伝説の転生者の物語   作:ゆっぴー

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第五十話 魚人島で正義は自分勝手な手助けを

イープ一行はオトヒメに忠告した後に直ぐに別れた。イープも時間は惜しい、暇人ではあるが早く行動するに越したことはない。

 

「…………中途半端(未来を知っているのに良いのですか?)」

 

ヤマトはイープの存在を、そのルーツを知っている。だから聞く、正義が善人を、一般人を見捨てて良いのかと。

 

「えー、一応忠告はしたしー、それで死んだら死んだかなー。だってー、ここまで言ったんだからさー、忠告無視する方が悪くないー?」

 

「…………御意(御心のままに)」

 

"自分勝手な正義"の持ち主であるイープは目の前に困った人がいれば助ける、目の前に困りそうな人がいても助ける。だがそのやり方はイープのその時の気分一つで大きく変わる。イープはそんな男だ。今回は敢えて手を出して助けるほどじゃなかった、それだけのことだ。

 

 

 

一行はオトヒメと別れてから中心街へと向かった。別に三人とも追い剥ぎに負けることはないが、それでもやはりいるなら治安の良い所の方が良い。それに街の中心に観光地や土産屋、百貨店が揃っているのだ。三人の足が自然とそこへ向かうのも無理はない。

 

ここで少し本筋から離れたら話をしよう。この『伝説の転生者の物語』の原作『ONE PIECE』の主人公は勿論モンキー・D・ルフィだ。しかしこの話はその二次創作、『伝説の転生者の物語』である。そしてその主人公はスコウェルド・イープだ。

 

つまり何が言いたいのかというと、物語は当然スコウェルド・イープの周りで起こるし、原作の事件もスコウェルド・イープがことごとく絡むこととなる。

 

だから、

 

「かっ、火事だー!」

 

「ギョンコルド広場で火事があったー!」

 

「そんな!?署名はどうなる!!?」

 

イープが偶然この魚人島に来たときにオトヒメ王妃暗殺事件が起こることはある意味必至であった。因みにこの物語の準主人公は勿論サクラである。

 

「うえーい、ヤマトー、どうやら僕の"自分勝手な正義"の名において手を出さなきゃ駄目みたいだー」

 

「…………激励(頑張ってください)」

 

イープはため息をついて広場中心で燃える炎の中に、もっと詳しく言うと、炎の中で必死に署名を守るオトヒメ王妃の元へ駆けて行った。

 

"泥"の弱点属性である筈の火なんて怖くない。少なくともそこら辺の覇気使いの放つ炎ですら、弱点(笑)とイープはあしらえる。

 

「スラマッパギー、さっきぶりー」

 

「貴方は先程の方!手伝いに来てくれたのですか!?」

 

「まーねーでもー、手伝うのは署名を守ることじゃなくてー、君の暗殺を阻止することだけどねー」

 

「…っ!やはり、知っておいでなのですね、この島の、国の闇を」

 

「タイガーとかーその他魚人達を見てればー、一目瞭然だねー。あいつらに共存の"き"の字も無い事くらいー」

 

それだけ言うとイープはオトヒメとは視線を外し、丘の上を指差して、

 

「三、二、一…来たねー!」

 

バン!と銃声が鳴った瞬間に丘の上を指差す指を弾く。

 

弾いたのは勿論オトヒメ王妃を狙う凶弾。"丘の下"からオトヒメ王妃を狙うホーディーの銃弾を人差し指で弾いて、"丘の上"にいるスケープゴート、名前を知る価値もない三流の犯罪者に命中させる。

 

ただしただでは済まさない。なぜならこのままホーディーを吊し上げるつもりは無いが、このままホーディーに手柄を与えるのも癪だろう。

 

だから吹き飛ばした、下手人の五体を。イープの指に弾かれた弾丸の速度、それの持つエネルギーは、鉄の筒と火薬を用いた道具から出されたそれより遥かに速く、遥かに大きかった。つまりトリックは簡単、人体に超高速の超高エネルギーの物体を叩き付けた。それだけのことだ。

 

流石に五体をぶっ飛ばした死骸を掲げて『オトヒメ王妃暗殺未遂犯はこいつだ!』なんて声高に叫ぶことは無いだろう。せめて内々にその事を上司に報告するだけだ。もしホーディーが勝鬨を挙げたならば流石に民衆からやり過ぎ、と批難の嵐が吹き荒れるだろう。

 

「「「母上!!」」」

 

母が大事にしている署名の束が燃えていると聞いてじっとしている母親大好きな三王子ではない。むしろ国民に積極的に指示を出して事態の鎮圧を図っていた。本当は自分達は母親の元へと向かい炎の中から引っ張り出したかったのだが、母の事を想うとそれはできなかった。しかし銃声を聞いてからはそんな考えは吹っ飛ぶ。どうして母親の危機で他の事をしていられようか。賢い三人は誰しも最悪の事を考えていて、

 

「まぁ、フカボシ!リュウボシ!マンボシ!来てくれて早々悪いのですが、この国民皆さんの署名を竜宮城へ避難させてください!!」

 

「はっ、はぁ…」

 

元気で逞しく、逞しすぎる母を見て裏切られた驚き半面、嬉しさ半面で固まってしまった。

 

 

それからはあれよあれよと三人ともお礼にと竜宮城へと連れていかれそのままネプチューンの計らいでイープ達は国賓級の扱いでもてなされていた。助けた者が亀でなく金魚でも竜宮城へと行けるらしい。

 

とりあえずイープは玉手箱だけは開けないと誓う。中に入っているのは年を取る煙ではなく、エネルギー・ステロイドという劇薬なのだが。

 

「スコウェルド・イープ、お前さんのお陰でワシの妻、オトヒメ王妃は助かったんじゃもん。礼を言うんじゃもん」

 

「気にしなくて良いんじゃもん。全部ホーディーがやったことだしねー」

 

この国最強で国王のネプチューンの礼を流すイープにオトヒメ王妃の顔はしかめっ面である。

 

この事件が"全てホーディーがやったこと"と知っているのはイープら三人とオトヒメ王妃の娘のペットのメガロと娘のしらほし、そして被害者のオトヒメ王妃である。意外と真相を知る者は多いが問題はそこではない。真相を知る者は全て今回の事を見逃す事にしたのだ。

 

オトヒメ王妃はこの事件は自分の責任であるとし、この事件を反省して国民と向かい合う為に黙っている事にし、他の面子は当事者のオトヒメ王妃が良いならば別に良いかと事実を黙認することにした。イープら三人はともかく、しらほし姫は無意識の内に母と同じく会得していた"見聞色の覇気"で母の真意を見抜いていた。流石は古代兵器"ポセイドン"、将来有望だ。

 

ネプチューンのお礼から始まった宴は、この島でしか味わえないような絶品の料理に始まり、皆を満足させるような音楽と、絶世の美女たちによる踊りととても絢爛豪華なものだった。ただしイープは色気より食い気、後者二つには全く目もくれず、舌鼓をずっとうっていたが、本人はそれで満足しているのだ、問題は無いだろう。

 

しかしこの宴に納得のいかないものが一名いた。

 

「ふざけるなっ!こんな茶番!!」

 

"表向きの"この事件の解決者にしてこの事件の黒幕なホーディーだ。

 

「犯人を潰したのは俺だぞ!それにこの人間だって『全部ホーディーがやった』と現に言っている!なのにどうしてこんな虫ケラをまつりあげる必要がある!!」

 

ホーディーは納得がいかない。どうしてこんな下等生物に頭を下げなくてはならないのか、しかもその原因が自分等魚人の面汚しを助けたからである。自分達からすると、それはなぶり殺しの理由になるにしろ、決して感謝する理由にはならない。

 

「まー、全部やったにしろー、ホーディーはやり過ぎだったと思うよー?」

 

下手人の五体をぶっ飛ばしたという功績がホーディーにあるにしろ、オトヒメ王妃暗殺の企てを実行したにしろ、どのみちホーディーは"やり過ぎ"であった。表向きの功績を帳消ししてしまう程に。

 

「そうじゃ、ホーディー、お前は下がっておれ」

 

このめでたい席の興を冷めさせるわけにはいかないと、この島での兄貴分、つい最近王下七武海入りした"海侠"ジンベエがホーディーをたしなめる。

 

「そーだよー、やり過ぎたんだから少し頭を冷やさないとねー。下手人の五体をぶっ飛ばしたとか"その他諸々"を知られるとホーディーだって困るよねー?」

 

その他諸々、便利な言葉である。他の人が聞けば大したことの無い事に聞こえるが、当事者同士にはその五文字が何を意味するのか、どれだけ重要な意味があるのかがはっきりと分かるのだから。

 

「てめェ…!」

 

イープの忠告を挑発と捉えたホーディーがイープに槍を突き出す。残念、税金は2.5%には下がらないがイープは槍を向けられて『はいそうですか』としていられるタイプじゃない。むしろ積極的に喧嘩を買うタイプだ。

 

「『紙絵』」

 

槍をひらりとかわすと、イープは右手をホーディーの腹部に添え、右足に気を込めて踏み込み、その踏み込みでせり上がる気を操り、右手まで移動させそのまま右手を介してホーディーの内部に打ち出す。

 

「『発勁』!」

 

「「!!?」」

 

イープの『発勁』に驚いたのはジンベエとネプチューンの二人のみ。驚いた理由は、

 

「「(何故人間が"魚人空手"を……!?)」」

 

体の水分を微量に操り、その水分だけを殴るという特別な衝撃を発する『発勁』が、本来魚人と人魚しか使えない筈の"魚人空手"だったからだ。いや、しかし考えてみればふしぎなことではない。"魚人空手"が門外不出なのはそれが身体的に魚人らにしか使えないからではない。魚人らが人間に教えないからだ。つまりイープは独学で魚人空手にたどり着いたという訳だった。

 

ホーディーはイープに吹き飛ばされてそのまま退場である。

 

「お見事じゃもん」

 

ハチパチと手を叩く国王に倣って兵士も歓声を上げる。ホーディーは魚人島の兵士の中でも過激派であり、疎まれていた。実力がある分誰も立ち向かえなかったのだが、そこをイープが一泡吹かせたのだ、興は冷めるどころか、より盛り上がった。

 

「ところでお前、先程の『発勁』というやつ、あれは何処で覚えたんじゃ?」

 

ホーディーを吹き飛ばしてしばらくした頃、ジンベエとネプチューンがこの宴の主役、イープに尋ねた。

 

「うーん?あれー?あれは独学だよー。こー、足に貯めた力をバーンってー、右手から打ち出すー、的なー?でもー、どうしてそんなこと聞くのー?」

 

「ああ、独学であそこまでか…おお、勝手に盛り上がってすまんかった。イープ、お前の『発勁』は紛れもなく"魚人空手"の派生技じゃ」

 

「なー、ナンダッテー!?」

 

あれほど合理的な"魚人空手"の使い手とは思えない程稚拙な説明に驚くジンベエ、そして自分がいつの間にか"魚人空手"使いになってた事に驚くイープ。

 

「うむ、あれほど見事な水の支配はジンベエ以来で久々に見たんじゃもん」

 

「ワシの"魚人空手"も国王に褒められるほどではない」

 

「謙遜することはないんじゃもん、ジンベエ。"王下七武海"の一角のおぬしを褒めんで誰を褒めるんじゃもん」

 

「……え?ジンベエが"王下七武海"……?」

 

イープは二人の会話からの不穏なワードに思わず立ち上がる。"ジンベエ"と"王下七武海"この二つから思い出されることは、

 

「あーーーーーー!!」

 

アーロンのベルメール殺害である。イープはなんとしてもこれを止めたい。何故ならば、イープはこの事件が何時、何処で、誰の手によって起こるのかを知っているからだ。分かっていてそして止められる不幸は止めたい、そう考えるのは"自分勝手な正義"を掲げるイープとしては当然だった。

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