笑わない彼にもどうか幸運を。 スマイルプリキュア! 作:新生ブラックジョン
二章
フュージョンは物凄いスピードで空を飛んだ。そいつに捕まったまま強い衝撃と共に急降下を始めた俺の身体はなす統べなく地上に叩き付けられる。ところが、そう思ったまま何も起きないことに恐る恐る目を開くとそこはまだ空中だった。やがて今度こそ静かに地面の上に降り立つと間一髪で命拾いした事を安堵した。俺を救ったのはピンク色の派手な髪の毛をしてコスチュームに身を包んだ彼女―――プリキュア。
「大丈夫?」
「・・・うん」
「危ないから離れてて」
キュアメロディ、スイートプリキュアの1人。彼女の水色の瞳がこちらを見詰める。港に面したとあるコンテナヤード、直後にこの場所で戦いが始まった。火の玉の様な複数のフュージョンの欠片を前にしてメロディは仲間に加わるとそれらを相手に攻撃を仕掛けた。素早い動きで四方に散らばった4人はフュージョン各々を相手取り、コンテナが積み上げられた狭い通路の中を駆け回りながら反撃の機会を窺う。メロディはフュージョンの吐き出したエネルギー攻撃をかわしつつ上空へと飛び上がる。一方、白いコスチューム姿のリズムが気迫と共に再びパンチの連続攻撃に転じていた。それに続けと秤に青いコスチュームのビートも又、矢継ぎ早に蹴りを叩き込むと一番小柄な黄色いコスチュームのミューズは冷静に対処する。しつこく狙って飛んでくる敵に対して的確にこれを避け続けた。
「あれ、星空さんは?」
ふと見上げた視線の先でスマイルプリキュアのキュアハッピーはというと見るからにオロオロしている。出遅れてしまったのか、コンテナの上に1人取り残さた様子であった。
「危ないッ」
周りに遮る物が無く状況を見渡せる一方、敵からも丸見えの状態にある。フュージョンの一匹がハッピー目掛けて飛んで来た。不味い―――そう思ったのも束の間、攻撃を食らった彼女は吹っ飛ばされるだろうと考えた。
「えぇいっ?!」
ハッピーは咄嗟に自らの頭をぶつけた。勢いよく迫ったフュージョンに対抗して一か八か、彼女の見事な頭突きだった。こちらにも確り聞こえる鈍い音、メロディの表情が明らかにひきつる。“ハッピーはずつきをおぼえた!しかしこんらんした!”・・・そんなログみたいなもんが一瞬頭の中を過ったが今は気にしない。フュージョンも目を回したものの、直ぐ様キレ気味にハッピーを襲おうとしたのが解った。そこにメロディがダイブしてドロップキックを決めた為に救われる。あ、ヤバい!なんかフュージョンが今度はこっちに飛ばされてきたぞっ。俺もコンテナの陰に身を隠した。
「“プリキュア・ハッピーシャワー!!”」
彼女の叫びに強い光が溢れた。ハッピーが必殺技を放って見事に命中させたらしく、一匹のフュージョンが倒されたのを確認する。
「でも油断は禁物よ」
「あ、ハイ!」
「残りのフュージョンも片付けなきゃ」
ハッピーへ釘を刺すミューズに続いてリズムの言葉に同意すると残党を目視した一同は再び臨戦態勢に。フュージョンは合体して緑色の個体から一つの紫色をした禍々しい姿となった。が、怯むハッピーとは違いスイート組は一切構えを崩さなかった。これは一つになったなら纏めて倒すチャンスでもあるだろうし、もちろん騒ぎにつられて人が集まってくる前に蹴りをつけようというのだろう。メロディ、リズム、ビートが声を揃えると後にミューズが続く。
「「「翔けめぐれ、トーンのリング!」」」
「シの音符のシャイニングメロディ!」
初めの3人が武器と思われる物を手にして目の前に大きく輪を描き、1人はその輪から沢山のシャボン玉を発生させる。
「“プリキュア・ミュージックロンド!!”」
メロディがオレンジ色のエネルギーリングを飛ばす。それは真っ直ぐに向かって飛んで行き、同じくリズムも叫びながら黄色いリングを飛ばした。
「“プリキュア・ハートフルビートロック!!”」
「“プリキュア・スパークリングシャワー!!”」
ビートは先とは異なったギター形状の武器を手にして構えながら、青緑色のやはりエネルギーリングを発射する。そしてミューズの叫びで一斉に音符の形をしたシャボン玉が放たれた。迫るフュージョンにこちらも4人のプリキュアの攻撃が迫った。三つのリングが重なり、周囲をシャボン玉が覆い尽くす。これらが敵を捕らえて中に閉じ込めてしまうと完全に動きを封じた。
『三拍子!1・2・3!―――フィナーレ!』
掛け声を合わせてまるで指揮者の様にシンクロ。僅かな間をおいて凄まじい爆発が起きるとエネルギーが拡大してフュージョンは跡形も無くなる。きっとプリキュアの浄化の力が消滅させたんだろうな。勇姿ここにありと言わんばかりのスイートプリキュアの活躍にハッピーだけでなく陰ながら見ていた俺も彼女達の見事なチームワークは正直圧巻した。
「何だったのかしら、今の爆発」
「こっちの方から聞こえてきたよ」
「あ!居た!」
「何やっとんねんこんなとこで!」
「あかねちゃん、皆!」
人の気配がして咄嗟に隠れると聞き覚えのある声が揃う。ハッピーが返事する相手はやはり日野達で、今の騒ぎを知ってここまで辿り着いたみたいだ。間も無く、スイートプリキュアが残りのフュージョンの欠片を見つけ出すために立ち去ったと俺達は知った。
「兎に角、無事で良かったよ」
「大丈夫?怪我とかしてない?」
「俺より星空さんだろ、頭大丈夫か」
「アハハハハ・・・」
あの衝突事故は多分暫く忘れないだろう。当の本人は何事も無かったように笑ってはいるが、いや、こいつの頭が大丈夫かについては以前から疑問だったっけな。黄瀬は気遣っていたが続いてスイートプリキュアの話を聞きたがって尋ねてくる。
「どうだった?あー・・・何か凄かった」
「って、それだけかいな」
「例えば、何処がどう凄かったかとか」
「そのままだろ、スゲー強くて凄い。うん」
しごく簡潔かつ解りやすい感想のつもりだったが日野には突っ込まれるし、黄瀬も不満そうに眉を寄せた。確かに多少大雑把かも知れんが。文句あるなら星空さんに聞けばいいじゃねぇか。
「んー・・・」
「真澄、どうしたの?」
「いや。なーんか忘れてる気がして」
「忘れてる?」
俺の態度に緑川が気付き、青木が首を傾げて言葉を繰り返す。忘れた―――携帯を家に置いてきた。・・・ハッとしてコンテナヤードを後にする道すがら、俺は立ち止まってベタな反応をしてしまう。
「うおー・・・・・・忘れてたーーー!!」
はぐれた妹の存在を思い出して叫んだ。星空さん達はぎょっとして1人駆け出す俺の背中を見詰めたまま突っ立っていたが直ぐに着いてくるのが解った。時間をかけて元来た道を引き返していくと赤レンガ倉庫まで戻ってくる。今度は優輝を探してあちこち見て回る羽目になってしまった。
「お兄ちゃん!」
「優輝」
「もーどこ行ってたのさ?」
お前の方こそと言いたいが目を離した俺も悪かったと思ってあえて何も言わないでおいた。因みに妹は近くのカフェテラスでジュース飲みながら大人しくしていたみたいだ。聞けばはぐれて暫しは気づかなかったとか、んで見失ったとわかると近くを探して俺の携帯に掛けたらしい。やっぱりな、基本的に優輝はこういう時に至っては実に冷静だ。
「心配したんだからねっ。いい歳して迷子にならないでよ」
「・・・へいへい」
ついでにやり取りを見ていた日野が小さく吹いた気がするがスルーしとく。兎に角も妹を無事見つけたので今日はもう早いとこ帰りたい。何せ横浜の街中を全力疾走して怪物に連れ去られてとマジ一生分の疲れが溜まっていそうだ。こうして俺達は再び電車に乗って家路につき、星空さん達と別れて真っ直ぐ帰宅した。この時、既に日は傾いてすっかり夕焼け空に変わっていた。
「何だよ、その目」
「ナメてんの、マジ?」
別に舐めてはいない。生憎とそんな趣味は無いし、この時は確か気持ちがいいくらい晴れていて陽射しもそれなりに強くて眩しかった。だから決して睨んだりしていない、ただ目を細めたそれだけだった。残念なことにそれを伝える暇もくれなかった相手は胸ぐらを掴んでグイと自分の方に引き寄せてくる。・・・あれ。そう、これは夢だ。本当なら今頃は自分の部屋の布団の上だから、これはただの夢。
「いや、別に―――」
「あー?聞こえねぇー」
「やっちゃえよ」
俺が発した言葉を被せ気味に掻き消してくる奴と面白がって煽りを入れてくる仲間ども。因みに学校の屋上に居るのだが、面倒な連中に捕まって非常に厄介な状況にある。まぁ、飽くまでこれは一度経験した事を再び夢に見ているだけだ。ところが理解はしていても思った様になかなかいかないとはもどかしい。とっとと逃げ出してあの屋上の扉に向かうなり、いっそ柵を乗り越えてしまうなりすれば覚めるやも知れない。胸ぐらを掴みながら奴はニッと笑うと思い切り突き飛ばした。
「正義の味方気取りか?関係ない癖に引っ込んでろよ。てかさ、お前も一緒に遊びたいってことか」
「・・・」
よし、これで身動きとれそうだ。いや、どうしても立ち上がれそうにない。待て待て、一旦落ち着こうじゃないか。―――よし。少しずつではあるもののどうにかいけそうだぞ。俺はとっとと夢から覚める為にこの場から抜け出そうとそれだけを考える。屋上への出入口の為の扉に視線を向けた。
「どうした?来いよ」
「これは夢、夢・・・・・・よし!」
勢いよく走って正面突破。その筈が意に反して俺の足は動き出す気配が無かった。詰まり、これを夢として自覚しながらに自由に目覚めることが出来ない。
『大きくなりたい』
何処から途もなく何者かが語り掛けるような声。まるでこの場を包むようなそんな響きで声が耳に届いた。
『大きくなりたい・・・大きくなりたい・・・』
その声は繰り返し続ける。同じ事を何度も何度も言い聞かせる様に。心からそれを望んでいるのだろうか、大きくなりたいのか。
『・・・なりたい。大きく、強くなりたい―――・・・りたい!!』
最後辺りはよく聞き取れなかった。俺はそこで目を覚ましたので安心する。でもって悪い夢から覚めたところで時計を見ると今は夜中。帰ってから飯食って風呂に浸かって、そんなごく当たり前の流れで眠りに着いた。散々動いてクタクタだったので爆睡必至は当然と言える。
「大きくなりたい」
夢の中で聞こえたあの声は一体何だったんだろう。思わず口にしたこの言葉にはどんな意味があるのか、夢分析なんて全くしたこと無い。
「大きくなりたい・・・大きく・・・・・・強く・・・」
「なりたい。大きくなりたい、強くなりたい」
「え」
まさか、あの声だ。おいおい、夢から覚めたらそれも実は夢だったよとかいう二段落ちパターンか。ふと天井辺りを見てみると影が浮かんでいた。それは波打ってフワフワと宙に浮かぶ様子を見せ、こっちが微動だせずにいると静かにゆっくりと降りてくる。
「ふ、フュージョン・・・」
「大きくなりたい。フーちゃん、もっと大きくなる」
自らをそう呼び、目の前で漂うこの塊はアレだと思った。どうしてまた俺の部屋にそいつが現れたのかさっぱりだが、流石に自分が寝ぼけてなどいない自覚がはっきりある。てな事で今は俺、我が家にしかも部屋に侵入した危険生物を前に下手に動けない状況に陥っているんだ。えー・・・これこそ夢であってくれよ。
「大きくなりたい・・・大きく・・・・・・」
(さっきからそればっかだな)
「・・・なりたい、強くなりたい」
(強く・・・強くなってどうする気なんだ?)
「あゆみ、あゆみ、ともだち・・・」
「え」
フュージョンはどうやら名前らしき言葉を伝えてきた。そして“友達”という言葉が後に続いたことでそいつへの疑問が増す。
「お前は―――大きくなりたい」
「大きくなりたい・・・俺が?」
「大きくなって、強くなりたい」
「大きく、強く・・・・・・」
まるで直接に頭へ入ってくるように声が響いた。フュージョンの発する言葉、その一つ一つが自分の中へ届く感覚とでも言うのか。大きく、強く、それから―――なりたい。一体何になりたいんだ、どうしたいんだ。
「大きくなりたい?」
最後は自分に向けて問われている感覚がした。大きくて強くて、そうしたら自分はどうすればいいのか答えを見つけなければいけないような気がし始めていた。・・・・・・・・・あれ、もう朝か。時計を見た俺は奇妙な気分で布団を出ると今朝も淡々と一連の習慣を済ませる。トイレ、歯磨き、着替え、朝食と経過して部屋に戻る。真夜中にフュージョンがこの部屋に居たのは間違いない。習慣を終えた時、どういう訳か折角の休日に朝も早くから出掛けることにした。向かう先を既に決めて俺は最寄りの駅を目指す。改札を抜けて丁度よくホームでドアを開けて待つ横浜行きの電車に乗った。
ベンチに腰掛けて遠くの景色を眺める。ランドマークタワー、コスモクロック、中華街、山下公園―――さて、今再びここ横浜をわざわざ訪れたが実は明確な目的があるわけじゃない。これは観光のつもりだったのか何なのか、ぶっちゃけ自分でもよく理解しない内に足を運んでしまったからだ。強いていうなら昨夜のあの声だろう。多分、声が俺をここへ来させたのかもしれない。
「フュージョン・・・」
頭の中に奴の声が残った。大きくなる事を望み、自らに言い聞かせるように何度も繰り返していた言葉。大きくなって強くなりたい、それで?奴は最後に問い掛けていなかっただろうか。こちらに対してそう尋ねたのはどんな理由からだったのか。俯いて一人考えに耽っていると側から何やら妙に賑やかしい気配が近付いてきた。
「きっとこっちじゃないかな、多分」
「んもー適当なんだから。これじゃあ昨日と変わらないっ」
「だって見つけるの大変なんだからぁ!しょうがないじゃん」
長い茶髪、その少女に見覚えがある。言い争うようにオリーブ色の髪をした同い年のもう一人の少女は呆れたような素振りをしていた。暗い紫色のサイドテールの娘と一番小柄で眼鏡をした娘と計4人。
「取りあえず落ち着いてね、二人とも」
「本当にこっちの辺りに逃げてきたのよね?」
「んニャ、間違いないニャ!」
茶髪の彼女に抱えられた白い猫は自信満々に頷く。人の言葉を堂々と喋るその猫にもまた見覚えというか見間違う筈もなかった。スイートプリキュア、フュージョンを何体か倒したプリキュアがそこを歩いている。
「あー!あなたは確かみゆきちゃんと一緒に居た・・・!」
「どっ、どうも・・・」
「ひょっとして、あなたもフュージョン探してるとか?」
北条響がこちらにやって来て声を掛けた。咄嗟に否定してみせたが返事はやや曖昧になってしまった。何せ夜の事が頭から離れないのでフュージョンの事を考えていたのは本当だったからだ。
「あ、こんにちは。挨拶がまだだったよね。私、南野奏」
「黒川エレンです」
「調辺アコ。よろしくね」
突然始まる矢継ぎ早の自己紹介にも上手く反応しているといつの間にか北条さんは隣に座っていた。南野さん、黒川さん、調辺さんからも注目を浴びて妙に落ち着かない雰囲気を味わう。
「ハミィだニャ。よろしくニャ、猫じゃないニャ。ハミィはハミィだニャ」
(いやいやいや、どの口が言うんだよ)
ある意味で一番厄介なのはその妖精だった。先ず、どんなに否定してみせたとてこいつは猫である。誰が何と言おうと、語尾に“ニャ”とかつけてるしゼッテー我輩は猫だと思う。星空さん達が相手だったら即つっこむところだな。後、更に北条さん達の周りを飛ぶ小さい妖精がいてフェアリートーンとかいうらしい。これはドレミの音階を奏でるのだがお○ャ魔女の奴とごっちゃにしちゃいけない。
「もしかして、あなたも・・・プリキュア?」
「違います」
「そうよね。そんな感じじゃないっていうか?」
南野さんが恐る恐るした質問に首を横に振り、黒川さんは何処か気を遣ってか苦笑いを浮かべた。まぁ、確かに一緒に昨日は行動していたし、けれど変身や戦う事は出来ない。それでいて一応プリキュアや星空さん達の正体を知ってはいるからややこしいかも知れない。いや、別に好きで関わってるつもりなんか無い。何度か巻き込まれてしまっただけで決して望んだ事ではない。
「それじゃあ、今日はみゆきちゃん達と一緒じゃないのね」
「はい・・・」
「どうかしらね。この辺りは一応見て回っているけどまだフュージョンは見つかってないの。今のところ安全ではあるかもだけど」
調辺さん、背丈は丁度妹ぐらいである。ということはひょっとしたら歳が近いのだろうか、優輝と比べると大分しっかりしている印象を受ける。彼女は考え込んで少ししてから続けた。
「兎に角、気をつけて。私達も残りの欠片を探してる最中だから、もし見掛けても近付かないようにして」
「あ、ハイ」
「それじゃあ、そろそろ行くね。あ、そうだ。あなた、名前は?」
別れ際に北条さんは尋ねる。名前を伝えると彼女達は笑顔でこちらに手を振った。ベンチから立ち上がった俺は軽く会釈を交えて控え目に手を振り返した。
ヒュンッ!!
ほんの僅かの空を裂くような風の音。反対方向に体を向けたところで直ぐ目の前を素早く何かが横切った。最初は虫か何かだろうと立ち止まるとそうでないことがはっきり解った。もっと大きい、塊のような物が宙に浮かぶ。フュージョンの欠片がいきなり目の前に姿を現したんだとわかった。
「大きくなりたい、大きくなりたい、大きく・・・・・・」
何処かからする声だがそいつからではない。塊が形状を変えながら何やら触手の様に飛ばしてくるのを反射的に捉えた俺は身体ごと反応した。―――いいや、正確には俺は押し倒された。それで避ける事が出来たので間一髪と命拾いする。助けてくれたのは別れの挨拶を交わした秤の彼女だった。
「真澄君、怪我は無い?」
「大丈夫、多分」
「全く。言った側からこれなんて、ねぇ。うん、無事で良かった」
覆い被さる体勢だった北条さんが笑う。彼女の長い毛先が頬に当たってこそばゆい、手を借りて地面から起き上がる。流石に足早に助けて貰ったのは感謝の言葉に尽きる。
「あなたは離れてて。ここは私達が―――」
「「えぇ!」」
「行くよ、皆!」
変身アイテムを手に取った彼女達は光を纏う。服装や髪型、色まで変化して4人はプリキュアに変身した。
『スイートプリキュア!』
メロディのパンチにリズムのキック、ビートのギター型の武器から繰り出される攻撃にミューズの追撃。フュージョンは怯みながらも反撃を起こす。
「ビートバリア!」
エレキギターの音色と共にエネルギーバリアを張って防ぐビート。その向こうから飛び出したメロディとリズムが同時に仕掛けて追い詰める。そこに先回りしていたミューズが出迎えて、敵は見事なチームワークに成す術が無かった。
「ちょっと待って!何か変」
「メロディ?」
「どうしたの?」
「―――見て!フュージョンが、あっちに。あの彼のところに!」
離れた位置から戦いを覗いていた俺目掛けてフュージョンが飛んで来る。今度こそ自分の力で動くと逃れる為に走った。そこにメロディが急降下してきてフュージョンに飛び蹴りを食らわせた。堪らずかフュージョンは俺を諦めて逃げ出していく。スイート組が逃がすまいと一目散に追い掛けるのを見送り、そのまま自分も惹き付けられたみたいに後を追い掛けた。
「私達の攻撃が全然効かない・・・!」
「どうしよう・・・・・・」
「諦めちゃ駄目!」
「メロディ!」
そこには既に変身した星空さん達と別のフュージョンの姿があった。但し、他とは見るに異なる様相を呈していることは明白でまるで巨人の様な姿である。逃げたフュージョンはその巨人に合流して取り込まれていた。偶然にも別の場所で戦っていたスマイルプリキュアとこちらも再会して9人の姿が揃う。
「この方達が」
「先輩プリキュアや!」
「は、初めまして!私たち、この前プリキュアになった秤でまだまだ未熟者ですが・・・」
「挨拶は後!」
「力を合わせてフュージョンを倒しましょう!」
サニーやマーチの感激の声にピースが挨拶を交えるとミューズが制し、メロディの呼び掛けにプリキュアは一丸となった。
「あいつらも来てたのか。・・・あれは、誰だ?」
「・・・・・・」
木の陰に身を隠すように少女が見ている。彼女は逃げるでもなく次第に立ち尽くしてプリキュアと怪物の戦いを目撃していた。
「やめて!!」
その時、少女がいきなり叫んだ。プリキュア達の動きが止まり、戸惑いの素振りを見せてハッピーだけが盛大に前のめりになってコケてしまう。しかも先輩プリキュアであるメロディを思い切り巻き沿いにした。叫びの主が駆け寄っていって目の前で止まる。少女はプリキュアとフュージョンの間に割って入るように立ち塞がったのだ。俺は少女が次に発した訴えを耳にして歩を止める。
「フーちゃんをいじめないで!お願い・・・!!」
言葉通りであれば、その行動と合わせるに少女はフュージョンを庇っている。決して嘘には思えない彼女の訴えを前にプリキュア達はただ戸惑った。
「いじめって、そんなつもりじゃ・・・!」
「フーちゃんって、フュージョンのこと?」
「私の大切な友達をこれ以上傷つけないで」
少女の背中越しにフュージョンはみるみると縮こまって、遂には巨人の様な姿から小さなキャラクターじみた人形の様になってしまう。少女はそんな怪物を如何にも大切そうに抱き締めた。複雑そうな表情でリズムはフュージョンを知っているのか尋ねる。
「この前、街を襲った怪物っていたでしょ。フュージョンて言うの」
間違いなく、あの時の大怪獣とも言える鉛色の怪物の一部。ハッとした様子で抱き締めていた、今は小さな人形の様な姿のフュージョンを少女は見詰めた。
「フュージョンをこちらへ渡して。街にも、そしてあなたにも危険が及ぶかも知れない」
「フーちゃんは私の友達なの。絶対に渡さない!」
ミューズの呼び掛けに背を向けて少女は言い返すと走り出した。
「待って!」
「ハッピー!」
追い掛けようという彼女の手が届く前に少女に抱かれたフュージョンがハッピーを遠ざけた。吹き飛ばされる彼女の元にメロディ達が駆け寄る。プリキュアから逃げるように走り去る少女の背中を見ながら、俺は少女の言葉を反芻していた。
『いじめないで!』
少女の言葉に別の少女の声が重なり出した。それを聞いたあの日、空はとても青くて雲なんか一つも無かった。今の空はあの時の空に比べると不穏な気配を漂わせる。まるで嵐の前触れか真っ黒な分厚い雲が次第に空を覆い尽くして昼間にも関わらず気付くと周りは暗い。フュージョンと共に走り去っていく少女の姿を追い掛けた俺はそれを途中で見失い、住宅地の通りで立ち止まった。空一面が雲に遮られて陽射しが届かない。
『リセット―――リセット―――リセット・・・・・・』
やがて不気味な声が響き始めた。街全体を蠢くその姿が徐々に明るみになるにつれ、フュージョンの欠片らしき塊があちこちから飛び出してくる。恐怖と混乱が横浜の平和な街を再び襲う。
続