真っ白の世界。
自分が立っているのか座っているのか。
浮遊しているのかと言われたらそうではない気がする。
ここは自分の世界なのだろうか。
頭の中で誰かが叫んでいる、泣いている。
誰かと戦っている。
何の記憶なのだろうか、無くしたものなのか。
ここが何なのか、そこが何なのか彼には分からない。
何も、分からない。
「……っ!はあ、はあ、っくはあ」
体を勢いよく起こす。
どうやら夢だったようで気づけば寝室にいた。
そう自覚する頃には夢の記憶も全てどこかへ消えてしまっていた。
「あ、ヒビヤ」
隣から声が聞こえ、振り向くとそこにはフィリアがいた。
今は朝ではない。それはヒビヤにも分かっていた。
それもそのはず、ちゃんと朝フィリアを散歩兼悩み相談に誘った記憶がある。
だが、その先がぽっかりと無くなっており気づけばここで横たわっていた。
何か無理をするようなことをしただろうか。
それともまた、記憶が無くなってしまったのか。
「調子どう?」
「分からない。どこも何ともない、はず。何があったの?」
「やっぱり、覚えてないんだ」
「やっぱりって何、何か知ってるの!」
「いいの、思い出さないで。それ以上聞かないで」
フィリアの冷たい声と素っ気ない態度が彼に突き刺さる。
何かしたんだろうか、そんなワードが頭に浮かんでいた。
だが人のことだけを考えていられるほど彼の頭も落ち着いているわけがない。
「ねえフィリア、これだけ教えてよ」
「……何?」
「僕は、フィリアに何か悪いこととかしてない?」
「……教えない」
「じゃあ、なんかしたんだね」
「教えない!」
質問を続けるヒビヤを振り払うように言う。
怒鳴られたって無視されたって意味が分からなければ納得のしようが無い。
だが彼女が何もしていない人間に対してあんなに怒るだろうか。
冗談なら冗談なりのテンションを弁えているのが彼女だ。
こんなの消去法で答えが分かってしまう。
じゃあ何をした。
その記憶がヒビヤには無かった。
記憶が無いから謝らないわけでは無いが、原因を知らずに謝るというのは話が違う。
だったら、他にその場にいた人はいないだろうか。
街の外なら分からないが中なら住人の一人くらいいてもいいだろう。
ここで寝ているということは運んだ人がいるはずだ。
そもそも、何があってヒビヤはここで寝ていたのか。
体のどこを見ても外傷がない。
魔力枯渇だろうか。
今はぴんぴんしているがエレゼンかマキナなんかが処置をしてくれたのかもしれない。
となれば原因を知っているのも二人のどちらかも。
「……ん?」
ふとフィリアと目が合う。
途端彼女は目を逸らした。
その一瞬の表情を見逃さなかった。
「僕のこと、怖がってる?」
「……質問は、一つじゃなかったの?」
「っ!」
バンっとベッドを叩く。
瞬間俯いていたフィリアもびくっと顔を上げた。
分かっている、彼女は悪くない。
そんなこと分かっている。
分かっているんだ、それでも。
「教えない教えないって、教えてくれなきゃ分かんないじゃないか!分かんないんだよ……何も、何も!また記憶が無くなって、でも知ってる人がいて、でも教えてくれなくて。隠すんだったらもうちょっと上手く隠してくれよばれてるんだよ!なんなんだよフィリアは器用なはずだろ……そうだ、そうやってわざと、そうやって記憶のない僕を笑って楽しいか!どうせ僕の気持ちなんて分からないよ、また記憶が無くなったってことがどれだけ怖いか、人のことを本だか何だか知らないけど全部知った気になって、僕のこと怖がってなんなんだよ、僕からしたら君みたいな人が一番怖いんだよ!なあ、文句があるなら言ってくれよ、知らないんだから、言ってくれなきゃ分かんないじゃないか!」
「そ、それは」
「なんだよ聞こえないよ!」
「うるせえなぁおい」
「なんだよ!──あ」
新しい声に扉の方を見るとヒュースが壁に寄りかかり睨みつけていた。
その怒りが身に染みてくる。
昨日のあんな喧嘩とは大違いのものだ。
その目はしっかりと、ヒビヤを捉えている。
「まずその腐った面を下げやがれ」
「……どうしてヒュースさんに」
「俺にじゃねえ、フィリアにだ」
「えっ?」
ヒュースの言葉で隣を見る。
「……あっ」
フィリアは声に出さないように、静かに涙をぼろぼろ零しながら泣いていた。
恐らくヒビヤが怒鳴ったからだろう。
少し冷静になってみればそれでもなお隠すように泣く彼女の嗚咽が微かに漏れているのも分かった。
だが謝れと言われても内容が分からないんじゃはい分かりましたとは言えないのも事実だ。
「お前が知ってるかは知らねえが、こいつにも子供の頃の記憶がねえんだ。それは俺らみたいな歳食ったやつが忘れるそれとは別でな、こいつにもぽっかり穴が開いてるんだよ。てめえと同じだなんて言う気はこいつも俺もねえがそれだけはその少ねえ頭に入れとけ。────それとフィリア、俺はもう一抜けだ」
「え……?」
泣いているフィリアに突然声がかかり顔を上げる。
彼女に向けられた目はヒビヤに向けたものとは全くの別物だったが、内容はきっと同じなのだろう、そう感じさせるものだった。
「もう俺はこいつに一切の隠し事はしない、元々俺はそういうのが得意じゃねえんだ。それにこいつの気持ちが分からねえほど人間やめてるつもりはねえ。それはお前も同じだろ?」
「だけど、それを言ったら!」
「今の俺らに絆なんてものは微塵もねえよ、壊すなら今壊せ。こいつが牙を向くなら俺は正面から受け止めるさ。それだけのことを俺らはした、それだけだ。子供一人不幸にして掴む平和なんて、俺は嫌だね。てことでヒビヤ、お前は今すぐ居間に来い、家族会議だ。来ないなんて言わせねえぞ?お前も今日から立派なシーボルト家の一員だ」
似合わないようなことを口走りながらヒビヤに笑顔を向ける。
一体この人は何の話をしているのだろうか。
隠し事というのは先ほどの無くなった記憶のことか別件か。
行けば分かるというのであればヒュースに呼ばれたからと言って行かないわけにもいかない。
それに彼の口調からいつものふざけた感じが抜けていることもなんとなくヒビヤは感じ取っていた。
「後フィリア、お前もだ。欠席したら尻ひっぱたくぞ」
そんな言葉を残して部屋を後にする。
ヒュースの言葉に従うのは癪だが、気持ちとは裏腹に歩は一直線に進もうとしていた。
だがそれも束の間フィリアの手が袖を掴んでくる。
「……ごめん、な、さい」
「え?あ、いや」
「ごめん、なさい!」
謝りながら勢いよく上げた顔は涙でびしょぬれになっていた。
今でも目からは大粒の涙がボロボロと零れており止まる気配が無い。
そんな状況にヒビヤは何も言えないでいた。
「えっと、その、後で、ね?」
「私、ずっと酷いことしてたの……!友達とか言って、ヒビヤを利用して、道具みたいに使って、ヒビヤの言う通り本の通りに行くことを必死に考えてた……!私に記憶が無いのなんかどうでもいいの、そんなの言い訳になるわけがない。でも、これだけは嘘じゃないから、だからお願い、友達は、友達だけは、やめないで……!お願い……!」
ヒビヤの両袖を掴み縋るように泣きつく。
その声は半分以上が聞き取れるものではなくて、ヒビヤも内容なんてほとんど聞いちゃいなかった。
ただどうして彼女がこんなに泣かなければいけないのか、自分だけが損な目に合っている、そういうわけでは無いのだろうかと考えさせられる。
意味が分からなかった。
慰めの言葉なんて当然かけられるわけがない。
下で話を聞くまでは、何も言うことが出来なかった。
許す許さない、謝る謝らないの話では無い。
彼女の行動が意味が分からないのではない、彼女をあんなにして、自分もこんなにかき回されて。
一体この世界は何なんだろうとそんなことを考えていた。
「ごめんフィリア、僕先に下に行ってるから。ちゃんと聞いたよ、でも今は何も言えない。フィリアも来てね、君に全部を言わせようなんてそんなことはもう考えてないから、でもほらヒュースに尻叩かれるのは嫌でしょ?」
フィリアを置いて部屋を先に出ていく。
階段を下りながら、さっきの彼女の表情を思い出す。
これからは彼女の本当の顔を見れるのかなと、そんなことを考えていた。
■ □ ■
ヒビヤが降りてきてから少ししてヒュースの言う家族会議とやらが始まった。
メンバーはこの家に住むメルン以外の住人とマキナだ。
フィリアも目が張れていたり赤かったりと何をしていたのかはバレバレの状態ではあったが、出来る限り整えたようですぐに降りてきた。
メルンがいないのは決して家族では無いからというわけでは無く、この話に一切関与していないからだ。
後に明かされることになるわけだが、この街にいる住人全員がこの話を知り黙秘し関わっていたということだ。
それはフィリアの命令であり、そこを崩してはならないとされている。
だがメルンだけは本当に一切のことを知らない。
どういうわけか両親がそうするべきという答えに至ったのだろう。
勿論その二人以外そのことを知らなかったわけで、フィリアもそれを聞いたときは心底驚いていた。
元々歪な関係を続けていたということになる。
つまり二人はメルンにも街の皆にも今までずっと嘘をついていたのだ。
なんともまあ器用なことで。
「それでだ、遠回しの話なんてのは嫌いだから率直に話を進めていくわけだが良いよな?謝りてえ奴は最後にしてくれ話が延びるのは面倒だ」
「ごめんなさい、ヒビヤ君」
「ちょ、おいエレゼン」
ヒュースの話の束の間エレゼンが立ち上がる。
急いで止めに入ろうとするが彼女の厳しい目がヒュースを椅子へと座らせていた。
「ふざけて言っているわけじゃないわ、私が心の底から思っていることを少しだけ話させて。皆を悪者にしたいわけじゃないけれど今から卑怯なことを言うね。私は元々この話に乗り気じゃなかった。勿論フィリアの話を疑わなかったからこそ、この話を一番最初に聞いた中央の時からよ。子供を盾になんて私には出来るものじゃなかった。それはこんな身なりのヒュースも同じ。夫を守ろうなんてお門違いかもしれないけれど嘘じゃないわ。だからヒビヤ君、もしあなたがこの街を出ていくというのなら私もついていく。ヒュースが来ないなら私一人でも行くわ。これだけは覚えていて、どんなことをしても、私はあなたの味方よ」
エレゼンの真剣な眼差しがヒビヤにだけ注がれる。
彼女が先行して話をしてしまったため言っていることの意味がいまいち理解できないがそれはこの後聞くことが出来るのだろう。
疑心暗鬼なヒビヤに最後の言葉を十分に信じろという方が無理な話だが、エレゼンにとってはそれで十分なようだ。
いつもおっとりしているだけの彼女からは想像もできないような姿。
気持ちだけはしっかりとヒビヤに伝わっていた。
「お前ほんと、そういうのやめてくれよな。場の調子が狂うっての。で、他になんか言いたい奴は?いないならはじ──「私が全部話します。その責務が、私にはあるので」
ヒュースの話を遮ったのはフィリアだった。
その言葉を聞いてゆっくりとヒュースが席に着く。
当然と言えば当然なのだろう、事の発端は彼女なのだから。
それが分かっているのかヒュースは何も言わずに座っていた。
一度深呼吸してからフィリアはヒビヤの目をじっと見て、その目を離さず語った。
そして話が終わった後、ヒビヤはこの家からいなくなっていた。
フィリアを携え、街の外へと。
「良いのかエレゼン、あいつ出てったぞ」
「どうでしょう。次会うときにこちらに剣を向けるならあなたを盾にする、それだけよ」
「お前話違くねえか?なんで端から俺が敵なんだよ」
「じゃああなたもヒビヤ君につくの?」
「それは……あいつが望むなら、何だってするよ」
「ふふ、あなたの口からそんな言葉が出るなんて」
「うるせえ」
「でも、それだけのことを私たちはした。償うのは当然のことよ」
「まあ、そうだな」
ヒュースの冗談にエレゼンが真顔で返し、それを見るだけのマキナが所在なさげにもじもじしている。
すっかり自分が発言するタイミングを失い、一人何もできずにいた。
エレゼンのようなことを思わないわけでもない、彼女も立派な大人だ。
だが自分が彼に対してどんな気持ちを抱いていたのか。
嫉妬。
魔法に関して言えばその言葉が真っ先に当てはまった。
自分の今まで積み上げてきたものが一瞬で崩された気分だ。
生まれなんて知ったことではない。
ただそれだけが、マキナのプライドというものを確実に傷つけていた。
だが彼の境遇を改めて聞きそれが真実であると知った今、本当にうらやましいなんて言えるのだろうかと考える。
彼になれたら良かった、そんな言葉を簡単に口走ってはいけないことくらい当然理解していた。
この世界を救うため、そんな曖昧なことのためにここに呼ばれたこと。
人為的に記憶を失った彼に失う前と同等の実力を取り戻させるために用意されたこのリープウィルという街。
この街の住人のメルン以外が予め彼の存在と出現を認知していたこと。
これからの彼の行動にもちゃんとシナリオがあったこと。
そんな話を聞かされて正気でいられる方がおかしいというものだ。
人生を勝手に決められただけでなく周りにはそのグルしかいない。
心底寒気のする話だ。
だが一番彼に衝撃を与えたのは、こんなに用意周到だったシナリオを知らなかったにしろ自分の手で初めから狂わせてしまったことだ。
記述によると街を魔物が襲い、ヒビヤが街に近づかない状態でフィリアが魔物と交戦、そして死亡。
その
そして友を殺した魔物への復讐心でヒビヤが動くようになること。
この話が真実となっていた場合当然フィリアは死んでいることになる。
またヒュース達遠征組の街への到着が遅かったことも考えるとメルンや街の人々も死んでいた可能性があったのだ。
そのシナリオを崩さないために、メルンが怖がって逃げないようにそれを秘密にしていたのだとしたら、そんな悲しい話があるだろうか。
あの時街にいた人たちは自分が死ぬことを理解していて、それでも街にいたということなのだろうか。
訳の分からない、世界を救うなんていう曖昧な理由のために命を投げ出そうとしていた者達が。
だが、そんなことのために、それでも必死に考え意を決して身を投げた者達の想いを無駄にしたのはヒビヤの方だ。
彼は街に駆けつけ死ぬはずだったフィリアを助け死ななければならないメルンを救ってしまった。
街の外へ放り出されたときの彼らの表情が酷く歪んでいたのはそういうわけだったのだ。
街の住人を助け喜んでいた人もいた、だがそれは本当の喜びだったのか。
きっと心の底から喜んでいたものではなかったのかもしれない。
朝早く街を歩いていたときに貰った食物は一体どういう気持ちでくれたのだろう。
助けてくれてありがとうなんてそんな言葉を心から信じていた自分が馬鹿馬鹿しい。
本当はお前のせいで、なんて。
考えればきりがない、自分のしてしまった過ちの大きさを。
だがそんなこと考えなければどうでもよかった、自分には関係ない話だと切り捨ててしまえば。
しかしそうも言っていられないところまでヒビヤは手を出してしまったのだ。
その本のシナリオという、自分に生きる意味を与えてくれた代物を、自らの手で壊してしまったのだから。
彼を陥れていた内容のほとんどをフィリアは話した。
シナリオから外れてしまった、関係者が秘密を暴露した。
不審人物の接触。
それだけあればもうこだわる必要もないだろう。
軌道修正ができるなんてそんなことを考えた日もあったが、ここで自決したところできっと変わらないことも理解していた。
フィリアも自分が積み上げてきたものを一瞬で壊されたわけだが、エレゼンの言う通り話してしまえばどこかすっきりしている自分がいた。
拠り所を失ったわけだが、なんとかなるさと思えば楽になる。
隠し事なんて、ガラじゃなかったんだ。
そしてその話を聞いて彼はフィリアの名を呼び、家を飛び出した。
彼女を携えどこに行くのか、そんなこと誰にも聞く資格はなかった。
■ □ ■
街の外、鬱蒼と茂る草原が日の光に照らされ輝いていた。
そよ風に揺られ、心地よい音が耳をくすぐる。
そんな中ヒビヤとフィリアは街を見下ろすように腰かけていた。
そこは彼と彼女が初めて出会った場。
どういうわけかヒビヤはそこに彼女を連れてきていた。
ここに立てば最初に戻れる、そんなことがあったら幸せな話だがそんなの幻想だ。
彼女の拘束は既に解かれており、元の姿に戻っている。
フィリアはちらちらと様子を伺うようにヒビヤを見るが、その変化のない表情に戸惑いを隠せないでいた。
とても怒っているようには見えないが、何を考えているのか一切読み取ることが出来ない。
唖然というのが正解なのだろうか、あの話の中に怒らないポイントがあるはずがない。
あまりの量にそうなってしまうのであれば理解が出来た。
もしくは呆れて物も言えないのか、絶望しているのか。
彼の腰につけてある短刀が日の光に反射している。
彼が牙を向いたら受け入れよう、そんなことを考えていた。
だが、フィリアの予想は盛大に外れることになる。
「戦うよ。だって、それしか道が無いんだから。もう僕は勇者じゃないのかもしれない、何の力も持ってないのかもしれない。でも、こんな僕のために今まで頑張ってきた人たちがいて、死ぬはずだった人が生き残ってその生を喜んで、或いは僕を恨むんだったら僕はその人たちのために戦うよ。世界を救うなんて漠然とした話理解もできないけど、皆がそのために頑張ってきたなら、僕にはそれを果たす責務があるんだから」
意を決したように話す彼の表情は言葉とは裏腹に起伏が見えなかった。
どこか諦めてしまっているように見えるのは気のせいだろうか。
「だから、さ。もう嘘はつかないでね。皆のこと、嫌いになりたくないからさ」
微かに笑い話す彼を見て表情を読み取るのをやめた。
この笑顔は感情とは裏腹に無理に出したものだ。
今の彼は自分を陥れたもの全てに恐怖を抱いている。
当たり前のことだった、それを彼ならもしかしたらなんて考えていた自分がいたのだ。
さっき話したばかりなのに、まだ彼を特別扱いしていた。
彼だってただの人間なのに。
「ごめんなさい、ヒビヤ。謝っても謝っても謝り切れないしそんな簡単に許してもらうつもりもない。私たちはそれくらい最低なことをした。だから本当のことを言って。もしこんなのうんざりだって言うなら構わないから。私に君を止める資格は──「フィリア」
俯いて言葉を羅列するフィリアの顔を持ち上げ目を合わせる。
そこで彼は初めて満面の笑みを浮かべた。
「僕たち、友達なんでしょ?そんな簡単に裏切ったりしないよ」
「だって……だって……!私たちは、それくらいヒビヤに、悪いことを……!」
「もういいって、そんなに謝らないでよ。僕が発端だけど今じゃフィリアと僕は似た者同士。お互い支え合っていこうよ。ほら笑って。僕は笑顔の方が好きだな」
「ちょ、ヒビヤ、そんな顔押さえないでよ」
「ははっ、ブサイクー」
「ちょっとっ!」
フィリアも負けじとヒビヤの顔を両手で挟む。
お互いに曲がった顔を見て笑っていた。
似た者同士、その言葉がフィリアには酷くしっくりきていた。
二人でなら、どんなことも乗り越えられる、そう感じさせてくれるものだった。
ひとしきり笑った後、街の方へと歩みを進めていた。
「ねえフィリア、さっき隠してたこと、教えてくれる?あれはまた別だよね」
「分かった。でも私も確証は無いの。想定外のことだったから」
えっとね、と話を切り出そうとしたところで中断された。
門を通るタイミングですぐに異変に気付く。
ついさっきまでいた門番の人がそこにはおらず、加えて人のいる気配がしない。
また何か企んでいるのかとフィリアの方を見るが彼女は首を振っていた。
その彼女の了承を得て剣を握り、周りを警戒する。
「どうなってるんだ……?」
つい先ほどまで賑わっていた街がすっかりその気を失っている。
明らかに異常としか言いようが無い。
「おぉ、ヒュースんとこの坊主じゃねえか!」
声のする方に勢いよく剣を向けるとそこには先日剣をくれた鍛冶屋のおじさんがいた。
ヒビヤの向ける剣に驚いてか、おじさんも敵意をこちらに向ける。
どうもこの街はいまぴりついているらしい。
「何が起こってるんですか?」
「え?ああ、坊主は無関係か。なら良いんだ、悪い」
質問に答えることなく武器を納めるおじさんを見てこちらも構えを解く。
もしかしたら事の犯人を疑われていたのかもしれない。
そのことに少し傷つくが、雑念だとすぐに振り払った。
「それで、一体何が」
「ああ悪い、それが、ヒュースんとこの嬢ちゃんがいなくなったらしいんだ」