伝説の転生者の物語   作:ゆっぴー

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俺の誕生日やないかーい


第五十二話 スリラーバークで従者は思慕の無双を

「『魔女狩りの王』イノケンティウス!」

 

イープの叫び声とともに放たれた指銃『火撥』はイープお得意の覇気によって強化されより燃え上がり、それを完全に御するイープの手腕によって炎が大きくて赤黒い魔神を型どる。

 

その余りの熱量に大気は歪み、周りに圧倒的熱風を撒き散らす。

 

イープが城に小一時間かけて四千三百枚のルーン文字の書かれた紙を貼り付けた甲斐があったというものだ。ただしこのルーン文字に今回は意味は無い。完全にネタである。ネタのためなら小一時間も無駄な労力を発揮できるイープは暇人であろう。

 

そんな苦労もあってかモリアのスリラーバークの帆よりも巨大な魔神はそのまま城を跡形もなく焼き尽くそうと倒れかかる。

 

「なっ、何なんだよ!あの化け物は!!」

 

しかしそれをただ見てるだけの幹部ではない。四怪人ではない。王下七武海、ゲッコー・モリアの部下であるとはいえ、いやモリアの部下であるからこそ修羅場は人並み以上に体験している。不可視のバズーカを乱れ打ちしながらアブロサムは叫ぶもイノケンティウスには効果はない。穴が開いたそばから再生している。

 

『ゴォォォォオオオ!!!!』

 

開いた穴から流れる突風が轟音を鳴らす、まるでイノケンティウスが悶えているかのように。

 

「私の『魔女狩りの王』は射たれると、くるいもだえるのだ、よろこびでな!!」

 

教皇=ローマ法皇とはいえここでさらに違うネタをぶちこんでくるとは、流石イープである。

 

ハイパーイノケンティウスデッキ(デッキレシピ…ルーンカード四千三百枚)の切り札ハイパーイノケンティウスはアブロサムのバズーカなんかでは止まらない。イノケンティウスがモリアの城を焼き尽くそうとしたとき。

 

「……ぁー、鬱だぁー」

 

炎の魔神は突然とろ火程度に成り下がった。イープのやる気が突然失われたのだ。こんなことをするのはただ一人、

 

「ホロホロホロホロ!ずいぶん調子乗ってんじゃねえーか、不法侵入者!」

 

アブロサムと同じく四怪人の一人、ホロホロの実を食べたゴースト人間のペローナしかいない。

 

ペローナのゴーストは触れた人間を鬱にする。それはあの年中頭の中に花畑が咲いているルフィも例外ではない位だ。そしてそれはイープの例外ではなかった。

 

ある意味では。

 

「ぁー、鬱だぁー、駄目だぁー、そうだぁー、皆殺して僕も死のぉー」

 

間延びして、その上口元でボソボソと言う仕草はなんとも不気味だ。さらにその状態でモリアの城を帝で真っ二つに両断しているならなおさらだ。

 

ペローナのゴーストはプラスの人間にしか効かない。だから年中ネガティブ思考なウソップには効果が無かった。では年中マイナス思考のイープにゴーストを当ててやるとどうなるのか。

 

それは本質が出る、というものだった。デフォ設定で誰かを切り刻みたい、と思考するイープならではの反応だった。

 

「なっ、なんでお前は絶望しないんだ!!アタシのゴーストにやられて立っていられる奴なんて今まで居なかったのに!?」

 

「ぁー、鬱になって気付いたんだぁー。僕はぁー、どうしようもない快楽殺人者だってぇー。でぇー、絶望して気付いたんだぁー。こんな駄目な僕はぁー、もっと駄目になってもしょうがないってぇー」

 

とんでもないマイナス思考、ありえないネガティブ思考、本来正義を背負うイープにしてはありえない思考。そこまでやらせる悪魔の実の能力はやはり絶大だ。ただ今回はそれが悪い方に転んでしまった、途方もなく。

 

「…………危険(これはヤバイ…主に世界が)」

 

イープの本質がは皆殺しだ。それは一度手合わせしたヤマトなら分かる。だが、本質と本懐は違う。イープの本懐は"正義"、本質と真逆である。故に今本懐より本質が出ているイープをヤマトは止めなくてはならない。理性を無視して撒き散らされる、本懐とは真逆の本質は後に本人を傷付けるだけなのだから。

 

イープがゾンビを狩りにまた森の方へかけて行くなか、ヤマトはこの場所に留まる。なんとしてでもイープを止めるために。策ならある。鬱にした張本人がそこに入るのだ、彼女に聞かない手はない。

 

「…………修復(さっさと主を元に戻せ殺すぞ、主が)」

 

「猫が喋った!?可愛いじゃねえーか!よし決めた!お前はこれからアタシのペットだ!」

 

「……交渉決裂(ナメてやがるな。よほど愉快な死体になりてえと見える)」

 

ここでさらにネタをぶちこんでくるとは、流石イープのペットだ。ペットは飼い主に似るとは良く言ったものである。

 

バサァと広がる三対六枚の純白な羽と八本増えて九本となった尻尾、そして人形となり、戦闘準備は十分である。

 

「なっ、オマエ悪魔の実の能力者だったのかよ!!だったら仕方ねぇ!オマエも鬱にしてやる!!」

 

「…………笑止(たかがその程度の幽霊で俺をどうこうしようと言うのか?馬鹿が)」

 

ヤマトは自身に襲い掛かる幽霊三匹を気にも止めない。何故ならば格が違うからだ。大した魂からなるわけでもない低級な霊と、あやかしとしてずば抜けて神の領域に片足をを踏み込ませた大妖怪。どちらの格が上かなんて語るまでもない。

 

低級なそれはヤマトに降れるや否や、自壊して消滅する。肉体を持たない低級なそれにはヤマトの神威は毒過ぎた。

 

「なっ!?」

 

「…………修復(さっさと主を元に戻せや、ゴルァ)」

 

「さっきから何言ってやがんだオマエ!!」

 

ヤマトの再三の呼び掛けも残念かな、漢字二文字じゃ通じない。ヤマトとしても仕方がない、言葉で通じないなら言語を変えるしかない、肉体言語に。

 

「…………最終手段(言って駄目なら殴るまで)」

 

羽の内の一本を伸ばしてそれでペローナを乱暴に薙ぎ飛ばす。随分と便利な羽だがヤマトはこれを九つの尻尾でもできる。つまりヤマトには手足尻尾と羽の計十九の武器が有るのだ。

 

「ガァ…!」

 

飛ばされたペローナを追いかけようとしたヤマトが、

 

ドンドンドン!

 

バズーカを三発ぶちこまれる。

 

「…………浅知恵(透明な身体と、そのチンケな玩具二つで俺に勝てるとか、あれか?俺はナメられてんのか?)」

 

だがヤマトには効かない。超甲裝愚鈍重量級パワーアタッカーヤマトの戦闘スタイルは"百の攻撃をくらいながらも、至高の一撃で相手を潰す"である。そんなヤマトが覇気も使えないような男の一撃では倒れない。加えて言うなら例えどんな攻撃をくらい、どんな致命傷を負おうともヤマトは再生し続ける。ヤマトが先日イープに試してもらったところ、軽く百万回連続で致命傷を負い続けても再生した。

 

ポケモンで例えるならばハピナスのHPにラムパルドの攻撃とシャンデラの特攻、そしてツボツボの防御と特防を兼ね備え、そして特性はさいせいりょくといったかんじだ。ミューツー涙目。

 

「…………『覇拳』」

 

透明になったところで見聞色の覇気を使いこなすヤマトにとっては頭隠して尻隠さずと大差無い。直ぐにアブロサムをうねる九本の尻尾て捕まえ、そして放たれるヤマトの至高の拳。人に向かって水平に放たれたはずなのにその衝撃の余波でスリラーバークの三分の一が消し飛ぶという悪夢がそこにあった。

 

スリラーが悪夢を見るのは笑えない。

 

 

 

所変わって森の中目指せ皆殺しと言わんばかりのハイペースでゾンビを斬り、浄化していくイープ。いくら覇気が使えるとはいえ、普通はゾンビを斬り殺すことなんてできない。では何故イープにはそれが可能なのか。

 

「ぁー、生き物発見ー。殺さなきゃぁー」

 

「うわぁー!!コッチ来やがった!?」

 

ゾンビを見つけるや直ぐに『剃』で近づき、

 

「『鎌鼬』」

 

バラバラに斬り消す。そう、斬り"消す"のだ。

 

先程イープは試した。まず頭を斬る、まだ生きてる。さらに両腕を斬る、まだ生きてる。さらに両足を斬る、まだ生きてる。さらに胴体を斬る、まだ生きてる。さらに両肘を斬る、まだ生きてる。さらに両膝を斬る、まだ生きてる。さらに頭を斬る、まだ生きてる。さらに心臓を斬る、まだ生きてる…さらに、さらに、さらに……

 

結局ゾンビを五百分割し、もう既に人としての形を大きく逸脱し、人間の影が入れないようにすればゾンビを殺せることがわかったのだ。

 

ゾンビに似た不死身の吸血鬼の上位個体、柱の人も一立方センチメートルに切り刻めば殺せるのだゾンビも刻めば殺せるという理論が通じないはずがない。

 

柱の人を刻んだドイツの技術力は世界一ィー!

 

そんな強引な力押しで三桁に上るゾンビを駆逐したイープの忍び寄る影、いや比喩表現なく影が忍び寄る。そう、モリアのカゲカゲの実の能力『影法師』だ。イープに悟られないように森の木々の影から影を移動し、やっとイープの影の中に潜り込むと、ずずいと飛び出してイープの影を掴み取る。

 

それでもイープはゾンビに向かって『鎌鼬』を放つことを止めない。何故なら目の前の『影法師』をいくら切り刻んだ所で、それは元から命の無い影、つまり死ぬことはない。故にイープの殺害対象には入らない。ならばそんなものは気に止めずに、一応命あるゾンビを殺すべきなのだ、イープにとっては。

 

しかしそれは間違いだ。重大な、大きな、決定的な間違いだ。

 

「キシシシシ、お前の影、貰ったァ!!」

 

どこから取り出したのか分からない、『影法師』と同じくらいの大きさを誇る巨大な鋏で、影を掴まれて宙ぶらりんになっていながらもゾンビ退治に精を出すイープを嘲り笑いながら、その影を切った。

 

影を切られたショックで気を失うイープ。人を斬り殺したいという強すぎる欲にやられた、強欲は身を滅ぼすの典型である。

 

こうして奇しくも世界に名を轟かす大悪党、"王下七武海"の一角、ゲッコー・モリアの手によって世界は救われた。

 

 

 

「…………無問題(ふむ、紆余曲折あったが一応は主の計画通りか)」

 

新たに出来た海岸線にいるヤマトは自分の主の影が奪われたことをリアルタイムで察知していた。しかし主のピンチにもヤマトは駆けつけなかった。それは何故か。そう、イープがモリアに影を奪われる事がイープの計画だったからだ。

 

イープは自他共に認める傲慢だ。故に自分を世界最強と思っている。しかしそれに反論できるものは少ない、いや殆ど居ない。そしてイープはそんな人間にまだ会っていない。故に思った、『自分より強いのは自分だけである』と。

 

つまり肉体はともかくとして、思考、技術、癖が全く同じな自分。それはもしかして自分が勝てない人間ではないのか、とイープは思った。

 

そう思ったら言わずもがな、死合いをこよなく愛するイープならばどうするかは自明の白である。

 

語りはさておき、

 

「…………起床(ではとりあえず主を起こしに行こう)」

 

計画を遂行させなければならない。




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