「今日はエースの奴遅いじゃん」
ハァと溜め息をつきながらサクラは言う。それにサボも同調して、
「今日はエースがいないし、各自で仕事してこよう」
と提案する。
「そうしようじゃん。じゃあ昼時に一旦戻ってくるじゃん」
と言ってサクラは木の上の隠れ家から飛び降りて着地するとそのままごみ山の方に走っていった。
「よし、じゃあおれも一仕事してくっか!」
と自分を鼓舞してサボもサクラと同じように飛び降りて同じ方向に走っていった。もはやサクラを含めて、三人とも既に身体能力が人外の領域に足を踏み入れてることに誰も気がついていない。
「あのチンピラ共…結構持ってそうじゃん」
とサクラは隠れ家から反対側の地点にある木の上からターゲット、金の持ってそうな悪人に目星を付ける。
「じゃん」
そしてその木からジャンプして三回転して着地。チンピラたち十人の進路を塞いで仁王立ちを決める。
「ゴクッゴクッ…ぷハァッ!じゃんお前ら、その金置いてけじゃん」
とサクラは空にした酒瓶を放り投げ、人差し指で一人が大事そうに抱えている袋を指差して言う。
「おいおい、ガキがいきがってんじゃねえぞ?」
とサクラの悪名を知らなかったチンピラ九人は金を持った一人を守る為にサクラを囲みそれぞれの武器、ナイフや棍棒を構える。
それを見たサクラは新しく開けた少し小さな蒸留酒を一気に飲み干して拳を構える。
子供が飲酒等言語道断なのだが一気飲みは大人でも危険だ。絶対にしてはいけない行為である。
「お前らをちまちま相手してたら折角の酔いが醒めちまうじゃん。早く掛かってくるじゃん」
と頭を数回回してチンピラ達をさらに挑発する。
「オラアァ!」
「くたばれぇ!」
挑発に乗って両脇から二人の男がサクラに迫る。それに対してサクラはナイフを持った男を反転してかわし、その背中に中段蹴りを入れる。
「オワァッ!?」
男は背中を折られたが、そのまま慣性に従って前進し、
「グアッ!」
前の味方を突き刺した。
一撃二殺。それが今回サクラが酔いを楽しむために考案した時間短縮法だ。
「おいこのガキメチャクチャつええぞ!」
「ガキこんなに強いなんて…もしかしてこいつ"三悪童"なんじゃ!?」
「じゃんそうじゃん。俺は"三悪童"のサクラじゃん」
とやっとサクラの正体に気が付いたチンピラに自己紹介をし、
「これは挨拶じゃん」
チンピラ二人を蹴り飛ばした。
「おれ達じゃ無理だ!一旦逃げよう!」
「馬鹿何言ってやがる!殺されるぞ!」
「この前ヘマしたウチのヤツが船長に頭の皮引き剥がされたのを忘れたのか!?」
「そうだ!うちらのブルージャム船長は残忍なんだ!」
とサクラの強さの諦めかけたチンピラ改めブルージャムの一味はサクラと船長のどちらが危険かを天秤にかけサクラの方が安全と判断する。それも当然のことだろう。何せ目の前で仲間を惨殺したことのある船長と、噂では何人も殺し"かけた"だけの凄腕の少年。どちらの方が命の危険が大きいかと言えば当然船長の方が危険だ。
「ハイハイ、掛かってくるじゃん」
と頬をピンク色に上気させて、手のひらをクイッ、クイッと誘うように動かす。
「オルァ!」
「ダアァ!」
「トオウッ!」
と今度は三人の男がサクラに襲い掛かる。しかし当然サクラには対策が、チンピラの料理レシピが完成している。
今度は一歩下がってから木の棍棒の男の攻撃をかわし、その男の一撃が味方の脳天をかち割るように仕向ける。それから棍棒の男の横に回り込んで側筋に正拳突きを入れてまたも後方の男とまとめてぶっ飛ばす。
呆気に取られている残る二人は頭にアイアンクローを決めながら地面に後頭部を叩きつけて沈めた。
「よーし、完璧…じゃないじゃん!」
確かに用心棒九人はちゃんと倒したが、肝心の金を持った男に逃げられてしまっていた。彼を逃がしてしまったら何のために今まで闘ってきたのか分からなくなる。
「何処じゃん、俺達の金!」
少なくともサクラの金ではない。いやポルシェーミの金でもなく、正しくは金を恫喝された一般人のものだ。サクラ達三人の"悪人から金を取るのはセーフ"理論でもやはり泣く人はいる。悪人から物を盗りそしてコテンパンに打ち倒したとしてもやはり盗みは盗み、許されることではないのだ。
それに気がついていないサクラはあくまで自分の金を探す。そして、
「見つけたじゃん」
偶然見つける。ここごみ山では人間のクズのような人間が多数居るため似た人間が多く、サクラの"見聞色の覇気"ではまだ悪人の居場所の特定は難しいのだ。
チンピラは仲間を見捨てて金の入った袋を大事に抱えてもう五百メートルほど離れたところを走っている。
「逃がさないじゃん」
とサクラは怒りを顔面に全面に押し出して両手の手のひら一杯に十五ほどの石を拾い、覇気を込めてチンピラに向かって投げる。そしてベックマンから貰ったライフルを半身で片手で持って構え、新しい酒瓶を傾けて流し目で見ながら風等の要素から弾の軌道を計算する。そして引き金を引いた。ベックマンが脅しのつもりで言ったのかそれともサクラの身体能力がベックマンの想像以上だったのか反動はあまり無く、打ち出された弾はぶれずにサクラの投げた石に当たった。しかし石には覇気が込められていて弾には込められていない。
だからキンと石が弾をはじく。そして方向転換した弾はまた違う石に当たり、とキン石が弾をはじく。
そして石がはじく、はじく、はじく。
またはじかれた石が違う石に当たり、石が石をはじく、はじく、はじく。
計算しつくされた四つの石の弾道はチンピラの両足の付け根と両肘を貫通する。これがサクラの得意技の『トリックショット』だ。
倒れ伏して抵抗の出来ない男から、たとえ彼の後ろには彼が死ぬほど恐れている男がいるとしても、金を剥ぎ取るのは簡単だ。そのへんから刃こぼれしまくって物を切れそうにないのではないかと思うようなナイフを拾い、切れないナイフがいかに安全かを優しく授業をしてあげればいいだけだ。授業の途中に『一気には決められない』、『実際は潰し千切る』、『骨とか何度も何度も叩いて折る』等少々不穏なワードが飛び出てしまっているのはご愛嬌だろう。
最後にはチンピラが青い顔をしていたのでサクラが親切そうな顔で『顔色悪いじゃん。少しオペしてくかじゃん?』と聞いたら直ぐにチンピラはサクラ先生に授業料を渡した。
「……あれ?サボ達がいないじゃん」
サクラが隠れ家に戻ってきた時に隠れ家には誰もいなかった。
「しかも貯金が減ってるじゃん」
と隠れ家内の隠し場所を見ると、今まで貯めてきた莫大な海賊貯金が半分くらい無くなっていた。
「何かあったかじゃん?」
しかし隠れ家には争った形跡は全くない。もしサクラが不在の時に誰かが強盗に入ったとすると必ずエースかサボがキッチリ撃退することになっている。しかしたとえ強盗に入られてもサクラの割りと自信作な隠し戸は見つけられないだろうを
だがこの部屋に整っていて決して強盗に入られたようには見えない。これから、
「二人が場所を換えたかじゃん?」
とサクラは推測する。
「……こっちじゃん」
とサクラは二人が何処に貯金を隠したのかを勘で決めつけてその方向へ走り出す。サクラの"見聞色の覇気"はまだ未熟で二人がどこにいるのかを正確に感じ取ることはできない。だがそこはやはりサクラは腐っても覇気使いだ。サクラの『エースとサボがこの方角にいるような気がする』程度の直感がよく当たる。
「やっぱりここにいたじゃん」
そして今までの隠れ家から一時間ほど歩く距離にある、森の巨木の根元に穴を開けてせっせと自分の持てる限り持ってきた宝を詰めている。
「だれだ!?……ってさくらか…」
サクラの呟きにいち早く反応したエースは直ぐに振り向いて持ち前の鉄棍を構えるも呟きの主が判ると直ぐにその警戒を解いた。
「じゃんエース、どうして隠し場所を変えてんじゃん?」
と一応原作知識により知ってはいるのだがエースに聞いておく。そもそもここまで大それたことをすれば原作知識が無くても隠し場所がバレた、またはそれに準ずる何かが起こったと考えるのが普通だろう。
「ああそれが…」
とエースが話すのをサクラは黙って聞いていた。
「終わったじゃん!」
「気がつきゃもう昼飯の時間じゃねェか」
サクラのとっておき便利能力のお陰で本来は夕方までかかるような仕事も昼頃に終わってしまった。
「ハァハァ…サクラ!!エース!!」
とここでサボが慌ててかけてくる。
「―サボ!どうだった?あいつらもう"向こう"に金探しに来てたか!?」
とエースがここには来ないと分かっているから余裕の表情でサボに聞く。
「ハァ…ハァ………いや来てねェ!!探しになんか来るわけねェんだ!!…あのルフィって奴……!!……!!!ハァ…!!」
とここで一回息をついてサボが声の限り叫ぶ。
「まだ口を割ってねェんだよ!!!」
その意外なサボの返事に、
「……え!?」
エースは困惑し、
「ピュー、凄いじゃん」
とサクラは詠嘆の声を洩らした。サクラは原作のような拷問に遭っても傷一つ負わない。だから吐かない自信はある。しかしルフィは違う。ルフィの食べた"ゴムゴムの実"の能力ではサクラの"ボロボロの実の能力"と違って刺さるし切れる。ダメージを食らうのだ。もし覇気使いに拷問にかけられたら直ぐに吐く自信がサクラにはある。
「おい、おれはルフィを助けに行くぞ」
サボは唐突に言う。ルフィはサボたちの為に宝の在りかを言わなかったのだ。だったら今度はサボがルフィの為に助けに行くのが筋だろう。
「おれも行く……」
次に言うのはエース。エースはルフィを谷に突き落とした、ジャングルに放置した。なのにどうしてまだルフィはエースを裏切らないのか。それを知らなくてはいけない、と葛藤する自分の心に無理矢理理由をつける。
「お前らが行くなら俺も当然行くじゃん」
と最後に言ったのはサクラだ。やはりこうなったかと笑い、そして兄弟が人情を大切にする男で良かったと内心喜びながら何時ものように軽快に話す。