伝説の転生者の物語   作:ゆっぴー

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第五十六話 コノミ諸島で使者は不相応の外交を

聞いてない、そんな話聞いてない。

 

頭の話では、先ずは最弱の海、東の海を支配し、そこで勢力を拡大し、そして自分達魚人を人間の支配者となる予定だった。

 

そう、自分等は最弱の東の海に来たはずなのだ。

 

それなのにその計画は一日足らずで既に頓挫してしまっている。他でもない、自分達がやろうとした圧倒的武力による蹂躙によって。

 

そのせいで頭を筆頭に幹部は一人の相手にろくにダメージを与えられずに全滅。自分等は生きるために逃走を余儀なくされている。

 

しかもそれはただの逃走じゃない。固まって仮に来たとしても、追っ手を迎撃するというある意味での一時撤退の様なものではなく、各自が散らばり、もし追っ手が来たとしても誰かが犠牲になっている間に一人でも多く逃げ切ろうという完全な敗走、潰走、壊走。味方を、自分を餌とする完全な敗北。

 

しかし追っ手は来なかった。自分等に興味を失ったのか、それ以上の出来事があったのかは知らないが好都合。海まで来れば自分等の領域、逃げ切れる。

 

そして逃げ惑う魚人達は海の中に飛び込んだ。

 

火の海の中に。

 

 

 

「いやー、僕ばっかり悪いかなーと思うからさー…ヤマトー"任せたー"」

 

チュウを殺した途端即時撤退を決め込んだ魚人達の背中を見送ってイープが言う。

 

イープならば背中を向けた奴等の殲滅なんて朝飯前だ。たとえ海に逃げ込まれたとしても問題ない、イープなら海ごと消し飛ばせる。

 

しかしイープは追わない。何故か。強いて言うならば幸せのお裾分けと言ったところだろうか。イープばかり運動をしてペットにはステイとは中々酷いじゃないか、少しくらいならば分けてあげても良いのではないか、そんな親切心からくる行動。悪く言えばただの気まぐれであった。

 

「『蒼火世界』」

 

三尾の状態で使われるそれは完全に六対羽九尾の『白虎世界』の劣化品。それでも海を焼き、魚を焼くには強すぎる業火。それは皮膚を焼き、肉を焼き、内蔵を焼き、骨まで焼いて、灰をも焼き尽くす。

 

「いやー、自分で言っててあれだけどー、たたきと刺身ともう一つー、焼き魚があったとはねー」

 

ただし、過程は違えど結果は全て消滅しかない。

 

「『人間を虐げるつもりなら潰す』……はー、ちゃんとタイガーに言っておいたのにねー」

 

「…………自業自得(それでもこれは自分等で撒いた種、主が憂う道理はありません)」

 

「まっ、タイガーは伝える前に死んだんだけどー」

 

「…………尚更(そうであればなおさら主が憂う必要はありません)」

 

溜め息をつくイープをそっとフォローするヤマト。さすが、ペットの鏡。

 

 

 

コノミ諸島有数の危機を救ったイープ。そんな彼等を讃えようとその日は盛大な祭りが起こったのは至極当然の流れであった。

 

そんな祭りも終盤になったところで主役イープに近づいてくる影が一つ。

 

「んー?」

 

「あの…」

 

それはイープに母親を助けてもらったナミ。そして彼女に続いて母親のベルメールと姉のノジコ。家族に後押しされて意を決したナミが口を開く。

 

「助けてくれてありがとう"おじさん"!!」

 

パァッと花開くような笑みとは裏腹な衝撃の一言。

 

「僕はまだ九つなんだけどねー!」

 

「ええっ、私と同い年…!?」

 

しかしナミの間違いも仕方がないのかもしれない。

 

「そんなに大きいのに…」

 

この五年間でまさに植物の成長と形容できるような成長っぷりをみせたイープは現在まさかの二メートルである。延び幅驚異の一メートル十センチ。

 

「アッハッハッー、だから僕のーことは親しみを込めてお兄さんと呼んでくれー」

 

しかしそれとこれとは別問題。イープがそれで納得できるはずもなく、中年が子供に言う台詞ベストスリーを言う。これを言う人は大体オジサンだ。

 

「ごめんなさい、あと本当にありがとう"お兄さん"!」

 

過ちは繰り返さないと言わんばかりに"お兄さん"を強調して礼を言うナミ。

 

「まー、海兵として当然だねー……クビになったけど」

 

今は海軍とは真逆の立場である。

 

「あーそーそー、一応忠告しておこー。血が繋がってなくとも、血が繋がってないからこそ家族は大切にしろ」

 

たかが遺伝子を半分受け継いだという"偶然"出会っただけの家族より、"必然"的に出会った血の繋がっていない家族。イープは二度の人生でその二つを知った。故にイープは忠告する、後者を大切にしろと。前者の様にたかが血が繋がっているからいて当然と勘違いしている輩より、血が繋がってないからこそ愛情を注ぐ集団の方が本当の"家族"であると。

 

「良い親って言うのには中々巡り会えないからねー」

 

妹には出会えても今でも親には出会えていないイープはそれに出会えたナミらに僅かに嫉妬しながらも優しく頭を撫でる。

 

「ふぅん、そう……じゃあアンタも今からわたしの子供になりなさい!」

 

どこぞの世界最強に似た様子でベルメールはイープを誘う。

 

「おー、よろしくー、おかーさん」

 

イープはそれを即快諾した。理由はただ勘としか言いようがない。それでもただコネコネと理屈をこねて母親と認めるよりも、随分それらしい。

 

結局家族に理由なんて要らないのだ。家族だから家族、それで十分なのだ。

 

 

 

空が白けて、村人がぞろぞろと家に帰ろうとするなか、

 

「じゃー、僕はー鼠駆除でもしてこようかなー」

 

イープだけ違う方向に向かう。

 

イープが魚人等を殲滅した後、村人は一応海軍へと連絡したのだ。そこで派遣されてきたのが支部中佐のネズミという男。本来彼の仕事はもう殆ど無い。強いて言うならば被害状況の把握と報告書の作成程度のはずだった。

 

しかし彼は相当なことをやらかしていった。

 

『今から証拠を押収する!拒むならば海軍としてお前らを海賊擁護の罪で纏めて吊るし首だ!!』

 

相手は銃を持った兵士ばかり、非戦闘民しかいないこの島の住民に戦う事はできず、海軍と正面から"正式"にケンカを売ることはまだしたくないイープもその時は手を出さないでいた。

 

その結果、海軍は証拠品と称して、多くの島の財産を奪っていったのだ。

 

「なーに、ちょこっと支部を消してー、色々取り返してくるだけさー」

 

今日のイープは少々ビックマウスなのだ。

 

 

 

そんなこんなで海へ飛び出してから数十分、もう例の海軍支部に来ていた、この支部は平原の島の上にデンと支部だけがある住民がいないところであった。

 

それはイープにとって好都合、ド派手にかましても誰も傷つかないのだ、当事者以外。

 

イープは支部襲撃のために、両手を揃えて腰の横に持っていく。これからやるのはかめはめ波ではない。

 

能力を使った技の一つだ。

 

「『ビックマウス』」

 

両手が泥となり、纏まり、膨れ上がり形作られていく、大きな大きな鼠の形に、鼠の口の形に。

 

Big mouseのbig mouth。イープらしい寒い洒落の効いた技である。

 

口は当然餌である支部をむしゃむしゃと食らい、中にいる人間も当然食い殺す。

 

数分でそこにはイープが捨てた大量の土しか残っていなかった。

 

翌日の東の海の新聞の一面は"謎の災害"であった。

 

 

 

そんなニュースは当然海軍本部にも伝わった、ただし事情を察知した上層部の元にのみであるが。

 

「ガープ、クザン、ボルサリーノ、お前達を呼んだ理由は分かってるな?」

 

そんな海軍のトップの個室、元帥の間にいるのは海軍本部元帥のセンゴク、大将のクザンとボルサリーノ、そして中将のガープの四人である。

 

彼等の共通点は、

 

「おそらく彼でしょうねェ~、このやり口は~」

 

五年前にイープとやりあった現行海軍最強戦力である。

 

「ワシも五年前にやられたこの傷が疼いておるわい」

 

「ってことはあれですか?この中の誰かが東の海の彼の元に行かなきゃなんねェと……」

 

「ああ、だからサカズキをこの場には呼んでいない」

 

目的はあくまで牽制、交渉、確認。戦闘じゃない。だから海軍きっての過激派の赤犬にはこの事件すら知られないように慎重に情報操作している。サカズキとイープの不仲は上層部なら誰でも知っている常識である。

 

加えて言うなら、十人ほどしかいない五年前の"戦争"の生き残りは少なからず原因は赤犬にあるとして彼を多少口には出さないが、よく思っていない。

 

海軍としては五年前のあれはこれ以上無い無益な損失であったからだ。

 

「んじゃあ、オレが行きますわ、アイツとは友達ですし」

 

そんな中立候補したのはイープのかつての上司クザンだ。確かにこの中では最もイープと関わりのある人物である。

 

 

 

そんな会談があったことなんて露知らず、イープがこのオレンジ村に住み始めて一月が経った。

 

「指銃『っぽい』!」

 

「紙絵『っぽい』!」

 

ベルメールの指銃"っぽい"ただの拳をイープは紙絵"っぽい"反復横飛びでかわす。今コノミ諸島オレンジ村のベルメールの家族で空前の『っぽい』ブームが巻き起こっている。

 

オレンジ畑の手入れを終わらせてからはベルメールの訓練の時間だ。一月前はイープが来たからなんとかなったものの、もうあんなことは繰り返さない。だからベルメールは息子のイープに師事を請いた。当然イープは快諾、その日から稽古が始まった。

 

結果的に言うならばベルメールは才能の塊だった。流石は現役時代は金獅子が脱獄したとき、『"東の海"に来たら私がブチのめしてやるわ』と公言していただけはある。一月で覇気を使えるようになり、更に六式までも使えるようになった。流石にシキを倒せるレベルでは無いが、東の海最強は間違いないだろう。

 

「じゃー、今日はここまでにしてー、僕はー夜ご飯でも取ってこようかなー」

 

「んじゃっ、今日はエレファントホンマグロの刺身ね!」

 

「りょーかーい」

 

 

 

イープが漁に出ているときに、男は来た。別に見計らっていた訳じゃない、ただの偶然である。

 

目指すは村の外れの民家、そこにいる家族に目的は今厄介になっていると情報にある。なんにせよ、そこに行くしかない。

 

コンコン

 

「失礼しまーす」

 

返事も聞かずに長身の男は家に入り込む。

 

「はっ……!?」

 

「ええっと、ねーちゃんスコウェルド・イープって子供、知らね?」

 

「なんで海軍大将"青キジ"がこんなところに!?」

 

その男は海軍最強の一角海軍本部大将"青キジ"のクザン。

 

「あーあ、その反応見るとクロだな。んで、今イープは何処に居んのよ?」

 

普段はだらけてはいるが、だらけるのと愚鈍なのは違う。クザンだってしっかり人を見る目はある。

 

「打ち水っぽい『っぽい』!!」

 

手元にあったフォークを投げるというもはや打ち水ですらない『っぽい』がクザンの脳天に刺さるがそれは頭を砕くのみ。

 

「自然系!?」

 

"自然系ヒエヒエの実"の能力者には通用しない。

 

「ガッ………」

 

「素直に吐いてくれりゃこうせずにすむんだけどなぁ」

 

そのまま『剃』も使わずただの身体能力で目にも止まらぬ瞬速を叩き出すとベルメールの首を掴み、壁に打ち付ける。

 

「何処に息子の事を売る母親が居んのよ。指銃『っぽい』!!」

 

ベルメールは全力でクザンを殴る今度はちゃんと覇気を込めて。

 

「覇気使いか、厄介だな……死んどくか?」

 

しかしそれでも海軍最強には届かない。

 

パキパキと冷気がベルメールの身体を侵食してゆく中、クザンは完全に失念していた。

 

イープの狂気と形容される家族愛を。

 

「母さんに手ぇ出してんじゃねえよ!!『鎖鎌』!」

 

海にいるはずなのに届くイープの咆哮。クザンは直感に従って手を引くが斬り落とされた右腕。壁と壁にある斬撃が通った跡の間に腕はなかったはずなのにバッサリと斬り落とされた。

 

「あれ、アイツまた腕上げてる?」

 

かつての部下の腕が上がった、これは喜ばしいことのはずなのにクザンは冷や汗が止まらない。

 

「僕の家族に手を出すなんてナメてるよねー、クザン?」

 

速い、速すぎる。まだクザンの腕が斬り落とされてから十秒も経っていない。それなのに既に海にいたはずのイープがもうここにいる。

 

すかさず放たれたイープの横一閃をクザンはなんとかかわすが、それはイープも予測済み。帝を地面に突き刺してその勢いを殺さずに帝を軸に身体を旋回させる。

 

「『大車輪』」

 

役満、一万六千オール。ではなく、それからのキック。だがただの蹴りではない。イープの怒りがイープに更なる力をもたらす。何処のサイヤ人だお前は。

 

蹴りのインパクトの瞬間に今までの旋回で圧縮された空気が解き放たれる。その圧縮された量は膨大で、解放の瞬間に衝撃波へと姿を変える。

 

更に偶然か否か、イープは魚人空手すら使っていた。『発勁』でそれの土台は完成していた。そして先日実際にそれに見て、触れた。今のイープにとってはそれで十分だった。

 

失敗しても技を極めし影がちゃんと調整してくれる。

 

「(元帥の衝撃波に海侠の魚人空手って……)」

 

死ねる、普通に死ねる。

 

しかし幸いなことにクザンは自然系、死ななければどんな怪我すら回復する。故に、脳味噌と心臓、そして肺がやられなければギリギリで助かる。

 

故にありったけの覇気を込めてその三つを強化する。ついでに他の臓器たちがシェイクされてもショック死しないように気を確かに持つ。

 

生まれて始めての対能力者拳法のダブルパンチ、しかも覇気付き。それは確かに体内からクザンを破壊した。

 

 

 

「いやー、さっきのは流石に死んだと思ったわ」

 

あの後、結局回復したクザンが戦う意思はないと言い、ベルメールに謝罪したことで今回のことは水に流すことにしたイープ。イープだって同じ正義として、クザンは進んで殺したくない人物なのである。

 

「じゃー、結局クザンはー、何しに来たのー?」

 

「おお、すっかり忘れてた……その、あれだ、えーっと…忘れた」

 

それで良いのか、いや良くない。

 

「まっ、忘れたってことは大したことじゃないんだろ。一応任務はこれで終了だし、センゴクさんに連絡入れとくか」

 

 

 

「そう、俺はお前に伝えなくちゃならないことがあってきた」

 

先程とは百八十度違うことを言っているクザン。センゴクにでんでん虫で連絡すると、怒られたのだ。それは当然の事である。

 

「スコウェルド・イープとは敵対したくない、これは海軍の総意だ。だからある程度は黙認するが、やり過ぎるなってことだな」

 

「おkー」

 

「だから平野の海軍支部を消すときは土砂崩れではなく、津波にしてくれとのことだ」

 

「アッハッハー、ばれてーらー」

 

まぁ、バレてもいいと思ってやったことだ問題はない。




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