まどかのアドリブのせいで無人の惑星レインボーを彷徨うハメになったナユタは……ロケットの停泊地へ戻るルートを歩いていた。
進路に見通しの悪い岩山が散見されたこともあり、仮にひかる達の近くに着いても、相手に気づかずに素通りしてしまう危険があると思ったのだ。
一度素通りしてしまえば、後は延々とゴールも無く歩き続けることになるので、色々と非効率的なのである。
なのだが……いざナユタが進路を反転してみると、ロケット停泊地のそばで5人のプリキュアが怪人ノットリガーと戦っているではありませんか。
たぶん、殴り飛ばしたり投げ飛ばされたりしている間に戻ってきてしまったのだろう。
「プリキュア・レインボースプラッシュ!」
「ノットリガーっ!!?」
見覚えのない猫耳のプリキュアが、専用武器と思しきスプレー(?)を使って怪人ノットリガーを倒していた。
名状しがたい霧吹きのような決め技によって、ノットリガーは浄化され、中から出てきたのは……ノットレイダー幹部のアイワーンだった。
どうやらアイワーンは、自分自身を素体にノットリガーを作って、暴走体としてプリキュアと戦ったようだ。負けたけど。
「お、覚えてろっつーの!!」
「私の宇宙船っ!?」
アイワーンは、一同の隙を突いてブルーキャットの宇宙船を強奪した。
そのまま、アイワーンは宇宙船で飛び立った。
宇宙へと逃げる気だろう。
「私の宇宙船、返してぇっ!!」
(ほい、航空事故! メーデー!)
それを見たナユタは、反射的にポケットの中へと手を伸ばし、携帯端末に操作を加えた。
次の瞬間には、空を行く宇宙船が急に制御を失い、近くの岩山へと激突して大爆発を巻き起こした。
轟音と爆炎の香りが、墜落地点の近くに居るナユタのもとへ届いた。
「わっ、私の宇宙船があああああっ!!?」
頭を抱えて絶叫している青い猫耳プリキュアは、たぶんブルーキャットが変身した姿なのだろう。
そんなことを思いつつ、ナユタは墜落事故の爆発から放り出された人影を視認していた。
さっきの宇宙船の奇妙な挙動は、ナユタの仕込みによるものである。
万が一の時のためにブルーキャットの逃亡を妨害する目的で設置した小細工だったのだが、ノットレイダーの幹部を1人始末できるなら、使い時としては悪くない。
……まさか、こんなに早く使うことになろうとは。
まぁでも、初見の宇宙船を操縦しようとしたら、操作ミスはあり得るし。
アイワーンのせいにしちゃえば問題ないよね。
一応生死は確認するが。
ナユタは、ボロ雑巾のようになって地面に倒れ伏したアイワーンを発見した。
運よくナユタは墜落現場から一番近い位置に居たため、誰よりも早く現場へ到着できたのだ。
「アイワーンちゃん、爆死する最期なんて、悪の科学者の鑑だなー?」
「う、ううっ……まだ生きてるっつーの……!」
なんて生命力だ、と突っ込みたくなるような話だが。
残念ながら、アイワーンは五体満足で生きていた。
小柄な身体に見えても、ダークネストから闇のイマジネーションを分け与えられているだけのことはある。
死んでいれば墜落事故をアイワーンのせいに出来たのに。
さすがに悪人が相手といえども、ナユタが目の前でアイワーンを殺そうとしたら、ひかる達は止めるだろう。
墜落地点に駆けつけてきているキュアスター達が見えたので、抹殺プランは破棄だ。
だが、ナユタがブルーキャットの宇宙船に細工を仕掛けたと気づかれるのも、好ましくない。
まさかブルーキャットがプリキュアに覚醒するなんて思わなかったのだ。
何とか誤魔化して、有耶無耶にしなければ。
宇宙船の弁償をさせられるのも嫌だし、プリキュア達から不信を買うのも面倒だ。
ナユタは悪魔みたいなことを考えながらアイワーンへと歩み寄った。
「オッハロー? こういうのをさー、アタシたちの星では年貢の納め時っていうんだよ」
「お前は、灰色のペンを作ったっつー奴……?」
赤毛にサクランボのような双玉の髪飾りを付けたナユタさんの姿を、アイワーンは覚えていたようだ。
ノットレイダーから脅威判定をされているのは好ましくないな、なんて冷静に思いながら。
ナユタは、プランを固めた。
今から、一世一代のシリアスシーンを演じよう、と。
大丈夫だ。
星を滅ぼされたブルーキャットの怒りに便乗する形で、ナユタもドSに徹してやろう。
ナユタがやり過ぎそうになったら、善人集団のプリキュア達が止めに入ってくれると期待しよう。
そのどさくさで……墜落事故の原因を、なあなあにするしかあるまい!
ちらり、とナユタはプリキュアの面々へと一瞬だけのアイコンタクトを送った。
いざという時はナユタ自身の引き留め役になってくれよ、と願いをこめつつ。
(頼むぞ! 適当なタイミングでシリアスブレイクしておくれよ!)
プリキュア一同を代表してセレーネは……無言のまま、小さく頷いた。
(わかりました! わたくし、何があっても春日部さんを信じて見守ります!)
『あくいのオトモダチ』
第13話:悪の科学者に相応しいエンディングを見せてもらおーか?
キュアコスモ、キラやばーっ!!
ブルーキャットがプリキュアになったのもビックリだけど!
アイワーンから手に入れた牡羊座のペンを、コスモに貸してみたら、なんと!
レインボースプラッシュっていうスプレー噴射みたいな技で、ノットリガーを浄化しちゃった!
「覚えてろっつーの!」
アイワーンには逃げられちゃったけど、これってチャンスじゃないかな。
ブルーキャットは宇宙船を奪われたわけだし、私達のロケットに乗るしかないんだから、ララみたいに地球で一緒に暮らしたら楽しいよ!
「わ、私の宇宙船があああああっ!!?」
えっ……?
アイワーンに奪われて空に上がった猫耳宇宙船が、いきなりフラフラって針路を変えて岩山に墜落しちゃった。
大爆発を起こして炎上してる宇宙船は、たぶん修理はムリそう。
思わず頭を抱えて叫んでいるキュアコスモを、正直可哀そうだなって思った……。
「アイワーンちゃん、爆死する最期なんて、悪の科学者の鑑だなー?」
私たちより先に墜落現場に駆けつけてたナユタちゃんの言葉を聞いて、嫌なイマジネーションが頭の隅に沸き上がった。
もしかして……ナユタちゃん、何かやらかした?
どうしよう。
さすがのナユタちゃんでも、そこまでしないと信じたいけど。
怖くて聞けないよ。
……うん、何も思いつかなかったことにしよう。友達を疑うのは良くないよね!
なんていうか、今の私たちの立ち位置は、蠍座みたいな感じ。
キュアコスモとプルンスがいる位置が中央のアンタレス。
ナユタちゃんとアイワーンが尻尾、私たち観星中組は蠍の頭あたりかな。
「オッハロー? こういうのをさー、アタシたちの星では年貢の納め時っていうんだよ」
ナユタちゃんが、ボロボロのアイワーンを見下ろしながら声をかけてるけど。
なんだか、これから手当をしようっていう雰囲気じゃないよね。
むしろ、とどめを刺しそうですらあるような……?
「お、お前は、灰色のペンを作ったっつー奴……?」
「アタシも有名になったねー? まさにその通りさ」
あ、ナユタちゃんってノットレイダーに存在を意識されてるんだ。
私は半分も覚えてないけど、灰色のペンってやっぱり危険なアイテムだったんだよね……。
「まさか、さっき宇宙船の制御が効かなくなったのも、あんたの仕業だっつーの……?」
「……うん? それは本気で心当たりが無いよ……? 持ち主のブルーキャットが何か知ってるんじゃないの?」
本気で予想外だ、っていう声でナユタちゃんが困惑を見せてる。
ナユタちゃんが言うと全部に裏があるように見えてくるけど……。
どうなんだろ。
とぼけてるのか、本気で心当たりが無いのか……分かんないなぁ。
「あの宇宙船は色々クセが強かったのよ。別に、私の普段の操縦が荒かったなんて事実は全く無いニャン」
手首をネコみたいに使って頬をかきながら、キュアコスモが気まずそうにしている。
うん。
ブルーキャットの普段からの操縦が荒すぎて、宇宙船の機械が誤作動を起こしちゃったんだね。
本当にナユタちゃんのせいじゃなかったんだ。
自分の直感を信じなくて、本当によかった……!
「さーて、ブルーキャットから大体の事情は聞かせてもらったけど。アイワーンちゃん、この星を滅ぼしたんだって?」
「……あんたには関係ないっつーの」
全身に火傷を負ってるアイワーンを、早く手当した方が良いと思うんだけど。
ナユタちゃんの邪悪な笑顔がなんだか怖くて、口を出しにくい。
「そーでもないさ。アタシは誰よりもアイワーンちゃんの頭脳と科学力を買ってるんだよ? だから……脳髄だけになって、アタシのラボで働いてもらおうかなー、なんて思ってね」
「あたいなんかよりも、あんたの方がよっぽど、悪魔の科学者だっつーの……!」
止めなきゃ!
私は、反射的に飛び出そうとした。
でも、私を手で制した人が居た。
セレーネだ。
無言で首を横に振ったセレーネは、口元に人差し指をあてるジェスチャーを見せてる。
声を出さずに見守れってこと?
ナユタちゃんを信じろ……ってことなの?
「よく言われるよ。でもまぁ、同じ悪魔のよしみだ。せめてもの慈悲として、こいつを飲んで楽に旅立つ権利をやろう」
「……っ!」
良く言われるって、そんなの言われてるの聞いたこと無いよ!
ナユタちゃんがアイワーンの前に転がしたのは、黒い丸薬みたい?
ビー玉ぐらいの大きさの黒くて丸い球は……口ぶりから考えたら、たぶん毒だよね。
このままじゃ、アイワーンが死んじゃう!
セレーネ!
本当にナユタちゃんを信じて大丈夫なの!?
私がセレーネを凝視したのを受けて、セレーネは別の方向を指さしてくれた。
指さされた先にあるのは、アイワーンとナユタを見守っている、キュアコスモの背中だ。
もっと言うと、キュアコスモの猫耳を、セレーネは指さしてる。
なんだか、普段は前を向いているハズの猫耳が、外向きに曲がってペッタンコになってる。
なにそれ可愛い。
確かイカ耳とかいう名前を聞いたことがあったような、無かったような……。
なるほど。猫耳の状態からキュアコスモの心境を察すれば良いってことだね!
……うん。
ごめん、セレーネ!
私、猫耳の形から猫の気持ちを察するみたいな特殊技能、持ってないよ!!
近所の猫はみんな、私を見たら逃げるし。
あれ? もしかして私って猫たちから嫌われてる……?
うちには愛犬のイエティがいるから全然悔しくないもん……!!
たぶん、私たちに声を出さないでほしいんだとは思うけど。
セレーネとナユタちゃんが何を言いたいのか、さっぱり分からないよ!
少しでも情報が欲しくて、キュアソレイユの方をチラっと見たら、緊張した顔で頷いているところが見えた。
キュアミルキーも、神妙な顔で頷いてる。
……うそ? もしかして私だけ分かってないの??
ララは絶対にこっち側の人間だって信じてたのに!
「……お前はプリキュアの仲間なんだから、もっと、正義とか平和とかのために動いてる奴かと思ってたっつーの」
「別にアタシは、アイワーンちゃんが幾つ星を滅ぼしてたって、正義のために裁こうとかは思ってないよー? ただ、そーいう奴が踏みにじられても何も思わないだけさ」
どうしたら良いの……!?
このままナユタちゃんに任せて良いの?
キュアコスモの心境と、今のナユタちゃん達の会話は、どう繋がってるの?
分かんないよ……!
説明してほしいけど、声を出すとマズそうだし。
そうだ。
こういう時にこそ想像力を働かせないと!
今の状況を理解するために、考えなきゃ!
イマジネーションの力を、今こそ活かす時だよね!
……。
…………。
………………。
閃いた!
変身用カラーペンとトゥインクルブックを、普通にペンと手帳として使って、筆談すればいいじゃん!
『ナユタちゃんを止めなくて、本当に大丈夫?』
さらさらっと文字を書いて、トゥインクルブックのページをセレーネに見せてみた。
ミルキーとソレイユも同じページを無言で覗き込んでる。
プリキュアが4人で額を集めて無言で筆談してるのって、なんだか凄くシュールなような気がする……。
「あたいは……ノットレイダー以外に、行き場が無いっつーの。この星で調達した研究資金が無かったら、唯一の居場所だって守れなかったっつーの……!」
「同情はしないよ。あいにく、同情や憐憫は嫌いなんだ。何か施しを与える気があるなら話は別だけど、施し無き憐憫は見下しと同義だと考えるタチでねー」
ソレイユが手のひらを見せてきたので、トゥインクルブックを渡してあげた。
『実はあたしも全然分かってない。猫耳の形から心情を読み取るなんで出来ないよ。ヽ(゚Д゚)ノ』
えれなさんって顔文字とか使うの?
勝手なイメージでは機械類の扱いは苦手そうかなって思ってたんだけど。
あと、なんだか顔文字のセンス古くない??
っていうか、やっぱり分かってないの私だけじゃなかったんだね!
『分かりにくくて申し訳ありません。いわゆるイカ耳は、警戒心や戸惑いの感情を示しています。ブルーキャットは、今まさに迷っているのでしょう』
今度はセレーネがトゥインクルブックを受け取って。
筆文字みたいな達筆を披露しながら返信を綴ってくれた。
書いた後で、掌を縦向きにして謝るような仕草を見せてる。
ブルーキャットも、アイワーンを助けに行くかどうか悩んでるんだ……。
星を滅ぼされた恨みは忘れられないだろうけど、それでもアイワーンを助けたいって気持ちがあるんだね。
ナユタちゃんは……ブルーキャットに、どうして欲しいんだろ。
つんつん、なんて。
ミルキーが触覚で、トゥインクルブックをつついて自己主張してる。
セレーネからトゥインクルブックを受け取ったミルキーは、何を書いてるのかな?
『●▼■■▲▶×●×#』
よ、読めない……!
それってサマーン語?
そっか。ペンダントの自動翻訳って音声にしか対応してないから、文字は理解できないんだっけ。
私たちが日本語で筆談してる間、ミルキーは内容が全然わからなくて困ってたのかな……。
「ささ。決断の時だぞ。悪の科学者に相応しいエンディングを見せてもらおーか?」
「げほっ!? あたいは……、あたいは……!」
アイワーンを足蹴にしながら、ナユタちゃんが決断を迫ってる!
これは、さすがに止めなきゃ……!
傷ついて動けない相手を踏みつけるのは、いくらなんでもやり過ぎだよ!
色々な意味で苦しそうなアイワーンの様子も、私もう見てられない!
「……もう、やめるニャン」
絞り出すような声が、聞こえた。
ブルーキャットの声だ。
ぎゅっと拳を握りしめて、キュアコスモが会話に割って入った。
「うん? まー、命を張って戦ったプリキュア達が言うなら、そっちの判断を優先するけど。本当にいいの? アイワーンちゃんを生かしたせいで、別の星が滅びるかもよ?」
「他の星が滅びて良い訳ないわ。それに、アイワーンへの恨みだって忘れられない」
この惑星レインボーの石像たちは、元に戻す方法にたどり着けなきゃ、死んでるのと一緒だもんね……。
やっぱり、そう簡単に恨みは消えないみたい。
「でも……どこにも行く場所が無くて、罪を犯してしまったのは、私も同じよ。だから、アイワーンの気持ちも少しだけ分かるの」
「うるさいっつーの! 可哀想なあたいに情けをかけて、イイ人気取りかっつーの!? 裏切り者のバケニャーンにそんな事されたってヘドが出るだけだっつーの!!」
なんでだろう。
アイワーンの叫びを聞いていると、痛い。
胸の奥が、ズキズキする。
心が軋んでるみたいな。
ナユタちゃんが嫌いだって言ってた「同情」……なのかな、コレって。
「はーっ。そんな考えなしの悪態が口から出た時点で、心の中身を全部言っちゃったも同然だよ。アイワーンちゃん?」
「……!?」
ナユタちゃんの、ワザとらしい溜息だ……。
え? ウソ?
今のアイワーンの悪口に、そこまでの情報量あった??
バケニャーンの名前が出たから、ブルーキャットがノットレイダーに潜入してたことはギリギリ把握できてるだろうけど。
「アイワーンちゃんが、ブルーキャットを本気で恨んでるならさ。今は嘘ついて平謝りしてでも生き延びて、後から復讐するよね?」
……そういわれると、確かにそうかも。
実際ブルーキャットも、故郷を滅ぼされた恨みを隠してノットレイダーで働いて、故郷を元に戻す方法を探してたわけだし。
アイワーンも、本気でキュアコスモに復讐したいわけじゃないみたい?
キュアコスモに対して悪態をついてたけど……それは本心じゃない、ってこと?
「そ、そんな惨めなことするぐらいなら……」
「死んだ方がマシ、って本気で思ってるなら、さっさと服毒自殺してるでしょ」
毒って明言しちゃった!?
それ言っていいの?
なんていうか、こう……プリキュア的に!
「……もしかして。私に……バケニャーンに裏切られたのが、悲しかったの?」
猫耳を揺らしながら腕を組んで考え込んでいたコスモが、仮説に行き着いたみたい。
確かに、アイワーンとバケニャーンって一緒に居る時が多かったよね。
友達……だったのかな?
――あたいは……ノットレイダー以外に、行き場が無いっつーの。この星で調達した研究資金が無かったら、唯一の居場所だって守れなかったっつーの……!
――うるさいっつーの! 可愛そうなあたいに情けをかけて、イイ人気取りかっつーの!? 裏切り者のバケニャーンにそんな事されたってヘドが出るだけだっつーの!!
思い返してみると、アイワーンの二つの台詞って実は結構矛盾してるのかも?
ナユタちゃんに言った方は、同情を誘ってでも生き延びたいっていう意思があったみたいだけど。
キュアコスモに言った方は、生き延びる可能性が下がることを気にしないで、感情を優先して口に出しちゃった感じだよね。
コスモに……バケニャーンに同情されるのだけは、嫌だったのかな?
「今更気づいたって、遅いっつーの……」
コスモの推察は、当たってたみたい。
でもアイワーンの言う通りでもあるよね。
コスモがアイワーンを騙していたっていう事実は変えようがないし。
「あなたを傷つけてしまって……ごめんニャン」
そうそう、だからお互いに謝っちゃえば済む話だけど、その一歩が難しくて……って、ええっ!?
ブルーキャット、素直に謝っちゃうの!?
もっと拗れるところかなって思ってたんだけど!?
「謝って済むなら、星空警察は要らないっつーの……」
「警察に頼れない人が、快盗やノットレイダーになるニャン」
なんだか……二人の間の緊張感が、薄くなったみたいに思った。
あれれ?
なんだか不思議な感じだけど、なんだか上手く話がまとまってきたみたい??
「あたいも……ごめん、だっつーの」
ええっと?
どういうこと??
もちろん仲直りが理想的だと思うけど、なんだか必要なステップを幾つか飛び越えてない……?
こういう時は、また筆談で聞いてみれば何とかなるかな?
カキカキ、っと。
トゥインクルブックを見て! みんな!
『なんだか不自然なぐらい綺麗に話がまとまったような気がする!』
セレーネたち3人に手帳の文字を見せて、筆談ふたたび。
不満そうな顔をしてるミルキーは、本当にゴメンね……。
『あたしも、あっさり和解が進みすぎというか、過程をいくつか飛ばしてる気がするよ!』
『いわゆるヘイトコントロールですね。春日部さんは、それが人並み外れて上手いんです』
ヘイト、コントロール……?
コントロールは操縦とか操作とかだよね。
ヘイトってなんだっけ。
『今回の状況で言うと、アイワーンが死にかけているので、ブルーキャットからアイワーンへの同情が、恨みを和らげていると思われます』
なるほど。
確かに全身に火傷を負って地面を転がってるアイワーンって、結構な重症だよね。
早めに処置をしないと命にかかわるんじゃない……?
と思ってたら、コスモがアイワーンを背負って、私たちのロケットに向かって歩き始めてる。
応急処置の機材を借りたいみたい。
ブルーキャットの宇宙船にも積んであったんだろうけど、墜落して積み荷も燃えちゃったからね。
『逆にアイワーンの方は、春日部さんに踏まれたり自決を強要されたりして、憎しみの的がブルーキャットから少しだけ外れてしまっているのでしょう』
一瞬、納得できるような気がした。
うんうんって、ソレイユも納得顔で頷いてるけど。
でも、本当にそこまで狙ってできるものなのかなぁ……?
そこまで狙って人を操れるって、もう怖いレベルなんだけど……?
あと、そこまでナユタちゃんを全面的に信じ切れるセレーネもちょっと怖いよ?
と思ってたら、ナユタちゃんがこっちに歩いてきた。
どうしたんだろ。
ブルーキャットと一緒にアイワーンの手当てをしないのかな。
あ、アイワーンから恨みを買ってるから、ナユタちゃんは一緒に居ない方がいいのかも。
「ふぃー。これにて一件落着ってか。正直、もっと早い段階でブルーキャット以外の人が止めにくるかなって思ってたよ?」
いつもの胡散臭い笑顔で。
ナユタちゃんが、一仕事終えたみたいな雰囲気で大きく息を吐いてる。
本当は……どこからどこまでが、ナユタちゃんの意図した結果だったの?
私も、自分で気づかないうちにナユタちゃんに操られてるとか……無いよね??
「いいえ。わたくしたち、春日部さんを信じていましたから」
「アタシの身に余るね。信頼が重すぎて、泣きたくなるよ。まったく」
冗談めかして、からからと笑ってるナユタちゃん。
結局、墜落事故に関しては冤罪ってことで良かったのかな。
なんだか忘れちゃいけない何かを忘れてるような気がするんだけど、なんだっけ……?
「ところでさ。そっちで座り込んでるミルキーは、どしたの?」
「オヨ……。良いルン。どうせ私は皆に飽きられた型落ち商品ルン……。不良在庫のホバーボードの同類ルン……」
こっちに背中を向けて、地面に座り込んでるミルキーの姿が!
よく見たら、地面にカラーペンで謎の文字を書き続けてる!
ほっぺたを膨らませて、見るからに拗ねてる!!
「よしよし、ひかるちゃん達にイジワルされたかー? 可哀そうになー?」
「ルン……」
「ああああっ!? 忘れててゴメン、ミルキー!? 本当にゴメン!」
ナユタちゃんが、座り込んでるミルキーの頭をナデナデしてる!?
私もやらなくちゃ!
機嫌直してよララ!
「可哀そうって……。さっき、同情や哀れみは嫌いだって自分で言ってなかった……??」
「息を吐くみたいに嘘をつくところはありますよね、春日部さんって……」
そのあと、頭を下げてみたり抱きしめてみたり、色々してララを宥める羽目になった……。
ヘソを曲げたララも、それはそれで可愛かったけど、早く仲直りしないとね。
結局、一緒にロケットに戻った後でドーナツを食べさせたら、ようやく機嫌を直してくれて、こっちもホッとしたけど。
「ブルーキャットにも、プルンスタードーナツを食べてほしいでブルンス!」
「ニャン? もぐ。これはっ、スゴく……じゃなくて、ええっと、その、まあまあニャン」
目を白黒させているブルーキャットは、言い直したみたいだけど、かなりプルンスタードーナツを気に入ったみたい。
プルンスとナユタちゃんが全力で作ってただけあって、やっぱり凄いよね。プルンスタードーナツ。
当のナユタちゃんは、個室に籠っちゃったけど。アイワーンと距離を置きたいのかな?
「貴女も、食べるニャン?」
「あたいも食べて良いっつーの……?」
全身包帯ぐるぐる巻きのアイワーンに、ブルーキャットが半円状に割ったドーナツを渡してる。
たぶんプルンスに言えば、半円状じゃなくて新品のドーナツをいくらでも作ってくれるんだろうけど。
なんとなく、この二人は一つのドーナツを分け合うことで、何かを確かめあってるような気がした。
ドーナツを一緒に食べたアイワーンは……ぼろぼろ、大粒の涙を流し始めた。
ブルーキャットは、一瞬だけギョッとした顔をしてイカ耳状態になってたけど、何も言わなかった。
プルンスも、無言で大皿にドーナツを山盛りにした。
私たちも、静かに頬張った。
やっぱりキラやばーな美味しさだよね、プルンスタードーナツ。
みんな黙って食べたけど、不思議と嫌な感じの沈黙じゃなかった。
最初に喋り始めたのは、プルンスだった。
「このプルンスタードーナツは、いつかマオたんに食べてほしくて改良を重ねてきたでプルンス。でも……プルンスだけだったら、ここまでの完成度には至らなかったでプルンス」
「誰かと合作ってこと……? ああ、『あの子』ニャン?」
「……『あいつ』だっつーの?」
ぴくり、なんてアイワーンがドーナツを食べる手を少しだけ止めてた。
さっきまで自決を強要されたり、足蹴にされたりしてたから、まぁ印象は悪いよね。
「……科学は人を幸せにするためにある、だっけ」
「あたしも同じ言葉を思い出したよ。ナユタの受け売りだよね」
ナユタちゃんの言葉が頭の中に浮かんで、ポロっと口に出しちゃった。
えれなさん達も思い出してくれたみたい。
まどかさんは、いつも通りに優しく微笑んでいた。
ララは……さっきまで拗ねてたのがウソみたいに上機嫌にドーナツを食べてる。
「甘すぎる言葉だっつーの……」
食べかけのドーナツに目を落としながら。
アイワーンは、もの言いたげに単眼を細めてる。
自分の発明品で惑星レインボーの人たちを石化したことを思い出したのかな。
たぶん、ナユタちゃんが本当にアイワーンを死なせるつもりは無かったんだ、って理解したんだと思う。
そうだよね、ナユタちゃん? 信じてる、信じてるよ……!!
「……あたいの、完敗だっつーの。科学者としても、何もかも……!」
再びドーナツを食べ始めたアイワーンは。
なんだか、これから新しい何かを始める人の顔に見えた。
ノットレイダーとして戦うための発明をしてきた、悪魔の科学者はもう居ないんだ。
今のアイワーン、キラやばーな顔してる!
良かったね、アイワーン!
良かったね、ブルーキャット!
・今回のNG大賞
まどか「ブルーキャットの宇宙船は、初期プロットだと墜落事故ではなく爆弾で処理する予定だったそうですよ」
マジキチ「自爆装置は科学者の嗜みだからね。当然ララのロケットにもセットしてあるぞ」
ララ「オヨォ???」(バチバチ)