笑わない彼にもどうか幸運を。 スマイルプリキュア! 作:新生ブラックジョン
終章
―――例え苦難や困難を前にしようとも、どんなに絶望的な状況でも笑顔でいれるとすればそれはどんな存在なのだろう。戦うべき理由があって、それをやり遂げるだけの意思を持つ者。自分の中にある強さを力に変える、きっと余程の術を身につけたほんの一握りにしかままならないのだろう。誰もが強い訳じゃない、特別な能力を持たない凡人なんか到底敵いっこない。そうだ、だから結局は逃げるしかなかった。自分の中には弱さだけが、他には何も無かった。・・・だから。
「もう駄目だ」
何時もそう思う。何をしても努力なんか、全てが無意味に感じられたんだ。どうせ何も変わりはしない、いっそ背を向けて逃げる方がいいんだと。あの時もそして今も、これからだって。キュアハッピー達の尽力も虚しく、俺達はこれ以上無いってくらいの絶望的な状況に措かれていた。海面から持ち上がった氷川丸は徐々にフュージョンが敷いたレールの上を滑り始める。それはまるで死のローラーコースターと言わんばかり、恐ろしい結末を迎えるだけの圧倒的な敗北の匂いを漂わせる。フュージョンはあの船を街中に放り込もうとしているのだが、果たしてそれを食い止める事なんて出来るんだろうか?俺や坂上さんはただこの光景を黙って見ていることしか出来なかった。駄目・・・遂にその言葉が口を突いて出てしまう、しかしそれこそが俺自身の答え。
「ピースは2人を守ってて!」
「う、うん!」
スマイル達が動き出し、レールの上に飛び乗った彼女達はそうはさせまいと立ちはだかる。あろうことか迫り来る巨大な船体をスマイル組とスイート組で受け止めた。少しずつ、だが街の上空付近で氷川丸は動きを止める。
「止まった・・・」
間違いなく。だが、又直ぐに動き出さない保証はない。ハッピー達の体力がある内は抑えておけるだろう、後は何時まで持つかである。すると、案の定事態は万事休すと再び悪化した。フュージョンの攻撃を受けたプリキュアがレールから弾き出されてしまう。ストッパーを失った氷川丸が動き始め、より一層スピードを増してみなとみらいの街並みにそれは近付いていく。
「プリキュアーーー!!」
妖精の声。戦いの行く末を見守っていた小さな仲間が声高に名を呼んだ。―――ドーンという衝撃、地面すれすれに氷川丸が落下。
「ブラック、ホワイト、ルミナス!!」
誰もが諦めかけたその瞬間、寸前に破壊を阻止したのは新たに駆け付けた伝説の戦士達。そのたった3人が氷川丸を食い止め、更に妖精は多くの勇士を呼び寄せる。助けを求める声、希望を託す声援を受けて続々と横浜の地にプリキュアが集まっていった。光の使者に続いて精霊の力を宿し、縦横無尽に空を飛ぶ―――
「ブルーム、イーグレット!!」
ふたりはSplash Star。互いのその手を繋いで何倍にも力を高め、フュージョンの攻撃をも防ぐ。
「ドリーム達も!」
暗雲に包まれた空から降り注ぐ五色の光、共に“奇跡の青い薔薇”の力を宿した戦士。
「プリキュア5と、確かミルキィローズ・・・」
妹に見せられたとある雑誌記事に僅かにあった情報の中にそんな名前があったと思い出した。閃光、フュージョンの集団を瞬く間に捩じ伏せる。一方、キュアパッションは自身の能力を使って氷川丸を瞬間移動するという芸当まで披露する。
「総勢28名です!」
「プリキュアのみんなー!このあゆみちゃんが彼処まで行きたいって言ってるの!力を貸してー!!」
坂上さんの為に伝説の戦士プリキュア、ハッピー達含めて28人は呼び掛けに頷いた。
「行こう、あゆみちゃん」
「うん!」
こうして危機を一つ一つ乗り越えながら目的地を目指して走り続けた。坂上さんはフーちゃんへ会いに行く為にただ前だけ見据えていた。俺は今はただそれに着いていくことで自分が求めるものに近付こうとする。
「あゆみちゃん、もうすぐだよ!頑張って!」
息も絶え絶えの彼女をハッピーは励ます。と、行く手を遮るフュージョンの欠片達がまたもや現れる。
「ハッピー!」
「あ!」
「そんな・・・!」
フュージョンが呑み込もうとした矢先、ハッピーを庇って代わりに坂上さんがその犠牲となってしまった。
黒くて禍々しいエネルギーに坂上さんは包まれた。一体何が起こっているのか、彼女の名を呼び続けるハッピーの声に反応はない。俺は一歩、また一歩と自然に前へ進み出るとフュージョンの起こした闇に手を触れる。
「アカン!何してんねん!!」
「「真澄君!!」
「真澄!」
「っ何を?!」
そんな後ろの声を無視して1人集中した。フュージョンの闇でなく、そこにいる坂上あゆみの声に耳を傾けた。いや、正確には彼女の思いに触れるというべきだろうか。そこにははっきりとした強い意思があった。
「私・・・ひとりぼっちだと思ってた。私の気持ちなんて誰も解ってくれないって―――」
「自分の気持ち・・・」
「でも違った。私は一人じゃない・・・!ちゃんと言えば、気持ちは伝わる。必ず。フーちゃん、私の本当の思いを知って欲しい」
坂上さんの心、真の気持ち、その全てが直に伝わってくる。
「絶対、絶対伝えるんだ・・・!」
そして思いをその意思を強い力に変えていく。坂上さんはフーちゃんへの思いを自らの言葉にして伝えていく。
「フーちゃんの所に行きたい!!」
眩い光が闇を掻き消すように、フュージョンの闇の力を払い除けて坂上さんは今、自分の力で奇跡を起こす。
「想いよ届け!キュアエコー!!」
真っ白なコスチュームと大きなツインテール、この姿は正しく坂上さんがプリキュアへと変身を遂げたもの。29人目―――キュアエコーは新たなプリキュア。誰もが奇跡を目の当たりにして喜びを見せた。
「私、どうしてプリキュアに?」
「あなたにも私達と同じ熱いハートがあるからよ」
地上にゆっくり降り立ち、自ら驚きを隠せないでいるとビートがそう答えた。
「友達を守りたい、そんな優しい心があれば女の子は誰だってプリキュアになれるのよ」
守りたい、優しい心がミューズ曰くこの奇跡を実現したという。・・・まさか、本当にそんなことが。
「行こう、フーちゃんの所に」
「えぇ!」
横浜マリンタワーに向けてハッピーとメロディ、エコーが走る。ここから先、フーちゃんへの思いを伝える為にもう一度走る。俺は答えかどうかも、果たしてここまでやって来て何を得たのかも定かではないが1人納得した。
「皆もキュアエコーを応援して欲しいクル!」
「キュアエコーを応援・・・?」
妖精達が掲げた手に光があった。それはフュージョンの闇に向かっていくエコーを真っ直ぐフーちゃんまで導く道標になる。ミラクルライト、とかいう代物はそれを使ってプリキュアに力を送る為にあるらしい。ミラクルライトの光が流れ星の様に降り注ぎ、エコーの前に光の道を作り始めた。
(頑張れ)
応援によって光の道は輝きを強める。エコーは感謝しながらフーちゃんの元に近付いた。
「フーちゃん、私の為にごめんね。でも、もういいの」
「でも、まだリセットしてない」
「違うの。悪いのは私なの。皆に自分の気持ちをちゃんと伝えないで、学校や町のせいにして・・・」
「友達の望み、叶える」
「もう叶えてくれたよ。フーちゃん、私と一緒にお喋りしてくれたよね。一緒に遊んで・・・ずっと一緒に居てくれた。私ね、そんな友達が欲しかったの」
彼女は全ての思いの丈を真っ直ぐに伝える。これまでの2人が過ごした僅かでも尊い時間、共に過ごした思い出を巡らせながら。
「友達になってくれてありがとう」
「あゆみ、大丈夫か?怖くないか?寂しくないか?」
「大丈夫。だって私にはフーちゃんが居るから」
「あゆみ・・・」
「フーちゃん、大好き」
フーちゃんを抱き寄せると2人は淡い光に包まれる。やがて閃光を発して光の柱が空高く伸び、マリンタワーの天辺から黒い雲を貫いた。町中からフュージョンの闇の力が取り除かれていくと、消滅した建物や人々は再び元に戻った。
「街が浄化されていく」
「きっと、これが本来のフュージョンなんだよ」
「フュージョンってこんなに綺麗だったんですね」
「すごいっしゅ」
他のプリキュア達も驚きながらこの奇跡を見届けていた。しかし―――
「リセット・・・リセット・・・!!」
「リセットはしない。あゆみの望みはもう叶った」
「リセットォォ!!」
意に反して一部の闇の力が燻っていた。フーちゃんの言葉にも構わず、坂上さん達へ襲い掛かる。
「皆!!」
「プリキュア、あゆみを守って・・・!」
「ハッピーエンドを邪魔しちゃダメェェェーーー!!」
スマイルプリキュアが力を合わせて抵抗し、フーちゃんはそんなハッピー達に協力して最後の力を見せる。プリキュア5人の攻撃が闇の力を消し去った。
「フーちゃんはあゆみが住むこの街にいる。ずーっと、あゆみの側にいる」
「ありがとうフーちゃん。ありがとう・・・」
力を使い果たし、消滅した友達に向けて最後の感謝の言葉を伝える。横浜はこうして再び平穏を取り戻した。―――ところが、この話にはまだ少しだけ続きがあった。
エピローグ 奇跡の集合
もう“めでたしめでたし”で終わらせてくれ。・・・一騒動を終えてすっかり平和ムード全開の中、俺の後ろから聞き捨てなら無い話が飛び込んでくる。
「真澄君も一緒に今度遊びに行こうよ」
「俺は別にいいけど」
「よし!決まりだね!」
「いや、そうじゃなくてな」
何ッ、そうか言い方が不味かった。そんな訳で彼女達の待ち合わせの約束に加わることになる。都合のいいことに今度の休日、なんとあのプリキュア全員が予定を合わせて集まるという。いやいや、俺は関係ねぇじゃん。・・・ピンポーン。そして当日、今朝も早くから家の電話が鳴り響いた。布団の中で丁度今、目を覚ましたところだった。母が応対するやり取りが微かに部屋の中に漏れ聞こえる。直後、俺を呼ぶ声がして二階への階段を上ってくる足音が迫った。
「お友達から電話。遊びに行く約束してたんでしょ」
「・・・あー、ハイハイ」
携帯の電源は切っていた。時計を見ると既に待ち合わせ時間、こりゃあ完璧に寝過ごしたな。そもそも乗り気しない約束だったからな。母から渡された子機を耳にあて、寝ぼけ半分で日野の文句を聞き流す。一先ず身支度して家を飛び出すと俺は待ち合わせ場所に向かう。
「おーい!」
「遅いでー!」
「ったく、ハイハイ」
しかしここで疑問なのは駅前集合でなく、近くの商店街である事。しかも星空さん達は一件の古本屋の前で俺を出迎えた。
「ここで何するんだ?」
「フフフ、これから行くんだよ」
「いや、だから今から駅に行くんだろ」
わざわざ寄り道する理由がわからないが星空さんは店先に並んだ本棚をふと指差す。益々理解できないでいると今度はそこから本を一冊抜き取る。やっぱりまだちんぷんかんぷんであるが、ここで彼女は更に右へ左へ棚の中の本を移動させた。隙間を作って配置を変えているんだろうか。
「ほな、行こうか」
「だから、今から駅に急ぐんだろ」
「事情は後で説明するからさ」
日野と緑川が背中を押した。すると今度は本棚の辺りから強い光が発せられて星空さんも俺もその中に包まれていった。―――何が起きたのか、目を開けるとそこは今見ていた景色とはまるで違っていた。古本屋も商店街も無く、そこか何処かの街並みだという事だけ把握する。
「なぁ黄瀬、これは・・・」
「あっという間でしょ?」
要するに本棚を秘密の通路にした瞬間移動、いや、全く以て理解しがたい。図書館がどうとか秘密基地が何とかって話も頭に入ってこない。そういえばあの時、確か星空さんと一緒に変な場所に入り込んだ事があったっけな。彼女達は今、どうやら遅刻ギリギリらしくて電車でなくこの方法で七色ヶ丘からこっちまで移動した、因みに俺自身もだ。さて、こっから直ぐ近い集合場所に向かう。
「おーい!みんなー!」
そこには大勢、そりゃもう沢山のプリキュア達。山下公園の広場らしきところに集まっていた。星空さんが大きく手を振ると何人かが手を振り返した。スマイル組は合流を果たすと早速と秤に談笑を始める。やや離れて様子を眺めながら俺はなるだけ気配を消しておこうと考えた。しかし―――
「こっちこっちぃぃぃ!」
「・・・」
「真澄くーん!」
放っといてくれないか。だーもうっ、呼ぶな!こっち来んな!ズルズルと引きずり出される俺を見て何やらプリキュア達の反応が気になる。
「おー、きたきたー」
「初めまして!」
「よろしくね」
矢継ぎ早に挨拶の波が押し寄せるので顔はひきつったままだ。何だ、もうこれって逃れるのは不可能か。・・・ともかく、どっと疲れたので一先ず腰を落ち着けたい。直ぐ側にあったベンチへ力なく座り込む、で、そんな俺に北条さんが近付いてきて話し掛けるのだった。
「今のお気持ちを一言!」
そんな無茶振りをしてくる小柄な少女。一言も何も頼むからこんなのは止めてくれとそう言う他にない。今の気持ち?あぁ、早く帰りてぇよ。
「えりか、困ってるじゃないですか」
「だって気になるんだもん。ズバリ、そこんところどーよ?」
来海さんは人をジロジロ見る目付きで如何にも知りたそうにしていた。俺のような、つまりは何の力も持たない一般人が何故に星空さん達に同行していたか。―――彼女達、ハートキャッチプリキュアは4人。花咲つぼみさんの他に明堂院いつきさん、そして何と高校生であるという月影ゆりさん。やたら大人びて見える容姿に加えて物腰も落ち着いた雰囲気でいる。明堂院さんは武道も嗜む生徒会長という、これがまた実に個性的なメンバーだ。
「騒がしくてごめんなさいね」
「今のはあまり気にしなくて良いからね?」
であればお言葉に甘えよう。よし、北条さんに呼ばれて挨拶も済ませた事だしさっさと引っ込むとするかな。
「「こんにちは!」」
「うぉっ」
「みゆきちゃん達と一緒にいた子だよね。私、夢原のぞみ」
「桃園ラブです。改めてよろしく」
キュアドリームとキュアピーチだったろうか、この彼女達は。快活そうでグイグイ来る感じ、正に苦手なタイプだ。プリキュア5とフレッシュプリキュア、なかなか騒がしそうだ。
『いっただっきまーす!!』
俺はここに居る意味を見つけるとしよう。―――大勢で一斉に中華まんへかぶり付く姿、主に大口開けて丸呑みにでもするんじゃないかという勢いを見せる何人かの女子。
「ムグッ!?」
「ほらほらしっかりして!」
全くだ。案の定、お約束かと言わんばかりに喉に詰まらせて窒息寸前だ。そんな光景を眺めてつくづく何を見せられているんだと疑問に思う。
「ってお前もかよっ」
「ゲホッゲホッ・・・ありがどっ」
「なぁ星空さん」
直ぐそばで目の前と似た状況をソッコー再現していたので、彼女を面倒見よく介抱してやってから尋ねた。
「何で俺を連れてきたんだよ。俺は関係ないだろ」
「そんなこと無いよ。真澄君だって皆と一緒に遊んだらきっと楽しいと思う」
「いや、だから一緒に遊ぶとか訳がわかんねぇよ」
「わかっとらんなぁ自分。関係、大アリや」
中華まんの包みを手にやって来た日野がチチチとこれ見よがしに人差し指を振った。
「どういうことだよ」
「どうもこうも。自分で確かめて来るんやな」
俺の背後に回ってグイグイと背中を押す時の表情で嫌な予感しかない。最前列に持ってかれた時の自分はどんな間抜け面なんだろう、きっと酷くアホっぽいぞ。
「本当にビックリしたよ。あゆみちゃんもすごかったけど」
「あのフュージョンが襲ってくる中を走り続けるなんて」
えーっと・・・・・・北条さんと調辺さん、何やら2人が話す言葉に耳を傾けていたその他の視線が集まる。
「あなた度胸があるね」
「あゆみちゃんを助ける為にそこまでするなんて」
誰かと思ったらひょっとして俺についての話なのかなこれ。美墨なぎさ、日向咲さんが驚きの声と共に関心を向けてきた。
「真澄君、だっけ。ホントに凄いね、ビックリだよ」
「いやぁー・・・。凄いのはそっちじゃない?」
「え、私達が?」
自覚無しかよ、プリキュアなのに。あんな怪物と普段から戦ってる癖にそういえば皆そんな感じだ。そうだ、こうして見ていると大して違わない。何処にでもいる普通の人、友達同士でお喋りしたり遊んだりしているだけだ。
「プリキュアなのに」
「うーん、そうだけど・・・特別なことなんて何も無いよ。あたしとか美希たんやブッキー、せつなだって皆同じだよ」
「私達はただ、そうしたいから立ち向かうんです。どんなに怖かったり、ちょっぴり不安でも」
「大切なものを守るために。自分に出来ることを私達はする」
だけど変だやっぱりおかしい。その自信はどこからやって来るんだ、何でそんなこと言いきれるんだよ。―――俺は守れなかった。何の力も無かったあの時がそうだった。たった1人で何が出来たっていうんだよ、逃げるしかなかったんだ。
「私は一人じゃない」
キュアエコーに変身した坂上あゆみの言葉。何故かそれが頭の中にふと浮かんで過る。青い空の下、俺を含めたプリキュア達の横浜探訪はその後もまだ続いた。楽しげで騒がしい、そんなどこにでもありそうなごく普通のありふれた時間はあっという間に過ぎ去った。
特別編・完