伝説の転生者の物語   作:ゆっぴー

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第五十三話 スリラーバークで偽物は異常の進化を

「…………起床(起きてください)」

 

イープが影を奪われた後、船に乗せられて出港していたところをヤマトがイープを拾い、そのまま人気もゾンビ気も無い森の中で主を起こすヤマト。字面だけを見れば主思いの優しい仲間だが実はそうではない。ヤマトは今現在、イープを起こそうと躍起になっている。グーパンでだ。それも今現在物凄い轟音が大気を揺らすほどの拳でイープを起こそうとしている。下手すればイープが永遠の眠りに付くのではないだろうか。

 

「ふわあー、よく寝たー。うんヤマトーもういいからー」

 

しかしそんなことなく目を覚ますイープ。さてこれからがお楽しみだ。イープは先程モリアの目の前で自らの剣技を大いにアピールしたから多分剣士の死体にイープの影が入ることになるだろう。さらにあれだけの騒ぎを起こしたのだ、確実にジェネラルゾンビになっているはずだ。そうでなくては困る。そうでなくてはなんの張り合いも無く、なんのためにここまでの苦労をしたのか分からなくなってしまう。

 

「まー、行ったら分かるよねー」

 

ただ、ここで色々言ってもとらぬ狸の皮算用、まずは行動あるのみである。

 

 

 

そしてやって来たスリラーバークの真ん中、本来そこには大きなマストがあるはずなのに、イープがぶったぎってしまったため無い。ついでに言うと、そこにはもう瓦礫しか無かった。

 

「いやー、やり過ぎたねー。まー、いくら壊したとしてもモリアはここにいるんだけどねー」

 

城の一階から上は瓦礫の山に成り果てたが、まだ地下が残っている。建物は斬られたとしても、地下が残っている為モリアはそこで新しくゾンビを作っているのだった。

 

「ヤマトー」

 

「…………御意」

 

イープの呼び掛けにヤマトは拳一振りで瓦礫にカモフラージュされた階段ごと周りの瓦礫を吹き飛ばす。

 

「まー、落ちればいいんだけどねー」

 

この不死身の二人組にとってはは階段を降りるのもフリーフォールするのも大差無かった。

 

 

 

「スラマッパギー、モリアー。僕のゾンビ作ってるー?」

 

友人の家に訪ねる感覚でモリアに話しかけるイープ。モリアの方も今しがた準備が整った所だ。

 

「キシシシシ!また来やがったか!!ああ、丁度お前の影を使ったゾンビが完成したところだ!!」

 

迎え撃つモリアは笑う。新しく出来たこのゾンビに絶対の自信を持っているからだ。

 

「かつて伝説の生物"竜"を斬ったと言われるワノ国の侍、"リューマ"とお前自身にお前は勝てるか!?」

 

それは自身がもつ死体の中でも知名度の高い猛者の死体。それの中に絶技と言えるほどの技術を持った影を入れた。この作品は今まで作ってきたゾンビの中で間違いなく最強の名を冠するジェネラルゾンビだ。しかしその実はジェネラルどころではない、まさにスペシャル級のゾンビ。死体の質はスペシャルのオーズに劣りながらも、その影の質が異常すら生温いレベルに達したがために生まれたバグ。故に負けない、故に笑う、故に奢る。

 

「ふーん…君が僕かー。似てないねー」

 

目の前にいる男は白髪でちょんまげ、着物を来ていて、さらに下駄。見た目の上ではイープと似たところはない。

 

「君が僕かー。うーん、流石だねー」

 

しかし内面は似ていた。口調は間延びし、相手の第一印象は強いか弱いか、ディナーかデザートか。願いは戦いで本懐は戦死。戦いをこよなく愛する戦闘狂で快楽殺人鬼。肉体スペックはともかくとして、潜在能力と技術は本人イープと全く同じ。それも当然だ、彼はイープの半身なのだから。

 

故に影は分かっていた、自分が本物より劣っていることを。例えるならば、最新のジェット機とそのジェット機のエンジンを搭載した五十年代のアンティークカーで勝負するようなものだ。地力が違いすぎる。

 

だがそれがなんだ。それは影が負ける理由になろうとも影が勝てない理由にはならない。

 

力が足りないのなら補えばいい。しかしもしこの肉体の筋肉がこれ以上成長しないというのならば、技術を伸ばせばいい、覇気を極めればいい。

 

少なくともイープの影には、本人同様敗北の二文字は存在しない。戦いにおいて存在するのは、渇望と成長と勝利の三つだけだ。

 

「なるほどー、僕たちは存外ー」

 

「似てないかと思いきやー」

 

「「似た者同士だねー」」

 

感じるシンパシー、共鳴する狂喜。少なくとも二人にこれ以上の言葉は必要ない。いやそれは少々語弊があった。空気の振動による"音"を媒介とする言語は必要ない。

 

今二人がとりたいコミュニケーションは肉体言語。互いに殴り合い、斬り合い、傷つけ合い、殺し合う。そんなコミュニケーションを互いに求めているのだ。

 

「「『一刀両断』」」

 

流石は同一人物、攻撃のタイミングも技も一緒、寸分の狂いもない。となれば当然狙いも一緒、本来"線"ではる斬撃を重ねて相殺するなど並々の技量ではない。

 

「流石ですね、その劣化した肉体で『一刀両断』を防ぎますか」

 

「素晴らしいですね、この劣化した肉体でもあの『一刀両断』を防げますか」

 

互いに賛辞するそれはある意味で自画自賛。しかしその相殺で得たものは影の方が大きい。影はに本人の劣化にならぬように肉体で叶わぬなら"技"で挑もうとする。そしてこの相殺。本来は力負けするはずなのに起こったまぐれ、奇跡。

 

まぐれだから何だ、奇跡だから何だ。例えそれでも影は"力をいなす技"を使うことができたのだ。そう、本物が使えないような技を。

 

男子三日会わざれば刮目せよと言うが、イープ達にはそれは当てはまらない。三秒だ。三秒で彼らは違う次元に進む。

 

「『鎌一刀両断』!」

 

故に開けた新たな世界。故に開発された新技。

 

下から上に"秋水"を振ることで発生する『鎌鼬』で牽制、体勢を崩してからの『一刀両断』。

 

流れるような技の連発は流水の様に自然でそれは剛の剣を行くイープ本人のものではない。そう、この数秒でイープと共に十年間過ごしてきた影は本人とは全く別の人間に進化したのだ。しかしそれもある意味イープらしい。

 

「『鎌鼬』…なっ、鉄塊『覇剛』!!」

 

初撃の『鎌鼬』は相殺するも次波の『一刀両断』はいなせない。いなせないから仕方なく受け止める、その肉体にものをいわせた最強の『鉄塊』で。

 

 

「ふむ、しかしその『鉄塊』、いつまで続くのでしょうか『鎖鎌一刀両断』!」

 

やることは先程と同じ、な訳がない。『一刀両断』を繰り出した後、愛刀"秋水"をクイッと引き寄せる。すると弾かれたはずの数百の『鎌鼬』が全てイープに再び襲い掛かる。まるで鎖に操られているかの様に。

 

「ガァァァ、『ミキサー』!」

 

ガリガリと削れてゆく体にたまらずイープは迎撃に出る。そのせいで何ヵ所か斬られてしまったが仕方がない。何せあのままではじり貧だったのだ背に腹は代えられない。

 

本家のイープだって慢心はしない。彼は傲慢だが奢らない。最強を名乗りながら無敵は名乗らない。故に止まらない。故に強くなる。"技"において影が二歩も三歩もリードしているならば仕方がない、それは認めよう、それは譲ろう。だが勝ちまでは譲らない、認めない。イープは影にはない肉体で、"剛の剣"で影の"柔の剣"を捻り潰す。

 

何時もより十割増しの『ミキサー』が全てを吹き飛ばす。イープだってこの戦いで大きく成長していた。

 

さらに剛の『ミキサー』は全てを蹂躙するに止まらず、辺り一帯を巻き込んで影を攻め立てる。

 

「狙撃『蛇速』」

 

それに対抗して影は突き、『狙撃』を放つ。しかしそれはただの狙撃『大槍』ではない。それの威力はそのままに、自由自在に蛇行し、相手を囲い、締め上げる。

 

『ミキサー』は『蛇速』によって回転の反対の向きに締め上げられて、苦しんでいるかのようにもがきながら霧散する。

 

「ふむ、相手が蛇ならば細切れにしてしまいましょう『鎌鼬』!」

 

蛇が斬られてしまおうと影は気にしない。もう次の一撃の準備はできている。

 

「ではこれらは細切れにできますか?狙撃『八岐大蛇』!!」

 

それは先程の『蛇速』の完全な上位技。八匹の蛇がうねり、『鎌鼬』を蹂躙しながらイープに迫る。

 

その余裕の表情で蛇を操る姿はまさに蛇使いである。

 

しかしイープもこれくらいでやられるわけがない。

 

確かに『八岐大蛇』は凄い。それは認めざるを得ない。『大槍』の威力を殺さずに自由に操れるようになっただけでなく、さらに威力を削らずにその数を八に増やしたのだ、本家イープだからこそ分かる、これは異常だと。

 

だがそれは"『大槍』と同じ威力が八つ繰り出せるほど影が成長した"に過ぎない。つまり影が技を伸ばしている分、イープはこの戦いで力を伸ばしている。

 

何回でも言う。『八岐大蛇』は素晴らしい。

 

「ですがそれでも今の私には有象無象です『都喰らい』!!!」

 

まさかここでネタに走るとは。しかし『鎌鼬』と『斬衝』の組み合わせたそれは、能力を使っていないが故に威力は劣るが、原理は間違いなくあの『島殺し』。イープがこの五年で上げた技量を考慮すると、やはり狙撃『大槍』が八つにあろうと、イープの前ではやはり有象無象となってしまう。

 

『八岐大蛇』が今の影の限界。それが通じない今、まさに影は絶体絶命、まさに苦境。

 

しかしだからそれがなんだ。苦境こそチャンス。それは苦境こそ一発逆転のチャンスという意味ではない。それは死にかけるほどのピンチは自分を更なる世界に引き上げるチャンスということ。イープが死を渇望するのはそのためでもある。死にかければ死にかけるほど強くなる、それをイープは知っているからだ。彼の師匠の言葉にこんなものがある。

 

『死にかけるのはイイ。だって殺す方法と殺されない方法をイッペンにその身に刻めるんだからな』

 

下手すれば死んでた、つまりその手段は殺すのに有効。そしてそれで死ななかった、つまりその手段で死なない方法を知った。一度で二度美味しい、一石二鳥。だからな死闘はイイ。だから死闘は強くなれる。だから死闘はやめられない。

 

そう、だから苦境に立たされた影は笑う、自分が次の段階に進化したことを知ったのだから。

 

「読めました」




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