銘無しの贄の英雄譚   作:河蛸

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30.「夜明けに、ただいま」

 日数にして10日と少々。

 離れていた時間は決して長くないとはいえ、孤島で二人の帰りを静かに待っていた古めかしい巨大な我が家を目にすると、なんだかとても久しぶりに帰って来たかのような錯覚が込み上がって来るから不思議なものだ。

 

 それほど過酷を極めた旅だった。我ながらよく生きていたものだとヴィクターは思う。

 実際死にかけていたらしい。千年果花の霊薬が手に入らなければ、今ごろ辰星火山が自分の墓碑になっていたとか。

 

 治療してくれた経緯を説明する時のシャーロットがどうも歯切れ悪く、モゴモゴはぐらかしていたのが引っ掛かるが。

 

「わーおっきなお家! だいはくりょく!」

「魔力たくさん! 精霊さまいっぱい! すごいすごい!」

 

 ポータル・オベリスクを介し、二人と共に島を訪れた小人(コロポックル)たちは大層なはしゃぎようだった。

 まるで初めて遊園地に来た子供のように目を輝かせながら、ぴょんぴょん飛び跳ねて興奮と喜びを体いっぱいに表現している。

 

「本当にここで暮らしていいの?」

「もちろん。今日からあなたたちのお家よ」

「おおー!」

「感謝。感謝」

 

 分類学的には人間より自我を得た精霊──妖精に近い小人(コロポックル)は、食性のほとんどを冥脈から還元される自然の魔力が占めている。

 それゆえ都市部ではなく『禁足地』を生活の拠点とする生態を持つが、カースカンの姦計により黄昏の森に住むことが出来なくなってしまった。

 

 そこでシャーロットの提案によりこの島へやってきた。住処と食事を提供する代わりに、労働力として雇ったのである。 

 小人(コロポックル)は手先が器用な種族ということもあって、館の清掃や畑の維持管理など、今までシャーロットがほぼ単独でこなしていた作業を任せるにはうってつけの人材だった。

 

「さっそく館を案内したいとこなんだけど、皆ドロドロだから一先ずお風呂入りましょ。今までは個室のお風呂使ってたけどこの人数だし、大浴場お掃除して再稼働させましょうか」

「新しい服も必要だな、みんな蓑がボロボロだ。俺が風呂場掃除してくるから、シャロは服を頼めるか?」

「りょーかい。じゃあそっち任せたわね」

「クロウデ、わたしたちもお手伝いする」

「働く。働く」

「おーよろしく頼むぜ」

 

 十人の小人(コロポックル)を引率しながら、館の東棟、書庫にほど近い住居スペースのそばにある大浴場へと向かっていく。

 

「ひろーい!」

「ここがお風呂なの?」

「湖みたい!」

「改めて見るとほんと広いなぁ。昔は人がたくさん住んでたってのも納得だ」

 

 かつては大勢の従者がここで日頃の疲れを癒していたという、広々とした大浴場。

 すっかり寂れきって水垢や埃が積もっているが、浮足立つ小人(コロポックル)につられて、ヴィクターも袖を捲りながら湧き上がるテンションに鼻息を荒くした。

 

 なにせただのドデカい浴槽ではない。

 歴代のアーヴェント当主が従者たちに少しでも快適に過ごしてもらえるようにと、ジャグジーやサウナに始まり、お湯のベッドへ包まれるような水流風呂、滝風呂、電気風呂、水風呂と、孤島の施設とは思えないほどの快適スバラシイ空間として設備が充実されているのだ。

 

「よーし全力で綺麗にするぜ! 道具を持てッ!」

「おー!」

 

 ブラシをかかげ、汚れという大敵に立ち向かうべく駆け出していく。

 最初は指示を飛ばしながら作業をしていたが、小人(コロポックル)たちの連携能力は想像以上で、司令塔はすぐに不要となった。

 

 黄昏の森という苛烈な自然環境で協力しながら暮らしていただけはある。

 抜群のコンビネーションに舌を巻いていたのも束の間、おやつ時までかかるかもしれないと思っていた清掃は、あっと言う間に終わってしまった。

 

「ピカピカ。つるつる」

「わぁい、綺麗になった」

「すげえな……想像以上に早く済んじまった。どうすっかな、最初の汚いお湯だけ捨てたら一旦シャロのとこまで戻るか? 洗髪剤も必要だし」

「クロウデ。このおっきいボタン押せばいい?」

「ああ。それがお湯の出るボタンだ」

「おおー。押す押す」

「のんのん。わたし、わたしが押す」

「だめーっ! 私が押すの!」

「んぅー!」

「ははは。喧嘩するなって」

 

 ボタンの取り合いでわちゃわちゃ争い始めた小人(コロポックル)たちを諫めながら、和やかな光景に頬を緩める。

 血と泥を転げまわるようだった旅の後なだけに、こうした小さな団らんが一層愛おしく感じるものだ。

 

 小人(コロポックル)たちは寄せ集まって一緒にボタンを押し、最初に流れ出た水を捨てて、栓をしてから再びボタンを押し込んだ。

 あとはお湯が張られるのを待つだけだ。

 

 ならば一人で服の用意をしてくれているシャーロットの手伝いに行こうと振り返れば、ちょうどよく本人がやって来ていた。

 

「あら? 早いわね、もうお湯張り始めてる」

「コロポックルたちの手際がめちゃくちゃ良くてな。こいつらすげー働き者だぞ」

「ふんす。頑張った」

「褒めて褒めて」

「ふふ。ありがとうね、みんな。代えの服も用意出来たから、お湯張り終わったら好きに入っていいわよ」

「やったー!」

 

 ぴょんぴょん飛び跳ねる小人(コロポックル)たち。

 みるみる溜まっていくお湯の具合から服を脱いでいる間に準備が出来るだろうと、シャーロットに案内されて脱衣所へ向かっていく。

 

「王の血、クロウデ、一緒に入ろー」

「御意」

「なに上着脱ぎ捨ててんだバカ。ごめんね、私と彼は別々で入らなくちゃいけないの。みんなとは大丈夫なんだけど」

「? どうして?」

「えーっと、私たちの種族ルールって感じかな。コロポックルとはちょっぴり違った事情があってね」

「俺は全く構わないんだが?」

「次喋ったら千切り捨てるわよ猿」

「何を……!?」

 

 戦慄する筋肉モンキーをよそに、終始クエスチョンマークを浮かべている小人(コロポックル)を宥める。

 結局、シャーロットとヴィクターの2グループに分かれてお風呂タイムと相成った。

 

 

「コロポックルって全員女の子なのか?」

「生物学的な意味で厳密に言えばそうなるらしいけど、人間の範疇で考えれば無性別ね」

 

 綺麗さっぱり汚れを落とした昼下がり。

 小人(コロポックル)たちを寝室に案内して寝かしつけた二人は、長い廊下を横並んで歩いていた。

 

「あの子たちは人間より妖精に近いから、冥脈の魔力を素体に自分の一部を混ぜて、限りなく同一人物に近い別人を作って繫殖するの。だから性別なんてあって無いようなものなのよ」

「限りなく同一人物に近い別人……あー、それでみんな見た目そっくりなんだな」

「おかげで思念をリンクさせやすいから、微弱なテレパスで近くの仲間と意思疎通してるらしいわよ。個性はあるけど、みんなでひとつって感じなのかしらね」

 

 髪質や体長のようなちょっとした差異はあるが、小人(コロポックル)はみな一様にそっくりな見た目をしている。

 くりくりと大きな瞳に、ぷにっとした手足。あどけなさを色濃く残す丸い顔。

 それは疑似的な単為生殖からなる、クローニングに近い形質によるものだ。ゆえに性別という概念が無いに等しい。

 大浴場でのすれ違いは、いわば種族間の文化的差異のせいと言えるだろう。

 

 他にも違いはある。思念をリンクし、独自のネットワークで互いを認識し合っているために、個人を名前で識別する必要が無い関係上小人(コロポックル)の文化に人名は存在しないのだ。

 ヴィクターやシャーロットを『クロウデ』、『王の血』と呼ぶのはそのためである。あくまで分別程度に特徴を抑えているだけで、固有名詞をつける風習がないからこそのアダ名だった。

 

「各々が個性をもった群体生物みたいなもんか。言われてみれば、寝る時は必ずまんじゅうみたいに固まって寝てるよな。あれもテレパスとかが関係してたりするのか?」

「そうみたいよ、みんなで一緒に夢の中でお話してるんだって。しっかし可愛いわよねーあの寝姿! ちっちゃい子が寄せ集まってスヤスヤ寝ててさ。永遠に眺めてられるわ」

「よだれ出てるぞ」

 

 普段の気丈さから意外なことだが、シャーロットは可愛いものに目が無い。

 以前親グリフォンの背にしがみついて登場した仔グリフォンを目にした時は、甲高く黄色い悲鳴を上げていたほどだ。

 小さくて愛らしい小人(コロポックル)たちの一挙一動には、たいそう癒されている様子である。

 

「さて……と」

 

 一室の前に立ち止まり、シャーロットは気を引き締めるように唇を結んでドアノブに手を掛けた。

 彼女の自室だ。つまり、止まった時の檻でリリンフィーが眠っている場所でもある。

 

「俺も居ていいのか?」

「うん。万が一のために人手があったほうが助かるから」

 

 千年果花の霊薬が詰まった小瓶を握り締め、意を決してシャーロットはドアを開いた。

 

 灯りの無い暗澹とした部屋に、透明感を帯びる青色の結界がぼんやりと光を放っていた。

 六角形の隔絶空間だ。リリンフィーが眠るベッドを中心に展開されていて、傍のテーブルで仄かに明滅する懐中時計を核に、時間の流れが止められている。

 

「段取りはあるか?」

「時間の流れを正常に戻して、リリンが目を覚ましたら花蜜を飲ませる。それだけよ。……スムーズに行けばだけど」

 

 リリンフィーはエマの手により、肉体を異形の姿へと改造されている。

 しかも星の刻印による侵食は、体だけにとどまらず精神にまで及んでいる可能性が高い。

 事実、シャーロットはエマに幾度も洗脳を施され、認識能力や記憶に齟齬が生まれるほど深刻な精神汚染を受けていた。

 

 ただでさえ『純血』の影響で虚弱体質なリリンフィーだ。意識を取り戻せば、洗脳や肉体改造のショックでパニックを起こす危険がある。

 

「もしリリンが暴れたら、多少乱暴でもいいから全力で拘束して。千年果花を飲ませることが最優先だから」

「わかった、任せろ」

 

 うなずいて、シャーロットは懐中時計の機能を停止した。

 結界が泡と消えていく。凍てついていた空間に色が戻り、落下途中だった微細なホコリがゆるやかに床へと舞い降りた。

 

 毛布の下。リリンフィーの足が不気味にうごめき始める。

 刻印の呪いが目覚めたのだ。無秩序に増殖を繰り返す癌細胞のように、リリンフィーの足から別の足がみるみる生え伸びようとしていた。

 

「ん……ぅ……っ……?」

 

 眉を八の字に曲げながら、白髪の眠り姫の意識がゆっくりと浮上した。

 まぶたが開く。朧を揺蕩う深海色の瞳が露わになり、辺りをぼんやりと見渡していく。

 

「リリン、私よ。わかる?」

「……おねえ……ちゃん?」

「! そう、そうよ、お姉ちゃん。わかるのね?」

 

 混乱させないよう声を柔らかく保ちながら、人体改造の後遺症で雪のように白くなってしまった妹の髪を優しく撫でる。

 けれど、リリンフィーは込み上がる不安を抑えきれないように唇を震わせて、激しく瞳を揺れ動かしながら振り絞るように声を漏らした。

 

「ひっ……うぁっ、ぁ、あ、あの人は? あの人はどこ……!? やだ、おねえちゃん逃げて、はやく、あの人が来ちゃう……!!」

「大丈夫、落ち着いて。エマはもういなくなったの。あなたを傷つける人は誰もいないわ。ゆっくり息を吸って、深呼吸して。大丈夫だから、ね?」

「ふぇっ、う、ぁああっ、やだ、やだぁっ……! 痛い、痛いよ、おねえちゃん、足が、足がすごく痛いのっ、助けて、助け、うぁあっ! いっ、うぅ、ううううぅぅ……!!」

 

 変異の激痛、記憶の混濁。

 それら合切による錯乱に見舞われ、リリンフィーは滝の汗を流しながらシャーロットへすがりついた。

 

 バチバチと弾ける音の玉。

 空気抵抗を食い破る小さな稲妻のようなそれは、リリンフィーの内から立ち昇るように現れた漆黒の雷電が放つ絶叫だった。

 

 幼い少女の血に眠る『純血』。即ち、純度100%の黒魔力。

 かつての王に並ぶとされるその力が暴威を纏えば、何が起きるかは想像に難くない。

 

「まずい、魔力が暴走を……!」

「俺がやる! 妹に専念しろ!」

 

 ヴィクターが暴れ狂う黒雷の大蛇をわし掴み、締め上げるようにして捻じ伏せた。

 その隙にシャーロットは妹を抱き起こし、喘鳴と過呼吸に喉を焼かれゆくリリンフィーに小瓶を見せる。

 

「リリン、見える? このお薬を飲めば治るから。まずは一緒に深く息を吸って、ゆっくり落ち着きましょ。ほら、すぅーっ、はーっ」

「すぅーっ、はーっ」

「上手上手。ゆっくり、ゆっくりね」

「こふっ、えほっ、えほっ……おくす、り?」

「そうそう。病気を治せるお薬を見つけてきたの。ネバネバしてるから喉に詰めないように飲むのよ。大丈夫、甘くて美味しいわ」

「ん……」

「よしよし、良い子」

 

 小瓶を受け取り、中身をこくこくと流し込んでいくリリンの髪を優しく撫でる。

 飲み干す頃には、ヴィクターの腕から抑えつけていた黒雷が無に消えた。

 

 精神状態が落ち着いたか、早くも千年果花の効果が表れたのか。

 蝕む悪夢から解放されたように、霊薬を飲み干したリリンフィーの呼吸は穏やかなものへと変わっていた。

 

「効いてるのか?」

「きっと。ううん、絶対効いてる」

 

 不透明だった効能はすぐに姿を露わにした。

 歪に膨らんでいた毛布の凹凸がしぼんでいる。シャーロットが少しだけ布をめくれば、大腿から枝別れするように生え伸びていた異形の足が、萎れたキノコのように干乾びて落屑していた。

 

 足の切断痕や焼き潰された創傷部も綺麗さっぱり無くなって、すべすべと滑らかな柔肌に戻っている。

 死人のようだった青白さは失せ、顔色は健康的な紅潮をほのかに帯びた。薬効が血流を促進させ、体温を上昇させているせいだろう。

 

 苦悶の色は見当たらない。霞んでいた(まなこ)は既に輝きを取り戻し、しっかり焦点を合わせている。

 心配そうに自分の手を握るシャーロットに気がついて、瞳いっぱいに姉の姿を映し込んでいた。

 リリンフィーはふにゃりとした微笑みを姉に向けながら、シャーロットの手を握り返す。

 

「おねえちゃん」

「……!」

 

 その笑顔に、求め焦がれていた妹の安寧を見て。

 シャーロットは安心とも歓喜ともつかない、じわりと熱いナニカが込み上がってくるような感覚を胸に抱いた。

 

 そっと押しとどめて、甘えてくるリリンフィーの指をさすりながら微笑みを返す。

 

「大丈夫? もう痛くない?」

「うん、うん。平気だよ。すっごく具合がいいの。ふわふわして、とっても良い気持ち」

「そっか。良かった」

 

 心の底から零れるような安堵。

 峠は越えたと確信した。リリンフィーの顔色を見れば一目瞭然だった。

 

 風前の灯火だった儚さは失せ、力強い生命力で満ち溢れている。

 千年果花の霊薬が狂っていた肉体を修繕したばかりか、『純血』の後遺症による虚弱体質をいくらか改善したのだろう。

 

 心臓が魔力を作るという性質上、生きている限り『純血』の過負荷から逃れることは出来ない。

 しかし少なくとも、服薬する以前よりかは格段に良くなっているはずだ。

 

 毎日のように高熱でうなされていた過去を知るシャーロットだからこそ、リリンフィーの容態がどれだけ良好なものへと変化したのかが、克明なまでに理解出来ていた。

 

「……えっと、その」

 

 ささやかな沈黙。

 何と声をかければいいのか分からなくて、紡ぐ言葉を見失った唇が、居心地悪そうに路頭を迷う。

 

 

 久しぶり──は違う。

 ごめんなさい──もまた違う。

 

 

 死んだと思い込んでいた妹が生きていてくれたばかりか、また一緒に生活できることへの喜び。

 失われた時のぶんまで溢れ出てくる無上の愛。

 エマの洗脳で偽装された死を信じ、長い時の中を孤独の闇に放ってしまったことへの責任感。

 なにより彼女の肉を喰らい続けていたという、引き裂かれそうな罪悪の茨。

 

 湧き上がる感情の群れは、さながら濁流のように勢い濁り。

 何を口にすればいいのか、何から喋ればいいのか、シャーロットには分からない。

 

「おねえちゃん。おねえちゃん」

 

 そんな姉の心をすくい上げるように、リリンフィーはぎゅっと抱きついた。

 

「本物のおねえちゃんだ。えへへ、おねえちゃん。温かいなぁ」

「……リリン」

「おねえちゃん。あのね、わたしね、ずっと信じてたよ」

 

 それはふわりと差し込む、やわらかな陽だまりのような。

 

「体が動かなくて、起きてるのか寝てるのかも分からなくて、真っ暗で、とっても怖かったけど、ぜったいぜったい助けてくれるって信じてたの。だからわたし、諦めなかったんだ」

「っ」

「そしたらね、本当に助けてくれたでしょ? やっぱりおねえちゃんは凄いんだ。いつも守ってくれるもん。わたしのヒーローだもん」

 

 見る人を幸せな気持ちにさせるような屈託ない微笑みに、漏れた吐息は震えて消える。

 目頭の奥が、茹ったみたいに熱を帯びるようで。

 

 ──違う。あなたを助けたのは私じゃない。むしろ苦しめてしまっていた。

 

 唇からこぼれかけたソレを、そっと肩に置かれた手が押し止めた。

 振り返れば、首を横に振るヴィクターの姿。

 妹にとって理想の姉でいてやれ──語外の訴えに応えるように、シャーロットは瞳を潤ませながら気丈に振舞う。

 

「あっ、あったりまえでしょ? このシャーロット・グレンローゼン・アーヴェントに、不可能なんてものは存在しないのよっ。どんな時でも、誰が相手でも、あなたを守るのがお姉ちゃんなんだからね」

「うん、うん」

 

 胸に抱き寄せて、リリンフィーを撫でながら上を向いた。

 頬を伝う熱い雫が見えないように。この子の前では、誰よりも強い姉でいられるように。

 

「助けてくれてありがとう、おねえちゃん。大好き」

「っ……私もよ、リリン。もう二度と、何があっても、あなたの手を離したりなんかしない」

 

 無二の肉親が帰って来たという再会を、指先のひとつひとつで感じながら。

 くしゃくしゃに笑って、シャーロットは振り絞るように言った。

  

「おかえり。リリン」

「ただいま。おねえちゃん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「クロウデ、泣いてるの?」

「いや? 泣いてなんかねえよ」

 

 廊下。鼻を啜りながらひっそり部屋を抜け出したヴィクターは、枕を抱えて歩く5人の小人(コロポックル)たちと鉢合わせた。

 シャーロットが仕立てた寝間着を身につけている。一人一人色が異なっており、頭には三角形のナイトキャップがちょこんと乗っていた。

 

「うそ。泣いてる」

「おめめまっかっか」

「どうしたの? 王の血と喧嘩?」

「違う違う、目にゴミが入っただけだ。それよりどうしたんだお前ら揃いもそろって。まだ寝てて良いんだぞ」

「んぅ。王の血と一緒にお昼寝しようと思ったの」

「王の血、お風呂のとき不安そうにしてた」

「みんなで寝れば安心。ぐっすりすっきり」

「……はは、お前ら優しいなぁ。気にかけてくれてありがとよ」

 

 わしわしと小人(コロポックル)の頭を撫でながら、「でも大丈夫だ」と目線の高さを合わせて、

 

「今はそっとしておいてやってくれ。……亡くなったと思ってた家族と再会できたんだ。姉妹水入らずの時間が必要だからな」

「! 妹さま、治ったんだ」

「よかった。よかった」

 

 ぴょんぴょん跳ねながら、喜びと祝福のバンザイポーズ。

 ヴィクターは微笑みながら小さな背中に手を添えて、部屋と反対の方角へ進むよう促していく。

 

「さ、邪魔者は退散だ。せっかくだから妹ちゃんの復活祝いと、お前らの歓迎会の前祭を兼ねておやつタイムといこう。メインは夕飯まで我慢してくれな?」

「おやつ!? おやつ!」

「甘いもの、甘いもの。うれしい」

「リクエストはあるか? 簡単なものしか作れねーけど」

「ん! どんぐり!」

「どんぐりは無いなぁ」

「あぅぅ……」

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