伝説の転生者の物語   作:ゆっぴー

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第四十九話 新世界で功労者は繋がりの出会いを

「良し!」

 

黒猫が降服したところでイープは"帝"を納める。格付けが終了し、黒猫自信には恨みがないイープにとって黒猫は必ず殺さなければいけない相手ではないのだ。

 

「…………追従(貴方に着いていきます)」

 

語彙はあるのに文章を作れないので、とてもつたない日本語になってしまっている黒猫だが言いたいことを漢字二文字で的確に表しているためなんとかイープに伝わったようだ。

 

「ふーん、僕と来たいんだー。別にいーけどねー。でも君の名前はー?」

 

戦闘モードが解けてダラシナイ日本語に戻ってしまったイープ、彼は堅い日本語が好きじゃないのだ。

 

「……無名(吾輩は猫である。名前はまだない)」

 

彼の言いたいことは一応は伝わっているだろう。

 

「じゃー僕がー、名前を付けようかー……猫又とかどうかなー?」

 

「…………普通(そのままじゃないですか)」

 

「じゃー、徳川家康とかー?」

 

「…………異常(仰々し過ぎます)」

 

「えー、じゃー、奇をてらってポチとかどうかなー?」

 

「…………猫(もうちょっと猫っぽいやつで)」

 

「むー、わがままだねー」

 

「…………謝意(……すみません)」

 

イープが適当なだけだ。黒猫は悪くない。

 

「えー、じゃー、黒猫だしー、ヤマトにしようかー?」

 

これまた適当なものを選んだイープ。黒猫は一体何を運ぶと言うのだ。

 

「…………自己決定(これ以上の物は望めそうにないですし、そうしましょう)」

 

「…………誠意」

 

名前が決まった黒猫、ヤマトがイープのその胸に触れ、その瞬間にイープのこの戦いの傷が一瞬にして治った。

 

「わぁーおー、すごいねー」

 

「…………得意分野(伊達に妖怪やってるわけじゃないんで。死んでなけりゃどんな怪我も病気も一瞬で治せます)」

 

流石にその四文字では意図は伝わらないだろうがヤマトは一応応える。

 

 

 

「さぁーてー、もうこの島には用は無いしー、とりあえずレイリーにでも会いに行こうかなー」

 

「…………御意(御心のままに)」

 

イープとヤマトが今立っているのは島だった土塊の上、そんなところにいたって意味はない。

 

「じゃー足がないしー、造ろうかなー泥船をー」

 

「…………却下(駄目です、それはフラグです。絶対に沈みます。我々は狸ではありませんが沈みます)」

 

「ぶーぶー、さっきから『却下』、『却下』ってさー、じゃー君もー意見を出しなよー」

 

「…………闊歩(『月歩』を使いましょう。我々の脚力ならば近くの島まではずっと走っていられるはずです)」

 

「おー、なるほどー!じゃあそれでいこうかー、題してー『ピクニック大作戦ー』」

 

この作戦の大きな失敗に気がつくのは直ぐ後の事だった。

 

 

 

イープとヤマトが空中歩行を始めて数時間。問題は直ぐに分かった。それは自分等が何処を向いてるのか、何処に向かっているのかが全く分かっていないことだった。いや、それだけならまだましだ、とりあえず真っ直ぐ往けば良いのだから。しかし最大の問題は何処に向かえばいいのかすら分からないということだった。これでは流石に手も足も出ない。

 

「困ったねー」

 

というイープの口ぶりはしかし、軽い。ハイキングを始めてまだ数時間しか経っていないのだ。せめて困るのは数ヵ月歩いて何もなかった時だ、と無尽蔵の体力の持ち主イープとヤマトは思う。

 

しかしそれも二日で終わる。

 

「あー、船だねー」

 

それはお世辞にも立派な船とは言えない、海軍の軍艦を前にすれば吹けば飛ぶようなちっぽけな船だが、それでも十数人は乗れそうな船であった。

 

「スラマッパギー、誰かいないかなー?」

 

日本語とは不思議なものだ。誰か居ることが分かっているのに、その人を訪ねる時には『誰かいないか?』と聞かなくてはならないのだから。

 

「あー、そんなに叫ばなくてもいるタイ…ってスコウェルド・イープ!?」

 

二日酔いなのだろう、頭を押さえながら出てきた、浅黒く横広でえらばった俗に言う"ヒラメ顔"の男は、訪問客の顔を見て驚く。

 

「あれれー、僕はーそんなに有名かなー?」

 

イープは少なくとも世界政府に抹殺されるような闇に浸かった表の人間には知られないような人間だったはずだ。そんなイープを知っているのは、

 

「わっしゃ元CP9のチェン・タイトリー、タ

イ」

 

「あー、CP9かー、だったら僕のこと知っててもー、可笑しくないねー」

 

クイッと片目を吊り上げるイープ。言外に『詳しく話せや、ゴルァ』というわけだ。いくら"元"とはいえ、政府組織の一員だったのだ、さらにその男の実力が大将とタイマンが張れるほどとなれば、イープは負けないにしろ警戒は必要だろう。

 

「ああ、わっしにゃおん主と争う気ゃ無いタイ」

 

それから始まった男の話はこうだ。

 

 

 

タイトリーがCP9史上最強と言われていた頃、とある一人の女に恋をした。一目惚れだった。しかし彼女は自分の暗殺対象であり、見逃すことはできない。だから彼は彼女と逃げた。女も彼に一目惚れだったらしい。

 

それから二人の生活は 幸せで、不幸せだった。彼は元CP職員、暗殺失敗で逃亡だなんて許される筈がない。故に二人は追っ手から逃れ、世界を転々とする日々が続いた。それでも二人がいれば幸せだった。

 

しかしその生活は突然終わりを告げた。タイトリーが負けた訳ではない。彼は追って来た海軍本部中将の部隊も一人で潰したことがある程だ、そんな彼が負ける筈がない。では何故か?男が何時ものように追っ手相手に出張っている時に女が誘拐されたのだ。下手人はその辺りでは名前を聞く海賊だった。

 

タイトリーが女のビブルカードを追ってシャボンディー諸島に着いたときには既に天竜人に妻を買い取られた後だった。

 

その後の味気ない数年を過ごした後にタイトリーに"聖都襲撃"の一報が入った。タイトリーは昔のツテ、人脈を駆使してできるだけ情報を集めた。そしてたどり着いた真実と当時の"アトランティス号"の位置情報。

 

前回は自分の命惜しさに動けなかった。しかし今回はこの命に賭けて妻を守ると誓った。

 

結局タイトリーは感動の再会を果たすも女は弱りきっており、直ぐに別れることとなった。

 

これがこの男の話だ。

 

 

 

「ってなわけで、わっしゃおん主にゃ感謝しとるタイ」

 

例え再会が一瞬であろうとも、自分と彼女を救ってくれたイープへの恩は忘れない。

 

「どういたしましてー、まー、正義の味方としては当然だけどねー」

 

「ところで、おん主ゃ今までどうしとったんタイ?」

 

裏社会でもイープは"楽園"で死んだと持ちきりだったのに、そんな人間が生きていて、しかも"新世界"にいるなんて誰も思ってもみなかつただろう。

 

 

 

「なるほど、状況はわかったタイ!わっしに任せんタイ!」

 

この男、航海術に天気予想と船のコーティングとこの海に航海士として必要なことは全て身に付けているらしい。流石は元世界政府直属暗殺機関職員。漢字が長いな。メタい。

 

 

 

それから近くの島に停泊して三日、タイトリーが船のコーティングを完成させていよいよ魚人島へと向かうこととなった。

 

「んでー、そのゴム手袋は何かなー?」

 

海に潜り始めた頃にタイトリーが手術で使われるような真っ白のゴム手袋を右手にはめる。

 

「んあ?ああ、わっしゃ"能力者"でタイ。海水に触れたら力が出んタイ」

 

「でもー、右手だけにはめても意味無いんじゃないかなー?」

 

「いんや、それがわっしの食うた悪魔の実、"ジャラジャラの実"にかかりゃそんでも無いタイ」

 

バチンとゴムを一度伸ばして気合いを込めて覇気を纏わせる。一瞬で真っ黒に変色したそれはゴムの弾力を持ちながらも鋼鉄の強度を誇るナニかである。

 

「ジャララ…指銃『連鎖』!」

 

そして人差し指だけ伸びたかと思うとそのまま船を襲おうとする海王類や巨大魚類を片っ端から貫いてゆく。ゴム手袋はタイトリーの指が海水に触れるのをちゃんと防ぎ、なおかつ覇気で強化されたそれは破ける事もない。

 

この深海においてタイトリーの船を脅かす脅威は何一つ無かった。

 

 

 

そしてやって来た数多の死線を潜り抜けてきた猛者たちが集まり、そしてその連中が飼い犬の如く大人しくさせる最強"白ひげ"が治める海底の島、魚人島。

 

今、この土地は国がとても盛り上がっていた。"表向きは"だが国民が一致して自分達、魚人と人魚の地位向上に沸いているのだ。その先導者はこの国の王妃のオトヒメ王妃だ。

 

「すみませーん!署名にサインしてくださーい!!」

 

「いや無理タイ、オトヒメ王妃」

 

「どうしてですか!?想像してみてください!今まで私達が憧れてきた太陽!今それを私達が手に取れる大きな機会なのです!私達が、未来の子供たちが、人間と共に歩むという私達にとっても素晴らしい事がもう少しでもできるのですよ!?」

 

「でも、わっしゃこんななりでも人間タイ」

 

「……えっ」

 

「……えっ」

 

「……えっ」

 

「…………銀鱗躍動(勢いは凄いが焦りすぎじゃないか?)」

 

いくらヒラメ顔だと言えど、そのままヒラメの魚人と勘違いされるだなんて、どんだけなんだよ、タイトリー。

 

因みにヤマトが銀鱗躍動という四字熟語の鱗が人魚の鱗と縁語的な表現だ、上手いこと言った、とドヤ顔を決めたのは全くの別の話。その時猫形態だったから誰もドヤ顔に気がつかなかったのも完全な余談だ。

 

「あっ、えっと……ごめんなさい…」

 

誰が謝ったのかは言うまでもないだろう。

 

「……ふーん、君が"あの"オトヒメ王妃だねー。うんうん、タイガーとは全然似てないのにほんの少しだけ面影があるねー」

 

勿論見た目の話ではない。あのいかつい魚人と魚人島一の美人が似ててたまるか。イープが言っているのは目、それも目の奥に宿した意志の光だ。

 

武力による恐怖で自分達を認めさせようとしたタイガーと、徹底した歩みよりで自分達を認めさせようとするオトヒメ王妃。その手段は真逆なれど、向かう先は魚人と人魚の明るい未来。

 

武力を行使するタイガーだってイープは嫌いじゃなかった、むしろ応援していた。だがだからといってイープはオトヒメ王妃のやり方を嫌う訳じゃない、否定する訳じゃない。イープだって正義の味方、魚人と人魚の未来を応援している。

 

だから口出しをする。

 

「だから忠告はしておくよー、オトヒメ王妃ー。急な大改革が成功しないのはー、歴史が物語っているよー。だからもっと国民と対話してー、徐々に信頼を勝ち得てから進むべきだと思うなー。いーいー?"全ての魚人"と話し合うんだよー」

 

「…………そう…ですね…」

 

良薬口に苦し。至言ほど耳に痛いものだ。オトヒメだって分かっている、魚人街のチンピラ達が人間に対して悪い感情しか持っていないことくらい、そして人間との歩み寄りを叫ぶ自分が面白くない事くらい。

 

しかし分かっていてもどうにもなら無いことだってあるとオトヒメは言いたい。今更どうやって彼等に人間との歩み寄りを説けば良いのか分かるはずもない。

 

だがイープは手伝いはしない。あくまで応援しかする気がない。なんてそんな"自分勝手な正義"を掲げるのがスコウェルド・イープなのだから。




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