伝説の転生者の物語   作:ゆっぴー

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第四十八話 孤島で王は巨大な渇望を

「『紙粘土』」

 

黒猫の『牛車』をかわした『紙粘土』。それはイープが考えついたいわば能力を使った『紙絵』であった。実態の無い自然系ドロドロの実だからこそできる攻撃の回避手段。それは自分の身体に穴を開けることだった。自分が最強と勘違いした寿命の短い自然系の能力者は攻撃をかわす、なんてことはしない。何故なら自分の実態の無い身体には攻撃が当たらないからだ。覇気を使いこなすイープならなおさら攻撃は当たらないだろう。

 

だがそれじゃあ弱い、慢心だ、驕りだ、停滞だ、退化だ。そんなことではいざ自分に攻撃できる相手にあったら即降参になってしまう。そんなことでいいはずがない。

 

だからイープは能力を使った受動的な回避なんか何処かに捨て置き、能力を使った能動的な回避をする方法を考えた。

 

その結果が身体に穴を開けることだった。

 

実体がないということは、自身を自由に変化させられるということだ。それを生かさない方法なんてあり得ないだろう。

 

そしてイープがやったことは能力の新しい分野の開発だけではない。既存の技の欠点改善も勿論やっている。

 

「『第三の右腕』」

 

『第三の右腕』がそのもっともな例だろう。右手を巨大化させることで機動性、小回りを犠牲に圧倒的なパワーを手に入れる『巨兵の右腕』。その欠点は巨大化した右腕が邪魔であることだ。故にこの技では馬鹿みたいなパワータイプしか相手にすることができなかった。しかしこの『第三の右腕』は違う。右腕が邪魔ならばと右肩からその巨腕を生やすことにしたのだ。こうすれば走るときに邪魔にならず、『巨兵の右腕』の欠点も克服できたと言える。勿論展開速度も実戦で使えるほど早くなっている、しかも『泥侵食』を使わずにだ。

 

五年前は前身の『巨兵の右腕』を使って大将と互角だった。では、五年間の試行錯誤と厳しい修行で洗練された『第三の右腕』ならどうなるか。

 

「さー、行ってみよー!!」

 

その答えは"島が割れる"であった。

 

イープの巨腕と黒猫の右腕が衝突したとき、まず大気が震え上がった。そして次に空を引き裂いた。それでも二人は踏ん張る、飛ばされないように。意地と意地を張り合って、この状態を維持する。止まろうとする足、動かそうとする右腕。その衝突に作用反作用の働きで島が離れ離れになったのだ。

 

イープは思う。流石はこの悪名高き魔境の王だと。現に単純な力比べでは僅かに黒猫の方が上回っている。

 

だがそれだけだ。この力が彼の底だ、全力だ、限界だ。故にイープは確信する、『勝った』と。ゼファーは言った、『何時もいってるだろォが速さは力より大事な要因だが速さだけじゃどうにもなら無いやつもいる』と。かつてのイープであればそのような敵をそれ以上の力で圧倒することしか考えなかっただろう。だがそれでは芸がない。何よりスピードタイプのイープがパワーを極めた者をそれを上回るパワーで圧倒しようなど傲慢にも程がある。

 

だったらどうすべきか。スピードがダメ、パワーもダメならば、

 

「それじゃー、僕のテクニックで君を圧倒しよー」

 

技巧しか残っていないだろう。

 

両手の十指を黒猫に向け、

 

「泥銃『射斉』」

 

指先から十発の弾丸を発射した。

 

イープの能力の出力はイープの体術を遥かに凌駕する。例えこんな小手先のちっぽけな弾丸ですらそれに秘められたエネルギーを考慮するともはや必殺、奥義に形容されても何ら不思議はない。

 

その小さな爆弾の威力を感じ取った黒猫も最強の防御を使わざるをえない。

 

「……鉄塊『覇剛』」

 

熟達した覇気でもう無色であることはなかったと言わんばかりの黒は、武装色の覇気の"硬化"でなる示威行為半分な形で付いた黒色とは全く違うものだった。気配、オーラが違うのだ。例えるなら無駄に装飾して自分を格好良く見せようとする若者と、ただそこにいるだけで周りが魅力的だと感じてしまうようなダンディーな初老の男だろうか。その二つは心構えが違う。似非強者と本物の強者、先ず器の違いが明白である。

 

そんなことを一瞬で感じさせるような見事な覇気による防御。いや、黒猫には覇気で防いだという自覚はない。黒猫からするとただ全力で防ごうと思ったら覇気が出てしまったというところだ。しかし何にせよこれが黒猫最強の『鉄塊』であることには変わり無い。そしてイープの目的はこれだった。

 

「さー、最強の『鉄塊』を出しちゃったらー、もう動けないよねー『第三の右腕』ー!」

 

黒猫は機動力を完全に無視したパワータイプだ。故に素早い動きができず、攻撃を耐えて倍返し狙うのが黒猫の戦闘スタイルとなる。だから黒猫は全力を出した後の硬直が他に比べると長い。それでも持ち前の耐久力で生半可な攻撃はダメージにすらならないのだが、イープの『第三の右腕』は無理だ。自分の全力に匹敵する一撃を無防備に受けて無事でいられるわけがない。

 

「はいどーん」

 

そうして黒猫は海に沈んだ。

 

悪魔の実の能力者はその力と引き換えにカナヅチとなった。つまり海に落とされた能力者は例外なく死ぬ。いや、能力者だけじゃない。体力を使いきった陸生の生き物は基本的に沈むしかない。それは数百年という悠久の時を過ごしてきたこの黒猫も例外ではない。いや、例外ではなかった。

 

黒猫が思い出すのは自分がまだただの黒猫で、この島も比較的穏やかな生物で満ちていた頃だ。今では想像もつかないかもしれないが、当時の黒猫は食物連鎖の最底辺にいた。ただ食われるだけの存在、ただ狩られるだけの存在だった。仲間は数を減らし、死に絶え自分一人になり、そして自分も重傷を負い今と同じく"死"を強く意識したとき、黒猫に変化が起こった。

 

『死にたくない』たったそれだけの感情、だが遺伝子に組み込まれた生存本能とはかけ離れた強い願いは黒猫を化け物にした。

 

今と同じように。

 

その時はただ尻尾が二本になった。その時も新たな力は黒猫に桁違いの力を与え、その場を切り抜けることができた。そして今回は一対の二枚の羽根が三対六枚に増えた。

 

十数年前に九尾の自分を追い詰めた六式使い。しかし彼は一対羽根九尾猫又となった化け物には手も足も出なかった。だが今回は溢れる力がその比じゃない。黒猫は確信した。自分が"化け物"というカテゴリーからその上のナニカ、強いて言うなら"神"と呼ばれる領域に片足を踏み入れたのだと。

 

もう黒猫は負ける気がしなかった。海底に足を着けた黒猫は思った。『もう海底か、世界は小さいな』と。

 

その上空。イープは黒猫を叩き落とした海をじっと見つめていた。それは別に感傷に浸っていた訳じゃない。ただ待っていたのだ、自分が落とした黒猫が、自分が呼び起こしてしまった獅子が這い上がって来るのを。そしてその期待は直ぐに応えられた。

 

「いやー、すごいねー、ほんとーに。言葉にすることが憚られるほど君ー、キテるよー」

 

ドンッと水飛沫が上がったかと思うと、六本の自在に動く立派な純白の羽根と九本の漆黒の尻尾を持つ男が現れた。

 

そして世界は荒れる。

 

割れた二つの島が突然持ち上がり、海底で鳴りを潜めていた十匹の100m超級の海王類もフワリと浮いてまるで作家が失敗した原稿を扱うかのようにまるった。

 

下手人は勿論この黒猫。イープはこれを見たことがある。それはもう六年位も前に見たものだ。自分をここに連れてきた"神"と呼ばれる女性の『神通力』と呼ばれるものに間違いなかった。

 

「本当に素晴らしいの一言に尽きますね。それ以上の言葉は蛇足でしょう」

 

今イープの中にあるのは敬意。イープは自分自身を強者と知り、決め付け、そして世界最強を傲慢にも騙っている。そんな自分を殺しうる存在の黒猫、そんな彼にイープは尊敬の念を禁じえなかった。この島に来てイープは変わった。イープはこの島に来て自分が世界最強であることを確信し、世界には自分を殺しうる存在が数多に居ることを実感した。だからイープは自分自身を殺しうる体格種族武器得物戦法人数関係なく全ての存在を尊敬し、潰し、自分を高めてきた。

 

そんな尊敬する彼にイープは最後の武器"帝"を抜く。この五年間の成果は、"六式"はギリギリ赤点回避、"能力"は及第点、あと残るは"帝"だけだ。

 

「では…行きますよ」

 

そう言うが否や直進。空に浮かぶガラクタには興味ない。だって幾ら斬った所で意味が無いのだ、ならば大怪我覚悟で本体、黒猫に向かった方がよっぽど建設的だろう。それにイープだってただ斬られることを手こ招いている訳じゃない。

 

「『斬流し』」

 

イープがこの五年間で伸ばした"柔の剣"。どんな固いものでもその怪力で叩き斬るのが"剛の剣"ならば"柔の剣"はその逆だ。どんな固いものにも存在する綻び、つまり"物の呼吸"を読みきり斬る、それが"柔の剣"。それを極めれば敢えて斬らずに反らすということも可能だ。

 

イープの『斬流し』はまさに"柔の剣"の極みとも言える。来る攻撃の呼吸を読みきり、攻撃が当たる直前に素早くそれを"帝"で受け流す。あまりの速度で振られた"帝"はまともに目視なんてできず、速すぎて一見イープが銀の着流しを着ているように錯覚してしまう程だ。

 

「良いですね。"柔の剣"は八十点です…では"剛の剣"はどうでしょう」

 

そう言って黒猫に斬りかかる。受けてちゃ勝てない、黒猫は今までの戦いぶりから強気で挑まないと、こちらから捩じ伏せるような気概を見せなくてはどうにもなら無いとわかっていた。

 

「ふむ…互角ですか」

 

イープの心情は『意外』。イープは黒猫の身体スペックならば自分の"剛の剣"を押し返せると踏んでいた。そう予測した上での次の手も考えてあった。しかし結果は鍔迫り合い。黒猫の拳とイープの"帝"は押しつ押されつの関係を保っていた。

 

その原因は黒猫が自分の力に、身体に自分の技術がついていっていないのだ。故に砲撃となるはずの拳が爆弾となってしまっている。力が全然前に行っておらず、ぶれている。それでも二対羽根九尾の時よりも随分と厄介な相手にはなっているのだが。

 

だが黒猫の方が力が上だろうと、互角だろうと次やることは変わらない。

 

「砲撃は一発だけですけれど機関銃は弾が一杯有りますよ」

 

一撃が駄目なら直ぐにまた一撃を加える。イープの剣術はテレフォンパンチと違って一発じゃ終わらない。相手を斬り殺すまで繰り出し続ける。

 

二撃目…決まる。三撃目も決まる。四五六撃目も決まる。七八九十も決まる。もうサンドバックだ。百回毎秒の斬撃を五秒、計五百回斬られ、原型を保っていない黒猫が、

 

「非常識(その常識は通用しねえ)」

 

イープを殴った。突っ込みどころ満載だが六枚羽の彼には常識が通用しないのだ、仕方がない。

 

「全く……刻まれても死ななくて、その上非能力者ですか…チートも甚だしいですね」

 

しかし殴られたイープも大概だ。殴られた衝撃で服は破れ、左半身の紫の火傷痕を筆頭に全身くまなくある古傷の数々がさらけ出される。その中で最も新しい物は胸と胸の間、その中心にデカデカとある、先程の黒猫の一撃でできたほとんど黒色に近い青アザだ。

 

そんな見てるのも痛々しい内出血をしながらも、現におびただしい量の血を吐きながらもイープは一瞬で黒猫の上を取った。やはり空中戦は上と後ろを取った者が有利なのだ。

 

黒猫は悟った。目の前の男イープが自分より格上であると、そしてこのまま持久戦に持ち込むのはじり貧であると。

 

故にくまなくはここで勝負を決めにゆく。未だ慣れぬ身体、理解できぬ能力を駆使してできる最強の一撃を目の前の男にぶつける。

 

「『白虎世界』」

 

繰り出すは鬼火。ただしあまりに巨大であまりの熱量を誇るそれは最早鬼火ではなく、白い太陽といった方がしっくりくる。

 

「おお、戦局判断も流石、その上その一撃とは…本当にどうなっているのですか」

 

黒猫のそれは自分が勝てないと確信した者の一撃とは思えない程重々しく、神々しかった。

 

「……未知数(異物の混じった空間。ここはテメェの知る場所じゃねえんだよ)」

 

そしてそれからのその一言。お前本当に誰だよ。

 

「ですが、火を扱う相手は昔倒したことがあります。それにシミュレーションも何度もしてきました」

 

そう言ってイープは右手で左肩を叩く。この痛みは決して忘れない。だから、

 

「それでは私は倒せません」

 

イープにとって弱点は既に弱点じゃなかった。

 

「『落火世』」

 

一撃には一撃を。対炎に何度も試行錯誤されたそれは意図も簡単に火の玉を斬り、散らし、黒猫をも真っ二つにした。彼も彼で直ぐにくっついたが、既に格付けは終了していた。

 

「……服従(負けました)」

 

人型と言えどやはり動物、服従の際は腹を見せるらしい。




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