笑わない彼にもどうか幸運を。 スマイルプリキュア!   作:新生ブラックジョン

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思っていたより早く書き終わりましたので投稿します。


3 ピースサイン

空を見上げているともう何もかもどうでもよくなる、それまでの事なんて全部忘れてしまう。青空へ浮かぶ雲の形を眺めると段々気が遠くなっていく。ああ、このまま何処かに飛んでいってしまいたい―――

「なぁー、何でこっちこうへんのー?」

・・・無理か。何だよ、折角人が感傷というか黄昏というか、浸ってたのに。昼食の手を止めていた俺に対し、その同じく離れた場所に居た関西娘が声を掛けてくる。放っといてくれないかね、全く。

「はぁ・・・」

「おーい、元気無いのー?そういう時こそ、スマイルスマイル!だよー」

「―――ったく。可笑しくもないのに笑えるかよー」

「ほんなら、ウチが一発笑わせたろか!な!」

いやいや、結構ですってば。・・・ホント、早くここから逃げ出したい。教室で昼飯食おうとしてたら、星空さんが声を掛けてきた。で、そこにあの日野も加わって、正に断ったにも関わらず強引にここまで連れてこられたとそういう事なのである。屋上にある備え付けのベンチに仲良く座るのもしゃくだし、2人から極力離れた所にポツンと居た。昨日の今日でハッキリ言った筈なんだが、あの星空さんは懲りずに関わろうとしてくる。きっとあの能天気さだから忘れてしまったに違いない。はー、やれやれだ。

「あんまりシケた顔しとったらあかんでー」

「そうだよ、ハッピーが逃げちゃうよー」

「うるせーよー」

飯くらい黙って食えないのか。俺は弁当の中身を摘まんで口へ運ぶと、再び頭上を向いて空を見始める。

 

「凄い!黄瀬さんっ」

 

「うわぁぁぁ!?見ちゃダメぇーーー!」

 

「むっちゃ上手いやん!」

 

そうしていると又騒がしくなり始めた。何々、今度は近くに居た黄瀬に絡んでるのか。しかしなんちゅー声出しとんねん。いけね、関西弁移った。黄瀬は見事に体を丸めて縮こまる。

「それ、自分で考えたの?」

「うん、私・・・こういう絵を描くのが好きなの。でも、子供っぽいよね」

「ううん、そんな事無いよ。私だって絵本が大好きだし」

「やよいにこんな特技があったなんて知らんかったわ」

「クラスの皆にも見せれば良いのに」

「―――は、恥ずかしいよ。どうせからかわれるもん。2人共、皆には言わないでよね!」

そうこうして彼女、黄瀬は星空さん達に念押しして屋上から去っていった。俺もさっさと弁当食ってここから立ち去るとしよう。

「どうしてみゆき達と一緒に食べないクル?」

「あ、変な生き物」

「変な生き物じゃないクルゥ!キャンディクル!」

「・・・キャンディ。別にどうでも良いだろ。・・・・・・じゃあな、ご馳走さまっと」

日野とあのキャンディ?とか言う生き物ともこれ以上関わらない方が良さそうだ。って事は、要注意人物が2人、正確には1人と一匹追加となる。あー笑えない、実に。

 

 

 

「皆さん、お静かに。校内美化習慣のポスターコンクールまで残り僅かです」

何でもクラス委員から大事な話があるとの事。クラス対抗だというそれの何でも我が二組だけがまだ代表を選んでいないという状況らしく、午後の授業が終わってやっと解放されるかと思いきや、帰りのホームルームが急遽行われた。話し合いにより決まるまで下校は望めそうにないな。クラス委員の1人である青木の口調からして今日中に決めなければいけない雰囲気が伝わってくる。だが、その彼女の呼び掛けに対してクラスの反応はイマイチ。因みにこの俺も話し合いなんて最初から上の空。一応眠気には耐えて、辛うじて意識を保ち続けてはいるが。

「誰でも良いんじゃなぁーい」

(左に同じ)

「じゃあ、あんたがやりなさいよ」

「っやだよ・・・!」

緑川が隣の席の奴を睨む。彼と同じ以下同文。頼まれても出来ればお断りしたい。・・・しかしあれだ、このままじゃ何時まで経ったって決まりそうにない。その内、クラス全体で大規模に押し付け合いが起きるのも時間の問題だ。佐々木先生もやっぱり今日中でなければ間に合わないと念押ししている。

「推薦でも構いません!」

青木の言葉に教室中がより一層しんとした。ヘタに目立って注目を浴びたくないという心理が働いたのだろう。激しく同意だ。が、突然星空さんが反応を示した。そして沈黙の中、彼女は堂々手を上げる。まさか自分がやろうというのだろうか。ま、これですんなり決まればそれだけ早く帰れるしいっかな。

 

「黄瀬さんが良いと思います!」

 

何と。皆も同じ反応を示す。何故彼女が?どうして。純粋な疑問の声があちこちから沸き起こって軽くザワついた。それに何より―――

「えぇぇぇーーー!?」

「ウチも賛成!」

「えぇぇっ・・・・・・!!」

黄瀬本人が一番ビックリしている。しかも星空さんに続いて日野までが推薦した。離れた席だが、振り向いた黄瀬の慌てふためく表情が窺える。うわぁ、カワイソ。でもって、他に意見もないらしくてその呼び掛けに誰もうんともすんとも言わなかった。よく見ると何人かはそっぽ向いてる。ははぁ、押し付けようって魂胆だな。うん、実は意義なーし。黄瀬には同情するけど。

「黄瀬さん、引き受けて下さいますか?」

「―――・・・・・・コクリ」

「はい、では黄瀬さんにお願いします」

パチパチパチ。という訳で校内美化習慣のポスターコンクール、二年二組代表は黄瀬に決定しました。・・・あー、やっと帰れるぜ。本人も断らなかった、いや、断れなかった?し。一件落着だ。

「星空さん、どうして私を推薦したの・・・?」

「だって、黄瀬さん絵が上手いじゃない」

へぇ、そうだったんだ。俺また、てっきり彼女を生け贄にしたんだと秤・・・おっと口が過ぎたかな。

「やよいなら、きっと優勝出来る!」

・・・きっと優勝、ね。あんまり期待持たせるのもどうなんだか。そう言ってビリとかだったらどーすんだよ。

「―――な、灰谷!」

「いや、知らねぇよ。絵なんて見たことないもん」

「ほな見せたるわ。やよい、さっきのスケッチブック貸してー」

「えっ、何?」

黄瀬が鞄から取り出した一冊のスケッチブックを引ったくる様に手にし、日野は帰ろうとする俺に向けて中身を披露した。

「どや、中々のもんやろ」

「日野が描いたんじゃないだろ」

「あぁぁぁっ!ダメぇ!!」

黄瀬は顔中真っ赤っかにしてそれを奪い返す。だから、なんて声出してるんだ。裸見られたみたいなリアクションすんなよ。・・・ま、確かに結構絵心ある方じゃん。上手い。

「―――大体、2人は何も知らないからそんな事が言えるんだよ」

俺達は廊下を歩いて美術室に顔を出した。何やら人だかりが出来ていて盛り上がっている様子。

「どれどれ?」

「あ、あれとちゃう」

「いや、何で俺まで着いてこなくちゃいけないのよ、ったく」

「蘇我君は美術部の部長で、コンクールで入賞したこともある天才」

・・・となんとやらは紙一重ってか。筆振り回してアートは爆発だーとか叫んでやがる。何がおぉーだ、テメーら。

「ミカワさんは少女漫画を描くのが得意な学校のカリスマ」

ベレー帽姿で真剣に黒板へ、落書き・・・おっと失礼。素敵な絵を描いていらっしゃる。漫画家みたいだな、成る程。

「ナルシマ君は、女子を美人に描くのでモテモテ」

大勢の取り巻き、女子ばっかの中に鉛筆をそれらしく構えるナルシスト君・・・じゃなくてナルシマ君ね。ふぅん、確かにモテるみたいだな。って、さっきからどーでもいいっつうの。

「確かに、強豪揃いやな」

「・・・とんだ強豪達だな。で、何で俺までライバルを偵察せにゃならんのだ」

「私なんか、絶対ムリだもん」

「やる前から諦めるなんて勿体無いよ!」

「あ、無視」

「頑張ってやってみようよ」

「でも・・・私泣き虫だし自信無いし、本番に弱いし―――」

何もそこまで言わなくても。すると日野が取り消しの為に青木の下に向かおうとした。確かに本人が嫌がってるもん無理矢理やらせるのは違うだろう。俺は早く帰りたくて押し付けたけど。

「待って!あかねちゃんっ」

「え」

「黄瀬さん。私ね、本で読んだ事があるの。絵は心を映す鏡だって」

「どういうこと?」

星空さんは引き止めると語り出す。何かそれっぽい本でも読んだのだろうか。

「黄瀬さんは確かにちょっぴり泣き虫かもしれないけど・・・とても優しくて思いやりたっぷりで、だからそんな格好いいヒーローの絵が描けるんだと思う」

「みゆきの言う通りや」

ほう、よく知りもしない相手にそこまで言えるかね。・・・どうして解るんだろう。

「確かに結果は解らないけど。もし、黄瀬さんが少しでもやってみたいなら―――」

「・・・・・・私、やってみたい」

黄瀬の眼差しが変わった気がした。さっきまで自信の無さが窺い知れる目をしていたのに。そんな彼女の瞳に決意が表れた気がする、いや、実際そうだった。はっきりと自分の意思でそう口にしたのだ。星空さんの言葉が黄瀬の背中を押した、のか。

「私達も手伝うね!」

「―――ふたりともぉ、ありがとう・・・!」

「えぇ!?あわわわわ・・・!?」

「ほんまに泣き虫やなぁ」

うん、否定のしようもない。・・・・・・・・・・・・・・・・・・で。

「右手でピースサイン、足はもうちょっと前!上体を右に捻って―――そのままストップ!」

やっとこれだというポージングが定まったらしく、黄瀬は画板に挟んだ画用紙へ鉛筆を走らせ始めた。モデルは星空さんで、今彼女は屋上でモップ片手に決めポーズをしている。何でモップが居るんだろう。

「だから、何で俺まで付き合わなきゃいけないんだ」

解せない、すこぶる解せない。ここに居る必要ねぇじゃん。

「~・・・灰谷くぅん。少しだけ変わってぇ・・・!」

やだよ、絶対お断りします。黄瀬が描き始めて何分経ったろう。星空さんは小刻みに体震わせてこっちを見てくる、辛そうに。ぜーったい嫌だね。しかも鞄から勝手にキャンディが出てきて誤魔化すのに苦労した。星空さんが。ちゃっかり絵のモデルに加わってやがる。黄瀬は絵に集中してるからか、あのぬいぐるみが喋る事に関しては深く突っ込んでこない。・・・さて、早いとこ帰ってしまおう。

「お待たせー!」

げぇっ、日野が帰って来た、不味いな。てか何処に行ってたんだ。

「あぁ!灰谷!逃げたらあかんでっ。あんたも手伝いや」

「いや、だから何で・・・」

「乗り掛かった船って言うやろ?ついでやついで」

何がついでだよ、無理矢理その船に引きずり込んだのはお前らだろーが。・・・あー関わりたくないのにぃ。

「差し入れ持ってきたで」

そういう訳か。日野が袋から取り出したのはソースが香る熱々のお好み焼き。関西人らしい、しかしマジでお好み焼きとは。紅生姜と青海苔が程よく載っかった、ソースにマヨネーズ、その上に鰹節が踊る美味しそうな生地。正しく大阪風。

「ウチの家、お好み焼き屋さんやってんねん」

「「へぇ!」」

どうりで作りたて感ある。自宅の店で焼いてきたんだな。確かにこれは、うん。

「はい」

「え」

「あんたの分。食べないん?」

「美味しいよ、あかねちゃんのお好み焼き」

「・・・うん」

「しっかり食べて絵のモデル、頑張らな!」

ああ、結局それ・・・。その後、4人で美味しくお好み焼きを平らげてポスターの絵を描くためのモデルも確りやらされた。このポーズ、マジで恥ずかしい。おい、笑顔なんてどーでも良いだろ。晒し者じゃねぇか。あ、今誰かそこに居なかったか?!

「集中しいや!」

「腕下がってるよ!」

「うるせぇ・・・!」

「ほれ、スマイルスマイル」

「・・・だから、そういう状況じゃねぇだろっつうのっ」

こうなったら差し入れの分は働いてやるよ!放課後はあっという間に過ぎていった。後、長時間に渡る変なポージングのせいで翌日は体の節々が痛んだ。お陰で筋肉痛だよ。こうなったら何がなんでも完成させろよ、黄瀬。――――それからというもの。黄瀬は学校でも隙を見ては少しずつポスターを仕上げていったようである。昼休みも食事を後回しで1人黙々と色を塗っていた。気付くと俺も、星空さんや日野程では無いが頑張っている黄瀬の姿が目につく。で、珍しく本に熱中して誰も居なくなった教室の中、夕暮れ時の光を浴びていた時だった。廊下の方から3人が顔を出した。

「完成したんだよ!」

「やよい頑張ってたもんな」

「・・・うん」

「“校内美化ヒーロー・クリーンピースマン”」

実に黄瀬らしい絵だった。彼女はやや赤くなりながら手にしたポスターを俺に見せてくれる。ははぁ、モップ持たされたのはこの為だったのか。キャラクター性があって個性の強い、クリーンピースマンというヒーロー。隅にはしっかりキャンディも描かれていた。

「―――良いんじゃねぇの」

「ね!そうだよね!」

思わずそんな感想が漏れた。星空さんと日野はまるで自分の事の様に喜んでいる、そんな印象。後は提出して作品として貼り出されるのを待つ秤。けど、そう上手くもいかないもんだ。黄瀬のあの時の背中が忘れられない。結果の発表と共に各作品が張り出された日の事だった。

 

 

 

 

俺は別にいいって言ったんだけど、今朝来て早々に星空さんと日野に捕まって連れていかれた。校内の一番、人目につくと思われる学年の掲示板前。校内美化促進の目的だろう、クラス対抗のポスターコンクールの結果発表が大々的に行われていた。人だかりを作るのは恐らく参加した代表の友人とかが主だろう。後ろの方では掲示板に貼り出されている筈のポスターを中々見る事が出来ないという有り様。しかし星空さん達が人混みを掻き分けて出来た道をすんなりと進み、代表達の個性が各々発揮されたポスターを目にした。

「あ、黄瀬さん!」

「どうやった?」

彼女は黙ったまま2人から掲示板に視線を移す。銅賞・・・成島。あ、あのモテモテの奴。続いて、銀賞。名前を見た限り男子か。色使いが女子っぽい。そして、金賞・・・・・・・・・蘇我。流石は美術部の部長といったところ、堂々のトップ。入賞経験もまぐれじゃなさそうだな。で、クリーンピースマンは―――

 

「努力賞」

 

星空さんが先に見つけた。努力賞・・・惜しくも入選ではないがその名の通り頑張りを認められた証しであるだろう。まぁ、認識としては落選じゃないだろ。一応、フォローのつもりでもある。黄瀬は申し訳なさそうに俯いた。

「折角、3人に手伝って貰ったのにごめんなさい」

「でも、努力賞だって凄いと思うよ!」

「そや!ウチはやよいのポスターが一番輝いて見えんで!」

「うん!」

えっと、俺も直接フォローした方が良いんだろうか。あ、日野は小突いてくるし、星空さんもチラチラ見てくる。うわぁ、こういうの気不味いなぁ。ヘタな事言えねぇし。

「・・・ど、努力賞も賞だろ。な」

ぐうぅわぁぁぁーーー、月並みな事しか言えねぇ!フォローにもなってねぇじゃん。

「「そうそう!」」

「・・・3人共、ありがとう」

「そんなの、負け惜しみだよ」

いやいや、俺が言ったんじゃないぞ。振り向くとそこには爆発野郎こと蘇我部長率いる男子軍団が居た。因みに偉そうな事垂れてるのは蘇我部長・・・の取り巻きその1。うん、名も無きモブキャラ君。ま、俺もクラスとかでそんな感じだし人のこと言えた義理じゃないが。嫌味ったらしいなぁ。

「誰が見ても、蘇我部長のポスターが一番芸術的で優れているさ」

「そんなふざけたポスターと比べられちゃ困るよ」

・・・うん、そりゃあね。芸術的なんだろうね、部長なんだし絵も上手いんだろうきっと。でも、あんたらマジで性格悪いな。この俺がそう思うんだから間違いない、うん。だって初めて見た時から何か気に食わなかったもん。あぁ、こういう奴らって何処にでも居るんだよな。めんどくさい。

「ちょっと!あんたらなんやねん!」

「そうだよ!黄瀬さんだって頑張って描いたんだから!」

星空さんと日野は必死に庇った。そりゃそうだ、実際その姿を見ているから。誰より近くで応援もしていたし。黄瀬はちゃんと努力してた。・・・あれ、俺なんでこんなまともな事言ってんの。

「・・・止めて、2人共。もういいの」

 

ビリッ!

 

「黄瀬さん?!」

彼女は貼ってあった自らのポスターを無理矢理剥がすとそのまま何処かに走っていってしまった。―――そう、この時の背中ったらそれはもう・・・。

「何してんねんっ行くで!」

「1人にしとけよ」

「けどっ―――」

「行こう。放っとけないもん」

しゃーない、俺達は後を追い掛けて外まで飛び出した。こういう時って1人になりたいもんだろ、それを他人がとやかく言うのはどうなんだ。でも、何か気になるんだよな。ま、見つけたら2人に知らせりゃいいか。

「やっぱり、私の絵なんて・・・・・・」

あー、居た。あっさり見つけてしまった。取り敢えず、ここはあの2人に任せて・・・

「―――ハハッ!泣き虫、弱虫!」

「誰!」

「っと、マジで誰だ?」

呼びに行こうとしたところ突如、見るからに只者じゃない容姿をした変な奴が現れた。は?あれって・・・・・・鬼、か。赤鬼だ、身体中真っ赤で角生えてて、確り金棒まで持っている。まるで昔話、それこそ絵本の世界から飛び出してきた様な存在だ。

「お前なんか努力したって無駄オニ!」

あ、やっぱり。“オニ”って言ったぞ、オニって。まてよ、あれがもし本物の鬼だとしたら。

「っそんな事、解ってるよ・・・!でも、絵を描くのが好きだったから・・・!」

鬼の言葉にポスターを抱き寄せながら涙を浮かべる。すると、赤鬼が何かを取り出してそれを頭上高く掲げた。

 

「世界よ!最悪の結末・・・バッドエンドに染まるオニ!白紙の未来を黒く塗りつぶすオニ!!」

 

その台詞には聞き覚えがある。あいつはあのオオカミもどきの仲間か。・・・赤鬼は本を開くと呪文めいた言葉を叫びながら、別に取り出した絵の具のチューブらしき物を握り潰す。その真っ黒くなった手のひらで白紙のページに触れた。黒い絵の具がベッタリへばりつく。すると―――

 

「ハハハッ!人間共の発したバッドエナジーが、悪の皇帝ピエーロ様を蘇らせていくオニィィ!!」

 

空には暗黒が渦巻き、満月では無く赤みを帯びた・・・夕焼け空が一帯に広がった。そして、周りに居た生徒が次々に膝から崩れ落ち、ネガティブな言葉と共にエネルギーを発した。それは赤鬼の持つ本に注がれていく。同じだ、オオカミもどきみたいにバッドエナジーとやらを集めている。黄瀬も倒れてしまう。俺も気持ち悪い。又かよ。

「黄瀬さーん!あ、灰谷君!」

「よぅ・・・」

「はっ?!なんや!」

「赤鬼さん!?」

「“アカオーニ”だ!オニッオニィッ!!」

2人は全く違う敵を前に驚く。自ら、そう名乗ると金棒をブン回して強烈な突風を巻き起こした。あんなの喰らいたくないな、勘弁してくれよ!・・・と、その赤鬼の顔面に何かが張り付く。

「クリーンピースマン?下らんオニィ!」

黄瀬のポスターだ、赤鬼はグシャグシャに丸めてそれを捨てた。

「なんて事・・・!」

「そのポスターは、やよいの努力の結晶なんやで!!」

「努力だと?そんなもんぶっ壊してやるオニ!―――出でよ、アカンベェ!!」

「アカンベェ!!」

うわぁ。この怪物の姿にはドン引かずにいられない。クリーンピースマンを思い切り不細工にした様なピエロの化け物。お腹出てんのが更に嫌。

「みゆき、あかね!変身クルゥ!!」

「うん。黄瀬さんのポスターをこんな姿にして、許せない!」

「せや、ここは一発ガツンとやったろか!」

頼もしい、いいぞいいぞ。2人はスマイルパクトを取り出した。

 

〈―Ready?―〉

 

「「プリキュア・スマイルチャージ!!」」

 

〈―Go! GoGo Let' go!!―〉

 

同時に変身した彼女達は眩い光の中でコスチュームを纏う。別に何にもいやらしくないしそんな感情も湧かない。ピンクとオレンジ色のコスチューム、各々名乗る。

「キラキラ輝く、未来の光!キュアハッピー!!」

「太陽サンサン、熱血パワー!キュアサニー!!」

「お前らがプリキュアか。捻り潰してくれるオニ!!行け、アカンベェ!」

戦いが始まり、赤鬼の指示を受けて動き出した。アカンベェは手にした武器と思われる、クリーンピースマンが所持していた様な巨大なモップを振り回す。ハッピー、サニーは回避して反撃する。やはり凄い、身体能力が高い事に加えて打たれ強い。まともに攻撃食らっても先ず無傷でいられるんだから。

「っ強いな・・・!」

「もぅ!こうなったら!!」

「よっしゃ、ウチも!」

2人は立ち上がると例の気合い込めをする。必殺技で早々止めを刺す気らしい。ちゃんと当たりさえすれば良いんだけど、あれ。スマイルパクトへとエネルギーを収束し、ハッピーが両腕で大きなハートマークを描いた。

「“プリキュア・ハッピー・・・きゃっ、シャワー!!”」

きゃっ?あぁ、敵の攻撃を寸前にかわした。でもその一撃ときたら不発。又かよ!!必殺技っつってんだろーが!

「うぇぇーーー?!こんしんのイチゲキがぁ・・・!」

「面白い顔すんなよ、いちいち。あぁでも、まだあいつが居るか」

「ハッピー!」

「ハッハ!間抜けオニぃ!」

これは言われても仕方ないかもな。だがしかし、プリキュアは1人じゃない・・・・・・行けぇ、サニー!―――俺なんでこんな応援しちゃってんだろ。

「ハッピーがあかんねやったらウチがやらんと!」

てな訳で追撃だ。サニーのスマイルパクトから炎の力が溢れ出し、頭上に現れた火の玉目掛けて一気に走り込む。得意なバレーボール、これなら彼女がやってくれるだろう。

 

「“プリキュア・サニーファイヤー!!”」

 

豪速球の火炎の渦がアカンベェ目掛けて飛ぶ。これは!・・・・・・・・・シュゥゥ!―――はい?えぇっと、サニーファイヤーーー!・・・あれ?

「なっナンデヤ!?」

「ちゃーんと力を込めてないからクルゥ!」

だからさ、そのシステム止めない。こういう事になるんだからさ、アホなの?君達。あんだけ戦えんのにどうして肝心の必殺技が使えないんだよ。そりゃあ戦ってんのは俺じゃないから文句言える立場でもないけどね。だって期待させられてこんなんじゃ浮かばれないよ?

「アっカンベェ!!」

必殺技の発動は容赦なく2人の体力を奪った。怪物は口から禍々しい色のエネルギーを放つ。・・・え、こっち来る。

「危ない!!」

「アカン!?」

その瞬間、ハッピーが俺の前に降り立って庇うように両手を広げた。サニーは俺を守ろうとして向こうに背中を向ける。・・・爆発。地面に体を打ち付けて倒れる2人、こちらは後ろに転がって咄嗟に取った受け身が衝撃を和らげた。イテテ、まさかこっちに飛んでくるとは。

「おーい、平気かー!?」

「ハッピー、サニー!!」

「アッハハハハ!弱い奴が幾ら努力したって無駄オニ!」

「―――無駄かどうか、私にはまだ解んないけどッ」

無事だった、ハッピーとサニーはどうにか立ち上がった。余計なダメージを与えさせてしまった。

「一生懸命描いた黄瀬さんの努力を馬鹿にするのは・・・・・・許せない!!」

「えっ、何これ!?」

「黄瀬さん!!」

ハッピーが叫んだ直後、突如として黄瀬が意識を取り戻す。今ある状況が呑み込めずにあたふたしている。

「えっ、その声―――もしかして星空さん?!」

「わぁぁ!ゴメン!それは秘密なのーーー!!」

「だからっ、そんなん言うたらバレバレやろぉ!?」

「あ、そっかー!」

デジャヴ感満載のやり取り、どうしてそう見事にどツボに嵌まるのが得意かなぁ。後さ、関西弁もかなーり特徴的だからね。アカンベェが又動き出す、早くなんとかしないと。

「アカンベェ!!」

「何っ、うわぁぁっ?!」

「黄瀬!」

動きの予測がつかない、今度はそっちに狙いを定めるのかよ!ヤバい!

「―――黄瀬さんには指一本触れさせない・・・!!」

「星空さん・・・!」

「あっかん!灰谷!やよいを頼むぅ!!」

「あっちくしょう!来いっ」

「え、今の・・・」

「早く!」

敵から距離を取って戦いの行方を見守る事しかこちらには出来ない。アカンベェはモップにしがみつくハッピー達をも振り回した。ヤバい、これは負けちまう。赤鬼には容赦なく止めを指示した。アカンベェがモップともう一つ・・・ちり取りか、その二つを柄で合体させて高速でぶん回す。

「もう、駄目だ―――」

「・・・・・・怖い、怖い怖いっ。でも」

「黄瀬」

「2人は私の、私の大切なっ・・・!」

彼女はハッピー、サニーの下に走る。なんて無謀な、戻れよ。でも黄瀬は泣きながら必死に走った。彼女はきっと恐怖で一杯一杯の筈。けれど2人の下に向かっていく。

「黄瀬さん・・・!」

「何だ、お前は?弱虫は引っ込んでろオニ」

「―――私は弱虫だけど、直ぐ泣いちゃうけどっ。・・・2人は私が勇気を出す切っ掛けをくれた、大切な友達だもん!!」

そっか、本当はポスター描きたかったんだな。今の彼女の言葉で直感した。あと一歩の勇気が出なくて、それで星空さんと日野のお節介が後押しになったんだな。

 

 

「2人を傷付けるのだけは・・・許さないんだからぁぁぁッ!!」

 

 

ピカーーー!!ってこれは!まっまさか。そうだ、この展開は、あれだ。黄瀬が、あいつが―――

 

「何これ!?」

 

「スマイルパクトクルゥ!」

 

「キャンディ?っておもちゃじゃなかったの!?」

 

「そんな事はいいクル!早くキュアデコルをスマイルパクトにセットして・・・・・・」

 

手っ取り早い説明を受けた黄瀬はアイテムを手にした。キャンディに言われた通りに彼女はスマイルパクトへそのキュアデコルとやらをセットする。

〈―Ready?―〉

「プリキュア・スマイルチャージ!!」

〈―Go! GoGo Let' go Peace!―〉

コンパクトから軽快な音がする。飛び出したパフを黄瀬は手にし、リズミカルに両手を打ち鳴らした。

 

パンパンパパパン!

 

光を纏って制服姿から一変し、やはりハッピー達と基本構造を同じとしている様な黄色を基本としたコスチュームを身に纏う。バチバチいいながら胸元にリボンが備わり、髪型も一瞬で変化する。黄瀬やよい、プリキュアとなってその名を―――

 

 

「ピカピカぴかりんじゃんけんポン♪キュアピース!!」

 

 

頭頂部で結い上げられた明るい色の扇状の髪、燕尾服の様な飾りが施された黄色のコスチューム。第三のプリキュアが誕生した。へ?ピカピカぴかりん?何じゃそりゃ。

「キュアピースかわいいー!」

「どうでもいいだろ、そこ」

「じゃんけんポン♪何やそれぇ」

「3人目のプリキュアだと?!」

「これが、私?すごーい!!本物のスーパーヒーローみたい!」

反応は人各々。あ、この場合ヒーローでなくてヒロインだろ。敢えて冷静に指摘してやったぜ。しっかし黄瀬までプリキュア化すんのかよ、どうなってんの。

「アカンベェ!」

「「おぉ!」」

怪物を前にキュアピースの初陣だ、両者睨み合いが続く。ピース、勇ましく構えてアカンベェを睨み付ける。対し、アカンベェ戦闘意欲上々で凶器を振り回・・・・・・なんか実況中継っぽくね。凶器って。

「っうわぁぁぁーーー!!」

逃げたー!あいつ逃げたぁ!マジか、この期に及んで敵前逃亡でありますかっ。さっきの決意は何だったんだよ、しかもこの件も見覚えあるぞ!

「逃げちゃだめぇクル!プリキュアは伝説の戦士クル!」

「そんな事言われたって!怖いんだもん!!」

そうだな、元々こんな状況でそんな説明だけされてもな。それに変身したって中身は黄瀬のままだし。よーし、俺も一緒に逃げよう。アカンベェ追い掛けてくるから!!

「だからっ何でっ!俺、関係無い筈っ!」

「わぁぁぁーーーやだぁぁーーー・・・・・・」

「誰か何とかしろよっ」

 

ドテーーー!!

 

転んだ、転びましたよあいつ。これも見たことあるぞ!早く立てバカ!

「うぅっ嫌ぁぁぁーーー!!」

 

バチバチ・・・ビリリリリィ!!

 

何ですと。え、今この娘何した?何したぁー?!雷、落雷だよな!?は?泣いただけで雷落としたの?!

「何が起こったオニ?!」

「キュアピースの浄化の力は雷クル!」

「雷クル?!」

えぇぇ、コワっ!マジかこいつ。ワンワン泣いて逃げる癖に、泣き虫とか弱虫とかいう割には雷食らわすの!えげつなぁ。泣く子も黙るでなくて泣いて黙らせちゃうのかよ。・・・ハハ、ヤバ。

「スマイルパクトに気合いを込めるクル」

「これの事?」

「「「うん」」」

「いっくよー!」

立ち直ったピースはスマイルパクトを手にエネルギーを収束していく。どんな技繰り出すんだ。

 

 

「“プリキュア・ピースサンダー!!”」

 

 

掲げたピースサイン、チョキ?に落雷が生じた。本人も驚いて声をあげる。そして発声と共に回転を加えて勢いを増し、両手の指先から強力な雷撃を発射した。アカンベェに命中して爆風と共にそいつは姿形を消してしまう。キュアピースによる必殺技、それは雷攻撃での浄化。アカンベェはキュアデコルというアイテムを代わりに残した。クリーンピースマンのお化けは晴れて召されましたとさ。ピースはピースサインしたまま疲労困憊で固まってしまっている。赤鬼は悔しそうに捨て台詞を吐いて姿を消す。空模様が元に戻ると俺の体調も良くなり、他の生徒も意識を無事取り戻した。

「あぁ、ビックリした―――」

いやビビったのはこっちよ。泣いて落雷招来とかどーゆー原理だよ。

「灰谷君、大丈夫?」

「はあ、お陰様で」

「黄瀬さんも今日から私達の仲間だよ」

「よろしく頼むで!」

「私が、伝説の戦士プリキュア・・・!やる!だって、ずっと憧れてたんだもん、世界を守るスーパーヒーロー!」

だからヒロインだろ、勝手に盛り上がるなよ。スーパーヒーローオタクだな、黄瀬。星空さんはそんな彼女に拾い上げたグシャグシャになってしまったポスターを手渡す。日野も何故か申し訳なさそうな表情だった。

「・・・良いの。私、皆と一緒に居て解ったの。本当に欲しかったのは、勇気と後―――あ、あの星空さん」

「何?」

「み、みゆきちゃんって呼んでもいい?」

「―――勿論だよ!“やよいちゃん!”」

「っよろじぐ、みゆぎぢゃん・・・!!」

「何で泣いとんねん?」

本人は否定したがバッチリ泣いてた。でもそれは決して恐れとか弱さからくるネガティブな意味合いでなく、感激して感極まった為に込み上げた嬉し涙だった。

「あっ、あの!」

「何」

「その・・・えっと・・・・・・灰谷君もポスターに協力してくれてありがとう。こっ、これからもよろしくね」

「・・・ああ」

ご丁寧にも彼女は俺にまでそんな事を言った。何をどうよろしくされるのかは解らないが、ま、星空さん達と友達になれそうで良かったんじゃないか。ところで、こんな事があったってのにこれから授業とかしんどいな。早退しよっかな、でなけりゃ保健室に行くか。あぁぁ!殺生な!

 

 

 

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