孤独な悠者   作:寄す処の空

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小説の内容を編集した際や小言等、前書きに記載することがあります。
よろしくお願いいたします。
 
今回は、全話の誤字脱字のみを編集させて頂きました。
内容の改変等は一切ございません。

それでは本編をどうぞっ

ちなみに今回は全てメルンの視点でお送りさせて頂きます。


第九話 大好きとだいきらい 死にたいとしにたくない

 夜の街、外はとても暗い。

 街を照らすのは空にある月と夜の店、そして微かな家の明かり。

 シーボルト家はお兄ちゃんとマキナさんが余った魔力で作る電気で明るくなっているけれど、魔法を使わない家は火の光のみのため外にほとんど明かりが漏れることは無い。

 だから真夜中の街は誰でも心細くなるくらいに静かだ。

 そんななかで一人、剣を振る人がいた。

 

 それがお兄ちゃん。

 ほんのひと月前に、フィリアの持っている本の通りにここに来たお兄ちゃん。

 内容は私が小さいせいか、誰もちゃんとは教えてくれない。

 

 聞いたら教えてくれるのだろうか。

 それでも二人が話さないと言うのなら、二人にも、フィリアやマキナにだって聞くつもりはない。

 

 初めて会った時はフィリアを連れていた。

 剣になれるとは聞いていたけれど目にしたのは初めてだった。

 

 最初はたまに来る悪党の一人かと思っていた。

 街に来る見覚えのない人はほとんどがそうだったから。

 けれど、お兄ちゃんは違った。

 

 お兄ちゃんだけが、私を救ってくれた。

 私のことなんて知らないはずなのに、ドラゴンから私を守ってくれた。

 その身を危険に晒したとしても。

 

 

 少し前いつも街の皆が遠征に行く日の朝、何故かお父さんが泣いていた。

 お母さんに抱きしめられた。

 状況が全然理解できないでいた、いつもなら小言のようにあれを忘れないようにこれはどーだあーだとそんな話しかしないで出ていくのに。

 でも、二人が出て行って、マキナさんも遠征について行って一日中何も無くなったその日、全てを知った。

 

 リビングに一つの本が置いてあった。

 見たこともない、タイトルなんて書かれていない白い本が。

 開いてみると、驚くなんてそんな言葉では言い表せられないような内容がそこにはびっしりと刻まれていた。

 

 恐怖、それが一番近かったかもしれない。

 生まれた時から今までの行動がびっしりと、そこには刻まれていたのだ。

 最初は二人がつけた日記か何かかと思ったが、ただ文字だけがびっしりと刻まれており味気なんてどこにもない。

 それにその本の最後のページには、ほんのちょっと先の未来のことが刻まれていた。

 

 

『リープウィル襲撃の戦乱に巻き込まれ死亡』

 

 それまで書いてあった他愛のない内容から打って変わって、最後の一ページの最後の行に、静かにそう刻まれていた。

 

 その文字を見て改めて最初のページへと戻る。

 

 この本は勇者がこの世界を救うために作られたシナリオ。

 この本の通りに生きれば世界は救われる。

 

 そんな内容が、もっと難しい言葉で書かれていた。

 

 少し前、家を出ていった二人の顔を思い出す。

 もう半分くらい思い出せないでいるが、その表情のわけがようやく理解できた。

 

 別に二人を恨んだりなんてしない、ここまで明かしてはいけないと二人にも記述されていたのかもしれないから。

 こんな最後なら生まれなきゃ良かった、そんなことも考えなかった。

 生まれることも、決められていたのかもしれないから。

 

 だから誰も恨んだりはしなかった、最後に笑ってあげれらなかった、それだけが少し心残りだったかもしれない。

 このタイミングで本を見せて私が逃げたらどうするんだろうと一瞬考えたが、きっとこの本には最初から見透かされていたのだろう。

 この本を今見たところで、私が逃げ出さないことを。

 

 両親がどんな思いで今日私にお別れをしたのか、その気持ちを分かったなんて軽々しく言うつもりはない。

 でも、そういった苦労を、この本の中に書かれている通りのシナリオを辿るということをずっと続けてきた両親を前に裏切ることなんて出来なかった。

 

 だからその戦乱の当日、思い切って外に出てやった。

 逃げるつもりはない、でもどうせならシナリオに一切狂いが無いように、思う存分殺されてやろうと思った。

 

 しばらくして、地鳴りと共に龍が来た。

 魔物と聞いていたからもう少し小さいものかと思っていたが随分と贅沢な。

 これなら痛い思いをせずに、一思いに殺して貰えるだろうか、そんなことを考えていた。

 

 怖くはなかった、痛くないなら心配することなんて何もない。

 こう思うのは普通だろうか異常だろうか、そんなのどうでもいい。

 何を思ったって、未来は変わらないんだから。

 この世界のために命を捨てる、そんなこと考えたらちょっとは笑えてきたのかもしれない。

 見ず知らずの勇者なんかのために命を────

 

「たす──けて」

 

 おかしいな、思ってもいない言葉が出てくる。

 無意識のそれに思わずははっと乾いた笑いが零れた。

 死にたくない、お父さんとお母さんとさよならなんてしたくない生きたいどうして私なの私が生きてて何が悪いのこの世界なんて知らない勇者なんて知らないお父さんもお母さんも知らない勇者なら私くらい助けてよ私を救ってよ皆を救ってよ助けてよ!!

 

 思っても無い言葉が、感情が、次々と頭の中を蠢く。

 意味なんて無いのに、考える必要なんて無いのに、どの道もう死ぬのに。 

 どうしてこんなこと今更になって。

 意味なんて無いって分かっているのに、一度生まれてしまえば止まることなんて無かった。

 

 

「助けて!!」

 

 

 叫ぶだけで助けなんて無いと思っていた。

 だから叫んだ、叫ぶだけはただだもの。

 

 けれど、助けは来た。

 勇者は本当にいたのだ。

 本当は願っちゃいけないその願いを、どうせ無理だと思っていたその救いが。

 今目の前に確かに存在していた。

 

 

 結局彼に、お兄ちゃんに救われてしまった。

 外に出たとき、そこにはお父さんとお母さんがいた。

 

 合わせる顔が無かった。

 でも、お父さんとお母さんは笑顔だった、戦乱の後もずっと変わらずいつも通りだった。

 

 あの時私を抱えたお父さんは今まで見たことが無いくらいの酷く難しい顔をして、本当に小さい声でごめんなと呟いて、一粒だけ、涙を流していた。

 結局私は、私たちはお兄ちゃんに救われた。

 救われてしまったのだ。

 

 

 それから今まで、お兄ちゃんは至って普通だった。

 すごい力に目覚めるとか見たことない技を使うとかそんなのはどうでも良かった。

 見た目は本当に普通のお兄ちゃん。

 勇者だなんて言われてもとても信じられはしなかった。

 こんな普通な人のために命を捨てるところだったのだ。

 

 でも、そんな普通が大好きだった。

 この上ないくらい、彼のことが、お兄ちゃんのことが大好きだった。

 普段は普通なのに、何かが起こるとお兄ちゃんはちゃんと勇者になる。

 今日もお兄ちゃんは私を助けようとしてくれた。

 そんなこと抜きにして、私はお兄ちゃんが好きだった。

 お兄ちゃんが好きで好きで、同時にそんなお兄ちゃんが嫌いだった。

 

 ずっと見ていれば、自ずとそのヒビヤという存在を嫌でも知ることになる。

 彼のその心意のようなものが、嫌いだった。

 

 

 人のためなら自分はどうでもいいと思っていること。

 

 

 もしかしたらそんなこと思っていないかもしれない、勘違いかもしれない。

 でも、そう見えるだけで、そんなお兄ちゃんが私は嫌い。

 初めて会った時も、その片鱗は感じていた。

 

 私が助けを呼んだのが悪かったのだ、私がいなければ、こんなことにはなっていなかったかもしれない。

 いつも目に映るのは、とにかく無理をする姿だけ。

 そこに私がいることが、本来存在するはずのない人物がそこに組み込まれていることが堪らなく嫌だった。

 

 一度死んじゃおうかと考えた。

 でも一人では決められないからと、お父さんに相談した。

 そうしたらお母さんを呼ばれた。

 そしてお母さんに思い切りはたかれた。

 そして二人に思い切り抱きしめられた。

 

 もう二度と、あんな思いはしたくないと。

 シナリオなんて関係ない、あの時の自分たちを一生許さないと。

 どんなことがあっても、メルンは死なせないと。

 

 だから二度とそんなことは言わないでくれと。

 

 そう言われてしまったら、もう死にたいだなんて口が裂けても言えそうにない。

 もしかしたら最初からその言葉が欲しくて言ったのかもしれない。

 まあそんなのは今となっては分からないことだけれども。

 

 

 お兄ちゃんに助けてもらう時いつも嬉しかった。

 そんな私が嫌いだった。

 お兄ちゃんの顔を見ると安心する。

 そんな私が大嫌いだ。

 

 それと同じだけ、不安が募る。

 その顔が、いつか見れなくなっちゃうんじゃないかって。

 それは、お兄ちゃんがいつか中央に行ってしまうからではない。

 いつか、無理をして死んじゃうんじゃないか、って。

 それが私のせいで。

 存在するはずのない、メルンという人物のせいで。

 

 

 だから私は決めた。

 もっと強くなって、お兄ちゃんを守れるようになる。

 それは戦うのでもお母さんと同じ立ち位置でもいい。

 とにかく、お兄ちゃんを守れるようになりたい。

 

 さっき、みんながリビングに集まっていた理由はお兄ちゃん以外みんな知っている。

 お兄ちゃんがベッドに送られた理由も。

 

 お兄ちゃんはベッドに連れて行かれた後、ひどくうなされていた。

 表では魔力の枯渇、実際もそうだったけれど、まだ他になにかあるんじゃないかと思っている。

 マキナさんに魔力が無くなったらこうなるのかと聞いたら首を横に振った。

 ただ、『分からない』と。

 

 その後も、人の名前だろうか、羅列していくのをちゃんと耳にしていた。

 そういえばお兄ちゃんがここに来る前何をしていたのか、そんなことを考えたことも一度もなかった。

 お兄ちゃん自身に記憶が無いのだから当然聞けるわけが無いのだが、きっとどこかでここと同じような生活をしていたはずだ。

 

 一度考えてしまえば自然と情はそちらへと向く。

 そんな生活があったというのに、その記憶を消し去って知らない土地に飛ばされるというのがどういうことなのか。

 考えれば考えるほど怖くて仕方が無かった。

 

 そうやって悩んでいる間にベッドで眠ってしまい、起きた時にはお兄ちゃんがいなくなっていた。

 すぐに物音で外にいることが分かったがあのほんの一瞬の感情を、私は一生忘れない。

 だから私はお兄ちゃんを一人にはしない。

 絶対に。

 

 

 

 

 □ ■ □

「あっ」

 

 お兄ちゃんの声で我に返ると、剣を落としている姿が目に入った。

 いままで一度も落としたことなんてないのに。

 気付けば自然と体が動いていた。

 

「癒しの光よ、彼の者にほんのひと時の安らぎを『ファーストエイド』」

 

 手を掲げ、詠唱する。

 今日は魔法の授業がなかったので、魔力量に余裕はあった。

 発生した魔法はお兄ちゃんを包み、手のひらやいつ付いたのか分からないような傷を癒していく。

 けれど、呼吸の方は一向に落ち着かなかった。

 

「メルンちゃんか、ありがとう」

 

 身を隠していたが、ばれてしまったので小走りでお兄ちゃんの元へ向かう。

 見守るということに失敗はしたが、近くにいれば無茶はしないだろう。

 

「なんで私って分かったんですか?お母さんやマキナさんかもしれないのに」

 

「うーん。なんとなく、ふわふわしてたから?」

 

「褒めてますかー?」

 

「そりゃあもちろん。ありがとね」

 

「どういたしまして」

 

 お兄ちゃんは落とした剣を木陰に置き、休憩するか、と言って石に座った。

 毎回同じ石に座っている気がする。

 実はお気に入りなのかもしれない。

 そう思いつつ、静かに隣の石に腰を下ろした。

 その石には確かに暖かさがあった。

 

 

「……お兄ちゃん、魔法使った?」

 

「冷たい石に座りたくはないだろ」

 

 冗談のように言う。

 こういう所が私は────

 

「……どうせ自分のは冷たいくせに」

 

「ん、何か言ったか?」

 

「なんでも」

 

 ……こういうお兄ちゃんが私は嫌いだった。

 全てが善意だというのは分かっている。

 それでも、だ。

 

「お兄ちゃん、ちょっといい?」

 

「ん、どうした?」

 

「お兄ちゃん、ずっと、無理してない?」

 

「無理、とは」

 

「自分の命を大切にしてますか、ってこと」

 

 そこまで言うと、お兄ちゃんは驚いたような顔をしていた。

 

 自分でも変なことを言っているのは分かっている。

 分かっているけれど、お兄ちゃんはきっと分かっていないから。

 

「いきなりどうしたんだよ。そりゃあ、自分の命は大切にしてるよ。死にたいとか思ったことないし」

 

 言った後に一瞬表情が曇ったけれど、今はそういうことを聞いてるんじゃない。

 

「じゃあ、私達と、自分のは?」

 

「どうしたの急に」

 

「答えて」

 

「難しい質問するんだね……でもそりゃあ、メルンちゃん達って答えるだろうね。だってほら、メルンちゃんも、きっとそう答えるんじゃない?」

 

「……違う」

 

「あり、違った?まあそうだよね、やっぱり自分の命は大事だもんね。その気持ちも分かるつもりだよ?」

 

「違う!」

 

 ばっと立ち上がる私を困ったような顔で見てくる。

 困らせているのは分かっている、私でさえ理解できないこの感情を人に分かってもらおうなんてそんなこと思っちゃいない。

 

 私のそれは本気じゃない、でもお兄ちゃんのそれは本気だ。

 隣に並びたい、同じことを考えられるようになりたい。

 だから少しで良いから、ほんの少しで良いから怖いって、死にたくないって、泣いて欲しかった。

 そうしたら少しでも近くにいけるのに。

 

「……お兄ちゃんなんて嫌い」

 

「え?」

 

「お兄ちゃんなんて嫌い!」

 

「え、ちょ、何かしたかな?あの、ごめん、ちゃんと聞くから、話してくれると──」

 

「私はお兄ちゃんにいなくなって欲しくない……だから、泣いてよ、泣いて泣いて泣いて、悲しい顔して、死にたくないってさぁ……!」

 

「ちょっと、どうしたんだってメルンちゃん」

 

「わだしのごと、ごどもあづかいしないで!」

 

 星の見える空の下。

 結局私はただ、お兄ちゃんの変わりに泣くことしかできなかった。

 結局、私だけがこうやって泣くんだ。

 

 

 

 

 

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