海兵たちがこの島に上陸してから一週間が経った。海兵の数は半分の五百人弱にまで減っている。しかし逆に言えば一週間で五百人しか倒せなかったという事だ。それは海軍が守りに入り、持久戦に持ち込んだからである。仕方がない。
化け物は一瞬でも気を抜いて隙を見せた海兵や、膠着状態に耐えられず死に急いだ海兵を潰して数を着実に減らし、海軍は化け物がそういった海兵を相手している隙に主砲を化け物にぶっぱなしている。そして勿論主砲というのは、
「くおらあぁぁああ!」
「大噴火ァ!」
「天岩戸」
"英雄"ガープ中将、"溶岩"サカズキ中将、"閃光"ボルサリーノ中将の三人だ。だが化け物にとってはそんな海軍の主砲すらも、
「そんなちまちまちまちま削っていこうが全然痒く すらねえぞぉ!」
糠に釘、暖簾に腕押し、全く意味が無い。寧ろ化け物が一番気にかけなきゃいけない人物は、
「アイスBALL」
搦め手でくる"氷結"クザンだ。もし凍らされてしまったら、そこでゲームオーバー。流石の化け物も海に投げ込まれたら試合終了である。しかしこのクザンの攻撃も、
「喰らわきゃただの氷の玉だろうが!」
化け物が剣で砕き無効化してしまえば驚異になんかなり得ない。
ここで化け物はさっきのクザンの『アイスBALL』で凍った右腕を他のところが凍ってしまう前に引きちぎって直ぐに放棄する。そして直ぐに新しい右腕を作り出す。能力を暴走させ、なおかつ『泥侵食』で化け物自身の支配下に入ってる土に繋がってる今となっては腕の一本や二本程度なら刹那もあれば余裕で作り直せるのだ。そして化け物はその作業を瞬時に終わらせて、
「さっさとバラバラに砕かれてその破片をぶちまけやがれ、給料泥棒がァ!狙撃『大槍』!」
敵をバラバラに砕こうとする。しかしこれも間一髪でかわされてしまう。だが化け物の『大槍』は後ろに控えてる他の一般海兵たちを呑み込 みはしたが。しかし化け物にとってはその程度の海兵程度は居ても居なくてもそんなに変わらない。確かに数の上では五百対一だろう。しかしギャラリーに毛が生えた程度の存在、外野クラスの敵程度、千人居ようが、一万居ようが、さらには一億人いたって自然系の能力者である化け物には傷一つ付けることなんて不可能なのだ。やはり敵の主力を倒さないと戦況は変わらないだろう。因みにイープは能力になんか頼らなくとも一億程度が相手でも弄べる事が可能であるが。要はスライムを何匹もプチプチ潰そうが状況は変らない。戦局を変えるんならガープ、サカズキ、クザン、ボルサリーノ中将クラスのキングスライムでなくてはいけないのだ。
「いい加減、くたばりやがれえええ、死に損ない共がああァァアア!!」
轟ッ!!と何かが至近距離で爆発したような爆音を鳴り響かせながら巨大で凶悪な化け物の『斬撃撹拌』が海兵たちを容赦なく襲う。
そしてそれらに巻き上げられた土木、そして動物や人間だったものも当然落下してくる。そして最早断末魔の叫びすら上げることの出来ない死体が海に落ちていき、海にいる死神にその魂を絡めとられていくかのように紅い海に沈む。更には丁度運悪く大きな土木に当たってしまった海兵も倒れてゆく。
「『冥狗』!」
と化け物に伸ばされたサカズキの高温の左の手の平を、
「効くかよ!んなチンケな一撃がよ!」
と体に覇気を纏わせるだけで防ぐ。
「まだじゃあ!大ッ噴ッ火ァ!」
と今度は噴火した火山から出る火山弾の様に巨大な拳で化け物に襲い掛かるが、
「効かねえ、つってんだろうが!このザコ海兵があ !」
と左手でその拳を抑え込み、サカズキを地面に叩き付ける。そして、
「今回はきっちり殺してやるよ」
と化け物が持ってる刀を両手できっちり逆手に持ち、
「狙撃『杭』」
地面に剣先を埋めるかのように振るう。化け物の一撃はいくら自然系の海軍本部中将である人間一人の為には明らかにオーバーキルであろうクレーター、いやもはや底が見えない程の崖を作る。しかし、
「邪魔してんじゃねえぞ、ボルサリーノぉぉおおお お!!」
その化け物の攻撃は外れた。いや外させられたと言った方が正しい。それはほぼ光速て移動できるボルサリ ーノの蹴りによってである。それはボルサリーノに直接攻撃されて標準がずれた訳ではない。ボルサリーノが化け物の『杭』がサカズキを挽き肉にする直前にボルサリーノがサカズキを地面にめり込む様に蹴り、そしてサカズキが『杭』が直撃しないところに地面を焼き進むことによって、すんでのところで化け物の攻撃をかわしたのだ。
本当ならここで弱ってるサカズキの息の根を化け物は止めたいところなのだが、主力が一時リタイアしたからって、やり易くはなったが、急激に弱体化するわけではない。焼き付け刃ながらもサカズキのポジションを残った主力メンバー三人できっちりカバーしているのだ。だから化け物が狙うのは一時撤退してるやつではなく、
「ぶっつぶれろ、ボルサリーノぉぉおおおお!!」
目の前に居る主力メンバーの中で最も疲労が溜まってて今現在隙がある者に決まっている。やはり戦況維持のために自慢の機動力を四六時中惜しみなく発揮して、光速移動し続けてたら疲労が溜まるに決まってる。
そして化け物の拳がボルサリーノの一瞬息を吸う瞬間に見せた隙を見逃すことなんてあるはずもなく、ボルサリーノを叩き潰してペースト状にするように殴り潰す。そして当然今の化け物の本気の拳が人間一人を潰すだけで終息する筈もなく、 バキッバキッと明らかに島全体が自分の異常を声高らかに宣言するような音をたてて島が意図も簡単に真っ二つになる。しかし頑丈であることもボルサリーノが中将である一因である。まだしぶとく生き残っている。
そして化け物が今度こそ止めを刺そうともう一度左腕を振りかぶった瞬間世界が止まった。
突然化け物の最強の能力の技『泥の巨兵』が解けたのだ。
当事者の"イープ"は勿論のこと、その場に生き残っているもう百人にすら満たないような海兵すらも一人残らず状況を飲み込めずに呆ける。そしてそれから一番最初に立ち直ったのは世界政府の敵" スコウェルド・イープ"である。今回こんなことをした犯人は、
「全く役に立たないって思ってたのにね、ウォシュウォシュの実…」
海軍中将おつるである。原作では悪人の心を多少洗い流す程度の能力であったがこの能力の真価は相手の甲装を洗い流して無効にすることなのだ。おつるはその能力を今回は最大限に発揮してイープ最強の技『泥の巨兵』を無効化したのだ。
一方イープは最強の技を無効化された上にここにきてまた援軍、しかも中将である。状況は芳しくない。
「面倒臭いね……とりあえず死になよ」
とイープ『泥の巨兵』の仕返しとして先ずおつるに襲い掛かる。イープが斬りかかる時に上官を守るために数人が壁となって『鉄塊』を使う。しかしその程度の硬度の『鉄塊』ではイープの斬撃の壁としては力不足もいいところだ。イープの斬撃は海兵たちの壁を意図も簡単に切り裂く。だが肝心のおつるは後方に回避して距離をとってからのからの『鉄塊』によって致命傷だけは避けられたようま。だがイープが折角の海軍中将を追い詰めたのだ。そんなチャンスを見逃す訳なとあるわけがない。イープは『剃』でそのまま追撃する。そして振るった剣先がおつるの鼻に触れるか触れないかという時に『帝』が弾かれる。
「いい加減にしてくれないかな!?ボルサリーノ中将! 」
今度はおつる中将を守ったボルサリーノ中将に標準を変えて蹴られた勢いを殺さずに、
「『斬撃撹拌』!」
ボルサリーノとおつるを巻き込んだ巨大な斬撃の竜巻を放つ。この前みたく大振りをした直後で動けないボルサリーノとおつるとその他大勢の海兵は『斬撃撹拌』に巻き上げられる。そして戦闘不能ではあるが未だ絶命していないおつるとボルサリーノにまた追撃しようとするが、その数秒の間で海兵に囲まれてどっちにも追撃出来なくなる。
しかしあの怪我の状態ならちゃんと戦闘不能になって暫くは動くことも出来ない。だからここでイープがおつるたちに止めを刺せなかったことは大して問題ではないのだ。寧ろ問題は『泥の巨兵』の代償だ。自然系の能力を暴走させる『泥の巨兵』。そんな技にリスクが無いわけがない。この前ラヴィサメと戦って自力で解除したときでさえ全身の筋肉痛と多少の臓器の損傷、さらに肋骨が二、三本ヒビが入るという結果だったのだ。しかも今回はおつるの能力による強制解除だ。前回よりも反動は酷く、代償は決して軽いものではない。具体的に挙げるとすると、左眼球の破裂に加え、左腕は上腕二頭筋と三頭筋の筋肉断裂に見事な五回転捻りを加えられた複雑骨折、マリージョアでコルプラプスと戦った時に負った腹の傷が開く、さらに両足にヒビ。
イープがこれが原因で負ける、なんてことは絶対ない。ラヴィサメとの修行時代にはもっと酷い状態の中で戦闘をしたことがある。それにイープは両足が折れていたとしても無理を押して走る事が出来る。その痛みは半端なものではないがその痛みにかまけて逃げることに手を抜くと両足の痛みが可愛く感じられる程の愉快な殺され方をしてしまっていたのだ。しかし、かといってこれは決して無視できる程軽いものでもない。やはり痛いものは痛いし、ほんの少し位は動きが鈍る。
おつるの部隊の援軍も加わって残りの相手は六百人。イープは『泥の巨兵』の影響で暫く能力が使えない上に深手を負っている。これからはもっと慎重にいかないと簡単に仕留められてしまうだろう。ラヴィサメの修行のモットーである『正しく敵を殺すには正しい敵に殺されない手段を知ること』がここで生きてくる。やはり『泥の巨兵』をしていてもしていなくても戦闘方針は変わらない。時間を掛けて正確に全員の息の根を止める。イープは能力を使えないからといって、深手を負っているからといって焦る必要は全くないのだ。
そう意気込んでいるとストロベリー准将が前に出てきた。