伝説の転生者の物語   作:ゆっぴー

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女ヶ島で女帝は不純な異物を

海軍に自分の居場所がばれてしまった。もちろんイープの実力をもってすれば海軍本部が攻めて来ようとも、家族を守りながら戦う事は可能だ。加えてヤマトもいるのだからなおさらだ。

 

だがイープの目的は幸せな生活じゃない。そうではなく世界を幸せにすることだ。いずれは出ていかなくてはならなかったのだ、これが所謂その切っ掛け、ターニングポイントだったのだろう。ただし、時々家には帰ってくるが、というか家族を紹介しなくてはならないし。

 

「とーゆーわけさー」

 

「イープが居なくなると寂しいねェ…」

 

「「やだー!」」

 

ガジガジと頭を撫でる母親に抱き着いてぐずる義姉妹。ノジコは何気に年上なので姉らしい、イープも異論はない。

 

「アッハッハー、金輪際の別れじゃないからねー」

 

姉妹の頭を撫でながらイープは快活に笑う。

 

「イープ!わたしも連れてってよ!」

 

「嫌だー、雑魚がー」

 

引き留められないと見るや否や今度は連れてってと駄々を捏ねるナミとそれを一蹴するイープ。もっと良い言い方はなかったのか。

 

「なんて言い方すんのよ!」

 

だから母親に殴られんだ。

 

「まー、どっち道ー、王下七武海位はないと僕の船員にはなれないなー」

 

現在のイープの船員はイープとヤマト、どちらも世界で十指に入る猛者である。

 

だが残念ながら彼らは船を持っていない。得意の月歩走行である。

 

 

名残惜しくもオレンジ村を去ったイープとヤマト。行き先は男子禁制の"女ヶ島"。そこにいる女王に貸した物を返してもらいに行かなくてはならない。

 

 

 

というわけで早速女ヶ島の城に潜入。

 

「やー、ハンコックー、僕のコートを返してー」

 

イープはそのまま闘技場へ誘導されていった。イープならば抵抗して海賊揃いの女ヶ島を沈めることもできたのだが、今のイープは機嫌が良く、そんなことはしなかった。主が出なければヤマトも出るわけには行かない、そのまま一人と一匹は闘技場へと連れていかれるのだった。

 

策が無さすぎるだろ、馬鹿かお前ら。

 

 

 

そして連れてかれた闘技場。宣告は当然死刑。処刑人として放たれるのは黒い大虎のヴァキュラ。

 

「グルルルル」

 

近づいてくるヴァキュラをイープがあしらおうとしたその時、

 

「…………主(ここは私が)」

 

ヤマトが名乗り出る。始めてヤマトがイープに意見を申し出た瞬間だった。

 

「任せたー」

 

ヤマトの実力は本物だ、信用できる。それに始めての仲間の我が儘だ、故に丸投げする。

 

ピョンとイープの肩から飛び降りたヤマトはそのまま人型となり、ヴァキュラの前に立ちはだかる。

 

「……」

 

「…………」

 

互いに睨み合う二匹のネコ科。

 

「グゥ」

 

そしてヴァキュラが屈して腹を見せる。同じネコとして自分の従うべき主、群れで言うならばボス、簡単に言うならば格上に戦う前に野生の感が悟り、何一つ爪を交えることなく処刑人は屈したのだ。

 

「…………賢明(良い子だ)」

 

「そんな、ヴァキュラが服従した!?」

 

「ちっ、使えん猫だ。サンダーソニア、マリーゴールド!あの無礼な男を殺せ!」

 

「「「きゃー!サンダーソニア様ー!マリーゴールド様ー!」」」

 

女ヶ島の憧れ、九蛇海賊団の中でも"四強"の二人が出るとなれば会場のボルテージが最高に上がるのも無理はない。

 

「これからアナタは処刑されるの」

 

「だけど名前だけは聞いといてあげるわ」

 

イープの前に立ちはだかるサンダーソニアとマリーゴールド。

 

「スコウェルド・イープ」

 

やっとできた自己紹介、これでイープもなんとかお咎め無しにできるだろうなんといっても命の恩人だ。

 

しかし現実そうはいかない。

 

「証拠は♪」

 

突然イープの前に現れた金髪の少女。五年間で全く姿の変わっていないイープの妹、カネルである。

 

「これ"帝"ー」

 

とイープは自分の相棒を見せる。

 

「フッ…ソニア、マリー、代わって♪」

 

「えっ、でも……」

 

「代われっつってんだろおがこの蜥蜴モドキ共がぁ♪♪」

 

笑ったかと思うといきなり癇癪を起こしたかのように二人の髪の毛を掴み、会場の客席の場外まで投げ飛ばす。口調の語尾の『♪』からは掴みとれないだろうが、カネルの口調、といっても腹話術のもので実際は口を開いていないが、はとても荒い。ただ発言するたびに『♪』がカネルの体から出ているのだ。流石は自然系オトオトの実の能力者、身体が謎仕様である。

 

「テメーはこれが"帝"っつったかあ♪でもよお、帝はそんなに長くはねえんだよお♪♪」

 

そう、"帝"は本来形を持たず、主が人を殺すのに最適の形をとるという妖刀。故にイープが小さい時は短く、そしてイープが成長した今は長くなっている。ただその事実を知らないカネルにとってはそれは兄を馬鹿にする戯れ言に他ならない。

 

因みにもしイープが銃士になれば帝はライフルになり、拳士になれば帝は籠手の形となる。もはや帝は剣と言えるのかどうかは微妙な所だ。

 

「吹き飛び笑え♪」

 

「『紙絵』」

 

鳩尾に向けられたカネルの掌底を簡単にかわす。こんな稚拙な掌底は当たるはずがない。

 

しかしそれがカネルの狙い。

 

「『爆掌』」

 

笑えない威力の震動、"音"がカネルの腕から拡散してイープに襲い掛かる。そう、カネルの拳は、ヤマトの絶対に受け止めてはいけない拳とは真逆、絶対にかわしてはいけない拳なのだ。

 

爆掌の"ショウ"が"笑"じゃないから笑えない。

 

飛ばされながらもなんとか踏ん張れたイープ。

 

「アッハッハー、いーねー」

 

笑えない威力だが、カネルの注文通り笑い、彼女の五年間の努力を賞賛する。そう、カネルは努力した。イープとは質は違うが、やってきた量は同じくらい、それを五年も続けていれば王下七武海の"蛇姫"ボア・ハンコックともタイマンを張れるほどだ、いや、むしろ能力の都合上カネルの方が上をゆくかもしれない。

 

「『青剃』」

 

確かにあいつは青いがそのネーミングはいかがなものか、漢字からは読めないがソニックって……。

 

それはさておき能力は、道具は、その持ち主の長所であってはならない。そうなってしまえばそれを越える能力の持ち主の完全な劣化となってしまうからだ。特に道具は進歩しないからなおさらである。

 

ではどうあるべきか。道具は、能力はその人にとっての付加価値であるべきである。ただでさえ動体視力の良い人間、その人に銃を持たせれば鬼に金棒。例えば空手の達人、彼に籠手を着けさせればより強くなれる。

 

そして例えばカネル、彼女は速さを磨いた、そして磨きあげて他の追随を許さない域に達した上で更にオトオトの実の能力、音速の秒速三百三十三メートルが加わる。

 

素でマッハ二を誇るカネルに更に音速が加わりその速度じつにマッハ三。飛ばされて五十メートル離れたイープとの距離をじつに0.05秒で詰める。普通の人が見てから脳で知覚するのに必要な時間は0.2秒。イープはもっと早いがそれでも0.05秒は速すぎる。

 

更にその速度で振るわれる拳も凶器。誰かが言った、『速さとは質量』と。

 

「『響』」

 

そに付与される音こそが凶悪。

 

"音"とは空気の震動、つまり空気限定でカネルはかの"白ひげ"と同じスペックを持ち合わせているのだ。

 

『響』の震動、エネルギー、威力に耐えきれなくなった空間がひび割れる。

 

「鉄塊『剛』」

 

しかし無理にかわそうとするから受け止められない。ならばはじめから受け止める気で相対すれば受けきることは逆に可能。

 

 

 

音速は越えられるイープだがマッハ三を誇るカネルのには敵わず攻撃に転じ切れない。いや、かつての剛一辺倒といっても過言ではなかったイープならばともかく、影の柔の技を習得したイープでは自身の三倍弱の速さでも対応はできる。

 

だがそんなイープが苦戦している。しかしそれはカネルが"速い"からではない。ただの"速さ"で苦戦するなら音を上回る"光"ピカピカの実の能力者ボルサリーノにすら勝てるはずが無い。では何故か。それはカネルの速さよりも"早さ"にある。ただスピードが速いのではなく、攻撃すると考えてから攻撃に移るまでが早いのだ。

 

故に見聞色の覇気で読んでいる頃には殴られる。『考えるな、感じろ』では遅すぎる。強いて言うなら『感じるな、予知しろ』だろうか。

 

糸口は掴んだ後は試してものにしていくだけ、と思ったところにまさかの邪魔が入る。

 

「…………『覇拳』」

 

「うぇいー『紙絵』!?」

 

まさかのヤマトの裏切り。

 

「…………仇」

 

そう言うヤマトの視線の先にはこの戦いのとばっちりで飛ばされ、気絶したヴァキュラ。奇しくも外したイープの拳が飛んできたのだった。南無三。

 

「なにおやっておる、カネル!」

 

そして自分と同格以上のカネルの苦戦に苛立ちを隠せないハンコックも参戦する。

まさかのここでイープ対ヤマト、カネル、ハンコックの即席チームの一対三の戦いが巻き起こった。

 

先手を打ったのはボア・ハンコック。イープの前に立ち、両手を構えて、

 

「『メロメロ甘風』!」

 

自らの必殺技を放つ。同性ですら魅了し、虜にし、石化させるこの技。ましてイープは男、ハンコックはこの時点で勝利を確信した。

 

だがそれは当然甘い。

 

「ナメてるよねー」

 

イープにそんなモノ効く筈無いだろうに。

 

「こんな甘い殺し愛してんのにー、イロゴトにうつつ抜かそーなんてさー!!」

 

根っからの狂喜、狂気の塊のイープに色恋、劣情、性欲の文字は存在しない。まして戦いの中でそんな感情に目覚めるだなんて神聖な死合いを汚す行為に等しい。

 

「ええ、皆さんどうぞかかってきて下さい。大丈夫です、ご安心下さい。殺しはしません。ですが……絶望するほど転がして差し上げます」

 

お笑いみたいな理由で自分に向かってくる部下ヤマト、自分を見破れない妹カネル、戦いに不浄な感情を持ち込んでくる恩知らずハンコック。イープは怒っていた。いまいち乗らない理由で戦いに繰り出されるこの状況に、そしてその原因に。

 

それでも戦闘モードに移行する。ついでに吹き出る怒気。それは覇王色の覇気とは全く違うものなのに原因不明解析不能の圧力を生み出して他を圧倒する。もうこの闘技場で意識があるのは戦う四人と手練れの観客一人しかいない。




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