笑わない彼にもどうか幸運を。 スマイルプリキュア!   作:新生ブラックジョン

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7 嘘みたいな本当の話。

昇降口で何時ものように靴を脱ぎ、それを上履きへと履き替える最中だった。そこへやって来た黄瀬が挨拶もそこそこに突然切り出した一言に、同じくその場に居た星空さんは激しく動揺した。

「私、転校する事になったの」

「えぇー!!本当!?」

「てんこう?―――ああ・・・!」

余りにいきなりの告白だったもんでこちらとしてはなんのこっちゃ、しかし直ぐに黄瀬が伝えようとしている言葉の意味が理解できた。えーと、朝っぱらから凄い事を聞かされたもんだ。さてと、そういう話なら俺はさっさと・・・

「真澄君!!やよいちゃんがッ」

「んだよー」

ハイハイ解ってますよ、転校するっていうんだろ。でもさ、それ聞かされたってどう反応すりゃ良いのかな。要は黄瀬とはただのクラスメートってだけだし、どう声を掛けたら良いか解らないんだもん。

「寂しいよね?ね?」

「なんつうか、大変だな」

「い、いつ転校するの・・・?!」

「それが、本当に突然の事だけど・・・明日―――」

「えぇぇーーー!?」

「マジか」

そりゃ又偉く急な話。星空さんと彼女の鞄の中に居たキャンディは揃って絶叫する。無理もないだろ、何の前触れも無くこんな事になってしまって納得しろっつう方が無理だ。

「どどどっどうしよう、ねぇ真澄君?!ね!」

「解った、解ったから兎に角落ち着けよ」

まぁどうせ無理なんだろうけど。先ずそんな激しく揺さぶんないでくれるかな、イテーよおい。

「・・・うーんと、頑張れよ」

「そっそれだけ?もっと他にあるでしょ~!!」

「ねぇよ、ったくイチイチうるさいな」

「―――あ、それでね。実は・・・あれ」

そこまで言うと黄瀬は首を傾げて立ち尽くす。おい、どうしたんだよ。まだ何か言いたそうだったのに。

「あの・・・みゆきちゃんは?」

「もう行っちゃったけど」

「えぇ!!」

すると今度は彼女がいきなり叫んで心底驚いたみたいな表情をする。いやいや、さっきから2人してうるさいな。周りの視線とか集めちゃうからマジ止めてくんないか。で、何気に話の続きが気になったので試しに聞いてみると。俺としてはなんつーか、どうにも馬鹿らしくて開いた口が塞がらないって言うんだろうか。黄瀬は恐る恐ると真実を打ち明けてきたのだが余りに下らなくて呆れてしまった。

「あ、居た」

「やよいちゃん」

一先ず教室へ向かうとその前の廊下に星空さんは居た。直ぐ側には日野の姿もあって、こっちに気付くと2人して近付いてくる。

「やよい、おはよー。お、真澄もおったんかい」

「よう」

「あかねちゃん、おはよう。・・・みゆきちゃん、さっきの話なんだけど。あれは―――」

「やよい、もうえぇんやで。実は今みゆきから聞いたんや」

この時、黄瀬の顔つきを見ていると徐々に強張っていくのが解った。あちゃー、そう来たかぁ。これは少々厄介な事になりそうだな。日野は小さく耳打ちするように転校の言葉を付け加える。

「ゴメンね、どうしても黙っていられなくて」

「そうじゃなくて・・・」

「えぇねんえぇねん。解ってる!ウチも転校が決まった時、中々友達に言い出せんかったんや」

「私もそうだった・・・」

良かったじゃん、理解者が2人も居て。星空さんと日野もそういや同じ経験があったんだものな。それなら間違いない、黄瀬の今の心境が手に取る様に―――

「わかるわかる!わかるでぇ、その乙女心・・・!」

「無い無い、そりゃあ無いって」

「転校が決まった時ってたった1人で胸に悲しみを抱えて寂しい思いをするのよね・・・!」

「可哀想クルゥ」

彼女らはきっと黄瀬の考えや気持ちを理解した気でいるんだろうけど・・・生憎と全く違うんですよ。

「真澄、あんたからも何か言うたり」

「うーん・・・って言ってもなぁ」

「ほら、教室入って。ホームルームを始めますよ」

そこに佐々木先生が現れた為に話は一時中断。で、ホームルームが終わると星空さんと日野は緑川や青木にまで黄瀬の転校の話を伝えてしまう。見るからにご当人の表情は物憂げ、だがそれは転校が故に皆と離れ離れになる悲しみから来るものではない。移動教室で縦笛を手に音楽室へ向かう最中、他の4人が先に行ってしまった一方でどういう訳か黄瀬とタイミングを同じくして肩を並べて二組を後にする。

「どうしよう、言い出せなくなっちゃったよぅ。私、こんなつもりじゃなかったのに・・・」

「下らない嘘つくからだろ」

大袈裟な表現かも知れないが黄瀬は過ちを犯した。具体的に言うと彼女は大嘘こいた。転校なんてのは実は真っ赤な嘘であって、本人が言うには今日が4月1日であったから軽い気持ちで皆を驚かせてやろうとしただけだったそうだ。ね、しょうもないだろ。

「しっかし、エイプリルフールなんてすっかり忘れてたなぁ。多分、星空さん達もそうなんだろうな」

「私・・・・・・うぅっ」

「おっおい」

えぇぇー、これは嘘であってくれ。どうしてこんなとこで泣き出すんだよ、マジ意味解んないから!落ち着けって本当に。

「兎に角、後でちゃんと説明して謝れば良いんじゃねぇの。まだ間に合うって、多分」

「―――っぐす、うん・・・」

何で俺が励まさなきゃいかんのだ。そうして音楽室へ辿り着いたが・・・

「やよいちゃん?」

「え、泣いてるの?平気?」

「あ、うん。何でもないから・・・」

「真澄!やよいに何かしたん?あんた。今一緒に来たやろ」

「ち、ちが・・・!」

いやいやいや、どうしてそうなっちゃうのかな。―――それからというもの、星空さん達に誤解されたままなのがどうも気掛かりでことのほか授業にまるで身が入らない。しかも集中出来なかったもんで縦笛の合唱中にミスしようの無いとこで盛大に音を外した。お掛けで大恥かいたじゃんか。こうして地獄みたいな時間は過ぎ去り、戻ろうと席を立つと例の5人が一ヵ所に固まっていた。

「やよいちゃん、元気出して!」

「もしかしてプリキュアの事でも悩んでいたのですか?」

この様子から察するにまだ言い出せて無いんだな。さっき二組でも何とかして謝ろうとはしていたみたいだが、もう何か黄瀬も黄瀬なんだけどこうなると星空さん達が言わせまいとしてる風にも見えてくるんだよな。さーて、このままズルズルと一日を終えてしまうのか。そんな雰囲気プンプンだぞ、あの馬鹿どうすんだ。

「私達はプリキュアとしてこれまで5人で力を合わせる事で困難を乗り越えてきました。でも―――」

「・・・そっか!もう5人じゃ無くなっちゃうんだ」

「その事に責任を感じていたんだね」

(何かすげぇ事に・・・)

落っことした消しゴムの捜索に手間取っていたら何やらとんでもない展開を見せてるみたいだ。彼女達は居なくなろうとしている友人の為に真剣だった。ところが事情を知っていて、かつ部外者と位置付けられる俺からしてみたら最早聞いちゃいらんない。黄瀬、早く何とかしろ。こっちまで気不味いじゃねぇか。

「わかるわかる、わかるでぇ!」

(またか)

「でもそんな風に1人で悩みを抱え込んだらアカン!」

「プリキュアの事なら心配しないで」

「やよいさんが抜けた分は私達が頑張りますから・・・!」

頼むから早く終わってくれって、出て行きづらいだろ。机の下でしかも同じ体勢で長く居るのはしんどい。因みに消しゴムは“もしかしてプリキュアの事で悩んで・・・”の辺りで既に見つかってました。タイミング見失っちゃった。

「大丈夫や、真澄かて居るしな!」

「は」

「なーんてな」

和まそうとかしたんなら一つも笑えなかったなぁ今の。さぶっ、止めて下さいよ日野さん。ここに本人居るんですからね、ホント。

「―――例え、離れ離れになっても私達の気持ちは一つです」

「ウチも」

「私も」

「あたしも」

「キャンディもクル」

「「えぇぇぇーーー!!」」

って黄瀬も思ったに違いない。感動的な場面だなぁ、いや、実に。星空さん達は黄瀬1人をそっと優しく包み込んでいた。よし、この隙にっと。

 

 

嘘か。考えてみると幾つかしょーもない嘘をついたもんだと今でもその時の過去の記憶が甦る。ある時、宿題やってなかったのについ流れでやったとか言ってみたり、この間なんて妹の読んでた漫画すり替えたり。まぁ、流石に直ぐ気付いてしまったんだがやってないって言い張った。無論バレバレ、元はと言えば奴が先に読み掛けの小説に挟んだ栞をこっそり動かしたりしたからだ。そりゃあ俺だって読んでて気付いたよ、一章分くらい読み進んだとこで。ホントに心底くだらないのだが、一番古い記憶だと実は去年の夏休み終わりだったかな。どうしても翌日から学校行くのが嫌になってしまった俺は取り敢えずその場凌ぎに腹が痛いだの頭が痛いだのと仮病では定番とも言うべき症状の数々を訴えて布団に潜り込んだままその日から一日中部屋に引きこもった。だがそうまでするくらいマジで行きたくなかったんだなぁ。・・・とか、今となっちゃ懐かしい思い出の一つかも知れない。―――屋上で1人、ただボーッとそんな事を考えていた時である。気配がしたので後ろを見ると黄瀬が居た。いつの間に、てゆうか彼女だけみたいで後の奴らはどうやら居ない。すると黄瀬は俺が座るベンチの隣に静かに腰を下ろした。

「え、何これぇー」

「―――“何これぇ”、カンコレー!・・・なんちゃって」

「お、おう。その・・・うん、一旦落ち着けよマジで。てか、多分だけど俺が悪かった、んだよな?よく解らないけど・・・」

「あ、ちっ違うの!!緊張してなんか変なこと言っちゃった・・・。だから!今の忘れて、うん。絶対だよ!・・・もぅ、ホントにやだぁ・・・!」

1人で随分と忙しいな、どうしちゃったのさこの娘は。いきなりやって来たクラスメートはどうやら錯乱状態、それに静かな屋上に2人きりとか今ここに人の目があったとしたら俺達ってどんな風に見えるんだろう。決して自惚れるつもりは無いんだけど、このシチュエーション?それはもう・・・ねぇ、多分。で、何で緊張してんだよ。ところで“カンコレ”って一体何の事だろう。いやいや、どうでもいいか。

「何しに来た、目的は?」

「あのね・・・真澄君。そのー・・・実は私、お願いがあって・・・」

「やだよ」

「だから、まだ何も言ってないよ!」

さーてこのやり取りも流石に飽きてしまった。しょうがねぇから真面目に聞いてやるかな。

「何」

「―――お願いします!真澄君も一緒に考えて下さい!どうやったらみゆきちゃん達に本当の事を打ち明けて謝る事が出来るか」

「却下。そんなの俺が知るか」

「うぅぅ・・・!」

解ったよ!解ったから泣くのは止めろ。こいつ、泣けば大概の事は上手くいくとか考えてんじゃないだろうな。そんな甘い考えじゃ将来ろくな大人にならないぞ全く。

「ゴメンね。いきなりこんな事、頼んだりなんかしちゃって」

「ったく、そう思うなら相談してくんなよ。・・・うぅんと、直接言えないなら何か別の方法とか」

「別の方法?」

「むぅ・・・・・・手紙でも書いてみたら」

「手紙、か」

面と向かって言えないとなるとそれぐらいしか無いのでは。この俺の意見に黄瀬は俯きながら顎に指を添えると暫く考え込む。そして―――

「そうだ!絵にしよう!」

「え」

「私が得意な絵にしたら上手く伝わるかも」

彼女は手元の鞄から普段より持ち歩く自慢のスケッチブックを取り出すと早速そこにペンを走らせた。俄然やる気になった様子で黄瀬は黙々とイラストを描き出す。

「直接話す勇気は無いけど、漫画なら正直な事が言える・・・!」

本当は自分の口から言うべきだし、それが一番手っ取り早い事であるというのは彼女自身もきっと自覚はしている筈。けれどその上で彼女は彼女なりのやり方でどうにかしたいと頑張っているに違いない。得意のイラストという形で嘘を正直に伝えようと黄瀬はこの放課後の時間に絵を仕上げていった。

「出来たー!!」

「へぇ、それが漫画か」

キュアピースが仲間達に謝るという姿に吹き出しを付け、謝りたい内容を台詞としてそこに書き込んでいる。しっかし思い付きにしては中々凝ってるな、自分を描くのも上手いのかこいつは。

「真澄君、ホントにありがとう。お陰で絵を描く事を思い付いたし・・・」

「別に、何もしてないけど」

「―――それからね、真澄君から皆には言わないでね。これを切っ掛けにして、皆へはちゃんと自分から本当の事を打ち明けたいから。自分からきちんと謝りたいんだ」

「う、うん」

 

ヒュゥゥゥー・・・・・・

 

「あぁぁぁぁ?!」

「えっ」

風のイタズラって奴か、気紛れにも黄瀬の渾身のイラストを空の彼方へ拐っていってしまった。あららー、万事休す?

「―――あ、新しいの描けば・・・」

「やよいちゃん!」

ナイスタイミングとは程遠い時に彼女はやって来る。どうやら黄瀬の事を探していた様でそのまま引っ張っていこうとする。もうこうなったら今言っちゃえよ、本当の事。

「真澄君も一緒に教室に来て!大事な用があるの」

「へーい」

一体何をしようというのだろう、俺的にこれは嫌な予感しかしない。そ、こういう勘だけは基本的に外したことないんだ。・・・星空さんに連れられて二年二組へ。日野に呼び止められた俺だけは教室の後ろの戸から入らされる。―――おぅっと、ヤベェ。黄瀬より一足先に教室に入るとそこで凄い物を目にしてしまった。次の瞬間、黄瀬が入ってきた途端クラス中から拍手が巻き起こる。桜の花弁まで散らせるという憎い演出、加えて黒板に書かれた温かいメッセージ。ひゃあ、オワタ。

 

 

 

 

黄瀬への気持ち秤のサプライズ。この状況、ただ呑み込まれていくしかない。わ、笑えねぇ。嘘が肥大して取り返しつかない状態だわ、正しく。クラス委員として、いやそれ以上に友達として青木は急遽転校するっていう黄瀬の為に率先してお別れ会をこうして開いてくれたんだとか。うぅーヤバい!事情を知ってるだけにこの先の展開を想像とかしちゃったら俺も黄瀬と同じくらいここから逃げ出したい気分だよ。生き地獄って言葉はこういう時の為にあるんだって、まさか実感する機会にこうして恵まれようとはねぇ。

「急な事でしたので、学校で育てたお花しかご用意出来ませんでしたが・・・」

「あのお花、れいかちゃんが花壇に水やりして育てたものなんだよ」

「へぇ」

星空さんがさらりと伝えてくる。いらんいらん、んな情報。わざわざ摘んできたって?くぅ~これは・・・!

「私達の気持ちだよ」

「忘れんといてや」

「あの、あの・・・・・・」

こうなってしまったら今更嘘でした等とは口が裂けても言えんだろう、況してやこんなクラスの皆の前で。そんな事をしたらどうなるか容易に想像つくな、黄瀬は総スカン食らって誰とも口利いて貰えなくなるんじゃなかろうか。そんなの幾らなんだって辛すぎるし、でも嘘の代償って奴なのかなこれも。・・・けど何も悪気があった訳では無いらしいし、どうにか上手いこといかないかな。

「これは皆からのメッセージです」

「寄せ書き」

「時間が無くて全員には頼めなかったけど、でも後で皆でちゃんと挨拶するんだ。真澄君もお願いね」

トドメじゃぁ!そんなもんまで受け取ったらいよいよ終わりじゃんっ。ズルズルと来るところまで遂に来てしまったか。あーあー、もうどうにでもなってしまえ。

「では、やよいさんからも皆さんにメッセージをお願いします」

但し、黄瀬には酷かも知れんが俺はこの場から消えてやるからな。この先の修羅場を見届ける根性は生憎と持ち合わせてないんでね・・・

「真澄、どこ行くん」

「真澄君?」

気付かれたー!放せぇ、放してくれぇい!頼むから行かせてくれぇーい。

「・・・俺、こうゆうの駄目だから」

「え―――」

「真澄・・・知らんかった。あんたほんまはこういう時、一番涙脆いんやな」

日野は肩に手を置いて引き止め、もう一方の手の人差し指で鼻の下を擦る。

「そっか、そうだよね。真澄君だって本当はやよいちゃんとお別れするのが寂しくて・・・」

「―――ちげぇよ」

何勘違いしてんだよ!まぁこんなムードじゃ無理もないか。いいから一先ずトイレにでも行かせてくれ、ほとぼり冷めるまで隠れていたいんだから。

「えぇんやで、何も恥ずかしい事あらへん。ウチかて今、必死で・・・」

「だから、違うっつうの・・・!」

「・・・真澄君!泣かないで―――」

「だーからちげーよぉ!!」

我ながら苛立った末にみっともなく大声を出してしまった。クラスの連中皆が今度はこっちへ一斉に振り向いた。しくじったな、くそ。でもって人ってのはついつい一言余計に口走ったりしてしまうもので、自分でさえその例外ではなく。

「こんな下らねぇ事に付き合わせんなよ!いい加減にしろ、嘘なんだよ!」

「・・・ま、真澄?」

「灰谷君?」

緑川と青木だけでは無い、その場に居た誰もが呆然と立ち尽くした。突然叫び始めた一生徒の言葉に。

「あんた今、何て」

「―――あぁ、いや・・・その・・・」

「うわぁ、酷い」

誰かがそう呟くのを確り耳にしてしまう。これ以上、余計なこと言う前にさっさと帰ろう、うん、それが良い。

「やよいちゃん!」

そこで黄瀬が堪らず花束と寄せ書きを手に教室を飛び出した。皆を騙してしまって耐えられなくなったのが理由なんだろう、だがこんなタイミングでは誰がどう見たって俺のせいに思える。―――あぁ、どうしてこうなった?・・・それを見た日野が詰め寄ってくる。

「何であんな事言うてん!!」

「あかねちゃん・・・!」

「どうしてなの?」

2人の問いには答えなかった。クラス中が折角のお別れ会をぶち壊しにしたそいつを睨んでいる。当然だよな、いやぁつくづく参ったね。

「皆さん。兎に角、今はやよいさんを・・・」

彼女の一言で星空さん達4人が追い掛けていく。後のクラスの奴らは学級委員である青木の指示で黄瀬を連れ戻すまで待機となった。俺は無論、そこには居られる筈もないので今日はもう帰ろうかと校舎を出た。ところがグラウンドに足を向けてみると学校の体育倉庫の裏から啜り泣く声がしたもので忍び寄って覗いてみた。花束と寄せ書きの色紙を側に置いて膝を抱える白いカチューシャを付けた頭。それがこちらに気付くと顔を上げた。

「逃げてどうすんだよ」

「だって―――」

「後、さっき無視して振り切っただろ。呼んだのに」

「・・・ゴメン」

「ちゃんと謝れよ、俺にじゃなくて星空さん達に」

実はここへ来たのはこいつの姿が見えたからだった。2人して今度はグラウンドの隅の体育倉庫の裏手で並んで地べたに腰を落ち着けている。同じクラスの男子と女子、だからどんなシチュエーションだよ。

「今度こそ駄目・・・きっともう許して貰えないよ」

「じゃあ本当に転校するとか」

「えぇ!?嫌だよそんなの・・・!」

冗談のつもりだったのに、イチイチ真に受けんなよ。こんな時にそんなことを言う俺も俺だけど。

 

「やよいちゃん」

 

そうこうしていたら遂に星空さん達がここまでやって来た。取り敢えず黄瀬に関してはこのまま教室へ戻る事になりそうだな。4人は当然ながらこの俺にも気付いて―――

「・・・真澄君」

「あんた、やよいに言うべき事があるんとちゃうの」

「あかねちゃん、実は―――」

「真澄。どうして下らないだなんて言ったの?・・・今、そうやってずっと黙ったままだけどそういうのって筋が通らないんじゃない?」

緑川の問い掛けにも正直言って上の空。何故なら空模様が突然にして変化したから。赤く染まる光景に星空さん達も異変に気付いたらしくてその原因が何かも解っていた。案の定・・・

「あんたは!」

「皆、急いで変身クルゥ!」

校庭のフェンスに立って大きく高笑いする大柄な赤鬼の姿。バットエンド王国とか言う所から来たらしいそいつを前に、俺は星空さんに促されて巻き込まれんようにとこういう時には何時もながらその場を離れる。黄瀬も涙を拭って立ち上がり、5人は変身アイテムを手に取る。

〈―Ready?―〉

『プリキュア・スマイルチャージ!!』

〈―Go! GoGo Let' go!!―〉

光と炎、雷に風と氷、これらが恐らく各々に与えられた属性という力であり、変身する際にも色濃く反映されているのだろう。最後に両頬をパクトで軽く叩き、彼女達は順に降り立つとそこで名乗っていく。

「キラキラ輝く、未来の光!キュアハッピー!!」

「太陽サンサン、熱血パワー!キュアサニー!!」

「ピカピカぴかりんじゃんけんポン♪キュアピース!!」

「勇気リンリン、直球勝負!キュアマーチ!!」

「しんしんと降りつもる清き心!キュアビューティ!!」

カラフルな色彩を帯びて光輝きながら漆黒の空へ光をもたらす。―――てな感じの表現が相応しいかどうかは別にして、こいつらは更に決め台詞みたいなものをしれっと用意していたりする。

 

 

 

『五つの光が導く未来!!―――輝け!スマイルプリキュア!!』

 

 

 

・・・という事みたいなのでよろしくお願いしますってか。直後、赤鬼はそれが終わるのを待っていたみたいに赤い玉を取り出して頭上高く掲げた。邪悪な色のエネルギーが注ぎ込まれ、グラウンドにある整備用に使われているローラーからアカンベェという怪物を生み出す。そうそう、一応アカンベェってもうそんな風に叫ぶから正式な名前で間違いないみたい。とことんふざけてるよな。

「行け、アカンベェ!」

「アカーンベェ!」

ほら、やっぱり。今度の奴はローラーを使って走ってくる様なのであっという間にプリキュアとの距離を詰めてきた。そこで赤鬼は堂々と次の攻撃の指示をするんだけどこっちまで丸聞こえなんだよなぁ。だからハッピー達もそれが解った上で防御を固めて備えていたんだけど―――

「うっそー!」

うわぁしょうもねぇし幼稚、でも赤鬼の言葉にすっかり騙された5人は回し蹴りされて吹き飛ばされてしまった。続いてローラー攻撃だとアカンベェも追撃しようと再び迫ってくる。・・・いや、待てよ。この流れならそれも嘘なんじゃね?

「うっそぉー!」

「やっぱり」

ホント低レベルでガキっぽい真似しやがる。可笑しくて可笑しくて仕方ないと大笑い。確かに卑怯ではあるが上手いこと隙を突いて攻めてくる。

 

「さっきから嘘ばっかりついて!」

 

「嘘つきは泥棒の始まりって言うやろ!」

 

「あたしは嘘は大嫌いだ!!」

 

「嘘ではなく、正々堂々と勝負しなさい!」

 

流石に頭にきてそれら数々の言葉を赤鬼に対してぶつける。しかしながら当の本人はどこ吹く風、はなっから気にしてないから何を言われたとて怯まない。と、赤鬼はそれに加えてある1人に同意を求めてきた。

「馬鹿め!嘘は最高オニ。・・・そうだよな、キュアピース!―――これを読んだオニ」

おぅっとっと、この展開は一体なんなんだろう。遠目からだったので俺にはそれがよく見えなかったのだがピースや他の仲間の反応から、赤鬼が取り出した紙切れが何か漸く解った。

「私の描いた漫画・・・!!」

「何であいつが拾うんだよ」

よりにもよって何故あいつが持ってるのかについては偶々拾ったとかそんなとこだろう。ハッピー達4人は状況が呑み込めなくてただピースを見詰めるばかり。

「何でお前、嘘をついた事を謝るオニ!嘘はどんどんついて良いオニ。騙された方が悪いオニぃ!!」

「止めて!」

「ピース、嘘ってなんの事や?」

「もう白状しろって、仕方無いし」

「真澄君。何か知ってるの?」

いい加減に焦れったいという気持ちもあってかついその場に口を挟んでしまった。こればっかりは本人の口から直接聞くべきだからハッピーに尋ねられても敢えて無視する。

「お前の嘘に騙された仲間を笑ってやるオニ!ウハハハハッ!!」

「私の大切な友達を笑わないで!!」

「アカオーニは何を言っているんですか?」

「ピース」

「何かあるなら正直に言って」

いよいよその時だ、望ましい状況ではなかったがここで言うべきなんだとそう思う。だから俺はこちらに視線を向けてきた彼女へただ頷く。

「私、例えどんな事があってもピースの事、大好きだよ。・・・転校してきた私に優しく声を掛けてくれたでしょう、あの時とっても嬉しかった」

中々言い出せずに居たピースにハッピーがそう優しく言葉を掛けた。―――それが切っ掛けになったんだと見ていて思った。ハッピーの気持ちが伝わってピースは改めて全てを打ち明ける覚悟が出来たんだろう。転校する話がエイプリルフール故についた嘘であったとこの場を以て仲間に告白した。一つの嘘が時に些細な要因から膨れ上がってここまでの騒ぎに発展する。これはちゃんと教訓として全国の視聴者にも伝えなきゃならない。・・・あ、これはなんつーか一種の物の例えです。

「エイプリルフール?」

「そう言えば―――」

「えぇ、嘘をついても良い日だ!」

「コラ!ハッピー、何でそんな嘘を真に受けたんや!」

「ごめんなさい。でも、サニーだって“わかるわかる、わかるでぇ”って言ってたじゃない」

あーそうだ、言ってた言ってた。乙女心まで持ち出してすっかりそんな気分に浸ってたよな。てか2人してアホなの。

「・・・で、詰まり転校・・・」

「しないしない!絶対したくないよ・・・!」

あーあ馬鹿らしい、けど一件落着したっつう事で良しとしようじゃないか。

 

「それが一番嬉しいです!」

 

「―――え、皆、許してくれるの」

 

「許すも何も・・・」

 

「ちょっとハッピーのせいやしな」

 

「よく正直に言って下さいました」

 

思いがけない展開にピースは泣いていた。が、心の底から嬉しくて涙を流しているんだし好きなだけ泣かせてやったら良いんでねーの。でもそんな中、感動的なシーンだったのに空気読まねぇ奴が若干二名。いや、そもそもこんな状況でこういう事になってる方が寧ろおかしかったりして。兎に角、赤鬼とその命令を聞く怪物共が痺れを切らしているみたいだから、危なそうなんで俺も退避しておかないと。

「たかが嘘でうるさい奴らオニ。行くぞ、アカンベェ!」

「―――私、皆から一杯優しさを貰った。その優しさが私に本当の事を言う勇気をくれた!」

「意味解らんオニ。アカンベェ、パンチ攻撃オニ!!」

赤鬼の命令でアカンベェが拳を振り翳し、ハッピー達は防御の姿勢で身構えた。ただ1人、ピースだけが前に出て仲間達を驚かせる。

 

「うっそー!」

 

やはりフェイントを掛けてきた。パンチと見せかけてのローラー攻撃、だがピースは一切怯まずに敵を正面に捉えて見据えた。

「私、解った。皆を悲しませる嘘なんて、絶対ついちゃ駄目なんだって!!」

これ以上同じ手は通用しないと連中は思い知らされる事だろう。彼女は高くジャンプして頭上から力強い飛び蹴りをアカンベェ目掛けて叩き込む。動きを食い止めたところでスマイルパクトへ気合いを込めて共に力を集束させていく。さぁ、例のものが来るぞ。掲げたピースサインに落雷が生じ、その受け止めたエネルギーを一気に放出する。

 

 

「“プリキュア・ピースサンダー!!”」

 

 

雷の力をめい一杯お見舞いしてアカンベェを浄化、でもやっぱり黒焦げの消し炭になりそうでおっかねぇ技だよ。・・・こうして無事、赤鬼を追っ払った上で黄瀬達は教室に戻った。他のクラスメートまで巻き込んでしまった訳だからこれから散々謝らなければいけない。道中、黄瀬が何かを思い出した様に星空さん達を呼び止めた。

「あのね、真澄君は転校の話が嘘だって知ってたの」

「なんやて!そうなんか」

「私が黙ってって頼んだの。皆には自分からちゃんと打ち明けて謝りたかったから。・・・さっきも教室を出たのは皆に申し訳なくって、それで―――」

「成る程、そういう事でしたか」

「それから真澄君にどうしたら皆へ本当の事がちゃんと言えるか相談してたの。それで一緒に考えてくれて・・・」

「あーもう、面倒に巻き込みやがって」

「とか言っても何だかんだ優しいんだよねぇ?真澄は。だってやよいちゃんの相談にのってあげた訳でしょ」

「ほんまやな。えぇとこあるやん、このこのっ」

「うっせーよ」

その後、二組の教室で黄瀬本人の口から伝えられた真実に皆は呆れ果てて罵詈雑言の嵐。中には怒りを顕に彼女へ向かって詰め寄ろうとする奴も・・・ってのはうそうそ。皆かなり驚いてはいたけどエイプリルフールってのと星空さん達のフォローもあって少なからず納得してくれたんだろう。黄瀬はさぞ安心したろう、それにもう十分懲りたと思う。―――何より彼女が本当に転校するんだと疑いもしなかったその分、大半のクラスメートは嘘と解って良かったと思ったかも知れない。

「・・・でもウチ、今回の事でやよいのことちょっと嫌いになったなー」

「え!」

「うん、あたしも好きじゃないね」

「えぇー!?」

「私も、やよいさんのこと嫌いです」

「えぇっとえーと・・・私も!」

いやいや、この期に及んでそーゆー流れ?・・・星空さん解りやすいなぁ。後、青木の場合は笑顔でさらりと言ってのけたんで妙に怖かったぞ。黄瀬はまたまた涙目でうーうー言い始めた。

 

“なーんて、うっそでーす!”

 

「嘘ってことはその反対で、詰まり大好きって事だよ!」

「「「うん!」」」

これでおあいこや、と言う日野の声に続いてクラス中が笑顔に湧く。黄瀬も一緒になって笑う姿を窓際で見ていると目の前を一枚の花弁が掠めた。何気に手を伸ばして掴むと淡いピンク色をした白に近い桜の花弁だった。

 

 

 

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