過去に別サイトで投稿した作品を若干整えた作品になります。
現在はオリジナル作品(別サイト)が中心です。
よろしければこちらもどうぞ。
「サッカークラブをつくろう~SC鹿児島物語~」
https://kakuyomu.jp/works/1177354054888487512
注:別サイト「カクヨム」様へのリンクとなります。
「考え直すことはできませんか?」
「ムリね。私がやると決めた以上やめるような性格じゃないことは知っているでしょ……けど、ありがとう」
タマモさんはそう言うと、静かに石の中に消えていった。儚い、本当に儚い笑みを浮かべながら……
その石は、かつて彼女が眠っていた石、そして生まれた石。
彼女は、今度こそ幸せを掴むことができるのだろうか。
「とうとう僕一人になってしまったな。やっぱり寂しいです、タマモさん」
僕は彼女の幸せと、その周りにいるはずであろう人たちの幸せを祈りながら、ゆっくりと背をむけた。そこには僕もいるのだろうか?
かつての仲間であり、今となっては唯一の知己と呼べる彼女から連絡が入ったのは一月ほど前のことだった。タマモさんと会うのは本当に久々だった。
思えば横島さんたちと過ごした日々から数百年が過ぎ、かつての仲間とはいえ、なかなか連絡もとらないようになっていた。
当時の仲間は今や僕とタマモさんだけしか現世におらず、最も長生きしたドクター・カオスでさえ半世紀も前に天に召されている。
カオスほどの智があれば真の不老不死となることもできたはずなのに、彼はそれを行わなかった。カオスとの別れの日、タマモさんと会うのはその日以来。
「最近はどうなの? 相変わらず布教活動を続けてるわけ?」
「なんだか棘がありますね……僕はただ人と人外の架け橋になるよう行動しているだけですよ」
「架け橋ってゆう言い方がピートらしいのよね。気障なところはいつまでたっても変わらないんだから」
タマモさんの言葉に思わず苦笑した。横島さんや雪之丞、タイガーにもよくナルシストだと言われた。
確かに変わってないのかもしれない。けれど、変わっていないことを嬉しく思ってしまう自分がいた。
僕は高校を出て、横島さんや雪之丞、タイガーと一緒に事務所を立ち上げた。
ICPOに入ることはもちろん僕の夢であったが、あの頃の僕にとって親友たちと一緒に事務所を立ち上げること、一丸となって困難に立ち向かうこと、それはとても魅力的に見えた。
正直に言えば、自分の永い時を考えて、少しぐらいの寄り道をしてもいいかなという気持ちもあったのかもしれない。
事務所は本当に大変だった。それぞれの師匠は有名だったとはいえ、あくまでその名声は先生たちのもの。新人で、なんの実績も持たない僕らはあくまでもゼロからのスタートだったから。
苦しいこと、悲しいこと、辛いこと、本当にたくさんあった。けど楽しかった。
横島さんはいつまでたっても横島さんで、雪之丞もいつまでたっても雪之丞で、タイガーも相変わらずタイガーだった。
それは世界有数の事務所と呼ばれるようになっても変わることはなく……最後に残った横島さんを見送る時まで変わらなかった。
僕も……いつもの僕のままでいれただろうか。
「ねえ、私たちの記憶ってどこにあるのかな?」
昔のことを思い出して少しぼんやりしていたらしい。タマモさんの言葉に頭がついていかない。
僕を見つめる真剣な眼差し。
「不思議じゃない? 私たちの覚えている記憶というものがどこにあるのかって」
「人の記憶は脳に残されるものじゃないですか?」
「けれど私たちは人とは違うわ。人の姿はとっているけど、あくまで違うものよ。そうね、ピートは霧になったときにどこが自分の頭かってはっきり言える?」
「たしかに霧になったからといって記憶がなくなるわけではないですね。けど僕らはそういうものじゃないですか」
「そう。私たちはそういうもの。だから結局はベタな結論しかでてこないわ。私たちの記憶は魂に刻まれてる」
「魂に……ですか」
「そう。だから私たちは忘れることができないのよ」
忘れることができないこと。それは僕とタマモさんが共有し、僕らを苦しめるもの。
横島さんを見送った僕は事務所を後進に託し、ICPOに入って我武者羅に働いた。
心に空いた大きな穴を我武者羅に働くことで埋めようとしていたのかもしれない。しかし、それが埋まることはなかった。
みんなの--あの時を共に過ごした人たちの印象が強すぎたのかもしれない。
彼らと出会うまで、僕は本当の意味で人と深く付き合ったことはなかった。人は僕を置いていってしまうから。
けれども、彼らは僕の心に強く残り過ぎた。僕が今まで築いてきた在り方を変えてしまうほどに。薄れることのない記憶から僕はまた求めてしまう。
仲間を。親友を。
宝物を手にいれ、そして失う。心に開いた穴は埋まることなく、時と共に広がるばかり。
僕は疲れたのかもしれない。僕の記憶に在るみんなとの思い出。どれほどの時がたってもそれは薄れることはなく……希望と絶望が僕を捕らえて離さない。
僕はICPOを辞めた。表向きの理由は、組織の硬直を避け、僕自身が人と人外の共存を個人レベルで浸透させるための活動への注力。
けれど自分ではよく分かっていた。これは逃げだ。どんなに綺麗なお題目をつけようと、僕は逃げているだけなのだと。
人と深く付き合えばつきあうほど、別れが怖くなる。僕は「別れ」から逃げているにすぎないのだ。
ICPOを辞めてからは世界各地を回った。
人と人外の間に生まれる問題を解決したり、両者が理解しあえるように尽力を注いできた。ただし、あくまでも関わり方は一期一会。出会いと別れの繰り返し。
--痛みは小さい方がいい。
そんな空洞ばかりが大きくなる僕に残った最後の宝物がタマモさん。
「私決めたわ。あの時話したこと覚えてる?」
「そうですか……もちろん覚えてますよ。本当に残念です……けど、僕には止めることはできません」
申し訳なさそうで、けれど嬉しそうで、どこか悲し気に彼女は笑った。
「結局私たちは人に近づきすぎたのかもしれないわね。生き方も心の在り方も」
そう。僕らは人に近づき過ぎた。そして、人にとって永遠はあまりに重過ぎる。
カオスを見送った日。彼女の持つ永遠を知った僕には彼女を止めることはできない。
彼女は妖狐。かつて金毛白面九尾と呼ばれたもの。そして、彼女は正しく金毛白面九尾の生まれかわり。
前世の記憶を持ち、前世と同じような力を持つ。
どれだけ生きても忘れることはできず、死を迎えてもまた生まれかわる。
かつてアシュタロスが囚われていた「魂の牢獄」。彼女もまたそこに囚われた存在だった。
僕のようにいつか終わりがくるわけでもなく、決して終わりの来ない永遠の連鎖。
あの日、アシュタロスが宇宙をレイプしたように、彼女もまた同じことを考えていることを知った。
遠い昔に、横島さんが見せてくれた記憶で見た、「宇宙のタマゴ」に変化するのだという。
「宇宙全体を変えるわけじゃないから、アシュタロスのように宇宙意志が働くことはないと思うの」
彼女は笑いながらそう言った。
「うまくいくかどうかも分かんないし、私自身がどうなるかも分かんないわ。けれど、うまくいったら……お別れになるでしょうね」
「意味はないかもしれない。けど、どうしてもあの時をもう一度過ごしたい。横島がいて、バカ犬がいて、美神がいて、おキヌちゃんがいて、みんながいる」
「もちろん私もピートもいるわ。けど、その世界では私たちも人間なのよ」
「みんなと同じように歳をとって、同じように死んでいきたい」
彼女があまりに嬉しそうに言うから。それはきっと僕と彼女が望んだものだから。僕は彼女を止めることができなかった。
最後に会ってから一月ほどたったある日。
タマモさんから連絡がきた。
「明日やるわ。置いていくあなたにお願いできることじゃないかもしれないけど……見送りに来てくれない?」
「……いいですよ」
電話でよかった。彼女が僕の流した涙を見ることはなかったから。
夜も更け、木々から差し込む月の光が辺りを幻想的に照らす。
いろいろ考えてきたはずだったのに。
「考え直すことはできませんか?」
そんな言葉しか出てこなかった。答えはわかっているのに。
「ムリね。私がやると決めた以上やめるような性格じゃないことは知っているでしょ……けど、ありがとう」
彼女は微笑み、石の中に消えていった。その微笑みはとても美しく……忘れることのできない自分の枷を、初めて感謝した。
どれほどの時が流れたかは分からない。
気づけば周りを照らす月光は姿を消し、その役割を朝日が担っていた。
「とうとう僕一人になってしまったな。やっぱり寂しいです、タマモさん」
僕が背を向けた瞬間、声が聞こえた。
『またね、ピート。そっちの世界が終わったら、私の世界に遊びにおいで。約束よ』
--約束……か。
僕はゆっくりと足を踏み出す。
永き時の果てまで、僕の心の中に空いた穴は埋まることはない。
けれど、歩み続けよう。
果ての先、穴の奥底には「約束」という名の宝物がある。
はじめまして。
かつてGS美神の二次小説を書いていた者です。
現在は細々と小説家になろうとカクヨムで活動しています。
かつて投稿した某サイトが閉鎖となっており、自分が初めて書いた作品を残しておきたくて投稿しました。
今となっては需要がないことは重々承知しております。
ここまで読んで頂き誠にありがとうございます。
現在はオリジナル作品(別サイト)の活動が中心です。
よろしければこちらもどうぞ。
「サッカークラブをつくろう~SC鹿児島物語~」
https://kakuyomu.jp/works/1177354054888487512
注:別サイト「カクヨム」様へのリンクとなります。