前略。多由也に転生したけど、人生の詰将棋をしている気分です。 作:N-SUGAR
あれ?この挨拶、一つ前の話でもしてる?おかしいな?どういうことなんでしょう?不思議ですねぇ……。
仕方ねぇ。仕方なかったんや。3次元でやることが多すぎたんや……。
そんな訳で、1年ぶり(!?)の更新です。お話を忘れてしまってる人に、前回までのあらすじ置いときますね。
野生の重吾があらわれた!▼
はい。そんなわけで、お話を十全に思い出せたところで、久しぶりの本編行ってみよー!
ここで自分に向けて一言
「じゃあ、これからは書けるんだよな?」
「死ね! 死ね! 死ねェ!!」
顔面に向かって一直線に振るわれる剛腕を、私は仰け反って避ける。紙一重、鼻の先を掠めて通過した腕は私の予想以上に伸びて壁を貫き、菓子細工の如く粉々に砕いた。
背中を反らしたまま跳び上がり、そのまま小さく後ろに一回転してから体勢を立て直すと、間髪いれずに横合いへと退く。瞬間、追撃の拳がぐにゃりと伸びて先程の着地点を削り抉った。変幻自在の身体というやつは間合いが掴みづらくて本当にまいる。距離を取りつつ、笛の音を奏でて幻術をかける私であったが、しかし、殺意と暴力を振り撒く怪物に、私の音楽が届く様子は見受けられなかった。
「また幻術が効かないのか……。ウチの周り、幻術が効かない奴が多すぎないか?」
呪印。そのオリジナルである重吾の状態変化は彼の一族の間では『仙人化』と呼ばれている現象だ。文字通り仙術の一種であり、自然エネルギーを取り込むことによって、忍術、体術、幻術の全ての威力を底上げし、同時にそれらの術に対する高い耐性を得ることができる。更に加えて、重吾の呪印は暴走状態だ。相手のチャクラの流れを支配することによって成り立つ幻術は相手のチャクラが暴走していると掛けることが難しくなる。常に幻術返しをかけてるのと同じ状態なんだから当然ではあるが、仮にその上から幻術にかけようとすれば、それは暴走する嵐を上から押さえ付けるがごときパワーゲームを強いられることになる訳だ。まだまだチャクラ量が並の域を出ない私じゃあ、重吾の暴走を幻術ひとつで止めることなんてできやしない。それができるんだったら、原作の時点でできてなきゃおかしいってもんだ。ワンチャンかかってくれたら楽なんだけどなと思い奇跡に賭けてみたが、やっぱりそんなに都合のいい話は無かったみたいだ。
ため息をつきながら笛とクナイを持ち換え、十分な距離を保った状態で重吾へと投げつける。重吾がごつごつとした異形の腕でクナイを受け止めた瞬間、クナイに巻き付けていた起爆札が爆発したが、その結果は腕の一部が少し焦げる程度で、その焦げ跡もすぐに治ってしまう。やはり起爆札一枚では特にこれといったダメージは与えられないらしい。互乗起爆札なら容易く殺せそうだが、今回私は別に重吾を殺したい訳じゃない。
重吾をお互い無傷の状態で取り押さえたいのだ。
「うーん。じゃあ、これならどうだ?」
私は土遁の印を結び、床から二枚の土壁を作って重吾を挟み込む。岩隠れ伝統の『土遁・山土の術』ってやつだ。
「オラァッ!!」
が、両腕を横に伸ばして迫り来る土壁を受け止めた重吾は、そのまま掌からチャクラのエネルギー弾を発射し、壁を粉々に砕いてしまう。
「これだけか? これで終わりか? じゃあ死ね!!」
ごりごりと重吾の身体が変形し、両肩に砲台が出来上がる。
キュイィィィン……。と、甲高い空気の震えを発しながら、両肩の砲台にチャクラが集まる。さっき土壁をぶち抜いたエネルギー弾を、今度は私に向かって撃つつもりか。
私は印を結び、私の前に結界を貼る。『五重結界』。すぐに作れる結界の中じゃ最高硬度の結界だが、さて、威力はどれ程か。
ゴバァ!!!! と、砲弾からチャクラエネルギーが迸る。純粋なエネルギーの塊をそのままぶつけるとか、技の作風がこいつだけ別物なんじゃないかと一瞬思ったが、原作を思い返すとこいつみたいなことをする化け物は割と頻繁に登場するし、なんなら他の連中の方がよっぽど酷かった。
「尾獣玉とかじゃないだけマシだと思うべきなのかね」
そんなことを口走ってしまう私は感覚が大分麻痺してるんじゃないかと少し心配になるが、結界は一枚割れただけだったし、見た目の割には実際威力はそこまででもない。まあ、結界自体にも工夫はしてるんだけど。
真正面から来るエネルギーの塊に、真正面からただ壁を張ったらエネルギーをもろに受けてしまう。あーゆー流動するエネルギー体を相手にするときは、ただ平面に壁を張るのではなく、船の船首のように鋭角に曲がった壁を張ってエネルギーの抵抗を多少逃がしてやれば威力は軽減される。私が張った五重結界もそういう形をとっていたから被害が一枚で済んだわけだ。真正面から受け止めていたら、三枚くらいは割れていたかもしれない。
「小賢しい!!」
ただし、こんな小細工で威力が軽減するのは、対象が流体だったらの話だ。相手が固体、例えば、普通に拳で殴りかかって来たときには、この形の結界は大した意味を持たない。
床を踏み抜きながら一瞬で結界の前まで移動した重吾が、結界に向かって連打を叩き込む。パンチを後押しするように、肘から蒸気機関みたいな煙を勢いよく吐き出し、ガシャンガシャンガシャンと、まるでガラス窓を割るように結界が一枚二枚と破壊されていく。
……ガラスみたいっつっても、一枚一枚に防弾ガラスレベル以上の硬度はあるはずなんだけどな。この結界。
「オラァ!!」
両腕で掌打を叩き込み最後の一枚を割った重吾の腕が、そのまま伸びて蛇のようにぐるぐる私の身体に絡み付く。ものすごい力で両手両足を縛られた私は、あっという間に身動きが取れなくなった。
「馬鹿力だな。完全にパワータイプ。しかも身体の形を変形させやがるせいで動きも読み辛い」
「大丈夫かい多由也。手伝おうか?」
重吾と私の戦いを傍観していた君麻呂が、今更ながら口を挟む。私が頼んで傍観してもらっていたのだが、流石に不味いと思ったらしい。
助けてくれるんなら助けて欲しいものだが、私が重吾の殺人衝動相手に余裕を持って対処できることを示せなければ、重吾の友達として私は十全とは言えない。これから龍地洞に案内を頼まなければならない友達候補と安全に付き合えないようでは、君麻呂の期待に申し訳が立たないだろう。
だから私は自分の力で穏便に、重吾の殺人衝動を抑え込めなければならない。
「いや、大丈夫。対処法はだいたい分かった」
だから私は君麻呂の申し出を断った。ピンチと言えばピンチだが、逃れられないほどのピンチではないし、実際対処法にもある程度見当がついている。
君麻呂にしか無傷で抑え込むことのできなかった重吾の殺人衝動。実際体験してみれば、そりゃそうだとしか言いようがない。このとんでもパワーと変形する身体を完封できる奴は、いくら音隠れが魑魅魍魎どもの集まりだと言えど、君麻呂くらいしかいないだろう。
超パワー型の、ビーム砲まで搭載している重吾を安全に抑えつけるには、重吾のパワーでも破れないほどの強固な拘束が必要になる。音隠れは面倒な能力を持つ者は大量にいるが、大蛇丸様の集める血継限界や秘伝忍術は傾向的に、トリッキーな特殊技能タイプの割合がとても多い。物質化霊や幻術を扱う私もこのタイプに分類される。一見パワータイプっぽい次郎坊でさえ、その能力は特殊な結界によるチャクラ吸収へ特化した特殊技能タイプなのだ。純粋なパワータイプの能力者は音隠れには希少な傾向にある。故に、そのパワーを補強するために重吾の呪印が研究されているという事情もある訳だ。だから音隠れにおいて一番純粋なパワータイプである重吾を正面から止められる能力者はほとんど皆無と言っていい。特殊技能タイプの能力に重吾のパワーを越える出力やそれを抑え込める程の異常性があれば問題はないが、そんな都合のいい能力も、この音隠れには存在しなかった。たった一人の、例外を除いては。
それが君麻呂。超高硬度の変幻自在な骨を操る血継限界の持ち主。攻撃、防御、そして拘束。あらゆる面において活用可能な能力であり、その出力は、音隠れにおいてほとんど頂点を極めている。音隠れにおいて唯一、重吾の変幻自在な攻撃を正面から受け止め、かつ拘束可能な能力者。
君麻呂の骨ならば、重吾にぐるぐると巻き付けるだけでそのまま重吾を拘束できる。絶対防御の骨は、そのまま最強の拘束具に転用できるのだ。その防御・拘束性能と来たら、今まで相手をしてきた『暁』のメンバー達でさえ、正面からじゃ破壊できないほどである。逆に言えば、そのレベルの拘束具がなければ、重吾の完封は難しい。
まったく、今更ながらとんでもねー化け物だ。いや、この場合は、とんでもねー化け者共だと言うべきか。流石に音隠れのトップランカー二人なだけはある。君麻呂や重吾の相手なんかしたら、並の上忍ではまず歯が立たないだろう。
そして、私はそこに並ぶことが期待されている。大蛇丸様からも、君麻呂からも。扉間様なんか、それ以上すら求めてくる。全くもって過ぎた期待だ。
だが、これも生き残るため。私はその期待に応える責務がある。この責務に応えれば応えるほど、私の寿命は延びて行く。
なら、否が応でも、その期待に応えるしかないだろう。
実際に戦ってみて、重吾の殺人衝動を抑えるのに必要な条件がそれだけ分かれば、私にも対処法は思い付く。私には君麻呂のように骨の絶対防御を繰り出せる特殊能力なんぞ持ち合わせがないが、それでも、代替品くらいは持ち合わせているのだ。
取り敢えず、私はギリギリと締め付けられる身体を何とかするために、結界忍術の印を結ぶ。そして、締め付けてくる重吾の腕と私の身体のわずかな隙間に結界を張った。重吾のパワー相手に長持ちするような結界とは御世辞にも言えないが、わずかな間少しでも腕の拘束を押し返せれば、この結界は役目を十二分に果たす。
つるり。と、私の身体が重吾の腕からすり抜ける。結界で隙間を作って、かつ下に穴を開けておけば縄状の拘束なんぞ何時でも抜け出せる。そして私はしゃがんだ体勢から更に印を結び、重吾の身体に関節を次々と塞ぐような形で結界を張り巡らせていく。
重吾の動きが一瞬止まる。いくら関節を塞いだとは言え重吾の超パワー相手だ。早速バキバキと結界が割れていく音が聞こえるが、一瞬動きを止められればそれで十分だった。私は、最後の仕上げに取りかかる。
重吾の殺人衝動の原因は、体内で暴れまわる自然エネルギーの精神作用だ。重吾の細胞は周囲から自然エネルギーを取り込み続ける性質があり、取り込まれ続け、溜まっていく自然エネルギーはやがて行き場所を失い、殺人衝動という形で発散される。呪印によって生じるエネルギーが精神を攻撃的にすることは原作で初期のサスケに起こった事象を見ても分かることだし、実際呪印を埋め込まれた自身の感覚からも、呪印発動時は心なしいつもより気性が荒くなるような実感はある。
そんな重吾の殺人衝動を抑える手段は主に2つ。暴れまわるエネルギーをすべて発散させるか、そのエネルギーを完全にコントロール下に置くかだ。君麻呂の骨で拘束すれば重吾がどれだけ暴れてもその拘束が解けることはないし、暴れているうちにエネルギーは発散される。音隠れにおいては現状、重吾の安全なエネルギー発散方法はそれしかない。
では私はどうするか。一つだけ考えが有るが実は上手く行くかどうかはちょっとした賭けになる。
重吾は好きこのんで暴れたい訳じゃない。暴れたくないけど、そうしなければエネルギーが発散できないから仕方なく、二重人格のような攻撃性を発露しているにすぎない。つまり、暴れるエネルギーをコントロール可能な量にまで減らすことができれば、重吾の方から殺人衝動を引っ込めてくれる訳だ。
なら、コントロール可能な量まで重吾の体内にある自然エネルギーの量を減らしてやればいい。具体的には、私が重吾の体内にある自然エネルギーを吸い出してやればいい。
そんなことが可能なのか? もちろん可能だ。だって私の身体は、
呪印を埋め込まれているから、だけじゃない。君麻呂との最初のバトルで死にかけ、身体のあちこちを欠損した私は、その傷を完治させるために大量の重吾の細胞と少量の柱間細胞を埋め込まれている。そのため呪印発動時の自然エネルギー吸収量は通常の比じゃないレベルに達しているのだ。封印術でコントロールしているが、それがなければあっという間に身体が破裂してしまう程度には。
重吾の細胞によって生じる負荷は凄まじい。恐らく私も君麻呂も、自然エネルギーの精神作用へのコントロールに関しては今の段階ですでに重吾よりも扱いが上手いとは思う。それでも、自然エネルギーを際限なく吸収し続ける重吾の細胞を何の対策もなく扱えるほどのコントロール能力は身に付けられる気がしない。仙人として修業でもすればその限りではないのだろうが、逆に言えば仙人としての修業でも積まない限りは重吾細胞の完全コントロールなど永遠に不可能だろう。私は封印術、君麻呂は劇物レベルの特殊な丸薬で、重吾細胞の過剰な活性を辛うじて押さえ込んでいるにすぎない。
だからおそらく、現在重吾の身体の中に渦巻いているすさまじい量の自然エネルギーの前には、私でさえ殺人衝動に抗えずエネルギーを暴走させてしまうことだろう。そう思わされるだけのエネルギーが、暴走する重吾の体内を渦巻いている。
だけど、そのエネルギーが二分の一だったら? それくらいの量ならば、今の私でもギリギリ扱いきれるのではないか? それくらいの量まで減らせば、重吾もひとまず正気を取り戻すのではないか?
チャクラコントロールが、可能になるのでは?
試してみる価値はある。吸い出してみる価値がある。
仮に扱いきれなかったとしても、吸い取った端から安全な方向にエネルギーを放出し無駄遣いしてやればそのうちエネルギーは尽きるだろう。
私は重吾の背後に回り込み、重吾の背中にピタリと身体を押し当てる。そのまま己の呪印を発動させ、自身の姿形を変容させる。
エネルギーの吸い出し。搾取のノウハウは、既にある。私の『物質化霊の術』は不安定な精神エネルギーを通じて身体エネルギーを食らう術だが、この術の感覚をそのまま、自然エネルギーを吸収し続ける重吾細胞に置き換えてやれば、他者から自然エネルギーを奪い取ることは可能な筈だ。私は周囲の空間からではなく、目の前の重吾の内側に渦巻く自然エネルギーに意識を集中させ、そのエネルギーを吸い出す。
どくんどくんどくん、と。エネルギーの奔流が自身の内に流れ込むのを感じる。今までに無い凄まじい量の自然エネルギーが一気に身体の中を駆け巡り、ビリビリと痺れるような感触を覚える。身体が熱い。肌が今までにない速度で褐色に染まっていき、メキメキと身体の形が変わっていく。
「……っ!」
流石にきついな。身体が今にも破裂するんじゃないかと思うような内側からの圧迫感。だが、有り余るエネルギーのおかげで、私のチャクラに幾分の余裕が生まれる。私は口笛を吹き、重吾に幻術を掛ける。
ガクンと、重吾の身体が痙攣し、力みが生じる。よし! やっぱりだ。今の状態なら、重吾に私の幻術が通る!
重吾からエネルギーを吸い取って、吸い取ったエネルギーで幻術を掛ける。普段の私ならば力負けしてしまう程のチャクラ差があったとしても、これならば、重吾相手にパワーゲームを仕掛けることもできるという訳だ。
とろん、と、重吾の殺気に満ちた目が蕩け、瞼が垂れ下がっていく。
指先から仙人化が剥がれ始め、私にのし掛る体重が増えてくる。
やがて、重吾の身体からぐったりと力が抜け、がくりと膝が折れる。そのまま重吾は、私に両脇を支えられながらゆっくりと地面に腰を下ろした。見れば、異形化は完全に解けたようで、オレンジ髪の朴訥そうな少年が私の腕に抱えられていた。原作でも見た事のある、重吾の少年時代の姿だ。
「ふう。一丁上がり。どんなもんだ」
「ああ。凄い。多由也なら重吾を抑えられると信じてはいたが、まさかそんなやり方が有るとは……」
「ま、ウチ等みたいに重吾の細胞を大量に取り込んでる奴にしか出来ない方法だけどな。ほとんど同じ身体だからこそ、エネルギーの受け渡しが容易に行える」
原作でも、重吾はサスケと自然エネルギーの受け渡しや細胞そのものの譲渡を行っていた。流石に後者に関してはオリジナルである重吾本人でないと出来る気がしないが、それでも身体の半分以上が重吾の細胞で代用されている私や君麻呂ならば、直接触れさえすれば重吾の体内エネルギーを奪うことくらいできるだろうという私の読みは、見事に当たっていたようだ。
「難点は、吸い取るエネルギーのバランス配分が割とシビアだってことと、正しい分量を吸い取っても量が多すぎるから、戦闘後暫く状態2が抜けないって事くらいか。後は、接触してないとエネルギーが吸い取れないから、重吾をある程度拘束してからでないとできないっていう、準備段階での不安要素くらいか? とにかく、重吾の暴走への対処は、ウチ一人でも出来るってことがこれで証明されたな」
「ああ、うん……」
「うん? どうした君麻呂。あんま嬉しそうじゃねーな」
君麻呂が微妙な顔で相槌を打つのを見て、私は首を傾げて君麻呂の顔を覗き込む。
「いや、嬉しいよ! これで、ボクは大手を振って重吾に君を紹介できるんだからね!」
君麻呂は慌てた様子で言い訳のようにそう述べると、私から若干目線を逸らして言った。
「まぁ、でも、多由也1人だとやっぱり多少は手間取るみたいだし、重吾の暴走を効率的に抑えられるのはやっぱりボクみたいだから、次もし重吾が暴走したら、その時はボクが抑え込むよ」
ふむ。まあ、確かにそうだろうな。
「ああ。重吾の拘束は、君麻呂の骨でやった方が幾分手っ取り早いだろうな。君麻呂が拘束して、ウチが暴走するエネルギーを吸い取るのが、一番効率いいだろ」
「え、いや。拘束さえ出来れば、後は時間が重吾を落ち着かせてくれるよ」
「何分かかるんだよそれ。ウチが吸い出せば一瞬だぞ?」
「えーっと、ほら! 今回のは、万が一の時に多由也が重吾を抑えられる事を証明するための戦闘だったし、基本、その役目はボクのものだからさ。多由也の手を煩わせることはもう基本的にはないっていうか……」
訳の分からない事を言い始めた君麻呂に、私は訝しげな視線を向ける。何に言い訳しているのか知らないけど、もしそれが言い訳なのだとしたら、大分苦しくないか?
こいつは一体、何を躊躇してるんだ? 本来自分にしか出来なかったはずの暴走した重吾を抑え込むという役割を私に盗られたくない? いや、だとしたら、そもそも私を積極的に重吾へ紹介すること自体に躊躇いを覚えるはずだし、そうじゃないとしたら……。
──もしかしてこいつ、私が重吾の暴走を抑える為に用いる手段が気に食わないのか?
へーん? ふーん? ほーん? つまり、平たく言えばこういうことか? 君麻呂、お前、重吾に私が密着するのがいやだって?
へぇ〜〜〜?
思春期かお前は! 自分の恋心すら無自覚のくせに彼氏面か!?
くそ! 可愛いじゃねーかチクショウ! 私は思わず緩む口元が君麻呂に見えないように手で口周りを隠す。多少自意識過剰な思い込みが入ってるだろうことは否めないが、しかし君麻呂の今の心情なんて、状況証拠から判断すれば大凡はそんなもんだろう。私はニヤリと目を細め、心の隅からイタズラな感情を覗かせる。
「だけどな君麻呂、実際問題、私が吸い出した方が効率いいってことは分かるだろ?」
「それは、そうだけど……」
「なんなら、君麻呂が完璧に拘束さえしてくれれば、もっと効率よく吸収することだってできる」
「もっと効率よく?」
君麻呂が、何か別の方法があるのだろうかと期待を込めた顔で目線を戻す。ので、私は嬉々として説明してやった。
「私の方法でエネルギーを吸収する際は、身体同士の接触面積が広く、点穴に近く、肌の薄い部分同士で触れ合う方がより素早く多くのエネルギーを吸収できる」
「……つまり?」
「後ろから抱きつくよりは前から抱きついた方が効率がいいし、服の上からよりは肌と肌を重ね合わせた方が直ぐに吸収できる。そうすれば、マジで一瞬だ。5秒で終わる」
因みに本当に1番効率がいいのは粘膜接触なんだが、こっちの世界は初心な思春期くんにはまだ早い。私も言うの抵抗あるし。
「はだっ……!? それは流石にまずいんじゃ」
「どうした? 何がまずい? 言ってみろ」
「いや、何がって言うか、多由也は嫌じゃないのか!?」
「まぁ、仕方ないんじゃねーか? 緊急事態だし、医療的処置みたいなもんだしな」
むむぅ! と、ぐうの音も出なくなった君麻呂の額に脂汗が浮かぶ。ふはは。愉快愉快。精神的に追い詰められている美少年を見るのは実に健康にいい。
私が心の中でけたけた笑いながら見ていると、君麻呂は数瞬唸ったあと、何かを思いついたように顔を上げた。
「そうだ。多由也のやってるそれは、ボクにもできるだろう? ボクの身体も半分以上重吾の細胞なんだから。だったら、多由也がボクにやり方を教えてくれれば……!」
「ふむ。名案だが、お前にエネルギー吸収の感覚は分かりづらいだろう。ウチには物質化霊の術があるから、それと同じ感覚でできたけど」
「多由也が教えてくれれば多分できる!」
「なるほど? じゃあ」
私は君麻呂に向かって両腕を広げ、
「ウチがお前にエネルギーを送ってみるから、感覚を覚えるといい」
と、提案した。
「ウチと重吾、重吾と君麻呂で同じことができるんなら、ウチと君麻呂でも同じことが出来るはずだろ? 丁度いい。重吾から奪った自然エネルギーが有り余って邪魔だったんだ。お前がウチからエネルギーを吸い取って、感覚を覚えれば一石二鳥だな?」
「──────っ!?」
なーにを今更赤くなってんだこのドグサレ朴念仁は。お前、私に抱きつくの初めてじゃねーだろ。ついこの間、病気が治った時に感動のハグを交わしたばっかじゃねーか。
まあ、君麻呂の動揺を眺めているのは素直に小気味いいので、そういった反応は全然ウェルカムなんだが。
「どうした? 教えて欲しいんだろ?」
「それは勿論! えっと、じゃあ……」
君麻呂が、私の両肩に手を置いて、ゆっくりと近付いて来る。前回の時は溢れる感情に任せて勢いで抱き着いていたみたいだが、いざ改まってもう一度となると、どうやら気恥ずかしさがあるらしい。
焦れったい。あんまりまごまごしていると、こっちまで気恥ずかしさで死にたくなってくるからさっさとして欲しい。私のSっ気と羞恥心は、かなりその場の勢いで激しくせめぎ合っているのだ。
二人の距離が縮まるにつれて、最初私の肩に置いていた君麻呂の手の位置が、少しずつ下に降りてくる。両の肘が私の両脇を通り過ぎる頃には、腕は私の腰に軽く巻き付き、私の目の前には君麻呂の鎖骨が目一杯に映っていた。直立に近い姿勢で向き合うと、身長差が露骨に現れるな……。
このまま抱き合うと、私は君麻呂のはだけた着流しの胸元に顔を突っ込むことになる。剥き出しの胸筋に今にも鼻の先が触れそうだし、ふんわりと、どこか嗅ぎ慣れた甘やかな芳香が鼻腔をくすぐる。
心臓がドクンと跳ねる音がする。まずい。今更気恥ずかしさが感情の過半数を占めだした。早まる鼓動がうるさいほどに内側から身体を刺激する。どうしよう。このまま抱き合ったら、私がすげードキドキしてるのを君麻呂に気付かれちまう。
まずいと思った瞬間、君麻呂は意を決したのか、腰にまわした手に力を込め、私の身体を引き寄せる。しまったと思うのも束の間、身体いっぱいに君麻呂の気配が広がって、私は思わずギュッと目を瞑り──。
「──あの、これは今、どういう状況なんだ?」
──耳に届いた坂口周平様(声優)ボイスのおかげで、のぼせた頭が我に返った。
平静に戻った重吾が、どうやら目を覚ましたらしい。
ぴたり、と、私と君麻呂は動きを止める。重吾の声に反応して、反射的に胸の前に両手を差し込んだおかげで、私の身体はギリギリ君麻呂に密着していない。我に返ったおかげで、心臓の鼓動も少し落ち着いた。私達は、どうやら完全に時期を逃したらしい。私は「はぁ……」と、後悔とも安堵とも分からないため息を吐き、突然の事態に硬直してしまっている君麻呂を無言で突き飛ばした。タイミングが良かったのか悪かったのか判断に迷うが、まぁ、私的には結果オーライだ。自分から挑発しておきながら自爆するなんていう不名誉な事態は、どうやら避けられたみたいだし。
「眠り狼のお目覚めだな。おい君麻呂、友達にウチを紹介するんだろ?」
「あ、うん……」
しれっと状況をリセットした私の言葉を受けて、君麻呂はまだちょっと呆然としながら生返事を返す。
おあずけをくらった犬みたいな微妙な顔をしながら、君麻呂は咳払いをする。
「えーっと、重吾。さっきの記憶も残ってるだろうから軽く紹介する。彼女は多由也。君の呪印を受けた一人で、ボクの今の相棒だ。今日は、彼女を紹介するために重吾に会いに来たんだ」
「よろしくな重吾。初対面で殺しあった同士だ。仲良くしよう」
にこやかに笑いながら、私は重吾に手を差し出す。どうやらまだ状況をつかみきれていないらしい重吾は、ぽかんとした表情のまま私の手を見つめる。
「えーっと、つまり、君麻呂は、オレに彼女のことを紹介しに来たと?」
「そうだけど?」
重吾の再度確認に君麻呂が応えると、重吾の顔がなんとも微妙な表情を浮かべる。
「──惚気に来たのか?」
「違うわ!」
思わず差し出した手で重吾の頭を叩く。スパーン! と、小気味いい音がして、重吾の額が地面に叩きつけられる。しまった。まだ私の身体、状態2が解けてないのを忘れてた。
「だ、大丈夫か!?」
慌てて安否の確認をすると、重吾は額を擦りながらも平気な顔でむくりと起き上がった。流石呪印の一族。丈夫さだけはピカイチだ。
「君麻呂。お前、随分過激な彼女を連れてきたな」
「だから違うっつってんだろうが! 人の話聞いてねーのかこのゲリグソヤロー!」
初対面の挨拶から暴力と暴言をかましまくってしまっている私だが、通常状態の重吾は大分マイペースな性格らしく、あまり私の暴力暴言を気にしている様子はない。ただ、そんな挨拶の応酬についていけていないヤツが一人いることを忘れてはならない。
君麻呂である。
「あの、意味がわからないんだが。惚気とか何とか、どういう意味だ?」
困惑した表情で、おそらくそういう言葉の存在すら知らないであろう超絶純朴初心な箱入りお坊ちゃんが尋ねてくるが、当然私の立場としては、そんな言葉の意味をこの場で教えてやるつもりは無い。こんなところで万が一にでも二人の約束が果たされてたまるものか。
だが、そんな事情など知る由もない朴念仁が、この場にはもう一人。
「どうって、そのままの意味だろう。そうか。とうとう君麻呂にも春が……」
「テメーちょっと黙ろうか」
私は重吾の首根っこを掴み、ズルズルと地面を引きずりながら君麻呂から引き離す。
「生きる戦闘マシーンとして育てられたせいで知識の偏りが酷いあの天然箱入り息子に余計な知識を吹き込むなクソヤロー。アイツにはそういう感情の存在に自力で到達して貰わなくちゃウチの立つ瀬がねェ!」
「えぇ……。意味がわからない。関係が拗れ過ぎでは?」
君麻呂に聞こえない程度の声で恫喝する私の脅迫内容を聞いて、重吾が戸惑いの表情を浮かべる。おい引くな引くな。関係が拗れてる事なんざこちらとて百も承知なんだよバカヤロー。
「……おーい。二人とも、初対面のはずなのになんでそんなに仲良さげなんだ? ボクも会話に交ぜてよ」
コソコソ私と重吾が話し込んでいると、背後から君麻呂が切なそうな声で呼びかけてくる。そうだ。こんなことに時間かけてかかずらってる場合じゃないのを思い出した。
「よし。分かったらこれ以降私たちの間で色恋系の話は禁止な。そんなわけで改めまして、ウチは多由也っつーんだ。よろしく重吾」
「何も分かってないし何がそんなわけなのかもさっぱり分からないが、取り敢えずこれだけは言わせて欲しい。君はそれが自己紹介で本当にいいのか?」
いいよ。もうどうにでもなってくれ。私はさっさと話を進めて話を逸らしたい。
「よし。君麻呂。自己紹介終わったぞ。次行こう次」
「え。さっきの話はもういいのかい?」
「なんの話だ? ごめんな。ウチ、どうでもいい話は一瞬で忘れちまうタチなんだ」
「全然どうでもいいってテンションじゃなかったと思うんだが……わかったよ。追求して欲しくないんだろ?」
眉間にしわを作りながら笑顔で威圧し、私は君麻呂の疑問を封殺する。私の相棒は一部の話題に関することでさえなければ非常に察しのいい人間なので、割と無言で圧を送ればそれなりに察して空気を読んでくれるのだ。我ながらなんとも情けない話だが、そういう君麻呂の察しの良さに甘えてしまう事は割とよくある。
「なら、話を次に移そう」
君麻呂が咳払いの後に言った。
「龍地洞」
その言葉に、重吾はひくりと眉の端を動かした。
「ボクと多由也は、そこに用がある」
「……成程」
重吾は納得したように小さく頷いた。
「だから君麻呂がオレの元に来て、こうして多由也を紹介された訳だ」
納得したような表情の重吾はしかし、険しい顔をしていた。その顔を見て不穏な空気を察したのか、君麻呂はさらに言葉を重ねる。
「重吾。君にとって龍地洞はもしかすると辛い過去を呼び覚ますものなのかもしれない。だけど、ボクが思うに──」
重吾にとって龍地洞は、自分が家族を
「
と。
「そういう問題じゃない? じゃあ、どういう問題なんだ?」
私が訊くと、重吾は険しい顔で問い返す。
「君麻呂と多由也が龍地洞に用があるってことは、狙いは龍地洞の白蛇仙人だろう?」
仙人の元で、仙術を学ぼうというわけだ。そんな推測を述べる重吾に、私達は頷く。全くもってその通りだと。そして、そんな私たちを見て、彼は忠告する。
「白蛇仙人は悪辣な仙人だと言われている。君麻呂が強いのは知っているし、多由也の実力も、君麻呂に比肩するくらいのものがあるんだろう。その上で忠告するけど──」
──君達、死ぬぞ。
そんな重吾の忠告を聞いて、私は思う。
なんだそんなこと。今更だな。
悪辣な仙人ならもう既に一度会っているし、その結果死ぬか死なないかで言えば、私はもう既に一度死んでいる。そんなこと、言われなくても百も承知だ。
だけど、行けば死ぬかもしれなくとも、それでも行かねば死んでしまうのだ。だから私は、次の瞬間には死ぬかもしれない人外魔境にも、死ぬ気で生き抜きに行くのである。
だから私は、重吾の深刻な忠告にこう返すことができるのだ。
「だからどうした?」
▼次回に続く。
あとがき
うぇーん!こいつら付き合ってんだ!惚気に来たんだー!
Q.暫く会ってない友人が突然彼女連れで訪ねてきた時、あなたならどうする?
A.殺す。
重吾さんの行動は間違ってなかったのでは?
まぁ、それはそれとして。どうも久しぶりに筆を取ったせいで文章の書き方を忘れましたな。というか、性癖の出力がちょっと上手くコントロール出来ない。下手すると延々性癖垂れ流しそうだったんでちょっと無理矢理終わらした感あるよね。もしかして、今私の住む町にY談結界とか張られてます?私が最強ってことでOK?
戯言はともかく、卒論だの就活だのバイトだの、やること多すぎて小説投稿とかしてる場合じゃない今日この頃。執筆頻度の過疎化は甘んじて受け入れていただきたい。私も書きたいのよ!でも書いてたら徒に時間が過ぎてくの!サンタさん私にタンマウォッチちょうだい!え?それはドラえもんに頼め?あっそう……。
そんなわけで久しぶりの更新でした。お楽しみいただければ幸いです。クリスマスプレゼントじゃオラー!
前書きの一言に対する自問自答
「終わらない卒論……。確定しない就職先……。うっ!頭が!」