ロケットのクルー一同に加えて、宇宙快盗ブルーキャットと資産家ドラムスという謎のメンツで。
やってきましたスターパレス!
円周上に配置された12個の宮殿が目を引く、巨大祭壇である。
現在プリキュアチームが入手済みの星座ペンは6本であり、6人のスタープリンセスがパレスに居るはずだ。
今回、来訪者を出迎えてくれたのは、牡牛座のスタープリンセスであった。
なんだか、顔に疲れが見えるような……?
「よくぞダークペンを浄化して私を助けてくれました。本当にありがとう、プリキュア……」
(あれ? これってアタシがダークペンを作ったって言わない方が良いヤツ?)
口は災いの元とも言うし。
ナユタは、情報の隠蔽を決め込んだ。汚い大人である。
面の皮が厚いと評判のナユタは、ポーカーフェイスを張り付けた。
「会いたかったニャン、牡牛座のスタープリンセス。12本のペンとフワの力があれば、惑星レインボーの人達を元に戻せるっていうのは本当なの?」
「イマジネーションの力が集まれば、奇跡が起こります。星も必ず元に戻るでしょう」
「キラやばーっ! やったね、ブルーキャット!」
「本当の話だったのか……。まぁ僕は金の力で大抵のことは出来るから、元々そんなに期待してなかったけどね」
ブルーキャットの手を握ってブンブン振っている星奈ひかるは、目を輝かせていた。
そんな星奈ひかるに気おされて、ブルーキャットは喜ぶ暇もない様子だった。
なんで貴女が喜ぶニャン……なんて戸惑いの声が漏れ出していた。
ドラムスさんは、どちらかというと星座ペンが疫病神だと感じ始めている模様。
ナユタは、冷静に思考を巡らせた。
そんな都合の良い話が本当にあるのか、と。
何か落とし穴があるのでは?
古今東西、美味い話には裏があると相場は決まっている。
例えば……プリキュア達が目指しているダークネストに対抗するための力と、レインボー星人たちを治す奇跡は、本当に両立するのか?
土壇場になって片方だけしか叶わないなんて言われたら内ゲバ待ったなしである。
なのだが。
ここは、突っ込まない方が良いとナユタは判断した。
もし不都合な事実が秘められている場合でも、この場で発覚させるとブルーキャットの扱いが面倒だからだ。
スタープリンセスたちには後日改めて質問することにして、ブルーキャットには星が元に戻ると信じさせた方が利用しやすいのである。
思考回路が、汚い大人にも程がある……。
「ふーむ。こうなってくると、ブルーキャットとプリキュアの共同戦線もアリなんじゃーない?」
「良いねぇ! お互いの目的は矛盾しないし、一緒にペンを集めて宇宙も惑星レインボーも救っちゃおう!」
「確かに……貴女達は信用できそうな気がするのよね」
腕を組んで、ブルーキャットは考えをまとめているようだった。
つい先日も、プリキュアに救援を求めたブルーキャットは、命を救われたわけだし。
先程は一触即発の雰囲気だったが、それはそれである。
というかナユタを見て信用できそうとか、人を見る目が無いぞブルーキャット!!
「あっ、私からも質問したい!」
(ちょぉっ!? ひかるちゃーん!? やめてマジで! 今だけはやめて!!)
そんなナユタの心中を察することも無く、星奈ひかるが……新たな火種を持ち込もうとしていた!
営業スマイルをキープしつつ、ナユタは密かに焦った。
確かに、スタープリンセスたちには不審な点がいくつかある。
しかし、それを言及するのは今じゃないと思うのだ。
ここで不都合な真実が発覚すると、最悪の場合ブルーキャットを利用して骨までしゃぶり尽くす企みがオジャンになる。
自分でプリキュア達へと疑心の種を植え付けてしまったナユタ氏、渾身の自爆芸である。
「この間ナユタちゃんたちの話を聞いてて思ったんだけど、12星座のペンとフワが揃えば願いが叶うっていうのを……ノットレイダーが知ってたのって、なんで?」
「そういえば、そうでプルンス……」
「言われてみると、不思議ニャン……」
しかも、真っ当な疑問なので茶々を入れづらい。
ゼニー星でナユタが話していたネタが、よりにもよって今芽吹いてしまった。
ショッピングに夢中だった様子の星奈ひかるだったが、しっかりナユタの話を聞いていた模様。
スターパレスに代々仕える一族のプルンスですら知らなかった事実を、ノットレイダーが知っているのは不自然なのだ。
どこから情報が洩れているのか?
スタープリンセスは、裏でノットレイダーと繋がっているのでは……?
さすがに失礼過ぎる疑惑を口には出さないが、最悪の事態は想定しておいた方が良い。
「あれ……? もしかして私、聞いちゃいけない事を聞いちゃった……?」
「……いいえ。憶測交じりになってしまいますが、思い当たる節はあります」
ひかるは、直感的にナユタの心の声を察したのだろうか。
ナユタが観察した限りだと、香久矢まどかとブルーキャットは最悪のシナリオを想定できているように思えた。
一方、天宮えれなと羽衣ララは緊張感を嗅ぎ取ってこそいるものの、最悪の未来までは推測できていない様子だ。
ドラムスさんは、たぶん理解できていそうだが「これ以上厄介事に巻き込まないでくれ」と顔に書いてあった。
「実は、12星座のプリンセスの他に、蛇使い座のスタープリンセスが宇宙のどこかに存在するのです。考えられるとすれば、彼女から情報を引き出したのでしょう」
行方知れずになって長いので蛇使い座のプリンセスの現在地は分かりません、と牡牛座のプリンセスは続けた。
確かに、その説明自体におかしな点は無い。
前もって説明してくれよ、と突っかかるほどの重大情報かと言われると、そこまででも無いだろうし。
だがナユタは、違和感を嗅ぎ取った。
こっそりと周囲を見回すと……スターパレスの外周に配置された、12個の宮殿が目に入った。
13個の宮殿ではなく、12個の宮殿である。
この事実から推察できるのは「13人目が帰還しないと確信する出来事があって改築した」か「そもそも13人目なんて存在しない」の2択だ。
どちらにしても、キナ臭いこと、この上ない。
(何かがあったと言わんばかりなんだよなー。でも、ひかるちゃん頼むぞ! 全力で見逃しておくれ!!)
「情報を引き出したって……捕まっちゃってるの!? 大丈夫、私たちが助けるよ!」
星奈ひかるは、いつも通りの能天気な笑顔で言い放った。
ナユタの願いが通じたのかもしれない。
外見上はポーカーフェイスを維持しているナユタの耳に、ほっと息を吐く音が複数聞こえてきた。
何となく漂っていた緊張感に、胃を痛めていた人間が何人か居た模様である。
「……ところで、ブルーキャットと協力するなら、ドラムスのペンはどうするルン?」
なんだか蚊帳の外に置かれている感があったララが、会話の隙を見て参加してきた。
そういえばそうである。
ドラムス氏は、ブルーキャットに恨みを晴らすことを行動目標にしていたハズだが。
プリキュアとブルーキャットが共同戦線を張るとなれば、ドラムスのペンを譲ってもらうのは一筋縄ではいかないのでは?
……と思いきや。
「僕は構わないよ。金の力で解決できない問題は面倒だ。ペンは君達に譲るとしよう」
「双子座フワー! 星の輝きー、戻るフワー!」
ドラムスは、あっけなく牡羊座のペンをひかる達へ渡してくれた。
厄介事の匂いを強く感じているのだろう。
金に繋がる物とそうでない物を判別する嗅覚をもっているのは、何だかんだで流石資産家の跡取り息子だけのことはある。
散財癖も凄いが……。
「それで、協力体制って、具体的に何をすればいいのかしら? 何をしてくれるニャン?」
協力体制を敷くということであれば、お互いのスタンスを明確にせねばなるまい。
最初にこれをハッキリさせておかないと、後に無用なトラブルを招いたりするものである。
「基本的には別行動で良いんじゃないかなー? 最後に星座ペンを合計12本持ち寄る形でさ。お互いに命の危機に陥ったら助け合うぐらいはした方が良いと思うけど」
「確かに、私達の同盟の存在は隠した方が効率的ルン」
宇宙快盗がプリキュアとグルだなんてことになると、宇宙快盗に恨みを持った人間からの報復をプリキュアも受けるかもしれない。
逆に、宇宙快盗がノットレイダーに襲われる危険も考えれば、やはり両者の同盟を公にするのはデメリットばかりが目立つように思えた。
あとナユタとしては、ブルーキャットを利用するだけ利用して後で知らぬ存ぜぬと言えるのは大きい……なんてゲス過ぎることも考えていたりして。
「あとさ。アタシはともかく、プリキュアのみんなには、惑星レインボーの様子を見せた方が良いと思うんだ。きっと、プリキュアのイマジネーションに影響を与えてくれると思う」
「……あんまり、見て気持ちの良いものじゃないと思うけれど。見たいなら案内するわよ」
本音としては、惑星レインボーの悲劇が本当にあったかどうか疑っているのだが。
それを正面から言ったら色々面倒だし。
無事にゼニー星のドラゴン家の前までフワープで戻ってきた一同は、ドラムスと別れて惑星レインボーへと向かったのであった……。
『あくいのオトモダチ』
第12話:少しだけ分かるような気がするでプルンス
かつて人口1800人ほどが暮らしていたと言われる惑星レインボー。
そんな惑星レインボーは、人の気配のない死んだ星と化していた。
石像と化した住人達だけが残された、静寂に包まれた星だ。
ララのロケットとブルーキャットの宇宙船を並べて停泊させ、一同は惑星レインボーへと降り立った。
「1800人……。数字としては分かっていたけれど、実際に見ると全然違うルン……」
「あたしたちプリキュアが負けたときの、地球の姿なのかも……」
こうして滅ぼされた星を見る経験は決して無駄にならないだろう、とナユタは思った。
恐怖に歪んだ顔のままで石像となってしまっている猫獣人たちの姿は、なかなかに精神に負荷をかけてくるものだ。
いつもの胡散臭い笑顔をキープしつつ、ナユタは胃が重くなるのを感じた。
一つの星が滅びるのを見るのは、やはりストレスが大きい。
もちろんプリキュア4人娘やブルーキャットも多少のストレスを感じているのは間違いないだろうが。
ピコリンピコリン
「スターカラーペンダントが反応していますね。射手座のペンでしょうか?」
「ニャンで!? 妨害電波が効かない高性能レーダーなんて、反則ニャン!」
香久矢まどかのペンダントが、星座ペン探知機としての機能を発揮して音と光を放っていた。
おそらく、この惑星にブルーキャットのアジトがあって、そこにカラーペンが隠してあるのだろう。
ブルーキャットは妨害電波でカラーペンを隠しているつもりだったらしいが、どうやらペンダントの力の方が一枚上手だったようだ。
マズイことになった、とブルーキャットも理解しているのだろう。
宇宙快盗側でペンを隠す手段が無いのならば、同盟はプリキュア側が圧倒的に有利だ。
ブルーキャットが不在の間にプリキュアチームがペンを盗み出してしまえば、簡単にブルーキャットを裏切れるのだから。
かといって、ブルーキャットが普段からペンを持ち歩くのは、ノットレイダーに襲われる危険が大きい。
「仕方ないわね……。ペンを貴女達に預けるから、それで信頼を買うということにして欲しいニャン……」
アジトまで案内するニャン、なんて言いながら、肩を落としてブルーキャットは歩き始めた。
どうせ探知されるならば、先に現物を差し出すことで友好の証として最大限に活用する方針らしい。
プリキュアを人並みはずれた善人集団だと見込まなければ出来ない判断である。
「みんな、ちょっと先に行ってもらって良いかなー。ロケットの中に用意してある秘密兵器を取ってこようと思ってね」
「ナユタちゃん……? この間みたいな危ない物、また作ってないよね……??」
たぶん、ひかるは灰色のペンを連想しているのだろうが。
軽薄な笑みで誤魔化しながら、ナユタは一人でロケットへと戻った。
ロケットの入口を閉めて、ナユタはすぐにトイレへと駆け込んで、ゲロった。
胃がキリキリ痛んで、涙が出そうになった。
(あ゛ー……。きっついな、コレ)
滅んだ惑星レインボーを見た際のストレスは、覚悟していた以上に重かった。
少しだけ談話室の椅子に座り込んで精神の回復に努めながら、ナユタは……頭の中で記憶を漁った。
まどかのペンダントが光ったときに指し示していた方角は覚えているから、その方向へ行けば追いつけるはずだ。
(まぁ方角が分かってれば迷わないだろうし、もう少し休んでいくかー)
ナユタは、もう少しだけ休むことにした。
ララのロケットとブルーキャットの宇宙船が停泊する地を、ナユタが後にしたとき……ひかる達の背中は、既ににどこにも見えなかった。
一方、プリキュア達とブルーキャットの一行は、順調に足を進めていた。
先頭を歩くブルーキャットの猫尻尾が、歩くたびに左右にゆれている。
「ねぇ、ブルーキャット! 尻尾触ってもいい?」
「……あんまり、強く握っちゃダメよ?」
「ありがとっ! キラやばーっ!!」
ブルーキャットに絡んでいる星奈ひかるの背中を眺めつつ。
一同は、とある岩山を目指して歩き続けた。
「それにしても、妨害電波をものともしないとは、スタープリンセスの力は凄まじいでプルンス……」
プルンスの言葉を聞いて、えれな達は先ほどの香久矢まどかのペンダントが光った一件を思い出した。
あの時はブルーキャットがかなり動揺していたので、ブルーキャットとしては自信がある隠匿手段だったのだろうが。
やはり、由緒正しきスターパレス所縁の力は格が違ったのかな、なんて天宮えれなは思った。
……すると、まどかが自身の口元に人差し指をあてるジェスチャーを見せてくれた。
うん?
何か秘密の会話でもしたいのだろうか?
えれなは、思わずララやプルンスと顔を見合わせてしまった。
少しだけ一行の前を歩いているブルーキャットは、内緒話に全く気付いていない様子だ。
香久矢まどかは、無言で左手にスターカラーペンダントを握った。
その右手には、山羊座のカラーペンが用意されており、まどかは静かに山羊座のペンをペンダントへと近づけた。
ピコリンピコリン
まどかは、何も言わずに穏やかな微笑をキープした。
えれな達は、全てを察した。
ブルーキャットは罠に嵌められたのだ、と。
「まどか……。なんだか最近、ナユタに似てきた気がするルン……」
「本当ですか?」
「なんでちょっと嬉しそうなの??」
なんだか、まどかの微笑に少しだけ喜色が増したように思えてしまった天宮えれなであった。
ナユタと似ているって、どちらかというと悪口の類では……?
えれなとしては、宇宙での冒険に加えて、まどかの初めての買い食いイベントや弓道大会の応援などの出来事で仲を深めたと思っているが。
それらを踏まえても、ナユタに対してまどかが妙に好意的だな、という気がした。
「まどかとナユタって妙に仲が良いけど、何があったの?」
「決定的な何かがあったという訳ではない……と思います。強いて言うなら……痩せ我慢をしがちなところが、放っておけないと思ってしまうんです」
ぽつり、ぽつり、と。
まどかは、自身から見た春日部ナユタという人物像を語り始めた。
ナユタは普段の人を食った態度とは裏腹に、とてもメンタルに繊細な部分を持っている子で。
本当は、惑星レインボーの現状を見て一番ショックを受けているのも春日部ナユタだろう、と。
それでもプリキュア達やプルンスが惑星レインボーを見ておくべきだ、と自ら言いだしてしまう損な気質なのだ。
「じゃあ、ナユタは今一人でロケットで落ち込んでいるでプルンス……? 誰か一緒にいた方が良かったでプルンスか……?」
「他の人がいると気丈に振舞ってしまうところがある人なので、一人にすることも大切だと思います」
他人に対してナユタは、本人の意地に従えだとか相手の意思を尊重するだとか優しいことを言う。
そのくせ、ナユタ本人は他人の反対を押し切って意地を押し通した場面が無いように思われた。
強いて言えば、ララに灰色のペンを渡さなかった件だが、あれはナユタ自身のためというよりはララのためだろうし。
自分自身のことになると背伸びをして痩せ我慢をしてしまう春日部ナユタのことを、いつしか香久矢まどかは気にかけるようになっていた。
「それで、思ったんです。なんだか、守りたくなるというか、甘やかしたくなりません?」
「それは、よく分からないルン。途中までイイ話っぽかったのに、最後で急に残念になったルン」
「ううーん。分かるような、分からないような……」
ララは、割と本気で理解不能なものを見る目で香久矢まどかを見ていた。
6人兄弟の長子である天宮えれなは、思春期真っ盛りの弟がいることもあってか、少しだけまどかの言う感覚が分かる気がした。
プルンスは……何も言わずに、集団の先頭を歩く宇宙快盗へと目をやった。
故郷を滅ぼされ、誰にも協力を求めずに泥棒になるしか無かった孤独な女の背中だった。
「プルンスは……少しだけ、分かるような気がするでプルンス」
ナユタに、無垢な小学生の仮面や胡散臭い笑顔の奥に、弱くて脆い心があるように。
ブルーキャットにも、歌手のマオや宇宙快盗の顔の奥に、孤独なレインボー星人の心があった。
本当の顔なんて、どこにも無いのかもしれない。
逆に、全部が本物の顔なのかもしれない。
いつの間にか、プルンスは……マオが宇宙快盗だったというショックから完全に立ち直っていた。
そんなプリキュア一行は、気づかなかった。
背後をこっそり尾行している存在がいたことに……。
(ケヒヒっ!)
「プリキュア・レインボースプラッシュっ!!」
「ノットリガーッ!!?」
主に香久矢まどかのアドリブのせいで盛大に道に迷ったナユタは、キュアスター達を遠目に発見したとき、目玉が飛び出るかと思うぐらい驚いた。
見知らぬ青いプリキュアが、アイワーンを素体にしていると思しきノットリガーを倒しているところだったのだ。
(うーん? プリキュア増えてる??)
・今回のNG大賞
キラやば「もうひとつ、良いかな。……13人目用の宮殿って、どこ行った?」
牛プリ「君のようにカンの良いガキは嫌いですよ」