伝説の転生者の物語   作:ゆっぴー

34 / 59
第三十三話 東の海で少年は航海の決心を

「「あはははははは!」」

 

隠れ家の中で二人の少年の笑い声が響く。そんなことをしたら隠れ家の位置がばれるかもしれないとも考えずに。

 

「だからそんなに笑わないでよ!…じゃなくて笑うなよ!」

 

と顔を真っ赤にして叫ぶ転生したときに転性してしまったサクラ。

 

彼はもうこの世界が自分の夢でないと確信している。先程の激痛が夢でないことがあろうか、いや、ない。それほどまでに男の股間は急所なのだ。弁慶の泣き所の比ではない。あんな冷酷無比、残虐非道な一撃を食らったら弁慶も泣いてしまうだろう。

 

そして男となってしまったからには言葉も女言葉から男言葉に変えなくてはいけない。変えなくては世間から"おネエ"の称号を頂いてしまうのだ。サクラはそれだけは避けたい。

 

「だってよぉ、記憶喪失で自分の性別忘れてるって…ぶはははははっ!やっぱ無理だ、我慢できねえ!」

 

とエースは込み上げてくる笑に対してささやかな抵抗を見せようとするも全く意味がなかった。しかしエースが自分に心を開いてくれるならばこれくらいの痛みくらい全然平気だとサクラは思……えなかった。

 

「うっせバーカ、死ね!」

 

と今だ笑っているエースの股間に対して瓦二枚を軽く割る極悪の蹴りを入れるサクラ。

 

「っ!!?」

 

いくら町中で有名な悪童のエースと言えど男の子。急所への一撃はかなり堪える。もはや痛がる素振りを見せる余裕すらないエースを見て少し申し訳なく思うサクラ。これもこの痛みが理解できる体を手に入れてしまったからであろう。

 

そしてサクラはサボを睨み付ける。『次ぎはお前だ』と目で訴えかけながら。

 

「すみませんでした!」

 

と土下座を敢行するサボ。男性読者なら今のサボを情けないと言うことはないだろう。

 

こうしてサクラは無事とはほど遠いがサボとエースと共にコルボの悪童に仲間入りすることができた。

 

 

 

それから数ヵ月、サクラたち三人は窃盗食い逃げを繰り返し、そして互いに模擬戦を繰り返して貯金を増やす一方で実力もつけていった。

 

しかしそれとは別にサクラは二人に内緒で特訓をしていた。今サクラは九才、そしてサボとエースは五才。つまりサクラは三人の中で最年長なのだ。しかしそれと同時に最弱でもある。元女とはいえ現在は男の体を持っていて他の二人とは同じ条件なのに三人の中でサクラは圧倒的に弱いのだ。だからサクラは原作知識を使い二人には内緒で"覇気"の特訓をすることにした。

 

と言いつつも知識で覇気がどういったものか知っているサクラだが、残念ながらサクラには師匠がいない。故にサクラが今やっている練習法が正しいのか分からない我流のものだ。しかしこれは多分後にサクラの戦闘で生きてくるだろう。生きてくると信じていなくてはサクラだってやってられない。

 

その練習法とは至って簡単だ。先ずは瞑想。これで自分の中にある(と思われる)覇気を見つけるのだ。ついでに心を落ち着けることは見聞色の覇気の実現の近道…のはずだとサクラは信じている。今だに瞑想は昼寝の時間となっているが。昼頃はどうしても眠くなってしまう。続いて武装色の覇気は毎日欠かさずしている空手の練習の時に手足に何かを纏わせるイメージを持つことだけだ。こちらは成果があったのかサクラは岩を殴っても拳を痛めなくなった。ただしこれは覇気に関係なく、ただ単に鍛えた結果なのかもしれないが。

 

 

 

それはさておき今三人は隠れ家の中で団欒をしている。

 

「なー、サボ、エース。俺さ…没個性じゃねーか?」

 

「はぁ?没個性?」

 

突然何を言い出すのかと眉をひそめるサボ。

 

「おー、没個性。ほら最近盗みの他に賞金稼ぎしてるだろー?でさー、そいつらってさー、愉快な服装とかしゃべり方とか笑い方すんだろー?俺ってそいつらに比べて没個性じゃね?」

 

そう、サクラが入って三人になった悪童三人組はゴア王国外れのごみ山に逃げてきた賞金首、それでも百万もいかないくらいの小物、を捕まえて海賊貯金に加えているのだ。いくら三人の中で最弱のサクラでもそんな小物にはおくれを取ることはなく、立派に活躍している。そしてそういった奴等は決まって個性豊かだ。例えば全身にてんとう虫を付けていたり、おっさんだが語尾に『にゃんにゃん』を付けたり、笑い声が『ニョニョニョ』だったりだ。

 

それに加えサボだって賞金稼ぎや海賊に似つかわしくない貴族の格好だし、エースだって将来は半裸で生活するのだ。没個性にはほど遠い。

 

「でもサクラの髪は結構珍しいだろ」

 

とエースがフォローを入れる。そう、サクラは男になった他にも髪の色が薄いピンク、桜のような色になっていたのだ。こちらの変化はサクラ自身も気に入っている。しかし日本ならそのような髪の色は珍しいかもしれないが、この世界ではそれほど珍しくない。因みに顔つきの方は変わってはいないが、元から中性的な顔立ちだったこともあってそんなに違和感はない。

 

「いや、髪の色っていったらこの前の"変質者"の方が凄かっただろ?」

 

「「あー確かに…」」

 

とサクラの反駁に納得する二人。"変質者"というのはこの前三人で捕まえた五十万の賞金首で全裸に加え何故か髪を迷彩色に染めていた男である。勿論ボコボコにして布でグルグル巻きにして海軍に引き渡した。

 

「……じゃー語尾に何か付ければいいんじゃねぇか?」

 

「それだ!」

 

と数分の沈黙の後に出たエースの提案にビシッ、と指差して乗るサクラ。しかし問題もある。それは、

 

「じゃあどんな語尾にしよう……?」

 

ということだ。サクラのハードルは高い。没個性を脱却できるようなものでなおかつ変すぎないという絶妙な語尾をサクラはもとめているのだ。

 

「……じゃあ"ごわスマッシュ"つていうのは「ダウトー!」駄目か…」

 

早速ネタに走ったサボを止めるサクラ。何故サボがこのネタを知っているのかは誰も知らない。

 

「じゃあ"ごわストロベリー"はどう「お前もう黙れ!」ぶーぶー」

 

今度はエースがネタに走ったようだ。

 

「じゃあサクラにはなんか案があんのかよ?」

 

先ずかいより始めよ。言い出しっぺのサクラが何か案を出すのが筋というものだろう。サボが言う。

 

「……え、何も浮かんでない」

 

「ダメじゃん!」

 

サクラの台詞に対して待ってましたと言うかようなスピードで突っ込みを入れるサボ。

 

「それだ!」

 

「……は?」

 

頭が湧いたか、と言わんばかりのジト目でサクラを睨み付けるサボ。

 

「"じゃん"だよ"じゃん"!それにしよう!…じゃん!」

 

サクラが前の世界で見ていたアニメのキャラでやたら語尾に"じゃん"と付ける先生がいた。サクラはそのシリアスをコミカルに変える先生の語尾をパクらせてもらうことにする。

 

"じゃん"だなんてありふれた語尾、誰だって使うように思われるが、考えてみてほしい。やたらめったら無理して語尾に"じゃん"を付けている人を。十中八九『個性的なしゃべり方だなぁ』と思うはずだ。

 

そうしてサクラの語尾が、決定した。

 

 

 

そしてそれからまた数ヵ月、サクラの語尾である"じゃん"は最初の方はぎこちなかったが今ではすっかり定着して寧ろ"じゃん"を付けずに話す方が違和感を感じられるほどだ。

 

そんなある日またもやサクラが二人に話はどちらかと言うとしかける。

 

「なー、俺たちいっぺん海に出てみないかじゃん?」

 

「はぁ?海?突然どうしたんだ、サクラ?」

 

と聞き返すサボ。しっかりもののサボがこの悪童三人衆のまとめ役だ。最年長のサクラは実力でサボとエースに劣り、エースには皆の意見をまとめる能力なんて存在しない。

 

「うん、サボ、じゃあ聞くが俺たちの収入源は何じゃん?」

 

「えーっと、先ずは倒した猛獣の毛皮と肉だろ。それからかっぱらってきたお宝と賞金稼ぎぐらいか?」

 

「正解じゃん。じゃあそのなかで一番高い割合を占めるのは何でしょうじゃん?はいっ、エース!」

 

ここで、エースに話を突然振るサクラ。

 

「うぉい、俺か!?えーっと、じゃあ何時も狩ってるから猛獣の毛皮と肉か?」

 

「ぶぶーじゃん。正解は賞金稼ぎ稼業じゃん」

 

「おいおい、そんなわけ無ェだろ。賞金首に出会うことなんざ大体月に一人ぐらいだぞ。それに比べて毛皮と肉は毎日売ってんだ。こーゆーのを何て言うんだったか…そうだ『風の前の塵に同じ』だ!」

 

「いや、サクラの言ってることは正しいぞ、エース。あとそれを言うなら『塵も積もれば山となる』だ」

 

流石は貴族の息子、食い寝少年とは頭の出来が違う。

 

「毛皮と肉は毎回大体八千ベリー。そして賞金首は大体いつも五十万ベリー前後。つまりりだ、毛皮と肉では毎月二十四万ベリーしか稼げないんだ」

 

「おいおい、それはおかしくないか?だって毛皮と肉のときは紙切れ四枚で賞金首は紙切れ五十枚。つまり毛皮と肉の時は一月で紙切れ一、二、三、四……百三十三枚貰えるから毛皮と肉の方が稼げてるんじゃねェのか?」

 

「エース、取りあえずお前には後で掛け算と貨幣についてみっちり教えておくから黙っとくじゃん」

 

自分から話を振っといて随分なものの言い様だが、これはサクラの予想を越えて馬鹿だったエースが悪い。

 

「つまり俺は賞金稼ぎ稼業の方が儲かるからもうそっちを専門にしないか、ってことじゃん」

 

「うーん、でもいきなりここを離れようって言われても…」

 

と宝をここに隠したまま海に出ることに難色を示すサボ。こんな治安の悪い土地なのだ。サボの心配は持ったもである。

 

「でもじゃん、サボ」

 

とサクラはここで畳み掛ける。

 

「お前たちが海賊貯金を始めて約一年じゃん。貯まったお金は多く見積もっても一千万ベリー弱じゃん。そして|東の海(イーストブルー)の平均懸賞金額は三百万ベリーじゃん。つまり毎月一人賞金首を捕まえれば、」

 

「4ヶ月あればそれを越えられるってことだな!」

 

エースが珍しく正答を言う。

 

「だがなーサクラ、つまり平均懸賞金額が三百万ってことは今までの六倍強いってことだろ?大丈夫なのか?」

 

と相変わらず慎重なサボ。暴走少年エースの無茶をサクラが来る前は一人で止めてきたのだ。サボはやると決めたときの行動力は目を見張るものがあるが基本は慎重にことを進めたい性質なのだ。

 

「今までの賞金首も俺たち一人で十分だったし、それに俺たち三人が揃えばどんなやつにだって負けないじゃん」

 

にやり、とサボを挑発するように笑うサクラ。

 

「あー、分かったよ!そこまで言うならやってやる!」

 

「そうこなくっちゃじゃん!」

 

と決意するサボに、それに満足そうな笑みを浮かべるサクラ。

 

「それにそろそろお前らの組み手と賞金首の相手には飽きてきた頃だしちょうどいいな!じゃあ早速行くぞお前ら着いてこい!」

 

「待て!船長は俺だぞ、サボ!」

 

「あはははははは!」

 

と言うや否や港に向かって走り出すサボと文句を言いながらもそれを追うエースにその光景を見て笑うサクラ。

 

エースがこれから戻ってこないことによってダダン一家の肝が物凄く冷えることはこの中の誰も知らない。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。