ゴッと看板で大男が両手に持ったコンクリートの塊を振り回し相対する子供二人に襲い掛かる。
「うわっ!」
「じゃん!」
それを身軽にかわしながら正確に大男、"武人"ローブの頭を二人の得物の棍が捉える。しかし、
「効かぁん!」
「じゃん!?」
それすら弾き飛ばす。こんなやり取りがもう何度も続き、三人とも無傷ではあるがサクラとエースは体力を消耗し、一方ローブの方は息一つ乱れていない。
「どんだけかてェんだ」
と流石にエースも弱音を吐く。
「大丈夫じゃん。一見効いてないようにも見えるけどちゃんと諦めなければ何時かは効果が出るじゃん」
とサクラがそんなエースを励ます。
「おいはぁ、大砲だってぇ弾き返すぅ身体の持ち主ぃだぁ!」
とそんな二人を絶望させるようなことをローブは叫び、攻撃を繰り返す。
「じゃん、エース!一ヶ所を集中的に攻撃するじゃん!顎じゃん!顎を砕けば流石のこいつだって倒れるじゃん!」
とサクラはエースに叫んで指示を出す。そうすればローブにも作戦が伝わってしまうがそれでもしないよりましだ。それにもとよりサクラはローブを作戦や対策を立てて相手を倒すタイプではなく、相手の作戦や対策を正面から叩き潰すタイプと認識しているからあまり関係無いだろうとサクラは思っている。
縦横無尽に振り回される巨大な武器を交わし続ける事は難しい。さらに体力に大きな差があるのであればなおさらだ。紙一重でかわすだけでその威圧感から精神力がゴリゴリと削られるその一撃は、かするだけでもかなりのダメージを喰らってしまう。
そして先に一撃を貰ったのは、
「じゃん!?」
サクラの方だ。
「サクラ!?」
「敵から目離すなじゃん!」
「くっ!」
かすっただけで数十メートル吹き飛ばされたサクラを心配するエースをサクラは叱責する。戦場では敵から、ましてや格上と戦っているときに敵を視野から外すなんてもってのほかだ。幸い、サクラの注意のお陰でエースは攻撃をかわすことができたが。
「流石は"一千万クラス"じゃん。そう一筋縄じゃあいかないじゃん」
と頭から血を一筋流したサクラが言う。
「ああ、あの塊がせめて一つだったらいけたんだがな」
とエースも苦虫を潰したかのように文句を言う。そのエースの呟きにサクラは、
「じゃん、丁度俺も同じことを考えてたじゃん」
と頬を伝う血を舐め取って笑う。
「はぁ!?どういうこと…「俺に合わせろじゃん!エース!」ちっ、仕方ねえ奴だなあ!」
とエースは自棄になったように、しかし顔は笑いながら叫ぶ。彼らはアドレナリンが大量に分泌されていわゆるハイになっているのだ。
「じゃん!じゃん!」
サクラも笑い、叫びながらローブの猛攻をくぐり抜けて足下に潜り込む。
「踏ぅみ潰してぇ、やるわ!」
とローブが足下のサクラを踏み潰そうとしたとき、サクラは笑い叫ぶ。
「かかったじゃん!」
とサクラは相棒の棍でローブの脛を思いっきり殴る。
「おぉう!?」
弁慶の泣き所とも呼ばれるそこへの一撃は"武人"ローブですら痛みを感じさせた。そしてさらにローブの体勢はサクラを踏み潰そうと片足を上げた状態。そこにもう一方の足に痛恨の一撃を喰らい体勢が崩れればもちろん転ける。これがサクラが決死の覚悟で作り上げた千載一隅のチャンス。
「エース!」
とサクラは叫ぶ。しかしサクラたちがローブに苦戦したのはローブの重い一撃もあるが、それよりもむしろローブの頑丈さにある。そんなローブに対してエースは何処に攻撃すればいいのかと悩む。
「肘じゃん!肘にぶちかますじゃん!」
と再度サクラが叫ぶ。サクラの一連の行動の目的はまずはローブの武器を一つにすることだ。そうすれば手数は半分、しかし相手の実力は半分以下に落ちる。例えば、双剣使いが一本の剣で戦ったならば実力の半分も出せないだろう。何故ならその双剣使いは剣を二本使う前提の戦い方を学んで磨いてきたのだから。
「ぐおぉう!?」
そして右肘にエースの会心の一撃を喰らったローブは思わず持ち前の巨大な円柱を手放す。これは以前、サクラがこの世界に来る前に肘を机にぶつけたとき、異様に手が痺れたという経験からいけるのではないかと考えて実行した作戦である。
「やってやったじゃん」
と未だ痛がるローブから目を離さず、ゴロゴロとここから離れていくコンクリートの凶器を尻目にサクラはエースと軽く拳をぶつける。
手数が半分実力は半分以下ならば勝てると思ったサクラはこれからどう料理していこうかと思案したときに目の前に映ったのはローブの"右手"にある巨大な凶器が自分に向かって迫って来るところだった。
「じゃん?」
ゴシャッと人からは普通は鳴り得ない音が鳴り吹き飛ぶサクラ。船内をいとも簡単に貫通しサクラは船首から反対側い一気に吹っ飛び漸く止まる。
一瞬意識が飛びそうになるがどうにか意識を保つ。この世界に来て数ヵ月間適当に暮らしてきたわけではないのだ。しかしサクラの状態は酷い。幸い、折れた骨が内臓に刺さってはいないが、間違いなくかなりの骨が折れている。しかもサクラは怖くて直視出来なかったが左腕はさらに酷く、有り得ない程捻れ、ダランとぶら下がっているそれからは一部骨が突き出している。
「どういうことじゃん?」
とサクラは薄れかけた意識を保つ為に懸命に頭を働かせる。
サクラはこのとき知る由も無かったがローブは自分の背中と船首の間にもう一つ巨大なコンクリートの凶器を隠し持っていたのだ。しかしそれは単なるスペアではない。そのもう一つの武器の意味はサクラが再びローブに立ち向かうために看板の方に行ったときに分かった。
サクラが看板に出たとき、丁度ローブは自分の武器を振り回しながら転がって行った自分のもう一つの武器を取りに行き、それを掴み取ったところだった。
「おおい!?サクラ大丈夫か!?」
とサクラが看板に出てきたのを見かけたエースがそのサクラの満身創痍さに驚き思わず声をかける。
「ゴフッ…一応」
ともやは語尾に『じゃん』を付けることを忘れてサクラは応える。
「んで…あいつは何やってんの…じゃん?」
語尾に『じゃん』を付け忘れていることに気がついたサクラが慌てて付けて聞く。
「わかんねェけどもうすぐ来るな」
とエースが答えた時にローブがのそりと振り返る。その手に持つのは"三本"の円柱状のコンクリート。そう、ローブは自分の三本の武器を組み合わせて三節棍にしたのだ。
「まぁさかおいをここまで本気にさせるぅとわ思わなかったぁ。なぁ、やっぱぁおいの船にぃ乗らねぇかぁ?」
とじゅんびうんどうがてらに三節棍を振り回して部下を船外に巻き上げながら聞く。
「却下じゃん」
「断る!」
「そぅかぁ、やぁっぱり、だぁったら力付くでぇ連れてぇ行くわ!」
とブオンとローブは巨大な凶器を叩き付けて二人に襲い掛かる。三本を一本にまとめたことでリーチが伸びたそれは離れたとこにいる二人に軽々と届く。さらにそれだけではない。関節が付いた三節棍は端を持てば強力な一撃必殺を与える、変則的な軌道を描く武器となり、真ん中を持てば両端を使った息もつけない近距離の猛攻が可能な武器となる。確かに両手に持つよりも手数は減ったかもしれないが、二人にとってみれば、軌道が読み辛くなりさらに攻撃のバリエーションも増え、こちらの方が明らかにやりづらくなっていた。
その猛攻に次第に押さえれていき、
「ぐふぁ!」
ついに円柱がエースの腹部を捉える。しかし真ん中を持ったときは先程の威力は出ないらしく、ダメージは膝は震えるがエースはなんとか立てる程度に止まった。
「エース!…じゃん!」
とエースを心配しながらもサクラはローブの攻撃をかわし、何とか距離を取るも、
「ぐっ…じゃん…」
足で体を支えられず思わず膝をつく。
「まぁずは、ひとぉりめ!」
とローブは三節棍の端を持って攻撃しようとするが、
「これ以上サクラに手を出すな!」
エースの叫びによって思わずローブが怯む。それは紛れもない覇王色の覇気。エースが父親から譲り受けた王である才能だ。
「お前ぇ、能力者ぁか?」
「お前の相手は俺だ!」
とローブの問いには答えずエースは震える体に鞭打って奮い立たせ、棍を構える。
「まぁあ、こいつぅの方がぁ危なぁさそうだぁ」
とローブは今度は三節棍の真ん中を持って接近する。ローブの猛攻を捌ききる体力なんてもう残っていないエースは一度下がって距離を置くが、ローブの狙いはそれだった。エースが距離を取る為に跳んだ瞬間にローブは三節棍の端に持ち変え、かわしようのない空中にエースがいるときにリーチが伸びた凶悪な一撃を振るう。
しかしサクラだって少し辛いからといって兄弟を見捨てるわけがない。というよりローブは連れていく気満々だが実際にあれを喰らったサクラはあの一撃は下手すれば死ぬことくらい分かっている。だからどうにかするためにエースの元に走る。サクラは何か策を講じているわけではない。最悪この身を投げ出してでも止めるつもりだ。しかしそのときサクラは自分の体に違和感を感じる。それは悪い意味での違和感ではなく、寧ろ体から力が溢れてくるのだ。
「じゃああぁぁぁん!!」
とエースに迫るローブの武器をサクラは片手で持った棍で打ち落とす。
「なぁ!?」
「サクラ!?お前は下がってろ!」
と自分を救った人物を見るなりエースは叫ぶ。
「じゃん、下がってるのはエースの方じゃん」
しかしサクラはエースの言葉を右手に持った完全に折れ曲がってしまった棍を捨てて言う。その事実にエースは今のサクラならやってくれるかもと期待して引き留めることを止め、寧ろサクラに全てを任せることにする。
「分かった。俺の棍を使え」
と言ってエースは自分の得物をサクラに差し出す。だが、
「じゃん、そんなんいらんじゃん」
とまたもやエースの申し出を拒否する。本来サクラが得意なのは杖術ではなく空手と柔道だ。本人も薄々感ずいているが、"覇気"にサクラは目覚めたが、それは熟練しているとはお世辞にも言えず、自分の得物に覇気を纏わせるまでではない。その証拠に先程の攻撃でサクラの棍が耐えきれずに変形してしまったのだ。
そんなサクラの自信を感じ取ったエースは、
「じゃああとは任せた」
とだけ言って緊張の糸が切れたのかそこに寝転んだ。
「はぁなしは済んだぁか!?」
とここで叫びながら棍で叩きつけてくるローブ。しかしそんなことはもう"見聞色の覇気"に目覚めたサクラはとっくに見切っている。
「はあぁぁぁ!」
さらに近付いてローブが猛攻を仕掛けるも、
「(右左上下上右右下上)」
いとも簡単に見切ってかわす。
「はぁはぁ…さぁっきまでとぉわまぁるで別人だなぁ」
と疲れが見え始めたローブ。これがローブが三節棍を多用しない理由である。一つ五百キロの巨大なコンクリートを二つまでなら振り回せるローブも三つとなるとその負担は純粋に一・五倍さらに振り回したときの遠心力も効力するとその負担は指数関数的に増大する。しかし対するサクラだって満身創痍、いつ倒れても可笑しくない傷を負っている。だから二人とも短期決戦で決めに掛かる。
「はぁぁああ!」
先に仕掛けたのはローブ。三節棍の真ん中を持ち巧みにそして今までより素早く巨大な武器を振り回しサクラに迫る。
「くっ…じゃん!」
サクラはそれを"見聞色の覇気"で正確に読むが、今度はサクラの体がサクラの思考に着いていけない。つまりサクラは自分が万全のときに相手が次にどう来てそして自分がどう相手を追い詰めるかのビジョンを組み立てたが、それは所詮自分が万全のときのものである。万全からほど遠い今ではかわし、距離を取ることで精一杯である。
そしてサクラが距離を取ったのを見計らって、ローブはエースを追い詰めたように三節棍を持ち変え、サクラを凪ぎ払うように振るう。
しかしそれは失策だ。サクラはローブの速さと手数の前に退かざるをおえなかったが、相手が一撃で仕留めに来るのならばサクラにとっては話は簡単になる。ただそれをかわして大振りをした直後を叩けば良いのだ。
「じゃん」
とサクラはふりまわされた円柱を足場にしてローブに向かって跳ぶ。そして拳を構えてローブの顎に向かって後はアッパーカットを決めるだけというときにローブは笑う。そうまだローブの連撃は終わってないのだ。再びローブは三節棍を真ん中に持ち変え、一方でサクラを叩き潰そうとする。しかしサクラはそれに怯まない。やはりサクラは最後はかわすなんて小手先のことではなく真っ向から"武人"と呼ばれる男を力で叩き潰したいのだ。最後の最後で小手先に頼ってしまっては無理して海に出た意味がない。勝てば間違いなく格段に強くなる、死んだらそれまで、とサクラは頭の片隅でそんなことを考える。
そしてサクラの拳とローブの武器がぶつかり合う。
「じゃああぁぁぁん!!喰らえじゃん!」
とサクラの渾身の一撃は、
「がぁっ!」
ローブのコンクリートの凶器を粉々に砕きそしてそのままローブの顎に突き刺さり、砕く。
ドシンと音をたててローブは倒れ、
「じゃん?体が動かないじゃん」
サクラも倒れる。両者とも身動ぎ一つしない中、先に立ち上がったのは、
「はぁああ」
ローブだ。
「なぁかなかやる子供だったぁ」
と三節棍の内残った二つを分解して呟くように言うローブ。この闘いの勝者はローブで敗者のサクラの命はローブの一存に委ねられている。少し前のサクラであればまたローブはサクラに船に乗るように勧めただろうがもうそんなことはしない。何故ならばサクラは船長である自分と同格、いやそれ以上の実力者だ。そしてそんな人間を船に乗せれば確実に内乱の元となるからだ。
「せぇめて一ぉ息で仕留めてぇやる」
とふらつく足取りながらローブは自分が"一千万超え"であるという意地、見栄、プライドで着実にサクラに近付いてゆく。そしてローブがサクラの真ん前にたどり着いたとき、
「だりゃぁぁああ!!」
乱入者の棍がローブの顎に直撃した。
サクラの一撃によって砕かれた顎にさらに一撃をもらったローブは再び仰向きに倒れ二度と立ち上がることは無かった。
そして薄れゆく意識の中サクラが見たのは、
「サ…ボ……じゃん」
自分が店に置いていったもう一人の兄弟がローブを鎖で縛り上げている光景だった。