あくいのオトモダチ   作:カードは慎重に選ぶ男

19 / 26
ついにオリジナル惑星を出してしまったルン



第19話:未来の話だよ

「みんなの思い! 重ねるフワー!」

「「「「「プリキュア・スタートゥインクル・イマジネーション!!」」」」」

 

再び襲来したガルオウガを、成熟期のフワと5人のプリキュアの合わせ技で撃退したりして。

ロケットの修理が終わったころには、9月も後半に差し掛かっていた。

 

 

 

宇宙星空連合からの視察員としてサボテン星人が地球へ派遣されてきたり。

星奈ひかるが何を血迷ったか生徒会長の選挙に出てみたり。

快盗ブルーキャットを追って星空警察からの刺客が来訪したり。

3年生組が沖縄へ修学旅行に行ったり。

謎の生命体を保護してユーマと名付けたり、などなど。

 

中々に忙しい秋の期間であった。

特にユーマの一件は、ひかるもララも思うところが大きかったようだ。

疑似的な子育て体験をする中で、『ユーマの自由意志の尊重』と『保護のための行動制限』の二律背反にララ達は頭を悩ませる羽目になった。

ひかるは前者の思考が強く、ララは後者へと傾いていた。

 

二人が表立って対立することこそ無かったものの、行動制限の思考が行き過ぎたララはユーマと衝突する機会もあったようだ。

まず実力行使による行動制限という発想が出てきてしまうララを……ナユタは、率直に言ってあまり良い親ではないと思った。

確かに保護者による行動制限が必要となる局面は、決してゼロではない。

しかし、先立って大声と実力行使が出てきてしまうのは……正直、ララ本人もそういう環境で育った故なのだろうという気分の悪さを感じさせた。

 

だがそれでも、みんなで巡った地球各地の景色は、美しい思い出としてユーマの心に残ったようで。

ひかるに諭されて、ユーマの気持ちを尊重する方へと傾いたララは……なんだかんだで、ユーマからは確り愛されていたようだ。

どうしても悪い部分が目立ってしまう親は居るものだが、良い部分だってあるかもしれないものだ。

まぁ世の中には縁を切るのが本当に最善手としか言えないような親もいるが……それはそれとして。

 

親に関して正負の両面がハッキリしているというは、他のメンバーにも割と共通しているところがあるのかもしれない。

香久矢家で言えば、行動制限がかなり厳しい家ではあるものの、弓道の技能や各種教養はまどか本人の血肉として息づいている面はある。

天宮家の親は、いわゆる日本人の同調圧力というものへの理解が足りず、悩める子供たちに対して無力な一面を持っていたが……それでも両親の持つ明るさは確かに天宮えれなへと引き継がれている。

 

 

 

 

そんなこんなで。

慌ただしい秋の一幕も終わり……一同は、冬を意識しはじめた。

そして、トゥインクルイマジネーションをまだ発現できていないことに対する、焦りも。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『あくいのオトモダチ』

第19話:未来の話だよ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ロケットの修理こそ終わったものの、他の星に行く機会など無さそうだとナユタは思っていた。

もう12星座のペンは集め終わったし、トゥインクルイマジネーションは各自の内面に探すものらしいからだ。

ならば特に地球を出る理由も無いだろう、と思われたのだが。

 

 

「ここが、レスバル星ニャン」

「キラや……ば……?? なんだか、生き物の気配が全く無いような……?」

「無人惑星ルン」

 

一同は、見渡す限りの荒れ地が広がる無人惑星へと足を踏み込んでいた。

文明の香りが全くしないぞ、とナユタは思った。

この星へとユニが皆を連れてきた理由とは、果たして……?

 

 

「原理は解明されていないけれど、この星では精神的なダメージが激しい頭痛に直結するのよ。そのせいで、原住民たちが全員逃げ出して無人惑星になったニャン」

「ううーん? 中々に興味深い星だねー?」

 

どういう理屈だそれ。

ツッコミどころはあるが、ユニの意図は大体理解したナユタであった。

この星の特性は、自分自身を見つめなおすために使う分には有効なのかもしれない。

上手くレスバル星の特性を利用すれば、トゥインクルイマジネーションを見つける糸口になるのでは?

そうと分かれば……さっそく、実験を始めなければ!

 

はっ、と何かに気づいた様子の星奈ひかるが、焦りを隠しもしない声をあげた。

ナユタのすぐ近くに居た天宮えれなへと、星奈ひかるからの指示が飛んだ。

 

「えれなさんっ! ナユタちゃんに喋らせちゃダメ!」

「えっ? 分かった! ごめんね、ナユタ」

「むぐぐ?」

 

ナユタは、背後から腕を回されて、口を押さえられた。

このままでは喋れないじゃぁないか。

せっかくレスバル星の特性を実験しようと思っていたところなのに、出鼻をくじかれてしまった。

とりあえず、ナユタは目だけで星奈ひかるへと疑問を送ってみた。

 

 

「こういう時、ナユタちゃんは喜んで実験しようとするじゃん! ナチュラルに性格悪いし!」

「きゃぁっ!?」 ←まどか:1out

「ニャァン!?」 ←ユニ:1out

「んぐううっ!?」 ←ナユタ:1out

 

まどかとユニが、頭を押さえて座り込んだ!

ナユタは、えれなの怪力で背後から羽交い絞めにされているために逃げられず、その場で泡を吹いてビクンビクンしている!

眉間に皺を寄せている面々を見れば、激しい頭痛という表現が誇張ではないのが見て取れた。

 

ひかるは、ララと顔を見合わせた。

気温は決して低くないのに、寒気を感じた。

このレスバル星は……思った以上に、危険な星かもしれない。

 

 

「ごっ、ごめん! ごめんなさい!」

「ぜぇ、ぜぇ……。こんな、感じで……本人が気にしている悪口が、激しい頭痛になるニャン……」

「わたくし、ここまで辛い綱渡りのイマジネーションが湧いたのは、初めてです……!」

「まどか的には、さっきのは綱から落ちてない判定なの??」

 

平謝りしている星奈ひかるへと。

息も絶え絶えといった様子で、冷や汗をかいているユニが解説してくれた。

えれなは、ナユタを解放してやりつつ、不憫な者を見る目を被害者たちへと向けていた。

まどかとユニに比べて、地に倒れ伏しているナユタのダメージが重いように思えるのは……同じ悪口でも聞く人によってダメージが違うからなのだろう。

 

 

「……」

「……」

「オヨ……」

「気持ちは分かるでプルンスが、黙っていたらこの星に来た意味が無いでプルンス」

 

色々な意味で怖い星である。

そもそもあまり積極的に他人の悪口を言おうとは思わない面々なのだが、今回はトゥインクルイマジネーションの発見を期待して来ているわけで。

自分自身の心を見つめなおすことが目的なのだから、全員が黙ってしまうのも問題だ。

 

とりあえず、プルンスがナユタを揺さぶって起こしてやった。

ぐったりしていたナユタは、瀕死一歩手間の様子であったが、何とか意識を取り戻すことが出来たのだった。

 

 

「死んだ祖母ちゃんの顔が見えたよ……。ひかるちゃん、考え無しも程々にね……」

「ぎゃあっ!?」 ←ひかる:1out

「ナユタ、今のはわざとやり返したよね!?」

 

頭を抱えて倒れ込んだ星奈ひかるは、自業自得というか、なんというか。

脂汗をかきながら数十秒後に復帰したひかるは、不満げな視線をナユタへと返してきた。

まぁ最初の一発は誤射だったのだろうから、ひかるの不満も分からないではないが。

 

 

「分かってると思うけど、アタシとプルンス君は別に自己分析する必要ないよ? プリキュアの皆のトゥインクルイマジネーションを見つけるのが急務な訳だからね?」

「正しい事を言っている気はするけど、何だか釈然としない……!」

「まぁ、春日部さんがそういう人なのは、分かり切っていることですし……」

 

ムッとしている様子のひかるだが、ナユタの言い分が正しいのは理解している模様。

まどかは……どちらかというと、ナユタに好意的である。

先日ユニに指摘された件もあるが、まどかからの好感度は自覚していた以上に高いのだろうか、なんてナユタは自問自答してみた。

 

なお、ララは会話に参加せずにトゥインクルブックと星座ペンを使って、フワに間食を与えていた。

物音をたてないようにしている辺り、レスバル星がヤバい星であることを一番理解しているのかもしれない。

 

 

「あのさ……。やっぱりあたし、この星に居るのは良くないと思うんだ。このままだと、どんどん笑顔を失っていく気がするよ」

「オヨ? それ言って良かったルン? 私もえれなに賛成ルン!」

 

お前ら、まだダメージ負ってないじゃん! 日和りやがって!

被ダメ組の4人の心が一つになった瞬間だった。人間って醜い。

まぁ、あんまり長居するとギスギスしてきそうなので、頃合を見計らうことも大切ではあるが。

 

 

 

 

 

……と、そんな不穏な空気を知ってか知らずか。

突如として上空にワームホールが開き、アダムスキー型UFOが現れた。

その中から姿を見せたのは?

 

 

「ふっ! こんなプリミティブな辺境惑星に隠れていようとはな! 今日こそプリンセスの力を頂くぞ!!」

 

いつもの8頭身の河童ことカッパードさんであった。

ララが先ほど12星座のペンを使っていたので、その反応をキャッチして来たのだろう。

探知妨害用ペンケースなどというものがあるせいで、ノットレイダー側も探知には気を配っているのかもしれない。

 

 

「「「「「スターカラーペンダント! カラーチャージ!」」」」」

 

プリキュアへと変身した5人をよそに。

ナユタとプルンスは、フワを連れて近くの岩陰へと隠れた。

5対1で戦うのならば、基本的にプリキュア側に分があるはずなのだが……このレスバル星の特性が、どちらに有利に働くのか。

ナユタは、イヤな予感を察していた。

 

 

「ルンっ!」

「見くびるな! この星での私は、強いぞ!」

 

ミルキーが、先陣を切ってカッパードへと殴り掛かった。

自身のせいでノットレイダーに探知されてしまったという負い目からの行動だろう。

一方のカッパードは……余裕綽々といった態度を見せていた。

 

 

「我々幹部が相手の時は、貴様など足手まといでしかないわっ! この役立たずが!」

「オヨっ? オヨォ!?」 ←ララ:累計2out

 

突っ込んでいったはずのミルキーであったが、突如として発生した強烈な頭痛に怯んだ。

動きを鈍らせたミルキーを、前蹴りでカッパードが退けた。

 

自覚あったんだなミルキー、なんてナユタは思った。

普段のキュアミルキーは戦闘員に対して範囲電撃をバラまいている印象が強い。

しかし幹部戦以上になると基本的に有効打がなく、あまり目ぼしい戦績が無いのである。

涙目になって地面にブチ転がされているミルキーは、何だか哀愁が漂っていた……。

 

 

「ララに酷いこと言わないでっ!」

勢いだけ何も考えていないキラやば脳(笑)」

 

「うっ、うぎゃあっ!?」 ←ひかる:累計4out

 

ミルキーの屍を超えて飛び出していったキュアスターは、案の定玉砕した。

先ほどのミルキーと同じく、罵声に伴う頭痛で動きを止められ、ビームサーベルで滅多打ちにされてしまっていた。

次から「頭キラやば」は言わないでおいてやろう、とナユタは密かに思った。

 

 

「仲間を使って様子見とは陰険日和見主義者だなっ!」

「ひうっ!?」 まどか:累計3out

 

光の弓を構えて狙撃を試みたセレーネも、罵倒で怯んだところに接近され、ビームサーベルで薙ぎ払われてしまった。

まずいな、とナユタは冷静に思った。

カッパードが、予想外に的確にプリキュア達の気にしていることを言っているようだ。

 

 

「私は一味違うニャン!」

 

自信満々な顔のキュアコスモが、猫パンチでカッパードへと襲い掛かった。

元々強靭な肉体を誇るレインボー星人であるからして、やはり近接戦闘は得意分野なのだろう。

余裕の表情でカッパードへと殴り掛かったコスモだったが……。

 

 

あざとい

「ニャアアアアンっ!!?」 ←ユニ:累計2out

 

信じて送り出したキュアコスモが、即落ち2コマで蹴り倒されて、ねこぢる顔でガチ泣きしながら帰ってくるなんて……。

嘘だろオイ。

しかも、倒れたまま起き上がれない模様。

他の3人より頭痛のダメージが重そうなんですが、それは……。

 

 

「う、うう……っ。納得いかないニャン! 今のはミルキーにも効かなきゃ、おかしいニャン!!」

「オヨ? 私ルン……??」

「ララを、あざといユニと一緒にしないで!」

「ニ゛ャアアアアアアアアアアンっ!!?」 ←ユニ:累計3out

 

おい同士討ちすんな!

スターの容赦ない追い打ちに、コスモは頭を押さえて絶叫した。

味方から言われる方がダメージが重いらしい。

 

予想外にコスモのメンタルが弱くて、ナユタまで頭が痛くなってきそうだった。

お前なんで、さっきあんなに自信満々だったの??

というか、アイドルや快盗なんて顔の面が厚くなきゃ出来ない職業だろうに、よくやれてたなホントに。

あと、ミルキーはマジで無自覚だからノーダメージなんだろうなぁ……。

 

 

「ここは任せて! やぁっ!」

「ぬっ!?」

 

ソレイユが、炎を纏わせた足技で、カッパードへと猛攻を仕掛けた。

カッパードは愛用のビームサーベルで応戦しつつ、ソレイユに押されているようだった。

真面目な戦闘が繰り広げられ、地に伏している面々も何とか起き上がり始めていた。

なぜだか……カッパードから悪口が飛んでこないようだ。

カッパードの頬に汗が伝っているのは、ソレイユの放つ熱気のせいだけでは無さそうだった。

 

 

「くっ、何も悪口が思い浮かばん! そもそも印象が薄いから何を言って良いか分からん!」

「ひぎぃっ!!?」 ←えれな:1out

 

「え?」

 

急に動きを止めたキュアソレイユを見て、カッパードは訝しんだ。

どうやらカッパードは狙って言ったわけではなく、本当に幸運に愛されたらしい。

次の瞬間にはすべてを理解したカッパードが、愛用のビームサーベルでソレイユをボコボコに叩きのめした。

 

そういや最近ソレイユって火属性アピールしてるよなぁ、なんてナユタは思った。

コスモが加入した辺りの時期から火属性アピールが多くなったような気がするのだ。

セレーネがあまり氷属性アピールをしていないのと比べると、やっぱりソレイユはキャラ付けで悩んでいたのかな……。

火属性は咬ませ犬の代表格だよね、とナユタは内心思ったが、おそらく一生言わないで終わるだろう。言ったら多分ソレイユは頭痛で死ぬ。

火属性はマッチョと並んで咬ませ犬属性の二大巨頭みたいなものだから……アレちょっとまってソレイユって火属性のマッチョでは?(何度も消して書き直した跡がある)

 

 

「ハゲ!」

「血色が悪いです!」

「ナルシストニャン!」

「効かぬわっ!」

 

スター、セレーネ、コスモがそれぞれ悪口をカッパードへと浴びせてみたが。

案の定というべきか、カッパードは全く気にしていない様子であった。

元々根拠のない自信にあふれているカッパードなので、そもそも悪口の類が効きにくいのだろう。

確かに、この星でのカッパードは強いと自認するだけのことはある。

 

 

「あほルン! ばかルン! まぬけルン!!」

「……哀れなほど語彙力が無いな」

 

「オ゛ヨ゛ォ゛ー!」←ララ:累計3out

「うぎぃっ!!?」←ひかる:累計5out

 

ミルキー……。

そういうとこニャン、なんて突っ込みがどこからか聞こえた気がした。

ユニ的には、コスモとミルキーは票を食い合っているという認識があるのかもしれない。

あとスターに関しては流れ弾だけど、まぁいつも「キラやば」ばっかり言ってるもんね……。

 

 

いつになくボコボコにされているプリキュア達を、隠れて見守りつつ。

ナユタはプルンスと一緒に考えを巡らせた。

カッパードに効く悪口って、一体なんだろう?

そもそも、カッパードについて判明していることとは?

 

・八頭身のカッパ

・主にビームサーベルを使った体術が得意

・自信過剰

・プリミティブとかいう口癖

 

 

(……うーん。さすがに情報が足りない)

 

さすがにカッパード個人を理解するためには情報が少なすぎる。

ならば、ノットレイダーに所属しているという面からプロファイリングしてみると?

ノットレイダーは行き場のない宇宙人たちが最後に行き着く組織だ、とアイワーンから聞いたことがある。

ならば、カッパードが住処を追われた経緯として考えられるのは?

 

 

パターンA:天災や侵略者によって母星の生活環境が破壊された場合

パターンB:何らかの理由でコミュニティから爪弾きにされた場合

 

主にこの2種類だろう。

パターンAの方はガルオウガが、パターンBの方はアイワーンが、それぞれ該当する。

では、カッパードはどちらだ?

根拠のない自信に満ち溢れているカッパードは、Bの方では無いように思えた。

Bの方の人々は、アイワーンのように劣等感が強く育つ傾向にあると感じたのだ。

劣等感の裏返しで自信満々な振る舞いをしてしまう人間もいるが、それならば「ナルシスト」と言われてダメージを受けるはず。

 

となると……天災や侵略者によって母星に住めなくなったパターンだ。

パターンAの方がカッパードの過去であるように思った。

すると、カッパードに有効な悪口とは?

天災が原因の場合は有効な悪口が少なそうだが、侵略者が原因の場合は何とかなる。

 

運頼りに試してみるべきだろう、と判断した。

ナユタは、大きく息を吸い込んで、岩陰から飛び出した。

 

 

敗北者!

「ぐああああっ!!?」 ←カッパード:1out

 

出来るだけ大声で、ナユタは叫んだ。

今まで余裕綽々だったカッパードの顔が……苦悶に歪んだ。

これは、幸運にも一発目から大当たりを引いたようだ。

 

 

「ハァ……ハァ……! 貴様っ、取り消せぇ!!」

 

頭を押さえつつ、鬼気迫る表情でカッパードがナユタへと襲い掛かろうとした。

だが、ナユタが口を開く方が早かった。

 

 

負け犬! 落伍者! 浪人! 落ち武者! もういっちょ、敗北者!!

「ガハァっ……」←カッパード:累計5out

 

カッパードは、完全に沈黙した。

口から泡を吐いて、見るからに戦闘不能だ。

これには、ナユタさんも渾身のガッツポーズである。

まさか変身も出来ないのに勝ち星をゲットできるとは思ってもみなかった。

 

 

「「「「「……」」」」」

「ん……?」

 

喜び勇んだ春日部ナユタは、しかし、周囲との温度差に気づいた。

プリキュア達からの視線が、冷たい!

白い目で見られている。

おかしいなぁ、大金星のはずなのに……。

 

 

「「「「「性格悪い」」」」」

「ちょやめ、うぎゃぁっ!!!?」 ←ナユタ:累計6out

 

息がぴったりな悪口五重奏を前に、ナユタは完全に沈黙した。

なお、セレーネとコスモは密かに自滅ダメージを受けた……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

で、カッパードを拘束して、ようやく一息ついたわけだが。

この八頭身のカッパを、どうしてくれようか?

意識を取り戻したカッパードの目つきは、戦意が衰えていない様子をうかがわせた。

今は上半身だけを起こした体勢をとるので精一杯だが、何かの間違いで拘束を破ったら、すぐさま反撃か逃亡をする気だろう。

 

 

「それにしても、よく春日部さんはカッパードに効く悪口が分かりましたね……」

「ノットレイダーに加入した経緯から類推して、ガルオウガと同タイプかなって思ったんだ。運に助けられた面もあるよ」

「それって……。カッパードも、自分の星を……?」

 

キュアスターが、しゃがみ込んでカッパードへと尋ねた。

レスバル星の特性を発揮させるのは良くないので、言葉は選びつつ。

カッパードの真意を確かめた。

 

 

「……貴様らの推察通りだ。私は、故郷を守れなかった」

 

重い口を開いて、カッパードが話を始めた。

かつて、水の豊かだった星があった。

宇宙の旅人たちに無償で水を分け与えるほどに、水資源が豊富だったのだ。

しかし、宇宙悪徳商人たちに侵略された星は、瞬く間に水資源を枯渇させられてしまったそうだ。

 

 

「我らの善意が、奴らの悪意を増長させたのだ!」

 

単に軍事力の問題だな、とナユタは思った。

防衛に使える軍事力が足りなければ、侵略者を実力で排除できないのだから、滅ぼされるのは自然な成り行きだ。

地球だって、プリキュアという軍事力が無かったらノットレイダーに支配されていたわけで、他人事ではない。

だが、軍事力の不足というのは答えのない問題でもある。

星外からの侵略者を想定したときに、どれだけの防衛戦力を用意したら母星を守れるか、などという判断は困難を極める。

 

 

「貴様らとて、異星人同士が分かりあうことなど出来ん。地球人とサマーン星人が友達だなどと言えているのは、今のうちだけだ。いずれ、致命的な裏切りと後悔が待っている」

 

カッパードの言葉を聞いて、春日部ナユタは50年後の地球の光景を思い出してしまっていた。

サマーンから流入した技術のせいで、地球は漆黒のネビュラガスに覆われた死の星となってしまうのだ。

春日部ナユタは、密かにカッパードの人物評価を上方修正した。

最悪の未来を見据えて行動できるというのは、ナユタとしては高評価である。

ただまぁ、ツッコミどころはあるが。

 

 

「……もしも、だけどさ。カッパードの星にもプリキュアが居たら、どうなってたと思う?」

 

カッパードの語りを今まで聞くに徹していたキュアスターが、ここで口を開いた。

ひかるなりに考えて、カッパードのことを理解しようとしている故の言葉なのだろう。

少なくとも「異星人同士でも友達になれるよ!」と言い切っても押し問答になるだけだと想像できているようなので、ひかるも成長しているのかもしれない。

ナユタは……心の隅で少しだけ、嬉しく思った。

 

キュアスターの仮定を聞いて、カッパードは目を見開いた。

今までそんなことは考えたことも無かった、という顔だった。

 

 

「侵略者から、カッパードの星を守れたかもしれない。そうしたら……」

「戦争が泥沼化して、疲弊しきったところを別の侵略者の食い物にされるのがオチだろうな」

 

「うっ……!」

 

カッパードは、冷静に言い放った。

キュアスターは、言葉に詰まってしまった。

ええっと、なんて言い淀んでいるスターは、反論が思い浮かばない様子だ。

他のプリキュアたちも困っているようだった。

 

 

「商人って、利益第一の人たちでしょー? 経費と時間がかかり過ぎたら商売あがったりだし、この場合は戦争の泥沼化は考えなくてもいいと思うよー?」

 

多くの場合、戦争が泥沼化するのは、勝利以外の結末を迎えた場合に当事国における政権の維持が困難となるからだ。

地球の歴史でも、1つの戦争に対して、当事国同士がお互いの自国史に「勝利」と書いた例だって散見される。

しかし、この場合の当事者は商人なのだから、泥沼化は考える意味がないのだ。

 

 

「む……。確かに、その通りだ……」

 

一瞬だけ、キュアスターと春日部ナユタの目が合った。

スターは、ナユタが口を挟んできたのが意外だという顔をしていた。

ナユタは……いつもの胡散臭い笑顔を返して、スターへと言葉の続きを促した。

 

 

「力ずくで水を奪えなくなったら、商人たちは星からは手を引くかもしれない。

それでも水が欲しかったら、話し合って、何かと交換することになるかもしれない。

お互いに話し合って物事を決める関係が続けば……友達になる未来だって、あったかもしれない」

 

あったかもしれない、可能性だった。

カッパードの星に、十分な軍事力(プリキュア)が存在したら。

水を奪いに来た侵略者を退け、交渉のテーブルにつかせる未来もあったのかもしれない。

だが……。

 

 

「かもしれない、かもしれない、かもしれない! 先程から聞いていれば、そればかりだ! そんな仮定に意味などない! 歴史に『もし』など存在しないのだからな!」

 

カッパードの声が、荒くなった。

有り得たかもしれない幸福な未来を想像しても、過去は変えられない。

そんなことをしても、現状と比べてしまえば惨めになるだけだ。

 

 

「でも! 私達にとっては歴史じゃなくて、未来の話だよ! 今はまだ、殴り返すことしか出来ないけど……いつか貴方とも、友達になれる未来だってあるかもしれない。あるって、思いたいよ」

 

青臭い理想論だ、とナユタは思った。

トッパー代表の話では星空連合にも犠牲者は出ているし、おそらくノットレイダー側にだって犠牲者は出ている。

そういった死者を担ぎ上げて恨みの矛先をかつての敵国へと向けさせようとする最悪な為政者は、いつの時代にも、どの国にも現れるものだ。

 

だがナユタの好みの解答だった。

そんな甘っちょろい星奈ひかるのことが、正直に言ってナユタは好きだった。

 

 

「それに……カッパードは、異星人同士は分かり合えないって言ったけど。ノットレイダーだって、色々な星の人たちが集まってるんでしょ? その中で、カッパードのことを大切に思ってくれている人は……本当にいなかった?」

「それは……!」

 

今度はカッパードが、言い淀んだ。

きっとキュアスターは、アイワーンとバケニャーンの事を思い出して発言したのだろう。

アイワーンは、バケニャーンを大好きだったから、裏切られて悲しかったのだ。

カッパードにだって……大切な人が居ても、おかしくない。

 

 

「友達になれたらさ。きっと……キラやば、だよ。だから、宇宙を滅ぼすなんて、私イヤだよ」

「滅ぼす……だと? お前は何を言っているんだ……? 我々ノットレイダーは、生活基盤の確保のために星を乗っ取るのが目標だが……?」

 

うん……?

何だか、相互の認識に食い違いがあるように思われた。

確か、プリキュア達がスタープリンセスから聞いた話だと、ノットレイダーは宇宙を滅ぼす組織だったはずでは?

だがカッパードの認識では、資源や生活環境を奪い取るためにノットレイダーは活動しているということらしい。

 

 

「それって、変だよ。カッパード」

 

ナユタが気付いた不自然さに、スターも気付いている様子だった。

スターの声が、少しばかり上ずった。

カッパードの発言は……決定的に、破綻しているのだ。

春日部ナユタと同じく、その原因にまでスターは思い至っているのだろう。

 

 

「だって……もし生活基盤が欲しいなら、無人だって分かってる惑星レインボーに、皆で住みつけば良かったよね?」

「……っ!?」

 

スターの言葉を受けて……カッパードは、絶句した。

そんなことにも気づかなかったのだ、という自責では無さそうだ。

ノットレイダーの全員が惑星レインボーの事情を知っている訳ではないにせよ、さすがに誰一人としてそのことに気付かなかったのは不自然だ。

おそらく……ノットレイダーの構成員は、多かれ少なかれイマジネーションの操作および誘導を受けているのだろう。

 

カッパードは、ダークネストに対して不信感を抱いてしまっている。

もはや、盲目的にダークネストに従ってきた頃に戻れるはずもない。

 

 

 

 

結局、幹部テンジョウの率いるノットレイダーの部隊が援軍に現れて。

プリキュアチームは、カッパードを残してロケットに乗り込み、レスバル星から撤退することとなった。

仲間たちに救出されているカッパードは、ロケットに乗り込む直前のキュアスターと、少しの間だけ目を合わせていたようだった。

無言の二人の間で何を感じあったのか。

カッパードにもキュアスターにも心境の変化があったのかもしれない、とナユタは思ったのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




・今回のNG大賞

アイワーン「ユニの奴が『私はあざとくないニャン……!』って呟き続けるBOTみたいになってたけど、何かあったっつーの?」

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。