笑わない彼にもどうか幸運を。 スマイルプリキュア!   作:新生ブラックジョン

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pixivでも投稿しています。別作品と同時進行的に致します。


1 ハッピーマイウェイ

新学期を晴れて迎えた学生達は恐らく期待に胸一杯膨らませて登校する者も居ただろう。今までの付き合いをそのままに、クラス替えを経て新たな仲間に巡り合うなんて事もあるんだろう。その日、周りよりやや遅れて今年初めての登校だった。空は何処までも青く澄みきっていて春先の陽気も手伝ってか目蓋が重い。今朝、家を出る直前にチラリと見たニュース番組の占いコーナーをふと思い浮かべる。―――素敵な出会いの予感!そんなあなたのラッキーカラーはピンク!・・・自分の星座は割りとランキングの上位にあり、担当するアナウンサーは確かそんな事を言っていた。皮肉だ、実にそう思う。ピンクなんて自分の趣味じゃないし“素敵な出会い”なんてそもそも望んじゃいない。学校までの道程ってのは気が重い。そう言えば、このままのペースで歩いていくと確実に遅刻すると思われる。ま、それでも一向に構わないのだけれど。

 

 

「ハップップー!」

 

 

角を曲がって大通りに出たところでそんな声が聞こえてきた。道端に1人座り込んでる誰かは制服姿で辺りをキョロキョロと見回している。取り敢えずスルーしとくに限るだろうと見なかった事にして足早に進む。ところが―――

「うわぁ!ゴメンなさい!」

「っと!」

立ち上がって歩き出した彼女は盛大に俺の背中へと衝突してきた。転ぶ程でも無かったので気にせず又歩き始めると、その女の子は心配そうにわざわざ丁寧に謝ってくる。

「・・・別に、平気」

「ホントに?良かったぁ」

これ又心底安心した様な表情して大袈裟なものである。

「早く行けば」

「え」

「遅刻するよ」

携帯を取り出してディスプレイに表示される時間を見る限り、走りでもしないと間に合いそうにない。急いでる様なので一応教えると彼女は弾かれた様に走り出す。が、そのままさっさと行くかと思ったら唐突に立ち止まって振り向く。足踏みしながらこちらをジッと見詰めてくる。

「あのぅ、急がないの?」

「・・・疲れるし」

何かと思えばこちらを心配していると言わん秤にそう声を掛けてきた。どうでもいい。だから何だって言うのか、別に死ぬ訳じゃない。けれど彼女は急いでいた割には中々行こうとしない。

「何か」

「うん、やっぱり急いだ方が・・・」

「はいはい、解ったよ」

イヤに絡んでくる。仕方ないので急ぐフリくらいはしておこうと小走りをして見せる。そうして、彼女の方も納得してくれたのか漸く前を向いてあっという間に追い抜いていってくれた。やがて目的地だった七色ヶ丘中学校の校舎を前に、より一層憂鬱な気分に浸りながらそこに足を踏み入れた。チャイムが鳴り出してどうにか教室に辿り着き、席に座ると間も無くして担任が姿を現した。挨拶や出席確認が何時も通り済んで、後はこのまま澱みなく授業が始まると思われた。しかし佐々木先生はそこである事を告げる。

「―――それでは、転校生を紹介します」

何気に黒板の方へ顔を向けたところ驚かされた。と言っても、別にこの二年二組に転校生がやって来たからとかそう言うんではない。自己紹介を促された“彼女”ってのが、ついさっきここまで来る道すがら出会ったあの女の子だったのだ。いや、間違いない。自分の席は廊下側の一番後ろ、端っこで教壇から遠いけれど。会った秤でしかも、あの特徴的なヘアースタイルといい見間違うなんて事ない。・・・マゼンダ色をしていて、チョココロネみたいなツインテールの髪型。制服からしてこの学校の生徒とは思ったけど。まさか転校生とは。ま、至って興味も何もないんだが。

「・・・自己紹介して下さい」

「っあ、ハイ!」

先生に促されてその場に硬直している。余程緊張しているんだろう、中々名前すら言い出しそうにない。一応、黒板には“星空みゆき”とあるからそれを見れば問題ないだろうが。

 

「まだぁ?」

 

その時、痺れを切らしたある生徒が堪らず声を掛けた。

「へ?」

「じこしょーかーい!」

「はっハイ!えぇーっと、星空みゆきですっ。あの、ワタシッ・・・―――ととっ兎に角、宜しくお願いします!!」

「・・へ?それで終わり?アカン、オチ無いやん。よっしゃ!ウチが代わりに自己紹介したる!」

その口調、イントネーションからして関西臭満々な1人の女子生徒がいきなり席を立って転校生の隣に並ぶ。・・・いや、たかだか自己紹介程度にオチ要らねぇのでは。てか、代わりに自己紹介ってなんだ。そして転校生の方も明らかに戸惑っている。

「せやなぁ。見た感じおっちょこちょいやけど芯は確りしとる。ほんで、星を見るんが大好きな弟がおってぇ、せやなぁ・・・名前は、“星空ミタロー”!」

陽気な関西娘渾身のボケにクラス中から笑いが巻き起こる。ヘアピンをした赤髪でショートヘアー、日野あかねが盛大に転校生をダシに笑いをかっさらう。

「あかね。星空さん困ってるでしょ」

気を良くして更なる笑いを得ようと盛り上がる彼女に待ったを掛ける別の生徒。

「そうですよ。それに挨拶は自分でしないと」

「ハイハイ。丁度えぇから、あの2人を紹介するわ」

同調して至極全うな事を指摘する誰か。日野はそんな2人のクラスメートを各々、指し示して丁寧に紹介した。

「あっちが、緑川なお。スポーツ万能で、おまけに義理堅くって情に脆い。女番長って感じやなぁ」

「ばっ番長?!」

「・・・ほんで、こっちのお嬢様が青木れいか。クラス委員で生徒会・副会長。勉強も出来て、おまけに男子にモッテモテ!」

「モテモテ・・・!?」

「ほんで、ウチは日野あかね。去年大阪から引っ越して来たから転校生の気持ちはよぅわかんねん」

実に彼女らしい紹介文句に戸惑う女子達。緑色の髪をポニーテールした爽やかそうな印象を受ける緑川に紺色のストレートヘアー、かつ揃った前髪は確かにお嬢様然とした雰囲気を放つ青木。と、序でに自分の自己紹介まで済ませる正しく生粋の関西人、日野。

「・・・あぁ、眠い」

佐々木先生が感謝しつつ戻るように言うと日野はクラスメート達とハイタッチなんかしながら席へ戻っていく。何がメルシーボクゥだ。うるさくて眠れやしない。

「気にしないで下さいね。あかねちゃんは星空さんの緊張をほぐそうと思ってふざけただけだから」

「その娘は黄瀬やよい。めっちゃ泣き虫で、ちょっとツッコんだだけですーぐに泣いてしまうねん」

「よっ余計なこと言わないでよ!・・・泣いたのは、たったの三回だけだもん!」

少なくとも三回はお泣きになったと認められた一番前の席に座っていた女子。やっと騒がしいのも収まって居眠り出来ると思ったら最後の最後でまた騒がしい。黄色い髪の毛に白いカチューシャをした黄瀬。再びクラスに笑いが巻き起こった。・・・やれやれ。

「それってどんなん?星空さんにとってのハッピーってどんなんかなぁって」

「えぇっと、口では説明しにくいんですけどぉ・・・ハッピーってこうなんか、この辺がキラキラして胸がワクワクして―――んー、兎に角ウルトラハッピー!って感じの事なんです!」

要するにアレだ、本人にも上手く伝える事が出来ない訳だ。そこ曖昧なんだ。自己紹介はこうして終わり、皆が歓迎して温かく迎え入れる。

 

 

「ハッピーか。んなもん何処にあるんだか」

 

 

思わず口から出たその言葉は拍手に沸いた教室の中では誰にも聞こえなかった。それ以上に誰もこちらには気づいてない。さてと、退屈なホームルームが始まった事だからさっさと一眠りしよう。まだまだ先は長い。

 

 

 

目が覚めると同時にチャイムが鳴る音を耳にし、教室にある壁掛け時計を見て今の状況を知る。小さく欠伸して立ち上がろうとした所、ずっと同じ姿勢で寝ていたのが災いして肩や首回りが何となく痛い。

「もう帰るん?なんやったら学校なか案内しよか」

「ありがとう。でも日野さん部活でしょ?私1人で大丈夫」

「そっか。ほな、また明日な」

「うん。さよなら」

「バイバーイ」

「―――さてと」

「うわ!」

あれ、何だろ。この感じつい最近ありましたよーっと。肩から鞄ぶつけられて立ち止まると転校生と思い切り顔を合わせる。

「・・・あれ、確か朝に―――」

「何々、星空さん。知っとんの?」

日野は転校生・・・星空さんの反応を見て知り合いか何かと思ったらしい。どうでもいい。構わず廊下に向かうと今度は佐々木先生がやって来て不意に呼び止められた。

「あら、灰谷君。星空さんを案内してあげてるの?」

「はい?」

初耳だ。振り向いたところ確かに彼女が着いてきている。何故。

「それじゃあ、お願いね」

「いや・・・えぇ」

先生は笑顔で申し付けてさっさと歩き去る。この流れは、どうしてもそうしなきゃいけない感じなんだろうか。はぁ、迷惑この上ない。

「・・・うぉっしゃあ!学校の中を探検だー!!」

「っちょ・・・」

「あ、アハハハハ―――」

「何張り切ってるんだか。・・・はぁぁ、止めてくれマジで」

突然の大声に全く望まない注目を浴びたとこでさっさと面倒ごとは済ませてしまおうと考え、その場にも居づらいから向こうも何も言ってこないし学校案内をする事にした。

「ほわぁ・・・広い音楽室」

「はぁぁ」

「ここが理科室」

「ふぁーあ・・・」

「ここが図書室か。誰も居ない図書室ってなんか不思議」

イチイチ反応する彼女を連れ回し、最後に行き着いた場所は図書室。実を言うと少し秤気になる本があってざっと見てみたかったというのが本音である。

「ありがとう、学校案内付き合ってくれて」

「あー、うん。別に・・・」

「灰谷君、だっけ。本好きなの?」

「・・・いや、まぁ。暇な時読むけど」

手に取って適当にページを捲り終えてそれを戻し、又別の一冊を本棚から引き抜く。すると星空さんも側に寄ってきて後ろから手を伸ばした。女の子らしいフワッとした香りが僅かにする。イカン、意図せずに嗅いでしまった。

「私も絵本とか大好きなんだ。何時もハッピーエンドで終わるお話とか」

「へぇ」

詰まりはおとぎ話とか童話とかそういう類いか。俺とは違う。第一、彼女には悪いが俺達の歳で絵本も無いだろう。・・・一先ず確認が済んだので後はこのまま様子を見てから適当に切り上げるべきだろう、そう考えて彼女に声を掛けようとした。

「何、なんだろうこの光」

奥の本棚へ歩いていった背中を追い掛ける。何かを見つけたらしく足を止めている。これは―――

(“ふしぎなとびら”)

そのタイトルの所謂“児童書”的な物を星空さんは手にしている。いや、それより気になるのは僅かに本棚の奥から漏れてくる光。星空さんは本をいきなり手渡すと光の源を探って本棚に並べられたそれらを弄り始めた。本を退かすと不思議な事に光が移動する。何となく気味が悪いと感じて止めようかどうしようか迷っていると事態は予期せぬ方向へ行った。―――その瞬間一体何が起こったのか全く理解出来なかった。本棚全体が光り出したと思ったら、俺達は身体ごと宙へ僅かに浮いてそのまま光の中に吸い込まれていくのを感じた。そこはまるで異次元への扉だった。

 

 

 

 

・・・全ては夢か幻か。何処か遠くから声が聞こえる。最初は声という事だけで後は不鮮明だったが、次第にそれが何なのか明確になっていった。

「・・・・・・くん・・・たに・・・・・・くん・・・はい・・・・灰谷君!」

「―――っだぁ!」

気を失っていたらしい俺を心配してなのか、彼女が顔を覗き込んでいた。―――あービックリした。

「ねぇ大丈夫?私心配だよ」

「っ全然!もう良いから。・・・て、ここは」

「私もよく解らないんだけど、確か学校の図書室に居た筈だよね。アハハハ・・・」

笑ってる場合か。目が覚めたらすっかり見知らぬ場所までワープしてるんだぞ。見渡す限り緑。地面は草地で遠くには木が生えていて、それでいて何て言えばいいか・・・・・・木の根が張り巡らされたとでも表現するか。明らかに異様な場所に今自分達は立っている。

「まさか、本当に異次元・・・」

「凄い。何処だろ、ここ。―――綺麗・・・!」

「は」

「・・・これ、周りの壁全部に本が並んでるんだ!すごーい!!」

確かによく見ると巨大な本棚がズラッと並んだ感じだ。こんな時に何をはしゃいでるんだか、こっちは今にもパニック起こしそうになってんのに。だがしかし、一旦冷静になって考えてみよう。学校の図書室で本棚を弄くったら突然眩しい光に呑み込まれて、気付くとこんな所にやって来た。・・・本棚か。

「おい、ちょっと待て。やたらと弄るんじゃ―――」

「キャンディ!?」

「はっ?きゃんでぃー?」

何を言ってるのかさっぱりだが直ぐに彼女を引き剥がさないと。また変な事が起きたら困るし。・・・が、その判断は遅かった。

「キャンディが見えないよ!!」

「やっ止めてくれー」

 

カッチャン!

 

「ま、またぁ~?」

馬鹿ヤロォォォ!何しやがんだーーー!!・・・・・・・・・・・・こうして再び光の中へ。

「うわぁぁ!」

「ととっ!?」

雪崩れ込む形で星空の両肩を掴んでしまい、恐る恐る目を開けた時そこには何の変哲もないただの路地があった。至って平凡な街中。待てよ、外へ出られたのか。俺と星空さんとで互いに見合い、後ろに視線を向けた所そこに本棚が。

「商店街の」

「本屋さん?!」

「・・・助かった」

異次元を脱したらしい。それにはつい安堵する。あれは一体何だったんだろう、やはり幻か。

「―――は!キャンディ!」

だからその、さっきからキャンディ、キャンディってのは何なんだ。そんなに食べたいのかあんたは。てゆうか俺達上履きのままじゃねぇか。勘弁してくれよ。で、そーゆー俺もついつい彼女の後を追っ掛けていたり。

 

 

「オオカミが!オオカミがぁ!・・・クルゥ~!?」

 

 

やっと追い付いた、あれそのぬいぐるみは何だ。は?何、今喋って―――

「灰谷君、居たよ!この子はキャンディ!」

「・・・あー、そう。だから」

さっきからずっとこの調子。端からはどう見えるんだか。少なくとも俺は、星空さんが不思議キャラか何かだと密かに感じていた。後、スゲー勝手なマイペースガール。彼女はその手にふわふわでモコモコした毛並みの縫いぐるみを抱えている。目はパッチリ、黄色くて大きな耳。雲みたいに白い体、ファンシーな見た目。女の子とかが好きそうだ。

「空からオオカミが来たクルゥ!!」

「え?そんなの来るわけ・・・」

「しっ喋った。今コイツ喋った」

「うん、キャンディはしゃべ・・・えっ?!」

「だよな!今ぬいぐるみがさ!」

「じゃなくて!ホントに何か居るし!!」

揃ってパニック、大パニック。もう何も噛み合わない。星空さんは空の方向いて何かを見て・・・おや。確かに何かが居る。

 

 

 

「世界よ!最悪の結末・・・バッドエンドに染まれ!白紙の未来を黒く塗り潰すのだぁ!!」

 

 

 

何処からかそんな叫び声がしたと思えば、辺りに言い知れない異様な雰囲気が漂い始めた。明らかに空模様までがおかしい。快晴だった空には途端に満月が浮かび上がっている。夜空だ。時間の進み方が急に早まったんでなければ何だろう。そしてそれだけではない。

「ウルフルンが全ての世界をバッドエンドにしようとしてるクル!」

「バッドエンドって?」

「悪い未来の事クル!」

「悪い未来?」

「ほぼそのまんまじゃねーか。・・・ってか、これどういうことだよ」

周りを見て気付いた。満月が浮かんだこの夜空の下、そこに居た人達がみんな突然、その場に経たり込んで小さく呟き出した。おしまいだ、頑張っても無駄―――そんなネガティブチックな事を囁いている。おまけにその人達からは変な色の禍々しい印象を受ける煙の様な物までが発せられていて、とてもじゃないが近寄りがたい。それに・・・

「何か、気持ち悪いな。―――くそ」

「灰谷君?」

「大変クル!皆からバッドエナジーが出てるクル!」

さっきから聞き慣れない言葉を続けるのは人間の言葉を話すぬいぐるみ・・・的な何か。ああ、兎も角重々しくて頭もクラクラしてきたな。

「止めてクルー!!」

「ちょちょっキャンディ・・・!」

「・・・何だアレ」

「―――お前もこの世界に来ていたのか」

ぬいぐるみ的な生き物が呼んだ事で空中に浮いていたオオカミ的な何かがこっちに気付いて降りてきた。“オオカミ的な”とは顔立ちなんかを見ると絶対そうだけど、でもそいつは二足歩行・・・ていうか完全な人間スタイルで袖のないレザースーツとジーパンを着こんで人間ぽくしている、でもやっぱり完全な人間ですら無い何かだからだ。他に表現のしようが無いではないか。

「世界をバッドエンドにしちゃ駄目クルゥ!!」

「何それ、どういう事?」

「ウルッフッフッフ・・・未来は全てバッドエンドになる。頑張っても無駄なだけだ」

「違うクル!無駄なんか絶対ないクル!頑張ったらきっとハッピーになれるクル!!」

きっとハッピーに。本当なんだろうか。あれ、何考えてるんだ俺は。

「フンッ、ほざいてろ」

「―――きゃっキャンディの言う通りだよ!」

「・・・星空、さん」

「私だって今日、自己紹介上手くいかなかったけどめげずに頑張ったらクラスの皆が助けてくれてなんとか出来た!・・・どんな事も最後まで頑張り抜くの。そしたら、何時か絶対ハッピーになれるんだからっ!!」

「何時か・・・それって何時の話だよ」

「何だお前?グダグダ言ってねぇでソイツを寄越せ。・・・喰ってやる!」

俺の呟きは彼女達には聞こえていない。・・・オオカミもどきが言う“ソイツ”とは星空さんが抱えたぬいぐるみだろうか。

「私、決めた」

「はぁ?お前、俺様が怖くないのか?」

「怖いに決まってるでしょ!」

「じゃあ何でソイツを庇うんだ」

「解んない。でもこんなちっちゃな子がいじめられてたら誰だって守ろうと思うよ・・・!」

「いじめ・・・・・・守って、くれる・・・?―――何で」

駄目だ、さっきから頭がボーッとしてきて辛い。本当にこの空模様のせいなんだとしたら。

「震えてんじゃねぇか。だったらお前から喰ってやるよ!」

「逃げてクルゥーーー!!」

「はぁっ灰谷君も!!」

「・・・えっ、何」

星空さんは俺の手を掴むと猛スピードで駆け出した。つられてこちらも走り出すが、後ろからあのオオカミもどきが一緒になって走ってくる姿を見ると納得はした。こりゃあ早いとこ逃げ切らねばならないと直感した。

「キャンディを置いて逃げるクル!」

「そんなの出来ない!でも怖いー!!」

「おっ追い付かれる」

「いやぁぁ!?」

「このままだと君達も食べられちゃうクルゥ!!」

そうだよな、そこには俺も含まれるんだ。こういうのを絶望的だと言うなら正にそれだ。

「でもでも頑張る!私決めたんだもんっ私もキャンディの言うこと正しいと思うからァ!!」

「クルゥ・・・!」

「てめぇらのやる事、全部無駄なんだよぉ!」

「星空さん!」

顔から地面に倒れ伏してやがてオオカミもどきも追い付く。一先ず彼女に手を貸して立たせるが、もう駄目かもしれない。このまま、奴の言う通りなら喰われてしまう。

「・・・諦めないよ!私、頑張るって決めた事は絶対に!最後までやるんだもん!!」

オオカミもどきの言葉に彼女は直ぐに又起き上がって強く反論した。

 

 

「それが私の・・・それが私の・・・・・・ハッピーなんだからぁぁぁぁ!!」

 

 

オオカミもどきの鋭い爪が振り掛かる。その時もう目を閉じる事しか自分には出来なかった。けれど、そこで思ってもみない出来事が起きた。彼女が叫んだ瞬間、あの本棚の時以上の強い強い光が発した。

 

「何なの、これ―――」

 

「もしかしてチミが・・・!」

 

「何、コレ」

 

「“スマイルパクト”クルゥ!」

 

「へ?」

 

「チミは伝説の戦士プリキュアになったクルゥ!!」

 

光の中では何が起きていてどうなっているのか、堪らず顔を伏せていた為に解らない。聞こえてきたやり取りを耳にして暫くしてから顔を上げた時、そこに居た彼女の姿に心底驚いた。

 

 

 

 

「キラキラ輝く未来の光!キュアハッピー!!」

 

 

 

 

星空さんの姿は見違える程に変化していた。服装から髪型に至るまで全て別人と思うくらいに。制服は胸元に大きく目立つリボンが目を引く、ピンク色をしたそれはそれは派手なコスチュームに。髪の毛もそのマゼンダ色が一層明るく、三つ編みの様に長い毛の束になっていた。本当に僅かな間だったが辛うじて自分は彼女が星空さんであると、同一人物だと理解する。

 

「プリキュア、見つけたクルゥー!!」

 

・・・キャンディ、とか言うその生き物が大喜びしている。

「―――なっ何なのこれ?!かっ可愛いィィ!!」

「・・・いや、そうじゃなくて」

「見て見てー!凄いよね?!ね!!」

あー、解った、もう解ったから。こんな事になって何をはしゃぐんだ君は。そんなに見せつけんなよ。しかし確かに驚いた。

「何だか知らんが、返り討ちにしてやるぜ」

「あ、星空さん。あいつ来るぞ」

「わぁぁーーー!!あっそうだ!オオカミと言えば!」

「・・・・・・・・・で、これは?」

「“三匹の子豚”じゃ、オオカミさんはレンガのお家を吹き飛ばせなくて・・・ハッピーエンドよ!!」

「成る程クル!!」

あぁ、そういう事!成る程、かくれんぼみたいに人ん家の塀に飛び込んで身を寄せたと思ったら―――

「んな訳ねぇよアホ」

「ウルッフッフ!そいつの言う通りだぜ。・・・出でよ!アカンベェ!!」

オオカミもどきは赤い球体を頭上高く掲げる。すると邪悪なエネルギー?が寄り集まっていく様な光景を経て、自分達が逃げ込んだ民家の塀が突如意思を持った巨大な怪物へと変化して襲い掛かってきた。三角屋根に煙突、レンガ造りの家から赤と黄色の縞模様をした細い手足が生えた珍妙な出で立ち。赤い鼻を持った白い化粧の様な顔、それは道化師・・・所謂ピエロの様な表情をしている。何だコレ!実にふざけた姿をしている。だがこんなんでも襲われちゃあこっちは一溜まりもない。

「こいつはアカンベェ。ピエーロ様のお力でキュアデコルのパワーをバッドエンドに変えて生み出した怪物だぁ!」

・・・とオオカミもどきは得意気に説明していたがちんぷんかんぷん。星空さんは迫ってくるそいつを前に背を向けて駆け出し―――

 

「うわぁぁぁぁーーーー・・・・・・!!」

 

た、つもりが勢い余って大ジャンプ。

「てゆうか、もう飛んでるじゃねーか!」

これがそのプリキュアの力って奴なのか。人間には絶対に不可能な跳躍力でグングンお空へ。・・・あれ、俺置き去りか。いやいや、今度はちゃあんと物理の法則に従ってみるみる落下してくる。待てよ、死ぬぞコレ。

「だっ大丈夫か・・・!?」

「うぇぇ、何とか―――」

追い掛けてった怪物を突飛ばし、その上に見事着地。上手くクッションになったからどうにかってとこか。

「ってなに今の?スーパーパワー!?」

「プリキュアは世界を守る戦士クルゥ!」

「おぉ!解った!これってテレビのスーパーヒーローね!」

「えぇぇ?!そんなんじゃないクル!!」

「任せて!私やってみる。で、次は?」

「今任せてって言ったばかりじゃねぇか」

「ねぇ、灰谷君!私、次どうしたら良い?!」

「しっ知るかよ。このお馬鹿ちゃんめ」

てゆーか呼ぶんじゃねぇよこんな時によぉ。悪夢なら今すぐ覚めてくれ。

「ふあぁぁ!怖いよーーー!!」

自分がアカンベェの上に乗っかってたことに今更気付いて又全力で逃げ始めた。戦えねぇんじゃん。

「何だあいつは。・・・アカンベェ!」

「うわぁぁ追い掛けてきたよ!!あぁ」

「ハッピーシャワーでアカンベェを浄化するクルゥ!」

「何それ?!」

「プリキュアの癒しの力クルゥ!」

「格好いい!・・・解った、やってみる!」

・・・あ、止まった。まさか本当に戦う気になったんだろうか。

 

「ハッピーハッピー!ハッピーシャワー!!」

 

攻撃、攻撃?―――えぇっと、これ攻撃なんだよな?うぇー、全然何も起きねぇじゃん。オオカミもどきも困ってんぞ、反応に。あ、猫騙し?

「はぁ・・・はぁ・・・何してんの。駄目じゃん」

「・・・て、ちょっとどうなってんのよ!?」

「こっちが聞きたいよ」

「ハッピーシャワー!ハッピーシャワー!ハッピーシャワぁぁ!!」

「止めとけよ、もう」

「・・・うん」

あそこまでカッコつけたらそりゃあ収まるもんも収まらんよなぁ。でも悪足掻きが一番良くない。何事も諦めが肝心だよ。

「そっそんな事言ったってぇ・・・!」

「諦めちゃ駄目クル!気合いが足りないクル!」

「絶対ウソ!私チョーやる気だったもん!だから今チョー恥ずかしいもん!!」

「何でも、良いから・・・!誰か何とかしてくれぇ」

「アカンベェ!!」

「うわぁぁ!!」

「灰谷君!!」

追っ掛けてくる怪物の長い舌が直ぐ側を掠め、地面にそれが接触して足元を掬われる。俺は盛大につっ転んだ。もう、いよいよ駄目だ。

「ダメダメ、ハッピー。逃げてばっかりじゃハッピーも逃げちゃう・・・!―――灰谷君、大丈夫?!」

「っまぁ、何とか」

「ゴメンね、巻き込んじゃって。・・・あんな悪いオオカミさんに、絶対負けたくないッ!!」

彼女が叫んだ瞬間、腰から下げられたポーチらしき物が淡い光を放ち始める。

「スマイルパクトに気合いを込めるクルゥ!!」

「・・・そっか!―――んー気合いだっ気合いだっ気合いだっ気合いだっ気合いだぁぁぁ!!」

どっかで聞いた様な掛け声を発した星空さん・・・ハッピーのポーチへ光が渦を巻きながら収束していった。

「何これ!?力が吸い込まれていく・・・!力が抜ける!」

「休まずに力を込めるクル!」

「茶番は終わりだ!アカンベェ!」

オオカミもどきの指示を浮けてアカンベェも動き出す。そして、ハッピーは遂に渾身の必殺技を撃つ。

 

 

「“プリキュア・ハッピーシャワー!!”」

 

 

両手を使って大きく描いたハートマークからエネルギーを生み出し、彼女はそれをアカンベェを狙って叩き込む。それは見事に命中して怪物をあっという間に消し去った。跡形も無く、レンガは元あった場所へ塀として戻る。

「・・・何コレっ、もの凄く疲れたァ・・・!!」

こっちも疲れた。2人して暫くの間、その場に経たり込んでいる内にオオカミもどきは何処かへ消えてしまった。周囲を見渡すと通行人達も何事も無かった様に又歩き出しており、星空さんも元の姿に戻っていた。

「はい、大丈夫?」

「うん」

彼女だってよっぽど疲れてるだろうし、今さっきあんな目に遇って普通じゃいられないだろうに。でも立ち上がる手伝いをしようとこちらに手を伸ばす。笑顔で。俺はその差し出された彼女の手には頼らず、1人だけの力で腰を上げる。目の前にあった公園のベンチに向かうと改めて一息つく。

「ところで、色々説明して欲しいんだけど」

「プリキュアになって、キュアデコルを集めるクル。そして、キャンディの世界を救って欲しいクル!」

「えぇ!?全然解らないけど楽しそう!」

「何でだよ。・・・俺には関係ないけど」

「灰谷君?もう帰っちゃうの?」

「ああ。それじゃあ」

「えっと、またねー!」

出来ればごめん被りたい。・・・商店街を過ぎ去って住宅地に差し掛かり、ふと今朝の占いを思い出す。その結果が頭を何度も過った。素敵な出会いの予感!ラッキーカラーはピンク。あ?ピンク?

「ふざけんなよ、おい」

次に浮かび上がったのはあの星空さんの変身した、キュアハッピーとかいう伝説の戦士の姿。涙流しまくりで叫びまくって、必死に戦ってた彼女。あぁ、そーゆー・・・・・・。

「そういや、上履き―――」

商店街に出る前は学校の図書室に居たのだ。自分の足先を見てその事に気付いた俺は靴を取りに元来た道を引き返した。

 

 

 

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