あくいのオトモダチ   作:カードは慎重に選ぶ男

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第2話:嬉しかったに決まっているじゃないですか

「お邪魔します、春日部さん」

「まどかちゃん? オッハロー!」

 

春日部ナユタが天文台の中に借りている部屋へと。

突然訪れた客は……観星中学校の生徒会長、香久矢まどかだった。

腰にかかるほどの長髪を真っすぐに流した、赤いリボンがワンポイントのお嬢様である。

透き通るような微笑が様になっている香久矢まどかは……まさしく、男子たちがいう所の「高嶺の花」というヤツだろう。

 

 

「相変わらず29歳とは思えない方ですね」

「はっはっはー! アタシはトモダチ全員と同い年さ。もちろん、まどかちゃんともね!」

 

穏やかな微笑を携えた香久矢まどかと、ふざけて笑っている春日部ナユタ。

対照的な二人だが、不思議と険悪な雰囲気は全くなかった。

 

実は、この二人には妙な縁があったりする。

事の発端は、2018年度の末ごろ。

当時中学一年生だった星奈ひかるが、ナユタへと学業面での救援要請をしてきたのだ。

ひかる個人への好感度は非常に高いので、ナユタが全力で家庭教師をした結果、星奈ひかるは進級ギリギリのところから一気に学年トップレベルまで成績を上げてしまった。

そうなると、教師たちは(ひかる本人には知らせずに)カンニングを疑うわけで。

 

当時教師たちに協力して星奈ひかるの身辺調査をしていた香久矢まどかは、春日部ナユタという不審人物の存在に行きついたのである。

戸籍自体におかしな点は終ぞ発見できなかったが、香久矢まどかから見て、春日部ナユタは明らかに戸籍通りの年齢ではない。

肩にかかる長さの赤毛を、サンクランボを思わせる双玉付きの髪飾りで一纏めにしている少女は……香久矢まどかよりも少しばかり年下に見えるのだ。

 

おそらく戸籍を偽造した外国人だろう、と香久矢まどかは思っているが、特に咎める気は無かった。

何だかんだで星奈ひかるのカンニング疑惑は無実という結果で終わったわけだし、外国人による戸籍捏造問題なんて、さすがに中学校の生徒会長の管轄する案件ではないからだ。

もし春日部ナユタが観星中学校の生徒だったら、生徒会長として香久矢まどかも黙っていなかっただろうが……ナユタは別に学生ではないので。

 

 

「昨今、宇宙人と噂される不審人物の目撃情報が観星町で多発していることは御存知ですよね?」

「モチのロンさー! 噂話は乙女にとってビタミン剤みたいなモノだからねー」

 

実のところとして、春日部ナユタは香久矢まどかのことを、2070年代の頃から知っていた。

まどか本人に会ったことは無かったが、プリキュアの変身者となることは知識として知っていたりするのだ。

あと、教科書によると史上2人目の女性総理大臣とかだった気がする。

まぁ総理はともかく、ひかる達の仲間になる未来が見えている相手なので、別に隠し事はしなくても良いだろう。ナユタはそう思った。

 

 

「星奈さんの近辺に、不審な生物の影が見え隠れしているように思うんです。春日部さんは、何か御存知ではありませんか?」

「万事・御存知・情報開示! なんてね! 星空湖の西側の森に宇宙船が隠してあって、ひかるちゃんはそこで宇宙人とよく遊んでるよー」

 

「…………えっ?」

 

ここまでハッキリと答えが返ってくるとは思わなかったのだろう。

目をぱちくりとさせながら、まどかはストレートな情報を噛み砕けずにいるようだった。

ナユタとしては、なるべく面倒は避ける性質なので、まどかが知りたそうな情報を的確に投げつけたつもりだったのだが。

 

……ここで相手が動揺してくれたのなら、徹底的に利用してやるか。

ナユタは表面上の営業スマイルを崩さずに、密かに心の中でデビルスマイルを浮かべた。

 

 

「まどかちゃんが動いているのは、たぶん父親の手伝いだよね。宇宙開発特別捜査局の局長とかだっけ。目的はあくまで宇宙人の調査か、もしくは捕縛や処分まで視野に入れてる感じー?」

「え、ええ、その通りです。父は、主に宇宙人の捕縛を目的に動いています。場合によっては処分も……」

 

まどかから必要な情報を引き出しつつ、ナユタは方針を練った。

なんとか、ひかララの仲を裂くために香久矢まどかを利用できないか、と。

 

 

「ふんむ。まどかちゃんは、生麦事件って知ってるよねー?」

「ええ。江戸時代末期に、当時の薩摩藩士たちが、日本に来ていたイギリス人数名を殺害してしまった事件のことですよね」

 

詳しい情報が欲しい人はググってもらうと有難い。

というか、さすが香久矢まどかである。

学校で習ったであろう情報が、しっかりと頭に入っている様子だ。

ナユタにとっては、好都合この上ない。

 

 

「偶然にも今は年号の変遷期だけどさ。何だか今の状況って生麦事件に似てると思わなーい?」

「……そんな? ……ま、まさか!」

 

さぁっと、香久矢まどかの顔から血の気が引いたのが分かった。

生麦事件は、のちに薩英戦争と呼ばれる争いの引き金になるのだ。

それと同じことが、もし現代で起こったら?

最低でも異星間移動が出来るレベルの文明を持った星との間で戦争になれば、結果は火を見るよりも明らかだ。

 

そんな最低最悪の事態を、香久矢まどかは脳内で想像してしまったのだろう。

……ナユタの、誘導通りに。

 

 

「お父様を、止めなくては……!」

「まー待って。落ち着こう、まどかちゃん」

 

慌てて天文台を後にしようとした香久矢まどかへと、ナユタは冷静な声をかけた。

相手の平常心を一度崩してしまえば、あとはナユタの独壇場である。

 

 

「まどかちゃんは、既に宇宙人の居場所を知ってしまっているよね。そんな状況で父親を説得しに行ったとしよう。返す刀でまどかちゃんが知っている情報を問い詰められたら、まどかちゃんは最後までシラを切り続ける自信ってある?」

「……!」

香久矢家に秘密は無い、という父親の言葉をまどかは思い出していた。

父親に問い詰められたら……まどかは、嘘を吐きとおす自信など無かった。

 

もし香久矢まどかが平常心を持っていたなら、ここで冷静にツッコミを入れることが出来ただろう。

つまり、余計な情報を先に吹きこんだナユタが全部悪いんじゃないか、と。

だが、平常心を保っていない香久矢まどかにとって、落ち着いた口調で諭すように言われた情報は、この世の真理のように聞こえているに違いない。

ナユタは畳みかけるように、優しい口調で言葉を継ぎ足した。

 

 

「分かるよね? 父親と地球の危機を救えるのは、まどかちゃんだけだ」

「わたくしが……?」

 

きょとん、とした視線が香久矢まどかから返ってきた。

予想外の提案を受けて、反応に困っている様子だった。

 

 

「父親に対しては本当に何も知らないフリを通すとして。なるべく宇宙人を刺激しないようにしつつ、そこそこ友好的な関係のまま帰ってもらうのがベストな訳で」

「わたくしに……秘密裏に『親善大使』になれ、と?」

 

動揺しつつも、まどかはナユタの意図を的確に察してくれた。

ナユタの言っていることはあながち間違いではないが、色々「お前が言うな」案件をやらかしているのがナユタクオリティである。

つい2週間ほど前にサマーン星人と地球人の仲違いを画策した人間が言っていい台詞ではない。

 

 

「だが危険なのは、ひかるちゃんだ」

「星奈さんが? でも、宇宙人とは既に仲が良いんですよね?」

 

確かに、正直に言って現在のひかララの仲を裂くのは容易ではないとナユタは思っている。

宇宙や星座が大好きな星奈ひかるは、異星人のララにベッタリくっついて愛情をアピールしているし。

ララの方もそっけない態度をとりつつ、何だかんだで憎からず思っている節がある。

ララを抱きしめて頬ずりしている星奈ひかるの姿を見たときには、さすがのナユタでも割と心が折れかけたものだった。キマシタワー!

でも、香久矢まどかを手駒として使えるなら、可能性はゼロではない。

 

 

「ひかるちゃんは基本的に考えなしに行動するから、いつ宇宙人の逆鱗に触れるか分かったモンじゃーない。地雷原をエリマキトカゲが全力疾走しているようなものだよ」

「わたくしが……わたくしが、地球を守らなくては……!!」

 

ひかるが考えなしに行動する、という点に関して、まどかも思い当たる節があるのだろう。

カンニング疑惑の時に星奈ひかるの人とナリに関しては一通り調べているだろうし。

背中を震わせながら、必死にまどかは自身を鼓舞していた。

 

 

「まぁ、まどかちゃんなら大丈夫だって! 『観星中の月』とか『完璧超人』とかの異名は伊達じゃないっしょー!」

 

ナユタとしては、香久矢まどかには結構期待していた。

のちの総理大臣となる人間であるし、基礎スペックの高さは折り紙付きだ。

なんとなく、この香久矢まどかがプリキュアチームのリーダー的存在になるんだろうな、とナユタは予想していた。

そんな香久矢まどかに、星奈ひかるへの警戒心を植え付けたのは……バタフライエフェクトの引き金としては上々だろう。そう思っていた。

 

 

「やめてください!」

 

……だからこそ、香久矢まどかが声を荒らげたのは、想定外だった。

天文台を訪れたときには穏やかな笑顔を浮かべていたはずなのに。

香久矢まどかは、目元に涙をためて、いまにも心の器が決壊しそうだった。

歴史知識から、香久矢まどかに対して鉄の女みたいなイメージを持っていた春日部ナユタは、これには大分驚いた。

 

 

「わたくしは、皆さんが期待するような、完璧な人間などではありません! 習い事も学業も一杯一杯で、本当は毎日が綱渡りなんです! そのうえで一人で地球の運命なんて……背負えるわけ、ないじゃないですかっ!!」

 

ぼろぼろと涙を零している香久矢まどかの姿は、ナユタの認識を大いに変えることとなった。

歴史知識だけで先入観を持ちすぎるのは良くないな、と。

 

 

「……ごめんね。まどかちゃんにプレッシャーを与えてしまって。それでも、もしまだ『秘密の親善大使』を引き受ける気があるなら……」

 

アタシが半分だけ重荷を支えても良いよ、とナユタは悪戯好きを思わせる笑顔で言い放った。

冷静に考えて、お前のせいで本来不要な重荷が増えまくっているというのに、顔の面が厚すぎる発言である。

 

香久矢まどかが落ち着くのを待ってから。

二人は、ゆっくりとサマーン星人のロケットへと向かったのであった。

星空界やスターパレスなんていう、長くなりそうな設定の説明をこなしながら……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『あくいのオトモダチ』

第2話:嬉しかったに決まっているじゃないですか

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「オッハロー! 今日はスペシャルゲストを連れてきたぞ! 聞いて驚け、見て驚けー!」

 

ナユタたちがロケットの停泊地についたとき。

ひかるとララは、ロケットの外で切り株に座って昼食をとっているようだった。

程々に不格好なオニギリは、おそらく星奈ひかるが家で作ってきたものだろう。

 

 

「ナユ……うぐっ、げほっ!? ごほげほっ!!?」

「オヨっ!? ひかる、しっかりするルン! 水を飲むルン!!」

「この死にそうになってるのが星奈ひかる……なのは知ってるよね。オヨオヨ言ってる方がサマーン星人のララだよ」

 

開幕で死にそうになっている星奈ひかるは、地味にコントの神に愛されている女である。

というか、頭ハッピーセットな大先輩ほどでは無いにせよ、大なり小なりプリキュア主人公はコントの神に愛されているものなのだが。

それはともかく、今回はナユタと一緒に居る香久矢まどかの存在に驚いた結果なので、ナユタのせいである。

ララに背中をさすってもらっている星奈ひかるに視線を落としながら、香久矢まどかは胸の前で拳を硬く握りしめていた……。

 

 

「ふぅ、ふぅ、はぁ……。ええっと、色々言いたいことが多すぎるけど、ナユタちゃんって香久矢先輩と知り合いだったの? だったんですか?」

「数か月前に、観星中学に渦巻く陰謀の真相を、一緒に解明した仲さ!」

「……まぁ、間違ってはいませんね」

「オヨ……。なんだか分からないけれど、観星中学というのは恐ろしい所な気がするルン」

 

観星中に渦巻く陰謀(ひかるのカンニング疑惑)。

なお真犯人はこの中に居る模様。

渦中の第一容疑者だった星奈ひかる本人が騒動の内容を全く知らないのは、皮肉なものである。

勉強を実際に教えたナユタとしては、星奈ひかるの地頭は良い方なのでナユタが教えなくても何とかなっただろう、と思っていたりするので本当に無用の騒動である。

 

 

「ナユタ……。あんまり軽々しく宇宙人の存在を地球人に教えるのはマズいルン。星空連合から怒られるルン……」

「それに関しては、勝手に話しちゃってゴメンね。でも、まどかちゃんは得難い人材だよ。なんといっても、内閣府宇宙開発特別捜査局局長の娘さんだからねー」

 

ひかララが、そろって首を傾げた。

宇宙開発特別捜査局というワード自体を聞いたことがない様子だ。

まぁ左遷部屋みたいなものだからね。仕方ないね……。

一応その左遷部屋局長の娘が目の前にいるので、ナユタも言葉は選ぶが。

 

 

「簡潔に言うと、宇宙人であるララを捕縛しようとしている人達だねー」

「オヨっ!? そんな大事になってるルン!?」

「ええっ、その局長の家族って、マズいじゃん!? キラやばじゃなくて普通にヤバいやつだよねそれ!?」

 

ナユタの簡潔な説明を聞いて、ひかララは思わず身構えた。

内閣府が宇宙人の存在を感知して捕縛を目指しているとなると、嫌な想像はいくらでもできる。

最悪、捕縛されたが最後である。

ついでに星奈ひかるも「お前は知り過ぎた(パァン)」される可能性は否めない。

 

 

「わたくし自身には、宇宙人を捕縛する意思はありませんので、安心していただいて大丈夫ですよ?」

「むしろ、父親経由でゲットした捜査局の情報をこっちに流してくれるってさ! 女スパイってヤツだね!」

「スパイ!? かっちょいい! キラやばーっ☆」

「すぱい? 梅干と何か関係あるルン??」

 

ララは、さっき食べていたオニギリの具が梅干だったのだろう。

頭に『超』を付けたくなるぐらいに古典的なボケである。

 

洋画なんかを引き合いに出してスパイについて説明している星奈ひかるは、普段通りの能天気テンションに戻ったようだ。

星奈さんが洋画をお好きなんて意外な趣味ですね、なんて香久矢まどかが呟いていたりして。

ひかるとララが楽しそうにお喋りに花を咲かせている様子を、まどかとナユタはしばらく見守ったりしていた。

 

 

「そうだ、香久矢先輩! ララに、学校を見学させてあげたいんだけど、良いですか?」

「それは……」

 

まどかは、顎に手を当てて考える素振りを見せた。

ひかるの提案は、香久矢まどかを観星中学の生徒会長と見込んでのものだろう。

地球の文化を知って欲しいという星奈ひかるの気持ちは分かるし、異星間交流の第一歩としても間違いではない。

しかし、宇宙人の存在がバレるリスクを考えると、安易に頷くことは出来なかった。

加えて、学校の人間がララを怒らせるようなことがあると、トラブルの火種はあらゆる悲劇を呼び起こすかもしれない。

万が一にも宇宙人の存在が公になろうものなら、宇宙開発特別捜査局はララを捕縛するだろうし、最悪の事態は生麦事件と薩英戦争だ。

 

 

「あまり感心しない、ですね。観星中学の生徒達は、悪気はなくとも、宇宙人に対する偏見でララさんに不快な思いをさせてしまうこともあるでしょうから……」

「そっかぁ……。でも、味方になってくれるだけでも良かったです。無理言ってごめんなさい」

 

「味方……。そうルン! 試してみることがあるルン!」

 

香久矢まどかと星奈ひかるのやり取りを横から見ていたララが、何かを思いついて掌を叩いたようだった。

触覚の先を豆電球みたいに光らせている様子だ。

ロケットの中へと姿を消したララは、すぐに戻ってきた。

その腕の中に、白いモコモコの謎生物を抱いて。

 

 

「まどかなら、プリキュアになれるかもしれないルン!」

「フーワー?」

 

そう言いながら。

ララは、白色でモコモコの謎生物を香久矢まどかへと渡してきた。

どの哺乳類にも似ているような謎の白い妖精の名前は……フワというらしい。

人間の赤ん坊より少し小柄で、庇護欲を誘う愛らしい姿をしていた。

 

 

「そのプリキュアというのは、どのようにしてなるんですか?」

「えーっと、フワを抱きしめながら、『守りたい』って思ってたらスターカラーペンダントが出てきたんです!」

「ルン。私の時もそうだったルン」

 

フワを抱えながら。

まどかは、自分自身がこの場に来た理由を思い出していた。

現代版の生麦事件を阻止して、この星を守らなければ……と。

 

まどかの願いが通じたのか。

フワの身体からあふれ出た光が集い、スターカラーペンダントを生成した。

まどかは、ペンダントを手に取った。

どこか暖かな神秘と、不思議な重さを感じた。

 

 

「えっ……」

「あれれ……?」

「オヨ……?」

「んー……? おっかしいなー……?」

 

……次の瞬間には、光が散ってペンダントは跡形もなく消え去ってしまった。

まどかが驚いているのと同じように、ひかる達も唖然としているようだ。

いったい何が拙かったのだろうか。

何が拙かったのかは分からないが、とりあえず気まずい。

 

なお、同じように首を捻っているように見える4人だが、内心一番テンパっているのはナユタだったりする。

香久矢まどかがキュアセレーネの変身者であることは確信していたのだが、まさか変身に失敗するとは思ってもみなかったのだ。

 

 

「なーに、視点を変えれば世界が変わる! 既に成功実績があるララ達に複数のペンダントを生成してもらって、それをまどかちゃんに使ってもらおうじゃーないか!」

「そんなゲームのバグ技みたいな悪用方法、ホントによく思いつくよね、ナユタちゃんは……」

「やってみるルン!」

「フーワー??」(無垢な眼差し)

 

 

※できませんでした。

 

 

「一人一つの所持制限があるのかもー? ララのペンダントをまどかちゃんに預けたうえで、リトライだー!」

「そういうことでしたら、預からせてもらいますね」

「ララ、頑張って!」

「ルルンルルルン! ルンルンルルン!」

「フーワー?」(無垢な眼差し)

 

 

※できませんでした。

 

 

「フワがペンダントの存在を認識しているのが拙いのではないでしょうか?」

「そうだと仮定すると……? よし、ハンカチでララのペンダントを包んで、と。ちゃららららーん、ハンカチを開くと……ハイ、消えたー!」

「オヨっ!? オヨぉっ!!? ルルンっ!! ルンルルルンっ!!?」

「ララ落ち着いて! 手品だよ! ただの手品だから!」

「きえたフワー!!」(無垢な眼差し)

 

 

※できませんでした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後も日が暮れるまで検証したが、結局香久矢まどかのスターカラーペンダントは入手できなかった。

もう少し残っていくと言い出した星奈ひかるを置いて、香久矢まどかと春日部ナユタのふたりは、山を下ったのだった。

 

帰路にて。

何とも言えぬ沈黙が、二人の間に流れた。

ナユタは、本日の検証結果を頭の中で整理しつつ、今後に検証すべき内容を整理していた。

そんなナユタへと、まどかが……ぽつりと、声をかけた。

 

 

「春日部さんは……本当は、星奈さんが星間戦争の引き金になるだなんて、微塵も思っていませんでしたよね?」

「ああ、やっぱり分かっちゃうー?」

 

まどかは、カマをかけるつもりで言ったのだが。

あっさりと肯定の返事が聞けて、拍子抜けした。

思えば今朝もそうだったが、春日部ナユタという女は飄々として食えない態度をとっている割に、相手の欲しい情報を的確にくれる性質のようだ。

さすがに、ナユタにとって不都合な情報は絞るだろうが。

 

 

「星奈さんとララさんは、本当に良い子たちで、幸せそうで、楽しそうでした。あれを一日見せられたら、お父様に本当のことを言うなんて、出来るわけがありません」

 

それが春日部さんの狙いだったんですね、と香久矢まどかは続けた。

まどかがララ達のことを好きになると分かったうえで、一時的にでも父親への密告を躊躇わせる思考誘導をしたのだろう、と。

 

 

「はっはっは。そこまで気付いたのに乗せられてくれるまどかちゃんも、大概御人好しだと思うけどね」

 

なお、ナユタはそこまで考えていない。

盛大過ぎる買い被りだった。

むしろ、ひかララの仲を裂くために御人好しの香久矢まどかを利用しようとした、真ゲスである。

 

 

「ララさん達のことは、わたくしの胸の中にしまって、お墓まで持っていきます。本日は本当にありがとうございました。それでは、ごきげんよう……」

 

まずい。

そう、春日部ナユタは察した。

なんというか、これは香久矢まどかの退場ルートでは?

ひかララに関わらず、プリキュアにならずに生きていく道のりを、香久矢まどかは選ぼうとしているようだった。

お墓までもってくということは、疎遠になるという意図も含んでいるように思える。

プリキュアが足りなくなるとヤバいのを知っているナユタとしては、バッドエンド直行が目に見えているわけで。

 

 

 

 

「まー待ってよ」

 

そんな打算込みで、ナユタはまどかの背中を呼び止めた。

このまま縁遠くなるのは、とにかくマズい。

 

 

「続けてみない? 『秘密の親善大使』をさ」

 

振り返ったまどかは、返事に困っているようだった。

思いもしない言葉をかけられて何を言えばいいのか分からない、と香久矢まどかの目が言っていた。

そう、ナユタは思った。

 

 

「でも、わたくしはプリキュアには変身できなかったのに……」

「アタシだってプリキュアになれないよー。でも、ひかるちゃんたちと一緒に居て、楽しいって思ってる」

 

これは、ナユタの偽らざる本心である。

ネビュラガスで覆われた地球の未来は変えたいが、それはそれとして星奈ひかるやララ個人に対しての好感度は高い。

もちろん監視とイベント潰しのためにプリキュアチームの近くに居たいという事情もあるが、ひかる達と一緒に居て楽しいのは本音だった。

 

 

「まどかちゃんは、どう思った? 異星人やスペースオペラな事情を聞いて、楽しかったり、ワクワクしたりしなかった?」

 

見透かしたように軽薄な笑顔を浮かべた春日部ナユタの隣で。

香久矢まどかは山道を下る足を鈍らせながら、星奈ひかるやサマーン星人のララのことを思い出していた。

 

 

――スパイ!? かっちょいい! キラやばーっ☆

 

ひかる達は結局最後まで、香久矢まどかが二重スパイである危険性を疑わなかった。

まどかの父親が明確にララたちの敵だというのに、ひかる達はまどかのいう事を素直に信じた。

もう少しぐらい疑われるかと思っていた。

 

 

――味方……。そうルン! 試してみることがあるルン!

 

まどかが宇宙開発特別捜査局の手先だったら、ララたちの全ての情報が筒抜けになるのに。

虎の子のプリキュアのテクノロジーが内閣府の手に渡ることだって有り得ただろうに。

なのに、ララたちは香久矢まどかをプリキュアに誘ってくれた。

 

 

――フーワー?

 

妖精フワのことは、正直に言ってまだよく分からない。

外見は愛らしいが、それだけで命がけで守るなんて決めて良いものか。

それでも……妖精フワが悪者に襲われていたらと想像すると、胸が痛んだ。

 

 

――続けてみない? 『秘密の親善大使』をさ。

 

まどかが噂通りの完璧超人でないと知って、なお。

ひかる達のようにプリキュアになれた訳でもない香久矢まどかを、それでも誘ってくれた声を聞いて……まどかは胸が高鳴った。

香久矢の家に秘密はない、という父親の再三の声は、いつの間にか遠くなっていた。

 

 

 

まどかは、踵を返して走り出した。

 

 

「わたくしは……」

 

今まで歩いて下ってきた山道を、逆走した。

春日部ナユタの戸惑う声が一瞬だけ聞こえたが、すぐに後方の彼方へ消えていった。

 

 

「わたくしは……っ!」

 

今まで走った時は一度も全力じゃなかったのかもしれない、と思うほどに。

心臓が爆発しそうなほどに鼓動を打っても、まどかは足を止めなかった。

 

 

「ワクワクしたに、決まっています……!」

 

ララのロケットが、見えた。

帰路につこうとして手を振りあっている星奈ひかるとララの姿が目に入った。

 

「嬉しかったに、決まっているじゃないですか……っ!!」

 

 

驚いている二人を尻目に香久矢まどかは、なりふり構わずに妖精フワを抱きしめていた。

汗をびっしょりかいて、奇麗な長髪も乱れてしまっていて。

今のまどかは、『観星中の月』でもなく、ましてや『完璧超人』でも無かった。

 

 

 

「わたくしは、わたくしの『友達』を……放ってはおけません! これが、わたくしです!!」

 

 

 

――きらめく 星の力で

 

 

――あこがれの ワタシ描くよ

 

 

 

 

 

今までかいた汗が、氷の粒になって消えていった。

胸に輝くのは、昼間に掌の上で雪のように消えてしまっていた、ペンダントで。

その姿は……香久矢まどかから、伝説の戦士へと姿を変えていた。

 

 

「夜空に輝く神秘の月明かり! キュアセレーネ!!」

 

いつの間にか心拍数も戻り、心地よい涼しさが身体を覆っていた。

生まれ変わったような、清々しい気分だった。

 

 

「おおっ、キュアセレーネ! キラやばーっ☆」

「ルン! まどか、おめでとうルン!!」

 

祝ってくれる二人に心からの礼を言いつつ。

雲間にさす細い月光のような微笑をもらしながら、キュアセレーネは言葉を紡いだ。

人差し指を唇に添えて。

 

 

「わたくしが変身できたこと、春日部さんには『秘密』にしてもらっても宜しいでしょうか? 後で驚いていただきたいので」

「うん良いよ! ナユタちゃんにも偶には弄られる側に回ってもらわなきゃ!」

「良く分からないけど分かったルン!」

 

 

今日一日だけで、大分『秘密』が増えてしまった。

香久矢の家に『秘密』は無い、と小さい頃から教えられて育ってきたのに。

それなのに……不思議と、悪い気分はしなかった。

 

責任なら、まどかを『秘密の親善大使』にさそった当人にとってもらおう。

それぐらいの我がままは押し通してやる、と思えた。

 

 

「ふふ」

 

穏やかな微笑を携えたキュアセレーネの見上げた先には。

 

真円を描いた玉桂が、東の空に輝いていた……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




・今回のNG大賞

???「いいねぇ、キュアセレーネ! ところでさ、何か重要なイベント飛ばしてない? 何か忘れてない? 大丈夫? 本当に??」
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