サクラはその日の朝からおかしいと感じていた。動物達が、植物が、そして風すらも気配を消しているかのように静かな朝だったからだ。まるで嵐の前の静けさとでも言うように。まるで何かから怯えるように。
「はいこれで俺の百五十勝目じゃん」
いくら朝に違和感を感じたからといって試合をさぼるわけにはいかないからサクラは嫌々ではあるものの弟たちの相手をする。
そして今日の分の試合が消化された時、奴がやって来た。
「ぶわっはっはっ、元気にしとったか、エース!ルフィ!」
「げっ、じいちゃん!?」「げっ、じじい!?」
やって来たのはモンキー・D・ルフィの祖父モンキー・D・ガープであった。
「ルフィ!じいちゃんに会って『げっ』とは何事じゃあ!!」
日頃の行いを省みれば直ぐに分かる事なのだがガープはそんなこと省みる事なく先ずエースとルフィを殴った。
「エースとルフィに何しやがったぁぁあ!!」
そしてそれを見たサボが激怒。ガープに相棒の棍で仕掛ける。
「うわぁ」
サクラは乗り気ではない。ガープも悪気は無いし、手加減もできてる。そして何よりサクラは"拳骨"のガープに殴られたくない。
「「おりゃああぁぁああ!!」」
そしてこれで五年ほどの付き合いとなるエースとサボのコンビネーションも、
「甘いわァ!」
海軍本部中将の前では稚児の遊戯に等しい。だが、そんな稚児の遊戯の目的はガープを倒すことじゃない。
「「行ッけェ!サクラァ!」」
サクラの為の隙を作ることだ。そんなことされたらいくら乗り気ではないサクラでも、
「『手鞠桜』ァ!」
やるしかないではないか。
「……!中々やるのぉ」
「……化け物かじゃん…」
手応えはあったし、ちゃんと殴った感触はあった。勿論覇気を纏わせているその拳の一撃は、海賊船を大破させ、大の大人の海賊を纏めて蹴散らす程だったはずだ。 勿論蹴散らすといっても拳の一撃だ。それなのに、それなのにこの"英雄"ときたら、
「覇気も何も使ってないのかじゃん…!?」
正確には覇気も『鉄塊』も使わずに素の肉体でサクラの一撃を何事も無かったかのように受け止めたのだ。正直サクラは自信喪失中だ。
「こんな子供が覇気を使えるとはのぉ!!しかも能力者か!!」
ガープの目が獲物を捕らえようとする肉食動物のようにギラリと光る。
「(殴られるじゃん!正面から顔面に!しかも速すぎてかわせないじゃん!)」
だからサクラは対覇気使い用のとっておきを使う。
本来覇気とは対能力者用の技術であり、一応誰でも習得可能で、これを使えば相手の能力に関係無く能力者に攻撃ができる。しかしそれは海楼石とは違って能力を封じるものではない。故に稀有ではあるが中には対能力者用の技術を能力でかわす者もいる。サクラがそれだ。
「『散り』」
ガープの拳が当たる直前にサクラは自分の顔面をボロボロに壊す。そうすることでガープの拳は空を切る。流石のガープもボロボロをボロボロにはできない。
更にこれにはまだ利点がある。相手は攻撃を空振って体勢を崩し、サクラは相手にまとわりついている自分の粉の何処にでも自分の望む体勢で移動できるのだ。
「もらったじゃん!!」
出現先はガープの真後ろで、狙うは後頭部。下手すれば相手を殺しかねない急所だがサクラはそこまで考えずにガープに最高威力の攻撃、回し後ろ蹴りを喰らわす。というか子供の攻撃で死ぬほど海軍本部中将は甘くない。イープは例外だ。
ドゴォン!ど轟音が響き、ガープは顔面から地面にめり込む。でも、ガープにはまだ足りない。いまだガープは"六式"の一つも、そして覇気も使っていない。
「(回し後ろ蹴り!?)」
もう見聞色の覇気で聞いてちゃ間に合わない。そう感じるや否やガープの右足が飛んできて、
「(ギリギリ間に合っガァ!?)」
身体を壊したサクラにダメージを与えた。
「中々やるが、その程度の技をワシ相手に二度試すとは片腹痛いわい」
『聖闘士に二度同じ手は通じない』。ガープは聖闘士ではないがこの世界ではそれクラスの"英雄"。そして東の海の辺境では無敵の井の中の蛙と最近になって自分の遥か上の世界をこの身で体験し更に向上した世界トップクラスの戦士。まず場数が違う。
ガープのやったことは簡単なことだ。というよりガープの頭では簡単なことしか思い付かない。ガープはサクラを殴ったのではなく、空気を殴って、その時発生した衝撃波がサクラの破片にダメージを与え、その時発生した突風がサクラの破片にダメージを与えた。
「ペッ……いいじゃん…」
「ん?」
「やってやろうじゃん!!ゴルァ!!!」
吹き飛ばされた身体を集めると口に溜まった血を吐き出してサクラは叫んだ。
「エース!サボ!ルフィ!お前らは逃げるじゃん!」
「おれは逃げねェ」
「ちげーじゃん、エース。ガープから逃げろっていってんじゃねーじゃん。俺は俺から逃げろっていってんじゃん!」
「逃げるぞ、エース!サクラはあれをやる気だ」
「はぁ?あれってなんだよ!?」
「逃げれば分かる!早くしろ!巻き込まれる!!」
エースたちが逃げた後にらサクラが懐から取り出したのは中にたっぷりと自分の壊れた髪の入った試験管。それをガープに向かって投げて撃つ。パリンとわれたそれの中から広がるサクラの髪の毛の粉。
「枯レ木ニ花ヲ咲カセマショウ『桜満開』」
そしてそこに擦ったマッチを投げ入れる。
可燃性粉はその密度が高くなれば高くなるほど引火しやすくなり、高密度の粉は最早可燃ガスに等しい。故に小麦粉工場ではそいうった大爆発が起こりやすいのだ。
「やれるッ!やれるじゃないか!!」
「誰をやれると言うた…?」
「なっ!!?」
先の大爆発は一瞬で辺りを飲み込み、空にキノコ雲を形成するほどだった。しかも自分の髪の毛に覇気を込めていたから威力も見た目以上のはずだ。はずなのにいまだガープは健在。服は焼け焦げ、肌には火傷の跡が少し見えるがそれだけだ。流石は覇気を使って防御しただけの事はある。まだまだガープは十二分に戦える。
「『剃』」
「(速すぎじゃん!?)」
身体を壊して攻撃を流そうとする暇もないガープの一撃。殴られた後に身体が壊れるが遅い。
「無闇に身体をバラしても的を増やすだけじゃあ!」
しかもそれは強者相手には下策だ
「本当にそうかじゃん?」
と思われた。サクラにだって身体を壊したまま相手を攻撃する手段は持ち合わせている。
「酔ヒ倒レル程飲メ花見酒『桜吹雪』!」
「『鉄塊』!」
しかしその壊しバラした自分の欠片を敵を貫くように集めるという手段もガープの『鉄塊』に阻まれる。ならば『鉄塊』をかけ続けられない程長時間攻撃をし続ければいい。
「望ムハ幾千モノ桜並木『御花見宴』!」
改良を加えられた『御花見宴』は最早サクラの拳と蹴りの『手鞠桜』と『蹴鞠桜』とは既に一線を画す威力になっている。これならば流石のガープも『鉄塊』をかけざるをえない。あるいは、
「やるのお…鉄塊『剛』!!」
最強の『鉄塊』を引き出すことすら可能だ。
「じゃんじゃんじゃんじゃんじゃんじゃん」
「ウォォォォォオオオオ!!!」
叫ぶサクラに獣のようなうなり声で対抗するガープ。その勝者は、
「鉄塊拳法『剛拳』!!」
"拳骨"のガープであった。疲労で注意力が散漫になり拳の切れが緩んだ隙に強力な拳を叩き込んだ。
「ガァ…これが、これからお前にぶちこむ一撃が俺の全力全壊じゃん」
吹き飛ばされて満身創痍、早く倒れてしまいたい、サクラはそこまでボロボロなのにまだ立ち上がる。全ては弟たちの為、自分の夢の為、自分の力を付ける為、そして自分の力を自分自身に証明するため。サクラの行く道は常に海軍が立ちはだかる茨の道だ。そんな道を突き進むには力が要る。そしてサクラはここ数年の努力を証明して自分は夢に一歩一歩近づいているんだと自分自身に言い聞かせたい。だからサクラは勝つ。自分の為に今は負けていい戦いじゃない。
「来いッ!鉄塊『剛』」
「闇夜ヲ照ラシ闇ヲモ壊セ『六尺玉』!」
腕を組んで構えるガープに愛銃"花火"を向けるサクラ。サクラの覇気で銃身が真っ黒に染まってしまったそれには散弾が装填されている。一撃で張れる弾幕。そしてその覇気で強化された弾幕は衝撃波をばらまき、その弾幕の広さはまさに花火の六尺玉そのものだ。当然威力もバカならない。余りの威力から銃の負担が大きく、一日一発が限度のそれは素手の格闘家が銃を最強の必殺技とするのに相応しい威力であり、ガープを吹き飛ばすだけでは止まることはなく、木を、地面を、川を、湖を、岩を、森を、山すらも打ち砕いて数kmも進む。
「「「……!!?」」」
義兄の恐ろしいを遥かに越す凶悪な一撃にエースを始めとする三人も開いた口が塞がらない。
「はあ…はあはあ……これで決まってなきゃあれはマジもんの化け物、俺じゃ勝てねえじゃん」
ガチャリと右手に持つ花火を落としてサクラはやりきったという達成感と疲労感でフワフワとした意識の中で呟いたが、それはフラグだ。
「ぶわっはっはっ!!今のは中々効いたわい!海軍中将でも受けれる奴はそうはおらん!!!」
この数kmを僅か二分弱で走り切ったガープはそのままサクラの胸ぐらを掴み、
「ではワシの全力!『愛に燃える拳』も受けてみい!!」
「(死んだじゃん)」
燃え盛る右腕でサクラの鳩尾を殴り、サクラを吹き飛ばした。
ほのおのパンチ威力75こうかはばつぐんだ!
サクラの能力は斬撃、打撃を無効にはするが完全無欠ではく弱点は幾つかある。例えば先程露呈した衝撃波と風だ。この二つにサクラは大ダメージを受けた。しかしそれ以上の弱点がサクラにはある。それは火だ。サクラの能力はボロボロに自分を壊すというよりも、自分の身体を粉末にするという性格の方が強い。故に燃えやすく、逆にその弱点を利用したのが大爆発の『桜満開』である。
サクラはガープの事を拳と覇気が取り柄のじじいとしか考えていなかったが、それ故原作では無かったガープの必殺技を知らなかったサクラは運が悪かったと言える。もしガープがサクラと同じく火が弱点の能力者でガープよりも強いイープがここに来ていなければ、また話は変わっていたかもしれない。本当にサクラは運が悪かった。
ザブーン
「(あの糞爺今度絶対泣かすじゃん)」
「ピューピュー」
しかし運良く川に落ちたサクラは体の火が消え、しかし今度は溺死の危険の真っ只中にいたサクラは弟たち達に、自分を助けようとして自分も沈んだルフィと共に、救出されて復讐を堅く決意したのだった。