伝説の転生者の物語   作:ゆっぴー

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お久しぶりです。

これからは毎週日曜投稿していきます。大体10話強です。


第四十七話 秘境で敗者は懺悔の修業を

「うーん、悪くはないねー」

 

イープは毛むくじゃらで狂暴な猿を容易に仕留めて漏らす。容易に仕留めたといってもこの猿はただの野生の猿ではない。少なくとも海軍本部中将が二人がかりで行かなくては到底相手にならないレベルの強さだ。そしてそんな猛獣を意図も簡単に、そして一撃で仕留めてしまったイープがこの五年間でどれほど強くなったかが分かる。

 

イープは五年前、レイリーと別れてから一人で航海をしてここ新世界にあるムー島に来ていた。目的は勿論修行だ。何故ここなのか、何故イープはレイリーに教えを乞わなかったのか、それはイープの目的は修行であり努力することだからだ。レイリーに頼めばイープの稽古をつけてくれるだろう。それは当然辛いもので止めたくもなるかもしれない。だがその程度だ。いくら辛いと言えど、いくら生傷の絶えないものと言えど生命の安全が保証されているそれはイープにとっては努力とは言わない。ただ頑張っているだけだ。努力とはもっと辛くてもっと凄惨でもっと残虐でただ愚直に体を苛めて虐めてイジメ抜くことだ。身体の調子が悪いとか熱があるとか、怪我が治っていないとか、腕が折れたままだとか、血を吐いた血尿が出たとか全く関係無く体をただただ壊し尽くすことだ。その死に急ぐ行為の果てに自分の成長があると信じて。

 

故にイープにとってこのムー島、別名"毒蟲の呪いの島"は修行にうってつけだった。

 

この島はまず気候からシビアだ。一日に春夏秋冬の四季が巡り、一日の最高気温は50℃最低気温は-50℃まで下がる。普通にここの時点で辛い。しかしそれだけではない。この島はとてつもなく酸素が薄い。それは下手すれば空島よりも薄いかもしれない。この理由は後述とする。そしてさらに何らかの災害が一日に少なくとも朝昼晩の三回以上は起こることだ。しかもただの災害じゃない。新世界でも他の島ならば間違いなくその地域の歴史に名を残すような大災害だ。

 

最後に言うと、ここは全ての生物が強い。動物だけではない、植物すらも中には海軍本部大将を凌駕する力を秘めたものがいるほどだ。ゆえに植物は光合成よりも呼吸の方が盛んに行われ、必然的に酸素濃度が下がり、二酸化炭素濃度が上がる。動植物全ての生物は雑食で互いに喰らい合い、その血肉を自らの糧にする。そんな狂暴な生き物が集まった島がここムー島である。

 

次はイープがこの五年間何をしたのかを紹介しよう。

 

イープはまず自分が何故敗北したかを考えた。答えは簡単だった。能力に依存しすぎたことだ。一丁前に能力はおまけだとのたまわっておきながらピンチになると直ぐに『泥の巨兵』に頼る。相手が強敵になるほどそれが顕著に現れていた。しかしイープは考えた、『本当にそれだけか?』と。答えはまた直ぐに出た。

 

"イープは自分の剣技に頼りすぎだった"

 

イープの切り札は言うまでもなく"帝"の剣技だ。それに頼ることがはたして悪いのだろうか?イープの考えはこうだ。

 

自分の武器は"帝"だと散々うそぶいていながらも、弱い"デザート"を味わうときには"六式"ばかり使っていた。別にそれを悪というつもりはない。ただ中途半端と言うことだ。つまりイープは"帝"という武器を持ちながら"六式"という武器に浮気し、その上"六式"は本命でないからと適当な扱い。そんな浮気相手の事にうつつを抜かしながらいざとなったら本命に泣きつく。これではただの甲斐性の無いダメ男である。マダオだ。

 

だからイープは思った。全て本命にすべきなんだと。"帝"も"六式"も"ドロドロの実"すらも本命として、そのどれか一つとっても自分が世界最強を名乗れるように極めるべきなんだと。その三つの内敵との相性で戦う事が出きるように成れば無駄な消耗は減るだろうし、その恩恵はイープ自身を更なる次元に引き上げるだろうとイープは確信する。

 

「さーて、やっぱりー山頂に行けば行くほど敵が強くなるねー。この上に何かー居るのかなー?」

 

先程のを囮にイープに襲い掛かる十匹の猿を一撃で引き裂いたイープはまだ先の見えない山を登り続ける。

 

この五年間でイープの口調にも変化があった。この無駄に間延びされた口調がそうだ。こんな口調になった理由は簡単だ。五年間起床就寝時問わず休むことの出来なかったイープ。ゆえに口調だけでもせめて休みたいと思った結果がこのだらけきった口調なのである。案外海兵時代の上司の影響もあるのかもしれない。

 

 

 

「君がこのダンジョンのーラスボスだねー?」

 

山頂まで来たイープを迎えたのは一匹の黒猫だった。なんの変てつもない黒猫。外に出れば簡単に見つかりそうなほどどこにでもいるような風貌、雰囲気をしている。イープもこの猫がムー島の山頂という名の玉座に居座っていて、そしてこの島から帰ってきた唯一の男の手記を見ていなければこの黒猫がこの島の王だとは気付かなかっただろう。

 

『私たち新地探索隊は、いや海軍本部少佐の自分と大将の二人はこの島に残された最後の未確認地帯の山頂にてこの島の王のただの黒猫に出会った』

 

これを記した男が海軍史上最強と言われる大将になるのはまた別の話。

 

その手記によると、島にきて来る前とは比較できない程強くなった大将が一方的に、ろくに歯が立たずに殺されたとのことだ。

 

イープの目標はこの名も無き黒猫だ。こいつよりも強くなれば、こいつよりも強くなっていたならば、自分は『自分勝手な正義』を貫けるだろう。この世界を『自分勝手な正義』の元に改革出来るだろうと信じている。

 

「やあー、始めましてだねー。僕の名前はスコウェルド・イープだよー……ちょっと死合わないかなー?」

 

この猫は知能が高く、イープの言っていることがわかっている。わかっているから、応えた。

 

「…………鉄塊『牛車』」

 

ブワァといきなり尻尾を八本に増やしたかと思うと体当たりを喰らわす。『剃』を足四本でやれば速度は二倍、しかもイープの不意を完全についたその一撃は一瞬でイープを粉砕した。

 

「いやー、すごいねー」

 

そしてその瞬間に再生した。イープはこの"ドロドロの実"の欠点である。遅効性をとっくに克服している。いや、寧ろこれを克服せずして能力を極めたなんて言えるはずがない。

 

「ところでー、君ー誰かなー?」

 

再生したイープが振り返るとそこにいたのは黒い猫耳を付けてついでに尻尾アクセサリーという一昔前のグッズを着けた黒髪のホスト風の男だった。いや、イープはちゃんと彼が誰なのか分かっている。

 

「君ー、人型にも成れるんだねー」

 

「…………」

 

「まー、いいんだけどねー」

 

答えない黒猫にイープは笑って返すと右人差し指を彼に向ける。

 

別にイープは今からボルサリーノの真似事をするつもりはない。というか、あれは真似しようと思ってできるものじゃない。

 

イープがしたいのはいわゆる力比べだ。強いて言うなら『指銃ごっこ』と言うものだろう。別名ETごっこ。

 

イープの意図を汲み取った黒猫は彼に近付いていき、互いの射程に入ったところで、

 

「『指銃』」

 

「…………『指銃』」

 

殺すための武器を放った。

 

結果はイープの勝ちだった。

 

「いやー、すごいねー。さっきからそれしか言ってない気もするけどー、それ抜きでもやっぱり大将クラスはあるよねー、これ」

 

大将を超すとは言わない。流石にこんな手抜き状態のイープに吹き飛ばされるような奴は大将より強いわけがない。加えて言うならこの黒猫だってまだまだ全力とは言いがたい。

 

「…………」

 

直ぐに立ち上がる黒猫。そして構える右人差し指。

 

「ふーん、尻尾が増えたら強くなるのかなー?」

 

九尾猫又の挑発にイープは乗った。

 

そしてまた勝利した。これも当然のながれ。本気じゃない黒猫がイープに勝てるわけがない。イープは知っているこの黒猫があと一回の変身を残していることを。だからこの程度で苦戦するわけにはいかないのだ。

 

黒猫はパワータイプだ。それは彼自身が一番分かっている。スピード、技術を置き去りにしてただひたすらに突き抜けたパワー、それが黒猫のストロングポイントだ。故にこの力比べは負けられない。この力比べの敗北はすなわちこの戦いの敗北を表すからだ。

 

「…………」

 

故に黒猫は何度も立ち上がる。この力比べに勝てるまで。今度は本気だ。九本の尻尾と一対二本の大きな黒に映える純白の羽根。昔来た海軍大将を一方的に叩きのめした黒猫最強の姿。

 

「へー、尻尾一本増えたときもーかなり強くなってたけどー、羽根が二本も増えちゃったらーどうなるのかなー?」

 

黒猫の挑発にイープは海軍大将を潰したその力を見せろと言わんばかりに堂々と挑発に乗った。

 

「ガァ!?」

 

そして吹き飛ばされた。その吹き飛ばされる速さはイープが飛ばされているということに気が付かず、景色が勝手に遠ざかっていると一瞬勘違いしてしまったほどだ。

 

「いやー、すごいねー。でもー、力じゃなくて技で来られるとどうかなー?『嵐脚』」

 

イープがどれだけ六式を熟練させようとも、どれだけ能力を極めようとも、イープはどこまでいっても剣士。やはりお気に入りは"帝"に他ならないし、故に"斬る"という行為に特化するのも必然の流れ。故にこの『嵐脚』は"六式"の他の全てとは一線を画す。

 

その『嵐脚』を黒猫は

 

「鉄塊『白』」

 

その羽根に身を包んで防いだ。ところで『剃』と『指銃』に『鉄塊』は紛れもなく世界政府の専売技術だ。なのに何故黒猫がここまで使いこなせるのか。それは過去に来た海軍大将が六式使いだったからの一点に尽きる。六式を使いこなす好敵手。彼はもう居ないが、彼の技術は黒猫には目新しいものだった。瞬足の『剃』も天翔る『月歩』も切り裂く『嵐脚』も鉄壁の『鉄塊』も不可触の『紙絵』も、そして最高の一撃『指銃』も当時まだただの九尾猫又だった彼を苦戦させるに十分な奇術だった。故に盗んだ。幸い黒猫は身体能力には恵まれている。後は好敵手を思い浮かべコツを掴むだけだった。

 

「鉄塊『牛車』」

 

黒猫はだから知っていた。『嵐脚』を使った直後は片足立ちとなるので少し動きが鈍ることを。故の突撃。故の特攻。故の突貫。

 

それをイープは、

 

「『紙粘土』」

 

能力を使って回避した。

 

黒猫は驚いた。『紙粘土』があまりに自分の使う『紙絵』に酷似し、あまりにかけ離れていたのだから。何だその妖術は、と心の中だけでそのモヤモヤを処理する。黒猫は目の前の男がパワーで自分に負けた時点で、もう自分には勝てないと確信していた。だからその感情を心の中にしまうことができた。しかしそれが間違いだったことを知るのはこの直後。

 

「『第三の右腕』」

 

 




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