のアドリブに弱い。

 “嬲り殺し”などと王国で呼ばれ、有名PKとしておそれられるペンシルゴンだったが、彼女単体で言えば、<Infinite Dendrogram>においてはPKには向いていないとさえいえるかもしれない。(彼女自身にとっては、負けることさえも予想の範疇なのでそういう意味では向いているといえるが)

 サイガ‐0にしても、純粋に強すぎる存在ゆえに、特殊性に特化した不意打ちが刺さるのである。

 だから、この二人ではすべての<マスター>を完封できない、どこかの誰かに崩されかねない。

 

 

『……順調だね、二人とも』

 

 

 だから、この状況を支えているのは、もう一人。

 

 

『さーて、ここらで僕の本気を見てもらおうかな』

 

 

 砂の海、数多の<マスター>を前にして。

 機械巨神に乗ったプロゲーマーが、不敵に笑う。

  

 

 To be continued

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