伝説の転生者の物語   作:ゆっぴー

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ネタ回です


第五十四話 スリラーバークで最強は一方通行な戦いを

「読めました」

 

技を使わず、ただ秋水を一振り、それだけでイープの悪魔的『都喰らい』が霧散した。一撃で十分他は蛇足。

 

何故ならば影には見えていたからだ、『都喰らい』の全てが。イープのどの筋肉繊維が何センチ伸縮したか、腕の角度は腕振りの速度は、そして『都喰らい』の規模や力の流れ、そしてどこに綻びがあるか。

 

それらの全てを合わせて"呼吸"と言い、"斬る"とはその綻びを断つことだ。これが"柔の剣"の境地であり真の"斬る"ということだ。そこには力も手数も必要ない。その境地に達した影から言わせてもらうなら、それらは"綺麗に千切っている"に過ぎない。

 

「……」

 

影が自分を越えた事に言葉がでないイープ。だがそこに落胆の気持ちはない。称賛、賛美、奨励に嫉妬、渇望、憎悪。プラスとマイナスの入り交じったそれは言葉という媒介を使うだけで安くなってしまう。良いな、素晴らしい、グッド、ナイス、ワンダフル、エクセレントや羨ましい、欲しい、憎い妬ましい、ジェラシー、クレイブ、ヘイト。そんなんじゃない。そんなに気安く感じられる感情じゃないんだ。

 

誰にも推し測れない、深くて強い感情は剣に磨きをかける。本来は剣においては感情は邪魔だ。そんなもの無くただひたすらに探求すること。それが上への近道だ。

 

だがその感情が度を越せば話は別だ。身を焦がしてがんじがらめにしてしまうそれは純粋よりも価値のある不純物だ。

 

だからイープはこの感情を表さない、ある種の畏敬をもって。

 

「次、ですかね」

 

「でしょうね」

 

二人は直感した。次で決めるのが最高だと。このまま続けても今以上に心踊る戦いはできないと。それならば魅せつけるべきだ、叩きつけるべきだ。最高の一撃を最高の感情を。

 

「初めてですね。殺すには惜しく、殺さないにも惜しい男に出会ったのは」

 

「私もです。貴方の帝による"剛の剣"。ここで消すには非常に惜しい」

 

「そうですね。貴方の秋水による"柔の剣"。これが見られなくなるのは世界の損失です」

 

「「それでも貴方をここで殺さないのは不可能です」」

 

ある意味で悲劇。『生かしたい』と『殺したい』の感情の交差。この二人は止められない、止まらない。

 

「もし私が負ければ"帝"は任せます」

 

「わかりました。しかし私には"秋水"がありますのでそれは使いませんよ?」

 

十年間イーブンの影をしていたならばわかるはずだ、その"帝"の性能を。しかし影はそれを承知の上で言う。イープは自分を剣士と言うよりも"帝使い"と思っている。使うそれは剣術であるものの、それを繰り出すのは"帝"。そして帝の性能、性質、願い通りに剣術を繰り出すのがイープだ。つまり互いが互いを知る関係。それは剣と剣士の関係では決してなかった。

 

そしてそれは影にも言える。十年間影は帝を使ってきた。だが今使っているのは"秋水"。この肉体が共に歩んできたのも"秋水"。そして自らが剣術を極めた時に手に持っていた刀は"秋水"。そう影はもはや剣士ではなく、"秋水使い"となっていた。

 

だが先程言ったように、この"帝使い"をそして"帝"を使った剣技を絶すのは惜しい。故に帝を引き取るのだ。この剣の極みに達した男が"帝使い"足るに相応しい者に帝を渡すために。

 

「では……」

 

「分かっていますよ。私が勝てば秋水は預かります。貴方の秋水を持つに相応しい者に託すために」

 

「宜しくお願いします。しかしああ、なんと心地よく感動的な戦いなのでしょう。例え負けても、この気高き侍の体に負けを刻み込んでしまったとしても、それを誇りに思えそうです。多分この体の持ち主もそう思うでしょう。『この敗けは竜に勝ったことよりも嬉しい』と」

 

「そうですね。やはり相手が自分だからでしょうか、私にも負けてもいいと思ってしまう自分がいます」

 

 

 

互いに遺言は言った。少々感傷的にもなりすぎた。だからさあ悲劇を始めよう。友人が、親友が、半身が、ライバルが、理解者が殺し合う、そんな悲劇を。

 

「『斬衝波』」

 

「『大黒柱一刀両断』」

 

イープの進化した『斬衝』は世界を割らないものの、波打たせる程の不合理な威力。

 

対する影は覇気で伸びた秋水による一振り。それは本家とは反対の合理の極み。立ち位置から細胞の一つ一つの移動までその斬撃に上乗せされる。極みに達したと言えどまだ片足を踏み込んだ程度、本来はこな『斬衝波』を技でいなしたかったが、大きすぎる力故にそれが叶わず、合理の技で叩き潰す方針を取らざるを得なかった。それを影は恥ずかしく思い、誇りに思う。

 

しかしいくら叩き潰すと言えどそれは合理の塊。世界の呼吸すら読みきった一撃は、空間を斬り、そこから本来存在しない空間が顔を見せる。強いて言うならば三次元xyz空間において、虚数単位iを用いて座標を表示するようなものだ。

 

全てを読みきった黒い柱は波を用意に切り裂いたが、

 

「ギリギリでした」

 

チート妖刀"帝"に止められた。ただそれはギリギリで。そう黒い刃は帝を半分まで斬っていたのだ。絶対に傷つかないが売りの最強の妖刀"帝"に傷を付けた影には言葉にならない称賛を送らざるを得ない。

 

一方の影は駄目だった。影の『大黒柱一刀両断』はイープの『斬衝波』を斬った。影はやったと思った。しかしそれが甘かった、作戦ミスだった。押し潰すかつてのイープの『斬衝』ならば斬れば問題なかった。しかし今のイープはこの戦いで更なる高み、『斬衝波』を作り上げた。それは単に押し潰す圧ではなく押し潰す"波"。故に斬ろうとも最後には挟まれる。

 

半身の成長に気づけなかった。影の失態であった。

 

『斬衝波』に押し潰され、蹂躙された体は潰され、砕かれ、千切られてもはや原型を留めていない。

 

しかし唯一残った部位があった。右手だ。手首から上は無いが、手のひらと指は残っている。他の部位は細胞すらもメチャメチャにされている中、これが残ったのはある種の奇跡。もう体もへったくれもないと右手以外は影が実体化して補強している。

 

敗北した影が本人に引っ張られながらも、最後の抵抗を示す。それはイープならではの欲望、『死んでもこいつは殺す』ただその願いのためだけに。

 

しかし勝負はほぼ決していた。

 

今の一撃で死にかける経験をした二人。そしてそれを防げたイープと防げなかった影。この二人の経験の違いが実力差を付けた。

 

「『大黒柱「『斬衝波』!」」

 

影が攻撃を放つ前に、最高の一撃で消し飛ばす。

 

こうしてイープの影は解き放たれた。

 

というにはそうは問屋が卸さない。

 

「この影を返すわけねェだろうが!!」

 

その無粋な介入者は影を奪った張本人、ゲッコー・モリア。せっかく手に入れた中で間違いなく最高の影。それをみすみす返してしまっては海賊の名が廃る。

 

イープに向かって漂っていた影を掴み取ると、そのまま奥へとモリアは逃げる。

 

イープはそれをあえて見過ごす。自分の影なんてどうでもいい、いつでも取り返せる。むしろ今重大なのは強敵、友への敬意。

 

「約束通り"秋水"はー、僕がー責任を持ってー、僕がー預かっておくよー」

 

それをただ持つというのはあまりにも忍びなく、秋水を腰に差してイープはやっと影を取り返しに向かう。

 

 

 

「じゃー僕の影を返そうかー」

 

目の前にいる自分のゾンビに目もくれずに、モリアに影を返せと言うイープ。イープのその様子にモリアは半分呆れたように言う。

 

「アア、いいぞ!こいつを倒せたらな!」

 

そのイープの影を使ったゾンビとは、巨人の中の巨人、かつて島を引き動かしたとされる太古の怪物、"魔人"オーズ。

 

「ふーん」

 

しかしイープの反応は軽い。イープは分かっているのだ、このゾンビには決定的なものが欠けていると。

 

「ちっとばっかし無理して出てきたっていうのによぉ、なんだぁ、このバカみたいな三下は」

 

だからネタに走る。これに全力で挑むのも馬鹿らしい。

 

「お前…まさか"剣帝"イープ!?あの三大将も敵わないっていう世界政府最強!?無理だ、そんなのに相対できるはずがない!!」

 

モリアは相手の余裕と茶髪茶目、そして思い出した"帝"という獲物から目の前の敵が誰たるかを知る。モリアも王下七武海、世界政府の裏事情には詳しい方だ。だから知っている、世界政府が秘匿したくなるほどの汚点を、その原因を、そしてその武勇伝を。だからモリアは絶望する。今の自分とイープでは生身の人間とジェット機を比べるようなものだから。

 

「いや!俺は知っているぞ!十五年前お前は大怪我を負った。今のお前にあの体術は使えない!あの時の強さなんてどこにもねェんだ!!」

 

それは虚勢。しかもイープに向けたものではなく、自身に向けられた虚しき嘘。そうでも言ってなければモリアはもう自分を保てないほど追い詰められていた。

 

「哀れだなァ、お前。本気で言ってるンなら抱きしめたくなるくらい哀れだわァ」

 

イープはクツクツと口の中で笑いながら返す。相手方もお膳立てしてくれたことだ、目一杯ネタに走ろう。

 

「確かにのあの日俺は体にダメージを負った。今じゃ戦闘も能力に任せてる。」

 

実際先程バンバン帝で影を斬っていた奴が何をいうかと思うかもしれないが、ネタを言っているのだ。

 

「だがなァ、俺が弱くなったところで、別にお前が強くなったわけじゃァ、ねェだろォがよォ、あァ!!?」

 

その瞬間に衝突する魔人の拳とイープの『斬衝波』。単純な力はオーズが上かもしれないが、その影は"帝使い"スコウェルド・イープの物。剣ならともかく、無手では自身の力を十二分に発揮できない。

 

イープの理不尽と魔人の不自然、勝つのは当然理不尽だった。

 

「くっ、『影法師』!」

 

余波に巻き込ませそうになったモリアは慌てて上空に逃がしておいた『影法師』と自分の位置を入れ替える。しかしそれもネタだ、フラグだ。

 

「ギャハハハハハ!悪ィがこっから先は一方通行だ!尻尾巻いて元の場所に戻りな!!」

 

一発目は辛うじて取り出した鋏で防ぐもそれも粉砕され、二度目は防ぐことはできず、右ストレートがモリアに刺さる。

 

勝負は決していた。

 

 

 

「じゃー、色々持ったしー、一回近くの島に寄ろうかー」

 

あの後、使えそうなものはかさばらない程度に奪い、やることはやったイープはこの島を発とうとする。この島の住民のことは知らん、勝手に生きているだろう。

 

「ヤマトも僕に乗っておきなよー。今のー、僕はー、色々見えてるからー、君とその他諸々を乗せてもー、今まで以上の速度は出るよー」

 

「…………失礼(では、御言葉に甘えて)」

 

オーズを挽き肉にし、影を取り返したイープはその瞬間、世界が変わったかのような錯覚を受けた。

 

長年連れ添ってきた影はこの数十分で完全にイープとは別人になり、別のベクトルでの達人となった。そんな影が自分の元に戻ってきたのだ。つまりイープは"剛の剣"と"柔の剣"の二つの達人となってしまったのだ。

 

そさてその進歩は剣技だけではなかった。影が進んだ柔の剣の極み、呼吸の理解は何も斬ることだけではない。世界そのものの理、合理を理解したということだ。

 

つまりどのように走ればより速い『剃』が、どのように踏み込めばよりスマートな『月歩』が、どのように振り抜けばより鋭い『嵐脚』が、どのように動けばより無駄の無い『紙絵』が、どのように力を込めればより堅い『鉄塊』が、そしてどのように撃ち抜けばより殺傷能力の高い『指銃』を使えるようになるのかを把握したのだ。

 

まさにイープは人ならざる領域に着々と足を踏み入れてきている。




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