あくいのオトモダチ   作:カードは慎重に選ぶ男

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ひかるが走り出した直後の文章を少し改稿したルン
文中で不親切な部分を書き直したけれど、内容自体は変わっていないルン




第15話:本当の私ルン

7月中旬から8月初旬にかけて、まぁ色々あった。

アイススノー星でみずがめ座のペンをゲットしたり。

フワが宇宙マタタビ入りクッキーを食べて大増殖したり。

地球に不慣れなユニを夏祭りに連れ出して遊んだりなんかして。

そんな思い出とともに、だんだんとユニは仲間たちと交流を深めていった模様。

 

スターパレスのプリンセス達の怪しいところに言及して情報の擦り合わせをしたいナユタとしては、少しばかり歯がゆい期間でもあった。

惑星レインボーの復興を目標にしているユニと手を組んでしまっているのが、厄介なのだ。

プリンセス達を問い詰めた結果として、もし惑星レインボーは復興できないなんてことが発覚すると、ユニの扱いが面倒なのである。

一応の打開策として、ひかる達がユニと仲良くなれば万が一の時も味方で居続けてくれるのではないか、と思っているが。

いわゆる、絆の首輪というヤツである。発想が既にゲスい。

 

 

残るペンは、あと2本。

蟹座と魚座だ。

 

そして……このタイミングで、ララの故郷である惑星サマーンから通信が届いた。

なんでも、ララの兄がプリンセスの力を見つけたのだとか。

ロケットの談話室に集まった面々は、サマーンへ行こうと勇み足を踏んでいた。

特に星奈ひかるのテンションが高い様子である。

 

 

「いくっきゃない! 惑星サマーン! キラやばーっ!!」

「だっ、大丈夫ルン! 一人で行ってくるルン!」

 

ナユタは、イベントの匂いを的確に嗅ぎ分けていた。

惑星サマーンということは、ララの故郷であるからして。

当然、星奈ひかると羽衣ララの仲が進展するイベントに違いない。

 

潰さなきゃ!(使命感)

 

 

「まー待ってよ、みんな。確認したいんだけどさ、地球人にララの正体を知られたっていうのは、星空連合にバレたらマズいんだよね?」

『宇宙星空連合より罰せられます。異星間移動禁止100年の刑です』

 

ロケットのAIが補足してくれたところによると、そういうことらしい。

異星人の存在が知られていない星でララの正体が知られてしまっているというのは、星空連合としては好ましくないのだ。

出鼻をくじかれた星奈ひかるたちも、何がマズいのか分かってきたようだ。

サマーンへと地球人を連れて行ったら……いったい、どうなる?

 

 

「あたしたち地球人が一緒にサマーンまで行ったら……」

「ララに迷惑をかけてしまう、ということでしょうか」

「オヨ……!」

 

ララが、ちらりとナユタへと視線を返してきた。

ナユタは、無言でウィンクしてみせた。

ひかる達を惑星サマーンに連れて行きたくない本当の理由は分からないが、ララが乗り気でないのならば利用するのみである。

 

 

「ナユタのいうとおり、ルン。みんながたのしみにしているから、いいだせなかった、ルン!」

 

この大根役者ァ!!

ツッコミが喉まで上がってきたが、ナユタは何とか飲み込んだ。

 

 

「ええっ……。本当にサマーン行きは無しなの……?」

 

ひかるは、サマーンに行けなくなるのが残念だと顔に書いてあった。

ララに迷惑をかけるのは良くない、というモラルが働いている様子でもあるが。

円卓の上に上半身を投げ出して……ひかるは、お行儀の悪い姿を晒していた。

 

 

「ですが、そういう規定には、大抵抜け道があるものですよね」

「またナユタみたいなこと言い始めたね、まどか……」

 

まどかは、例を出しつつ語り始めた。

例えば、宇宙で遭難者を発見した場合である。

遭難している宇宙船を発見したとして、「遭難者の所属する星が分からないので救助しません」なんて事があるだろうか?

そういう場合には例外が適用されるのでは?

 

 

『その場合、異星人の存在が知られても罪には問われません』

「ってことは、サマーンに行けるの!?」

 

がばっ、なんて音を立てながら立ち上がって。

ひかるが、期待に満ちた眼差しをララへ向けた。

ララは困惑しつつ、目配せだけでナユタに助けを求めた。

無言で頷いて、ナユタはゆっくり口を開いた。

 

 

「そういう法的な例外を主張する時ってさー? 証拠を求められそうだけど、口八丁だけで何とかなるザル法なの?」

 

ドライブレコーダー的な。

惑星サマーンぐらい機械技術が発達した星ならば、映像を証拠として求められても不思議ではない。

逆に……技術水準が高すぎると、映像編集のハードルが下がって、映像の証拠能力がなくなってしまうという線もあるが。

その場合、まさか直接ララの脳から情報を引き出すなんて事態も……?

 

 

「ロケットのAIをサマーンのマザーAIと同期させた時点で、そういう嘘は全部バレるルン。現実的じゃないルン」

「春日部さんとアイワーンの技術力なら、それらのデータを改竄および掌握できるのではないでしょうか?」

 

「さらっとヤバいことを言っている気がするニャン……」

「冗談でもやめるルン! サマーンが滅びるルン!!」

 

サマーンは私が守るルン、などと息巻いて、ララは触覚の先をスパークさせながら周囲を威嚇し始めた。

マザーAIというのは、読んで字の如く、サマーン星のAI全てを統括する存在らしい。

該当する権限者以外によるデータ改竄もバレたら懲役数百年レベルの所業なので、非推奨だとのこと。

ナユタとしては、アイワーンと悪夢のタッグを結成すれば可能な気はしているが、それを言うつもりは無かった。

 

なお、全く話について行けていないえれなが頭から煙を発していた。

顔だけは辛うじて笑顔をキープしていることを評価すべきだろうか。

天宮えれなは決して頭が弱い訳ではないのだが、SFネタや機械類との親和性が壊滅的なのだ。

 

 

「それならさ、先に星空連合と話してみようよ! 正体がバレても、プリキュアだから無罪、みたいにならないかな?」

 

ひかるが、非常に鋭いところを突いてきた。

確かに、法を司る機関が例外を認めれば無罪である。

すなわち、宇宙星空連合の偉い人を買収したり説得したりという事なわけだが。

 

これはマズい流れだ。

ナユタが交渉役になるのならば、わざと交渉を失敗するという選択肢もあったのだが、今回はムリである。

何故かと言えば、見るからに地球人な春日部ナユタが交渉の席に着いたら、その時点で弱みとなってしまうからだ。

異星人との交流が無いはずの地球出身者が何故星空連合の存在を知っているのかと突っ込まれたら厳しい。

というか、たとえ地球人であることを変装でごまかしたとしても、やはりプリキュア達が直接交渉しないのは不自然に思われてしまう。

 

つまり交渉は出身地不明感のある変身後のプリキュアたちがすることになる。

というか、主にキュアセレーネかプルンスが交渉する。(確信)

そうなれば、ほぼ無罪を勝ち取れるだろう。

 

その後は自然な流れで、星奈ひかる達がララの実家を訪問するイベントが実現する。

ひかララは今以上にラブラブになるだろうし、仲良し妨害作戦は破綻確定に思える。

今の時点で既に破綻済みな気もするが。

 

 

(むむむ……。『理屈』によってサマーン行きを引き止めるのは難しそうか? なら『感情論』で引き止めてやろうじゃーありませんか!)

 

心の中で悪魔のように笑いながら。

春日部ナユタは、表面上は冷静にララへと声をかけた。

 

 

「ララ、落ち着いて聞いてほしい。ララにはさ……みんなを、サマーン星に連れて行きたくないって気持ちがあるよね?」

「オヨ……!」

「え……? そうなの、ララ……?」

 

ナユタは、あくまで冷静を装って、ゆっくりとした口調でララに語り掛けた。

他の面々の視線が、ララに集まった。

まさに、春日部ナユタの思惑通りに。

まるでエモいことを言っているかのような雰囲気で、真面目な顔をしながらナユタは言葉を続けた。

 

 

「理論的じゃなくてもいい。効率が悪くたって、正しくなくたっていい。ララの気持ちを、言葉に出して欲しいんだ」

 

はっきり言って、ナユタは今のララの気持ちが半分も分かっていない。

なぜ故郷の惑星サマーンを星奈ひかるたちに見られるのが嫌なのか。

なんとなく、AIによって支配されたSF映画的ディストピアなのかなという予想はしているが。

そういう意味では、サマーン行きを阻止できる確率は決して高くない選択肢なのだが……敗色が濃厚過ぎて、マジでこれしか手が無い。

 

 

「ここにいるのは、みんなララの友達だ。ララが本気で『イヤだ』って言ったら、それを無理強いする人間なんて居ないよ」

 

ララの瞳をまっすぐに見つめながら、ナユタは穏やかな声をかけた。

周囲の反応を確認したいという気持ちはあったが、ここはララに全身全霊で向き合っていると思わせた方が良いと判断した。

さも、良いことを言っているかのように言うのがポイントだ。

 

さりげなく、かなり卑怯な言い方である。

ここでララの意見に異を唱えたらソイツは友達じゃねえ、みたいなニュアンスを持ったズルい台詞回しだ。

万が一ララの気持ちに反して星奈ひかるがサマーン星に行きたいと言い出したとしても、ひかるへの好感度は大幅に下がるだろうし、どう転んでもナユタの得になる話法と言える。

 

これぞ、まさに感情論作戦。(自分の感情を使うとは言ってない)

 

 

「ルン……」

 

ララは、戸惑っているようだった。

出来れば口に出したくないことが、あるのだろう。

星奈ひかる達に知られたくない何かが、惑星サマーンにはあると推測される。

この場に集った仲間たちの顔を一巡したララは、最後に星奈ひかるの方を見て、大きく息を吸って吐いた。

 

 

「私は……地球にきてからは毎日が楽しかったルン。色々な楽しいことや素敵なことを知って、ワクワクしたルン」

 

妖精フワを守りながら偶然流れ着いた地球で。

親友となる星奈ひかるとの出会いから、ララの物語は始まったのだ。

学校に行ってAIに頼り切りではない知識と知恵を学び、コミュニティの一員として認められて嬉しかった。

星奈ひかるの母親の仕事を手伝ったり、天宮えれなの家のホームパーティに参加したりした。

未知の物体を食べたこともあったし、夏祭りでは大いに遊んだ。

 

 

「でも、新しいことを知るたびに……故郷の、サマーンの良くないところが見えてきてしまったルン」

 

うつむき気味に、ララは暗い言葉を紡いだ。

そもそも、あまり良い思い出も無い地だったのかもしれない、とナユタは思った。

ナユタとしては、AIをはじめとした機械技術が発達した星には非常に興味があるのだが……問題点も多い星なのだろうか。

まさかマザーAIに少しでも異を唱えた者は処分とか言い始めたり?(パラノイア感)

 

 

「みんなに……サマーンを見て、ガッカリされるのが怖いルン。だから、みんなにはサマーンに行かないで欲しいルン」

 

どんよりしている様子のララを見れば、本当に嫌がっているのは伝わってきた。

もっとも、理にかなっているとは言い難いし、地球人組が本当に惑星サマーンを見てガッカリするかどうかも分からない。

ララの杞憂だという可能性だって、大いにあり得る。

気まずい沈黙が流れた。

 

 

「……みんな。やっぱり、サマーン行きは無しにしない?」

 

そんな沈黙を破ったのは……星奈ひかるだった。

あれだけ惑星サマーンに行けるのを楽しみにしていたのに。

サマーンに行きたかったという本音を飲み込んでいるのだろう。

 

 

「あたしも、ひかるに賛成。ララの笑顔が無くなったら、悲しいよ」

「ララ一人だと、サマーン星でノットレイダーに襲撃される場合が心配ですけれど……ララの気持ちを尊重したいです」

「あなた達、良いチームね」

 

天宮えれなは、半分以上おいてけぼりを食らっていたが、話の要点は掴んでいたようだ。

香久矢まどかは、ララの単独行動の危険性が気になるようだが、一応の理解を示してくれた。

ユニは腕を組んで、すまし顔のままだったが……猫尻尾を小さく揺らしている様子から御機嫌な心境が見て取れた。

 

かくして。

サマーン星のペンの回収は、ララがフワとプルンスを連れて行くことに決まったのだった……。

アイワーン? 寮爺の天文台で快く預かってもらっていますよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『あくいのオトモダチ』

第15話:本当の私ルン

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ひかる達は、夕焼けで赤く染まった空を見ながら、帰路を歩いていた。

山中に停泊しているロケットから、帰る途中だ。

今頃ララは旅の準備をしているのかな、なんて思いつつ、ひかる達は足を進めた。

サマーンへの移動は片道3日程度の時間を要するらしく、少しだけ寂しい思いをすることになるが、仕方あるまい。

星空連合の最新ワープ航法でも片道10年以上かかるところを、3日まで短縮できる妖精フワの能力は規格外と言う他ない。

 

ごきげんよう、なんて言いながら香久矢まどかが一同から外れた。

チャオ、と手を振りながら天宮えれなが一行から分かれた。

音もなく、ユニは居なくなっていた。

いつの間にか、一緒に歩いているのは星奈ひかるとナユタだけになっていた。

 

 

「……あれ? ナユタちゃん、天文台とは別方向に歩いてない? 私の家はこっちで合ってるけど……」

「気づいてしまったか。残念だが貴様には消えてもらおう! ばーん!」

 

悪人顔をキメながら、指で鉄砲の形を作って、ナユタが発砲のジェスチャーをした。

バカなこのワタシが、なんてテンプレな台詞を吐きながら、ひかるは胸を押さえて倒れこんだ。

気心の知れた者同士の、悪ふざけである。

 

 

「まー、冗談は置いといて。ひかるちゃんに聞いておきたいことがあってね」

「……?」

 

真面目モードに入ったナユタが、意味深なことを言い始めた。

ひかるとしては、話題に心当たりはない。

地面から起き上がって、お尻の土埃を払いつつ、ひかるは首を傾げた。

 

 

「ララがサマーンを見せたくない本当の理由を、ひかるちゃんなら聞いてるかなと思ったんだけど。実際どうなのさー?」

「……え?」

 

ナユタが言っている意味を、ひかるは理解しかねた。

だって、ララが惑星サマーンを見せたくない理由は、先ほど聞いたばかりだ。

サマーンはララの視点では欠点の目立つ星であり、ひかる達にガッカリされるのが怖い、という話だったのに。

真夏の8月だというのに、ひかるは頬をつたう汗が冷たくなった気がした。

 

 

「ありゃ、見込みが外れたかな。心当たりが無いなら、今のは聞かなかったことにしておくれ」

 

まったねー、なんて言いながら。

ひらひらと手を振って、ナユタはひかると別の方向へと歩き出そうとした。

 

 

「行かないで! どういうこと? さっきのララの説明は、ウソだったの!?」

 

一も二もなく。

ひかるは、ナユタを呼び止めていた。

どうしてララが嘘をついていることを知っているんだろう、と疑問に思った。

ひかるが何も聞かされていないのに、ナユタだけが聞かされていると思ったら、なんだか嫌な気持ちになった。

 

 

「ひかるちゃんはさ。誰かがララの悪口を言っていたら、嫌な気持ちになるよね。それは、どうしてだと思う?」

「それは……ララのことが、大好きだからだよ」

 

急に質問されて、ひかるは素直な言葉で返してしまった。

しかし、その質問がララの本音と一体どう関係があるというのか。

まだ、ひかるには分からなかった。

 

 

「じゃあ、ララがサマーンを見られてガッカリされたくないのは、どうしてだと思う?」

「サマーンが、大好きだからでしょ?」

 

ひかるだって、地球や観星町のことを悪く言われたら、悲しくなるし頭にくる。

地球のことを毎度毎度プリミティブ(原始的、未開、etc)だなんて言ってくるカッパードの顔が頭に浮かんだ。

ストレートに田舎民の怒りを煽りたいときに最適な悪口である。

 

 

「本当に、そうかな?」

「……え?」

 

だが、ナユタの返しを聞いて、ひかるは一瞬だけ思考が止まった。

自身の生まれた星が好きじゃないなんて、そんなのは考えたことも無かった。

ひかるは、必死に今日一日のララの言葉と態度を頭の中で思い出そうとした。

ああでもない、こうでもない、と必死に自分の記憶を漁って手掛かりを探し出した。

 

 

――私は……地球にきてから『は』毎日が楽しかったルン

 

……そうだ。

もし惑星サマーンが好きだったら、この言葉はララの口から出てこない。

ララは、惑星サマーンそのものを、そこまで好きという訳でもないのだろう。

 

だとすると、おかしい。

サマーンを見てガッカリされたくない、というのはララがサマーンを大好きだという前提の上に成り立つ感情なのだ。

ララがサマーンを好きではないのならば、「ガッカリされたくない」という発想には至らない。

 

 

「どうして、そんなウソを……!」

「アタシだって、さすがにそこまでは分からないよ。いくつか候補はあるけど、どれも憶測の域を出ないね」

 

悔しい、とひかるは思った。

ララにそんな嘘をつかせてしまった自分が悔しい。

そんなに星奈ひかるは信用されていなかったのか。頼りなかったのか。

そして何より、ナユタが気づいていた不自然さに全く気付けなかったのが、悔しかった。

 

本当は、ひかる自身には豊かな想像力なんて無いのでは。

そんな嫌な発想が思考の底から湧き上がってきた。

ララの故郷に行けると、一人で浮かれて、舞い上がって、ララの気持ちに気づいてやれなかった。

ただのピエロじゃないか、と思ってしまった。

 

 

「まぁ、親友のひかるちゃんにも言ってないなら、よっぽどの事だろうね」

「……っ!」

 

ひかるは、心の中に怒りが湧きそうになった。

ララの親友と言われて、煽られているように感じてしまったのだ。

星奈ひかるよりも余程、春日部ナユタの方がララの理解者だというのに。

ここでナユタに対して怒りをぶつけるのは良くない、と考えられる程度の理性は残っていた。

動揺を感づかれないように、ひかるは沸き立つ怒りを何とか抑えこんだ。

 

 

「気になるなら、ララが帰ってきてから改めて聞く方が良いよ。今から戻っても、たぶんロケットの発射までに間に合わないだろうし」

 

……その通りだ。

ひかる達の旅支度を待たなくても良いので、ララは今夜にもロケットを出すという話だったはずだ。

まだロケットの発射音は聞こえてこないが、時間の問題だろう。

 

 

「あとは無事を祈るしかないっしょ。ララがノットレイダーに鉢合わせませんように、って」

「え……? 待ってよ、ナユタちゃん達が作ったペンケースがあるから、ノットレイダーには襲われないハズじゃ……?」

 

確か、そういう話では無かったか。

それぞれのパーソナルカラーに塗られたペンケースは、特殊な電磁波で探知を阻害するはずだ。

だから、ララはノットレイダーから襲われない……という事では?

 

 

「ララの持っているペンに関しては、そうだよ。でも、サマーン星にあるペンを探知してノットレイダーが現れる危険性は一応あるよ」

 

――ララ一人だとサマーン星でノットレイダーに襲撃される場合が心配ですけれど……。

 

思い返してみれば、香久矢まどかもその展開を危惧していた。

そんなことにも気づかなかったのだ、と星奈ひかるは目の前が真っ暗になった気がした。

冷静に考えれば、たまたまララが帰省したタイミングでノットレイダーと鉢合わせる確率は、決して高くない。

それでも、ひかるは最悪の事態を思い描いてしまっていた。

惑星サマーンでノットレイダーに囲まれたキュアミルキーが、たった一人で戦う未来を。

 

 

星奈ひかるは、踵を返して走り始めた。

観星商店街を抜けて、橋を通って、山道を駆け上った。

心臓が壊れそうな程に脈打っていたが、ひかるは決して足を止めなかった。

 

(発射に……間に合って!!)

 

 

 

 

ひとり、観星商店街に残された春日部ナユタは……ほくそ笑んだ。

あまりに綺麗に星奈ひかるが誘導に引っかかってくれたからだ。

今後の展開として2パターン予想できるが、どちらでもナユタの得になるルートだ。

 

もしも、ひかるがロケットの発射に間に合ったとして、ララを引き止めた場合……どうなるか。

全員で話し合ってララの意思を尊重すると決めたのに、ひかる一人が強弁してサマーンに行きたいと言い始めたら?

ララからの好感度が下がるのは必至だ。

そもそも、嘘をついてまで隠したかった内心を暴かれれば、ララとて良い気持ちではないだろうし。

 

逆に、ひかるがロケットの発射に間に合わなかった場合は?

ララに嘘をつかれたという事実は、ひかるの胸の中にトゲのように残り続けるだろう。

良くも悪くも素直な星奈ひかるは傷ついているだろうし、そんな状況で1週間も悶々とすればストレスも溜まる。

さすがにララへの気持ちが即座に冷めるということは無いだろうが、ララが帰ってきても幾分かギクシャクするだろう。

場合によっては、地球に残された星奈ひかるの不安をナユタが煽ってやるのだってアリだ。

 

 

ロケットの発射に伴う光を、遠目に確認しつつ。

ナユタは、一人で嗤った。

 

(さーて? 後は、ひかるちゃんが肩を落として帰ってきたところを、慰めるフリをしながら煽ってやるか!)

 

清々しいまでのゲス女である……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ララは、もともとロケットに住んでいることもあり、旅支度は特に必要なかった。

なのでプルンスの準備が終わり次第、ロケットの打ち上げを実行した。

ひかる達が居ないことに物寂しさを感じつつも、身に降りかかる重力負荷に耐え、いつしか窓の外には宇宙の暗闇が広がっていた。

 

ふと、ララは疑問に思った。

旅の途中で不測の事態が起こった場合、連絡手段はどうするのだろうか?

一応、ララの身に何かあった場合には、フワとプルンスだけでも逃がせば地球への連絡役となってくれるだろう。

だが地球で何かがあった場合、ワープも宇宙航行も通信もできない地球組は、ララへアクセスする手段が全くないのだ。

まぁ、そうそう非常事態なんて起こらないだろうが。

 

頭を切り替えて、ララは妖精フワへと向き直った。

ワームホール作成能力を持ったフワに頼らなければ、サマーンへはたどり着けない。

 

 

「フワ。ワープをお願いするルン」

「フー、ワーっ!」

 

いつもの鳴き声とともに、ワームホールが生成された。

あとは、ワームホールを通るための最低限の推進力を使うだけで済む。

さすがに1回のワープではたどり着けないが、そこは何度か休憩を挟みつつフワに頼っていくしかない。

……と思ったのだが。

 

 

「オヨ……?」

 

1回目のワームホールを抜けた先でララを待っていた光景は、さっきまでロケットを停泊させていた森の中だった。

推進力を最小限にとどめていたロケットは、地球の重力に引っ張られて、そのまま着地する羽目となった。

ララは、何が何だか分からなかった。

フワがワープを失敗したということなのだろうか。

 

 

 

「ララ……? ララぁっ!」

 

ララがロケットから降りてみると、停泊地のすぐそばに……星奈ひかるが居た。

ひかるの顔を見て……ララは、ぎょっとした。

星奈ひかるは両の眼から大粒の涙を流して、泣き腫らしていた。

酷い顔だった。

 

座り込んだまま泣きじゃくっている星奈ひかるに、どう言葉をかけたらいいか。

いったい何が起こったのか

今のララには、分からなかった。

ひかるの、こんなに弱弱しい姿を見ることになるとは思わなかった。

 

ふと、ひかるの近くにある岩肌を見ると……そこには、無数のフワの似顔絵が描いてあった。

おそらく変身用のカラーペンで描いたのだろう。

少なく見積もっても10個以上描いてあるのは、間違いなく妖精フワだった。

 

狂気に近い絵面を見せつけられて、ようやくララは事態を理解した。

地球圏を一度離脱してしまったララへの通信手段が無い星奈ひかるは、必死に考えたのだろう。

一縷の望みに縋って、近くの岩肌にフワの絵を描き続けたのだ。……泣きながら。

かつて、偶然か必然か、未だ見ぬフワの絵を描くことでフワを引き寄せる奇跡を起こした星奈ひかるは、今また同じことをしたのである。

まったく、恐るべき執念とイマジネーションだ。

 

ララは、幼子のように泣きじゃくる星奈ひかるの背中を撫でて、落ち着くのを待った。

ひかるの泣き顔を見るだけで、胸の奥がざわついた。

ララまで悲しくなって、一緒に泣き出してしまいそうだった。

 

 

ひかるは、少しずつ話し始めた。

ララの嘘に気づいて、悲しくて、辛い気持ちになったこと。

サマーン星でララがノットレイダーと鉢合わせる危険性があること。

こんな気持ちのままで万が一にも一生の別れになるかもしれないと思ったら、いてもたっても居られなくなったこと。

 

 

「ひかるがこんなに傷つくなんて、想像していなかったルン。……ごめんルン」

 

ララは、後悔した。

その場しのぎの嘘で星奈ひかるを傷つけてしまったことを、悔いた。

 

出来れば、ひかるにだけは……親友の星奈ひかるにだけは、知られたくない内心があった。

けれど、それを隠しておくことは、ひかるを傷つけることに繋がる。

だからララは……少しだけ目を瞑って、覚悟を決めた。

 

 

「私は、故郷の惑星サマーンでは……ランク8のスペースデブリ調査員ルン」

 

14年前に惑星サマーンで生まれたララは、何をやってもダメな子だった。

ララの故郷は機械技術の中でも特に人工知能が発達した星だったため、AIの助言を受ければ大抵の事は出来てしまう。

そんな中、ララはAIとの付き合い方が不得手という致命的な欠陥を持って育ってしまった。

ある程度AIの指示に従うことは出来るが、自分がどう指示を出せばAIが的確なレスポンスを示してくれるのか、理解できなかった。

空を見上げれば、双子の兄をはじめとした同年代の子供たちが自分の手足のようにホバーボードを操って空を飛ぶのが見えるのに、ララは歩いて移動した。

隣で一緒に歩いてくれる人は、誰も居なかった。

 

そんなララが成人したとき、サマーン星のマザーAIから提示された最も適正が高い職業は、スペースデブリの調査員でランクは8だった。

がっかりしたと同時に、やっぱり最低のクラスだとも思ってしまっていて。

AIが推奨する職業適性に必ずしも従う必要は無いが、ララは自分がマザーAI以上に的確な判断を下せるとも思えず、推奨に従った。

 

大人になれば、誰にもバカにされないと思っていた。

誰かに認めてもらえると思っていた。

でも現実は最低ランクのゴミ調査員だった。

 

 

「これが、本当の……私ルン」

 

落ちこぼれのララ。

それが、サマーン星人としてのララの13年間だった。

そんな過去を……ひかるにだけは、知られたくなかった。

 

 

「私が本当にガッカリされると思ったのは……サマーンに対してじゃなくて、私自身に対してルン」

 

ララは、ここで一区切りをつけた。

自分自身の劣等感を曝け出すのは、想像以上に恐怖を伴うものだった。

ひかるに幻滅されるのが、怖かった。

もしかしたら、地球人にとっては、つまらない子供じみた意地でしかないかもしれない。

それでも、ララにとっては初めてプリキュアになった時と同じぐらいに勇気が必要な告白だった。

 

 

――それって……『未知』が『既知』に変わったら、どうなるルン?

――相手を知るにつれて、『恋』から醒めて『無関心』に変わっていくこともあるニャン。

 

ララの本当の姿を知ったら、星奈ひかるにガッカリされるかもしれない。

心の距離が開いてしまうかもしれない。

それが、ララは何よりも恐ろしかった。

 

 

「……辛いのに、頑張って話してくれて、ありがとう。……辛いのに、無理やり聞き出して、ごめん」

 

ひかるは、座り込んだまま、ララの話を自分なりに噛み砕いているようだった。

ララは、そっと背中合わせに自分自身も座り込んだ。

なんとなく、ひかると正面から向き合うのが怖かった。

 

ふと夜空を見上げると、木々の隙間から満天の星々が見えた。

夏の星座の中には……ララの誕生日に縁のある蟹座も、どこかに見えるのだろうか。

 

昔は、空を見上げるだけで嫌な気持ちになったものだった。

空を見ても、地面を歩くしかない落ちこぼれの自分自身の姿を思い知らされるだけだったからだ。

それなのに……いつしか、ララは空を見ることが苦痛では無くなっていた。

 

その変化が誰のおかげなのか、ララは知っている。

誰よりも楽しそうに空を見上げる、親友ができたからだ。

 

 

「何とか考えてみようとしたけど……何を言っていいか、分からないよ」

 

ひかるは、湿った声を吐き出した。

頑張って、ひかるなりの答えを出そうとしているのだろう、とララは思った。

 

 

「落ちこぼれだとしても私がララを好きなのは変わらない、って思ってるけど。サマーンを知らない今の私が言っても、その言葉はララの心には響かないよね……」

 

ララの気持ちを、全力で考えている。

今の星奈ひかるからは、そういう想像力を感じた。

少なくともララは、そう思った。

 

 

「ララ。やっぱり私、サマーンに行ってみたい」

 

静かな決意で喉を震わせて。

ひかるは、はっきりと言い切った。

先ほど仲間たちと話し合って、自ら否定したはずの未来を……再び手に取った。

 

 

「ちゃんと自分の目でサマーンを見て、感じて、理解して。そのうえで、もう一度ララのことが大好きだって言ってみせるよ」

 

背中合わせに座り込んでいるララにも、分かった。

星奈ひかるの声が、上向いた。

声から、涙の匂いが抜け切っていた。

 

 

「……ありがとうルン。ひかる」

 

しばらくの間。

ふたりは、何も言わずに夏の星空を見上げていた。

天の川を挟んで、ひときわ輝く2つの星が……なんだか、いつもより近く思えた。

 

 

 

夜が、更けていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




・今回のNG大賞

ユニ「あの話の流れだったら私はサマーンに行くチームに参加しても良かったけど、空気読んだニャン」
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