笑わない彼にもどうか幸運を。 スマイルプリキュア!   作:新生ブラックジョン

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6 君の名はキュアキャンディ

この日は何時にも増して穏やかな気分だった。明確な理由は無いけれど今朝目覚めてから一日を平穏無事に過ごせるとそう予感した。だから、この眠気に今こそ身を委ねようと思う。さて、これから退屈な授業に備えて惰眠を貪る準備は万端―――

「はーい、今日は小テストです」

「えぇ・・・」

の筈、だった。あれぇ、おかしいな。折角の転た寝気分も担任が発した言葉で一気に掻き消される。先生はクラス中にブーイングが飛び交うもどこ吹く風、テスト用紙がその手で容赦なく配られる。生徒はただそれを受け入れるしかない訳だが、無論こちらとしては横暴極まりないというか止めて頂きたいもんだ。いやぁ先生、何もそんな嬉しそうにしなくてもいいでしょうに。手元に行き届いたそれを凝視しながら小さく溜め息する。こうなったら悲惨な結果が目に見えていたとて覚悟して挑まなければなるまい、流石にテストだけは放棄出来ない。

「星空さん、授業に関係ない物はしまいなさい」

「わわわ!ハイっ、すいません!!」

左を見るとあのぬいぐるみ然としたキャンディが星空さんの机で確り顔を覗かせていた。指摘されて慌てて引っ込めたけど遅かった。いや、それは不味いだろ。見ろよ、佐々木先生すっかり顔がひきつってるぞ。

「先生!それより早くテストをっ」

「時間が無くなってしまいます・・・!」

そこで緑川と青木が透かさず気を逸らしてその場はどうにか事なきを得た。言う通り、テストが始まると皆あれだけブツブツ文句を言っていた割には黙々と挑む。この俺も格闘すること数分、あっという間に時間は過ぎる。終了したところで全てのテスト用紙が先生の下に回収されていった。悪い結果を想像してか何人かは解りやすく頭を抱えたり苦い表情。そう、言うまでもなくそれはもう散々たるもの。すると答案に目を通していた先生の顔付きが一気に強張った。あれ、そんなに酷かったのか。

「ほっ星空さん。・・・これは一体―――」

「げぇっ」

一枚のテスト用紙を目に思わず変な声が漏れる。ありゃあー、これはクレヨンか何かで落書きされてるんじゃない。見た感じ何かの絵みたいだけどそんな事はどうでもいい。あんたこんなの描いたのか、正気かよ星空さん。

「キャンディクル、とっても上手に描けたクル♪どうクル?」

どうって、ねぇ。幾らテストが嫌だったからってこんな事しちゃあいかんだろ。何自慢してんだよ。先生だってこんな事されてそりゃあ黙っちゃいない。

「―――後で職員室に来るように」

怒るというよりは戸惑ってる様子でそう伝える。これは恐らく、怒りを通り越してもはや呆れてるんだな。前代未聞でしょ、テストにクレヨンで落書きて。クラスメート達も反応に困って苦笑いを浮かべたりしながら教室中がすっかり静まり返り、何だか凄い空気に。・・・が、今日の星空さんはまだまだこんなもんじゃなかった。続く国語の授業でも彼女の態度というか雰囲気みたいな、そこに妙な違和感がある。

「えぇ、では星空さん」

「解ったクル!」

指名を受けて立ち上がった星空さんは教科書を手に自信満々に胸を張る。ん、クル?

「“我輩は猫である”・・・キャンディは猫じゃないクルゥ」

知ってるよ、何でそこでキャンディが出てくるよ。一体どうしちゃったのあの娘。怖いよ、え、怖いよ。

「“名前はまだ無い”・・・名前はキャンディクル!!」

「星空さん、何をくるくる言っとるのかね」

何をとち狂ったか意味不明な発言ばかり―――やっぱり、どっかに頭でもぶつけたか。国語の先生は眉を寄せて怪訝そうにしている。そりゃそうだ、序でにこの場の誰もが同じ気持ちだよ。

「くるくる・・・苦しいんじゃないでしょうか!」

「え、それなら保健室に行くかね?」

「ホケンシツ?それはナニ・・・」

「ハイハイハイハイっ!大丈夫!座って安静にしてたらへっちゃらです多分っ」

変な奴ら。黄瀬も日野も不自然というか、何かを必死に誤魔化そうとしているみたいなそんな感じ。なんかスゲー怪しい。星空さん、一体何があったか知らんがどうぞお大事に。にしても、こうも賑やかではオチオチ授業へ集中もしていられない。そのうちに休み時間になると星空さんは先程の一件が元で早速職員室へと向かったらしく姿を消した。あー、居眠りも出来なかったしとんだ災難だ。

「何」

「ちょっと来て」

「お願いします」

この上、気を抜いていたところに緑川と青木が突然声を掛けてきた。なんだなんだ、2人共表情が妙に怖いんだけどこれって断る事は出来ないのかな。呼び出される理由が何一つ思い当たらないが着いていくしかないのだと腹を括る。教室から連れ出されて人気の無い階段の踊場に足を運んだ。そこには既に日野と黄瀬までが居て、その顔触れを見たら益々不安だけが増す一方。・・・スッゲェ嫌な予感。

「―――真澄君、実はね・・・」

「えぇー、やだ」

「まだ何かも言ってないのに!?」

「そっちこそ、いきなり連れてきて何の真似だよ。兎に角ぜってぇイヤだかんな」

「お願いします。話だけでも聞いて貰えないでしょうか」

それを丁重にお断りしたい。ところがこの人らときたら何処までも強引で、黄瀬は胸に抱いたキャンディを鼻先にまで近付けて戻ろうとするこちらの動きを止めた。

「実は、みゆきちゃんとキャンディが・・・」

「入れ換わってしもうたんや」

「―――え?」

日野が言った次の言葉に思考が一気に停止へ追い込まれた。イレカワッチャッタ?は、何それ。いやマジで解らない。

「ウチらも最初は信じられんかった。けど、ほんまの話やねん」

「ほら、よく見て。よーく、見て!」

「アハハ、どうもー・・・」

「こいつがどうかしたのかよ」

「真澄君!私、星空みゆきなの!」

「・・・・・・・・・なぬ」

キャンディっぽいのに確かにその口ぶりからして星空さんみたいだ。え、詰まり入れ換わったってそういう事なのか、いやいやいやいや!まさか。一体何がどうしてそうなった、魂みたいなもんが入れ換わるなんてそんな事があり得るのか?気持ち悪ッ。そういや、キャンディの耳のとこが何か星空さんの髪型っぽくなってるし。

「どうやらこの指輪が全ての原因みたいなんです」

「は?指輪・・・」

「今朝、空から落ちてきたのを拾ったんだけど填めてみたら―――」

星空さん、いやキャンディの手にあるそれを青木が示す。こんな物のせいで魂が入れ換わるなんてどんな仕組みでそういう事になるんだ。あの星空さんは実はキャンディであって一方でそいつの体に今は星空さんが入っていて・・・えぇいややこしいなッ!

「さっさと取ればいいじゃん」

「それが問題でね。あたし達もやってみたけど全然取れなくて」

「どうしたら良いかな」

黄瀬があからさまに困った顔して上目遣いに尋ねてきた。そんな事この俺が解るわけねぇだろ。様子がおかしいと薄々感じてはいたが要するにこれを必死に誤魔化してたってワケか。星空さんになってしまったらしいキャンディ、今朝から奇行を繰り返しているのもそれなら頷ける。あのぅ、こんな相談を突然されたって困るんですけど。

「じゃあな」

「って、それだけ!?嘘やろ!」

「いやいや、それだけって。他にどうしようも無さそうだし」

「真澄にもフォローするの手伝って欲しいねん、クラスの皆とかにバレたら大変やろ!」

「解ってるよ、だからそんな事に巻き込むなよ」

「巻き込むも何も、あたし達は・・・その―――」

緑川はそこで言葉に詰まる。まぁしょうがないね、俺に出来ることは何もないんだし。

「勘弁しろよな・・・」

彼女達の様子からもう特に何もなさそうだったのでさっさとその場を後にして教室へ戻った。

 

 

 

次の授業が始まる為、その準備をしている間にチャイムが鳴る。社会科の担当である女性教師の堀毛は何時も通りに授業を始める。星空さんとして席に着くキャンディはきっと何にも理解していないのだろう、ただボーッと口を開けて正面に視線を向けていた。

「・・・では、星空さん。前に来てここに答えを書いてください」

よりにもよって本日二度目のご指名となる彼女に全員の注目が注がれる。日野を始めとした4人は黒板に向かうキャンディを不安な気持ちで見詰めてるに違いない。そして案の定、彼女達のその悪い予感は的中する。先生も周りの生徒達も徐々に星空さんが答えではなくお絵描きをしている事に気付いて呆然とした。出来上がった物を見た堀毛は敢えて冷静に尋ねる。それが又おっかないのなんの。

「星空さん、これは何かしら」

「メルヘンランドのお城クルゥ」

わぁ、やっちゃった。黒板にデカデカと広がる謎の絵、しかもご丁寧に黄色とか赤とか色まで使い分けたこの幼稚な落書きは本当に取り返しがつかないぞ。へぇ、こんなのどうフォローしろっつうんだい。しかし緑川が咄嗟に発言し、青木が更に付け加えた。

「先生!星空さんは答えを敢えてメルヘンで表現したんだと思いますっ」

「それも又、一つの答えの形ではないでしょうか」

「アホか・・・」

敢えて表現する意味が無いと思いますけども。どう考えたって2人の主張は無理がある。日野も頭を抱えちゃってるし黄瀬なんて机に顔を伏せたまま微動だにしない。気持ちは解る。

「それは美術の時間にやりなさい」

「美術?それ何クル!?それっ、やりたいクルやりたいクル―――」

「・・・・・・いい加減にしなさぁぁぁい!!」

ヒャー!我慢の限界に達した堀毛の怒鳴り声が二組の教室中に、いや恐らく隣のクラスにまで響き渡った事だろう。さて、こうなるともう誰にも止められはしない。キャンディはその後も次々とやらかしていく。化学の授業にて理科室を訪れた俺達は指示に従ってグループ分けを行い、薬品と器具を用意して化学反応を見るという実験に取り掛かった。早い話、別々の薬品同士を混ぜて様子を観察する訳だが、くれぐれも量を間違わない様に注意しなければならない。だが―――

「おい、何してんだよ」

「クルゥ?」

「入れ過ぎだよっ」

キャンディはそれを一切無視してドバドバ放り込んでいた。やっぱり何一つとして理解しちゃあいないみたいで日野達はこれに気付き、止めようとしたが遅かった。危険を察知したので俺は巻き添えになる前に速やかに離れた。

 

ボォォン!!

 

爆発騒ぎにクラス中が大パニック。開いた窓から黒煙が立ち込め、それを見て他の教師が駆け付けたりして火災報知器が鳴るだとか消防の出動だとかは無かったものの大騒ぎ。当然、先生に叱られるし事情を知らないクラスの奴らからは変な目で見られるしで体を使われてる星空さんにしたら心底いい迷惑だろうな。とんだなりすましの濡れ衣だ。この後は昼休みを挟み、午後の授業は先ず家庭科。キャンディには既に細心の注意を払って、日野達が丁寧にミシンの扱いを教える事になった。

「兎に角、皆で絶対乗り切ろう」

「お互いに注意を払って気を付けなければいけませんね」

「せやな」

「うん、これ以上は不味い事に・・・」

「不味いって、もうとっくに不味い事態だろ」

「真澄、頼むよ!お願いだから手伝って!」

絶対に気が抜けないと彼女達は一ヵ所に固まってヒソヒソと話をする。緑川が顔の前で両手を合わせながらそう頼み込んでくるが困ったもんだ。そしてキャンディの体になっている星空さんは見つからない様に身を隠して陰ながら様子を窺い続ける。

「きゃっキャンディ!!」

「あーあ、又か」

少し目を離した隙に速攻で暴走を始め、何メートルになろうかという長さを縫い尽くしていく。もう何も止めるものは無い。思わず叫んだ星空さんは直ぐに俺の背中に身を隠した。

「どうしよう・・・!」

これはもうどうにもならないかと思いますけど。そうして最後の体育では男子と女子とで別々だったのでその場を見てなかったが、後で聞いたとこによればバスケをしていたキャンディがボールを持ったまま何処かへ走り去っていき、探す為に一時授業が中断したんだとか。―――彼女は今頃、今日一日にしでかした件で再び職員室にてお説教されてるものと思うが果たして。

「あいつ、マジでヤベェよな」

「テストに落書きしたりさ」

「先生すげーキレてたし、ヤバかったなぁ」

放課後にクラスメート達が話すそんな声を耳にする。真実を知らない周りからしてみたらイタイ奴みたいに思われちゃってるんだろうな。星空さん、御愁傷様。俺は頼まれてキャンディを連れてくる必要があったので職員室まで向かった。何でそんな事しなくちゃならないんだと納得は一切してないが、それを頼んできた時の日野達の疲労感満載の顔が妙に怖かったんで断るタイミングを失い、致し方なく引き受けた次第だ。少し待っているとキャンディとは職員室を出てきた所で顔を付き合わせ、直ぐに声を掛けて同行させた。

「何処に行くクル?」

「屋上。皆が待ってる」

「見てクルゥ、こんなに貰っちゃったクル!」

この期に及んでやっぱり理解してないみたいだ、沢山の紙の束は補修のプリントであって喜ばしい代物ではない。しかし当人とくれば、それはそれは嬉しそうに見せつけてくる。無視しとくがチラリとだけ目の端に映ったあれは0点か。そういうのはあんまり人に見せちゃいけないんだぞ。とまぁ、屋上にやって来るとそこには完全グロッキー状態で少女達がぶっ倒れているんだが本当に悲惨だなこれは。

「あれ、皆どうしたクル」

「誰のせいだよ、誰の」

成る程。これじゃ、確かに迎えに行く気力すら湧いてきそうにない。誰1人として動く気配が無いもんな、何だか話し掛けづらい。

「疲れたぁ」

「今日は何とか乗り切ったけど・・・」

「これ以上はちょっと―――」

「無理ぃ」

このままだと多分、注意とかでは済まなくなって停学処分みたいな事にもなりかねないんじゃないか。でもキャンディはそんな事お構い無しに補修のプリントを見せびらかす。いや、だから喜ばしいものでは無いんだって。

「いい加減にしてよ!!キャンディのせいで私の学校生活メチャクチャじゃない!」

「何でそんなに怒るクル?」

遂に怒り爆発の星空さんに対し、状況を理解していないキャンディはムッとしながら聞き返す。緑川が窘めるも2人は互いに納得してないといった様子。まぁ、とにもかくにも先ずは元に戻る方法を見つけなければ解決しない。青木のその意見は最もだった。だが、日野が続いて言うように手掛かりすら掴めないんでは話にならないのも確かで、彼女達は手詰まりに陥っていた。

「・・・まさか、私達ずっとこのまま」

今のぬいぐるみみたいな体で星空さんは小さな手にあるリングを見詰めながらすっかり落ち込んでいく。

「あれ、キャンディ―――」

「ちょっとぉ、何処に行っちゃったのよー!?」

「今出ていったぞ」

「探しましょう!」

やれやれ、次から次に忙しいんだから。一緒に居るだけでしんどい奴らだ。

「何してるん、真澄も来るんや!」

「えっ、俺も?」

「せや!手伝わんかいっ」

こうして不本意ながらキャンディの捜索へと駆り出される事に。でも、探すったって何処を。―――え、つべこべ言うなって?だって・・・

 

 

 

 

「もうっ、ほならみゆきを頼むで!」

日野、黄瀬、緑川、青木、4名は各々手分けして探すべく別々に散った。残り2人は近くのベンチへ腰を下ろすとこの場で待つ事を約束する。ぬいぐるみの様な小さな体になってしまった星空さんが街中をウロチョロするのは不味いと考えたんだろう、一先ず乗り気でない事を理由に探させるんではなく彼女の側に残していったのは咄嗟の判断みたいだ。まぁ、早い話が俺はお守り役ってことらしい。キャンディの姿をした星空さん、今はただ黙って遠くを見詰めており、その隣で気不味いなとか思いながらこちらは空を眺めていたがふと溜め息を漏らす。それは星空さんだった。

「どうしてこうなっちゃったんだろ」

「その指輪のせいだろ」

「うん、まぁ、そうなんだけど・・・」

いや、星空さんが言いたいのはそういうことではない。兎に角、今はこんな成りをしていても中身は彼女だし、いつになく落ち込む様子に何をどう言えば良いのか解らなかったのだ。

「・・・・・・もう一度見せてみろよ」

こちらの呼び掛けに膝の上へ飛び乗り、小さな手を差し出してくる。そいつにそっと触れてみて、改めて角度を変えながら確めるがこいつの手には指がないからどちらかと言えば腕輪っぽい。恐る恐る摘まんでみてやや力を込めて引っ張る。・・・成る程、確かにこりゃあ取れそうにない。何か特別な方法を使って外すしか無いのだろうか。ガッツリ填まっていてびくともしない。彼女は再び並んで座りながら遠くを眺めたまま会話する。

「大丈夫か?」

「私は何とか平気。それよりキャンディが心配。この世界に来てからずっとプリキュアの為に頑張ってたんだって思う。きっと、どうしたら良いのか何も解らないのに、学校の事もよく知らないのに―――」

「厄介だよな」

「・・・キャンディはキャンディなりに精一杯やってたんだよね。私、それなのに酷いこと言っちゃった。・・・キャンディに謝らなきゃ」

彼女は深い溜め息を吐いて再び黙り込む。こういう時って何かしら励ます様な言葉の一つも掛けてやるべきなんだろうが生憎と何も思い付かない。

「ほんなら、はよキャンディ見つけなな」

「皆。・・・キャンディは!?」

顔を向けるとそこにはいつの間にか日野が居て、同じく黄瀬達も戻ってきたらしいがキャンディの姿は無く。

「あかん、さっぱりや。でも、もう一回探しに行くで!」

「「「うん!」」」

諦めてはいない様子で再度別方向に足を向ける4人、星空さんはそれを見て自分もと思ったのか日野達と違う場所へ探しに行こうとして駆け出した。あんな小さな体でよくやるな。でも案の定、小石か何かに躓いて呆気なく数メートル先で転んでしまった。・・・やれやれ。

「あれ」

「何やってんだ、勝手に行くなよ」

「真澄君?」

急に掴まれて体が浮き上がったからなのか驚いた様子の星空さん。持ち上げた時、嘘みたいに軽くてやけにフワフワしていて、それでいて生物的な温かさがあってこっちもビックリだぞ。うん、まぁこの姿ならあんまし触るのに抵抗は無いかな。

「どうして・・・」

「人に見られたら何て説明すんだよ、事態を余計ややこしくする気か」

冷静に考えて彼女が今この状態で探しに行くのは望ましくない、だとしたらここは付き添うしかないだろ。いやマジで、素直じゃないとかそんなんでなくてな。まぁどう思われようと構わないんだけど。要は俺としてもさっさと家帰りたいしね。

「ほら、取り敢えずここに入ってろよ。早いとこ見つけるぞ」

「真澄君。ありがとう」

星空さんを拾い上げて通学カバンに入れる。さて、町内を出たりしてないと良いんだけど。探す範囲が広がると厄介だ。因みに言わずもがな探すとは言っても手掛かりらしいもんは何一つ無い。宛てもなくその辺をしらみ潰しにするしか思い付かない。

「心当たりとかないのか」

「解んない。キャンディの行きそうな場所か・・・うん、何も知らないから」

「さっきの話か―――」

「私もキャンディの事、まだ全部知ってるわけじゃないから」

「・・・だったら、後で本人に直接聞けよ。知りたいこと全部」

「―――うん」

住宅が並ぶ通りやもしかしたらと商店街の方まで足を伸ばしてみたがどれも無駄足だった。そうしてる間に時は過ぎていき、気付くと日もすっかり暮れ始めている。結局見付けられず仕舞いかと落胆ムードの中、それは前触れなく訪れた。人気の少ない道、背中に妙な気配を感じたので意を決して振り向き様に手刀を繰り出した。

「むぅ、見破られたかぁ。気付かれない自信あったのになー」

「どーゆーつもりだお前。下らねぇ事してんじゃねぇよ」

「お兄ちゃんだってこの前やってたじゃん!」

妹は兄の一撃を眉間で受け止めながら口先を尖らせる。変な絡み方してきやがって、一体いつの間に着いてきてたんだ。って、今構ってる暇はない。

「あ、何それ。スッゴい可愛い!」

「テメッ」

「どうしたのコレ?買ったの?」

軽くあしらってやろうとした優輝に星空さんをふんだくられた。だぁぁもうっ!見つかった!ガッツリ玩ばれるが微動だせずに星空さんは耐えた。直ぐに妹の手から彼女を取り戻し、急いでカバンの奥へと押し込む。

「ほら、早く帰れよ」

「お兄ちゃんこそ。帰ってこないと思ったら今まで何してたの」

「何でもいいだろ」

「―――ま、別に興味ありませんけどね。・・・あー、そうだ。さっきね、お兄ちゃんの友達見たんだよ」

「友達?」

「うん。えぇっと―――ほら、こうっ髪がクルクルってしてる人・・・」

そのジェスチャーからピンと来て、何処に居たのか聞き出して早速走った。優輝が見掛けたって言う公園は大通りから入った住宅街の中にある。近所ってことで何処と無く安堵しながら、まだそこに居る事を願う。ところが、道中である方角の空模様に強い違和感を覚えて思わず立ち止まった。夕焼け空にただ一ヵ所、異様な濁った色が広がるといった光景。・・・待てよ、何か同じのを前に見た気がする。

「真澄ー!」

呼ぶ声がして我に返り、空から視線を落とすと向こうからやって来る日野達の姿があった。息を弾ませて走ってきた彼女達にこっちからも近付く。

「あれはバッドエンド王国に違いありませんね」

「兎に角、行こう!」

青木や他の皆も空模様に気付いていたらしく、カバンから出てきた星空さんの一言に全員でそっちへ急ぐ。

「あ、居た」

「待ちなさーい!!」

「皆!―――みゆき、来てくれたクル?」

「もう、当たり前でしょ」

近所のとある公園、やっとキャンディを見つけたと思えばそこにはもう1人別の存在が居た。

 

「出たねプリキュア!」

 

小高い山の様な遊び場に立つローブ姿の老婆、あれって確かいつぞやの魔女じゃねぇの。公園一帯が薄気味悪いクモの巣に囲まれ、中では小さな子供達が意識を失う様に倒れている。魔女は続けざまにキュアハッピーの名を呼んで、今は変身出来ないとかなんとか言い出す。

「そうだったぁ・・・」

「あー、成る程」

いやいや、納得してる場合じゃない。日野達はコンパクトを取り出して一斉に臨戦態勢を取った。ヤバッ、戦いが始まるのか。緑川がこちらに振り向いて俺達を遠ざけようとする。

「真澄、みゆきちゃん達をお願い!」

「おっ、おう」

キャンディの体をした星空さんを、星空さんの体になっているキャンディへと手渡して急いで可能な限り後ろに下がる。日野、黄瀬、緑川、青木は声を揃えて叫んだ。

〈―Ready?―〉

「「「「プリキュア・スマイルチャージ!!」」」」

〈―Go! GoGo Let' go!!―〉

飛び出すパフを手に火の粉を纏い、リズミカルかつ吹き抜ける風を浴びて淡い粉雪の舞う中、等と各々のやり方で4人は姿を変化させていく。最後に並び立ち、順に名乗り上げていく様まで敵と共にこちら側も確りと見せつけられる。

 

 

「太陽サンサン、熱血パワー!キュアサニー!!」

 

 

「ピカピカぴかりんじゃんけんポン♪キュアピース!!」

 

 

「勇気リンリン、直球勝負!キュアマーチ!!」

 

 

「しんしんと降りつもる清き心!キュアビューティ!!」

 

 

一先ずサニーからビューティまでが変身を終えた。星空さんが参加出来ない中、魔女は例によって赤い玉を取り出し頭上高くこれを掲げる。

「出でよ、アカンベェ!!」

禍々しいエネルギーと共に生み出される凶悪なる道化。プリキュア達に襲い掛かる怪物はこれが又実に・・・

「「ちっちゃ」」

拍子抜けしたと言わん秤に俺とサニーは同時に声をあげる。いやだってこれまでと比べてもホントちっさい。サイズ的にあの小柄な魔女と大差ないくらい。とは言え―――

「見た目で嘗めると痛い目見るだわさ!」

その言葉通り、アカンベェは“跨がるとバネで揺れ動く”あの遊具の姿をしていながら、機敏に動き回って翻弄していく。先制攻撃を仕掛けたサニーの拳をかわし、彼女をバネの力を利用して地面に叩き付けるとピースの背後を通り抜けてビューティを狙う。彼女も咄嗟に攻撃をかわしていたが食らってしまった。

「ビューティ!?」

「おいっ後ろー!」

「えっ―――」

こっちとしては早めに言ったつもりだったがピースもその瞬間にやられる。これを受けて今度はマーチが正しく暴れ馬を攻略しようかという勢いでアカンベェに飛び乗った。上手く抑え込めれば良いけど。

「こんのっ、大人しくしなさぁぁいッ・・・きゃああああ!!」

「うおっ、飛んだ!」

マーチはサニーの隣に着地。一方アカンベェはその間に高く跳躍し、発射したバネで2人を捕らえてしまう。グルグル巻きで身動き取れない彼女達は文字通り手も足も出ない!

「避けろー!」

しかし間に合わないんだこれが。今度はピースとビューティまで戦闘不能にされてしまう。えーっと、この展開ってもうお約束なの。おぅっと、そしたらこっから先はどうなるんだよ。え?

「後は、お前達だけだわさ!」

「だよね・・・」

「お前達がその指輪を拾ってくれてラッキーだわさ」

「は、指輪?」

「これはあなたの仕業だったのね・・・!?」

星空さんとキャンディ、その中身を入れ換えてしまった謎のペアリング。全ての元凶であり妙ちくりんなこのアイテムのそもそもの持ち主はあの魔女。と、すると魔法の指輪なのかこれ。

「どうすれば外れるクル?!」

「絶対に外れないんだわさ・・・」

絶対?そんなのマジかマジでマジックか。あれ、今なんか変なの混ざったぞ。

「―――これを使わない限りね」

「それは?」

魔女が得意気に取り出したのは一つの小瓶、見るからに怪しそうである。

「魔法の指輪・・・イレカワールを外せる唯一の薬!―――その名も、モトニモドール!!」

「そのまんまやん」

「センス無いわね」

「以下同文」

「うるさいだわさ!アカンベェ!」

ネーミングセンスはともかくとして、あの薬があれば星空さん達は元に戻れるのだから超ラッキーじゃね。いやぁ、自分から種明かししてくれるとかなんてお優しい事。うん、実に解りやすくて良い響きだ“モトニモドール”。・・・魔女の指示でアカンベェが襲い掛かる。するとキャンディはそこで敵を前にしながらまるで臆せずに堂々とする。

「みゆきは、絶対傷付けさせないクルゥ!」

「キャンディ、無茶しないでっ」

「今は・・・!今はキャンディがみゆきクル!」

「だから変身出来ないんだろ。それなのに戦えるかよ、早く逃げろよ・・・」

「イヤクル!みゆきならこんな時絶対諦めないで・・・諦めないでキャンディを守ってくれるクル!!」

勝てる術も無ければ本当は怖くて堪らない筈なのに。それでもキャンディは星空さんを守ろうと一歩出る。

「ふん、そんな姿のお前が何をやっても無駄だわさ」

「―――無駄じゃないッ!!・・・キャンディは必死なの、必死に私の代わりになろうと頑張ってるの!そのキャンディの優しい気持ちを、馬鹿にしないで!!」

「っ何だわさ!」

とても眩しかった。キャンディがスマイルパクトを取り出すとそれが強い光を放っていた。星空さんと2人、頷いて光の根源に手を触れる。

「キャンディ、さっきは言い過ぎちゃった。ゴメンね」

「キャンディもごめんクル」

「・・・行くわよ!」

「え、行くって―――」

 

 

〈―Ready?―〉

 

 

「プリキュア・スマイルチャージ!!」

 

 

〈―Go! GoGo Let' go!!―〉

 

 

キャンディの体を使ってパフを取り、その上からピンク色のコスチュームを身に纏う。えぇー!ちょっ待て!そんな事出来んのッ。

 

「クルクルきらめく未来の光!キュアキャンディ!!」

 

そ、そーなんだぁ。うん、なんつーかアレだよ。これってキュアハッピーのコスプレしたキャンディって感じ。それから俺もだけど何より本人も変身出来た事に驚いてる。

「耳を使うクル!」

「・・・あ、そうか!」

何がそうかなのかこっちはさっぱりだけど2人の間では成立してるらしい。“キュアキャンディ”にアカンベェが反応する。威力の高いバネ足で攻撃を仕掛けるアカンベェ、だが対するキュアキャンディも負けじとそれをかわして、なんと本当に耳で叩き伏せた。又、空中へ飛んだ両者は激しく互いの攻撃をぶつける。・・・でもそこに緊迫感は全然無いんだよなぁ。キュアキャンディは仲間からの声援を受けて、只でさえそれ程広くもない公園の中を所狭しと駆け回る。地味にアカンベェも追い掛けっこしてバテ気味、魔女は痺れを切らして怒鳴り散らす。そこにアカンベェの放った攻撃が―――

「危ないだわさ!!」

「よし、真澄!」

「ホントに良いんだな?」

「かまへんッ」

「・・・解った、よ!!」

サニーに呼ばれて駆け付け、自分を蹴飛ばすように言われて思い切り彼女を転がした。その先には魔女が居る。体当たりを見舞って吹き飛ばすと手放したモトニモドールが宙を舞う。それをキャンディが見事にキャッチした。

「ナイスキャッチ!」

「序でに俺もナイスシュート、だよな」

「今クルー!!」

投げ飛ばし、叩き付けて止めを刺す。キュアキャンディはアカンベェに向けて必殺技を撃つ。それはハッピーと同様に、両耳を使って大きくハートを描く。

 

「“プリキュア・ハッピーシャワー!!”」

 

あ、そこはキャンディシャワーとかじゃないんだ。・・・とか気にしてはいけない、きっと。小さいながら威力は十分、アカンベェは瞬く間に浄化されて倒された。戦いは終わり、空からクモの巣が取り払われて本来の夕焼け空が姿を現す。魔女から手に入れた小瓶を傾けると中身の液体が指輪に掛かる。そのイレカワールは途端に消滅し、これを受けて星空さんとキャンディは元に戻った。端からは解りづらいが本人達が喜んでいるのだから間違いない。

「しっかし、今日は大変な1日やったなぁ」

「でも、ちょっと楽しかったね」

「この期に及んで馬鹿なこと言ってんじゃねぇよ」

「だって・・・。もう少し入れ換わったままでも良かったかも」

「それは嫌」

「・・・だよね」

笑えない冗談はそのくらいにしとけっての。―――星空さんとキャンディはすっかり仲直り出来たらしい、これで一件落着か。

「ところで、あんた。何だかんだ言うてキャンディ探すの手伝ってくれたんやな」

「そうですね、ありがとうございました」

「いや、だから―――。そっちが勝手に巻き込んで・・・」

「はいはい、巻き込みました。ほら、序でに一緒に帰ろうよ」

解せない、これは全くもって解せない。こいつらのペースに一度捕まったら最後、底無しで何処までも抜け出せなくなる気がしてならない。・・・いや、もしかするともうとっくにそうなってるのかも知れない。ううん、まさかな。

 

 

 

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