「今度は海軍本部元帥のコングかぁ」
もう奴隷だった皆は逃げる為の時間は十分に稼いだ。だからイープに戦う理由はもう無い。
「『斬撃攪拌』!」
だからイープは目眩ましに『斬撃攪拌』を使い、『剃』で一気に逃走を図る。
「くっ、逃げるのかー!イープ・スパーダぁぁぁー! !」
と叫ぶコング元帥。
「こんな状態で大将クラスと戦える訳ないよ、バー カバーカ!」
メリットの戦いもイープは大好きだが今は残念ながらそれどころではない。先人は逃げるが勝ちと言ったが本当によく言ったものである。
そしてイープが逃亡を図っていると遠くから不穏な叫び声が聞こえてくる。
「まだ息がある!救護班、早く来い!コルプラプス大将を死なせるな!!」
これは流石にイープの幻聴だろう。あれだけの攻撃を食らってまさかまだ息があるなんてことは、普通は有り得ないはずだ。
イープはアトランティス号にたどり着く前、追っ手を撒くために『 一刀両断』、『地平切り』、『斬撃攪拌』、狙撃『大槍 』、狙撃『壁』で追っ手が来られないように"圧倒的な破壊"を出血大サービスとしてばらまいておく。これで海兵は追っ手は絶対に来られない。文字通り大出血しているはずだ。
そして『月歩』で既に出航しているアトランティス号に乗り込んだ。
「「「かっ、海兵だと!?」」」
と盗んだものだが今はもう自分の船であるアトランティス号にイープが帰艦したときに何も知らない周りからは手荒い歓迎を受けそうな雰囲気が流れる。
「いや、いいんだ。彼はこのマリージョア襲撃の主犯である海軍本部少尉"剣帝"スコウェルト・イープだ」
「スラマッパギー。海軍大将二連戦はかなりキツかったよ。追っ手も足止めしといたから少し休んでるね。話はそれからにしようよ」
とレイリーのフォローも軽く受け流して船の中に入っていくイープ。海軍大将相手に勝ちに行く殺し合いに、どちらかというと持久戦の得意なイープはやはり堪えるようだ。
そして中の避難用の軍艦置き場で出会ったのがこの襲撃でもかなり活躍した正史での"奴隷解放の英雄"フィッシャー・タイガーだ。
「ありがとうね。フィッシャー・タイガー、君のお陰で今回の襲撃は成功したよ」
「本来は人間なんかに手を貸したくなかったが仕方なく貸したまでだ。礼には及ばん」
とやはり人間からの感謝も受け取らないタイガー。奴隷にされていた魚人なら当然抱くであろう人間への嫌悪感がタイガーは人一倍、いや魚人一倍強いのだ。
「ううん、それなら尚更だよ。ありがとうね、フィッシャー・タイガー。でもさ、こっからはどうするつもりのかな?僕としてはこのまま一緒に皆を故郷に送り届ける手伝いをして欲しいんだけどね。君たちは結構強いし」
と懇願してみるが、
「流石に人間と一緒の船に乗り続けるつもりは無い 」
とバッサリとフラれる。これも当然だろう。どうして自分達を今まで奴隷として扱ってきた人間族に手を貸さなくてはいけないのだ。
「そっか~。残念」
と笑いながら言う。しかしイープは口では残念と言ったがむしろほっとしている所がある。やはり魚人の兄貴的な存在であるフィッシャー・タイガーが人間であるイープに尻尾を振って従っているってなるとまたそれが争いの種になりかねないからだ。タイガーにはシリビレは多分無いと思われるが。
「でも僕も応援してるよ。君の悲願である魚人、人魚が人間と同じ権利を獲得するのをね。例えそれがオトヒ メさんの邪魔をしているとしても、それで争いが避けられないとしてもね」
勿論それには条件があるが。
「ふん、それも俺がお前の言い付けを守っていたら 、だろ?」
イープがタイガーとマリージョアで出会ったときに言った言葉『人間を虐げるつもりなら潰す』。勿論逆もあるがイープは奴隷という人権を無視した存在を絶対に許さない。イープは人権を無視した惨殺が大好きだが奴隷と決定的に違うのが惨殺は殺す前提で相手に苦痛を与え、奴隷は相手を生かす前提で相手を使役する点だ。イープの考えでは奴隷は全然スマートではないのだ。もっとスマートに殺そうよ、とイープはいいたいのだ。
「当然だね。でも言い付けって止めてくれないかな ?言い方悪いよ。それとこの船の中になる軍艦とこ れを餞別としてあげるよ」
と言って"タイヨウ"の柄の焼き印を渡す。原作にもあった模様だ。
「これは……!?」
嫌っていた人間からの予想外の贈り物に驚くタイガー。
「焼き印だよ。それで忌々しい"天駆ける竜の足跡" だっけ?そんなふざけた物を消しときなよ。そうすればある程度は皆も自由に暮らせるよね?」
「お前には何もかも世話になった」
と頭を下げるタイガー。
「止めてよ。"タイヨウの海賊団"船長が軽々しく頭を下げちゃ駄目だよ。じゃあここでお別れだね。これからも頑張ってね」
と言ってイープはタイガーと別れる。
「俺は人間は嫌いだが俺が思っているような人間が全てでないことが分かった」
と最後にイープの後ろ姿に言ってくるタイガー。これで少しは、ほんの少しだけはタイガーの人間に対する偏見が無くなったかもしれない。その程度で人間を許すなんてことはまだ出来ないが。
「当然だね。でも僕みたいな人だけじゃないっていうのもまた事実だからね」
イープのような差別をしないような人間もいれば差別をする人間もいるのもまた事実なのだ。そして天竜人が正義なんて言われるこのご時世で魚人を差別しないことが正義、とは絶対には言い切れないのも事実なのだ。
イープは最後にタイガーに警告だけして自分の安眠のために個室へ、タイガーは解放された魚人と人魚が待つ船内の軍艦に歩き出す。
タイガーと別れて数日、イープは"元"奴隷の中で特に数人と仲良くなった。
まずはイープより一つしたの女の子で黒、茶、白の三色の髪の毛がチャームポイントなイープの最愛の妹、シロン・スチルドパット。 愛称はスチー。次はスチーと同い年くらいと思われるの黒髪ツインテな女の子、ズビック・カネル。 愛称はネル。そして皆さんご存知のゴルゴン三姉妹、ボア・ハン コック、ボア・サンダーソニア、ボア・マリーゴー ルド。そして奴隷ではないが側室として勝手に連れていかれたクランカー・ドー。彼女らは天竜人の余興とかで、ネルは自然系オトオトの実を、そしてゴルゴン三姉妹は原作通りメロメロの実、ヘビヘビの実を食べさせられていた。
ここに来てもイープはスチーに時々獣化してもらい肉球をふにふにさせてもらっている。やはり妹の肉球は格別なのだ。
そんな時、
「たっ、大変じゃ!!」
とニュース・クーを片手にハンコックがイープの元にに走ってくる。
「どうしたの、ハンコック?もしかして僕のマリージョア襲撃以上の事件でも起こったのかな?」
「同じ位じゃ!」
とハンコックはイープにニュース・クーを手渡す。
「えっとなになに?『魚人の新人海賊のフィッシャー・タイガーが聖都マリージョアを襲撃 !!その際多くの天竜人様がお亡くなりになられ…(中略)…なおこの事件で殉職した海兵は1000人を超え 、その中でも有名な人物は世界政府全軍総帥ハレルヤ、大将キャオ・カイニス、同じくスタミン・コルプラプス、また海軍本部ロンズ中将…(中略)…そして今海賊の中で最も恐れられていた海軍本部少尉"剣帝"イープ・スパーダもフィッシャー・タイガーとの激しい戦闘の末、死亡が確認された模様。またフィッシャー・タイガーはその後逃走中にセンゴク大将と戦闘し殺害されたと海軍は正式に発表。また逮捕したタイガーの部下も全員自害などで死亡した』か ……わお、よくここまでおっきな嘘を堂々と新聞社に流せるね、海軍」
イープの原作介入、マリージョア襲撃がどのように世界を変えていくのかはまだ誰にも予測出来ない。
マリージョア襲撃当日の元帥の間では緊急会議が開かれていた。そのメンバーとはまずは海軍元帥のコング。次に海軍大将センゴク。そして"英雄"ガープ中将、未来の三大将、サカズキ、クザン、ボルサリーノをはじめとする九人の中将が揃っ ている。そして全員が揃ったとき、海軍本部元帥のコングが重々しくその口を開く、
「お前たちに集まってもらったのは他でもない。今日あった海軍本部少尉の"剣帝"スコウェルド・イープによるマリージョア襲撃についてだ」
と周りがやはりな、と言ったような空気を流す。むしろこれ以外の議題など有り得ない。
「五老星からは『主犯が海兵であることをなんとしてでも隠し通せ』とのお達しが届いている」
これは当然のことである。正義の象徴である海軍に属す海兵、しかも将校が"世界貴族様"に手をかけたなんてことが何も知らない一般人に知られたらそれが今の世界政府の在り方に疑問を持たれるのは必須なのだから。
「へぇ~じゃあ一体どうするんですかぁ~?」
と間延びした今はもう亡きコルプラプス大将と似た口調でボルサリーノが聞く。これは昔絶対的な力を誇っていたコルプラプスの口調をボルサリーノが真似たのだ。
「それも上から指示が出ている『フィッシャー・タイガーを犯人として仕立て上げ証拠、証人をどんな 手を使ってでも消し、でっち上げろ』とのことだ。だからセンゴク 、お前は中将五人をつれ軍艦10隻を率いてフィッシ ャー・タイガーの討伐に向かえ」
「なっ、バスターコールですら中将五人だけなんですぞ!それに大将が加わるなど前代未聞だ!」
とセンゴクがコング元帥の机を叩き割って抗議する 。
「いや、そもそもこの状態すら前代未聞なのだ。それに生き残られた天竜人様からは『大将を出せ』とのご命令も下った」
とコングもすかさず反論。天竜人の名前が出たらセンゴクも引くしかない。
「じゃあイープの方はどうするんじゃ?」
と初めて口を開くガープ中将。しかしこれが本題と言っても過言ではないだろう。
「そっちの方はガープ、サカズキ、クザン、ボルサ リーノとクロム中将がそれぞれ軍艦を率い、あと軍艦十隻に選りすぐりの海兵をそして動員できるだけ乗せろ。海軍本部将校以上だ」
なっ、と元帥の間に数人の驚きの声が響く。それも当然だろう。何故なら海軍本部中将五人と軍艦十隻で島一つを地図から抹消出来る。それなのにそれ以上の戦力をたかが少尉につぎ込もうとしているのだから。"冥王"も居るのだが彼は交渉次第で戦闘を避けられるだろう。しかし"剣帝"スコウェルド・イープの全力の戦闘力を身をもって知っているサカズキだけは違った。
「それだけじゃあ足りんじゃけえもう少し加えれんかのお?」
「ああ、分かっている。その為の人間も直ぐに確保する。そしてお前らからの連絡が無ければ直ぐに戦力を投じる準備をしておくつもりだ」
とサカズキの反論が来ることを当然のように受け入れる。こうして海軍のマリージョア襲撃に対する対応が決まった。
そしてその数日後、"奴隷解放の英雄"フィッシャー ・タイガー及びその同志たち全員がセンゴク大将たちによって殺されたとコング元帥に報告された。
フィッシャー・タイガーが死亡した翌日、アトラ ンティス号で今日のニュース・クーを読んでイープは、
「これはヤバイね…」
と呟いた。勿論スチーの肉球を弄りながら。
「ふにゃぁぁ…何がヤバイのかにゃん?」
と少し嬌声を上げてスチーが首をかしげる。
「そうだね、まず"奴隷解放の英雄"フィッシャー・ タイガーが死んだって事だけど本当に奴隷解放したのはこの僕なんだよね。じゃあ何でこんな嘘をつ いたんだと思う?「何故じゃ?」」
降参が早いハンコック。そこに痺れも憧れもしない。彼女は少し考えることを覚えるべきだ。
「多分海兵が犯人であることを伏せるためじゃないか?そしてそこに身代わりの子羊として都合よく居たのがフィッシャー・タイガーと言ったところか」
と輪のなかに入ってきたレイリー。
「でもそんなことしても直ぐにばれると思う」
とこう腹話術で言ったのはオトオトの実の能力者で音人間のネル。彼女は身体中のどこからでも音を出せるのだ。
「だから僕たち証人を皆殺しにするために海軍はかなりの精鋭を送ってくるんじゃないかな?」
「何で精鋭ってわかるの?タイガーのほうに行ったんじゃない?だって殲滅が早すぎる」
と再びネルが腹話術をする。タイヨウの海賊団のクルーは全員魚人か人魚だ。そんな彼らが全滅したというのなら海軍は確実に精鋭をタイガーに差し向けたはずだとカネルは推測する。二才児とは思えない思考力だ。
「だって"英雄だって主張出来る僕"の方が"英雄じゃないって主張出来るタイガー"より重要視される筈だからね。つまりタイガーよりも強い海兵が僕らの元に向かってくるはずなんだよね」
それにカネルが思っているより海軍の質は高い。
「だったらどういうことなのじゃ?」
と首をかしげるハンコック。しかし年齢が半分もない少年に教えを乞うのはどうかと思う画だ。彼女は本当に未来の王下七武海なのだろうか。
「つまり、魚人たちを殲滅した精鋭海兵よりもより強い海兵が僕らの元に来るということだね」
「それって大丈夫なのかにゃん!?」
と慌てるスチー。
「うん、奢りも偏見もなくただ事実だけを述べるよ?僕は強いよ、海兵の誰よりも。大将にだって勝てるよ。だから大丈夫。どれだけの軍勢が来ても僕が行けば万事オッケー。君たちの出番は無いよ。ただアトランティス号の看板で座っていればいいだけだね」
「……自分勝手、私たちも戦う」
とイープの決断を否定するネル。いやそれだけではない。元海兵のドー以外全員である。
「当然だね。だって僕の掲げる正義は『自分勝手な正義』だからね」
とイープ笑う。しかしイープの内心は穏やかではない。海軍が本気で来るならイープはそれなりの準備、" あれ"の準備をしとかなくてはいけない。イープは能力の使用を好まないが妹の為だ、そんな事も言ってられない。
「うん、辛気くさい話はこれでおしまい!そうだ、 近くの無人島で補給がてらバーベキューでもしようよ!」
と言って行き先を無人島"カナリオッキイ島"に変更 する。