銘無しの贄の英雄譚   作:河蛸

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9.「灯台の下」

『人の子よ、告げたはずだ。令妹を探せ』

 

 

『残された時はもはや風前の灯火である。務めを果たせ。運命の岐路は目前と心得るがよい』

 

 

()()()()()()()()()()()()()(これ)夢幻(ゆめまぼろし)ではないのだと』

 

『泉で目覚め、館へ(いざな)われ、こうして余と相見えたことも、全ては汝の宿業にほかならぬ』

 

 

『令妹を探せ。時計の砂が落ち切る前に』

 

 

『右手の(しるし)は羅針、隠されし道を示す(しるべ)である。痣の声を聴け。令妹を探し出し、真の邪悪を見定めよ』

 

 

『そして勝て。()も無き贄の英雄よ』

 

 

 

 

 ◆

 

 

 目覚める。

 青臭い芝生の上ではなく、慣れ親しんだベッドの上で。

 

「いっ、つつ」

 

 ズキズキと痛む体に喝を入れ、上体をゆっくりと起こす。

 指先を動かすだけで筋肉が悲鳴を上げ、呼吸をすれば胸の奥に疼痛が走りぬけた。

 

 そう言えば手酷く負けたんだったなと、苦悶を浮かべながら縁に腰かけ、包帯まみれの体を見る。

 ぐるぐる巻きにされていた。特に頭と左肩は重点的で、微かに薬品の匂いもする。

 

 が、見た目ほど酷くない。酷い筋肉痛と、軽い打撲で留まっているように思えた。

 

(あれだけ殴り合ってこの程度。バリアと薬の効果だろうな。魔法の力ってすげーんだなぁ)

 

 本来なら骨の二、三本どころでは済まなかったろう猛攻に晒されたのだ。

 原形をとどめただけでも奇跡なのに、自力で立てるほどとは。アーヴェントの医療技術に感服するばかりだった。

 

 しかし。

 

(負けちまったな、ちくしょう)

 

 噛み締めた口に、果たせなかった約束への、悔しさの味が広がった。

 

(お膳立てしてもらったってのに、エマとの約束をフイにしちまった)

 

 シャーロットに真っ向から打ち勝ち、もはや呪いとも言える『アーヴェント』の戒めから解放させること。

 それがエマと交わした約束だ。

 

(シャロは恩人だ。恩人に人殺しなんて十字架を背負わせるのだけは我慢ならねぇ。どうにかして、シャロを止める手立てを考えねーと)

 

 命の恩人が、このまま道を踏み外していくのを傍観なんて出来ない。彼女を見捨てるのは()()()()()()()()()()()()

 

 ヴィクターとはそういう男だ。生贄の儀式という寿命が刻一刻と迫るなかでも、受けた義理のために動く男なのだ。

 もし仮に、エマによる脱出の保険が無くとも、ヴィクターは同じく戦う道を選んでいただろう。

 

(とにかく、エマと会って話そう。それが先決だ)

 

 立ち上がり、壁伝いに部屋を出る。

 暗闇の廊下を魔石灯のほんのりとした輝きが照らしていた。

 どうやら、眠っている間に夜になっていたらしい。

 

(草木まで寝静まっているように静かだ。参ったな、朝になってから出直すか?)

 

 頭を掻きながら踵を返し、自室のドアノブを握る。

 

 その時だった。かつて霊堂で感じたものと同じ、焼けた鉄でも押し付けられたかのような熱感が、途端に右手を殴りつけたのだ。

 

 思わず手が跳ねる。なにごとかと瞠目する。 

 右手に視線を落として、息を飲んだ。

 

「なんだこれ……? 痣が、動いてる?」

 

 霊廟で手の甲に現れた剣のような痣。『純黒の王』に認められた贄の証が、ひとりでに動き出していた。

 

 焼印のように赤黒い剣の紋様、その切っ先が、まるで方位磁石のように一定の方角を指し示しているのだ。

 

(右手の(しるし)は羅針盤……夢の怪物が言ってたのと同じだ)

 

 あの夢は本当に夢なのだろうかと、伝う冷や汗が現実味を添加していく。

 疑念はあった。夢と呼ぶにはあまりにリアルで、毎夜の如く苛まされるそれは、失くした自分に関わる残滓なのではないかと。

 

(夢が現実になってる以上、こいつは消えた記憶と何か関係あるのかもしれねえ)

 

 今まで目をそらしていた。シャーロットやエマの優しさに甘え、生活に没頭することで忘れようとしていた。

 喪失した記憶という、自分の中の空洞を直視することが怖くて、先延ばしにしてしまっていた。

 

 しかしその手掛かりが、こうして降って現れたならば。

 

(確かめる必要があるな)

 

 時刻は深夜。

 誰も起きていない。誰の眼にも止まらない。

 ならば、今しかない。

 

(痣の指すほうへ向かえばいいのか?)

 

 夢の怪物に従う。剣の痣の切っ先が示す方角へ歩いていく。

 

 カツ、コツ、カツ、コツ────靴音だけが響く暗澹の廊。

 角を曲がる。進む。また角を曲がる。進む。

 

 不気味なほど静かな夜に、吐息が何度も溶けていった。

 

(…………なんだ。何もないぞ)

 

 痣の言う通りに歩いた先にあったのは、なんの変哲もない壁だった。

 近くにドアもなければ、ほかの壁と異なる特色もない。

 

(離れても痣が指すのはこの壁だ。てことは、ここに何かあるのか?)

 

 触れる。

 瞬間、右手の痣が朧な光を帯びたかと思えば、静電気が弾けるような光とともに石壁が波打った。

 

 驚き、手を引っ込める。

 小石を放られた水面のように波紋を伝えていた壁は、やがて元通りに寝静まって。

 

「……」

 

 喉を鳴らす。

 もう一度触れる。

 ヂチッ、と波打つ壁。

 

「入れる、のか?」

 

 波濤する壁に手を伸ばす。

 腕が壁の中に呑み込まれた光景をみて、ヴィクターはこれが()()()()だと理解した。

 

「魔法か。手の込んだ隠し通路だな」

 

 眉をひそめ、そろりと壁の中へ。

 現れたのは真っ暗な通路だった。外よりは狭いが、ちゃんとした廊下だ。絨毯は敷いてあるし、埃のような汚れもない。

 

 ただ、あちこちに見当たる焼け跡のような焦げが気がかりだが。

 

(そういえば昔、火事があったって言ってたっけ。この焦げつき具合、素人目に見ても相当ひどいぞ)

 

 進めば進むほど、カビのような黒ずみは増していく。まるでこの奥から、館を呑むほどの火が噴き出したかのようだった。

 

(わざわざ魔法で入り口を隠すなんて、この奥に一体何が)

 

 酷い焼け跡が火災のトラウマを呼び起こすからか? それにしては巧妙すぎる。

 あの隠蔽魔法は眼を背けさせるというより、絶対に見つかりたくないナニカを隠すための工作に思えた。

 

「……ドアだ」

 

 歩き、歩き、辿り着いた先に待っていたのは、古めかしく安っぽい木製のドア。

 急ごしらえの突貫工事で取り付けたようなオンボロだ。いかにも建付けが悪そうで、下手な触り方をすると壊れてしまいそうに見える。

 

「何だ? この、筆舌に尽くしがたい気味の悪さは」

 

 ただならない空気を感じる。

 重い。直感的だが、鉛のように重苦しい気配がドア越しからでも漂ってくるのだ。

 

 ドアノブに伸ばす手が、躊躇って虚空を掴んだ。

 

「……っ」

 

 意を決し、ノブを掴む。捻る。

 ドアを開けて、そして。

 

「────」

 

 人がいた。

 家具の類などひとつもない、不気味なほど簡素な部屋の中心。

 ただ唯一存在するベッドの上に、幼い少女が横たわっていた。

 

「女の子? なんでこんなところに」

 

 若い。シャロやエマよりも小さな少女だ。

 だが髪は老婆のように白く枯れ、肌色は陽の光を知らないと言わんばかりに冷血だった。

 

 まるで死体そのものだ。何年も置き去りにされていたかのような有様に、おもわずギョッとして後ずさる。

 

「死んでる……? いや、弱いが呼吸してるぞ。脈もある」

 

 首に触れ、ほのかな温かみに安堵を覚えた。

 それも束の間。なぜこんなところに少女が寝かされているのかと、湧き上がる疑問に脳の容積を圧迫される。

 

(顔立ちがシャロそっくりだ。あいつを幼くしたみたいな面影がある)

 

 本当にシャーロットとそっくりだった。姉妹と言われても納得せざるを得ないほどに。

 しかし似ている以上に既視感があった。初めて見た気がしないのだ。

 

 確か、そう。

 エントランスの肖像画で、よく似た幼い少女が描かれていた気ような。

 

(……あ? なんだ、この糸くずみたいなヤツ)

 

 眠る少女の額に浮かぶ、淡く発光する塊があった。

 一見糸の塊にも見えるそれは、極小の錠前らしき形をしていた。まるで少女の頭に鍵でもかけているかのようだ。

 

 触れる。 

 意図してやったわけではない。さながら右手の痣に導かれたかのように、気付くと勝手に手が伸びていた。

 

 瞬間。痣が朧に輝いたかと思えば、光の塊が金属音と共に弾け飛んだ。

 火花を散らし、霧散する魔法と思しき輝きの名残に、「触ったらマズいやつか?」と汗が伝う。

 

 変化は如実に訪れた。

 少女の瞼がゆっくりと開き、霞んでいた瞳が、覗きこむヴィクターの顔をしっかりと捉えたのである。

 

「……おにいさん、誰?」

 

 初めて見る男に驚いたのか、少女は静かにまばたきを繰り返しながら、掠れた声を振り絞るように言った。

 

「あー、えっと。俺はヴィクター。わけあってこの館に居候させてもらってる身だ。信じてもらえないかもだが、怪しいもんじゃない」

 

 混乱させないよう、ヴィクターは落ち着いた口調を心がけて言葉を紡ぐ。

 

「眠ってるところを起こしちまって悪かった。安心してくれ、何もしないしすぐ出て行くから」

「おねえちゃん」

「……なんだって?」

「おねえちゃん、どこ?」

「お姉ちゃんって、もしかしてシャロとエマのことか? 待ってろ、すぐ呼んでくる」

 

 言葉を理解するより早く、脊髄反射で踵を返して。

 立ち去ろうとするヴィクターのすそを、少女がきゅっと握り締めて引き留めた。

 

「違う、違う。お姉ちゃんじゃない。違う。違うの。違う。違う」

 

 意識が朦朧としているのか、うわごとのように繰り返す少女。

 けれどその訴えはどこか必死な、切実さと焦燥を孕んでいた。

 

「おにいさん、助けて。お願い、助けて。助けて」

「助けてって、どういうことだ? 説明できるか?」

「助けて。お願い。お願い」

「わかった、わかったから落ち着いてくれ。そもそも君は誰だ? どうしてこんな部屋で一人ぼっちに」

「わたしは、リリン。リリンフィー」

 

 か細くささやかれた声に、ヴィクターの全身が凍結した。

 

「今、リリンフィーって言ったのか?」

 

 確かにそう言った。間違いなく、両耳がしっかりと捉えていた。

 けれどおかしい。そんなの絶対ありえない。

 だってその名は、命を落としたシャーロットの末妹そのものだったのだから。

 

「ちょ、ちょっと待ってくれ。君が、リリンフィー? ンな馬鹿な、ありえねぇだろ! リリンフィーは亡くなったってエマがっ」

「ぅう……痛い……痛いよ……お願い……おにいさん、助けて、お願い、お願い」

 

 唇を震わせ、リリンフィーは目尻に涙を貯めながら訴え続ける。

 表情がだんだん苦痛を帯び始めていた。麻酔の切れた患者が、術痕から込み上がる痛みに耐えられなくなってきているかのように。

 

 苦痛に喘ぐ少女に呼応し、毛布の下で蠢く足。

 動くではなく、蠢めく。

 ()()()()()()()()()()()()()()

 

「ッ────」

 

 心臓が痛いほど拍動している。

 血潮の駆け巡る音が鮮明にわかる。

 神経に熱した油でも注がれているかのように、全身がヒリつき始めた。

 喉の奥が砂漠と化せば、舌がぴったりと張り付いてしまう。

 

 息を呑む。

 失礼を承知で、毛布をめくって。

 おぞましい悪夢を見た

 

「なんっだよ、こりゃあ!?」

 

 足から足が生えていた。

 少女の華奢な両足。それも大腿を中心に、無数の小さな足が生え伸びているではないか。

 

 足として完成しているもの。赤子のような発達途中のもの。()()()と思しき隆起した肉こぶ。

 

 まるで木の幹から分かれ出ていく枝葉のようなそれは、それぞれ独立して痙攣するように蠢き、度し難くも血が通っていることを凄惨に物語っていた。

 

 それだけではない。明らかに()()()()()()()がある。

 断面だ。足が生えていただろう場所に円盤状の傷口があった。ひとつやふたつで収まらないほど大量に。

 

「断面、これは、火傷痕? 焼き潰して傷口を塞いだ痕か……!? なんだってこんな!?」

 

 想像すら身の毛もよだつ、足を斬り落として焼灼止血を施したとしか思えない名残。

 うぞうぞと動く足の群れをそっと毛布で覆い隠し、たまらずヴィクターは口元を覆った。

 

 あまりに理解し難い光景は脳髄を焼き、思考そのものを痺れさせる。

 アーヴェントとの決闘ですら怖気づかなかったヴィクターが、明確な恐怖を自覚していた。

 

(わ、わけがわからねぇ。シャロの妹が生きてたどころか、この、言葉にならねぇほど惨たらしい有様はなんだ!? 何が起こってやがる!?)

 

 しかし、掻き混ぜられた胸懐とは裏腹に、酷く冷めきった思考の総和が、仮説という水泡となって浮かぶ感覚があった。

 

 

 令妹を探せと告げる夢の中の怪物。

 家族の集合絵に描かれていた()()()()()

 白紙に塗り潰された本の一節──総魔力の強化は肉親を喰らうことでしか成せない禁忌の外法。

 人間の足と酷似した台所の食材。刈り取られた足の傷痕。

 館の中央から出火したかのような不審な焼け跡。

 亡くなったはずの妹。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

「ふざけんなっ……!」

 

 これまでの暮らしの中で、幽かに積もり続けた違和感の数々。

 それらがパズルのピースのように嵌め込まれて、ひとつの像を描き出した。

 

 嘘だと叫びたくなる。信じられないと頭を振るう。

 唾棄すべき答えが脳裏を占めた。そんなわけがあるかと拒絶した。

 

 この館に住まう善き少女たちの中に、吐き気を催すほどのドス黒い悪意が、虎視眈々と潜んでいただなんて想像もしたくない。

 

 けれどそれを否定するには、目の前の惨たらしい現実があまりに猛毒で。

 

(わからねぇ。どう考えたってわからねぇことがある。わからねぇことだらけだ)

 

 ぐしゃっと髪を握り潰す。震える唇を固く結ぶ。

 

(何故こんな真似をする必要が? 妹の死を偽って、こんな部屋に閉じ込めて、足を切って……く……()()()()()()だなんて、何の意味が!?)

「来る」

 

 掠れ消えゆくような、少女の声。

 動揺するヴィクターに、小さく訴えかける声。

 

「おにいさん、隠れて」

「隠れ……? 何を言って」

「お願い、隠れて。ベッドの下。はやく」

 

 鬼気迫る少女の様子に、ヴィクターは直感的に従った。

 素早くベッドの下に潜り込み、気配を殺す。

 うつ伏せのまま床に耳を当てると、規則正しく近づいてくる足音を鼓膜が捕らえた。

 

 

「おや。起きてしまったんですね。昏睡魔法が切れちゃったのかしら」

 

 ふわふわと、柔らかい声が響き渡った。

 館での生活で、毎日のように聞いていた優しい少女の声。

 それは、聞き間違うはずもなく。

 

(エマ……!!)

 

 自然と耳が癒されるはずの少女の声が、今は心臓を引き絞られるほど恐ろしい。

 隠された通路を、監禁されたリリンフィーの存在を知っている時点で、もはや語るまでもない。

 

 夢の怪物は言っていた。真の邪悪を見定めよと。

 今、その悪夢は現実となって姿を現した。

 

 この館に根を張る嘘の正体。善性の被膜をかぶった怪物とは。

 よりによって、誰よりも優しいはずの少女だったのだ。

 

「あれれ? 自我混濁の(まじな)いも解けちゃってる。ふふ、流石はアーヴェントですね。()()()()()()()()()()()()()

「い、いや。やだ。もうやめて。お願い、助けて」

「はいはい、大丈夫ですよー。怖がらなくていいんです。眠ってれば痛くも怖くもないですからね。──『微睡みよ(ソムヌス)』」

 

 魔力の明滅。それは再び、少女の意識が刈り取られる合図にほかならない。

 リリンフィーの頭に絡みついていた光る糸は、やはり魔法だったのだ。

 ヴィクターが破壊したことで少女は目覚めた。それを再び掛け直されたのだ。

 

「…………助……けて……お姉ちゃんを……たすけ……」

(──!)

 

 最後の力を振り絞るように、リリンフィーの声が虚空に溶けた。

 エマに訴えたものではない。ベッドの下のヴィクターに、一縷の望みを賭けた願いだった。

 

「……ッ!!」

 

 ギリギリと奥歯が鳴る。噛み締めすぎて鉄錆びた匂いが鼻を突いた。

 

 リリンフィーが一体どれほどの月日を、この暗い牢獄の中で過ごしてきたのかは分からない。

 姉妹愛を謳う怪物に囚われ、逃げ出すことも叶わず、死を偽装され、助けも求められず、どれほど孤独の泥底で眠っていたかなんて想像もつかない。

 

 なのにあの少女は、自分ではなく姉を助けてくれと懇願した。

 嘘を植えられ、真実を隠匿され、何らかの目的で利用されているシャーロットを、悪魔の手から救ってくれと。

 

(ちくしょうが)

 

 このまま黙って見過ごすわけにはいかない。今すぐにでも飛び出して、リリンフィーを助けたい。

 

 だが今のヴィクターに何が出来る? エマもまた魔法の達人。その才能と実力は、シャーロットが自分をも上回ると豪語するほどなのだ。

 

 真っ向から挑んで勝てるとは思えない。返り討ちに遭うのがオチだろう。

 それは絶対に避けなければならない。ここで目にした真実が消えれば、シャーロットは何も知らない傀儡のまま踊らされることになる。

 

 血が滲むほど唇を噛み、爪が喰い込むほど拳を握り、込み上がる怒りの衝動を抑え込んだ。

 バレてはならない。リリンフィーの幼き覚悟を、決して無駄にしてはならない。

 

 

 肉を斬るような、生理的嫌悪を催す生々しい音が聞こえる。

 収穫だ。足を切り落とし、それを魔獣の肉だと偽って、シャーロットの食卓に並べるために。

 

 エマの真意はわからない。

 わざわざ本にまで細工を施し、シャーロットに気付かれぬよう、彼女の魔力を増幅させ続けている真意が全く読めない。

 

(だが理解したぞ。俺が何を成すべきなのか。夢の怪物が言っていた務めとやらを、はっきりと理解した) 

 

 けれど、その時は今ではない。

 

 瞼を閉じ、時が過ぎるのをひたすら待つ。

 今はただ、耐えねばならない。

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