あくいのオトモダチ   作:カードは慎重に選ぶ男

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第1話:ララちゃんなんて大っ嫌い!

闇夜に包まれた観星町の天文台にて。

居候の少女……春日部ナユタは手帳を開きつつ、自分の今後の予定を頭の中でまとめていた。

 

とある事情によって50年ほど時間逆行してしまったという経歴を持つナユタは、2019年現在の地球人が知りえない未来を知っていた。

2035年に地球とサマーン星が正式に異星間交流を持って以降、サマーン星の技術が地球へと次々に導入される。

新たな技術が同時にもたらした公害に対して法規制は間に合わず、地球は漆黒のネビュラガスで覆われた死の星と化してしまうのだ。

 

 

(あの未来は変えたいけど、その場合アタシってどうなるんだろ? タイムパラドックスが起こって消えたりとか? あったらヤダなー?)

 

せっかく悲劇が起こる前の時代へと辿り着いてしまったのだから、故郷の未来を変えたいという思いはある。

その場合に、春日部ナユタ自身がどうなるのか……考えても答えは出なかった。

歴史が上書きされるのか、もしくはナユタ自身が消滅するのか、はたまた歴史の修正力でも働いて正史通りに物事が進んでしまうのか。

検証する術も元の時代に帰る手段もないナユタには、知りようもない問題だった。

 

天文台の一部屋から見える星々は、ナユタの悩みなど知らぬ存ぜぬといった調子で輝いていた。

ナユタが生まれ育った時代では終ぞ見ることが叶わなかった満天の星々を、この時代に来て初めて見たとき……心が揺さぶられて涙が零れたのを、ナユタは忘れない。

祖母が好きだと言っていた星空とはこんなに奇麗なものだったのだと、その時ようやく理解できた。

 

 

(未来を変えるための重要人物は、「星奈ひかる」と「羽衣ララ」のはずなんだけど、これまた扱いが難しいんだよねー)

 

2035年当時に、宇宙飛行士だった星奈ひかるは、サマーン星の調査員ララと宇宙空間で歴史的なファーストコンタクトを果たす。

当時の星奈ひかるは、どうもサマーン星のロケットをただの流れ星だったことにして隠蔽しようとしたらしいが……さすがに無理があった模様。

これがナユタの時代の教科書に載っていた『正しい歴史』だ。

 

だが、幸か不幸かナユタはもう少しだけ深い事情を知るチャンスに恵まれた人間だった。

どうも、2019年の時点で羽衣ララと星奈ひかるは既に出会っており、伝説の戦士「プリキュア」へと変身して宇宙を救ったらしいのだ。

観星中学のOBOG複数名から直接話を聞いたことがあるので、事実ではあるのだろうが……この「プリキュア」関連の事情は、考えれば考えるほど厄介だ。

 

 

(単純に星奈ひかると羽衣ララが出会わなかった場合、ネビュラガスの問題は無くなるかもしれないけど、プリキュアが足りなくて宇宙が滅びたら困るよなー……)

 

2070年代の地球を覆う有害なネビュラガスは、何とかしたい。

しかし、星奈ひかる達総勢5名には、プリキュアになって宇宙を救ってもらわなければ困る。

ナユタはあまり褒められた人間ではないと自覚しているが、さすがに全宇宙を滅ぼす愚は犯したくない。

となれば……春日部ナユタの方針は、一つしかないだろう。

羽衣ララたちがプリキュアになるのは邪魔してはいけないのだから……?

 

 

(羽衣ララが地球人と仲良くなるイベントを片っ端から潰して、「プリキュアではあるけど友達でも何でもない関係」で最終決戦まで行ってもらうルートしかないよね! 大丈夫だ、アタシならできる……たぶん!)

 

ミッションの難易度はともかく、当面の行動目標はそれでいくべきだろう。

ナユタは根拠のない自信で己の心を誤魔化しつつ、ぎゅっと拳を握ってみたのだった。

 

 

 

「……ナユタ君。ちょっと天体望遠鏡の調子がおかしいんだが、点検を頼んでも大丈夫かね?」

「アッハイ! ヨロコンデー!」

 

……折角のシリアスが台無しだった。

ナユタの借部屋の外から声をかけてきたのは、この天文台の管理人である空見遼太郎だ。

齢70近い老人である彼は、行く当てのない野良猫少女だったナユタを何も聞かずに天文台に居候させてくれている聖人君子でもある。

元より機械弄りが趣味と特技を兼ねていたナユタは、住み込みのアルバイターのような形で天文台で暮らしているのだ。

 

 

「へっくしゅんっ! 意外と寒い! もう1枚着てくるんだった!」

 

結局建物の外の電源系統まで見て回る羽目になり、4月の夜風の意外な寒さが身に染みた春日部ナユタであった……。

 

 

 

 

 

ふと夜空を見上げたナユタの視界を、一筋の流れ星が通り過ぎた。

運命の2019年4月27日。

サマーン星人らを乗せたロケットが地球へと墜落した。

きらめく星々をめぐる大冒険の幕が、静かにあがった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『あくいのオトモダチ』

第1話:ララちゃんなんて大っ嫌い!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2019年4月29日(月)の朝。

14歳の女子中学生……星奈ひかるは、浮かれていた。

昨日と一昨日は、宇宙人と仲良くなったりプリキュアになったり、まぁ色々あったのだ。

 

今まさに星奈ひかるは、故障中のロケットに居るであろうララのところへ足を運んでいるところだった。

鼻歌交じりにスキップしている星奈ひかるを見る人が居れば、十人中十人が「浮かれている」と言い表すであろうことは想像に難くない。

 

 

「オッハロー? ひかるちゃん、これ以上無いぐらい浮かれてるねー?」

「あ、ナユタちゃん? そうなんだよ! キラやばーなことが一杯あってね!」

 

観星商店街を抜けて、観星市の端にある山中へと向かう道で。

ロケットへと一路向かっていた星奈ひかるは、聞き覚えのある声に呼び止められていた。

 

振り返ってみると、やはり声の主は天文台の住み込みアルバイターの春日部ナユタだった。

背中にかかる長さの赤毛を、サクランボのような双玉の付いた髪留めで一纏めにしている女の子だ。

天体観測が趣味の星奈ひかるは、天文台にも頻繁に訪れるため、ナユタとは面識があった。

 

しかし、今の状況をどう説明したものか。

宇宙人の存在がバレようものなら、ララは星空連合から罰を受けて100年間の星間旅行禁止刑に処せられる危険性がある。

 

 

「宇宙人でも見つけたかなー?」

「ええっ、なんでそれを! じゃなくて、その、ええっと、ララちゃんは宇宙人だけど宇宙人じゃなくて、その、全然宇宙人じゃないの!」

 

よく会話はキャッチボールに例えられるが。

ド・ストレートな言葉の剛速球を叩きつけられて、ひかるの言語能力はエラーボールを吐き出した。

生来、ひかるは嘘が吐くのが苦手なのだ。

 

 

「頭キラやばの分際でオネーさんに嘘を通せると思うなよー?」

「もしかして私、罵倒されてる……? っていうか、お姉さんって。ナユタちゃんって結局何歳なの?」

 

身長は私の方が高いじゃん、なんて小声で漏らしながら。

そういえばナユタちゃんって結局何歳なのか教えてもらったことが一度も無いな、と星奈ひかるは思い至っていた。

ついでに何でも良いから話題を外したかった。

 

 

「ふふん。ナユタさんは友達全員と同い年だ! あと身長は良いんだよ。うちの女系は母さんも祖母ちゃんも最終的に180近くまで伸びたんだから全く心配要らないぞー!」

「ぶー! ナユタちゃん、いつも年齢ネタになると、はぐらかしてばっかりじゃん!」

 

まったく、秘密主義もいいところである。

見た目は女子小学生のようだが、天文台の機械類の修理を一人でやっているのは事実のようなので、実は成人しているのかもしれない。

管理人の遼爺の評によれば、腕は確かだということらしい。

しかし、これから身長が伸びるのを期待しているということは、やっぱり十代前半なのでは……??

 

でもまぁ、何とか話題を転換できたようで何よりだ。

ほっと息を吐きつつ、ぎこちない笑顔で手を振って、ひかるは速足で逃げ出した。

春日部ナユタは悪い奴では決してないと思っているが、あの底知れないナユタに興味を持たれたら、大変だ。

 

額の冷や汗を拭って、一仕事を終えた後のような清々しい気分で。

星奈ひかるは、一路ロケットへと向かったのであった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ララちゃん、おはよう!」

 

先程とは打って変わって満面の笑顔で手を振りながら。

ひかるは、山中でロケットの修理をしている最中のララへと挨拶の声をかけていた。

頭から生えている2本の極細触覚が特徴的な、サマーン星人の女の子だ。

 

 

「……オヨ?」

 

だが、振り返って星奈ひかるの方に視線を向けたララは、困惑の表情を浮かべていた。

もしかして寝癖がついているのかな、なんて自身の頭を触ってみた星奈ひかるだが、特に寝癖らしい感触は無かった。

 

 

「そっか、分かった! サマーンのやり方で挨拶したいんだね!」

 

ひかるは、両手の人差し指を突き出して、ララへと向けた。

サマーン星では触覚の先に付いた球体センサーを触れ合わせるのが挨拶だと、聞いた覚えがあった。

地球人である星奈ひかるは、真似をしようにも触覚が無いので、両手の人差し指で代用しているのである。

 

 

「なるほどなるほど。星によって挨拶のジェスチャーも違って当然か。興味深いねー」

「星奈ひかる……? あなたの隣に居る人は、一体誰ルン……?」

 

ひかるが左手側に顔を回すと、先程別れたハズの春日部ナユタが立っていた。

顎に指をあてて、興味深そうにララとロケットを観察しているようだ。

 

星奈ひかるは、思考がストップした。

ヤバい。

キラやばじゃなくて、マジでヤバい。

 

 

「うわあああっ! ナユタちゃん!? なんで!? どうして!!?」

「面白そうだったから、ひかるちゃんを尾行してきたに決まってるっしょー?」

 

一度誤魔化し通せたと思って油断してしまった星奈ひかるは、尾行に全く気付かなかったという訳である。

ひかるは、頭を抱えた。

だが、失敗してしまったものは仕方ない!

ララの方で何とかフォローが出来ないものかと、ひかるは一縷の望みをかけてララへとアイコンタクトを送った!

 

 

「オヨオヨオヨオヨ……!」

 

ララは オヨオヨ している !!

極細触覚をぐにゃぐにゃに歪めて目を回しているララを見て、ひかるは悟った。

ララはアドリブを期待しちゃいけないタイプの人だ、と。

 

 

「ララちゃんといったね。落ち着きたまえ。視点を変えれば世界が変わる。バレちゃっても良いや、と考えるんだ」

「ル、ルン?」

 

混乱しているララへと、さらっと接近しつつ。

春日部ナユタは、営業スマイルでララへと優しく語りかけた。

 

 

「地球で一番ウソが下手なひかるちゃんにバレたことに比べれば、大したこと無いさ。だから、ララちゃんの事情を聞かせてくれないかな?」

「ルン。そう言われれば、確かに……?」

「待って待って待って! ララちゃん! ナユタちゃんの口車に乗っちゃダメだよ!」

 

ひかるは、本能的にララとナユタの会話を打ち切ろうとした。

なんというか、ナユタの優しい語り口には危険を感じることがあるのだ。

誘導尋問的というか、詐欺師的というか、第六感的にマズイと思ってしまう場面が割とあったりして。

あと、地球で一番ウソが下手というのは流石に盛り過ぎだ……と思いたい。(希望的観測)

 

 

「オヨ……」

 

ララは混乱が抜けきらない様子で、ひかるとナユタへ交互に視線を向けていた。

ひかるは、なけなしの頭を使って必死に考えた。

ナユタの口車を何度か横から見たことがある星奈ひかるの経験則から言うと……。

ララみたいに真面目で頭が固い奴ほど、シャーペンの芯を抜くようにスルスルと情報を引き出されてしまうのだ。

 

 

「ひかるちゃんと、アタシを見比べてさ。困りごとをどっちに相談したいと思う?」

「ララちゃん! 私を信じてよぉ!」

 

余裕の営業スマイルを崩さない春日部ナユタ。

顔面を見れば分かるぐらいに大汗をかいている星奈ひかる。

両者を見比べて、ララが出した結論は……。

 

 

「ルン……。ナユタの方が、頼りになりそうルン」

「ありがとう。ララちゃんの信用に応えられるように心して聞かせてもらうよ」

「しょ、しょんなー!?」

 

崩れ落ちている星奈ひかるを尻目に。

春日部ナユタは、ララのロケットへと足を踏み入れたのであった。

 

ちょろいな、なんて心の中で呟いたナユタの真意を知る者は、いない。

 

 

 

 

 

 

星空界がうんたらかんたら。

スターパレスがどーのこーの。

ひかるとララの二人はプリキュア。

 

とりあえず後で書面でくださいなー、と言えるタイプの春日部ナユタは強かった。

そして、即座に書面を用意できるロケットの人工知能は有能過ぎた。

当面の目的は、主に2つだ。

 

・ロケットを修理して、異星間の移動の手段を確保すること。

・宇宙中に散ってしまったスタープリンセスの力の片鱗を集めること。

 

 

「そのスタープリンセスの力っていうのは、どうやって見つければ良いんだろ? 流石にノーヒントだと地球の中を探すだけでも一苦労だよねー?」

「ルン。私も、闇雲に探すのは効率が悪いと思うルン。AIの分析データが出るのを待った方が効率的ルン」

 

どうも、ひかるの持つ変身アイテムことスターカラーペンダントが、昨日に謎の発光現象を見せたそうで。

ひかるのペンダントをロケットに一晩預けて、AIに解析してもらっていたところらしい。

その発光現象が、スタープリンセスの力を集める手掛かりになると、期待の的だそうだ。

もっとも、発光したというだけでは、何が条件なのか分からないが。

距離なのか方角なのか、あるいは別の何かが条件なのかもしれないし、スタープリンセスの力だって常に移動し続けている可能性もある。

というか、スタープリンセスの力がどういう形をしているのかすら誰も知らないのだから、捜索は困難を極める。

 

 

「……その分析って、いつまでかかるの?」

 

不貞腐れた様子で談話室のテーブルに突っ伏していた星奈ひかるが、つまらなそうな声を出していた。

どうも、ナユタとララの波長が合っている雰囲気が気に入らないのだろうか。

出来るだけ楽をしようと思ってしまうナユタと、AIの判断を重視するララは、実際には相容れない点も多々あるのだが、表面上は同じ方向を向いているように見えるのかもしれない。

 

 

「データが集まるのがいつになるかは、分からないルン。明日か明後日か、1か月後になるか……」

「そんなの待ってられないよぉ!」

 

ひかるは、少し苛立っているようだった。

宇宙船の分析機の中に預けていたスターカラーペンダントを取り出して、ひかるは大股でロケットから飛び出そうとした。

 

 

「まー、落ち着いて。今はペンダントの解析を優先するべきだと思うよー?」

 

もっとも、ナユタに腕を掴まれて、ひかるはロケットを出る前に立ち止まってしまったが。

ナユタとしては、全宇宙が滅びるかもしれないという危機感が常に頭にあるため、慎重で確実なルートを無意識に選んでしまったという事情があったりする。

だが、ひかるを引き留めてから気付いた。

さっきのララ達の説明だと、全宇宙が滅びるみたいな話は無かった気がする。

ナユタとしては、宇宙滅亡の危機感からなるべく慎重な行動を促したいところだが、なぜ宇宙が滅亡することを知っているのかとツッコミが入ったら面倒だ。

どうやって星奈ひかるを言いくるめるか、なんて考えている時間を作ってしまったのがマズかったようで。

 

 

「ナユタの言う通りルン! データを解析するのが効率的ルン!」

 

ララの声を聴いた瞬間、ナユタは右手に妙な感触を察知した。

ひかるの腕の筋肉があからさまに強張っていた。

星奈ひかるの感じているストレスが、ナユタの掌へ感触として伝わってきた。

 

 

「データ、データって! ララちゃんそればっかりじゃん! ウンザリだよ!」

「データと効率をバカにするルン!? まったく、同じ地球人なのにナユタとは大違いルン!」

 

ひかるが、ナユタの手を力の限り振り払った。

拒絶が、目に見えた。

頭に血が上っているララは、まだ星奈ひかるの異常に気付いていないようだ。

 

 

「だいたい、その『ララちゃん』っていうのは止めるルン! 私は大人ルン! 星奈ひかる、ちゃんと聞いて……」

「……そうだよ」

 

ひかるの声が、震えていた。

ナユタには、それが分かった。

ヒートアップしていたララにも、分かったようだった。

 

 

「私は! ナユタちゃんみたいに頭が良い訳じゃないし、口も上手くないよ! そんなにナユタちゃんが良いなら、ナユタちゃんと二人でプリキュアやればいいじゃん!! ララちゃんなんて……大っ嫌い!!」

 

ひかるは、一瞥もくれずにロケットを飛び出して行ってしまった。

目も合わせずに出て行ったひかるの背中は、泣いているように見えた。

 

ララは、ひかるの背中を追うことも忘れて呆然としているようだった。

隣で見ていたナユタが一瞬だけデビルスマイルを浮かべたことにも気づかないほどに、ララは動揺していた。

妖精のフワと護衛役のクラゲ型宇宙人は、ひかるを追って飛んで行ってしまった。

ロケットの中には、ララとナユタだけが残された……。

 

 

 

 

「アタシも、『ララちゃん』って呼んでしまってゴメンね。『ララ君』か『ララさん』でどーだろうか?」

「…………ただの『ララ』で良いルン。その方が……効率的ルン」

 

ナユタとしては、願ったり叶ったりの状況であった。

二人の仲が拗れるのは大歓迎だ。

そうすれば、サマーン星と地球の異星間交流の道は絶たれ、地球が毒ガスに覆われる未来は無くなる。

 

ひかるの怒りと悲しみへの対処方法が分からずに困惑しているララを上手く誘導できれば、楽をして目的達成できてウハウハである。

そのためには……ナユタ自身も、ララの地雷を踏まないように気をつけなければ。

ここでナユタがララの地雷を踏んでしまうと、「やっぱり星奈ひかるの方が信用できるルン!」なんてことになりかねない。

 

 

「ララはさー、大人だと思って欲しいんだね。どうして子供に見られるのが嫌なの?」

「ルン? そんなの、誰だって嫌に決まっているルン」

 

特に考えたことも無かった、という趣旨の回答が返ってきた。

なんとなく、ララの考えとコンプレックスの概要が見えてきたように思った。

ララの怒りの源は……劣等感だろう。

 

 

「そうかなー? この星だけの話かもしれないけど、ギャンブルで身を亡ぼすのも大人なら、横領や汚職で私腹を肥やすのも大人だよ」

 

文化の差なのかもしれないけど大人って無条件で憧れるものじゃないと思う。

そう、ナユタは続けた。

さすがに、『大人だね』を悪口だとまで言うつもりは無いが。

 

 

「それは……確かに、そうルン。星全体を統括するマザーAIがいくら優秀でも、そういう人達はサマーン星でも一定数居るルン」

「ララの考えでは、大人とはどんな存在かな? 逆に子供とは? その辺りを掘り下げないと、なかなか相互理解が捗らないよー?」

 

少ない情報からの、ナユタの憶測だが。

ララは幼少期から理不尽なマウンティングを受け続けて育ったのだろう、と推測した。

誰もララがどうすれば成功するのか教える気が無いから、ララはいつまで経っても成功経験が持てない。

そのくせに「お前はダメな奴だ!」という趣旨のマウンティング思考ばかりが先行する同年代(もしくは毒親)に囲まれれば、今のララのように劣等感が膨れて攻撃的な人間が育つという道理だ。

先程の「ナユタとは大違いルン!」というのも、本人は覚えていないかもしれないが、おそらく似た罵倒かマウンティングをララ自身が受けた経験があったからこそ、つい口から出てしまったと推測できる。

 

 

「ちょっと……考えさせてほしいルン」

「あんまり根をつめないようにねー? ひかるちゃんの言動がどうしても不快なようだったら、プリキュアとして共闘するだけの関係と割り切ってしまうのだって、一つの選択肢だ」

 

小さい歩幅で、ララはゆっくりとロケットから出て行ってしまった。

悩み事で頭が一杯だという心境を隠す気もない脚運びだった。

 

ララの背中を余裕の表情で見送りつつ、ナユタは心の中で勝利宣言をした。

もしララが星奈ひかるとの仲直りを第一に考えて行動を起こしたなら、仲直りルートも有り得たかもしれない。

しかし今のララは、自分の生い立ちとコンプレックスを整理して自分自身を見つめなおす方向へと思考の舵を切ってしまった。

 

(このナユタ様にかかれば、ざっとこんなモンよー!)

 

それにしても、この女。

目的自体に問題は無いとはいえ、清々しいまでのゲスである。

 

 

 

 

 

 

 

 

上の空の歩調で。

ララは、ふらふらと山道を下っていた。

 

――ララの考えでは、大人とはどんな存在かな? 逆に子供とは?

 

今まで、考えたことも無かった。

みんなが大人になりたがっていると無意識に思い込んで、疑ったことすら無かったのだ。

 

だが、考えれば考えるほど分からなくなった。

大人とは何だろう。

なぜララは大人になりたかったんだろう。

 

逆に……なぜ、子供では嫌だったのか?

幼少期のララは、天才の兄と比べられるのが嫌だった。

なまじ双子だっただけに、ララと兄の能力差は顕著になってしまっていて。

AIの言う通りに作業する能力も、AIに指示を出す能力も人並み以下のララにとって、故郷のサマーン星での生活は針の筵のようなものだった。

 

大人になれば、誰にもバカにされないと思った。思っていた。

でも、成人したララへとマザーAIが推奨した、最も適正の高い職業は……スペースデブリ調査員で、ランクは最低の8だった。

最高ランクの職に就いた兄と、やっぱり比べられる運命で。

それが……何よりも、苦痛だった。

辛かった。

苦しかった。

悲しかった。

惨めだった。

 

 

――まったく、同じ地球人なのにナユタとは大違いルン!

 

自分の口から先程出た言葉が、頭の中に響いた。

 

そうだ。

兄と比べられるのが何よりも嫌だったララなら、相手がどれだけ傷つくか想像できたはずなのに。

 

 

「どうしよう……! 星奈ひかるに、酷いことを言ってしまったルン……!」

 

ララは、自分の脚が震えているのに気づいた。

泣き出しそうだった。

とんでもないことをしてしまったと、後悔と自責の念に圧し潰されそうになった。

 

 

「ララぁっ!! 大変でプルンス! ひかるが……!」

 

この最悪なタイミングで、ひかると一緒にロケットを出て行ったはずのクラゲ型異星人と遭遇した。

報告を受けたララは、人目もはばからずにキュアミルキーへと変身して、全速力で現場へとかけつけた。

山の麓の平野で、星奈ひかることキュアスターが、謎の組織ノットレイダーの戦闘員に囲まれてボコボコにされていた。

一片の躊躇もなく、キュアミルキーは戦場へと乱入した。

 

 

「……ララちゃん?」

「星奈ひかる! あなたの心を傷つけてしまって、ごめんルン!」

 

キュアミルキーは、ボロボロのキュアスターを背中側に庇うように立って、油断なく戦闘員たちへ睨みを効かせた。

そんなミルキーの背中に、何かが触れた。

不思議と、振り返らずともミルキーは理解できた。

二人のプリキュアが背中合わせに立っているのだ、と。

 

 

「私も、ごめん。やっぱり私、ララちゃんと一緒にプリキュアやりたい!」

 

反撃が……始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

春日部ナユタは浮かれ気分でロケット内の機械類の点検をしていた。

さすがに勝手に修理や改造をするのは良くないので、あくまで点検だけである。

 

 

「あ゛あ゛~♡、やっぱり機械はイイなぁ。AIちゃん、ウチの子にならない?」

『申し訳ありません。当ロケットはララ様の所有物です』

 

ロケットのAIさんを口説く性癖の持ち主なんてお前ぐらいだ……などとツッコミを入れる人間もおらず。

ナユタは一人でロケットの中で機械類の見学をしていたりして。

そんな春日部ナユタの耳に、談話室兼操縦室の扉が開く音が聞こえてきた。

 

 

「ただいまルン」

「あはは……。不肖星奈ひかる、恥ずかしながら帰って来ちゃいました!」

「……ずいぶん、手酷くやられたみたいだね」

 

ララが、ひかるに肩を貸しながらロケットへと帰って来たのだ。

ナユタは営業スマイルを辛うじて保ったが、内心は動揺しまくりだった。

ひかるもララもボロボロだったが、どこか嬉しそうで。

二人の距離が物理的にも心理的にも、とても縮まったというのが見てとれた。

 

 

「見て、ペン取ってきたよ!」

「プリキュアの変身用カラーペンに似てるね。どうしたのコレ?」

「ひかる! 傷を見せるルン! あとそのペンは牡牛座のスタープリンセスの力ルン!」

 

ルンルン言いながら星奈ひかるを座らせて消毒液だか傷薬だかをブッかけているララの様子を見れば、わだかまりは完璧に解消されたと見た方が良い。

仲睦まじいと言っても言い足りないぐらいだ。

なお、ひかるの絶叫は聞かなかったことにした。

サマーン星人用の傷薬が、地球人の体質に合わなかったのだろうか……?

なんか星奈ひかるがビクンビクンしてる気がするけど、本当に大丈夫なんだろうな?

 

 

「ナユタも、ありがとうルン。おかげで、ひかると仲直りできたルン」

「……まぁ、これも計算通りさ! 恩に感じてくれて良いぞ!」

 

どうしてこうなった。

密かに胃を痛めながら、ナユタは内心凹んでいた。

ララは自己分析で一杯一杯になるだろう、と踏んでいたハズなのに。

 

ララからの呼び方が変わっている点から考えても、やはり二人の仲が深まったと見て間違いないだろう。

まぁでも、ナユタが今考えるべきことは、ひかララの仲直りの原因ではなく……、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「きら…………やば…………」

「オヨぉっ!? ひかるぅーっ!!?」

 

 

 

泡を吹いている星奈ひかるを、蘇生してやることだろうなぁ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




・今回のNG大賞

オヨルン「春日部ナユタなんて子は最初からいなかったルン!!」
キラやば「フレプリ民のトラウマを刺激するの、やめようよ!?」
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