少し前、寝ている間に偉大なる航路の後半の海、"新世界"に入ってしまった"剣帝"スコウェルト・イープ少尉。
しかしいくら偉大なる航路の前半とは比べ物にならない程きついと言われている"新世界"でもイープの剣技で壊せない船は少なく、というか今のところ全く無く、今までと同じように海賊船の撃墜スコアを順調に伸ばしている。ぶっちゃけた話、今までと全然変わらない。この調子でいったら"四皇"にだって勝てるのではないだろうか。
「また殲滅しおって。公開処刑にしたいから生け捕りにし言うちょるじょろうが」
「にゃははは、気にしない気にしない。それとも手柄が立てられなくて嫉妬でもしてるのかな?」
しかし上司とは上手くいっていないらしい。前世の世界では上司と上手くいっていないという理由で退職する若者が多かったがイープは大丈夫なのだろうか。
「んなっ!」
イープの挑発にゴボゴホッと体を溶岩化させるサカズキ中将。彼らはどうしても馬が合わないらしい。イープが大将になるとすれば多分"黄猿"と呼ばれるだろう。"赤犬"と仲が悪いから。
「気にしにゃん気にしにゃん♪」
スチルドパッドは兄の真似をしたがる年頃らしい。しかし兄の挑発を真似られると火に、いやマグマに油を注ぐようなものだ。
「そういえば貴様は何者じゃあ?イープの妹?部外者はマリンフォードで待っとらんかい!」
案の定噴火するサカズキ中将。勿論比喩表現だ。
「うわー、こんな美少女を家で一人きりにしろだなんてサカズキ中将、鬼っ畜ー」
「きっちくーにゃん♪」
「良いじゃろう。そんなに焼かれたいんなら望み通り焼いちゃるわ!」
と溶岩の拳を構えるサカズキ中将。本気で『大噴火』を撃つつもりである。非常に大人気ない。
「きゃー逃げろー」
「にげろにゃん♪」
と『大噴火』を撃たれないように船内に避難するイープとスチルドパッド。流石に一時の激情に任せて自分の船を焼くほどサカズキもバカではない。勿論イープがその気になればサカズキ中将の一人や二人無傷で対処出来る。寧ろあいてが弱点を突いてくる程度で苦戦してる様ではラヴィサメには勝てなかっただろう。しかしこういうのは雰囲気を楽しむのが大切なのだ。その様な感じでここに来てからはきっちり書類仕事をし、さらに海賊討伐をやったりと仕事に精を出してなおかつスチルドパッドと遊び、かなり充実した生活を送っている。しかしそんな日常が続いていた今日に事は起こった。
「十時の方向、4km先に海賊船の艦隊を発見!海賊船は少なくとも百はあります!あの海賊旗は多分 ……"大艦隊"のフレードです!」
と海兵が叫ぶ。百なんて大艦隊は普段"四皇"だって組まない。そんなことをすると動きがどうしても遅くなるし、戦争をするのならともかく日常の航海ではそんな大艦隊は邪魔なだけである。しかしこのブレードはそんな大艦隊をひっさげてこの"新世界"を航海している稀有な海賊なのだ。
「そんなのはずっと前から認知してるし、正確には 百二十六隻ね。まぁ、潰そうと思ったらもう数km遠くても余裕で全部沈める事が出来るんだけどね」
「だったらなぜそうしないのですか!?」
と聞き返す海兵。当然である。いくら多大な戦果を挙げているサカズキ中将の部隊といえど、こんな大艦隊を相手にしたら全滅だって有り得るのだ。ならば出来るのなら早く殲滅してもらうに越したことはない。
「うん…奴隷がいるんだよね。全部の船に。しかもかなりの数。本当に趣味悪いね、この海賊は。だからこの人たちを救出して、なおかつ海賊を一網打尽出来ちゃうような画期的な作戦はないかなぁ~、なんて考えてたんだよね」
「……それでいい作戦は浮かんだのですか…?」
と少し間を空けて他の海兵が聞いてくる。
「全然だよ。サカズキ中将の能力は大規模破壊が得意、っていうかそれしか能がないし、僕の剣技もどちらかと言うと大規模破壊に特化 しているからね……」
イープの言葉に一気に船の雰囲気が暗くなる。因みにイープの剣技の師匠とも言えるラヴィサメが大規模破壊に特化した技ばかり教えたのは、いつか来るであろう国家クラスの大部隊との対戦に備えての事だ。そんな日は何時か来るのだろうか。そして人のことを信じるのは良いことだし、イープも自分の言葉を信じてくれるのは嬉しいのだが、それにあまりにも大袈裟に一喜一憂する海兵は如何なものか。 一応まだイープ四才なのである。
「だから僕があの船に乗り込んで大暴れしてかなりのダメージを与えてその後に皆が船で接近して砲台とかで攻撃。んでもって皆で乗り込む。これが僕の思い付く最高の作戦かな…。でもこの作戦だったら 、結構味方が傷付くだろうけどね」
最後に少し不穏な事を付け加えるが、ここで嘘はつかない方がいいだろう。しかしここでサカズキ中将が出てきてイープに命令をする。
「イープ少佐、あの海賊船を全て"今すぐここで"殲滅しろ」
これにはイープも絶句する。
「(話聞いてたのかな? 海賊船の殲滅は奴隷がいるから出来ないって言ってたのに)」
「ええっと中将、ですからあの海賊船にはなんの罪 もない奴隷が多数乗っているから殲滅出来ない「構わん、潰せ」……」
「(この人聞いてたよ。 聞いてた上での発言だったよ……)」
「ここで海兵を失うくらいだったら奴隷ごと海軍の掲げる『絶対的な正義』の為に海賊ごと沈めた方が 世界のためだって言うちょるじゃろうが。それにその 奴隷の中にも海賊がおるかもしれん」
確かにここで海兵を失うのは良くないかもしれないし、奴隷の中には殺されて当然のような人間もいる。現に元海賊だった奴隷を殺すことにはなんの戸惑いもイープは無い。しかし、それが残りの無実な人間を見捨てていい理由にはイープとってはならない。今現在のイープの『自分勝手な正義』にそれは反する。
「それでも、残りの無実な人間を見捨てていい理由 にはならないと思うよ………多分……」
「だが、この大海賊時代で今海軍は深刻な人手不足 だ。そんな中海兵と奴隷、どっちを取るべきかわかっちょるのかぁ!?」
サカズキはイープを凄い剣幕で怒鳴る。これが海軍内でも"過激派"と呼ばれる一派の頂点にいるサカズキ中将である。数年前にもオハラで考古学者が乗っている"かもしれない"、という理由で住民が避難するための船を沈めただけのことはある。確かにサカズキ中将の言っていることは海賊を倒す事だけを考えたら非常に合理的で場合によってはそれが"正義"と言われる事もあるだろう。しかしスコウェルト・イープの"自分勝手な正義"はそれを完全な是とはしない。確かに海兵たちが犠牲になるのも避けたいが、それでも単なる被害者をただ正義を実行する、そのために切り捨てたのであれば海軍の存在意義はイープの中では無くなってしまう。しかしスコウェルト・イープの掲げる"自分勝手な正義"はサカズキ中将の掲げる"徹底的な正義"よりも芯のある物ではなかったこと。さらに人は極限状態に追い込まれると普段の性格なら決してやらないような事を考え、行動をしてしまう生き物であること。今回はその両者が重なってイープは暴走してしまった。サカズキ中将に「殺せ」と言われ続け、海兵の安全と奴隷の解放という出来もしないことを望み、思考がループし続けた先の答えが、
「そうだ。みんな壊しちゃえば良いんだよ」
これであった。これは昔ラヴィサメにもよく言われていたのだ、
『困った事があったら取り合えず壊しとけ。全部壊したら大体の事は解決してる』
と。悩むような性格ではなく、時々憂いがあるすれば自分の観察する世界が面白くない事くらい。そんな世界なら壊してしまえ、と考えるのがラヴィサメなのである。
今回の事をイープは確実に後悔するだろう。そしてイープら奴隷を救いながら他の海兵も傷つけずに戦う事の出来ない自分の弱さを恨むだろう。イープはこれから罪の無い奴隷たちを自分の手で殺したという十字架を背負い続けるだろう。
だからイープはこれからもっと、もっと、もっと"強さ"を求める。例えそれが茨の道だったとしても。それでもイープは強くならなくてはいけない。一人で世界中の海賊を相手取れるくらいに、そして自分と帝一振りで世界を変えられるくらいに。だから今は何も考えずにただ"帝"を振る。
「『ミキサー』、狙撃『壁』」
イープは"帝"を四回振って左右二つずつに『斬撃攪拌』の斬撃の竜巻を発生させ、艦隊の横の逃げ道を封じる。そして無数の狙撃『大槍』によって形成された弾幕、『壁』が無慈悲に艦隊を襲い、跡形も残さない勢いで破壊していく。
そしてイープが"帝"を振って数秒たったとき、"大艦隊"フレード海賊団全百二十六隻は消滅し、その船に乗っていた人間は海賊もそうでない人間も同じく全員の消滅を確認した。
「あっ……あっ…僕は…何を……何をしたの…?」
失敗というのはやって気が付くものである。やってみないと失敗するかどうかは分からないが今回はイープから見たら確実に失敗だろう。ただしイープから見たら、の話ではあるが。
「流石は"剣帝"の二つ名を持つことだけはあるみたいじゃのう。成功じゃ。誇って良いぞ、"剣帝"スコウェルト・イープ」
「ちっ、回収しといてよね…」
と上官の労いの言葉を無視して船内に入ろうとするが、
「貴様、少尉だからといってあまり調子に乗るなよ!」
「邪魔だよ」
扉の近くに立ってたサカズキ中将を盲信している海兵を船の外に蹴り飛ばす。今のイープにとっては同じ海兵と言えど"サカズキ派"の連中は敵にも等しいのだ。今は理由が無いが少しでも、下手すればこじつけ程度の屁理屈だとしても理由ができれば嬉々として彼らに手をかけるだろう。
「一人になりたいから入って来たら殺すよ……?」
ギロリと看板にいる海兵を睨むとそれだけ言い残して扉を蹴破って中に入った。
「っ、ぉっ、おにーにゃん!」
と言って最愛の妹が心配して飛び付いて来るも、
「一人にして欲しいんだけど」
とそっけなくあしらってスチルドパッド甲板に置く。最愛の妹に対して随分な扱いだが最愛の妹だからこそこの対応だったのだ。それ以外の人間が呼び止めていたら即座に良くて半殺し、普通は首をはねられている。
「あー、最っ悪だよ!」
と悪態をつきながらイープはあるいていった。
小ネタ紹介等々
"大艦隊"ブレード…ドフラミンゴがここまで予測して、イープの元へ送った海賊。ドンキホーテファミリーの面汚し。