笑わない彼にもどうか幸運を。 スマイルプリキュア! 作:新生ブラックジョン
今朝のホームルームで担任が連絡事項を告げた。共に最前列から一番後ろまで同じプリントを行き渡らせ、生徒は手元に来た端から内容に目を通していく。見てみると学校行事に関しての細かい日程だとかその他、保護者向けのお知らせやら注意事項やらが記載されていた。
「どーでもいいや」
つい口を突いて出た独り言に小さく咳払いし、一先ずそれを折り畳んで鞄に押し込んだ。
「うわぁ!流石やよいちゃん!」
昼休み、屋上に集まっていた星空さん達は黄瀬が描いたイラストを見ながら盛り上がっていた。チラリと見せられたのだが、確かに彼女の絵は感心せざるを得ないクオリティーだ。本人は何時かのポスターコンクールでの一件から自信をつけたのか、今回は自ら進んでそれを描くことを選んだだけある。休み時間中にあっという間に仕上げたらしいが凄いな。
「やよい、何描いてるクルゥ?」
側に置いてあった鞄の中からキャンディが頭を出した。何時にも増して楽しそうな雰囲気に気付いたのかそう尋ねる。
「修学旅行のしおりよ」
「シュウガク・・・何それクル?」
「学校の皆で二泊三日の旅行に行くの!」
そういう訳だからこいつらは揃いも揃ってもう楽しみで仕方ないといった様子。中学校生活に於ける行事の中でも二学年になって迎える修学旅行と言えば一、二を争うイベント事。二泊三日の旅、行き先は定番でありながら人気に名高いかの京都。翌日は大阪へと足を運ぶ。観光気分であちこち見て回り、夜には滞在先の旅館で一晩中お喋りに花を咲かせる、帰りには土産物を物色して・・・と、そうやって想像を膨らませていく4人。別にいいんだけどさ、少し落ち着けよ。
「コホン―――修学旅行とは“学問”を“修める”旅。即ち勉強なんですよ。お忘れなく」
「「「「はーい」」」」
仲間がはしゃぎにはしゃぐ中でただ1人、何とも冷静な辺りはさすが青木か。まぁ大半の生徒は勉強の意識なんてしないだろうけど。そして我らが学級委員は更に一言付け加える。
「因みにおやつは500円までです」
「おやつクルゥ?キャンディも楽しみクル!」
「はいはい、良かったな」
その言葉に若干一名、いや一匹もすっかり浮かれ気分。ところが―――
「キャンディ。お留守番よろしくね♪」
「え・・・えぇぇぇーーー?!ど、どうしてクルゥ!真澄、何でキャンディはお留守番クル!」
「まぁ、そうなるだろ」
もし周りに見つかりでもしたら、星空さん達はそれこそ修学旅行を楽しむどころでは無くなるだろうし。てな訳で確り釘を刺されてしまい、キャンディはあからさまな膨れっ面で何故かこちらを見返してきた。いや、俺を睨んでも仕方ねぇからな。・・・その日の夜、風呂から出ると母さんが修学旅行の件を口にした。そういやまだ話してなかったと思うが。
「さっき先生から電話があったの。ちゃんと気に掛けてくれてるのよ。・・・えっと、最近どう?」
「どうって、別に―――」
馴染めてるかで言えば確かにその筈。当たり障り無く、不用意に注目を浴びないよう心掛けてもいるし。うん、空気として馴染んではいるだろう。
「大丈夫」
「そう。取りあえず、修学旅行は行きなさいね」
「修学旅行!それって何時なんだっけ。もうすぐ?良いなぁ~、新幹線乗りたいなぁ。旅館の温泉ってどんな感じなんだろ。あ、お土産忘れないでね!八ツ橋と・・・」
優輝が通り掛かりに会話へ割り込んできた。そして早くも土産物についてごちゃごちゃとリクエストを並べ立てるのだが一切を無視して部屋に戻る。はぁ、明日はクラスで班決めだの話し合いだのって具合だろうなぁ。
「では。修学旅行3日目の自由行動について、何処に行きたいか意見を出して下さい」
という事で翌日。早速、修学旅行の予定についてクラス全員での話し合いの場が設けられた。クラス委員の仕切りで当日の行動先に関する意見を求め始める。そうすると案の定、待ってましたと言わん秤にその口火を切ったある男子が居た。彼の至極素直な意見を皮切りに続けて教室のあちこちから行き先の候補がこれでもかと挙がる。
「大阪と言えばたこ焼き!!皆で食いに行こーぜ!」
「よっしゃ!うちの知ってる店、案内したるわ!」
「―――それより、あたしはショッピングがしたいなぁ」
「やっぱり天王寺動物園でしょ。動物可愛いし」
「・・・丁度その日に、難波で太陽マンショーがあるんだけど―――」
「前から行きたかった、絵本だけの本屋さんが大阪にあるんだけどなぁ」
眠気半分で聞き流していると中にとんでもないものが混ざっていたりする。聞き間違いか。は、太陽マン?なに言ってんだ。
「大阪と言ったらやっぱり大阪城だろ!豊臣秀吉!」
「いや、通天閣が見てみたいよ」
「万博記念公園に行きましょうよ」
3日目の自由行動は大阪だ。ここでも知り得る限り、数々の名所が挙がる。
「いや、てかどーでもいいっつうの」
一応、それが俺としての意見。まぁ、聞いて貰おうなどとは思ってない。それから皆、大体の候補を出し尽くしたんではと思ったが新しい行き先が際限無く浮かんでくるらしく徐々に収集がつかなくなっていった。青木は騒がしい教室に向かって大きく呼び掛ける。
「意見のある人は手を上げて1人ずつ発言して下さい!」
「れいかが困ってるクル」
「だなぁ。委員も楽じゃな―――て、何してるんだよお前。出てきちゃ駄目だろ」
いつの間にやら足下にそいつの姿があった。キャンディはどうやら星空さんの鞄から抜け出してきた様で堂々と教室の中を彷徨いているみたいだ。
「早く戻れよ。見つかったら不味いだろ」
「クルゥ、キャンディ、れいかのお手伝いするクル」
「お手伝い?」
ぬいぐるみ然とした姿の妖精はあろうことか教壇へ向かって走っていく。え、おぉいっ不味いだろあれ!・・・駄目だ、星空さん達は全く気付いちゃいない。
「皆れいかの言うことを聞くクルーーー!!」
次の瞬間、教卓の上に飛び乗ったキャンディの声が教室中に響き渡った。やっちゃった。一応、クラスは静かになったけどな、何処から途もなく響き渡った声にみんな呆然としている。すると、しんと静まり返る中に青木が一言発した。
「―――と、言うのは冗談です・・・クルゥ」
「クルゥ・・・」
青木はキャンディを隠して何とかバレない様にと苦笑いを浮かべる。えーっと、流石に無理があるんじゃないかなぁ。ところが、直ぐ側には先生とか居るのにことのほか上手くいったのだった。本当、間一髪だったなぁ。
「では、グループに分かれて下さい」
「始まった」
あぁ、今日一番の厄介事。自分の席で顔を伏せている間、教室のあちこちでグループ形成がされるのをそれとなく肌に感じる。ほんの少し、チラッと覗いてみると案の定。しかもこれが見事に男子と女子とで綺麗に分かれていたりして。―――さて、どうしたもんかなぁ。いくらなんでもここでずっと息を殺してる訳にもいくまい。多分、何時かは気付かれたりして声を掛けられるかも知れないし。そうなったら、余計な注目を浴びる事になるんだろうし、正直ゴメンだな。因みに先生は今、何かの用事で教室を抜けているのでここには居ない。青木達、学級委員に任せているという状態だ。
「真澄君。どうしたの、大丈夫?何だか辛そうだけど・・・」
振り向くと星空さんが俺の肩に手を乗っけていた。この時、咄嗟にある考えが頭を過って言葉も無く彼女を見詰め返す。―――この際、折角だから調子を合わせるか。
「あの、どうかされたんですか」
「えーっと。・・・具合が悪くて、俺」
青木にまでそう事情を聞かれ、咄嗟に口を突いて出たのはそれだった。この場を逃れる為にはもうこれで良かったと思う。教室を出ると1人保健室へと向かう。委員の付き添いの申し出は断り、二年二組の教室を離れてふと廊下の窓から空を眺める。ここ最近の清々しい青空と比べて、今の気分は何時にも増して浮かないと自分でも感じていた。
保健室のベッドの上でウトウトしていた頃、すっかり気が弛んでいたせいか割りと大きめに腹の虫が鳴った。壁掛けの時計を見ると丁度昼休みで我ながらこういう時の体内時計の正確さには驚かされる。
「お腹が空くぐらいだからもう平気ね」
カーテン越しの声にそっと開けると、いつ戻ったのか白衣姿で机に向かう保健室の先生の姿がそこにあった。女性教師はこっちに振り向いて微笑むと俺の額に優しく触れる。
「やっぱり熱は無いみたいね。頭痛も無いってことだったし風邪じゃなさそうね。大丈夫?」
「はい。・・・大分、良くなりました」
「そう。どうする、元気そうならお昼食べてきたら」
「はい、ありがとうございました」
「あなた、五月病じゃないでしょうね。フフ、お大事に」
まさか、仮病とは言えないよな。ベッドから降りて引戸に手を掛けると声を掛けられ、そこで再び一礼して保健室を後にした。教室に戻ると青木が様子を窺って話し掛けてきた。
「もう大丈夫なんですか?」
「まぁ」
「灰谷君。お話がありまして、先程の修学旅行のグループ決めの事で・・・」
「あー、ハイハイ。それなら別に」
半ば強引に話を切り上げ、鞄を手にして教室を出ていこうとして星空さんと出会す。
「具合良くなった?」
「お陰様で」
「そう、良かった。ねぇねぇ修学旅行楽しみだよね。真澄君は自由行動は何処に行きたい?」
「さぁな。迷っちゃうよな」
答えたい質問ではなかったのでやはりはぐらかしてやった。俺は普段以上に彼女達を避ける意識を強めて昼食を済ませ、午後からの授業にも挑んで放課後にはさっさと帰宅した。―――今日は特にしんどかったかも。床に鞄を投げ出し、敷きっぱなしの布団に即ダイブ。枕に顔を埋めて叫ぶとかは無いけど、妙に腹立たしい気がしてならない。何故だ、そして短く呻く。
「漫画、買い忘れた」
学校帰りにコンビニに寄ろうとしてたのをうっかり。思い出した以上は買いに行かねばなるまい。今月号は特段見逃せないとか別に無いのだがこういうのは習慣だ、続ける事に何かしら意味がある・・・多分。兎に角、要らない理由をつけて外に飛び出すと一番最寄りの店まで足を伸ばした。
「おう」
「クルゥ」
「ここで何してんだよ」
本日二度目となる台詞。近付いちゃいけないかとか関わらない方がいいかなとか過ったけど話し掛けてしまった。一般常識の範疇を越えた生命体・・・妖精がこんな町中のそれも公共の場で何してるんだろうって考えたらいても立っても居られず。近道の様に利用するつもりで入ったとある公園の噴水、縁にちょこんと座るキャンディの姿は置き去りにされた忘れ物のぬいぐるみみたいだった。
「・・・何でも無いクル」
「あれ、星空さんは?」
「みゆき?」
「近くに居るんじゃないのか?」
「今は、キャンディ1人クルゥ」
浮かない顔、それは見て解る。キャンディの事は大して知りもしないけど何だか何時もらしくないテンションの低さだ。果たしてどうしたものか、このままこいつをこんな所に置いていくのもどうかとは思う。そうして、気付くと俺はキャンディの隣に腰を下ろしていた。キャンディの方はそれから俯いたままだったが、やがて暫くすると沈黙を破る様にぽつりと小さく呟いた。
「真澄。真澄は修学旅行楽しみクル?」
「寄りにも寄ってその話題かぁ。―――いや、別に」
「どうしてクル」
キャンディは顔を上げるとファンシーな目をして不思議そうにこっちを見る。黙っているとキャンディは再び同じ事を尋ねた。
「何で楽しみじゃ無いクル?・・・みゆき達は皆楽しみにしてるクル。すっごくすっごく嬉しそうだったクル」
「さぁな。どうしてだと思う?」
これについて答えたくないのが本音だった。だから、少しずるい気はするけどはぐらかす為に質問に質問で返した。キャンディはきょとんとなって、それから考える素振りで黙り込む。こうして奇妙な時間だけが流れ続けた。
「キャンディ。・・・灰谷君?」
「れいか」
「あれま」
そこに登場したのは青木れいか。キャンディは“1人”だと言っていたから偶然だろうか。彼女はわざわざこっちへ丁寧に一礼してからキャンディに話し掛ける。優しく、それから静かに隣へ腰を下ろす。
「キャンディはれいかみたいに皆に頼りにされてないし、失敗ばかりで駄目な妖精クル」
「そんな事、無いわ。さっきだってキャンディは教室で私を助けてくれたじゃない」
フォローしたつもりが迷惑を掛けてしまった、多分そういう話なんだろう。やはりキャンディはすっかり落ち込んだ様子だった。
「でも、キャンディは役に立って無いクル。・・・・・・キャンディは駄目な妖精クルゥ!!」
「キャンディ・・・」
そいつは物凄いジャンプ力で何処かへ飛んでいってしまった。すると青木は振り向き様、こう言った。
「今日、灰谷君が長いこと学校をお休みしていたと先生から聞きました。・・・それで、もし何かあったら遠慮なく仰って下さい。修学旅行のグループ決めや他にも何か困っている事があれば是非、相談して下さい」
「は、はぁ」
そう、春の遠足も完全にすっぽかした。別に知らなかったとかいうんでなく敢えてそうしたんだ。それにしたって、青木の口からその事が出てくるとは思わなかったんで不意を突かれた感じ。まぁ、要するにクラスの輪に溶け込めないでいるこの俺の力になりたいって言うんだろう。成る程、クラス委員としては放っておけないか。・・・・・・彼女には礼を述べてその場を別れた。辿り着いたコンビニではお目当ての漫画雑誌は難なく手に入れられた。その帰り―――
「助けてクルーーー!!」
住宅地に差し掛かった時、聞き覚えがある様なそうでもない様な・・・いや、やっぱりこの特徴的な語尾については自信あり。兎に角、まぁ気のせいでも良いけどなんて思いつつ寄り道感覚でそこへ入っていく。
「クルゥ!そこに居るのは真澄クル!?」
「よぉ。そこで・・・いや、もう何も聞くまい」
キャンディだった。神出鬼没とでも言わせたいのか、ただ今度は鳥籠みたいな物に入れられて屋根のアンテナ辺りからぶら下がっている。おぉ、やっぱり何があったのかこれは気になる。
青木の下を離れてキャンディは民家の屋根伝いに移動していた。すると恐ろしげな声に話し掛けられ、そこには屋根に腰掛けた悪い狼の姿が。―――キャンディの話を聞きながらその時の光景を頭に思い浮かべる。
「よぅ、そこの妖精!俺様とお茶しないか?」
「違うクル。そんな事言われてないクル。キャンディがプリキュアの役に立ってないって言ったクル・・・」
失礼。だ、そうだ。で、兎に角キャンディはいきなり因縁を吹っ掛けられたらしい。しかも相手はこう豪語したそうである。
「今日でプリキュアはおしまいだ」
悪い“オオカミもどき”は不敵な笑みを浮かべながらその手に青い玉を取り出して見せると同時にこう言ったとか。
「こいつで生み出したアカンベェにはプリキュアの技は効かねぇんだよ!」
だからその“青っ鼻”とやらを使ってプリキュアに技を無駄撃ちさせてから弱ったところを一気に―――という流れの作戦内容を打ち明けてきたらしい。
「だから早くみゆき達に知らせたいクルゥ!」
「でも、星空さん達が今どこに居るか解るのか?」
「それは・・・!」
キャンディが今のこの現状に陥った理由とは想像していたよりもずっと緊迫したものだった。オオカミもどきに籠の中へ閉じ込められて身動き出来ない状況では先ず星空さん達の行方を探す事さえ困難だ。
「・・・は!そうクル。みゆき達、修学旅行のしおりを作ってたクル!」
「そうか。何処で?」
「“ふしぎ図書館”クル」
はて、聞いたことも無い。そんな場所、ここら辺には絶対無かった筈。うーむ・・・
「は!思い出したクル!しおり作ったらその後で皆でお菓子買いに行くって言ってたクルゥ!」
「お菓子?修学旅行に持ってく奴か。・・・だとしたらコンビニかスーパー、或いは―――」
そこで記憶を辿った俺はこの辺りから行けそうな場所に駄菓子屋があった事を思い出した。しゃーない、一緒に探してやるかな。
「・・・でも、その前にそっから出さないとな」
「キャンディの事は大丈夫クル、何とかするクル。だから真澄はみゆき達にウルフルンの事を伝えてきて欲しいクル!」
「仕方ない」
民家の塀によじ登って更に屋根まで上がっている暇も無さそうだ。もし当てが外れた時は一旦キャンディの様子を見に戻ろう。勘を頼りに走り続け、それなりの距離を走り続けたところ。真っ昼間の空には似つかわしくない不自然な色を認めた時、多分その下に星空さん達が居るんじゃないかと又しても勘が働く。
「“プリキュア・ハッピーシャワー!!”」
桃色の一筋の光だった。巨大な敵は戦士の叫び声と共に繰り出された一撃を受け、爆発に呑まれた。既に戦闘が始まっており、駄菓子屋から直ぐ目と鼻の先にある公園の中で星空さん達・・・いや、プリキュアがバッドエンド王国と戦っていた。
「必殺技が効いてない・・・」
「ふぇぇ!どうしてぇ?!」
キャンディの話の通り、そのアカンベェはこれまで見てきたのと異なって鼻が青い。そしてハッピーが今しがた食らわせた必殺技を諸に受けてもまるでピンピンしている。ハッピーの悲鳴にも似た声がこっちにまで響いてくる。早く知らせないと!
「皆さん、冷静に!」
「“プリキュア・サニーファイヤー!!”」
「“プリキュア・ピースサンダー!!”」
「“プリキュア・マーチシュート!!”」
必殺技のオンパレード、怒涛の連続攻撃。しまった、遅かったか。駆け込んでいったつもりが間に合わなかった。サニー、ピース、更にマーチまでもが次々に必殺技を放つ。炎と風の球、電撃、一度に3人分の属性を宿したエネルギーがアカンベェを捉える。だがアカンベェは全てを受けても尚、まるで無傷だった。
「おーい!」
「・・・真澄君?」
「え、何してんねん!」
「来ちゃ駄目!危ないよ!」
「キャンディから伝言が・・・」
「え、キャンディから?」
マーチが首を傾げる。時既に遅し、とは言え伝える事はきちんと伝えねば。キャンディから聞かされた通りに5人へ説明する。
「やはり、そうでしたか」
「そんな、どうして」
「・・・ウルッフッフッフ。何だか知らねぇがそいつの言う通りだ。冥土の土産に教えといてやる。お前達の技はキュアデコルを浄化するんだろ?だが、この青っ鼻はキュアデコルで作ったもんじゃねぇ!」
即ち、プリキュアが必殺技をぶつけようが無意味とオオカミもどきは人を指差して嬉しそうに言い放った。それを耳にするやハッピーは嘆いた。
「そんなのどうしたら良いの!?キャンディ!!」
「俺、キャンディじゃねぇし」
「あっ、そうだった・・・!ごめん」
「ハッピー、キャンディは―――」
「行けぇ!アカンベェ!」
「あ!来るぞ!」
青っ鼻アカンベェがこちら側に対して口から何かの物体を吐き出してくる。球体のそれは複数、地面を弾んで転がっていくと俺達に対して襲い掛かった。間一髪、我ながら見事に紙一重でかわす。
「えぇっ、出られないよー?!」
「何なんこのカプセルぅ?!」
「どうしましょう・・・!」
一方、ビューティを除いたプリキュア4人は得たいの知れない透明なカプセルへ完璧に閉じ込められてしまった。
「どんどん行けぇ、アカンベェ!」
「っ灰谷君!」
「「真澄君!!」」
「「真澄っ!!」」
4人のくぐもった叫びを背にして、アカンベェの追撃に動けないまま思わず身を屈める。咄嗟に間に立ったビューティが盾になってカプセルを弾き飛ばす。
「このままではらちが明きません、せめて動きを止めないと・・・!」
彼女は攻撃をかわし続け、自らのスマイルパクトへと力を集中させる。敵の攻撃が止んだ隙に近くの木に身を寄せ、そこから続きを窺う。
「“プリキュア・ビューティブリザード!!”」
ビューティが繰り出す必殺技、強烈な冷気を帯びた極寒の猛吹雪だった。
「馬鹿め、効かねぇんだよっ」
「はぁぁぁ!!」
鼻で笑うオオカミもどき、しかしビューティは技の軌道を操ってアカンベェの足下を凍りつかせるという気転を効かせた。アカンベェは足止め、が、体力を使い果たしたらしいビューティは力無く膝から崩れる。
「ウルッフッフッフ!いい様だなプリキュア。・・・止めだ!」
「プリキュア!」
「―――ん?・・・小僧。今の内にさっさと逃げた方が良いぜ?プリキュアはもう動けねぇ。詰まり、お前を守ってもくれないんだぜ」
声をあげた俺に気付いてオオカミもどきが静かに笑う。と、一転して口をぽかんとさせてじっとこっちを見据える。
「そーいや、お前どうして動けるんだ?このバッドエンド空間じゃ、どいつもバッドエナジーを発してぶっ倒れるってのによ。むぅ・・・こいつぁ妙だぜ」
「そう言えば―――」
オオカミもどきの突然の疑問にビューティが呟いた。そんなこと言われたって知るもんか、まぁ確かにそう言われりゃそうなのかも知れないけど。・・・クーーールーーー!あ、何か降ってきたぞ。
「キャンディ!どうしたら、あのアカンベェを倒せるの?」
「それが解らんから打つ手が無いんや!」
「キャンディ!」
「・・・知らないクルゥ。ごめんクル」
打開策を求めたプリキュアは漸く駆け付けたキャンディへ集中する。一方、キャンディは申し訳なさそうに答えて下を俯き、そこにオオカミもどきの独特の笑い声が加わる。
「ウルッフッフッフッ・・・アッハッハッハ!やっぱりお前は役立たずだなぁ!―――おまけに間抜けで、足手まといだ。・・・この、役立たずめ」
いたぶり続けた末にそいつは最後にそう吐き捨てる。執拗な言葉の数々にきっとキャンディは耐えきれない。
「お黙りなさいッ!!」
それはビューティの怒りに満ちた一喝だった。普段から落ち着き払った彼女からはとても想像が出来ない迫力ある声。
「どんな時でも、キャンディは私達の為に一生懸命です!・・・仲間の為に一生懸命になる。これ以上、大切な事はありません!!―――キャンディはずっと1人で悩んでいたんです。どうしたら私達の役に立てるか、仲間に入れるかを」
仲間達は初めてキャンディが抱えていた悩みを打ち明けられた。
「ウルッフッフッフッ、そんな役立たずを庇って一体何の徳があるんだよ」
オオカミもどきは尚も不快な笑みを止めない。が、そこでハッピー達プリキュアは声高に否定した。
「損とか得とかじゃない!私はキャンディと一緒に居るだけでウルトラハッピーになれるの!」
「明るくて元気なキャンディがウチは大好きなんや!」
「一生懸命なキャンディの事を悪く言わないで!」
「キャンディが居て初めて私達は一つになれる!キャンディが居なきゃ始まらない!」
「キャンディを傷つけるのは、絶対に―――」
『許さないッ!!』
共に居る事が、側に居る事が幸せであると。周りを照らす明るさ、一生懸命さを持っていて彼女達自身を結び付けたという存在はその本人が思っていた以上にそれ程までに重要だったらしい。目には見えない力が沸き起こり、プリキュア達は自らを閉じ込めるカプセルを粉々にした。それ秤か敵を勢いよく吹き飛ばした。
「―――キャンディも、プリキュアの力になりたいクルーーー!!」
そんな時、キャンディが自らの力でアイテムを生み出した。プリキュアはその新しいキュアデコルを手に入れ、迷わず各々が自分のスマイルパクトにセットしていく。ハッピー、サニー、ピース、マーチ、ビューティの頭に眩しい輝きを放つ冠が備わり、5人は声を揃えて力強く叫ぶ。
『“プリキュア・レインボーヒーリング!!”』
虹色の輝きに包まれたアカンベェは見る間に浄化されていった。個々の力が及ばなかった相手を合体技によって消し去る。プリキュアへの新しい力―――それをもたらしたキャンディでさえ今度の事は不思議だったらしく、厳密には何が起きたのかは誰にも解らなかった。一先ずは一件落着、か。夕方の帰り道は実に穏やかだった。
「不思議と言えば、真澄。ほんまや、あんた何でバッドエンドにならんのやろ?」
「うーむ、確かに謎だね」
黄瀬がそれらしく腕組みして難しい顔をする。だから、聞きたいのはこっちの方だって。いや、やっぱり特に知りたいとは思わないけど。
「“青っ鼻”のことを星空さん達に伝えてくれって。キャンディが」
「そうだったんだ。ありがとね、真澄」
「うんうん、本当にありがとう!」
結局は無駄足になったから意味は無かったろうけどそこはこれ以上、余り考えない事にしようと思う。
「修学旅行、楽しみクルゥ♪」
「大変な目に遇った割には切り替わり早いな、お前」
「真澄も一緒に行こうクル」
「行かないよ」
その時、ぽかんとするキャンディや5人の視線を感じても一切無視して帰り道を歩き続けた。
非常にゆったりした雲の流れに視線を向ける内に欠伸が漏れる。ふと外の風にあたりたくて訪れたそこが物静かで丁度良く、放課後の人気が無いこの屋上は他に誰も居ない。ところが、誰かがやって来るのに気が付いて折角の独りぼっちは残念な事にここで終わりを告げる。それでも、あえて無視しようと努めてはみたがしつこく呼び続けるその声が直ぐ側まで迫り、どうにもそういう訳にいかなくなった。
「ちょっといいかな」
駄目って言ったところで多分無駄なんだろうから頷いた。彼女は静かに腰を下ろし、備え付けのベンチで隣に肩を並べ、そして特に前置きも無く話を切り出した。
「真澄君。修学旅行、行きたくないの?」
そう、行く気になんかならない。質問に頷くと星空さんは驚く様な表情に加えて不思議そうに首を傾げた。―――クラスメートだのなんだので親交を深めようだとか、あからさまな目的が見え隠れするこんな学校行事は出来ることなら避けたい。況してや修学旅行は集団行動に身を置く事が前提、その上寝食だって共にする。しかも丸一日、逃げ出せる隙は微塵もない。こっちは普段から学校の中で周りと距離をおく事に専念し、それでいてクラスの中では目立たぬよう意識しているくらいなのに。
「昨日、キャンディから聞いたよ。真澄君は修学旅行が楽しみじゃないの?」
「そうだよ。面倒だし、疲れる。正直どうでもいい」
「でも・・・皆で京都や大阪に行くんだよ、思い出が沢山できるし、きっと楽しいよ?」
ハッキリと認めた、が、それでも星空さんは食い下がる。いや、マジで行くつもり無いからな。余計なお世話なんだよなぁ。
「何が思い出だ。―――そんなの、俺には・・・・・・」
「一緒に旅行して色んな事して、みんな笑顔でウルトラハッピー!真澄君も行こうよ」
「いや、意味わかんないし。はぁぁ、どうしろっつうんだ」
「そうだ。真澄君、もう買った?」
「・・・は?」
「ほら、お菓子。修学旅行に持っていく。用意した?」
急に話を変えてくる、と。えぇっと、それって確か1人500円まで―――って、だから修学旅行の事なんてどうでもいいっつってんのに。
「まだ・・・」
「そうなの?・・・よーし、それじゃあ一緒に買いに行こう」
「いや、何でそうなるんだよ」
「あー、おったおった!みゆき・・・と真澄」
そこにやって来た日野達は星空さんを探しに来た様子。でもって、ここから話は勝手に進んで例の駄菓子屋へ行く事になった。待てよ、こんなの理不尽じゃないか?
「何にするか決めた?」
「うーんとねぇ。私は・・・これ!」
「おー、それえぇやん」
「あかねちゃんは何にしたの?」
「ウチはこれ」
「なおちゃん、どれにするか決めた?」
「うん・・・へぇ、やよいちゃんはそれかぁ。あ、れいかも決めたの?」
「はい。私はこれを」
5人はあれこれと悩みながら、思い思いに棚からお菓子を手に取る。こういう時、女って買い物が長くなるよなぁとか考えていると―――
「「「「「はい、どーぞ」」」」」
「・・・いやいや、何でそうなるかな。ちげーよ」
「え、これじゃ嫌だ?違うのにする?」
「あーもう!」
そうじゃないだろーがっ。種類が気に食わないとかでなくて!何でお前らが俺が持っていく分の菓子を決めちゃうんだよ!
「待てよ、いや、そうじゃない。・・・だーかーら、行く気もねぇ修学旅行の為に買う気は―――」
「やっぱ、ポテチは外せんやろ」
「チョコレートも忘れないでね。甘いのも欲しいし」
「皆でさ、分けられるのが良いね」
「れいかちゃん、それ何?」
「酢昆布です」
うわー、渋いねぇ・・・・・・じゃねーよ!!こいつら、自分の好み押し付けようとしてないか?さては人に買わせてから寄越せとか言う気なんだろ。俺の言葉に日野と緑川が観念して白状した。
「「・・・アハハハハ、解った?」」
「ふぅ、もういい。じゃあな、俺は帰る」
「待って!―――真澄君がどうして修学旅行に行きたくないのか、それは解らないけど・・・」
背中越しに星空さんは喋り続けた。少しずつ、ゆっくり。足を止め、彼女の声に耳を傾ける。
「でも、きっとウルトラハッピーな事があるって思う。だから」
イマイチよく解らない曖昧な表現、だがそれ以上に理解出来なかったのは星空さんそのもの。何故、そうまでしつこくするのかという事。ずっと考えてみたが夜になってもそれは解らなかった。・・・5人を振り切って帰宅した後、晩飯を食ってから何時もの様に湯船に浸かった。一旦頭の中を空っぽにしてからリビングでテレビを見ていると妹と母が話し始める。テーブルの上に置かれたお菓子に優輝の奴が目敏く気付いたらしい。
「それ、お兄ちゃんのなんだ」
「そう。修学旅行に持っていく奴だから」
「へぇ。・・・・・・え、すこんぶ?何これ」
あの後、見事に全部買わされたんだよなぁ。“噛めば噛むほど味わい深いです”だとか言ってたっけ。
「必要な物は揃った?ちゃんと確認しておきなさいね」
「あー、ハイハイ」
・・・でもっていよいよ、と言うべきか。修学旅行を明日に控えた前日の晩。寝る前になり、ボストンバッグの中身をチェックさせられた。替えの下着、学校指定のジャージだとか衣類を手渡され、渋々それらを詰め込んでいく。因みに、この瞬間も何とか行かないで済まないかと思っている。ダラダラ、時間をたっぷりと掛けながらしおりを片手にチェックリストと照らし合わせた。星空さん達が昨日作ったという冊子。黄瀬のイラストが踊るページを眺め、我に返って時計を見る。既に夜中の12時を過ぎていた。途中まで整えながら入れていた荷物の残りは適当に放り込む。最後に土産代やらに使う“お小遣い”が入った財布をしまい、バッグのファスナーを閉めた。
「まだやってたの。明日早いんだから、もう寝なさい」
母さんが部屋のドアから漏れる灯りに気付いて覗きに来たのでさっさと寝る体勢に入る。
「おやすみ」
「おやすみなさい。―――真澄」
「んー」
「楽しんできなさいね。中学校生活で唯一の二泊三日の旅行なんだから」
それを言ってくれるな、母よ。余計プレッシャーに感じる。何せ、本音じゃあ行きたくないのだから。
「向こうでたくさん思い出作ってきなさいね」
最後に一言、そう残して部屋を出ていった。思い出か、またそれかよ。星空さんも言ってたよな、しつこいくらい。
「だから一緒に行こう、私達と。友達みんなで、一緒に」
「灰谷君。当日、一緒に行動するグループを決めていませんよね。宜しかったら、私達と是非」
「そうだね。真澄さえ良かったらだけどさ」
「あの、私達はその方が良いなぁって・・・思ったりして」
「どうする。因みに大阪はウチの生まれ故郷やし、ホームグラウンドの案内やったらバッチリ任しとき!」
・・・何を考えてるんだかさっぱり理解できない。どうするべきか―――いいや、もうどうにでもなってしまえ。灯りを消してやけくそ気分のまま、布団を被って次第に深い眠りについていった。そして、目を覚まして枕元の時計を見てとうとうその時が来たのだとより強く実感する。俺は起き上がり、着替えを済ませてボストンバッグを手にリビングへ下った。
「おはよう」
「おはよう。じゃあ、行くから」
「朝ごはんは」
「要らない。遅刻するから」
こんな時でさえ寝坊ギリギリ。玄関で靴を履き、集合場所となる学校の正門へ向けて走り出した。
続