笑わない彼にもどうか幸運を。 スマイルプリキュア! 作:新生ブラックジョン
青い空に飛行機雲が横切るのをしばらくの間ただじっと見詰めた。やがて息を深く吐き出すと制服の汚れを落としてゆっくり起き上がり、辺りに散らばった教科書やらノートやらを俺は静かに手に取る。折れ曲がったページを適当に直して手早くかつ無造作に鞄へ放り込んだ。
「大丈夫?」
視線の隅に少女の脚が見えた。スカートへ手を当てながらしゃがみこむと一緒になって拾い集める。無惨に折れ曲がった数学のノートの表紙を直す彼女の表情は何処か気まずそうだった。そして俺は何も言わずに受け取り、他の教科書と共に踏みつけにされた跡の残る自分の鞄にまとめて突っ込んだ。・・・何とも寝覚めの悪い嫌な夢である。あれはあくる日、出来れば二度と起きて欲しくないこの上なく最低の出来事だった。
横浜・みなとみらい。神奈川県に位置する歴史あるこの地を訪れる者は決して少なくない。横浜ベイブリッジからビルの並び立つ街並みを眺め日本メモリアルパークに観光客が集う。そしてこの日も何時ものように行き交う人々を見下ろす様にランドマークタワーがそこに―――
「我が名はフュージョン。全てを破壊し、闇に染める・・・!」
一瞬の内に街を破壊と恐怖が襲った。空一杯に広がる闇と突如響き渡る不気味な声に人々は足を止める。すると間もなくしてあちこちから聞こえてくる爆発音と悲鳴。得たいの知れない何かが平和だった横浜の街を混乱に包み込んだ。立ち込める黒煙の向こうからその姿を現したのは、高層ビルと肩を並べる程の巨大な鉛色の正しく怪獣だった。口一杯に溜めた炎の塊を街並みへと向かって吐き出した。もう駄目だ、誰もが咄嗟に我が身の最後を覚悟する。
「おい、観覧車の上に何かいるぞ」
「人だ。ゴンドラの上に」
「1人じゃない!・・・5人・・・10人・・・まだまだいるぞ!」
―――が、しかし。怪獣の放った炎は彼らには届かず、やがて誰かがある方向を指差した。周囲も次第に気が付いて口々に声をあげた。大観覧車コスモクロック21に釘付けになる。ゴンドラ一つ一つに誰もが遠くからでも人影の様なものを捉えたからだ。
「おお、そうだ、そうに違いない・・・!」
「「えっ?」」
「世界が闇に染まる時、必ず現れると言われている。伝説の戦士―――」
人々はその言葉に耳を傾けた。そして理解したかの様に皆は声援を送る。
『謎の怪物が横浜に現れ街が危機に曝されましたが、十数人の少女達によって救われました。彼女達はこう呼ばれています。“伝説の戦士プリキュア”と』
危機として迫る表情で今朝のテレビに映し出された信じ難い映像と共にアナウンサーはそう伝えた。これはほんの始まりに過ぎなかった。突如として街に現れた怪獣とそれをやっつけたというプリキュア達。今、こうして一つの物語が動き出そうとしていた。―――っていうところだろうか。だとするならこれは何かのほんの始まりでしかないのだろう。ただ俺は何となくそんな気がしていた。
ー序章・プリキュア 対 フュージョンー
続