「オッハロー? おや、アイワーンちゃん。一人とは珍しいね」
「なんだ、お前かっつーの」
7月某日の観星市郊外の山中にて。
日が落ちる前の時間帯にロケットを訪れたのは、春日部ナユタだった。
背中にかかる長さの赤毛に、サクランボのような双玉の髪飾りをつけた、年齢不詳の女科学者である。
一方、ロケットの中にいるのはアイワーン一人だ。
「この間は済まなかったね、試すようなことをしてしまって。踏んでしまったのも、やりすぎたかなって思ってるよ。ごめんね?」
「……別に、いいっつーの」
ロケットの中にいたのがアイワーン一人であることを、ナユタは不思議がっているようだった。
ひょっとすると、プリキュアの誰かに用事をすっぽかされたのかもしれない。
もしくは……プリキュア達が、大切なロケットをアイワーン一人に任せていることを、疑問に思っているのか。
「本当に……危機感が無い奴らだっつーの。あたいが裏切ったらオシマイだっつーのに」
「そうだねー。アタシだったら絶対にアイワーンちゃん一人には留守は任せないね」
アイワーンが裏切ってロケットを破壊したら、プリキュア側には星間移動をする手段がなくなる。
一応、妖精フワのワープ能力を最大限に利用すれば何とかなるかもしれないが……。
それでも大幅に移動が制限されることは間違いないだろう。
「なんだとっつーの!?」
「くははっ。自分で言っといて怒ってちゃ世話ないよー?」
軽々しく言いながら。
春日部ナユタは、軽薄に笑ってみせた。
からかわれた、と理解したアイワーンは、ムッとしながらも怒りの矛を収めた。
「それにさー? そういう無責任な信頼に、救われる奴だって居る。そうっしょ?」
「……お前も、そういうクチだっつーの?」
しみじみとしながら。
ナユタが紡いだ言葉は、アイワーンの心境にも刺さった。
ひかる達の無根拠な信頼は、どこか心地良さを与えてくれるのだ。
こういうのを……『居場所』というのかもしれない。
ロケットの談話室の窓から外を見れば、日が傾いていた。
もうじき日は落ちて、辺りは静けさに包まれるだろうが、アイワーンは全くと言っていいほど不安を感じていなかった。
夜というのは、もっと寂しくて寒くて怖いものだと思っていたのに。
「まーそうだね。アタシには、ひかるちゃん達は眩しすぎるよ。参っちゃうね、まったく」
「あいつらに会いに来たなら、当てがハズレたっつーの。あいつら、キュアスターの家に集まってるみたいだっつーの」
なんでも、世界中を旅しながら研究者として働いている星奈家の父親が、久々に帰宅したらしく。
ひかるの家でバーベキューをすべく、プリキュア4人娘は星奈家に集っているのだとか。
ひかるが小さいころは父親も一緒に暮らしていたそうだが……。
世界各地でUMAの調査をするという父親の秘めていた夢を知ってしまった当時の星奈ひかるは、幼いながらに父親の夢を追ってほしいと言い切ったようだ。
あと、ララの誕生日でもあるらしいので、そのお祝いパーティも兼ねている模様。
「ありゃ。寮爺の天文台が忙しくて、気づかなかったなー。それにしても、7月7日が誕生日って、なんだか運命的だね」
「7が2つだと、何かあるっつーの?」
羽衣伝説がうんぬん。
織姫と彦星がいちゃこら。
引き裂かれた二人は一年に一度は会えるよ!
そんなことを、ナユタは虚実を交えながら話した。
子供だましだっつーの、なんてボヤきながらも、アイワーンは最後まで聞いた。
「……アイワーンちゃんにはさ。会いたい人や、恋しい人って、いる?」
「そうやって、いざって時にあたいを縛る方法を探ってるっつーの? ホントに抜け目のない奴だっつーの」
アイワーンは、目を細めつつ思った。
春日部ナユタはその話術で他人を操ることに長けている。
であるからして、相手への理解が深まるほど、コントロールの正確性も上がるに決まっている。
そう、アイワーンは思ったのだが。
「うん? 単純にアタシがアイワーンちゃんのことを知りたいって思ったら、変かな?」
怒りもせず、ナユタは軽々しく笑って見せた。
そんなナユタの笑顔を見て、アイワーンは何だか毒気を抜かれてしまっていた。
何となく、ナユタの笑い方に誰かの面影を見たような気がしたのだ。
――二人とも、一緒に地球に来ない? きっと、楽しいよ!
アイワーンたちを地球へと誘ってくれた、キュアスターの……星奈ひかるの笑顔を、思い出した。
星奈ひかるの裏表のなさそうな笑顔と、ナユタの軽薄な笑顔は、共通点なんて無さそうなのに。
何故だか、アイワーンは星奈ひかるを連想してしまっていたのだ。
地球へ行くことを決めて……ひかるによって、アイワーンの身の上話なんかを根掘り葉掘り聞き出された後に。
あまり愉快な話ではなかっただろうに、「でも話してくれてありがとう」なんて笑って見せた星奈ひかるの顔は忘れられない。
人好きのするというか、信じたくなってしまうというか。
ナユタにしても胡散臭さの奥に、輝く何かがあるように思えてしまうのだ。
悪く言うと詐欺師向きである。
万が一にもあり得ないことだが、ひかるの笑顔と態度で結婚詐欺師をやったら、おそらく被害総額は70億キランごときでは済まないだろう。
「お前……なんだか、キュアスターの奴に似てる気がするっつーの」
「……そうかな。それが本当だったら、身に余る光栄だね。ひかるちゃんの言うところの、キラやばってヤツかな」
冗談めかして笑う春日部ナユタの真意は、うかがえない。
けれども、アイワーンは無根拠に思った。
おそらくナユタは本気で嬉しく思っている、と。
それはともかく、話を戻すとして。
会いたい人や恋しい人といえば……アイワーンにとって、誰だろうか。
「バケニャーン……は、いつでも会えるっつーの。ノットレイダーの皆には、会いたくなることが時々あるっつーの……」
アイワーンは、自身の母星の存在については、一切触れなかった。
ナユタも言及しなかった。
ノットレイダーは行き場のない宇宙人たちが最後に流れ着く先だ、とナユタも理解しているからだ。
宇宙中の侵略者として嫌われ者の名をほしいままにしているノットレイダーも、確かにアイワーンの居場所だったのだろう。
もっとも、裏切り者のバケニャーンを招き入れるという大失態をやらかしてしまったアイワーンは、今更ノットレイダーに戻っても幹部の椅子はないだろうが。
宇宙快盗ブルーキャット、宇宙アイドルのマオ、ノットレイダーのバケニャーン。
3つの顔を使い分けてきたレインボー星人の女――本名をユニというらしい――を、アイワーンはどのように思っているのか。
ナユタは、ついでに聞いてみた。
「ユニちゃんを恨んでる?」
「正直、恨んでたっつーの」
零れ落ちた言葉は「恨んでる」ではなく「恨んでた」だ。
今のアイワーンは、ユニを恨んでいないようだった。
アイワーンがノットレイダーに戻れなくなった原因を作ったのは、ユニだというのに。
死にかけていたアイワーンの助命をユニが願ったことで、アイワーンの中で何かが変わったのだろう。
「分かりやすく過去形だね」
「……でも。アイツにとっては、過去の話じゃないっつーの」
――他の星が滅びて良い訳ないわ。それに、アイワーンへの恨みだって忘れられない。
アイワーンは、ダークペンの試作品の暴走によって、惑星レインボーの住人達を石化してしまった。
そんな惑星レインボーのたった一人の生き残りであるユニが、アイワーンを簡単に許せる訳がない。
「あたいが許したからユニも許してくれ、なんて言えないっつーの。奪った物の重さが違い過ぎるっつーの……」
まあそうだろうな、とナユタは思った。
そもそもアイワーンが惑星レインボーを滅ぼさなければ、ユニだってアイワーンを騙そうと思わなかったわけだし。
むしろアイワーンを殺さないだけ有情だというレベルである。
「ま、同じ悪魔の科学者のよしみだ。今から作るものがあるから、少しだけ手を貸しておくれよ?」
「なんだっつーの?」
『あくいのオトモダチ』
第14話:未知が既知に変わったら、どうなるルン?
少しだけ時間は戻って、7月7日の昼下がりに。
ララは、星奈家にお邪魔していた。
星奈家の庭でバーベキューをするらしく、天宮えれなや香久矢まどかと一緒に星奈家へと来たのである。
あと、ララの誕生日祝いも兼ねているそうだ。
なのだが。
一年ぶりに帰国したという星奈ひかるの父親……陽一が、なかなか姿を見せない。
一度帰ってきたあと、愛犬イエティの散歩に行ったきりなのだとか。
野外に設置された仮設椅子に座りつつ、陽一氏を待つ一同であったが、腹が鳴る音がどこからともなく聞こえてきて。
プルンスタードーナツを持参していたことを思い出したララは、星奈家の中へと小箱を取りに入った。
すると、ひかるの祖父が……すなわち、陽一氏の父親の春吉氏が、ちょうど冷蔵庫を開けて食べ物を探しているところに出くわした。
腹の鳴る音がひかると一緒だ、なんて思いながら。
ララは、プルンスタードーナツを春吉氏へと分け与えることにしたのだった。
そういえば、春吉はバーベキューに参加しないのだろうか。
聞くところによると、春吉の息子が年に1回だけ帰ってくる大切な日だということでは無かったか?
両親と離れたところに暮らしているララは平気なのか、と春吉が聞いてきた。
自身は故郷では成人している年だから大丈夫である、とララは答えた。
「親というのは、子供がいくつになっても心配するものだ」
「ひかるの父と別れたのが、辛かったルン?」
――余計なお世話かもしれないけどね。あんまり地球人に入れ込むのも考え物だよ。別れる時に、辛くなるからね。
ナユタの言葉が思考の片隅によみがえったララは、興味本位で春吉へと質問した。
妻子や両親を置いて世界中を飛び回っている陽一は、春吉に辛い思いをさせているのか、と。
「そういう訳では、無い」
もっとも、違ったようだが。
それじゃあ、なんで春吉と陽一の仲がこじれているのか。
ララには、よくわからなかった。
――さよならなんて、絶対イヤだよ! 私は、ララと……ララと、ずっと一緒に居たい!!
――ひかる! 私も……ずっと、一緒に居たいルン!!
そういえば。
ひかるは、ララとの別れを拒んで泣き出したことがあった。
しかし、ひかるの父親である陽一との間には、そんな涙は無さそうであった。
不思議である。
一体何が違うというのか。
「不思議ルン。ひかるは、私と別れる時は、悲しくなるルン。でも、ひかるの父と別れるのは、あんまり悲しそうじゃないルン」
ひかるは、父親である陽一のことを好きなのは間違いない。
父親譲りの「キラやば」を口癖にしているし、UMAが大好きなのも父親から受け継いだ趣味だ。
それなのに、一体どこで差が出るというのだろうか。
ララの経験上、人間の気持ちはAIに聞いても分からないものだ。
なので、とりあえず目の前に居る春吉へと話を振ってみたのだが……春吉にしても思いがけない質問であったようで、考え込んでしまった。
「……いわゆる『好き』の中にも色々あるということだろう。離れていても寂しくならない『好き』もあるし、寂しくなる『好き』もある」
「オヨ……? なんだか深いことを言っている気がするルン……!」
オヨルン星人は、首を傾げた。
地球人が言うところの、トシノコウという奴だろうか。
なんとなく、言わんとすることは分かる気もするのだが。
自分で説明してみろと言われたら多分できない、という程度の微妙な理解度だった。
「……そうだな。お互いに離れていても寂しくならない類の『好き』だから、陽一は家を出ていくことが出来たのかもしれんな」
「オヨ??」
しかも、春吉氏は何かを勝手に納得している雰囲気である。
一体、何がどうなったというのか。
まったく文脈が読めないララは、困惑しっぱなしだったが。
何故だか気が変わったらしい春吉氏は、不機嫌そうな顔をしながらバーベキューに参加した。
春吉の息子である陽一も、意外そうにしながらも、春吉の参加を喜んでいるようだった。
誕生日を祝ってもらいつつ、ララにとっても忘れられない一日になった。
そんな星奈家からの帰り道で。
偶然出くわしたノットレイダーの集団を拳で撃退したりしながら。
戦闘時に合流したユニを加えて、ララたちは5人でロケットまで歩いていた。
先ほどまでフワとプルンスも居たのだが、戦闘開始と同時にプルンスはフワを抱えてロケットまで飛んで行ってしまったのだ。
戦闘後にロケットのAIから通信が入り、なんでもプリキュアチームの面々で一緒に来てほしいとナユタが言っているようなので、連れ立って歩いているのであった。
「なんだかお爺ちゃん、ちょっと雰囲気が変わったみたいだったけど、なんだったんだろう……?」
ひかるが、首を捻りながら呟いた。
どうも、陽一と春吉の折り合いが悪いという印象があったため、春吉がバーベキューに参加しないと思っていたらしい。
ところが、春吉は息子に笑いかけるような態度こそ見せなかったものの、バーベキューには参加したのである。
みんなで開催した方が良いには違いないが、ひかるとしては不思議らしい。
「私も、よくわからなかったルン。『好き』の中には、離れていても寂しくならない『好き』と寂しくなる『好き』があるって言っていたルン」
結局、あれは何だったのだろうか。
ひかるやユニなら、分かるだろうか。
えれなやまどかなら、あるいは?
「あたし、それって愛と恋の違いな気がするよ?」
「確かに、離れたら寂しくなる『好き』というのは、恋ですよね」
「そっか! 私たち家族は離れていても大丈夫だって、分かってくれたのかな?」
他の4人は、納得した顔をしているが。
ララには、今ひとつ状況が呑み込めなかった。
愛は何となく分かるが、恋というのはイマイチ身近に感じられない概念だ。
「恋……ルン?」
「会えない時間を寂しく想い、相手に会うことを恋う……というのが『恋』です」
そう言われれば、ララにも思い当たる節はあった。
ひかると離れ離れになると思うと、心が苦しくなったことがある。
故郷の家族に対しては抱いたことのない感覚だった。
ララは、ひかるの横顔に目をやった。
お互いに離れ離れになるのが嫌だと言ったララとひかるの間にある感情は……恋、と呼ばれるものなのだろうか。
分かるような、分からないような……。
「オヨ……。どちらも『好き』なのに、どうして寂しくなったり、ならなかったりするルン?」
ララの疑問をきっかけに、しばらく会話が途絶えた。
えれなとまどかは、真剣な顔をして考え込んでいる。
ひかるも、分かっていない模様。
ユニは……どうでも良さそうに道端の野生のヘビを目で追っていた。
「ねぇねぇ。ユニって、そういう経験ありそうだけど、どう?」
「そうねぇ……。宇宙アイドルの経験からいうと、恋は金のなる木っていう以上の認識は無いニャン」
このアイドル、ゲスい!
片手の親指と人差し指でマルを作っているユニのジェスチャーがゲス過ぎた。
ひかる達4人の気持ちが重なった。
お前、そんなこと考えながらプルンス達に貢がせてたんやな……。
「わざと分かりにくい言い回しを使ったりテキトーな事を言ったりして、ファンに『もっと知りたい』って思わせれば、こっちの勝ちよ」
「聞こえが良く言うと、ミステリアスということですね」
「言いたいことは分かるけど、身内に対しては、やめてほしいかな……。そういうのは一人で間にあってるから……」
香久矢まどかは、興味深そうにユニの話を聞いていた。
天宮えれなは、別の誰かを連想したようだった。
ララは、何かが腑に落ちたような気がした。
ぐいぐいと踏み込んでくる星奈ひかるの根源には、父親ゆずりの知的好奇心が輝いている。
そして、その好奇心の対象がララに向かっているからこそ、『恋』とよばれる感情を持っているのだろう。
ララ自身だってそうだ。
星奈ひかるや地球のことをもっと知りたいと思ってしまっているから、離れたくないと感じているのかもしれない。
「それって……『未知』が『既知』に変わったら、どうなるルン?」
「お父さんとお母さんみたいに、お互いの事が大好きなまま、離れても平気な関係になるんだよ!」
「恋が愛へと育っていくんですね。素敵です……!」
両手を広げて、大好きな両親のことを語る星奈ひかる。
頬に手をあてて、少しばかり夢見がちな顔を見せた香久矢まどか。
この二人の言い分は、ララも非常によく分かる。
一方で、ララは嫌な想像もしてしまっていた。
ララは、怖いと思った。
ひかるがララのことを知るにつれて、『未知』はどんどん無くなっていく。
新たな『未知』を求めて走り出す星奈ひかるは、ララを置いて行ってしまうのでは?
思い当たる節はあった。
地球の暦で言うところの2019年4月27日……ララが地球に初めて訪れた、運命の日。
ひかるは、地球に二度と戻れなくなるかもしれないのに、離陸直前のララのロケットに勝手に忍び込んだ。
それは、すなわち……『既知』の大好きな家族と今生の別れになることを覚悟したうえで、『未知』への興味を優先したということだ。
星奈ひかるには明確にそうした側面があるという実例を、ララは既に知ってしまっているのだ。
ついでに言えば……これは視聴者とひかる本人しか知らないことだが、ひかるはロケットに乗り込む直前に、一歩だけ踏みとどまって考えていたのである。
考えなしに踏み込んだのではなく、ロケットに乗ったらどうなるか考えて判断したうえで、未知への興味を優先した訳で。
星奈ひかるには、そういう一面が確かにあるのだ。
「それも一例だけど、相手を知るにつれて、『恋』から醒めて『無関心』に変わっていくこともあるニャン」
「良い話っぽかったのに、一気に世知辛くなったね……」
……それ以上に、ユニの一言には背筋が寒くなった。
ひかるの関心が、なくなる。
ララの事を大切に思いつつ離れ離れになるよりも、はるかに恐ろしい未来だ。
想像しただけで、ララは胸が苦しくて堪らなくなった。
「実際、このメンバーで『恋』ってしたことある人いるの? あたしは無いけど」
「意外と、自分は関係ないって顔してる……ひかるが怪しいニャン!」
「えっ、私!? うううーん……? そういえば、3年生ぐらいまでは『イエティのお嫁さんになる!』って言ってたけど……?」
「オヨォ!? 地球人は犬と結婚できるルン!?」
……不意打ちで度肝を抜かれて、絶妙なタイミングでシリアスブレイクされたオヨルン星人であった。
まぁ、あのまま落ち込むよりは良かったのだろう。
たぶん、ララが落ち込み始めたら誰かが指摘して全員で解決しようとする流れになっただろうし……。
ララの不安は、なんというかプリキュアの仲間たちには気づかれたくないものだった。
なお、地球人では犬とは結婚できない模様。
しかし、胸の深いところに巣食った不安の種は、未だに脈打っている。
この不安を解消するためには、どうしたら良いのか。
無根拠に、ララは春日部ヤユタの穏やかな語り口を思い浮かべていた。
どうしても不安が抑えられなくなったらナユタに相談してみよう、とララは密かに決意したのであった……。
人を見る目が無いぞ、オヨルン星人。
そんなこんなで。
日が暮れた森の中で、ララ達は無事にロケットまで帰り着くことが出来た。
5人がロケットの中に入ると、ナユタとアイワーンが談話室で円卓の近くに腰かけていた。
プルンスは、フワを寝かしつけているようだ。
「お邪魔してるよ。ハッピーバスデー、ララ!」
「おめでとうだっつーの」
軽々しい笑顔で誕生日を祝ってくれるナユタと、誕生日を祝うという概念自体が良くわかっていなさそうなアイワーン。
なんだか、よくわからない組み合わせだった。
というかナユタとアイワーンは気まずい関係だったように思えたが、ちょっと見ない間に打ち解けたのだろうか。
「ララへの誕生日プレゼント……というと語弊があるけど、みんなへのプレゼントがあるよ」
よく見ると、円卓に並べられた、5つの四角い物体が目に入った。
掌より少し大きい、双眼鏡ケースのような形状の箱だった。
それぞれ外装はピンクや青緑に塗られており、プリキュア5名のイメージカラーだ。
「レインボー鉱石を参考にした構造で特殊な電磁波を発生させていて、その中に12星座のペンを入れておけば、ノットレイダーから探知されないよ。アイワーンちゃんが作成に協力してくれたんだ」
「……感謝しろっつーの。ノットレイダーの探知機どころか、お前らのスターカラーペンダントですら欺く優れものだっつーの」
ありがとうルン、キラやばー、なんて各人が感謝の言葉を口にしつつ。
ひかる達はペンケースを手に取った。
黄色いキラキラ星のワンポイントが付いた、シンプルに可愛いデザインのペンケースは……5000円ぐらいで財団Bから発売されていそうである。(※ありません)
「これ、私も貰って良かったのかしら。これにプリンセスの力を入れて持ち逃げしたら、貴女達は追ってこられないわよ」
「くははっ。アイワーンちゃんと同じこと言ってるよー、ユニ?」
「こういう無責任な信頼に救われる奴も居るらしい……っつーの」
お互いに目を合わせようとしないユニとアイワーンの間に、ちょっとした沈黙が流れた。
二人とも何も言わないけれど、決して気まずくは無い沈黙だった。
少なくとも、ララ達が笑顔で居られるぐらいには、暖かな沈黙で。
「……ありがとニャン」
小声で呟かれた感謝の言葉を聞いたら、なんだか全員が少しだけ幸せな気持ちになって。
みんなの距離が、ちょっぴり縮まったように思えた……そんな七夕の夜だった。
・今回のNG大賞
科学者A「でも青いペンケースには念のために発信機と自爆装置を仕込んでおこうか。皆には内緒だぞー?」
科学者B「お前の方がよっぽど悪魔だっつーの!!」