笑わない彼にもどうか幸運を。 スマイルプリキュア!   作:新生ブラックジョン

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4 マーチングバンド

プリキュアが3人になった。俺はその現場全部に意図せずというか不覚にも居合わせ、お陰でこの前なんてマジで死にかけた。周囲の様子はっていうとこれがまぁ平和そのもの。やっぱりあのアカンベェとかいう怪物が倒されると環境が元に戻って、しかも何事も無かった様に街の人々は立ち直る訳だ。目撃者は居ないし大した騒ぎにならないってのはあいつらプリキュアにとって都合いいな。・・・なんて、俺には関係無いことだけど。学校で唯一のんびり出来る、待ちに待った貴重な時間となる昼休み。今日は珍しく教室を出て中庭に来ている。わざわざこんな所まで来たのは言うまでもない。特に、星空さんは最も接触率が高い。次いで日野も鬱陶しい、黄瀬はまぁ除外で良いだろう。用心に越したことはないからこれまでの経験からこの場所を選択させて貰ったぜ。教室に留まるのは危険だから移動する必要性があった。で、屋上は既に来てるから候補を幾つか検討して、ここ、中庭だ。隅の方に空いたベンチに腰を落ち着け、鞄から弁当を取り出した。孤独上等、気分上々。いただきます―――

「灰谷君」

「偶然やなぁ。こんな所におったんか」

「あ、1人なの?」

「・・・えーえー、どうせ1人ですよ。それが気に入ってるんですけどね」

「良かったら灰谷君も一緒に食べようよ」

「折角、中庭に出て来てんねんから。そうしいや」

ちっ、ありがとよ。ここでごねて断るのも段々めんどくさくなってきたから大人しく従いますよもう。中庭中央の東屋的な所まで移動する。屋根があって陽射しが遮られるから夏場なんかいいかも知れない。あー失敗だった、深読みした秤に。3人はキャッキャと何がそんなに楽しいんだ。あ、弁当の中身?へぇ、これってキャンディだ。黄瀬が自分で作ってきたらしい、女子力あるな。キャラ弁って言うんだっけ。日野が一口貰うと美味しいらしくて感激する。でもさ、ここまで完成度高いと逆に食べづらくね?あ、キャンディは自分で自分の顔食う気なんだ。・・・別に良いけど。

「ちょっとあなた達。悪いけど移動してくれない」

「ここはあたし達の場所なの」

こちらに近付いてきた女子2人組、第一声がそれだった。曰く、何時もここでこの人達はお弁当食べてるから曰くそーゆー訳で指定席になってるから我々にはさっさと退いて欲しいのって事らしい。実に理不尽、でもって威圧的だよな。

 

「何よ、文句ある」

 

こわぁ、何にも言ってませんけど?落ち着いて下さいよ。喜んでお譲り致しますから、ややこしいのは勘弁ですから。

「・・・退くから、今」

「何言うてるん、ちょい待ち。―――そんなん、早い者勝ちと違うんですか」

相手のその睨む様な目付きを前にして直ちに立ち去ろうと決めた一方、日野はそんな俺を呼び止めるや臆せず反論した。傍ら、星空さんと黄瀬は何も言い出せずにおろおろするばかり。上級生らしい2人組は更にその事を持ち出してあからさまな態度を取る。しかし日野は尚も負けじと言い返す。確かに不本意だが余計な争いに巻き込まれるのはもっと勘弁だなぁ。・・・ん、また誰か来た。

「あの、先輩」

「・・・緑川さん!」

「例え先輩でも、後から来て場所を横取りするのはおかしいと思います」

「横取りだなんてっ」

「中庭は皆の場所です。先輩達の言うことは、少し筋が通っていないと思います!」

ビシィッ、決まったな。いや、実に真っ直ぐでド直球な正論が炸裂。まぁ確かに誰の目にもこれは明らかだし、ぐうの音も出ないという奴か。こうなるともう相手は言葉に詰まってさっきまでの強気はどこ吹く風だ。

「そうだね」

「「入江生徒会長!!」」

え、おいおい生徒会長って。話が段々大きくなってきたぞ。あ、2人組メロメロじゃん、解りやすい猫被りだなぁ。女ってこういう時の変わり身早いんだ。そうして2人組はあっさり引き下がってくれたんだが、この天の助けとも思える援護射撃には星空さん達も感謝しきりである。まぁ、何はともあれ穏便に済んで良かった。

「緑川さん、ありがとう!」

「お陰で助かったで!」

「あたしは当たり前のこと言っただけだよ。じゃ、部活の自主練あるから行くね」

気分爽快、風の如く颯爽と現れてはまた去っていく。よっ、さっすが女番長!頼もしいね。

「何ブツブツ言うてるん?」

「別に」

「何や、あれやで。自分、男やろ。あーゆー時は率先して助けてくれな」

「えー」

「・・・ま、えぇわ。ほな、お弁当食べよか」

で、我々を助けてくれた緑川は。ユニフォーム姿でグラウンドを駆け抜け、その足の速さときたら正に駿足。女子サッカー部に於いて一年生から既にレギュラーというのも頷ける。周りにはそんな彼女を一目見ようと多くの下級生が集まって黄色い歓声を上げていた。どうやら同性のファンが多いらしい。星空さんが何かを思い立ったらしく、こうして放課後に覗きに来た。え、俺?勿論、関係無いんだけどね。じゃあどうして居るかって言ったら、何があったかはもう説明も面倒だから敢えて省くよ。試合中、緑川によるゴールが決まると女子共が凄まじい歓声を上げた。星空さんまで感激しちゃってる。

「凄い凄い!ね、凄いよね!?」

「解った、解ったから叩くの止めろよてめぇ。痛いよ」

興奮しやがって、落ち着けぃ!でもってこいつ、堂々宣言しやがんの。

「私、4人目のプリキュアは緑川さんが良いと思う!ううん、緑川さんしか居ない!」

「何処から来るんだその自信・・・」

「えっ、だってピッタリだもん。やっぱり緑川さんだよ!」

「いや、だから―――」

「せやな、ウチもそう思う」

「うん。なおちゃんなら強いプリキュアになりそう!」

えぇっと4人目、オイオイこれ以上増えるっての?マジか。しかも緑川が良いって、どうしようっての。プリキュアになって下さいってお願いすんの。そんなんで良いのかよ、てかなれんのか。何か違う気がする。

「ヨッシャ!突撃やー!」

と思った瞬間、大勢のファンが緑川氏を取り囲んで星空さん達を阻む。まるでプロのスター選手じゃん、差し入れまで貰っている。残念だね、これ近寄れないよ。

「諦めろよ」

「えぇっ、諦めちゃうの?」

「まさか!出遅れたけどっ緑川さぁーーーん!!」

星空さんは構わず向かっていく。実にご苦労な事である、あの中に飛び込むなんて。

「まー、後頑張れよー」

「えっ帰っちゃうの?」

「だって俺、関係無いもん。・・悪い?」

「べ、別に」

おどおどしながら黄瀬は視線を逸らした。あれ、何だコイツ。――――あぁ、今日も疲れた。昼休みの一件といい何かドッと疲労が襲ってくる、そんな感覚だ。でも、それでも構いやしない。何故なら明日は休日だ。昼頃まで寝てたって文句は言われないし、きっと何の邪魔も入らない。有意義に過ごすぞ。先ずゴロゴロする、でゴロゴロする。うん、実に完璧だ。漫画読むかゲームでもするか。

 

 

 

布団の中に潜んでもうどのくらいになるのか、今朝に目が覚めて時間を確認すると大体平日の起床時間と変わらない。だから二度寝してやろうと再び目を閉じたのだけれど・・・・・・・・・眠れん。どういう訳かすっかり目が覚めちまった。うーん、暇だ。ゲームでもやるか。髪もボサボサで着替えもせず、本体を起動させてコントローラーを握る。―――あれぇ、何か違う。よく解らないがこれじゃない感が半端ない。どうして。起きてからずっとモヤモヤした気分で落ち着かない。腹も減らないし、どうしちゃったんだ。俺はふと普段着に着替えると外へ出掛けた。別に行く宛もない、特別な事は何もない散歩。そう言うしかない。言い様のない気分で少し足を伸ばしてみた。住宅地を過ぎて人混みを抜け、で、川沿いに近所というか又一般住宅が並ぶ道に差し掛かる。何してんだろ、俺。

「あぁ!」

「あー・・・」

うそーん、こんな事ありますぅ?・・・星空みゆきさん。因みに今日は休日とあって、ピンク色の私服姿。いや、もうここまで来ると軽く恐怖を感じるんですが。何でこんな形で―――。あれ、更にもう1人居る。

「どーゆー状況」

「私、まだ転校してきた秤だから迷子になっちゃってぇ。そしたら、偶々通り掛かってくれて」

星空さん、そういう訳で困ってたらついさっきバッタリ出会したらしい。彼女、緑川に。こちらも緑色の私服姿で、何やら両手にビニール袋を抱えている。買い物帰りなのだろうか。どうでも良いけど大きさからして随分買い込んだらしい。

「灰谷君はどうしたの?何処かにお出かけ?」

それについては聞いてくれるな、何となく複雑だから。

「えっと」

「ああ、緑川さん。同じクラスの灰谷君だよ。ほら、昨日も・・・」

「灰谷君?・・・えぇっと―――」

そうですよね、うん。お互い初対面みたいなもんだし、まぁ実は昨日会ってるけど。気ぃ遣わなくていいんでホント。寧ろ、目立たない様に普段から意識してるんですよ。いや、マジで。

「良かったら持つよ、手伝わせて」

「本当に大丈夫?重いよ」

「へーきへーきっ!?・・・ぜっんぜんダイジョーブぅ!」

「説得力ねぇよ。大丈夫じゃないだろ、それ」

「はっはは・・・待ってー・・・!」

「―――仕方無い」

その場で別れようと考えたが、三つもあったその袋を一つ持ってやる事にした。これを緑川の家まで運ぶのか。・・・確かに重い。こんなの抱えて歩いてたのか、彼女。で、そのまま荷物持ちとして緑川に彼女の家まで着いていった。星空さん、今にもぶっ倒れそうな気がする。

「2人共ありがとね。もう家、そこだから」

何だ、意外と近くだったな。一般的な住宅地の並びに建つ一軒家があってその前で俺らは足を止める。

「あ、あのね。私、緑川さんに話があって会いに来たの。―――実は、私とあかねちゃんとやよいちゃんでね・・・」

 

バァン!!

 

「うおっ、何だ」

「はい、整列。上からけいた、はる、ひな、ゆうた、こうた」

『こーんにーちわー!』

「こっこんにちわ!」

玄関先へいきなり集まってきた小さな男女、緑川の紹介が始まるとその子供達はきちんと並ぶ。えー、詰まるところ全員兄弟。下に5人とか緑川家は大家族なのか。へぇ、テレビとかで見た事があるけど生で見たのは初めてだ。・・・そっか、あの買い物量もこれなら納得がいくな。

「お姉ちゃんのお友達の星空みゆきちゃん、それから・・・灰谷君。じゃ、荷物運んで」

『はぁーい!』

流石、長女。6人兄弟の一番上だけあって確りしつけてる。統率がとれてるっていうか、弟も妹も皆素直。

「じゃ、そろそろ帰る―――」

「ありがとね、星空さん、灰谷君。良かったら、お昼食べてかない?」

「えぇっ良いの!?そうしようよ、灰谷君」

「いや、あぁ、うん」

思ってもみない突然のお誘い。・・・しまった、了承してしまったぞ。待て待て、休日にクラスメートの女子の家にお呼ばれして昼飯ご馳走になるとか何処のリア充だ。別に嬉かねぇけど妙に意識しちまうな、うわ、変な汗出てきた。

「お邪魔、しまーすぅ・・・」

よし、落ち着け。何でもないんだから、別に気にすることじゃないし。買い物袋を手に上がり込んだ俺達は奥まで着いていく。緑川はエプロンをして台所に立ち、慣れた手付きで早速支度に取り掛かった。まな板でネギを切って非常にテキパキと卵を割ってかき混ぜ始める。うん、星空さんもだけど俺も感心。緑川の両親は今留守にしてるらしく、それで彼女が兄弟の面倒を見ながら料理までするんだとか。

「お姉ちゃん、遊ぼ」

すると、ゆうた君だったかが星空さんに声を掛けた。ツインテールの髪型をしたひなちゃん?が手を引っ張って連れていく。へぇ、人気だな。

「あ、こら!」

「平気平気。私、子供と遊ぶの大好きだから」

なら適任だ、因みに俺は遠慮しとく。さてと、こうなると何をしたらいいのやら。黙って昼飯を待つか、それとも緑川の手伝いとかをすれば良いのか。うーん・・・・・・何気に見回すと家の中は実に生活感が溢れている。クレヨンか何かで描いた動物の絵が貼ってあって、食器棚の中には如何にもうんと年下の子供が使いそうなカラフルなのとか、キャラクターが描かれた小さな皿もあった。

「灰谷君って下の名前は何て言うの?」

「は、真澄」

「へぇ、よろしくね。―――おっかしいなぁ。クラスメートなら大体知ってるんだけど・・・ホント、ゴメンね」

「別に。てかこっちこそ悪いな、家に上がり込んじゃってさぞ迷惑だろうに」

「ううん、全然そんな事ないよ。お昼出来るまで待っててね、ちょっと時間掛かるから」

確かに兄弟や自分の分、加えて俺と星空さんの分まで作るとなるとさぞ負担になるやも知れない。それにきっと、手伝おうとしたところで寧ろ邪魔になるだけだろうな。台所を離れて隣の居間に向かう。おもちゃなんかが散乱していて、ちっちゃい子が居る家にはありがちな光景だ。外には洗濯物が干してあって隅には物置、後三輪車が放置されていた。―――で、子供達の相手をしている筈の星空さんはっていうと・・・

「じゃ、次お姉ちゃん鬼ね!」

「よーしっ追い掛けちゃう・・・ボフッ?!」

「当たったらガオーって鳴くの!」

「そういう鬼っ!?」

「確り、弄ばれてんな」

顔に座布団ヒット!それーそれー・・・ポイポイポイ・・・・・・すっかりいい標的になってます星空さん。ボールやらなんやら投げつけて、緑川家の子供達は実に容赦ない。どうやら彼女1人では手に余るみたいなんだけど、これは助けた方がいいかな。いや遠慮したいかな絶対、うん。

「あそこにも鬼が居るぞー!」

「なにっ」

「わぁぁ、ねずみ色の髪の毛したオニー!」

「待てよ、何でもう既に鬼判定なんだ?」

もうルールなんてあって無いようなものかも知れない、ここは今や無法地帯なんだ。あー、頼むから勘弁してくれ。大人しくお絵描きとかせめてままごとにしてくれないか。長男を筆頭に妹、弟たちが今にも飛び掛からんと臨戦態勢。イカン、このままじゃ巻き添えだ。

「コラー!!2人をいじめちゃ駄目でしょ!」

「うわっこっちも鬼だー!」

遂に長女の雷が落ちた。ふぅ、取り敢えず助かったよ俺は。で―――おーい、星空さーん、生きてるかーい。

「だっ大丈夫ぅ~・・・!」

「いや、だから大丈夫には見えねぇって」

その後、俺達は緑川が作ってくれた昼飯を御馳走になった。居間にテーブルを用意し、兄弟達と仲良くそれを囲む。これは新鮮な光景だった、何せ自分の家では3人の食事だからな。

「お兄ちゃんもなお姉ちゃんの友達?」

そう尋ねてきたのは長男であるけいた君、だったか。いやぁ、友達っつうかただのクラスメートだよな、ほぼ初見の。だからこうして彼女ん家で飯食ってんのがマジ信じらんない。

「別にそんなんじゃなくて―――」

「解った!カレシなんだー!」

「ブフッ!んでだよ・・・」

「こらこら、違うって!おんなじクラスなんだよ。何処でそんな事覚えてくるんだ?」

全くだ。危うく口の中の物を全部ぶちまけるとこだったぜ。だが、今度は次女の・・・はるちゃんって娘が。

「じゃあみゆきお姉ちゃんのカレシさん?」

「えぇっ!?ちっ違うよ!」

「もう、はるまで・・・ゴメンね、ホントに」

「「別に。アハハハ・・・」」

これ喜ぶべき?なぁ。恋愛系フラグみたいなのが立ったって期待しちゃったりすべきなんだろうか。あぁ疲れる、このやり取りは心底疲れる。―――でも、不思議だった。いつの間にかあのモヤモヤとした何かが吹っ切れた感じがする。どうしてだろう。しかしあれだ、飯うまいな。

 

 

 

 

昼食まで御馳走になってすっかり居座る形となった午前中から早くも時間は過ぎて午後。俺は流れ的に星空さんや緑川兄弟らと共に河川敷まで足を運んでいた。

「片付けまで手伝って貰っちゃってありがとね」

「こちらこそ。お昼ご馳走さま、美味しかったぁ!」

3人で土手の上に並んで座り、やんちゃな兄弟達が仲良くサッカーをする光景を眺める。何か腹一杯になったし休日ののんびりとした穏やかな空気感もあって平和そのもの。だからか、目蓋が重いな。

「緑川さん偉いなー、兄弟の面倒ちゃんとみて」

「そんなの当たり前だよ、一番上のお姉ちゃんだもん。それに、弟たちと一緒に居ると楽しいし。あたし家族が大好きなんだ」

あの弟たちと暮らしてりゃ確かに退屈はしなさそうだ。星空さんと遊んでいる姿を見ただけで、あんなのが毎日繰り広げられているんだと思うとうるさ―――じゃなくて、賑やかなのは確かだな。

「・・・うん、やっぱり決まり!」

「え?」

「あのね、一緒にやって欲しい事があるの」

恐らく例の話を切り出す気でいる。だから誘ってなれるもんでもないと思うんだよな、プリキュア。さて、俺はもう特に用も無いから帰るとするか。んで取り敢えず昼寝すっか。

「おーい!ごめんっ、遅なったわー!」

「あかね、やよいちゃん?」

「げっ、何故ここに」

「あれ、まーた偶然やなぁ。灰谷もおったん」

「お待たせー」

「私が呼んだの。皆で遊べば、もっとウルトラハッピーかなーって」

「・・・余計な事してくれるなよ」

日野と黄瀬が息を弾ませて現れた。一体いつの間に呼んだのかは知らんが、この展開ってか面子を見ると又しても大変な事に巻き込まれる予感しかしないんだが。

 

「俺たち兄弟の固い絆を見せてやる!」

 

「ウチらだって、チームワークで負けへんでー!」

 

オオー!じゃねぇーよ。ちょっと待て、ホントに待て。何故この俺も頭数に入ってるよ、え?これからサッカーするんすか。

「細かいこと気にしない!灰谷君も一緒に楽しもうよ」

「しんどい、パス」

「そないに言わんと。ほらっ、しゃんと背筋伸ばしや」

「が、頑張ろうね」

いやいやいや、気にするから。後、普段から猫背気味なんで無理ですよ。参ったな、こういうノリとか諸に苦手なんだから。・・・でもなー、皆やる気になってるしスゲー断りづらいじゃねぇか。

 

 

「絆だとぉ?下らないオニィ!!」

 

 

そうそう下らない・・・・・・いや、何もそこまでは思ってないけど?―――あれ、誰か今“オニ”とか変な語尾付けました?

「世界よ!最悪の結末・・・バッドエンドに染まるオニ!白紙の未来を黒く塗りつぶすオニ!!」

その赤鬼の手によって空には暗雲が渦を巻き、途端に夕焼け空に変化させてしまう。まだ夕飯時には早いんじゃないか、さっき昼飯ゴチになったばっかりなんだぞ。それは世界をバッドエンドとかにしようと言う善からぬ奴、或いは迷惑な敵。途端に緑川家の兄弟、姉妹達は膝から崩れ落ちてネガティブ発言を並べ立てた。

「全然楽しくない・・・」

「・・・帰る」

「家族、そんなもの何時かはバラバラになる―――」

「おい、さっきまで固い絆って言ってたのに」

「アカン、あいつの仕業や!」

「また、あの赤鬼さん!」

いや、いちいち敵に“さん”を付けるのはどうなんだ。赤鬼は本を片手にあの禍々しいエネルギーを集めていく。あれに一体何の意味があるのかは知らんが、良くない事なのは確かだな。あー、ハイハイ。ピエーロ?なんだそりゃ。

「緑川さん!」

 

ドンッ!

 

「良い子はいねがぁー!?」

「それを言うなら、泣く子はいねがぁ?や!」

「突っ込んでる場合じゃねぇだろ」

「お、ウチの突っ込みに更に被せてくるんか!やるやん」

「・・・しまった」

えぇい、どうでもいいからお前ら変身しろよ。・・・そうそう、そのコンパクトみたいな奴使ってさ。パフパフって。

〈―Ready?―〉

「「「プリキュア・スマイルチャージ!!」」」

〈―Go! GoGo Let' go!!―〉

光を、火の粉を纏い、リズミカルに手を打ち鳴らし―――各々コスチュームを纏って伝説の戦士とやらに変身していく。

「キラキラ輝く、未来の光!キュアハッピー!!」

「太陽サンサン、熱血パワー!キュアサニー!!」

「ピカピカぴかりんじゃんけんポン♪キュアピース!!」

「ピカピカぴかりん?じゃんけんポン?前はチョキだったのに、今回は“パー”オニ!?じゃんけん負けたオニーーー!!」

えぇーそうなの!あれ、毎回やる度にわざわざ変えるんだ!絶対要らねーじゃんっ。

「どういうことや」

「今日のぴかりんじゃんけんはパーでした!」

「面白ーい!」

「キャンディはチョキだから勝ったクルゥ!」

「どの辺がチョキ~!?」

お魚咥えたどら猫を裸足で追い掛ける主婦と張り合おうってか、知るか!どうでも良いよ!あ、赤鬼がアカンベェ出してくるぞ。しかも、どうやらじゃんけんに負けた腹いせに。迷惑だなぁ!

「アカンベェ!」

ゴールポストから生まれた怪物はネットで出来た翼で空を飛行する。そんで頭の天辺がパカッと開くと弾丸みたいなもんを発射した。ハッピーは咄嗟に動いてその場に静止する。攻撃先には緑川達が居てそれを庇ってハッピーは瞬時に気合いを込めるとハッピーシャワーを繰り出した。サニーとピースも向かう、しかしアカンベェは全くの無傷で・・・

「うわぁぁぁーーー!!」

「ハッピー!」

攻撃を防ぐ事は出来たが、ネットに絡め取られて彼女は事実上捕獲されてしまう。残りの2人は助けようとしたが反撃された。俺は橋脚の陰に1人避難しながらその様子を窺う。赤鬼は満足そうにふんぞり返り、金棒を担いでゲラゲラ笑った。

「こんな奴放っといて、自分達だけで逃げたら良いオニ!」

「・・・そうはいかへん!ウチらの絆は―――まだそんなに固ないけど!」

「えぇっ」

「これからかたーい絆になるんや!だから絶対に逃げへん!!」

赤鬼に対してそう断言して見せるサニー。ピースも納得の様子でウンウン頷く。・・・ん、緑川?

「絆―――」

「おーいっ、早く逃げろー!」

「・・・灰谷君。これ―――」

「緑川さん!」

「へ、星空さん?・・・何、これ」

驚きますよね、実に、えぇ。その気持ちはよーく解るけど、今は兎に角そこから逃げるべきだぞ。あ、でも他の兄弟達を何とかしないといけないんだ。緑川は状況が呑み込めていないので殆んど放心状態にある。でもな、ハッピーが星空さんだって直ぐ気付いちゃった。まぁ名前呼べばそりゃ気付くね。これは後々説明がめんどいぞ。

「―――ハッ!ごめん緑川さん、私が星空さんかは秘密なの!」

「って!それ言うたらバレバレやーん?!」

「へぇ?あかね!やよいちゃん!?」

ものの見事に自滅するプリキュア共。ほーらー、だから関西弁とかバリバリ解りやすいんだって。ピースまで正体バレたじゃんか、いやいや、俺が心配する事じゃねぇけど。だって部外者だしな。

「何が絆オニ!!仲間?家族?・・・そんなもの、最後は全部バラバラになるオニ!―――だったら今、バラバラにしてやるオニ!」

サニーの言葉を全て真っ向から否定し、赤鬼はアカンベェを動かした。怪物は空から再び襲い掛かり、サニーとピースへ攻撃した。いよいよ不味い、アカンベェは更に緑川一家に狙いを定めている。その時、ハッピーの悲鳴にも似た叫びが轟いた。くそ、こんなのってアリかよ。

「―――だぁっ!!」

緑川が立ち上がった。目の前のサッカーボール目掛けて強く蹴り込む、ボールは真っ直ぐにアカンベェの額を捉えて命中する。やるぅ!

「緑川さん?!」

「家族はバラバラになんかならない!―――私達家族の絆は永遠に消えない!!」

「なんだお前?やってしまえ、アカンベェ!」

「あんた達が何処の誰かは知らないけど、もし私達家族の絆を絶ち切ろうっていうのなら・・・・・・あたしが戦う!!」

迫り来る敵、家族を守ろうと無謀にも立ち塞がる彼女。けれど、そこで奇跡ってのは突然起きるもの。どうやら星空さんが言った通りになったらしい。あの光は間違いない、緑川が4人目なのだ。もう完全確定、彼女が新たなプリキュアに選ばれたんだ。

 

〈―Ready?―〉

 

「プリキュア・スマイルチャージ!!」

 

〈―Go! GoGo Let' go March!―〉

 

変身アイテム、スマイルパクトから飛び出したパフを手にした緑川はそれを使って大きく三角形を描く。光を纏ってコスチューム姿となり、風が吹き抜けて彼女の髪型が変化していく。ポニーテールとツインテールの合わさったトリプルテールは鮮やかな緑色でコスチュームは他のプリキュア達と似た形状でありながらグリーンを基本カラーとしている。

 

 

「勇気リンリン、直球勝負!キュアマーチ!!」

 

 

ハッピー、サニー、ピースと続いてマーチ。直球勝負とか正しく彼女らしいのではないか。いやぁ髪スゲーフワフワしてんな、断じて触りたいとか思わんけど。

「カッコいい・・・!」

「じゃんけんと大違いやなぁ」

「ぷぅ~!じゃんけんだって可愛いもん」

あれぇこいつ、今自分で認めたぞ。はぁ、もう四度も見てると新しいプリキュアも大して驚かないもんだな。んじゃ、そろそろアカンベェ倒して貰わないと。この空の下に居ると本当に具合悪くなるんだよな。

「―――大切な家族の絆。守って見せる!!」

 

ビュン!!

 

うぉっ?!はぇぇ、滅茶苦茶はぇ!!只でさえも速い緑川だからプリキュアに変身したら尚更速い。一瞬で駆け抜けたと思えばスゲー突風が吹き抜ける。

「ちょっと、待ってぇぇ・・・・・・!」

こっちの台詞だよーーー。何処まで行くんだ、止まれよっ。あ、危ない!

 

 

ズドォォンッ!!

 

 

言わんこっちゃない、自滅だ。速いのは結構だけど止まれないのはどうなんだ。あぁ!赤鬼尻餅ついた、ざまぁみろ。煙もくもく、マーチが粉々になってないことを祈る。

「はぁー、ビックリしたぁ」

平気なのかよ!無傷ってのは流石プリキュアだな。ハッピーとかもだけどさ、すんげぇ頑丈じゃん。怖いよ、あんた。いや、サニー。タフどころじゃないから。アカンベェは旋回して攻撃を仕掛ける。次々に降り注いで爆弾の雨霰、だがマーチの俊足が難なくそれを突破する。最早、橋脚すら走り抜けて強烈な踵落としを見舞う。ハッピー達も手を貸すまでもなくて棒立ち。

「緑川、スゲーな」

「・・・あ、灰谷君。って見られちゃったの!?嘘っ」

見ました、見てました、一部始終。てか見せつけてくれたのはそっちだけど。

「大丈夫やで、みんな知っとるから」

「そうなの!ど、どうも」

「・・・うん、そーゆーワケだ」

「いいから早く!マーチシュートでアカンベェを浄化するクル!」

キャンディの指示を受けてマーチはスマイルパクトに触れる。力を込めるってのは必殺技の為に必要な事で、これをやらないとまともにヒットさせるのさえ困難という謎仕様。大変に不便だから要注意なのだ。そして、スマイルパクトから溢れた風が勢いよく吹き渡ってマーチは必殺技を繰り出そうと大きく右足を振り上げた。目の前に現れたエネルギー状の球をサッカーの要領で蹴り出す。サニーとは違うタイプで豪速球をアカンベェに叩き込む。

 

 

 

「“プリキュア・マーチシュート!!”」

 

 

 

痛そう、実に痛そう。あれ本当に浄化の力なんだろうか、だってもうフツーに死ぬよ?あんなの直撃したら。プリキュアの技ってどれもこんなんだよな。・・・アカンベェは倒され、赤鬼の奴は何かパンツが汚れたとか意味解んない文句言って消えた。それに合わせて空も元に戻り、更に伴って俺の体調も回復した。

「蝶々デコルクル!」

「それ、毎回毎回落ちてくるけど要るの?」

「キュアデコルはとってもとっても大切な物クル。アカンベェを倒してちゃんと集めないといけないクル」

こちらの質問にキャンディはそう答えた。へぇ、まぁ知らねぇけど。こうして危機は去り、改めて緑川は星空さん達の仲間に加わる事になって嬉しそうにしていた。

「みゆきちゃん、あたし達良いチームになりそうだね。弟達を守ってくれてありがとう、あたしも皆の力になりたい。それに、なんか皆と居ると楽しいし。仲間に入れてくれる?」

「もーちろーん!!」

と、そんなこんなって訳だ。すると緑川は今度、俺の方を向いて爽やかな笑顔を向けた。え、何。

「“真澄”も仲間なんでしょ、よろしく!」

「うぇ、う―――」

いきなりだったから変な声を出してしまった。仲間?そう見えたのか。

「なんや自分、何か言いや」

「そうだよ。なおちゃんがよろしくって―――」

それは解ってますから黄瀬さんよ。だって別に仲間って訳じゃねぇんだもんよ。

「良かったね、“真澄”君」

「反応しぃや、“真澄”」

「あ、えっと、ま・・・“真澄”、くん?」

お、なんだなんだそのノリ。寄ってたかって辱しめる気なのかい、マジかよこいつら。それに対して何て答えたら良いか解らず、俺はただ沈み行く夕陽を眩しいながら何処までも見詰め続けた。直後、緑川の一番上の弟が蹴飛ばしたボールが星空さんの顔面に直撃して大騒ぎとなった。これってオチって奴?

 

 

 

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