伝説の転生者の物語   作:ゆっぴー

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第二十六話 無人島で逃走者は百物語の結果を

とりあえず感動の家族会議が終わり仲直りをしたイープ兄妹。

 

「うーん、盗み聞きは良くないと思うよ」

 

と乱れていた見聞色の覇気が正常に戻った時にこの場に第四の人間がいたことに気付く。

 

「やっとバレたか」

 

と言って木の影から姿を現したのはレイリーだ。彼はイープに指摘され次第直ぐに姿を現そうと思ったのだがイープの見聞色の覇気が乱れに乱れていて指摘されず、そして話がヘビーになりその場を離れることも姿を現すことも出来ずにいたのである。今のレイリーの心境は今かくれんぼで見つけられなかった子供のそれに近い。

 

「はぁ…まあいいや。そろそろ戻ろうよ」

 

と言ってイープはカネルとスチルドパッドを連れて皆のいる海岸へ行く。

 

 

 

しかし、

 

「飽きたね」

 

「飽きたにゃん」

 

「退屈」

 

と三者三様に感想を言うイープとカネルとスチルドパッド。当然だが百物語は怪談を百個言う遊びだ。そして参加者は軽く一万人を越える。つまりは怪談なんて一人一個言えばいい方なのだ。しかも一万人は伊達じゃなく、取るスペースもばかならない。全く話が聞こえない人間が殆どなのだ。そして今回の主役のイープと言えど態々この輪のなかを突っ切って話の聞こえる所に行こうとは思わない。よってやることが無いのだ。

 

「暇だねー」

 

「ふにゃん」

 

「暇だねー」

 

「ふにゃん」

 

「なにやってるの?」

 

「暇潰し」

 

イープは暇潰しにどこで拾ってきたのか手に持っている猫じゃらしをスチルドパッドの回りで魚を釣るようにヒラヒラと動かしてスチルドパッドとじゃれている。もっとも釣れるのは魚ではなく猫だが。

 

「それでも酒の肴にはなる」

 

とそれを近くで見守っていたレイリーは手に持っているウイスキーの瓶を傾けて言う。

 

「え…なんでお酒持ってるのかな?」

 

「私はこんなときに備えて常に酒を常備しているのだよ」

 

とお酒大好きなイープの責めるような視線もどこ吹く風と受け流すレイリー。日常的にアルコール常備とかダメな大人の鏡である。そしてスチルドパッドから目を離して会話してても猫じゃらしには指一本触れさせないイープ。元海軍本部少尉の名は伊達ではないのだ。しかし、

 

「ふにゃん♪」

 

「「「!?」」」

 

パシッと軽い音がなりスチルドパッドが猫じゃらしをとらえる。それですら十分すごいことだが今の問題はそれではない。一瞬スチルドパッドが一般人には目視不能な速さを出したことなのだ。

 

「今のって…」

 

「ああ、間違いない。これは世界政府の特殊体術"六式"の『剃』だ」

 

『剃』とは一瞬で十歩以上のピッチで走ることで爆発的な瞬発力を発揮する技だ。その速さは普通は目視不能な程となる。

 

「成る程ね。身体能力の底上げがある唯一の動物系のネコネコの実モデル三毛猫のスチーなら"六式"の一つや二つくらい使えて当然」

 

そう身体能力の底上げがある動物系こそ体術である"六式"をもっとも生かせるもの。そしてその能力者であるスチルドパッドに"六式"がつかえても何ら不思議はない…

 

「…な訳がないよね!?いやいや、ただ不味い木の実食っただけで二才が"六式"の一つを体得して良いわけがないよね!?僕なんて"六式"の一つを体得するために何回ラヴィサメの殺されたと思ってるのかな!?それをスチーは猫じゃらしの為に体得したって言うのかな?そんな理不尽認められないよね!」

 

訳がない。寧ろ不思議ばかりだ。それほどまでにスチルドパッドの猫じゃらしに対しての執念が強いものなのだ。

 

「マジですごいね、スチー。この年で一式使いだったら、将来は六式使いも夢じゃないんじゃないかな?」

 

と今度は『剃』を使われても取れないように猫じゃらしを上下に揺らす。

 

「そうだな『剃』が使えたら少なくとも…」

 

レイリーが話している途中にまたパシッという音が鳴る。ふう、とレイリーは苦笑いして、

 

「『月歩』も直ぐに使えるようになるだろう。もっとも、既に修得してしまったみたいだがな」

 

と続けた。それについて面白く思わない人物が一人。

 

「むー、私だってそる使えるもん!とりゃ!」

 

それはカネルだ。カネルも可愛い掛け声を出して高速で移動する。

 

「っ…ととと」

 

しかし使いこなせてないのか急には止まれなかった。しかも、

 

「能力使っての高速移動だよね、それ」

 

それは六式の『剃』ではなく、オトオトの実の能力を使った音速移動、つまるところのインチキである。

 

「ええっ!?」

 

と驚愕するカネル。彼女にとっては能力も『剃』も速いという意味では大差が無いのだ。

 

「まぁ、結果的に事象に変わりは無いんだけどね。それでも六式と能力じゃ全然違うかな?」

 

やんわりとフォローを入れるイープだが六式との差別化は忘れない。そこは六式使いとしてはっきりさせておかなくてはならないのだ。しかしカネルは子供だ。大好きな兄に一方の妹が褒められて自分が褒められなかったら面白くない。

 

「ひっく…お兄ちゃんは……グスッ…私よりも…ううっ……ろくしきが使える…スチーの方が好きなんだ……ひぐっ…のーりょくしかない私なんか大っ嫌いなんだー!!」

 

最後は自己嫌悪の一言になってしまったが、そう言って森の方へ駆け出そうとするカネル。しかしイープはカネルを逃さない。逃げ出そうとするカネルをいち早く察知し後ろからガッチリとホールド、簡単に言うと抱き締めてカネルの耳元で呟くように言う。

 

「六式が使えない位で僕は妹を差別しないよ。それに強さで言ったらネルの方が能力があるから強いしね」

 

甘い言葉を吐いているようだが、怒っているイープは実際はカネルの事を強く抱いていてカネルからは人体からは聞こえてはいけなさそうな音が聞こえる。イープにとってはスチルドパッドもカネルも最愛の妹、どちらも世界で同着一位で愛している存在なのだ。

 

「うぐぐ…でも、私は能力者だ…そろそろギブ…」

 

カクリと力を抜いてだらけるカネル。流石にイープもホールドを緩める。勿論抱き付いたままだが。カネルは一応まだ気を失ってないようだからイープはカネルに語りかける。

 

「そんなこと言ったら僕だって能力者だよ。まぁ、あんまり戦闘向きじゃないけどね。それにそんなに六式が使いたいんだったら確かアトランティス号に六式の指南書があったはずだからね」

 

とイープはカネルに笑いかけて言う。しかしイープの言葉に反応したのはレイリーだった。

 

「成る程。私もろくしきを会得したいと前々から思ってたのだが教えてくれる人がいなくてな。私にもその本を見せてくれないか?」

 

「君はこれ以上強くならなくていいんじゃないかな?どうしても見たいって言うならいいけどね。本は図書室の格闘術の項目の所にあったはずだよ」

 

「そうか」

 

とだけ言ってレイリーは心なしかスキップをしながらアトランティス号に向かう。いい大人が何をしているんだ。

 

そんな感じで皆と談笑したり怪談したりしてついに明け方を迎える。

 

「ついに今ので百個目だ…」

 

と言って解放された人の一人がおもむろに最後ミニ松明の明かりを消す。

 

……………………。

 

「……何も起きねえじゃねえか」

 

と一人が呟くが、

 

「いや、ちゃんと来てるよ、残念ながらね」

 

とイープが答える。

 

「はぁ?どこにだ?」

 

「あっちの方向十kmくらいの所に海軍の軍艦十五隻も来てる」

 

イープのこの一言に皆が慌てて色々片付けて船に乗り込む準備をする。もはや幽霊どころではない。

 

「軍艦十五隻って大丈夫?」

 

とイープを心配するネル。

 

「うん、軍艦は大丈夫だよ。僕が余裕で相手出来るからね」

 

何時もなら大将クラスのガープが乗っている時点で余裕なんてあるはずもない。それに加えてクザン、サカズキ、ボルサリーノまでいるのだ、余裕なんて本来はあるはずがない。しかしイープには秘策がある。今回は"神"すらも一方的に叩き潰せるイープの必殺技が使えるからだ。本来能力を使うことを是としないイープだって状況判断位は出来る。だからくだらないポリシーに周りの皆を巻き込むわけにはいかないのだ。

 

「でも問題は幽霊の方かな」

 

しかし本当の問題は軍艦ではなく、幽霊だろう。そう本当に出たのだ、幽霊が。

 

「幽霊ってどんな…?」

 

と恐る恐る聞くカネル。

 

「うん、僕がこの前に両手足と顔面の左半分を押し 潰して心臓を突き刺してお腹に大穴の開けた人間「 ふえ!!このお肉美味し過ぎます!」……話の腰を折 ってくれてありがとうね、お礼に腰の骨を折ってあ げようか、ドー?」

 

「ふえ!?せめて指の骨にしてください!!」

 

「「「「問題そこっ!?」」」」

 

とその瞬間に皆が突っ込む。しかしドーは空気が読めない女である。将来コミュ障にならなければいいのだが。

 

取り敢えずイープはドーの溝尾を蹴り意識を刈り取って黙らせる。彼女を放っておくと話が進まないのだ。

 

「……取り敢えず、僕がこの前殺した筈の超人系 パラミシア グニャグニャの実の能力者で"故"海軍大将スタミン ・コルプラプス。それが僕の言う幽霊の名前かな」

 

彼の体は"生きていない"。これがイープがコルプラプスを幽霊と呼ぶ理由だ。潰し切られた両手足には義手義足が取りつけられそれを能力で動かし、顔、胸、腹の傷は健在。寧ろ問題はそこだ。致命的な傷が健在なのだ。どうしてそんな傷を残して生きれるのだろうか。頂上決戦で白ひげの顔面も半分ぶっ飛ぶなんていう即死級な致命傷を負った気がするが、それでも彼はその後に死んだ。だが彼はそれ以上の傷を負いながらも数日生きてい る。いや正確には心臓の止まった死んだ体が行動しているといった方が正しい。

 

その正解はグニャグニャの実の能力で自分が死んだという現実を歪めたのだがそれをイープは知ることは無いだろう。コルプラプスだって死んで初めてこの能力について知ったのだから。

 

「まぁ、意味の分かんない妖怪はともかくとしてそれ以外の軍艦十五隻は僕が全力でいけばどうにかなるよ」

 

「しっ、しかし妾も戦えるぞ!」

 

とハンコックに続いてそうだ、そうだって言う人々 。

 

「黙れ」

 

しかしそれをイープは一言で切り捨てる。

 

「俺の掲げる正義は『自分勝手な正義』。故に俺の行動の十割が俺の自分勝手なわがまま。お前らは俺のわがままに付き合って黙って守られろ」

 

イープの迫力に皆押し黙る。しかしイープは直ぐに顔を笑顔に作り替えて、

 

「前回もこれで生き残れたからげん担ぎとしてこれを預かっててね、ハンコック」

 

と僕のコートをハンコックに預ける。

 

「僕がいない間は君が船長だよ。例え何に代えてでも皆を皆の望む所に連れていってね」

 

ハンコックには"覇王色の覇気"があるから 多分船長は務まるだろう。それにイープはどれだけでも長引かせるつもりはない。精々一週間で済ますつもりだ。慌てて無理に殲滅する必要は無いのだ。ゆっくり時間をかけて海軍に皆を追わせる力を削ぎ落とす。これがイープのメインミッション。殺せるだけ殺すが今回は何時もと違い能動的に殺すのではなく受動的に来た敵を殺すのだ。

 

「そのためには先ず幽霊退治からだね」

 

と皆をアトランティス号に乗せ、早々と出航させてイープ一人となった無人島で呟く。幽霊がこっちに害を及ぼせないんならそれに 越した事は無い。しかしそうもいかないだろう。

 

それから数分後。やっと海軍の軍艦が視界に入った瞬間、いきなり周りの空間が"歪む"。

 

「やっぱりそうはいかないよね……」

 

こっちの攻撃は通用せず、さらにこっちへの攻撃は当たる。どうやって攻略すればいいのだろうか。

 

「ほんと何その無理ゲー、だね…」

 

いや、イープの本来の目的は殿だ。殲滅する必要はない。時間稼ぎさえできれば戦略的にはイープの勝ちなのだ。

 

イープにはまだ勝機はありそうだ。

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