「ちっ、くそったれ!」
バン!と乱暴に将校以上になると与えられる自分の個室の扉を蹴破ってズカズカと床に穴を開けそうな勢いでベットまで行きそこでバタリと意識を失ったかのように倒れ、そのまま眠りにつく。
ドンドンと近くにいる海賊同士のいざこざが起こったせいで目が覚めたイープ。近くといっても5km程は離れているのだが。それでもぐっすりと眠っていたイープを起こすには十分だった。そしてぐっすりと眠っていたところを起こされたイープの機嫌はバロメーターの最低を軽く振り切っている。振り切れすぎてバロメーターが壊れないか心配なほどだ。そして少し今のことを忘れたいから、イープが軽い運動でストレス発散をしようと思った時点で海賊たちの運命は決まった。手配書にはdead or aliveとあるかもしれないが今のイープにとっては海賊なんてdead only。ストレス発散の為の軽い運動相手でしかないのだ。
そしてイープは自分の部屋から甲板に出る。
「あー、そこの君、うん君だよ君。首を繋げてたいのなら早くこっち来なよ」
当然海兵をクビにするという意味ではなく、生物学的に首を切るという意味である。
「へっ?あっ、はいすみません!」
と常に異常だが何時も以上に異常なイープを刺激すると本当に首をはねかねないので海兵がイープの元へ直ぐに行く。
「あそこの海賊船、壊してくるから」
とだけ言い残して、イープは小競り合いをしている海賊船二隻の元へ『月歩』で行く。
一隻の海賊船の帆の真上に移動したイープ。当然海賊に悟られるようなことはしない。といっても海賊たちは目の前の海賊に夢中だ。派手に音をたてない限り気取られる事なんて無いだろう。
「全く、近所迷惑この上ないね、世界の害虫どもが。皆死ねばいいよ」
と誰にも聞こえないように小さく呟き、帆の先を軽く持つ。
「やっぱり遠くから"帝"を振って海賊船を沈めてるだけじゃ体が鈍っちゃうからね。たまには運動しないといけないよ…ね!」
と語尾に力を込めて海賊船を持ち上げる。確かに海賊船はガレオン船と呼ばれる程大きくない。寧ろ小さい海賊船と言えるくらいだ。それでもだからといって海賊船を鈍器として空中で振り回すような人間はいないだろう。そもそも暗殺向けの六式に力任せの戦い方なんて本来はない。そして目の前で敵船が持ち上げられている海賊も、突然自分の船が持ち上げられた海賊も状況が飲み込めずに何も出来ないでいる。海賊船は逆さに持ち上げられたので当然海に落下する海賊もいる。そして彼らの断末魔の叫びが残った海賊たちを現実に引き戻す。
「おいっ、何かに掴まれ!落とされるぞ!」
「なななっ、何だありゃあ!?」
「いくら"新世界"でもこんな化け物がいるなんて」
「おい!テメーら!一時停戦だ!こいつをどうにかする!繰り返す!この化け物海兵をどうにかするぞ!」
と持ち上げられた海賊たちは混乱の極みにいたが最後に叫んだ男、この船の船長によって混乱が治まり、そして敵対していた海賊とも連携を取るようになる。
「全く…。ゴミがどれだけ集まったとしても粗大ごみにしかなれないって理解しなよ」
"ドロドロの実"を食しているイープには格下がどれだけ集まろうと傷一つ付けられないのだ。
「君らを見るのも飽きたしそろそろ終わらせようかな」
といっても海賊船を斧のように振り下ろす。当然狙いは海賊船。振り下ろされた海賊船の船首がつるはしのように看板に見事に刺さる。バキバキィッと今度はそれを強引に横に振って船の側面にも多大なダメージを与える。
「ふわぁ~。皆ゴキブリみたいにしぶといね」
しかし船に対する攻撃はそれだけでは済まない。バキィ、バキィと今度は剣道の稽古で素振りをするかのように海賊船を振り下ろし続ける。海賊船が完全に沈んでも振り下ろす手は休めない。海賊船が海にぶつかる度に波が起き、海賊たちを海の中に引きずり込む。例え泳いで逃げようとしてもイープがそれを許さない。今度は海賊に向かって直接海賊船をぶつける。そして海賊船から船員が全員追い出され、海賊たちが海の底に沈んだ頃に、
「あーきた。全然面白くない」
と海賊船を無造作に捨て、パパッと三枚下ろしにする。しかしここまで体を動かしているのに全く心が晴れない。イープの目に見える世界全てが色褪せて見える。何もかもがつまらない。
「はぁ…全然面白くないね」
と言って何も無かったかの様に軍艦に帰還する。
「勝手に船を飛び出してどうしたんじゃあ?」
と帰ってきて早々イープが最も会いたくない人物サカズキ中将に会う。下手すればここで戦争が起こってもおかしくはない。
「別に。大したことは何も無かったよ。っていうかあいつに言っといたのにね。殺してやろうかな?」
「奴は関係無いじゃろうが。何故ワシの許可なく出動したのかと聞いとちょるんじゃあ」
「正義の為だよ。ほら、サカズキ中将は大好きだよね、"皆殺しの正義"?…もういいかな?だるいから戻ってるよ」
とサカズキ中将に憎まれ口を叩いてイープは自分の部屋に戻る。そしてシャワーも浴びず、食事もとらずにまさしく泥のように眠る。
そのまま海賊が全く現れずに三日間イープは食事もとらずに過ごす。しかし今は"大海賊時代"。海賊に対するエンカウント率は最早確変クラスである。
「……六時の方向に海賊来てるよね…?」
勿論これは確認の問いだから「いいえ」なんて返答は有り得ない。だから当然海兵の答えは、
「はいっ、六時の方向に海賊船が見えますっ!」
しか有り得ない。この海兵はろくに確認せずイープに話を合わせているだけだがこの海兵を責められる人間はこの船にはいない。誰だって命は大切なのだ。
「じゃあ僕があの船に直接乗り込んで潰して来るよ …」
とだけ言い残して『月歩』で海賊船に向かう。
さっき船内から出てきたイープ少尉を見て質問された海兵は思わず後退りをしてしまった。説明しがたいが、今すぐにでも自分がイープに殺されるような、首先に刃物の様な冷たい物を押し付けられている様な感覚に陥ったのだ。しかし彼の感覚は決して間違っていない。イープは今この船の妹のスチルドパッドと友人のドー以外の全員に殺意を向けているのだ。確かにスコウェルト・イープはかなり好戦的で時々結構洒落にならないような殺意を出すこともあった。しかし周りに、それも長時間振り撒いたのは初めてだろう。
イープがこんなに急に人が変わってしまったのも、この前のサカズキ中将の命令のせいなんだろう。そうに決まっている。サカズキ中将の船に乗って長い古参の海兵でさえあの命令には少し引いたのだ。やはり新参者のイープへのダメージは計り知れないだろう。海兵たちの胃袋の為に早くイープには立ち直って欲しい限りだである。
イープが例の海賊船に乗り込んで十数秒たった頃、イープは結構な数の海賊に囲まれている。対するイープは今は自分の中で沸き起こっている殺意を押さえるので必死だ。何事にもヤるタイミングというのは重要だ。その時にイープから出る汗が海賊たちには不安の汗と勘違いされ、さらに彼らを助長させる。イープは"この世界"に来てからやはり大きく変わった。まず、殺しに何も感じなくなった。いや、むしろこの前みたいに殺し合いをしているとワクワクすらしてくるのだ。元日本人としては考えられない事である。それも四六時中殺しをしてなくちゃ落ち着かない、所謂殺人中毒状態である。ただし海賊限定である現在はまだましだ。
「ったく、海兵のガキが俺様の船になんのようだ、 ああ!?」
とイープがボーッとしてたら船長らしき人に話し掛けられた 。そろそろ開始である。あの島にいた時ラヴィサメが言っていた事にこんな言葉がある。
『戦いには二種類の楽しみ方がある。理性をぶっ飛ばすような強烈な強者というスパイスの効いたメインディッシュ。もう一つは理性を溶かすような甘美な弱者というソースの引き立ったデザートだ』
今からイープが楽しもうとしているのは甘美なデザート。つまり弱者を徹底的に潰し、弄び、絶望させて断末魔という最高のソースのかかった殺しというデザートを楽しむのだ。
「僕さ、今結構機嫌悪いからさ……」
とここで台詞を一旦切り、その男に近付く。
「……"デザート"を食べさせてくれないかな?」
と言うと同時にズドン、と『指銃』を海賊の男の腹に決める。さらにちゃんと指が刺さってる事を確認して一気に腕を振り抜く。
「がぐぁ!?」
と腕が貫通して漸く自分が何をされたのかが分かり断末魔の叫びを上げようとするがもう遅い。イープが乱雑に腕を引き抜いた事で傷が広がり男は満足に悲鳴も上げられずに絶命する。
「おい、クソガ…」
と近付いて来る男に最後まで言わさずに股間を蹴りあげる。 しかもた だの蹴りではなく、しっかりと『嵐脚』を飛ばして。イープの『嵐脚』は男を見事に二等分し、男の半身が同時に地面に倒れる。
ゴトン
この音を合図にすぐさま移動を開始。振り返って、真後ろにいる男に急接近。 完全に相手の隙をついて、
「指銃『裂』」
男の左肩から右脇腹に向かって大怪我を負わせる、 と言うか切り落とす。大怪我じゃ済まない、致命傷だ。 そしてその男も自分が何をされたのか気付く前に絶命してしまう。
「ああああああああああ!!!!!!」
と後ろから錯乱した他の海賊か迫ってくる。しかしこういうのは死亡フラグである。イープは少し飛んでその男の顔に迫り、両手の指を相手の上の歯と下の歯にかけて、ブシャァッと頭と顎をひきちぎる。こんな死に方がある映画を前世で観たことがあったのでイープはそれを参考にしたのだ。
そして空中に居るときに僕に向かって放たれた弾丸を『月歩』と『紙絵』でやすやすとかわし、その銃を持っている手を捻って組伏せ、その腕をしっかりと持ち、次にイープがバク転をして更に捻りを加える。 そしてその腕を引っ張って、腕を肩から捻り千切る。だめ押しにその男の頭を左足で踏み潰し、千切った腕を海賊に向かって投げつける。 その腕は見事な直線の軌道を描き、一人の男の腹、 別の男の胸を貫通し 、もう一人の男の頭に綺麗な赤い花を咲かせた。
さらに振り向いて、
「嵐脚『手刀』」
飛ぶ手刀を飛ばして、前にいる男の刀ごと首を切る 。
次に視界の端に映った、海に逃げようとする男に狙いを定める。
男の背中に『剃』の速さでドロップキックを繰り出 し、倒れたところを上向きにする。 そして鎖骨か ら一気に肋骨をえぐりだして、その剥き出しになった胸から心臓を取りだし、周りの海賊たちに、
「次は誰かな?」
と死刑宣告すると同時にそれを握り潰す。
一方サカズキ中将らの軍艦はたった今走って海賊船に単騎で行ってしまったイープを追って、海賊船に向かっているわけだが海兵の全員が乗り気でない。今のイープには関わりたくないというのもあるが、やはり一番の原因は、
「ぎゃあああぁぁぁあああ!!」
「腕は!右腕しか残って無いんだ!だからこれ以上引き千切らないでくガアァァア!!」
「もう、もうやめてくれ!!それ以上刺されたら死ん じまう!がぁぁあああ!!」
「ざっ、財宝とか全部やるかっ……」
このような感じでさっきから海賊たちの断末魔の叫びが聞こえてくるからだ。だが海兵たちの耳に一番響いているのは断末魔ではなく、
「ハハハハハハハハハ!!もっともっともっと僕を楽しませなよ!!」
イープの笑い声だ。サカズキ中将があんな命令をだすからイープがこんなになってしまったのだ。これからは暫く、海兵胃にクリティカルヒットが続きそうである。
そして海兵たちが海賊船に着いたときに最初に見た光景は、
「ハハハハ…ハハ……ハ………飽きちゃったよ」
と壊れたように笑いながら、一定のリズムでもう死体とは言えない程ペチャンコに満遍なく踏み続けているスコウェルト・イープ。そして海賊たちの血で染まりきった甲板とその中央に積み 上げられている一目で死体とわかる海賊だった物の山。当然この中にまともな死体なんて一つも無く、安らかな顔をしているものも一つも無い。死体とか見慣れている職業であるはずの海兵ですら思わず吐いてしまう程の光景だ。
それでもイープの気は晴れない。海賊を徹底的に蹂躙しているときはイープも自分が今までにないほど生き生きとしているのが分かる。だがその分"デザート"を完食してしまった後の虚無感もその分大きい。あれだけ楽しかった筈の惨殺ショーも数分も経たない内にもう思い出せなくなり、殺した人間の断末魔も顔も全く思い出せなかった。
「しょう…うっ…!」
イープの増援という名目で送られてきた海兵はイープの作り上げた地獄を体現したような死体の山に思わず呻く。
「あ?何か用?」
イープはその山から飛び降りて海兵の片目を気まぐれで抉り抜こうとしたところ、ふと自分の左手が何かを持っていることに気がついた。
「……ああ、百手(ムカデ)だね」
それはイープが最期の最後まで弄んだ死体。その死体は身体中くまなく計九十八本の手が突き刺さっていて全部で百本の手が生えた死体になっていた。正直かなり趣味が悪い。どんな猟奇的なド変態サディストもここまではしない。
その百手を見た瞬間、さっきまでの映像
、断末魔、血の香り、肉の味、骨の感触をほんの、たったの一瞬だけ思い出す。でもその一瞬だけでイープの機嫌は少しだけ良くなった。
さらに海兵はイープが飴以外の物を食べていることに気が付く。そして好奇心にかられた海兵は止めておけば良いものを質問してしまう。
「少尉、一体何を食べていらっしゃるのでしうか?」
と。そしてイープの答えは、
「もも肉。いけるよ。食べるのかな?」
何のとは言わない。ただその時イープは海賊の数少ない腕の残っている死体に視線を投げたとだけは言っておく。
これから暫くは海兵の胃袋にクリティカルヒットが続くだろう。海兵は全員早急に胃腸薬を買い占めようと決意した。
小ネタ等の紹介
指銃『裂』……半開きの手を指銃の速さで振り下ろすことで、五本の指で敵を斬る。
百手(ムカデ)……本来は百足と書いて『ムカデ』と読むが、"デ"と"手"をかけて百手として人体に元ある二本の腕に加えて他人の腕を九十八本刺すというオブジェ。悪趣味。